人理修復に失敗した未来の話   作:HYUGA

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幕中の物語
幕中の物語 クー・フーリン


 

 

 足元に広がる雪花の絨毯は、いつものように美しく咲いていた。

 かつて、マスターの傍らに寄り添っていたあの少女を思わせる幻想的なその光景は、アイルランド出身であるクー・フーリンにとっても、とても好ましいものだった。

 だが、いざ前を向けば、その世界に不釣り合いな異物の存在。

 まるで天を侵食するかのように、そそり立つ二十八本の柱―――魔神柱。

 

 それは、かつての悪夢の再来だった。

 

 

「せん…ぱい」

 

 

 そのあまりに絶望的な出来事に、マシュ―――正史世界のマシュ・キリエライトは、同じく正史世界の彼女のマスターである「先輩」の服の袖をキュッと摘まむ。

 その当人。マスター―――藤丸立香は思った。「最悪だ…」と。

 あのとき、その場に自分はいなかった。けれど、ロビン・フッド、エリザベート・バートリー、エジソン、エレナ・ブラヴァツキー―――他にも多くのサーヴァントの助けを得て、それでもやっとの思いで、収束できた事態。それが再び起こってしまったのだ。

 

 だが、あのときとは明らかに状況が違う。しかも、決定的に悪い方に。ここにいるサーヴァントはシールダーのマシュ。セイバーのアルトリア。

 そして、たった今まで敵対していたキャスター―――クー・フーリンの三人だけ。

 

 例え、今の今まで殺しあっていたクー・フーリンが協力してくれたとしても、それでも明らかに火力は足りない。この場を乗り切るには、あと十数騎はサーヴァントが欲しい。だが、それはないもの強請りに他ならない。

 もし、この場を切り抜けられる作戦があるとすれば。それは―――。

 

 

「―――仕方がありませんね」

 

 

 その考えが立夏の頭を過った刹那、どこか覚悟を決めたように、アルトリアが頷いた。

 

 

「マスター。では、私が殿を務めま―――」

「おっと、待ちなセイバー」

 

 

 だが、アルトリアの言葉が終わるその前に、ドルイドの杖が彼女を制する。

 こんな絶望的な状況に、あまりに不釣り合いな緊張感の欠片も無い声を漏らして、クー・フーリンはカルデアでいつも見せる、自分たちの知る笑顔でニッと笑った。

 

 

「―――ランサー。まさか、この期に及んで先ほどの続きをするとでも言うつもりか?」

「ちげーよセイバー。あと、今のオレはキャスターだ」

 

 

 見せ場を遮られ、少し不機嫌そうなアルトリア。

 だが、そんなアルトリアを気にすることなくクー・フーリンは応える。

 ある意味で、付き合いの長い二人ならではのやり取り。

 けれど、その空気を引き締めるようにクー・フーリンは狼のように鋭い眼差しを、魔神柱の大群へと向けた。

 

 その瞳に、覚悟を決めて。

 

 

「―――ったく。しゃあねえなあ。バカらしいが、他にできる面子がいねえし。オレがやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 こうなることは、なんとなくわかっていた。

 昏く、氷のように冷たい部屋で、人類最後のマスター―――特異点の藤丸立香は、強く唇を噛みしめていた。

 そうしなければ、溢れる悲しみにのまれてしまいそうだったから。

 

 

『よお、聞こえてるかマスター』

「うん、わかってる。キャスター」

 

 

 魔力パスを通したクー・フーリンの言葉に、立香はそう阿吽の呼吸で応えた。

 伊達に長年「師弟関係」にあったわけではない。

 クー・フーリンがこれから何をしたいのか、自分に何を求めているのか、立香には手に取るように分かった。

 その立香の言葉に、クー・フーリンは満足したかのように、ニッと笑ったように感じた。

 

 

『さすがだ、馬鹿弟子』

「うっさい、スカサハ大師匠に言いつけるぞ。馬鹿師匠」

 

 

 それはまるで、月夜の下で酒を酌み交わしているかのような会話だった。

 だけど、それでも、体が震える。目が涙で霞む。

 覚悟はしていた。そのときが、再び来ることはわかっていた。わかっていた、はずなのに―――。

 

 

『……マスター。聖杯の使用許可をくれ』

「……いやだ、って言っても聞かないだろ、どうせ」

『ははっ!わかってんじゃねーかマスター!』

「そして、いつもみたいにあっさり死んで「ランサーが死んだ!」「この人でなし!」って言われるんだろ。わかってるよ、そんなこと」

『いやいやいや!わかってねーよっ!何一つとしてっ!』

 

 

 ひどく傷ついたような声で叫ぶクー・フーリンに、立香は満足したようにクスクスと笑った。

 

 人類最後のマスター―――藤丸立香は、これまで多くのものを失ってきた。

 そして、また一つ、彼は大切なモノを失おうとしている。

 自らに、魔術を授けてくれた師。そして、堕ちた後も、マスターである自分に付き従ってくれた魔術師のサーヴァント。

 人間の生ではありえないほど、永い時を共に過ごした仲間との別れ。それを受け入れるのは、想像していた以上に、過酷なものだった。

 

 

「……わかったキャスター。聖杯の、使用を許可する」

『はーっ、ったくお前ってやつは―――ありがとよ、マスター』

 

 

 そして、そのときはあっさりと訪れる。

 

 

『じゃ、行ってくるぜマスター。あんたと居た時間、嫌いじゃなかったぜ』

 

 

 それが、別れの言葉だった。

 その言葉を最後に、マスターとキャスターをつないでいたパスが切れる。

 なんともさっぱりとした別れの言葉。それは確かに、彼らしいといえば、彼らしい別れの言葉だった。

 瞬間、世界に大きな魔力の歪みが起こる。

 それは、人類最後のマスターが持つ七つの聖杯。その一つが使われた証。

 それと同時に、彼の大切な仲間がまた一人、失われた証でもあった。

 

 

「うん。オレも、嫌いじゃなかったよ……。さよなら……キャスター」

 

 

 白く、白く、真っ白な世界。

 誰もいなくなったこの世界で、青年は、そしてまた一人失った。

 寒く冷たい雪花の檻(彼の世界)。その悲痛な慟哭は、誰の耳にも入らないまま、雪の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 白銀の世界に紛れ込んだ二十八本の異物を眺め、クー・フーリンはため息をつく。

 その吐き気を催す光景にはいい加減、飽き飽きだった。

 

 

「ったく。わらわらわらわらと湧きやがって。いい加減、しつこいんだよテメェら」

 

「ま、その腐れ縁も今日までだがな」

 

「んじゃ、たまには知的に行きますか」

 

「見せてやるよ。スカサハより学んだルーン魔術、その奥義ってやつを―――」

 

 

 刹那、空間が魔力で歪む。

 それは、あらゆる願望を叶える金色の杯―――聖杯。

 その輝きに、確かに魔神柱たちが恐怖で慄く。魔神柱たちも感じたのだ。強大な力の存在を。そして、その枷が一つずつ外されていくのを―――。

 

 

「……聖杯よ、我が枷を外せ」

 

 

 そして、ついにすべての枷が外れる。

 クー・フーリン、最期の宝具。そのすべての力が今―――解放される。

 

 

「全ルーン解放。加減はナシだ」

 

 

 空中に浮かぶスカサハより授かった18の原初のルーン。

 瞬間、サーヴァントではありえない量の魔力が溢れ出し、雪花の世界を侵食する。

 そして、クー・フーリンは、まるで狼の遠吠えのように荒々しく吠えた。

 

 

「圧倒的な勝利に挑むがいい!!【大神刻印(オホド・デウグ・オーディン)】!!!!」

 

 

 溢れ出した魔力が、二十八体の魔神柱を飲み込む前に、はるか上空で収束する。

 やがて、魔力は巨大な武器となり、雪花の空に顕現した。

 その形状は―――槍。

 同時に、強い魔力が今度は雪の積もった地面から溢れ出した。白い大地に赤く炎が灯り、サークル状に巨大な円を創る。その円の中から、まるで這い出るように巨大な木製の手。

 それは、キャスターとして現界したクー・フーリンが本来持つ宝具―――灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)

 そして、炎の巨人は上空に浮かんだ槍を握りしめる。

 赤く巨大なその槍の形状は、ランサーのときの彼が持つ槍―――ゲイ・ボルグに酷似している。

 当然だ。なぜならその槍は、彼の槍のオリジナルたる存在。

 かつて、神々が使ったと言われる絶対勝利の槍なのだから。

 

 キャスターとして現界したクー・フーリン。だが最期のその瞬間、彼は確かに―――。

 

 

「いくぜッ!その心臓、貰い受ける───!」

 

 

 世界で三人と居ない槍の使い手。クー・フーリン(ランサー)だった。

 

 

「グングニル―――ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 ちょっとした設定。

 実は、この特異点自体が、藤丸立香の固有結界で構成されています。
 ゲーム中で、サーヴァントの現界に使用している魔力は、すべてこの固有結界の維持に回しているという設定です。

 そして、肝心のサーヴァントなんですが、彼らは特異点で藤丸立香が手に入れた聖杯で現界している状態です。
 なので、今回の話のように、クー・フーリンが聖杯を使用すると、使用したサーヴァントは現界を維持できなくなって消滅するという流れです。



 お目汚し、失礼しました。





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