幸せな過程   作:幻想の投影物

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29日の日刊1位記念で早めに書きました。
皆さま、本当にありがとうございました。

8/7 修正分補足解説
人間以外の台詞を全て『』へ変更。過去回想の時なども『』で通します。
現行の人間の台詞、及びに地の文の強調語句が「」になります。


星の血筋

「何? あのメイドが連れて行かれたじゃと?」

「はい。学院長は難色を示していたようなので、報告に参った次第です」

「……そうか。下がって良いぞ」

「それでは」

 

 一人になった部屋で、オスマンは唇をかみしめた。

 

「…スタンドのことが広まるわけにはいかぬ。あのメイドには不幸じゃが……早々に壊れて情報を漏らさぬことを誓うのみ、か。ワシも随分外道なものよな」

 

 自嘲するように吐き捨てた彼は、何事も無かったように業務へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

『イイカッ! 今は細かく言う事はネェ………突ッ走レ(・・・・)!』

「!?」

 

 背中を振り返る。だが、そこには何もなかった。

 温かさはある。祖父が見守ってくれるような、家族が後押ししてくれているような。それとはまた別に、いや、同じかもしれない(・・・・・・・・)が……何か、決定的に自分の足を動かせるだけの圧倒的なパワーが働いている!

 目を固く閉じたような暗闇の中を、自分でも無謀とは思いながらに一気に走りぬけて行く。メイド服に似たスカートは輪郭が見えないからか、初めて穿き替えた時の違和感は感じず、着馴れたデザートを運ぶ時の様な爽快さがあった。足音も出ている。「ダッダッダッ!」と、人に見つかる事すら気にも留めないような足音が。

 最初の隠密を心がけた慎重さはどこに行った? いや、確かに小難しくあれこれ考えるよりもずっとわかり易い。しかしこれでは、屋敷の人間に見つかってしまうではないか。ロウソクの火が消えた廊下はもう続いてはいない。明るく照らされ、高級そうな赤い絨毯が既に足元から見えている。

 

 そして、また一つの廊下を駆け抜けた。

 

「……ん? 気のせいか」

 

 野太い男の声がシエスタの耳には聞こえていた。しかし男が見たのはちょっと目を離した隙に見えたスカートの裾のほんの一部。ロウソクの揺らめく火を通して見た風景だと言われれば、何の違和感も無い。そう、違和感なんて無かった(・・・・)

 この男は実に職務怠慢で、貴族が雇った者によくいる金食い虫の一人だ。監視の目がない事を入念に確認し、隙あらば怠けて給金をどのように使おうかと思い描く日々を送っている。そんな想像を続けていたから、シエスタが目の前を走りぬけて行った事に気がつかない。

 

 T字路まで残り数十メイル。使用人の使う裏口と言うのは、必ず屋敷のどこかに存在する。ソレを目指していたシエスタであったが、上階の一部で真っ直ぐしか走っていなかったため、どんなに広大であろうと屋敷の端っこへと到達してしまっていた。

 この速度のままでは窓にぶつかり、外へ放り投げられてしまうだろう。だから、疲れて来た事もあって速度を緩めるために力を抜こうとする。しかし、彼女は視界の端に、人間のそれに似通った「指」を見つけた。その指の持ち主は、またもや愉快そうな声で彼女に言う。

 

『シエスタ!! ナニ甘エテルンダ? 信じろよ、エェ? オマエさんにまで流れた爺さんの幸運(・・)って奴をよぉぉぉ~。蛇がいるぜッ! シエスタ』

「…………?」

()ダカラナッ!』

 

 何故だろう。この声を聞くと自信が湧いてくる。何の自信かって? そりゃあ自分が突っ走ることへの自信ってものですよ。

 誰にともなく自問自答を行った彼女は、既に慣れない疾走で情けない声を上げ始めている足を一喝する。収縮する筋肉へ、無理やり強制収容所の奴隷へ命令するように鞭を振り上げる。電気信号となって伝わった命令に筋肉は悲鳴を上げつつも、このままでは体諸共にずっと使われる事は無くなってしまうと恐れたか、彼女は多少前のめりになりつつも速度を上げた。

 残り1メイル。慌てて怪我しないように腕を前で交差させると、その行動が仇となったかシエスタの体はふわりと宙に浮かんだ。向かうは窓。ここは一階では無い。その事を嫌という程実感させられたシエスタは恐怖で身がすくんだが、既に賽は投げられた。

 彼女の体は、中空へと放り出される――――事は無かった。

 

「う、痛っ! ぐっ……ええ? …………あぅっ!?」

 

 窓は開いていた。陰湿な館の中へ正常な空気を取り入れるためか、はたまた腐りきったこの場所に綺麗なシエスタはいらないと放り出す為か。何にせよ、モットの館はシエスタへとサヨナラの手を振って別れを告げる。

 それと同時に、待ってましたと言わんばかりの木の枝や生い茂った葉っぱが彼女の体を包み込み、多少乱暴ながらも手厚い歓迎を施した。まるで大蛇が飲み下すようにシエスタを包み込むと、鬱蒼と絡まりついた蔦の間にするりと落とし、その蔦の上を滑り台の様に滑らせてから尻から落とす。

 作戦成功。タイミングが良すぎるほどに風が吹き、近くの草木をざわざわと揺らした。

 自然が作った腹の無い蛇は、悠然とシエスタを見下ろしている。

 

「……ありがとうございます」

 

 気にするな、とでも言うように風が木の葉を揺らす。

 それにしても、何と言う偶然なのだろう。シエスタは此処に来て運の全てを使いきってしまったのではないだろうかと、宝くじに当たった小心者の様な感想を抱いた。無論、シエスタは宝くじなど知らないが故にただの比喩表現だ。

 ともかく立ち上がった彼女は、服についた木の葉をパッパと手で払いのけ、被りものを深く目の辺りまで覆うと再び走り始めた。あの声は、今度は聞こえてこない。

 

「ともかく裏口に出たけど…どうしようかしら」

 

 彼女にとってこの辺りは全く土地勘がない。馬車の中で見た景色で、学院にある四大属性に倣った塔は東西南北を表しているので、学院から見てどの方向に来たのかは分かっているが、それだけだ。

 途中から馬車の外は見ていなかったし、考え事をしている間にそれなりの時間が経過している。よほど土地に関して詳しく無ければ、貴族であろうとこの場から正確に帰還するのは難しいだろう。決して、シエスタが悪い訳ではない。

 ともかく、屋敷の表口から広がる街道に沿って森の中を進んで行こう。あの突如として聞こえてきた「声」が言った「蛇」にもう一度頭を下げると、シエスタは屋敷をぐるりと回りこむように正門目指して囲いの中を進んで行った。

 屋敷と言う建物からは出れたものの、まだこのモット伯が住まいを置く広大な敷地から逃れられた訳ではない。籠から出た鳥が部屋の中から出れていないのと同じ事だ。遮蔽物に身を隠し、少なくとも軍事基地よりは少ない監視の目を縫って彼女は慎重に進んで行った。幸運ながらも、選んだ時に茶色の服を着ていた事すら、カモフラージュ率を高くしている要因になっている。

 

 彼女が進む先、ようやく正門の出入り口が見えてきた。だがやはり強固な鉄柵の門に守られ、此処は貴族の領域だと主張するかのような石垣のレリーフが目に入る。それと同時に、暇そうにしている大人の男性兵士が甲冑に太陽光を反射させていた。

 メイドや女性は一切見当たらないことから、絶対に屋敷から出すことを良しとしなかったのだろう。そう思うと、逃げる時に他の人に声をかけられなかった事で少し胸が痛む。お優しい性格をしているとよく言われる、実に彼女らしい反応だった。

 

『声は出すナヨォォォ…静かにだッ! オマエの爺さんミテェに今は息を潜めてロ……』

「!? あ―――」

『おいッ! 声出すんじゃあナイゼッ! 見つかるのはヨオオオー……もっと後ダッ!』

 

 そのなにか(・・・)に口を防がれ、シエスタは無理やりに息を殺された。だが、その声が居る場所は間違いなくシエスタの背中か肩の上。身を隠すのにギリギリな堀の一角で隠れていた彼女にとって、その存在は自分が見つかってしまう最悪の一因の筈だ。

 されど、兵士は其方を見ても異常なしと心の中で疲れを見せる。見えていないのだ……そう、このシエスタの上にいる存在は…見えていない(・・・・・・)

 

 一体これは何なの? 魔法や精霊が自分に憑いているの? 口を防がれながら、危ういところを助けて貰ったこの存在に疑問を持つ、その瞬間――少しだけ、この寸同大の人形の様な人型がぼやけたような気がした。

 人型は、慌てたように押さえていた口を離して後ろから囁く様に近づいた。

 

『オイオイ否定するんじゃあネェ……幸運はよぉぉ! シエスタ、オマエさんの味方だッ! つまりオレは味方だ。だが、疑っちまってるんダロ? 無理もネェゼ、確かに幻覚サンかもなぁぁ~~こう思われるのは仕方ネェゼ』

「………あ、あなたは」

『信ジキッチマイナァ! テメェの爺さんが此処で根を下ろせた幸運って奴になぁ……。今までだって、未知の場所で何とかなってきただろ? いいか、オマエは凄くツイてるんだ(・・・・・・)。何も怖い事ナンカ()ェ……導いてやる! 信ジロッ!!』

「あ………」

 

 するりと、その存在は消えた様に見えた。慌てて、しかし物音をたてないように背中を見ると、ズブズブと自分の中に沈んで行くソレの姿が見えた。グッドラックと突き立て破られた親指は信頼の証。輪切りの線がついた指が完全に見えなくなった頃には、シエスタは目をギンッと見開いていた。

 迷いの無い瞳はッ! 貴族に立ち向かったディアボロを思い浮かべた自信に満ちあふれた瞳! それゆえ彼女は、ぐっと握り拳を右手に作り出すのだ。

 

「そうよ…やれる(・・・)からには怖がる必要なんて無いんだわ。ええ、出来ない事なら怖いけど……出来る(・・・)んじゃあ仕方ありません(・・・・・・・)よね?」

 

 彼女は全てを悟りきった様に、夕暮れが作った石の陰からささっと移動して門兵の後ろに立った。館の方からは、突如として出てきた人物への視線が殺到している。今、全ての目がシエスタを見ているというのに、彼女は気軽に弟へ語りかけるかのように兵士の方を叩いた。

 

「ん? なんだオマエ」

「ねぇ兵士さん。ちょっとどいてくれませんか?」

 

 服の下に着たメイド服モドキのスカートを見せると、ちょっと「アレ」な場所への買い物を任されたメイドなんだろうな、と兵は思った。

 

「苦労してるんだな。…っと、この事は伯爵には言わないでくれよ」

「余計な波風立たせたくありませんから、言いませんよ。波風は立たせたくないので…」

「そこの兵士! 例の館の新入りメイドが逃げて―――ソイツだ!? その胸の大きさは間違いないッ! ひっ捕えろ……今すぐにだ!」

「っと、ごめんあそばせ」

 

 シエスタが深く言葉を残した直後、屋敷から出てきたモット伯爵が唾を吐きだしながらまくし立てた。隙をついて逃げ出そうとしたシエスタのひらひらとした服は、しかし兵士の手に捕まることなくするりと抜け出してしまう。いたずらに吹き込んだ風が、スカートをまくりあげたのだ。別の場所から捕まえようとしたが、麗しい女性のスカートの中身を見た男性兵士も、その光景に思わず足を止めてしまう。

 見事真正面から何もせずに抜け出したシエスタを、あの胸は中々手に入らないというのにッ! という醜い声の元が追い掛けようとしていた。

 

「ウォーター・ウィップッ!!」

 

 杖を振り上げたモットの声がシエスタの耳を打つ。これが普通の平民なら彼女ほどの動揺も無かっただろうが、「魔法学院」に勤めているシエスタならではの知識がここで働いた。

 モットの使った魔法「ウォーター・ウィップ」は杖に絡んだ水を起点として、大気の僅かな水分を伝って対象の四方八方から自由自在の水の鞭を操る系統魔法だ。「波濤のモット」という二つ名は、中年に至るまで鍛え上げられた水の魔法が波濤―巨大な波―となって相手に襲いかかる様から名付けられたもので、決して名前負けしていない。

 ただの平民であるシエスタにそれを避けることは不可能。そう、平民である限り…何か、特別な力(・・・・)無い限り(・・・・)! この魔法と言う力に抗う事は出来ないっ!

 そう……特別な力がなければ何もできない(・・・・・・)筈だった(・・・・)

 

『おいシエスタさんよォ~~()へ行けッ!』

「へ?」

 

 足場も安定。どの幸運な指示が来たとしても乗り越えられる。そう思っていたシエスタすらも間の抜けた声を出してしまう程の指示。しかし背に腹は代えられない。初速が乗って来た今の勢いのまま、近くに在る木の枝に向かってジャンプする。さほど高くない位置にあった枝だったが、シエスタの踝の高さを擦りぬける横薙ぎの水鞭が通ったのを見て、こんな僅かな跳躍でも大丈夫なのか、と彼女は息を飲んだ。

 

「何故だ!? 奴はこっちを見ていない(・・・・・)! 魔法を見ていない筈なのに……どうやって避けて(・・・)いる!? ええい兵ども! 奴を捕まえろ、捕まえるんだッ!」

「ハッ!」

「了解しました」

 

 依然として魔法は出したまま、兵達がシエスタの事を捕まえるために走りだした。曲がりなりにも兵になった彼らはシエスタよりもずっと早い足と、ずっと走る事が出来る体力を持っている。モットは貴族だ。しかも色欲にまみれた中年となれば、体力も低下している。魔法を操り続けるにも、精神力のほかに魔法を制御するための神経…つまり、同じく体力を使う。

 片方からは一時的な脅威を乗り越えられれば逃げられる。片方からは永続的に小さな脅威を伸ばされる。となれば、どうすればいい? シエスタは後ろを見ず、真っ直ぐと前だけを見た。

 そこに光明はあったのだ。

 

「幻覚さん……」

『気付いたのかぁぁぁ~? YO、シエスタァッ…!』

「はい。このまま……走ります」

『YO・YO・YO!! イィィイイハァァアアアァッ! それでイイゼッ。なぁシエスタ、叫べヨ。幸運ヲ信ジテナァァァァ…!』

 

 体に纏わりつく様に喋るスタンド(・・・・)に後押しされ(とはいっても正体には至っていないが)、シエスタは気合を込めて走りぬけた。森の木々が茂る位置は低く、シエスタ程の少女ならば通り抜けられるが…屈強さが売りの兵達や、モットのような長身の男が抜けられる筈も無い。

 前かがみに走る彼女は最早息も絶え絶え、いつ転んでもおかしくない程に疲労しているのだが、それでも死に物狂いで足を止めない。

 

『オウッオウッオウッ! こりゃスゲェ…オマエさんにゃタケオのヤローも無かった最ッ高の運がツイてやがる。もしかしたら、今期最高の場面かもしれネェナァァァー……』

 

 何かが囁いているが、聞こえない。

 ザワザワと木々の間を駆け抜け、ヒューと抜けて行く肺の中の空気を戻すように息を吸う。乱れに乱れた息も体力も、その全てが切れてきた。後ろから追ってくる怒号が酷く頭に響いてくる。煩い、もう少しなんだから黙っていて。声には出さずとも、シエスタは恨みの力さえも込めるよう走り続けた。

 暗くなってきた夜の暗緑色が晴れ、ようやく彼女は――――

 

 

 

 

「すっかり遅くなっちゃったわね」

 

 ルイズが空を見上げて言うと、そうねぇとキュルケが頷いた。

 この街に留まってから、女の買い物と言うのに付き合わされたディアボロは酷く疲れていた。スタンドを使った時よりも精神が削られる様は、かつてヴェネツィアで聞いたホラー専門家として世界に名を馳せ始めたルーキー、マニッシュボーイの手に掛かったのではないかと思うほどだ。実際、会った事は無いが。

 あれだけ長く買い物をしておいて、実際のところはディアボロの右手に在る袋一つ分で収まっているというのだから目移りの激しさは目も当てられない程であっただろう。本を小脇に抱えている青髪の少女、タバサもこう言うのは余り経験した事がないのか、ぐったりとしているようだった。

 

『旦那もちびっこも随分と疲れてんなぁ』

「長らく続く無意味な時間は、中々に面倒だったぞ」

「同じく……」

「あー…ごめんなさいねぇタバサ。貴女が興味あるのって本とか薬ぐらいだものねぇ」

 

 馬小屋の近くに着き、一行は馬とタバサの風竜シルフィードで帰路につく。ただ、ディアボロの恐怖を覚え込んでいた馬が気を利かしてくれたおかげで、ディアボロは椅子に座っているかのように夜風で疲れを癒していた。

 

「やっぱり風竜……。うーん、どうにも羨ましいけど、私じゃ難しいわよね」

「得手不得手の類か?」

「違うわ、制御できるかってことよ」

「成程な」

 

 風竜も人間とは違い、知能を有しているとはいえ野生寄りの存在。凶悪な爆発を起こしてばかりの主人の近くは危険だと判断して中々近寄らないだろうし、いつ爆破されるかも分からない恐怖を本能が増幅し、パニックに陥る可能性もある。そう言う点ではルイズは冷静な自己分析を出来ていた。

 ただ、その問題も物言わぬ乗りモノなら問題は無かろう、とディアボロが言う。

 

「ああ、船のことね。まぁあれなら動かしてるのは人だし、風石が切れなければ安定して浮けるから、竜と違って墜落の危険も低い安全なものよ」

「船…が墜落?」

「ああ、えっと…ハルケギニアでは空飛ぶ船があるの。そっちではあまり見ないの?」

「いや、空を飛ぶ機械なら幾らでもある。だが空を船が飛ぶとはな。一度はお目にかかりたいものだ」

「ちょっとールイズー? 私の彼をあんまり誑かさないでよね」

「誰があんたのよっ! っととと…」

 

 乗り手の興奮が馬に伝わったのか、彼女の馬が大きく揺れた。振り落とされないようにしっかり首にしがみつき、恨めしそうに低空飛行をするシルフィードの上にいるキュルケへ視線を送った。

 そんな時、タバサがピクリと耳を動かした。

 

「……何か来る」

「え? 何かって何よ」

「タバサって風メイジだったわね。どこから?」

「あっち」

 

 彼女の杖が差した方向は、森の草木で覆われた道の脇。まだ聞こえてこないが、一旦足を停めた一行は何が出て来てもいい様に各々の武器を構える。

 

『おっと旦那、早速使って貰えるたぁな』

「試し切りだ」

 

 それなりに巨大な筈の剣―後に聞いたところによると銘はデルフリンガー―を片手で持ち、ディアボロはタバサの言った方へと戦闘態勢を取る。やがて、ガサガサと草木を踏みしめる音と一緒に誰かを追う怒号や、酷く息の乱れた誰かがすぐ近くにまでやって来ている事が分かった。

 いち早くこの事に気付いたのは、風の流れから状況をくみ取れるタバサとスタンドの聴力を利用したディアボロ。聞こえてくる言葉の節々から、少なくとも追っている方は碌な奴らじゃないと気付いた二人はそれぞれ近くにいる相手へ合図を送る。

 そして遂に、茂みの中から一人の少女が飛び出してきた。

 

「はぁっ、はっ、はっ、はっ…!」

「シエスタ!?」

「奴が森を抜けたぞ! 早く捕えろ…冬のナマズのように大人しくさせるんだ!」

 

 意外や意外。見知った顔が飛び出て来た事を確認したルイズはそのままの勢いで倒れこんでくるシエスタを流れ的に受け止めると、ディアボロの異様な雰囲気を感じ取って馬のいる場所まで下がった。次いで飛び出してきた二人の兵士と、遅れて中年の貴族が水の流れに乗りながら森の奥から姿を現す。月明かりがそれぞれの正体を晒し出し、モットはペンタクル印のあるマントをつけた彼女達を見てぎょっとした。

 

「これは……何が起こってるの」

「おや、私と同じ貴族でしたか…ちょうどよかった」

 

 疲労がたまっているのか、シエスタよりは軽く息を乱しながら、モットは額に流れる汗を上品に拭った。体裁を整えた所で、兵士二人に待機の命を下す。

 

「そちらの買い取ったメイドが逃げ出しましてね…どうにも、私が心から気に入った相手なのでどうしても捕まえておきたかったのですよ。ですが同じ貴族に出会えて本当に良かった。さ、彼女を此方に渡してください。このジュール・ド・モット、トリステインの貴族としてちゃんとお礼はします」

「モット伯…? それより、彼女…シエスタはわたし達が通うトリステイン魔法学院のメイドよ。買い取ったって、どう言う事?」

「おやお知り合いでしたか。いえ、貴女も貴族ならば分かるでしょうが……ええ、正式に頂いたのですよ。王宮の勅使としては、あちらも良い印象だと伝えておく事を約束に」

 

 あくまで丁寧さを崩さないモット伯の態度は、普通ならば相手を軟化させて「そう言う事なら」という風にシエスタを引き渡してしまう誘導術。だが、彼女の友人でもあり秘密を明かしあった仲としては、ディアボロの素性的にも、ルイズのプライド的にもはいそうですかと頷けるわけがない。

 シエスタをかばいたてるように一歩ばかり前に出て、ルイズはモットを睨みつけた。

 

「彼女には少しばかり事情があるの。多分学院側も難色を示していたでしょうけど……少し、私としては彼女を渡すわけにはいかないわ」

「おや、これはこれは…。確かに、まさか学院長が難しい顔をするとは思いませんでしたが、他の総務達に掛けあってみれば簡単に許しが出ました。つまりは正式な取引だったのですよ」

「……ああ、そう。これだけ言っても分からない訳? 伯爵」

「む? …何かな、小娘」

 

 ルイズの胸を見て馬鹿にしたように鼻で笑ったモットへ遂にルイズは沸き立った。

 その異様な雰囲気は、ディアボロと共にいる事で身についた新たなる自信。キュルケは見た事の無い異様な雰囲気に呑まれて、タバサは豹変した「元落ちこぼれ」のルイズに興味を持って口を慎む。ディアボロは、彼女の意志に任せておこうと抜いたデルフリンガーを鞘に戻し、柄に手をかけて待機していた。

 

「お言葉ですが、ミスタ・モット。そちらが王宮の勅使だとしてもその王宮にさえ響く様な悪名の数々は…トリステインの貴族として相応しくないと思われるわ」

「ほう…悪名か。と、言うと?」

「曰く、平民の間では妾に取られれば夜の玩具とされる脅威。曰く、王宮では下々の血へ手をかける節操のない輩。とてもじゃないけど、後継ぎの子の全てが麗しき初代トリステイン王の血を分けていないのではないか。なんて」

「……だが、所詮平民は平民。私はちゃんと孕んだ相手は処分している。私が真に愛し子を成すと誓うのは澄んだ血を引く女性のみ……そう、かの美女と称されるラ・ヴァリエールの二女のような…ね。いずれは私の嫁として迎え入れようと―――」

「……ああ、へえ? ちぃ姉様の…おふざけ遊ばせてんじゃないわよ、下郎!」

 

 ルイズは杖を振り、単純な錬金の呪文をモット伯の直前に在る地面に掛けた。

 爆風は狙い通りモットに襲いかかり、その様子を見た部下の兵士が剣を抜くが、ルイズの名乗り上げはそれよりも早かった。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 誇り高きトリステインの公爵家三女。我が姉を癒す術を持たぬどころか、浅ましくも女を追いまわす術に長けたあなたは姉、カトレア様にお目に掛けるまでも無いわ! そして、平民を処理の道具としてしか扱わぬ非道な所業。…言質はとらせて貰ったわ。王宮への処分を大人しく待つ事ね!」

 

 杖を突き付けられたモットは皺を額に寄せる。

 所詮は名を語った学院の木端貴族。ここで始末しても夜盗に襲われたと言えば片がつく。そう思ったモットであったが、月明かりの照らすルイズの髪色を見て記憶の奥底が熱い熱を灯した。

 

「なにを馬鹿な事を……いや、まて。その桃色の髪はラ・ヴァリエールの高潔な証…! ええい、だが三女は魔法も使えぬ貴族の恥! そこの三人諸共ここで始末してしまえば、誰にも知られる事は無いッ! 衛兵、やれ!!」

 

 既に武器を構えていた兵士は、その言葉にジリジリと四人に近寄っていく。モットもウォーター・ウィップを出現させ、魔力を練り込んで周囲の水蒸気を己の力へ加算して行った。

 

「ふん。今更気がついたところで、おしゃべりな自分の口を恨むことね。……二人とも、協力してくれる?」

「あ……ええ。ちょっとびっくりしたけど、こう言う奴は流石に…ねぇ?」

「国際問題……ばれなきゃいい」

「そうね。意外と名言言うじゃない」

 

 ディアボロは聞かずとも、兵士達と同じように剣を抜いて対峙した。ルイズに視線を送り、もう一度彼女を高みの見物へと下がらせる。他の二人にもこれは啖呵を切ったルイズの代行者として…あわよくば、(ルーン)の実験をさせてくれと無言の圧力を発した。

 

「さっきも言ったが、試し切りには丁度よかろう」

「ええ。ただし殺さないでね。特に兵の人は」

「……面倒だが、命令ならば仕方あるまい」

 

 もっとも、ボスだった時代にはターゲットを部下に捉えさせ、自分が直々に制裁と言う名の虐殺を行っていたディアボロだ。ギーシュの時は青銅人形が相手だったが、今回の相手は鉄鎧と言っても中身入り。

 スタンドでは無く、デルフリンガーを抜いてディアボロは走った。

 

『いいねぇ、この気迫に溢れた感じっつぅのかぁ!? いいぜ相棒、俺を振るいな!!』

 

 血に飢えた妖刀の様に、ケタケタカタカタとデルフリンガーは笑う。剣が喋ったことにぎょっとした兵士達はその一瞬を突かれ、ただルイズの為に心を震わせていたディアボロの一撃を喰らって武器を失う。一瞬の交差の後、デルフリンガーが相手の獲物を完全に破壊したのだ。

 

『いってててぇッ! おい、いてぇぜ相棒ッ!』

「随分と格が上がったものだ」

『戦場においては剣は持ち主の相棒だぜ?』

「フン、それもそうか」

「や、やめろぉぉぉぉぉぉ!」

 

 丸腰の兵士達の叫びもむなしく、躊躇なく剣を振り切ったディアボロは続けざまにもう一人の兵士にも斬りかかった。接触の度に大きな金属音が響き、音響爆弾としての役割を果たした兜の中で兵士の意識は落ちて行った。

 事前に仲間を巻き込んでまで迫ろうとしていたモットの水の鞭は、余りにも早すぎるディアボロの行動に全く対応できず、弱い者いじめを繰り返したモットの動体視力は彼を追い切れる筈も無かった。よって、ほとんど停止していた隙だらけの相手に近づいたディアボロは、モットの背後で見下ろす様な瞳を向けた。

 ディアボロなりの、最後の配慮である。

 

「…………」

「な、わ…分かった。メイドは諦め、王宮にもお前達の事は言わない…いや、ミス・ヴァリエールに言わないでほしいとお願いしたい。私も確かに、節操がなかった。これからは心を入れ替えて――――」

「……ふん」

 

 その声で剣を下ろしたのだと思ったモットは、一気に後ろへ振り向いた。

 

「貴様らを本気で殺してやる!!」

「阿呆が」

「ガッ!?」

 

 確かにディアボロは剣を下ろしていた。だが、その鋭い手刀がモットの首筋を打ち、手加減も無く振り下ろされた一撃にモットは痛みを覚えながら泡を吐いてその場に崩れ落ちた。デルフリンガーの口金具を動かせるようにしたまま鞘へ納刀した彼は、つまらない遊戯だったと何処にでもいるような下衆に冷たい視線を突き刺した。

 

『かぁ~! これだぜコレッ。俺はこう言う感じで使われたかったんだよ!』

「丈夫さは問題ないようだな」

『オイ旦那、そりゃねぇよ……俺だって一応痛いとかあるんだっつの』

 

 こう文句を言うなら、何故あの時溶かしても良いなんて言ったのかは謎であるが、それでも満足したらしいデルフリンガーを完全に鞘におさめ、ディアボロはモットの襟を引きずってルイズ達の所へ歩いて行った。

 どしゃ、と投げ渡すなど乱暴な扱いをされるモット伯爵だったが、それでも目を覚まさないのはよほどディアボロの気絶させた手段が手荒だったからなのだろう。

 

「やっぱり最高よアナタ! ねえ、ダーリンって呼ばせて? いいえ呼ぶわね!」

「何言ってんのよアンタはッ! いい加減自制って言葉くらい覚え―――あ、無理よね。うん……それはともかく、お疲れ様。どうだった?」

「ウォーミングアップにはなっただろう。この便所のタンカスにも劣る奴はどうすればいい?」

「ええっと…あれタバサ。何してるの?」

「覚醒」

 

 そう言うと、タバサは倒れていた兵士をゆすって起こし上げた。最初は音響のせいでぼうっとしていた兵士たちだったが、次第にハッキリとして来た意識で気絶している自分達の主の姿を見やると、ぎょっと身をすくめていた。

 

「お、俺達はこれからどうなるんですか…?」

「別に? あんた達もコイツの片棒担ぐような奴なら一緒にしょっ引かれるでしょうけど、やましいことしたの?」

「い、いいえ。俺は単に門番やっているだけでした」

「俺もです……これから、使用人はどうなるんでしょう?」

「それにしては私達を殺そうとしたみたいだけど?」

「…天誅」

「ひ、ひぃぃいい!」

「ジョーダンよ、ジョーダン。それでルイズ、どうするの?」

 

 彼らも今後、自分達の生活が掛かっているからか、縋りつく様にルイズ達を見た。

 例え口封じだとしても、これほどの身分を持った相手を殺そうとした。貴族階級が二つも違い、更には王族に最も近い公爵家の者に手をかけようとした罪、そして後々に出てくるであろう数多の平民を道具として扱った証拠を上げられたモットは、間違いなく貴族をはく奪。そして死罪になるだろう。

 そうなれば、家族が居ないモット家は最小限の被害になるが、そこで働く使用人達は一気に職を失うこととなる。働いていたメイドも、心に大きな傷を作ったまま社会に放り出されることになるだろう。兵士が不安に想うのも、無理は無かった。

 

「学院で働くか…何処かの街で、雇ってもらうしかないわね。わたしはまだ学生の身だし、あんた達を全員迎え入れられるような領地も貰っていないの。わたし達を襲ったことに対しては…まぁ、悪いのはこいつだし見逃してあげる」

「そう、ですか」

 

 王宮の勅使という立場に加え、伯爵家と言うだけあってモットの元で働くのは非常に稼ぎが良かった。だが後ろ盾を失った今としては、健全に働いていた者たちは途方にくれるしかないだろう。その平民たちを助ける法律がないのが、このトリステイン。貴族の生活はきらびやかでも、平民はまったく重視されない現実である。

 二人の兵士に、とりあえずは屋敷に連れ帰って縛り上げておいて欲しいと言うと、兵士はシエスタを捕縛しようとしていたロープをモットに巻き付け、杖をルイズに折って貰った上で屋敷の方へと帰って行った。その様子を見届け、ルイズはすぐさまシエスタの元へ向かう。

 

「凄い汗…ちょっと、大丈夫?」

「あ……ルイズ様」

 

 碌に昼から食事もとっていない状態で走り続けたからか、汗がじっとりとシエスタの服に滲んでいる。最初正体がばれないようにと被りものをしていた事も、発汗させる原因だったのだろう。軽い脱水症状を起こしていた。

 

「こりゃちょっとヤバいわね。タバサ、お願いできる?」

「……コンデンセイション」

 

 ルイズが馬の鞍に付けていた水筒をタバサに向け、大気中から集まった水をためてシエスタに飲ませる。街の中ならともかく、木々が多いこの辺りなら水も清浄だろうと彼女の口へ水筒を運んだルイズは、シエスタへ確実に水を飲ませて行った。

 ある程度落ちついたと判断した頃、ようやく安堵の息を吐いた四人は眠ってしまったシエスタをディアボロの馬に同乗させ、再び帰路についていた。

 

「ねぇルイズ。貴女この子を随分気にかけてるみたいだけど」

「…友達、っていうか…秘密を共有した仲、かしら。どっちにしても大切な人よ」

「ふぅーん? ま、程々にしておかないとまた言われの無い噂流されるわよ」

「どうだって良いわ。本質を見極められない奴らに何言われても、正しい事が出来ればそれでいいの」

「あ、そ……」

 

 前なら慌てふためいていたであろう質問にも動じることなく、とんだ大捕り物だったわねとキュルケは一息ついた。結局自分が魔法を使って活躍する事は無かったが、殺さない相手に対して火の魔法は加減が利かない。だったら、今はまぁ大目に見てあげようと次の波乱に備えて楽しそうに考えを巡らせた。

 一方、寡黙な態度を崩さないタバサは先ほどのディアボロの動きに関して目を見張る。ギーシュとのお遊びとは比べ物にならない程、鋭い動きをしていた。そして剣を向けられ、戦いを強要されても動じない姿勢は、普通の平民が手にする感性では無い。どこか、秘密があるのだろうか。ルイズとシエスタ、そしてディアボロを見比べて予測を立てるが、タバサの納得いくような答えは出てこなかった。

 

 そして月夜が照らす道、彼らは学院へと到着する。

 

 

 

 キュルケとタバサを外に、これはトリステインの問題だからとルイズはディアボロ、シエスタを連れて学院長室に訪れていた。隣には秘書のミス・ロングビルが控えており、これから王宮へのモット伯についての処分についての文書を書きとめている。

 羽ペンの音が成る室内で、重々しく学院長オールド・オスマンが話し始めた。

 

「やれやれ、ようやっとあの若造も尻尾を出したか。後日、王宮が昨夜(ゆうべ)の水晶を使えばモット伯の凶行も終わりを告げるじゃろうな。偶然とはいえ、ご苦労。しかし……あまり利巧とは言えんよ。それは分かっておるじゃろう?」

「はい。ですがオールド・オスマン。彼はわたしの姉をも侮辱しました。未だ不明の病を抱える姉様を…!」

「最早モット伯には何も言えんわ。貴族の身内を遠方であれ侮辱し、更には公爵家へ喧嘩売るような発言かい。あの馬鹿め、尻尾出すときは全身見えとるではないか」

 

 まぁ、それでトリステインが綺麗になった。

 それで良しとするのだとオスマンは語る。

 

「ミス・ロングビル。出来たかの?」

「ええ。…オールド・オスマン、私も一応は女なのですから、夜分遅くに駆りだす様な真似は控えていただきたい」

「おお、そう言えば肌の具合が気になり始める年頃じゃぶぅぉ!?」

「あらあら、申し訳ありません。杖が滑って反回転しながら背中にささってしまわれましたわ」

「……あ、あの」

「ああミス・ヴァリエール。それから使い魔の貴方とメイドさんも、戻って構いませんよ」

「はぁ……」

 

 オスマンの醜態から目をそらそうとしながら、三人は外で待っていた二人と合流した。

 扉の向こうから聞こえてくる物音は幻聴だと思い込んで。

 

「どうだった?」

「証拠はそろってるから明日でまずは貴族剥奪らしいわ」

「まずは、ねぇ。あんなのが伯爵って、トリステイン大丈夫なの?」

「年々低下傾向よ。憂いばかりが未来ね、この国」

「ブリミルとやらに見捨てられたのではないか?」

「ディアボロさん。そ、そんな不敬な……」

 

 ディアボロとて聖書の神やらイエス・キリストを信仰していた身だ。とりあえずは住まわせてくれた神父の恩義として習っていたが、実際のところは宗教の穴ばかりが見えて信奉者と言うのはどうにも好きになれない。まぁ、この世界の者たちは唯一信仰なので仕方ないのかもしれないと割り切ってはいるが。

 少し気不味い空気の中、キュルケはあーあと自分の不完全燃焼を訴えた。

 

「とにかくまだ眠くないのよね。明日はまた休み入ってるし」

「ミス・ロングビルはともかくわたし達はまだまだイケるしね。…本塔の中庭あたりにでも行く? どうせ一日一緒に街歩いた仲だし、そこのタバサって奴の事も知っておきたいわ」

「だって。タバサは?」

「……別に構わない」

「寡黙ねぇ。何考えてるのか良く分かんないわ。あ、ディアボロは?」

「荷物がまだそこに在る。部屋で寝具を整えておいてやろう」

「分かったわ。じゃぁシエスタ、あんたは戻れたって言っても疲れてるでしょうし。今日は早く休みなさいよね」

「はい、ミス・ヴァリエール。ご厚意を受け取らせていただきます」

 

 本塔側の中庭へ行く生徒三人と、平民二人に別れた。

 シエスタと二人っきりになったディアボロは無言で荷物を掴むと、デルフリンガーを背負い直して部屋へ歩みを進める。それにならって彼女も使用人の部屋でゆっくり休もうと、足の疲労から感じる熱を重々しく感じながら彼の横を通り過ぎようとした時であった。

 ディアボロの腕から、金と赤に染められた異形の腕がシエスタの眼前に迫ったのだ。

 

「きゃっ…!」

 

 突然の脅威に彼女は短い悲鳴を上げる。しかし、殴りかかった手はまさしく直前で停止し、ディアボロの中へと戻っていった。

 

「やはりか。スタンド使いは惹かれ合う…変わらんらしいな」

 

 忌々しげに吐き捨てたディアボロは、夜の闇の中へと溶け込んで行く。

 去り際、シエスタは彼の声を聞きとっていた。

 

 ―――いずれ話してもらうぞ。

「……はい。でもやっぱり…スタンド、だったんですね」

 

 彼の過去を思い返し、シエスタは共有できる秘密に笑みを浮かべた。

 




書いててお見ましたが、シエスタの逃走中は微妙に戦闘しちゃいましたかね?
それにしてもポコロコのスタンドは描写が難しい。何が「幸運」でどう作用すれば「幸運に見える」のかが書きにくいです。どれだけ難しいか例えて言うなら、イカが工事現場で夜遅くまで作業チェックするぐらい。
あと、字数少なくなってすみません。

さぁ、いよいよフーケ編入っていきます。途中まで原作沿いですが、徐々にオリジナル加えていく予定です。それまでの僅かな変化をお楽しみください。

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