横島MAX(よこしまっくす)な魔法科生   作:ローファイト

107 / 192
感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます


ついにやってしまった><
しかし、これはまだ、横島喪失編の前編です。
前編はギャグなし、一応シリアス展開?



107話 真実が語られだす。

 

九島烈は横浜事変当日から翌日に掛けて、流れてくるさまざまな現場情報から、横島が横浜に向かい、『救済の女神』を発動させ、事態を終息へと導いたという結論に至った。

 

そこからは動きが早く、家人や伝手を最大限に使い横島が横浜事変に関わった事、さらには横島が『救済の女神』である事を表沙汰にならない様、全力で情報操作を行ったのだ。

九島烈は横島の性格上、表沙汰になる事を嫌うと判断し、横島に借しを作るべく先んじて動きだす。

 

『救済の女神』の使い手である横島の価値は最大限まで上昇した。今までは、氷室家の古式魔法、治癒魔法の使い手という狭い範囲での価値(それでも十師族が喉から出る程の価値はある)であったが、横島一人で国防の切り札として国家の勝敗をも左右する戦略級の価値が出てきたのだ。

『救済の女神』はここ50年で戦略魔法として認識されている魔法の中で、防御に特化した唯一の魔法。その性能はただ単なる防御だけでなく、精神系魔法、治癒魔法までも同時に発動され、その影響範囲は規格外の広さを誇り、戦線の劣勢を一気に、覆す事が出来る。

現に、50年前の東京襲撃は、最早首都が制圧され、敗北寸前であった日本は、軍事的な巻き返しが出来ただけでなく。攻め込んだ敵兵を無傷で全員無力化捕虜にすることにより、戦後処理の捕虜の解放条件などにより政治的交渉もかなり優位に進める事が出来たのだ。

 

横島との友好関係は継続し、繋がりを強固にする事は、九島家総出で事に当たってもそれだけの見返りと価値は十分にあるのだ。

 

しかし、肝心の横島から一向に連絡がこない。九島烈の見込みでは、2~3日中には、横島から連絡が入り、情報操作や軍との仲介役などの相談をしてくるものだと思っていたのだが、横浜事変から3日たった後、しびれを切らして九島烈は自ら横島に連絡を入れたのだ。しかし電話も通ず、連絡がつかないのだ。

その後色々と調べたが、学校にすら出ていない事が分かり、横島は何らかのトラブルに既に巻き込まれているのではと判断しなければならなかった。

 

九島烈は軍内部にも探りを入れる。横島がただ単に捕まるハズはないが、何か脅され、拘束若しくは軟禁されている可能性を視野に入れての事だ。

 

軍の内部の動きを探っているが、横島と接触、監禁しているなどの情報は皆無であった。しかし、意外なところから、横島の足跡を見つける事が出来たのだ。

 

九島烈はその真相を糺すべく、幕僚本部からの命令を実行に移したその部隊長風間玄信少佐の元に訪れる。

 

そして、そこで知った事実に九島烈は大いに悔やむことになる。

「……時既に………遅し…………」

 

 

 

 

 

国防陸軍第101旅団(達也が所属している独立魔装大隊はこの旅団の中枢を担っている)、旅団長佐伯広海少将は、珍しい人物から訪問を受けていた。そして本日予定していたスケジュールをすべてキャンセルし、その人物に会う事にしたのだ。

 

「これはこれは、氷室家14代当主がこのようなところに来られるとは…………私の要請にはさんざ袖にしてきたいうのに、どういう風の吹き回しですか?」

佐伯少将は訪問してきた氷室恭子を司令官室に通し、秘書官を退出させ、応接ブースで一対一で話し合う様相で、ソファーに腰掛けると同時に皮肉じみた挨拶をする。

佐伯少将は自ら氷室家に対し、101旅団に協力するよう再三にわたり要請したのだが、14代当主氷室恭子はすべて即答で断ってきたのだ。

 

「ご無沙汰しております。佐伯さん」

そんな佐伯少将の皮肉など、気にも留めず普通に挨拶をする恭子。

因みに恭子と佐伯少将は年は同じで、物腰は柔らかそうな同じようなタイプの女性である。

恭子は軍が横島の失踪に関与しているのではないかと、面識のある佐伯少将に直接面会を求めたのだ。

 

「それで、どのようなご用件ですか?とお聞きしたいところですが、あなたが来たという事は……もう隠しとおせませんね」

 

「という事は、私がここに来た用向きはお判りという事ですね。……では、率直にお尋ねします。私どもの家人…いえ、家族である横島忠夫は何処にいるのでしょうか?」

 

「……私共も正確には答えられません。というよりも答えようがありません。経緯の説明と、まずはこの映像を確認願います」

佐伯少将はそう言って、応接セットのテーブルの上に映像を浮かび上がらせた。

 

恭子は佐伯少将の説明を聞きながら、映像を最後まで表情を変えず微動だにせず確認する。

 

「………この映像が彼であれば、もう彼はこの世には……、本来此方からお知らせすべきなのですが、此方も確認作業やら、例の案件で人手が足りない状態なのです………」

 

「機密情報を私のような一般人にお教えいただきありがとうございます」

恭子は映像確認し、その人物は横島だと認識したのだが、佐伯少将のその言葉を聞いた後で、恭子は先に頭を下げたのだ。

 

「なぜ………あなたはよく冷静でいられますね。私どもに抗議などをしないのですか?」

その恭子の対応に佐伯少将は訝し気に顔を覗く。

 

「……事情は分かりました。あなた方の行為には賛同しかねますが、あなた方に非は無いようです。………それと、何を勘違いしているのかは分かりませんが……彼がこれしきの事で倒れるはずがありません」

 

「……そう思われたいのも分かりますが………国家としても大きな痛手なのです。『救済の女神』の使い手の損耗は、まあ、それ以上に彼の行動は我々にとっては厄介極まりないですが……今回の事で、最悪の事態は防げ、考えうる事態の終息の仕方の中で、2番目に良い結果となっております。意図をせずとは思いますが、日本及びその周辺諸国における軍事的緊張は、彼の犠牲のお陰で、しばらくは均衡を保つことが出来ます」

佐伯少将が言及している日本及び周辺諸国の均衡が保たれると言う話は大亜連合の停戦宣言の事を指している。これが無ければ、大亜連合との大々的な戦争状態、さらには、新ソビエトの介入など泥沼化することも懸念されていたのだ。

 

「何度も言いますが、彼は必ずやどこかで生きております。今回の事は彼なりに考えてやった事で、犠牲などとは思っていないはずです」

恭子はそう断言する。13代目が語った思い人の彼であれば必ず生きていると……

 

「……そうですか、恭子さんが、氷室家がそれで納得していただけるならかまいません。一応、此方でも情報収集は行っております。彼の事で何か分かりましたら、そちらにお知らせします」

佐伯少将はそう言って恭子との話し合いを締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡る事、11月1日横浜事変から2日後、深雪はこの日も広い自宅で一人、達也の無事を祈りつつ帰りを待っていた。

横浜事変の後、達也はそのまま軍の命令で次々と任務に就き、それ以来顔を合わせる事も声を聴くことも出来ていなかった。

 

深雪はこの二日間で唯一会話をしたのは四葉家当主、四葉真夜が深雪の無事を確認するために連絡をした時のみだった。

 

深雪は一人考えていた。

あの日の横島の事だ。

次々と超音速の砲弾を迎撃する横島の様子に、とても人間のなせる業には見えず。ただただ圧倒的な力に恐怖していた事を思い出す。

あの力は何だったのだろうか?横島は何者なのだろうか?なぜあの時恐怖したのだろうか?普段の横島は、恐怖の対象でも何でもない。兄が気を許せる友人の一人として認識していた。

そんな思いがくるくると頭を廻るが答えは一向に出ない。

 

この場に居ない達也に早く帰ってきてほしいと祈るばかりであった。

兄の元気な姿を見て、思いっきり甘えたい、そして兄にこの答えの出ない悩みを早く聞いてもらいたいと………

 

この日も達也は帰ってこなかった。深雪は自室のベットに入り眠りに着こうとするがなかなか寝つけず、しとしとと降る雨の音が耳に入ってくる。

日本各地で起こった火山噴火の影響で日本列島は夜半から雨が降り出していた。

 

深雪は喉の渇きを覚え、キッチンに向かい、真っ暗のリビングの横を通り過ぎようとしたのだが……

「お、お兄様?……いつお帰りに?」

真っ暗なリビングのソファーに達也が前かがみ気味に手を組み、座っていたのだ。

 

深雪は慌ててリビングに明かりをつけ、達也の元に駆け付ける。

「帰られたのなら、深雪に声を掛けて下さい」

 

そこでようやく達也は深雪に気がついたように

「……深雪」

顔だけを深雪に向ける。

 

深雪は達也に近づくが、様子がおかしい。達也は全身ずぶ濡れで、雨に晒されて帰って来たの様なのだ……それだけでなく、全体的に影を落としたような雰囲気を出していた。

 

「お兄様、暖房もつけず、濡れた衣服のままでは体が冷えます」

 

「ああ」

 

そんな達也に深雪は中腰になり正面から達也の手を取ると氷の様に冷えきっていた。

「お兄様、こんなに冷たくなってどうなされたのですか?今タオルをお持ちします。お風呂も入れますので、入ってください」

 

「ああ、すまない」

 

深雪はパタパタと急ぎ足でタオルを取りに行き、達也の上着を脱がし、顔や頭を拭くが、達也は一切抵抗せず深雪のなすがままとなっていた。

 

「お兄様……その、お仕事でなにかあったのですか?」

そんな明らかに様子がおかしい達也をタオルで拭き、躊躇しながらも質問をする。

 

座ったまま、深雪に拭かれるがままになっている達也は

「……俺はどうしたら良いのか分からなくなった」

ぽつりと小声でそう言ったのだ。

 

「お兄様……お仕事おやめになっては、深雪の為にそんなお辛いお姿になるのでしたら、深雪はそのような事を望みません」

深雪は、無表情の中ではあるがこんなに辛そうにしている達也を見るのは初めてだったのだ。

 

「深雪………俺は」

達也はタオルで達也の顔を拭く深雪を見上げるが、目には力がない。

 

 

 

 

 

そして……何時もの威厳に満ちた声色は無く、苦しみを絞り出すかのように、擦れた声が漏れる。

 

 

 

「俺は…………横島を…討ってしまった………」

 




まだ、真実には至ってません。
この後、横島の喪失?(失踪)理由が徐々に語られて行く予定です。

前編はギャグないのですみません><

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。