誤字脱字報告ありがとうございます
というわけで、早々と横島喪失編(前)は今回で終わりです。
次回から横島喪失編(後)になります。
やっとギャグが出来るかも^^
横浜事変直後の10月31日、達也は日本国防陸軍第101旅団、独立魔装大隊、大黒竜也准尉として、次の任務を与えられ、日本国、北西の軍事拠点、対馬要塞で、大亜連合高麗地区の軍事拠点、鎮海軍港へのマテリアル・バーストによる破壊攻撃を実行したのだ。
鎮海軍港では、日本への攻撃を行うべく、高麗地区各地から軍艦が続々と集結しだし、明日未明にも出港すると国防軍はみていた。
国防軍は対応が遅れ、このままだと幾つかの都市は占領下におかれる可能性が高いため、幕僚本部は戦略級魔法師大黒竜也准尉による拠点直接攻撃を敢行したのだ。
達也が放ったマテリアル・バーストの威力は凄まじく、鎮海軍港は壊滅、軍港中心には大きなクレーター穿たれ、地形そのものが大きく変わってしまっていた。集結していた軍艦20隻を巻き込み消滅。完全に相手の出端をくじいたのだった。
これが後ほどメディアから灼熱のハロウィンと言われる軍事における魔法師の意義が大きく問われたれた事件でもあった。
日本政府はこれにより、停戦交渉のテーブルに着くことを望むが、大亜連合高麗地区は、対日本、新ソビエト軍事拠点済州島のミサイル発射施設群などを日本に向け発射体勢を整え、最新兵器であるレールガンのような物を地表に設置し、攻撃態勢の準備が進めていた。またその他各軍事拠点でも、軍が集結しつつあったのだ。
幕僚本部は即、済州島への戦略級魔法の行使を決断。
独立魔法大隊へ通達。
達也はその準備に入った。
破壊規模は済州島の四分の一が消滅するだろう威力を指定されていた。
しかし、済州島と鎮海軍港とは訳が違う。島自体各所に大型軍事施設を擁している大規模軍事拠点ではあるが、済州島は観光地としても栄えており、古くは日本が邪馬台国と言われていた時代には、独立した国家が存在し、その現地人そして、移民してきた人間が多数生活をしているのだ。現在では軍人も含め130万人の人々が生活しているのだ。
幕僚本部が指定してきた威力のマテリアル・バーストを放った場合。島民の殆どが死を免れないだろう。
達也は今までであれば、この攻撃の意義は日本にとって当然であると判断し、躊躇なく実行していただろう。しかし、横島と出会ってからの達也は、一般市民を大々的に巻き込むこの作戦に自分でもよく分からないシコリが心のどこかに生じていた。
そして、11月1日夕刻、独立魔装大隊は対馬要塞から、済州島軍港を中心とした戦略級魔法、マテリアル・バーストの行使に踏み切った。
達也はサード・アイを構え、衛星からの映像とリンクさせる。島全体の様相がみえ、街並みが見える。
そして、目標は軍港から海に突き出している監視台の上部監視台から屋根の役目をする鉄板の一部5㎏
「目標、サード・アイ、リンク完了」
藤林響子の声が対馬要塞作戦司令室に響く。
達也はリンク前に街並みが脳裏に一瞬映るが頭を振り、目標に集中し究極の分解魔法を発動させる。
「……マテリアル・バースト発動」
同時刻、済州島近海では、大亜連合の特殊実験部隊チョウ大佐が率いる潜水艦3隻が、済州島軍港ヘ寄港すべく、海上へ浮上を開始していた。
横浜近海から、済州島へ丁度戻っていた。その間、鎮海軍港は壊滅の情報とデータも送られており、横浜で味方タンカーが消滅した戦略級魔法と規模は違うが同じ魔法だと判断していた。
チョウ大佐は、この一連の作戦には最初から否定的であり、今回の横浜での結果からも、日本と対峙するのは時期尚早だと、判断を下している。
世界で認知されていない未知のあの戦略級魔法は、予想では沖縄の悪魔が使用した分解魔法の応用だと推測し、状況から行使した魔法師は短期間にあれ程の規模の破壊が可能な魔法を連続して放つことが出来る事になる。未だ、発動条件、最大射程、破壊規模の大小、なども詳しく分からない状況では、本土(元中国)にも放たれる可能性が十分にある。
さらに、横浜では未知の強力な魔法師を数人確認している。(実際は横島一人)そのうちの一人は、究極の防御魔法『救済の女神』の使い手である。
今回の鎮海軍港の攻撃は日本からの報復と同時に停戦交渉へのメッセージであろうが、高麗地区司令官は、日本への攻撃を強行しようとしていたのだ。
一刻も早く、日本との停戦交渉に移るべきだと、チョウ大佐は済州島に戻り、高麗地区司令官及び軍部本部に済州島から直接通話を訴え出るつもりでいた。
しかし、軍港近くまで潜水艦が進むと、突如実験計測用の計器類が異常な反応を示す。
チョウ大佐はあの戦略級魔法が済州島に行使されたことを悟り、自らの目の前の死を冷静に見つめる。
「………すべて終わった。我々の敗北だ。……故郷と共に滅びるのもまた僥倖か……」
潜水艦は衝撃波で激しく揺れ、艦内には叫び声が響く……
が、……一向に死は訪れなかった。
「静まれ、観測を続けよ!!」
チョウ大佐は激しい揺れの中、席にしがみ付きながら、指揮官室で叫ぶ。
自らの死が確定だと思っていたがこうして自分が生きている。計器類の反応からかの戦略級魔法が行使されたことは間違いない。規模が小さく、我々の艦まで届かなかったのかもしれないと考えに至り、冷静に、部下たちに観測をするように叱咤したのだ。
そして、各種計器は既は異常状態に陥り、正常に計測できなかったが、レンズによる直接望遠だけは生きていた。
そこに映し出されたものは、軍港が半壊している中、上空に直径50m程に見えるエネルギー体が周囲に衝撃波やプラズマ現象を含む破壊をまき散らし、さらに膨張せんとしていたのが確認出来たが、何かに抑えられている様にも見える。
そして、その莫大な破壊のエネルギー体の先端にそのエネルギー体を体全体で抱え込む人影が見えたのだ。
「!?……あの人影をアップにしろ!!」
そこにはアジア人の顔をした青年が必死な形相でそのエネルギー体に抵抗している様がまざまざと映し出されていた。
「!!……神は……我が故郷の神は我々を見捨ててはおられなかった!!」
チョウ大佐のルーツは済州島の古代耽羅にあった。
この状況に、神に祈らずにはいられない。
しかし、済州島の他の各軍事拠点から、無情にもそのエネルギー体と必死な形相でそれを抑える人物に対して、次々と砲撃やミサイル攻撃はたまたは、遠距離魔法攻撃などを加えられて行った。
エネルギー体が破壊をもたらしている事は他の拠点からは確認できたのだろう。しかしそこで必死にそのエネルギー体を抑えている人物が見えていない。またはその人物がこのエネルギー体を使い破壊をまき散らしていると誤認している可能性が高い。
「バカな!!直ぐにやめさせろ!!」
チョウ大佐は珍しく怒気を放ち艦内の部下に怒声を発する。
「大佐……通信出来ません」
「なんてことだ……」
チョウ大佐は見ている事しかできない自分に絶望する。
そんな無情な攻撃を受けながらも、エネルギー体を抑えていた人物は、気合と共に、エネルギー体を空高くに吹き飛ばしたのだ。
エネルギー体は成層圏付近で大きく膨らみ巨大な光を放ち膨張爆破した。
海は静寂へと戻るが、その間もその神を思わせる人物は、済州島の軍部から攻撃を受ける。
そして、遂に力尽きた様に、海に落下したのだ。
「ああ………なんてことだ!!あの方は、我々を救った救世主だぞ!!何としてもお救いしろ!!」
揺れが収まった潜水艦内でチョウ大佐の声が響く。
チョウ大佐は心を落ち着かせ冷静に考えると、あの人物は大亜連合にも認知されていない、この土地で代々受け継がれた古代魔術師ではないかと希望的な推測をする。そういう伝承などはこの済州島にはいくつも残っているからだ。
大亜連合が誇る戦略級魔法師、劉雲徳は先日の鎮海軍港の攻撃の際、巻き込まれ亡くなった。
しかし、あの戦略級魔法に対抗しうる人物がまだこの国家に存在することになる。これは国家起死回生の切り札となりえる。
そんな人物を自軍が潰してしまうなど有ってはならないのだ。
済州島軍事拠点は、軍港施設は半壊したが、その他島の各地に点在する軍事拠点(ミサイル基地)などは被害を殆ど受けず、居住地も窓ガラスが割れるなどの被害はあったものの、人的被害は殆どなかったのだ。
一方対馬要塞、作戦指令室では、マテリアル・バーストの成果を見るために、衛星からの映像を注視していた。
マテリアル・バースト発動時は映像が乱れるのだが、今回発動中でも映像が乱れながらも映し出されていたのだ。
そこには、マテリアル・バーストのエネルギー連鎖反応による膨張が止まっている様子が映し出されている。しかし止まっているだけで、エネルギーとしては拡大していた。
そして映像を近づけると、エネルギーを抑え込んでいる様に見える人影が確認できる。何者なのかは確定出来る程映像はクリアではないが……
「な!?…………しかし、いや……もしや」
独立魔装大隊、指揮官の風間玄信少佐は考えられない様な衝撃な映像の人影を見て、
あの島の四分の一を消滅させるぐらいの莫大なエネルギーを抑える事が出来る人間など存在……しない……いや、彼ならばもしや。
その様子を作戦指令室の誰もが呆然と見つめていた。
マテリアル・バーストを放った達也も例外ではない。
しかし、達也は漠然とその人物の名前を口にする。
「…………横島」
そして、マテリアル・バーストによるエネルギーは上空に吹き飛び、そこでエネルギー膨張を起こし爆破する。その間衛星の映像は映らなくなったが、直ぐに復旧して映し出された映像は、無情にも攻撃を受ける人影が、海に落ちる様であった。
作戦指令室の誰もが微動だにできず、沈黙がしばらく空間を支配するのであった。
作戦としてはかの人物の介入により失敗に終わったが、この翌日に、大亜連合から停戦宣言が出されることになる。
この様子を見ていたのは、チョウ大佐や、対馬要塞だけではなかった。
この状況を最も見てはいけない人物いや……女性……いや龍神の姫が、一部始終を見ていたのだ。
「……………………………お………お……おのれーーーーーーーーーー!!っああああああーーーーーーーーーーーーー!!」
その華奢な体つきから想像もできないぐらいの怒気を帯び、雄たけびを上げながら体全身が激しく光らせた。
小竜姫は本来の巨大な龍神の姿に変化したのだ!!
そして、建物を吹き飛ばしながら上空に飛び出る。
グオオオオオオオオオーーーーーー!!
一気に何処かへ飛び立とうとした際、
巨大な猿神が突如と現れ、その龍を殴りつけ一喝する。
「落ち着かんかーーーーーー!!」
しかし、龍と化した小竜姫は一向にひるまず、怒りのまま暴れだす。
グルルルルルルルーーーーーーーー!!
「暴走しとるか…………少々痛い目に遭ってもらうぞ小竜姫よ」
もはや、巨大生物による怪獣大戦争である。
その間、人界にも影響が出始め、日本列島の主だった山々が噴火をおこしたのだ。
1時間程戦いが繰り広げられ、ようやく、猿神、斉天大聖老師は龍を抑えつけ、無力化する。
そして、元の少女の姿に戻り気を失ったボロボロの小竜姫を手の平に乗せ、独り言のように語り掛ける。
「……あ奴は、何度も死闘を潜りぬけた英傑ぞ、あの程度で死ぬはずがあろうか…………」
横島が何故済州島に現れたのかは不明だ……マテリアル・バーストを止める前に既に霊気をかなり消耗している状態であった。
超加速を使った可能性も高い。
そして、海に落下した横島は…………
気を失い海に漂う。
海面には目を瞑ったままの顔と呼吸と共にわずかに上下する胸上部が見える。
ただ、その額には一匹の蛍が寄り添うように止まっていた………
済州島の怪奇事件とされたあの事件から数日後。
何もない海原で黄緑色に何かが発光しているのが見える。確認するために近づくと……若い男が気を失ったまま海を漂っていた。不思議な事にその男の額には蛍が止まっており、黄緑色の光は、その蛍が発していた物だった。
女性は、その若い男を軽々と持ち上げ顔を改めて確認する。
「知っている……データに・無し・外部記憶領域に・無し……彼を・知っている……エラー・検出・無し」
ついにあの方登場です。