誤字脱字報告ありがとうございます。
151話の後書きに補足話をチョロっと追加しています。
すみません。七草家編と言っておりましたが……話の流れ上此方が先になっちゃいました。
七草家のキッチンの前で髪型は異なるがそれ以外は瓜二つの双子姉妹が中の様子を訝し気にコソコソと覗いていた。真由美の妹達で、現在中学三年生、今年の四月から二人共第一高校に入学する予定である。
ボーイッシュで快活そうなショートカットの子が姉の香澄。大人しそうな雰囲気で肩より少し長めに髪を切り揃えている子が妹の泉美。
「お姉ちゃんがキッチンに入って鼻歌交じりに何か作ってる」
「香澄ちゃん、チョコみたいですね。明日バレンタインデーだから」
「あー!なんかクネクネしだした!!顔も赤くなってる!!ま、まさか特定の男に!!」
「落ち着いて香澄ちゃん。聞こえちゃいますよ」
「お姉ちゃん、ぜーったい、その男に騙されてるんだよ!!ボクたちが阻止しないと、泉美!」
「香澄ちゃん、落ち着いてください」
真由美はキッチンに入り、慣れない手つきで調理器具を扱っていたが、楽し気に鼻歌交じりにバレンタインチョコを作っていた。
香澄が言うように、時々手が止まり、何もない天井を見つめて溜息をついたり、急に両手を頬に充てて、顔を赤らめクネクネしだしたり、拳を握りふっふっふっと暗い笑顔をしだしたりと、何も知らない他人が見ると情緒不安定で病院に行くことを勧めるレベルだ。
そして、思い出したように真由美は情報端末を取り出し電話を掛ける。
「もしもし、七草真由美です」
「夜分にゴメンね。明日の夕刻、例の件で家に来てもらっていいかしら?」
「風紀委員の活動が終わってからでいいわ。学校にお迎えの車も寄せておくから……」
「ありがとう横島くん。では明日学校で……おやすみなさい」
電話の相手は横島だった。明日、対悪霊対策の協力体制の件で七草家で打ち合わせをするために連絡したようだ。
電話を終えた後、真由美は溜息をついてから、先ほどの様に情緒不安定な様相を繰り返しながら、チョコ作りを再開しだした。
明日はバレンタインデー、手作りチョコを誰かに振舞うのだろうか?
「泉美……横島っていう男を軽く半殺しだね……」
「香澄ちゃんダメですよ。そんな事をしたら」
「横島!!誰だか知らないけど、お姉ちゃんに触れてみろ!!ただじゃ置かないんだから……明日、家に来るって言ってたね。………ボクが思い知らせてやる!!」
「香澄ちゃん…………」
翌早朝、第一高校、駅からの通学路
「真由美さん、おはようございます!」
「あっ横島くん、おはよう、今日の放課後はよろしくね、それと……」
「どうしました?」
「なんで、貴方が朝から横島くんにくっ付いているのかしら?」
真由美は口元をヒクヒクさせながら言う。
「こうしていると暖かいからに決まっているでしょ、特にタ・ダ・オは」
そう言って横島の腕にしがみ付いているリーナは頬を横島の肩にくっ付ける。
日本の2月は寒い、しかもこの100年地球全体の気温が年々下がってきているため余計だ。
いや、そう言う問題ではなかった。
今も、この風景を見ている通学中の男子生徒は、怨念のこもった視線を横島にそそいでいる。
「……アンジェリーナさん、著しく風紀を乱しておりますし、他の生徒にも示しがつきません。そう言う事は、学校ではしてはいけません………もちろん学校の外でもですけど」
真由美は冷静にリーナに注意をするが、最後は誰にも聞こえない程の小声で言っていた。
「今は学校の外よ」
リーナはシレっとそんな言い訳をする。
「通学中は、学校教育の一部です!」
「リ、リーナ流石に歩きにくいから、離して」
横島はこの頃、リーナの過剰なスキンシップに困っていた。……というよりも悪意のこもった男子生徒の視線に困っていた。そろそろ何やら行動にでられ、実害が出てもおかしくない状態まで雰囲気が移行してきていたからだ。
「うん……タダオがそう言うなら仕方ないわ」
リーナはパッと腕を離すが、肩と腕が触れ合った状態である。
「はぁ~」
真由美はその様子に盛大に溜息を付く。
「横島、リーナもおはよう……あ、七草先輩おはようございます」
「横島さんとリーナさんおはようございます。七草先輩おはようございます」
「横島、おはよ………七草先輩おはようございます。……リーナもね」
そこに、幹比古、美月、エリカが合流しそれぞれ挨拶をするのだが、エリカは七草先輩とリーナを見て、ワザとらしい挨拶をする。
「よっ」
「皆、おはよう」
「おはよう、みんな」
横島も軽い挨拶をし、真由美とリーナも笑顔で挨拶を返す。
「横島、昨日あれだけ痛めつけたのに、あんた傷一つないわね。流石ね……親父や、兄貴は寝込んでいるわよ」
エリカは横島に近づき、昨日の事を小声で話す。
「当然!!女性から受けた痛みなど、ましてや摩利さんから受けた愛の鞭など、いつでも、受け入れる準備がある!!傷など一瞬で治る!!……って、あれ~~?お父上様、兄上様じゃないの?エリカお嬢様っ!」
横島は当然だと言わんばかりに、そんな変態な事を主張するが、その後ニヤっとしエリカに反撃をする。
「わっ、忘れなさい!!あれは私であって私じゃないの!!私のキャラじゃないのよ~~!!美月~~そうよね~~~~横島がいじめる~」
エリカは顔を真っ赤にして、横島に反論するが何時もの迫力が無い。美月に泣き真似をしながら胸に飛び込む。美月は苦笑するしかできない。
「うっしっしっ~~しかも~、修次兄・上・様ぁ~~~~~ん!……全然深雪ちゃんの事が言えないな~~~、はーっはっはーーー!!この重度のブラコン娘2号め!!深雪ちゃんと二人でブラコンシスターズ誕生じゃ!!」
「いーーーーーやーーーーーー!!深雪と一緒にしないで!!私は違うの、あれは違うのよ!!」
「修次・に・い・さ・まっ!!」
横島はここぞと声を大にして言う。
「深雪とは違う!!違うの!!……はぁーはぁー、……こうなったら、あんたを殺して!!私も死ぬーーー!!」
エリカは羞恥心で顔を真っ赤にして、ゆでタコの様になり錯乱していた。
「ふはははははっ、その声を聞きたかったのだ!!」
横島はエリカがつかみかかってくるのをサラリと避けて、物凄く満足そうに大声で笑う。
「朝から騒がしいな横島」
「みんな、おはよう。七草先輩おはようございます」
達也と深雪が合流し挨拶をする。
各人が司波兄妹に挨拶を帰した後、深雪が
「なにやら、私の事を話していたみたいだけど、何かしら?」
こんな事を聞いてきた。
「よくぞ聞いてくれた。喜べ深雪ちゃん!!君に同士が出来たのだ!!」
「??」
「ちょっ横島!!やーめてーーーー!!」
「実はエリカの奴、普段のは猫かぶりで………フゴフゴゴッ……ぷはっエリカ!息が出来んぞ」
エリカは横島の口を後ろから両手を回し思いっり塞ぐ……横島の鼻まで塞いで閉まっていたため、
エリカの手を強引に振りほどく。
「言わないで……」
エリカは涙で目を潤ませながら上目使いで弱弱しく言う。
ガガーーーーン!!
横島に衝撃が走る。横島はそんな姿のエリカを見たことが無かった。
(アレ?エリカってこんなに可愛かったけ?アレ?……なんだこれ?)
実際エリカは見た目は美人なのだ。学校内でも五指に入るだろう位の。
圧倒的には深雪と今はリーナがいるのだが、その2人の次には入れるだろう容姿を持っている。好みによっては快活なエリカの方に軍配が上がるだろう。
ただ、性格がアレなのと普段からつるんでいるため、横島はエリカをそんな見方で見たことが無かったのだ。
「あの、その、ごめんエリカ、調子に乗り過ぎた」
横島はそんなエリカの姿に戸惑いながら素直に謝ったのだ。
「グスッ、」
エリカは涙ぐみながら深雪に寄り掛かる。
「横島さん、エリカを泣かせるなんて、何をやらかしたんですか?」
「いや~、その、なに?、う~、すみませんでした!」
話しの流れが理解できていない深雪にそう言われたのだが、横島は頭を下げるしかなかった。
エリカはそんな横島をチラッと見て、深雪の胸で泣きながら、美月に向かって舌をペロッと出す。
何処まで本当に泣いているのか、それとも最初から泣きまねなのか分からない。女の涙ほど怖いものは無い。
達也はそんな、横島とエリカ、深雪のやり取りを見て、何となく理解したのだろう。深く溜息を付く。
リーナは面白くなさそうに少し口を尖らせ、真由美はそんな光景を苦笑しながら見ていた。
校門前に近づくと、ほのかが此方に手を振って、近づいてくる。
「おはよう。みんな。七草先輩おはようございます」
それぞれがほのかに挨拶を返す。
「横島さんハイ、これバレンタインチョコです」
綺麗に包装された小さな箱を横島に渡す。
「え?……バレンタイン?……今日か……しかも俺に?いいの?」
「いいんですよ。横島さんにはいつも助けてもらってますから!」
ほのかはニコッと微笑みそう言った。
「うおおおおおおお!!まともなバレンタインチョコを初ゲット―――――――!!ありがとう、ほのかちゃん!!」
横島は大げさにめちゃくちゃ喜び、ほのかの両手を取る。
「あの、横島さん、喜んでもらってアレですけど、一応義理チョコですよ?」
ほのかは、横島の喜び様に戸惑う。
「義理でも何でも嬉しい!!悲惨な思い出しかなかったから、ううううっ!」
そう、横島は過去、バレンタインには悲惨な目にしか合っていない。常人だと軽くトラウマになる様な……
ほのかはその後に、幹比古にも渡すが……小箱の大きさが、横島のに比べると半分くらいだ。
「ありがとう、光井さん」
それでも幹比古は素直にお礼を言う。
そして……
「た、達也さん、これ、受け取ってください」
緊張した面持ちで達也にチョコの入った箱を渡す。
「ああ、ありがとう。ほのか」
達也そう言って受け取った箱は、軽く横島に渡したものの倍の大きさがある。
「それ、手作りなんです」
ほのかは顔を赤らめて言う。
「………ほのか?それはどういう意味かしら?」
それに反応したのは、達也ではなく、深雪だった。
「どうって、達也さんには、九校戦のCADの調整から、いろいろとお世話になっているからよ……深雪、なにかおかしい事でも?」
「いや……ほのか、その箱の大きさが…手作りって……その、深雪の前で堂々とよく平気ね」
エリカはほのかの行動に流石にビビっていた。
「ウフフフフフッ、そう、ほのか、そういう事なのね」
深雪の笑顔が怖い。
「深雪程でも、ウフフフフフッ」
そう言ってほのかは深雪に微笑み返す。
どうやら、ほのかは前から達也の事が気になっていたのだが、好きな相手だと認識し始めた様だ。
横島はどちらかと言うと兄枠、幹比古はもちろん友人枠
「美月、アレはどういう事?なんでバレンタインにチョコを渡すの?」
リーナはほのかの行動と深雪の嫉妬の理由が分からなかった。USNAではバレンタインに女性から好きな男性にチョコを渡す習慣がないからだ。
「リーナ、日本ではバレンタインデーに、女性から好きな男性へとチョコを渡して愛の告白とかもする日なの、一般的に手作りを渡すと喜ばれます。習慣的に、お世話になっている男性へも、義理でチョコを渡したりするのだけど……」
美月はリーナに丁寧に説明をする。
「そ…そんな!」
リーナは嬉しそうにほのかのチョコを手に持っている横島を見て、ショックを受ける。
「ほのかさんのはたぶん、横島さんへは義理チョコだと思う。ちょっと大きめですけど」
美月はショックを受けているリーナに追加説明をする。
「こうしては居られないわ。タダオ!用事が出来たわ!!お昼休みには食堂に居てね!!」
リーナはそう言って、駅の方へダッシュして行ってしまった。
「おーい、リーナ学校は?……行っちゃった……」
ほのかと深雪がニコニコ?と向かい合っている中。
「まあいいわ後で渡そうと思ってたけど、あんた達、はい」
エリカは横島と幹比古、達也にチョコが入っている同じ包装の小箱を渡す。
「エリカありがとう」
「ありがとう」
「まじ!!エリカ!!俺にもくれるの?エリカ……いい奴だ~~、さっきはごめんよ~」
幹比古、達也、お礼を言うが、横島は涙目でエリカに感謝している様だ。
「勘違いしないでよね。義理だからね。特に横島!!あんたはついで!」
エリカは顔を赤らめながらツンとそう言った。
美月も、ゴソゴソと取り出し、ここに居る男3人に綺麗にラッピングしているチョコクッキーの包みを渡す。
「いつも、お世話になってます」
どうやら手作りクッキ―の様だ。
「ありがとう美月」
「美月ちゃんまで~~ありがとう。この横島!!バレンタインデーを作った奴を恨んでいたが、たった今、歓迎すべき日に変わった!!」
「柴田さんが僕にも……嬉しいよ!ありがとう!」
達也は淡々としていたが、横島はテンションが上がりっぱなしだ。幹比古は人一倍嬉しそうに、そのクッキーを見ていた。
深雪も一通り、ほのかと静かにニコニコ?と視線をかわしてから、横島と幹比古にチョコを渡す。
「吉田君も横島さんもありがとうございます。お兄様と今後も仲良くしてください」
「ありがとう、司波さん」
「ぐすん、ありがとう深雪ちゃん」
幹比古と横島は礼を言う。
「あと、これは西城さんに渡してくださいね」
そう言って、深雪は横島にこの場に居ないレオに渡すべきチョコを託す。
「横島さん、私の分もいい?」
そう言って、ほのかも横島にレオの分のチョコを託す。
「この横島!!必ずや、レオにチョコを渡す役目を果たしましょうぞ!!」
横島はテンションが上がったまま返事をする。
こうして、校門に入ってから、横島一行は、真由美と、そして、深雪とほのかと別れ、E組に向かう。
別れ際、真由美は何故かそわそわしていた。
リーナはどっかに行ったままだ。
しかし、E組の教室の前まで到着したテンション高めの横島を先頭にエリカ、美月、達也、幹比古が見たものは……
教室の扉から廊下にかけて人の列が並んでいる光景だった。
しかも全員女生徒……
バレンタインデー
次はその2です。