誤字脱字報告ありがとうございます。
前回の続きです。
七草家敷地内にある訓練施設の第一訓練室はバスケコートが2面作れる学校の体育館程の広さがあるが、様相は体育館とはかなり異なり、全面コンクリートで覆われ、窓も無いため圧迫した雰囲気を醸し出していた。
七草弘一及び息子二人と真由美、横島は第一訓練室を一望できる高さに併設されている訓練管理室に入る。ここでは適切な訓練メニューの策定や訓練の指示、CADのテストなども行われる。
すでに第一訓練所室内には、吸血鬼事件にかかわった七草家お抱えの魔法師と十文字家の魔法師が全員集結していた。
七草家は60人弱、十文字家は12人、大凡男女合わせ70人が、5~6人ごとの塊を形成し、集まっていた。
弘一は、今回の件は悪霊対策の新たな方策と連絡事項及び慰労の意を示すためにと言う名目で集合を掛けたのだ。
開始時間はまだだが、既に全員集まっており、意外とリラックスした雰囲気で各人情報端末をいじっていたり、隣と会話をしていたりしていた。
「あちゃーー、結構、悪霊に憑かれてますね。さっきの霊視ゴーグルで見て下さい」
横島は管理室からガラス窓越しに、訓練室を見下ろしながら言う。
「……やはりそうなのか……こちらの動きが完全に読まれている節があったからな……吸血鬼(悪霊)に対し裏切り者がいるとも思えなかったのだが……体を乗っ取られるという現象があるとは」
弘一は、霊視ゴーグルを付けながら言う。
「あっ、石田さんから、黒い影がクッキリと映っているわ……石田さんのチーム全員からも、黒い影が……」
真由美は霊視ゴーグル越しに、悪霊に取り憑かれた人物を判別出来た様だ。
「石田君か……最初期から吸血鬼事件にかかわっていた人間だ魔法力も高く、今も対策チームのナンバー2の実力者だったのだが……」
弘一は、そう言って、石田と呼ばれた30代中盤の精悍な顔つきの男性を一瞥してから、霊視ゴーグルを外し、隣の智一に渡した。
「全員で9名ですね」
横島は真由美のすぐ横に来て、その人物たちを次々に指で指し示していく。
「本当に凄いわね、この霊視ゴーグル。悪霊が取り憑かれた人物にチェックが入るようになっているわ……あっ」
真由美は感心した様にすぐ横の横島に顔を向け話しかけるが、ゴーグル越しとは言え、横島の顔を直ぐ近くにある事に気が付き、慌てて顔を赤らめ逸らす。
「9名か、ここまで悪霊に差し込まれていたとは………横島くん、石田君からは明らかに、他の取り憑かれた人間に比べ、強い反応が出ていたのだが、これは悪霊に長時間憑かれたためなのかい?」
「いえ、一概にはそう言えないんですが、とりあえず石田さんに憑いた悪霊は力をかなり蓄えだしている。この前のミアさん以上にね」
「そうなの……横島くん。彼は大丈夫なの?」
「そこが陰陽師の見せどころですよ。まあ、悪魔化をされる前に、抑えれば本人の体には大したダメージは残りませんよ。それでも霊的構造は改変されている可能性があるため、ちゃんと心霊医療を施さなければならないですがね」
「この後の段取りをどうするかね。悪霊に取り憑かれた彼らだけ、別室に移動させると怪しまれる」
弘一は、横島に聞く。
「そうですね。この場でやりましょう。他の各種霊具の説明も兼ねれるんで、俺が一人で今から突入して、彼らだけ抑えます」
「なにを……他の魔法師もいるのだぞ、仲間がやられたと勘違いされて攻撃されるぞ」
考次郎は至極まともな注意を横島にする。
「……いや~、だからちょうどいいかな~って、悪霊が取り憑かれたら、こうなるぞって、他の人にも分かるし……こんな場面で戦う事はざらですよ。下手をすると、沢山人間がいる街中でやらないといけない事も悪霊の性質によっても、あるんですよ」
「いや、そうじゃなくて、考次郎は君の心配をしているんだよ。七草家の魔法師は皆、実力者ぞろいなんだ。君にケガでもされたら……」
智一は考次郎の言葉を補足するように横島を諫めようとした。
「大丈夫ですよ。5秒も掛かんないんで……」
「5秒だと!そんな短時間で何が出来る!」
考次郎は横島に食ってかかるが……
「本当は5秒も掛かんないんです……気が付かれない様に偽装して近づいて、だまし討ちするのが俺のやり方なんですが、それじゃ皆さんに霊具の使い方を見てもらえないんで……ちょっとした戦闘を5秒間だけする感じです」
本来の横島の戦い方であれば、ギャグを飛ばしながら近づいて、油断しているところを、不意打ちをかますのだろうが……今回はギャグやだまし討ち無しで捕縛する様だ。
「考次郎、私が全責任を持つ、横島くんお願いしていいかい?」
「じゃあ、この部屋にある窓から突入しますね。使うのは破魔札と破魔札ショットガン、それとこの結界ロープ兼呪縛ロープです。最終的に封印札と吸引札言うものを使いますんで、見ていてください」
「横島くん……」
真由美はそう言った横島が一瞬真剣な表情をし凛々しい顔つきになっていた事を見逃さなかった。
そして……
横島は腰に呪縛ロープ、右手に破魔札ショットガン、左手には破魔札を複数手に持ち、第一練習所室の高さ4m半程ある管理室の窓から弾丸の様に飛び出し、後方にいる石田氏がいる場所まで一気に飛ぶ。その間、ショットガンを一発を前方の女性に放つと同時に石田氏の集団に向かって破魔札を飛ばしていた。
石田氏も含め魔法師達の幾人かはそれに反応し、横島を確認しようとしたが、既に横島は石田氏の前に着地する。
石田氏や石田氏のチームメンバー全員に飛ばしていた破魔札が既に額に張られ、痙攣しだしており、横島はそこに封印札を石田氏には二枚他のメンバーに一枚ずつ流れるような動きで額や腹に触れる様に張って行くと、次々に痙攣が止まり床に倒れていく。
ショットガンで破魔札を複数頭から張り付けられた女性は床に倒れ痙攣し動けなくなっていた。
この間、突入から約一秒半、六人を拘束。
魔法師たちは横島の動きが見えずに、何が起こったのかがまだ分からない様だ。
横島はちょっと離れた場所にいた男性をショットガンを撃ち複数の破魔札が飛び出し彼に張り付き拘束する。
これで七人目
漸く、魔法師たちは横島を確認できたため、攻撃態勢を取り出したが、これだけの人数が一同に居る場所に容易に魔法を放つことは出来ない。横島は横島で棒立ちになり、半笑いをしながら両手を上に上げ降参の意を示す。
それと同時に、この練習所室の二カ所の扉付近で、それぞれ叫び声が聞こえた。
それぞれの出入り口扉を触れながら痙攣する男性と女性がそこに居たのだ。
そして、何処からか飛んで来た封印と書かれた封印札が、その2人の額に貼りつき、その場に倒れ大人しくなる。
この二人は、仲間が倒されたことに気が付き、それぞれ扉から脱出を図ろうとしたのだが、横島が既に、石田氏の真正面床に着地したと同時に呪縛ロープを操り、蛇の様に地面を這い、人をかき分け、両扉に巻き付かせていたのだ。
これで9人全員倒す。
大凡5秒弱で全員無力化したのだ。
「その少年は敵ではない!既に、我々の中に、吸血鬼に取りつかれた者がいた!彼はその人間を拘束したに過ぎない!彼は協力者だ!氷室家の人間だ!」
弘一は、管理室から横島が出て行った窓から体を乗り出し、大声で戦闘態勢や何が起こっているのかいまだにわからず混乱する魔法師たちに叫ぶ。
魔法師たちは、その声に戸惑いながらも、横島と弘一を何度見ながら、戦闘態勢を解除し、驚きの声やら感嘆の声を上げていた。
氷室家の名前は古式魔法の旧家として知れ渡っているだけに効果が高かったようだ。
横島はその場でペコペコと頭を掻きながら、軽い口調で
「お騒がせしてすみません~」
などと言いながら、ショットガンで倒した二人に改めて封印札を張って行く。
内心横島は、弘一の口から氷室家の名前を出したことに苦笑する。今の横島はドクター・カオスの後ろ盾で動いている事になっている。氷室家に迷惑を掛けないためにもそうしたのだ。
弘一は確かに、この場の魔法師達を落ち着かせるためにも氷室家の名前を出したのだろうが、七草家と氷室家の関係をにおわす様にワザとアピールするためにそう言っていたのだ。そうすることで、氷室家との関係を外堀から埋めて行こうと言う算段があるのだろう。
「横島くん、拘束した彼らをどうしたらいいか?」
「取り合えず、悪霊を分離しちゃうんで、離れて下さい」
横島はそう言って、倒れている悪霊に取りつかれていた人たちをテキパキと、一か所に運んでいた。
その間、魔法師たちは遠目で横島の様子を見ていた。
横島は懐から9枚の吸引札を取り出し扇状に開き持ち、彼らに向かってかかげる。
「悪霊退散、吸引」
横島が唱えると、空気の流れと共に、彼らに取り憑いた悪霊は身体を飛び出しそれぞれの札に吸い込まれて行く。
「あ~、終わったんで、もう大丈夫です。皆さんを医務室か寝かせられるところに運んで上げて下さい」
「皆、彼の言うとおりにしてくれ」
周りの魔法師達は、何が起こったのか分からない様子ではあったが、弘一がそう言うと、訓練所室から彼らを運び出していく。
管理室では……
悪霊が自分たちの家人である魔法師に取り憑いていた事実より、横島の戦闘能力の高さに驚いていた。
「なるほど、これらの霊具とやらが、悪霊に有効だという事は十分に分かった。これなら俺達でも何とか使えそうだ。……しかし、なんなのだ?あの少年、魔法など起動していなかった。なのにあのスピードに身体能力……彼は人間か?」
考次郎は横島の一連の動きに唖然としていた。
「やはり、報告にあったルゥ・ガンフゥを魔法無しに倒したというのは事実のようだ。氷室家とは恐ろしいところのようだね」
智一も訓練室の魔法師達に愛想笑いをしている横島を見ながら、苦笑していた。
「そう言う事だ。彼は本物だ。七草家としても、彼とは常に友好関係を結んでおきたいのだ。他の連中に出抜かれる前にな。二人共わかったな」
弘一は二人の息子に言い聞させる様に言う。
「………」
真由美はその様子に顔を顰めていた。
真由美としては、弘一の発言は七草家としては、至極まともな意見だと思うのだが、個人的な感情では横島を利用し、裏切っているのではないかと胸に何かが突き刺さる様な気持ちになっていた。
こうして、今夜、七草家での主な重要案件は終了した。
その頃、横島の一人住まいのマンションでは……
マリアは、リーナを連れ近所のスーパーで買い物をしてから、横島の部屋に入るのだが……
持ってきた荷物を置くと、いきなり掃除をしだした。
部屋はそれ程、散らかっていないのだが……30分も経たないうちに、見違えるほどきれいになった。
そして、台所に立ち、何やら料理の仕込みを始めたのだ。
リーナはその間、キョロキョロとしながらソファーに黙って座っていた。
マリアに動かない様に釘を刺されていた。
料理の仕込みをひと段落つけたマリアは紅茶を入れ、ソファーに座っているリーナに出す。
「そう言えば、こうしてマリアと二人きりで話すのは初めてかもしれない……マリアはタダオと昔からの知り合いなのよね」
リーナは紅茶をすすりながら、斜め横に座るマリアに話しかける。
「イエス・横島さんとは・昔馴染みです」
「マリア、さっき学校で、タダオが、心が疲れているって言っていたけど、どういうことなの?」
「………」
「その、女の人の好意を怖がっているって……どういう事?タダオに何があったの?」
「ミス・アンジェリーナ・横島さん・今は・休養が必要です」
「それは聞いたわ。過去に何があったの?記憶喪失のタダオはそんな事は微塵も感じさせない………あっ、タダオ……力をつかおうとすると苦しみ出した!それと関係があるの?」
「……それは……」
マリアは無表情ではあったが、何か躊躇するような口ぶりであった。
アニメGS美神の美神令子役、先日お亡くなりになられた鶴ひろみさんに心からご冥福お祈りいたします。
横島とのあのかなり間が長い掛け合いが二度と聞けないのかな~って思うと残念です。
さて、次はそのあれですね。マンションであーなっちゃう話しですね。
横島くんどうなる?