横島MAX(よこしまっくす)な魔法科生   作:ローファイト

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感想ありがとうございます。
明日にはお返事させて頂きたいと思います。
誤字脱字報告ありがとうございます。

明日、明後日も更新できそうです。


なぜか今回、ほぼ、達也編です。



161話 横島 達也の心労を知らない!!

達也は深雪と共に自宅に帰った後、自室のデスクに例の漆黒の箱を置き、それを一人深刻そうな顔をし眺めていた。

 

(……今日中にこの箱を奴に直接渡すのが俺の与えられたミッションだ。かつてこれ程まで、困難かつ、精神的に追い込まれた事は有っただろうか?ある意味、吸血鬼事件やリーナ達スターズよりも手強い。

奴の自宅も既に把握済みだ。ここから、どのルートを通ってもそれほど時間はかかるまい。奴の自宅に直接持って行って渡すだけだ。

しかし奴は今、七草家で吸血鬼、いや今は悪霊か……悪霊対策の協力体制について七草家当主と打ち合わせをしているはずだ。時間もかかる事だろう。俺の予想では、奴が自宅に帰るのは22時以降だろう。下手をすると、日付が変わった後かも知れん…………しかし、これをどう言って渡したものか……)

 

達也は珍しく、有効な作戦を考え出すことが出来なかった。

この件に関して、達也が経験したどの事件や作戦にもまるっきり当てはまらないからだ。

 

漆黒の箱をターゲットに受け渡すだけ、この箱を狙う敵もターゲットを狙う敵もいない。障害となるものは何もないはずだ。ただ単にその箱を自宅に持って行き直接渡すだけ……一見、素人でも簡単にこなせそうな作戦なのだが………

 

漆黒の箱の中身と依頼者とターゲットその人がやばいのだ。

 

箱の中身は核兵器でも生物兵器などと言う危険な兵器ではない。かと言って、レリックなどと言う国家間の争いの種になるぐらい極めて貴重なものでもない。

中身はただの手作りのバレンタインチョコケーキだ。

因みに毒などは入っていない……ハズ。

 

では何がやばいのか?

 

チョコケーキの上の板状チョコに書かれているメッセージがやばいのだ。

 

達也はもう一度、その漆黒の箱を上に持ち上げ開け、中身を確認する。

 

ハート型の大きなチョコケーキ。

上に乗っている板チョコに書かれたメッセージは……

 

 おねえさんから

    ステキなあなたに愛をこめて

              四葉真夜

 

達也は大きく溜息を付く……何度見ても中身は同じであった。いっそ夢であってほしいと願っていたのだが。しかし、現実とは厳しいものだ。

 

十師族の中で今一番力を持っており、アンタッチャブルと世界でも危険視されている四葉家。その当主、四葉真夜。達也の他界した母の双子の妹だ。ようするに叔母である。その真夜が特定の男のために自らの手で作った手作りバレンタインチョコケーキなのだ。

本人からも乙女のような言質も取っている。まず間違いない。

 

これだけでも、いろいろと十分悩ましい問題なのだが、渡す相手がさらに悪い。

 

渡す相手……ターゲットの名は横島忠夫

 

数少ない友人の中で、最も頼りになり、信頼もしている。達也にとって親友と言ってもいいだろう存在だ。

戦闘力は非常に高く、達也が見てきた中では間違いなく最強であろう。

仲間思いであり、達也が唯一、深雪の命を預けておいても安心が出来る相手でもある。

 

ただ、性格に問題があるのだ。

非常にスケベで美人であれば誰でも手を出すという欠点を持っている。但し成功確率は限りなくゼロなのだが……しかも、自分に向けられる好意にはかなり鈍感と言った困りものでもある。

 

もし、自分の叔母、四葉家当主四葉真夜のバレンタインチョコケーキを横島が受け取り、その気持ちまで受け取ったならば………想像したくない結末がまっているのだ。

 

真夜がいくら美人とは言え45歳だ。横島は現在16歳。普通であれば、まず結ばれることはほぼ不可能であろうことは誰の目にも明らかなのだが……

真夜は欲しいものがあれば、どんな手段を用いても……人道に外れようとも涼しい顔をし、必ず手に入れる恐ろしい女なのだ。

さらに相手があの横島だ……スケベが服を着たような男なのだ。年が離れていようとも真夜の色香と誘惑に惑わされ、万が一という事も有り得る。

 

万が一とは、横島が叔父になるという事だ……そう言う事なのだ。

 

達也は思い悩む。

 

しかし、当主直々のお達しでもあるため、このミッションの放棄などあり得ない。

 

…………

 

「お兄様、夕飯の支度が出来ました」

達也の部屋にノックの音と共に深雪の声が聞こえてくる。

 

「ふぅ……今行く」

達也は深雪の声にホッと息を吐き、我に返る思いがした。

悩んでいても始まらない事だと思い直し、とりあえずは最愛の妹が用意した夕食をとる事にする。

 

 

「さぁ、お兄様、召し上がれ」

深雪は夕食が用意されたダイニングテーブルの何時もの様に席に着く達也に満面の笑みを向ける。

 

「……………」

深雪が食事を用意し、達也と深雪は向かい合って座り、二人きりの食事……何時もの食卓風景ではあったのだが……何かが違う。

 

「では、頂きます。お兄様?どうされました?料理をじっと見つめられて……」

 

「……深雪…今日は俺と深雪は別メニューなのだな」

 

「はい、今日はお兄様のために特別にフルコースを用意させていただきました」

深雪は満面の笑みを崩さない。

 

「……いや、豪華だな……ただ……」

 

「ただ?」

 

「その、全て……甘い匂いがするのだが……」

達也の額に一筋の汗が流れる。

 

「はい、深雪が腕によりをかけ、たっぷり愛情を上書きしたチョコのフルコースです。あんなにもチョコを持って帰られたので………全く食べないのも申し訳なく思うと同時に、不逞の輩が毒を混ぜていないとも限りませんでしたので、安全を確認した上で、お兄様のお口に合う様に不純物(他の女の思い)を取り除き、深雪の愛で包み込みました。さあ、召し上がれ」

そう言って、ニッコリとほほ笑む深雪。

そう、達也の席にはチョコで出来た料理が所狭しと並べられていた。

チョコのフライや、焼きチョコ、チョコスープ、チョコケーキ、チョコ刺身風、チョコサラダ風、等々……

これらは全部、達也が第一高校で受け取ったバレンタインチョコの成れの果てだった。

深雪は目をギラつかせながら凶悪な笑みを浮かべ、少女たちの達也への思いがこもったバレンタインチョコを粉々に粉砕していき、そして、ドロドロに溶かし、かき混ぜ、元の形や食感や風味など一切残らない様にし、全くの別ものに調理されて行ったのだ。

 

「……夕食に流石にチョコ一色というのは……」

 

「なにか、問題でもあるのでしょうか?……それとも、深雪の愛情がこもった料理よりも、見ず知らずの女から頂いたチョコの方が良いのでしょうか?」

 

「……いや、何でもない。……では頂こう……」

もはや達也に、心安らぐ癒しの空間などと言うものはどこにも存在しなかった。

 

達也は恐怖にしか見えない笑顔を湛え続ける深雪の前では、この愛情……いや、強烈な嫉妬が籠ったチョコフルコースを残すことが出来ない……無理にも口に入れ、完食するしかなかった。

 

地獄のような夕食を済ませ、胃のあたりを抑えながら自室に戻る達也……

 

達也はバレンタインデーを作った人間を今日ほど恨めしく思ったことがない。

せめてもの救いは、後で分かったことだが、チョコフルコースにほのかのチョコが入っていなかった事だけだった。

深雪の理性は辛うじて残っていたらしい。

 

激しい胸やけに、甘ったるい感覚が体から抜けず、しばらくベットに横になる。

精神的ダメージと肉体的ダメージを蓄積していく達也。

 

しかし、達也にはまだ、今日やらなければならない事が残っている。

 

達也は時計を確認してから、重い腰を上げ、服を着替え、漆黒の箱を携えて家を出る。

 

いざ、横島忠夫宅へ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリアは答えに窮していた。

 

横島の過去について、リーナは真剣な眼差しで聞いてきたのだ。

 

あの時、横島の現在の精神状態についてリーナを諭すために要点だけをかいつまんで話をした。

横島は今、本当は精神的かなり消耗しており癒しが必要である事を……そして、女性の好意に恐怖感を抱いている事を……

 

横島は過去に大切な女性を失う苦しみを二度経験し、しかもすべて自分の責任だと未だに思っている。横島のそんな精神性と心のダメージをマリアはほぼ正確に把握していた。

 

マリアは周りに一人でも多く本当の意味で横島を理解をしてくれる人間がいてくれることを切に願い、リーナであれば、その一人になってくれるのではないかという期待もしていたのだ。

 

何れは横島自身トラウマと向き合い克服しなければならないが、一人では難しい。

この状態の横島の事を知ったうえで、接してくれる人間が周りに多く居れば、横島の心の負荷が軽減され徐々にでも、和らいで行くのではないかと考えていた。

 

マリアはそして意を決し、リーナに現在の横島の状況と原因を告げるべきだと……口を開けようとする。

 

「ミス・アンジェリーナ……横島さんは……」

 

 

 

ピンポーン

このタイミングで部屋のチャイムがなる。誰かが訪ねてきたらしい。

 

 

マリアはリーナに頷いて見せた後、玄関に向かおうとする。

リーナは肩透かしを食らった様に、ため息を付いたのだが、横島が帰って来たのだと思い、勢いよくソファーから立とうとしたのだが、マリアに制され、そのまま座っているように言われる。

 

マリアは既にこの横島の部屋を完全掌握している。チャイムを鳴らした人物をインターホンカメラを通して、確認済みであった。

横島が帰ってきたわけではなかった。来訪者は黒ずくめの服をきた若い男であった。

しかし、敵ではない。横島の学校での近しい友人の一人であると把握していた。すでにある程度のプロフィールも検索済みだ。

 

 

「こんばんは・横島さん・今は留守です」

マリアは扉をガチャリと開け、その人物を見据え対応する。

 

「!!………!?……そ、そうですか…」

その人物、司波達也は目を大きく見開きマリアを見つめ、言葉に詰まっている様だった。

達也は、横島が出てくるものだとばかり思っていたのだが、落ち着いた雰囲気の美女が扉から現れたのに驚いたのだが……それだけではない。その人物をよく見ると、あの世界を席巻するドクター・カオスの相棒にして、本人自身も世界最強の一角を担う魔法師である魔女マリアだったからだ。

横島から友人だとは聞いていたが、まさか本人が横島の家にいるとは思いもしなかった。

 

「私はマリア・横島さんのお友達」

驚いた様子の達也を見て、マリアは安心させるためにも自己紹介をする。

 

「……失礼しました。横島くんの学友で司波達也です。届け物を預かっておりまして、本人に直接渡さなければならなかったのですが……まだ、帰っていないようですね。……しばらくしたらまた訪ねます」

冷静に考えれば今日、第一高校で横島とリーナはマリアと会っていたと言っていたため、ここに居てもおかしくはない。

居住まいを但し、達也は若干丁寧な言葉遣いで、自己紹介と訪問した趣旨をマリアに伝える。

 

 

「ミスタ―・司波、上がって・待ってください。横島さん・いつ帰って・くるかも・わかりません」

 

「いえ………女性一人の所に上がるわけには」

 

「おかまいなく・横島さんの友人を・外で待たせるわけには・行きません。一人でもありません」

 

「……では、お言葉に甘えさせていただきます」

達也は断ろうとしたのだが、一人ではないと聞き、もしかするとドクター・カオスもいるのかもしれないと思い、期待を膨らましながら、横島の部屋に入る。

 

「マリア、タダオじゃないの?誰だったの?………な!達也!!」

 

「リーナか……なぜここに?」

達也はリーナを見て若干残念そうな顔をする。やはりドクター・カオスに会いたかったようだ。

 

「こっちが聞きたいわよ!」

リーナはまさか、訪問者が達也だとは思いもよらなかった。しかも、リーナと戦った時と同じ服装でだ。とっさに立ち上がりCADを構えるが、マリアに止められる。

 

「ミスター司波も・横島さんの・お友達」

 

「……達也はなんで、こんな時間にタダオの家に来たの?」

リーナはしぶしぶ構えを解き、再びソファーに座る。

 

「俺は横島に届け物だ。本人に直接渡したくてな……リーナもなぜここに?」

達也はマリアにソファーに座るように促されリーナの斜め前に座る。

 

「私はタダオのガールフレンドだから、ここに居るのが当然よ。それで届け物って何なのかしら?」

 

「……とある人物から横島に渡す様に頼まれてな、どうやらバレンタインのチョコらしい」

達也はある程度の情報を出し、怪しまれない様にする。

 

「私がタダオに渡しておいてあげるわ。だから、もう帰ったら」

 

「そう言うわけにもいかない。直接渡す様に強く言われている」

 

「……怪しいわね。タダオに危害を与えるのならば容赦しないわよ」

 

「ミス・アンジェリーナ・大丈夫です。袋の中身は・ハート形の・チョコケーキの様です。女性の名前も・書かれております。毒物や危険物では・ありません」

マリアはそう言って、達也に紅茶を差し出し、リーナにも紅茶を入れなおす。そして、リーナとの間に入るように達也の横に座る。

どうやら、マリアは達也が持っていた箱の中身を搭載された各種センサーでスキャンしたようだ。

 

達也は一瞬驚いた顔ををするが、あの魔女マリアであれば、箱の中身を開けずにみる事は造作も無いのかも知らないと思うと同時に、名前を出さなかった事にホッとする。

マリアには完全にバレたが、敵対する意思は無い様だ。送り主の四葉の名前を知りながらも、リーナや達也に配慮し名前を出さなかった様に見える。

もし、敵対したとしても、達也がマリアをどうすることも出来ないのだが……仮に戦っても勝てる見込みが薄いからだ。噂通りのスペックであれば、接近戦においても、魔法戦においても返り討ちにされるのが落ちだ。さらに横島と親交が厚い人物でもあるため、もしそうであっても戦闘は起こせなかっただろう。

 

「達也がここまでして持って来るチョコ……まさか深雪なの?いや有り得ない。あのブラコン冷血娘に限っては……じゃあ誰よ?」

リーナは達也にさらに突っ込んで聞いてくる。深雪に対しては容赦ない言いようだ。

 

「……本人の意思でな、他人には言えん」

 

「何よそれ?別にいいじゃない教えてくれたって」

 

「ミス・アンジェリーナ。慎みを持つのも・大切です」

マリアはリーナを諫める。

 

「………」

マリアにそう言われて、リーナは憮然としていたが、追及をやめ口を噤む。

 

達也は自分にフォローしてくれているマリアを横目でチラリと見、マリアに入れてもらった紅茶を一口飲む。

「!?これは美味しい……」

達也はそのカップの紅茶を再度口にし飲み干す。何故だか疲れが取れる思いがする。

 

「ミスター・司波は、お疲れのようなので・精神を安定させる・ハーブを幾つか・ブレンドしました」

 

「マリアさん、何故それを……ありがとうございます」

達也は素直に礼を言う。

何故だか、精神的に疲れていた達也の心が温まっていく思いがしたのであった。

この頃の達也の周りの近しい女性は、達也の悩みの種であり、ストレス源で有り、このように達也の為に気を使ってもらえたのは久しいのかもしれない。

しかも、マリアは達也の周りには居ないタイプの女性だ。

言葉数は少なく、表情はほぼ変わらないが、温かみのある言葉に、相手を正しい方向に諫める度量もある。そしてこの気遣いだ。

世界最強の魔法師やら、魔女やら、物騒なあだ名が付けられているが、実際会った印象は180度違うものだった。雫が優しいお姉さんと評したのも納得が行く。

 

「この部屋は暖かいです・チョコケーキが・溶けると・いけない・冷蔵庫に・入れておきます」

 

「ありがとうございます。助かります」

達也はマリアの心遣いを素直に受け入れ、チョコケーキの箱を袋から出し、マリアに手渡す。

 

「………達也、私とマリアとでは態度が全然違うんだけど……ケーキは冷蔵庫に入れたし、達也は帰ってもいいんじゃない?」

マリアがチョコケーキの箱を冷蔵庫に入れに行っている間、リーナは達也に憮然としながら、帰るように促す。

リーナは達也の来訪によって邪魔をされていたマリアとの会話の続きを早くしたいのだ。横島が帰ってくる前に………

 

「いや、直接横島の手に渡るまで見届ける義務がある」

達也としては、横島の手でそのチョコ箱がリーナの前で開けられる事も避けたいため、リーナが帰るまで、ここにいる事を決めていた。

 

台所から戻ったマリアは再び達也に紅茶を入れなおし、横に座る。

達也は横目で無表情なマリアを見ながら、紅茶を口にする。

やはり、心が温まる思いがする。

今の達也にとって、家に帰り、深雪の嫉妬の嵐の中に身を置くよりも、リーナと言う邪魔者がいるがマリアの横にいる方が癒しになろう。




リーナと達也だけでは修羅場にはなりませんでしたね。

アレ?なんか違う?アレ?こんなはずでは?
まさかのフラグ?

次は横島くんが帰ってくるの巻き。
一緒に……あの人も

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