誤字脱字報告ありがとうございます。
とうとうベリアルの最後です。
横島はベリアルの目玉しかない頭を指でつまみ上げる。
「さあ、ベリアル、お仕置きの時間だ!」
「ヒィーー!」
「おーい、お前ら~。こいつどうしようか?」
横島は凶悪な顔つきになり、ベリアルを見据えながら、皆に聞く。
しかし、皆は声も上げずに、首を横に振るばかりだ。
どうやら、横島の顔つきが相当やばい事になっているようだ。
「ふっふっふーーじゃあ、こんなのはどうだ?ベリアル?」
横島はゆっくりとした動作で、ベリアルに向かって手のひらを掲げる。
すると、ベリアルの前から一冊古めかしい本が現れる。
横島は奪った司書の権限で、ベリアルの本を顕現させたのだ。
「や、やめーーー!!」
「ん?なんだ?知られたくない過去でもあるのか?」
横島の目が鋭くなり、凶悪な顔のままニヤける。
「ジジジジ、ジード・ヘイグ!!助けろーーーー!!早くーーーーー!!」
ベリアルは慌てふためきながら、助けるように仲間か配下の名前を叫び
「なんだ?まだ、お仲間が居たのか?この空間に居ないぞ?」
横島はベリアルのお仲間らしき存在をこの図書館及び周囲にはいない事を霊気を使って確認する。
「ジーーードーーー!!」
「うるさい奴だな。こいつがそんなに信頼してる奴か?」
横島はそう言いながら、ベリアルの本の最後の方を開ける。
「プククッ、お前、そのジードって奴、もう居ないぞ、お前裏切られたんだ。とっくに逃げてるぞ!」
本にはジードなる人物が、この場から既に撤退している事が書かれてあった。
「あいつーーー!!裏切りやがって!!」
ジード・ヘイグはベリアルとの悪魔契約を行った人間であり、50年程前に出会って以来の配下であった。あの33年前の摩耶誘拐時に襲撃された際、ベリアルを抱え、脱出した唯一の生き残りでもある。ジード・ヘイグは先ほどまで霧の外側で何者かと戦っていたが、魔界化していた霧が消えていくのを見て、潮時だと感じ撤退していたのだ。
ジード・ヘイグはベリアルに忠誠を誓ってはいたが、それは飽く迄も、自身が力を手に入れるため、それが使えなくなったと判断し見限ったのだ。そもそもジード・ヘイグ自身、ベリアルのこの世界の支配を望んでいない。あわよくば、自分がとって変わろうとまで思っていたのだ。
「プククッ、じゃあ、改めて、お前の過去を暴いてやる!!」
「やめーーー!!やめてーーー!!」
ベリアルは元天使だった。
ルシフェル(後のルシファー)に次ぐ力を持ったといわれている。ただ、それでもルシフェルには遠く及ばない。
ベリアルはルシフェルを兄貴分と捉え、その威勢を笠に着て、他の天使に威張り散らし、ルシフェルが見ていない所では、すき放題やっていた。
強い物には媚び諂い、弱い物には居丈高な、典型的な小物であった。
人界に降り立っては、人間に対しても神の意向だといって、自己の欲求を満たすために淫猥な事を平気で行っていた。
あるとき、突然ルシフェルが堕天し、魔界に落ち、悪魔になったのだ。
ルシフェルは争いの耐えない天界と魔界の関係に憂い、自らが堕天し悪魔の立場から、この争いを諌めようとしたのだ。
当然、ルシフェルの腰ぎんちゃくであったベリアルは肩身が狭くなる。すき放題やっていた事がすべてバレ、責められ、立場を失い、居場所も無くなっていったのだ。
天界の規定により、ベリアルは罪に問われそうになった際、ルシファーを追って自ら堕天し、魔界に落ち悪魔になる。
ベリアルは魔界でもルシファーの腰ぎんちゃくとなり、色々とやり放題であった。
ベリアルの能力、嘘を真実に映る強制力は、悪魔的にかなり有用な能力であったのと、水があったのだろう。強い悪魔には取り入り、弱い物は力で抑え、せっせと力をつけていった。
人界では相変わらず、とんでもない悪魔的な所業を繰り返すのだが……それには事情もあった。
ある時はハエの王、魔神ベルゼブブから、もてなしを受け、勧めを断れずに人間や動物の各種排泄物のフルコースを食わされたりもした。
その後、悪魔のくせに下痢になり、痔に悩まされるベリアルが映し出される。
その腹いせに、人間界にスカトロを広めたとか……
「……おまえ、ウンコ食ったのかよ」
「うるせーーーー!!当時あいつのほうが力が強かったんだーーー!!仕方無かったんだよーーーー!!おうぇーーー!!」
ベリアルは目玉から涙をちょちょ切せ、当時を思い出したのか、えずいていた。
時には、魔神アザゼルに鞭打ちにさせられ、三角木馬に乗せられ蝋燭を垂らされるベリアルが居た。それはアザゼル流の歓迎の証だったのだが……
そして、アザゼルにアーーーーーな事をさせられ、その後しばらく痔に悩まされ、痔のクッションを常に手にしているベリアルが映し出される。
その後、人間界に腹いせに、男色の村を作り、また、ある場所ではSMを広めたのだ。
「……おまえ、なに?魔界でいじめられてたの?で、その腹いせに人間界で悪魔の所業を……」
「し、仕方が無かったんだーーー、あ、あいつ、クセになる快感を味合わせてやるとかいって、部屋に連れ込んで!!あーーーーーーーーーー、やめてくれーーーーーーーー!!」
ベリアルは目玉しかない頭は真っ青になっていく。
その後、次々に魔神たちに、ひどい目にあっていくベリアルが映し出される。
魔神どもは、別に悪意があってやっているわけではない。おもてなしをしているのだが……
そして人間界では自分がやられた所業を、腹いせで弱い人間達にも同じ目に合わせていたのだ。
そうやって、自分の立場を確立し、嘘を真実に映る強制力の能力をフルに生かし、72柱の1柱と呼ばれ、悪魔の王の1柱までのし上がったのだ。
「……なんか、昔の俺を思い出してきた………」
横島はポツリとそんな感想を漏らす。
すでに横島の目の前のベリアルは憔悴しきっていた。
そして悪魔の王の1柱となったベリアル。
当時、ルシファーと共に魔界を収める三大悪魔の1柱アシュタロスが目障りで仕方が無かった。
ベリアルはアシュタロスに尻尾を振って、いつものように、媚び諂うが、まったく取り合わない。それどころか邪険に扱っていた。
嘘を真実に映る強制力もアシュタロスには効果がまったく現れない。
さらに、ルシファーとは親密な付き合いをしていたため、弟分を自称しているベリアルはそれが面白くなかったのだ。
ただ、アシュタロスには何一つ勝てる部分が無かった。
そんなアシュタロスが反旗を翻し、姿をくらましたのだ。
ベリアルはその間、悪魔の王の一角として、君臨するが、魔界では派手に動く事が出来なかった。
他の魔神に比べると純粋な力では及ばないため、常に緊張状態であった。
その腹いせなのか、たまに人界に行き、病気を流行らせたり、神の名を騙り、魔女狩りを広めたりと、人界では悪魔の代名詞となるぐらいの悪行を重ねる。
時が流れ、アシュタロスが遂に表舞台に現れ、神と魔界に対しても宣誓布告し、人界に戦争を仕掛けたのだ。
結果、アシュタロスは倒れる。
しかも倒したのは虫けらにも劣ると思っていた人間が倒したのだ。
ベリアルの受けた衝撃は計り知れない物だった。
あの巨大な力を持つアシュタロスでさえ倒れる……しかも人間に……
人間如きで出来るのであれば……うまくさえやれば、自分はもっと上にいけると……
アシュタロスを超えられると……
ベリアルは欲がでてしまった。
その後の魔界ではルシファーやサタン、魔界の上層部はせわしくなり、人界でも悪魔の急進派が騒ぎ出していた。
人界では、既に不穏な空気が流れ、人間は自らを滅びへの道へと進みつつあった。
ベリアルはさらに人界を混乱させ、再び魔と神を争わせようと画策する。
両方の力が弱まっているうちに自分は力を蓄え、今はアシュタロスが抜けた空席となっている三大悪魔の一角になろうと……
ベリアルは動き出す。
自分の手が付かないように、裏から手を回し、人間の破滅へと突き進むスピードを速めるため、他の魔神や悪魔そして人間自身を唆し、その後押しをする。
また、ベリアルはアシュタロスを倒した横島なる人物にも興味が出ていた。
そして、その人間は文珠という特殊な術を操り、アシュタロスに決定的なダメージを与えた事を知る。
ベリアルは文珠の価値を見出し、横島を捕まえる事にした。
このときばかりは、自らの配下を使い横島を捉えさせようとしたのだ。
しかし、一向に姿が見えない。
人間を操り、人間の組織を利用し探させたりもした。
他の魔神を唆し、手伝わせたりもした。
それでも、見つからなかったのだ。
見つからないはずである。横島はこの時期、人界と神界の狭間である妙神山で修行の日々を過ごしていたからだ。
そして、人質(絹)を取る作戦を配下と人間の組織、人界での行動に協力関係にある魔神に指示する。
この際、人質となった絹に手を出したのは紛れも無く人間であった。
ベリアル自身は絹に手を出していない。先ほどのベリアルの言動は横島の精神に揺さぶりをかけるための嘘であった。
ベリアルはまだ、人界にすら来ていない。かなり慎重に事を進めたかったようだ。
魔界では穏健派(デタント派)のふりをし続け、他に怪しまれないように……
そして、横島が現れた事を聞き、直接見てみたい衝動に駆られるが、ぐっと我慢をする。
配下が捕らえ、協力関係の魔神には適当な事を吹き込む。横島を魔界に連れて行き、モルモットにする算段があった。何れは会うだろうと……
結果的にこの判断がベリアルを救う。
絹を浚った人間組織とそこに派遣した配下及び協力関係の魔神の配下の者が一瞬で消滅したのだ。
そして、協力関係にあった魔神は、横島に滅ぼされた。
「…………」
横島はその様を黙ったまま睨みつける。
そして、ベリアルはさらに慎重になりながらも、裏からあの手この手で、人間と妖魔の戦いを後押しするさまが、書かれていた。
ただ、ベリアルの言ったとおり、ベリアルは大々的に何かしたわけではない。人間の欲を刺激し、ほんの少し力を貸しただけだ。妖魔にも同じく、人間との関係を破綻させるように、ほんのちょっと唆しただけに過ぎない。
それは元々人間や妖魔が持っていた欲や思いを少し刺激したに過ぎない。遅かれ早かれ、ベリアルが力を貸さなくても破滅への道に進んでいたのだろう。
そして、人界が破滅する様を魔界で高笑いをしながら見ているベリアルが映し出されていた。
「おまえか!裏で動いていたのは!……完全にしてやられたな」
横島はベリアルを鬼のような形相で睨んでいた。
「ヒィーーー……そ、そうだ俺だ!俺が裏から手を回した。ほんのちょっと背中を押しただけで、人間も妖魔もお互いを潰し合い!そして破滅への道へ進んだのだ!!ヒーーッヒッヒー!!」
横島の形相にベリアルは恐怖するが、開き直り笑い出す。
口舌三寸で魔界の王の一角までのし上がったベリアル、この手の工作は得意なのだろう。
ベリアルは魔界で人間と妖魔がいよいよ大々的な戦争になる様子を、ほくそ笑みながら見ていたのだが……
急激な異変が起きる。
先ほどまで戦争ムードだった世界が一変したのだ。
まるで、何も無かったように……
横島の世界改変……世界分離が行われたのだ。
ベリアルはしばらく呆然としていた。
うまくいきかけていた物が急に崩れ去ったのだ。
後ほど、これが世界改変だと知る。しかもそれを行ったのが人間である横島だと知らされた。
ベリアルは、絹の誘拐以降、徹底的に横島を避けてきた。自分の身を一番に考え、横島が行動を起こす場所には手を出さず。介入しそうになると直ぐに計画を狂わしてまでも撤退したのだ。
しかし、その横島も天界に捕まり、罪人として収監された。
ベリアルは……ほっと一息つくが……
5年後、なぜか、人界への介入が発覚し、神と魔のデタント派に追い回される事になる。
そして、斉天大聖老師に追い詰められ……言い訳を言う間も無く木っ端微塵にされたのだ。
斉天大聖老師の怒は凄まじい物だった。
半分八つ当たりだった事は否めないが、横島があんな事になった一因はベリアルにもあった為だ。
「そうか……師匠がこのときにお前を……師匠が何も言わなかったのは……」
「う……う……」
ベリアルは青ざめガクガクと震えていた。
斉天大聖老師によって、当時よっぽどの恐怖を植えつけれれたのだろう。
そして、目玉だけになり、命からがら人界に逃げ込んだベリアルは復活と復讐を果たすために、人界で、東アジア南部の闇社会を裏から操っていたのだ。
そして、33年前に真夜を手にかけ……今日に至る。
「ベリアル……お前が俺の事をよく知っていたのはこういうことか……悪魔としては優秀だったようだが……人界に介入した時点でお前はこうなる運命だった。過ぎた欲は身を滅ぼすとはよく言ったものだ」
横島はベリアルに睨みを利かせたまま、文珠を頭上に浮かび上がらせる。
「ヒィーーーーー!!俺が何をしたって言うんだ!!頼む俺を見逃してくれ!!もう、力も何も無い俺は無害だ!!なっ、頼む!!」
ベリアルは横島につままれた状態で、無様に命乞いをする。
「運も悪かったようだな……俺の友人に手を出した時点でお前の運は尽きた」
「くそ!くそーーー!人間如きにーーーーー!!お前さえ居なければ!!お前さえ居なければーーーーー!!」
「お前は人間を弄び過ぎた。人間への数々の行いを身を持って後悔するといい」
横島はベリアルに最後に静かにそう言って……頭上に浮かび上がらせた文珠を4つをベリアルにぶつける。
ベリアルは小さな水晶玉のようなものに覆われ……その中で苦しみ絶望し、のたうち回っている。
横島は、記録にあったベリアルの人間への数々の卑劣な行いをそのまま体験させているのだ。
延々と…………
「終わったか……いや……まだか」
横島は呟き、皆をちらりと見る。
その横ではダンタリオンが横島の服の袖を掴んで、そんな横島を不思議そうに見上げている。
皆は結界の中でその様子を緊張感のある面持ちで固唾を呑んで見ていた。
来訪者編も後数話に……
最終回も近くなってきました。