この回もつなぎ要素が高い話です。
九校戦、7日目新人戦
ミラージ・バットでほのかが他を圧倒し優勝。
どうやら、横島のアドバイスが多分に生かされた様だ。
男子のモノリス・コードで、事故が発生。
第一高校の出場選手チーム全員が重傷を負い、病院送りとなる。
相手チームの過剰魔法攻撃によるものであり、明らかに反則行為である。
しかし、相手チームは過剰な攻撃魔法をCADに組み込んでいないと主張。
もはや、第一高校を狙った悪意ある何者かの仕業としか考えようがない。
大会委員会に十文字克人は駆け込み、メンバーの変更と、新人戦モノリス・コードの明日への試合振替を要求する。
この状況を見かねた九島烈の口添えもあって、了承されることになった。
第一高校の新人戦モノリス・コードの代役として、達也、レオ、幹比古が選ばれる。
達也がレオと幹比古を巻き込んだのだ。
その日の少し前の時間に遡る。
横島がいる拘束室に響子の上司である独立魔装大隊の隊長、風間玄信少佐が訪れていた。
響子が横島から情報を得ることが困難だと判断から、直接乗り込んできたのだ。
「私はここにいる藤林響子くんの上司で、軍から大隊を任されている風間玄信です」
風間少佐は横で立って控えている響子を指しながら自己紹介を始めた。
「横島忠夫です。俺はなんで、拘束されたままなんですかね」
「君が素直に真実を話してくれたら、解放するのだが……」
「まあ、悪ふざけが過ぎたのは、こっちが悪いのだが、俺みたいな一介の学生にする事ですかね?」
「一介の学生ね。君は自分の立場と言うものをわかっていない。君は氷室家の人間だ」
「その前に、第一高校の学生なんですが、そんなに家名や出生が大事なんですか」
「氷室家は今だ国や軍に関わって来ていない古式魔法師の大家だ。どんな魔法を持っているのかもわからない。厳重な扱いをするなと言うのが無理と言うものだ」
「だったら、特別扱いでここを出してもらえないっすかね?」
「ふむ、君は響子くんから聞いていたのと大分、印象が違うね。軍人の私と話しても、物怖じ一つしない」
不意にノックの音がなる。
「九島だ。入らせてもらう」
そう言って、九島烈が拘束室に入って来たのだ。
風間少佐と響子は面喰った様な顔をしていたが、風間少佐は九島烈に話しかける。
「閣下、なぜこのようなところに」
九島烈は空いている椅子に座る。
「君こそ、このようなところに何をしている」
「彼を尋問していたのですが……」
「なぜ、そのような事をする必要がある。わたしは、彼が競技に出ない事に不思議に思っていたが、まさかこのような事になっているとは、直ぐに彼を解放しなさい」
「閣下、しかし」
「自分たちの能力不足を棚に上げ、彼を責め立てるのは筋違いではないか、彼は実質何か不都合な事でも起こしたのか?」
「……いえ、なにも」
「では、直ぐ解放しなさい。わたしは彼が競技に出るところが見たいのだ」
「……了解しました」
風間少佐と九島烈の会話を聞いていた横島は
「じいさん。助けてくれるのはありがたいんだが、俺、補欠だから、競技でないんだけど」
九島烈はそれを聞いて、声を大にして笑う。
「はっはっはー、また一本取られた。……君が競技に出ないとは、世も末か……。ついでに、わたしとここで昔話に付き合ってもらっても良いかな?……少佐いいな」
そして、横島と話をしたいと申し出る。
横島はそれを了承した。
「ああ、助けてもらったし、いいぜ、じいさん」
「横島くん、この方はな」
それを聞いた風間少佐は横島のじいさん呼びをたしなめようとしたのだが
「良い」
九島烈は手を当て、それを一蹴する。
その間に響子は3人にお茶を用意した。
「で、俺と話したい事って?」
「ああ、君は氷室家の家人と聞いたのでな」
「じいさんも、氷室家の事かよ」
ウンザリ顔で横島は言うのだが
「いや、わたしは、13代目氷室絹殿に会った事が数回あってな」
そして、九島烈は語りだす。
横島はその話に興味を持ち、顔がほころんでいた。
風間少佐と響子もその話に興味深々であった。
「40数年前の事だ。当時、一部の軍が暴走して、氷室家を襲撃した事件があった。魔法師一個大隊を送り込んだのだよ。しかし、それがものの見事に撃退され、全員無傷で拘束されたのだ。しかも、絹殿はそ奴ら全員に正座をさせ、説教をしたという事を聞いた時、私は胸が踊るような気分であったことを覚えている。
その時、私が、この事件の鎮静化を図るために、氷室家とのパイプ役を務めたのだよ。
当時の絹殿はすでに70を超えている年齢ながら、可愛らしい方であった。その人が屈強な軍人相手に立ち回り、正座をさせ、説教をさせる姿を想像しただけで、笑いが止まらない。
ある時、絹殿に何故国や軍に協力しないのか?と聞いてみたのだ。
『霊能者は戦争するための道具ではありません。ましてや、人を戦争の道具や人形の様に扱う軍や国、師族に従うなんてことはあり得ません』
わたしはさらに質問をした。軍や我々(師族)が居ないと、国を守れないではないかと、
すると絹殿は『あなた方の在りようをすべて否定するわけではありません。国防としての軍は必要だという事は、理解しているつもりです。真に国難が襲ってきた時、それだけでは足りないのです。国難に立ち向かう真の勇者や英雄はあなたたちのやり方では生まれないからです』
その答えに私は、確かに軍や我々(師族)ではあなたの様な英雄たる戦略級魔法師は生まれないかもしれないが努力をしている。いつかは生まれるだろうと言ったのだが、
『何を勘違いしているのか分かりませんが、私は英雄でも何でもありません』
私は謙遜しているものだと思っていたのだ。絹殿は間違いなく、『救済の女神』と言われる英傑なのだから。すると絹殿は私に問うた。
『勇者とは英雄とはどういうものだと思いますか、九島さん』
悪や敵に立ち向かう力を持った者と私は答えたのだが
『私が知っている英雄とは、力が無かろうとも、自分の100万倍は在ろうかと言う存在に、知恵や策を用い、そして何物にも負けない精神で、立ち向かうそんな人物です』
私はそんな人間なぞ、居ないと答えた。
『そうかもしれません。しかし、私は信じているのですよ。魔法や霊力があろうとなかろうと、人は知恵や勇気、そして精神力で苦境を乗り越えられると』
絹殿は笑顔で、何故か顔を赤らめならそう言った事が印象的であった。
私は先日、君が見せた悪ふざけ、いや、何かをしたいという欲求と言うのだろうか。
絹殿が言いたかった事は、固定概念にとらわれ、力だけを追い求めた組織に、君の様な人間を輩出する土壌はないという事を言いたかったのだろうと、いまさらながら思う。
今の魔法師協会は、まさに固定概念の塊の様な組織だ。これではいつかは、現状で対処しきれない大きな問題があった時には、手遅れとなってしまう。
その時に君の様な人間、あと……君と同じ学校の司波達也くんだったかな……彼のような人材が必要だと感じるのだよ」
九島烈は最後にそう言って締めくくる。
横島は絹の話のため、終始嬉しそうに聞いていた。
「じいさん、買いかぶりすぎだ。達也はともかく俺は、ただチャランポランなだけなんだけど」
横島は照れたように言う。
「閣下、貴重なお話をしていただきありがとうございます。耳の痛い話ですな」
風間少佐はそう言って頷く。
「横島くん、長きにわたり拘束してすまなかった」
そう言って風間少佐と響子は頭を下げる。
「響子さんみたいな、可愛らしいお姉さんとずっと話せたし!!それはよかったんで……だったら、この会場に取り巻く悪意を排除してください」
横島はそう言って、拘束室を後にした。
横島が最後に残した言葉に、九島烈は口元をほころばせる。
響子は驚いたような顔をし、風間少佐は鋭い目つきをしていた。
おキヌちゃん編最終はできているのですが、どのタイミングで出そうか迷ってます。