横島MAX(よこしまっくす)な魔法科生   作:ローファイト

49 / 192
沢山の感想、ご指摘ありがとうございます。
誤字脱字報告いつもありがとうございます。


それでは、おキヌちゃん編続きです。


side story 氷室絹その4

2058年2月氷室家

 

絹は床に臥せていた。

自身の寿命が尽きかけていることを悟る。

 

 

絹は、小竜姫と再会してから、年1回は妙神山に足を運んでいた。

そのたびに、横島の話で盛り上がるのだ。

 

そして、日記をつける様になった。日記と言うより、横島に対して日々を綴ったものだ。

絹は横島との出会いを振り返る。

 

 

360年前、強大な妖怪から、この村を守るため、自ら封印の要になるため死を覚悟した事。

 

それからは記憶も何もなくし、地縛霊として、300年間過ごした事。

 

65年前、この地で彼と奇跡的に出会った事、彼は幽霊だからと言って、蔑んだり、差別をしなかった。一人の女の子として接してくれた。

 

現世に人として蘇った時の事。彼はただただ、私に生きてほしいと願っていた。

 

魔神アシュタロスとの死闘を終え、平和となったと思っていた。

しかし、彼だけが、人知れずその裏で苦しんでいた事、戦っていた事。

 

私の前から急に彼が居なくなった事。それまで、彼が一人で自身と敵と戦っていた事を知らなかった。

 

そして、私は悪意をもって攫われ、彼が一人戦っていた事を初めて知りショックを受けた事。

 

彼をおびき出すための餌にされ、酷い拷問を受け続けた事。

 

彼が、こんな私の為に助けに来てくれた事。

 

私の為に泣いてくれた事。

 

彼とこの地で1年間過ごした事。何にも代え難い幸せな記憶。

 

彼はその間でも、人と妖怪とのとりなしに奔走していた。私ははそれをただただ見ているしかできない自分の無力さを感じない事は無かった。

 

そして、再び彼が記憶と共にいなくなった。

それからは、この地でどこか心に穴が開いたような虚無感を感じながら、過ごしていた。

 

 

 

 

 

2058年3月

 

立つこともままならず、床に臥せっている絹に来客があった。

 

「おキヌさん、何か彼に言伝はありますか」

 

「小竜姫様、わざわざ、お越しいただきまして……」

 

「いえ、いいのです。あなたはわたしのお友達なのですから」

 

「ありがとうございます」

 

「彼がこちらに戻ってきたら、これを渡してください」

絹は枕元に置いてあった。封筒を渡す。

 

「わかりました」

 

「寄り道せず氷室家に必ず寄る様に言ってください」

 

「わかりました」

 

「あなたに会えて、幸せだったと伝えてください」

 

「わかりました」

 

「小竜姫様、後はよろしくお願いいたします」

 

「良い夢を……」

 

この3日後に氷室絹は静かに亡くなった。

『救済の女神』その死に多くの人が嘆き悲しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

2095年1月

横島は、予定より2年早く、刑期を終え肉体と共に復帰した。

最高神からは、天界にとどまるように、強く乞われていたのだが、横島は人界に戻る事を望んだ。

 

刑期を満了したと知った小竜姫は天界に横島を迎えに来る。

 

「小竜姫様、心配おかけしました」

横島は深く頭を下げた。

 

「本当ですよ……よく戻って来てくれました」

小竜姫は涙目で答えた。

 

「あれから、何年経ちましたか?」

 

「大凡100年です」

 

「……そうですか」

 

「取り合えず、妙神山に帰りましょう。老師様も首を長くして待っていますよ」

小竜姫は横島を伴い妙神山に戻る。

 

 

 

妙神山では斉天大聖老師が出迎えに門の前まで出てくれていた。

「このバカ弟子が……なぜ、わしに相談しなかった」

 

「師匠、すみませんでした」

横島はその場で土下座をする。

 

「いや、よく戻った。……力は大分落ちたようじゃな」

 

「封印でほとんど持ってかれましたから」

 

「一から鍛え直しじゃ、器の方は当時よりも大きくなっている様じゃし、鍛えがいがあるわい」

斉天大聖老師は嬉しそうに言う。

 

久々に再会した師弟の会話の間に小竜姫が入ってくる。

「老師、彼は疲れているはずです。少し休ませてやってください」

 

「すまなんだ。つい修行が出来ると思ったら、はしゃいでしまった」

 

 

そして、久々に師弟3人で食事を取る。

 

食事の後、横島は小竜姫に連れられ、妙神山の頂上までくる。

 

小竜姫は横島が聞きたいと思っている事を先に話した。

「下界は貴方の思惑通り、人間社会と妖怪、霊、妖魔達と完全に分離し別世界を形成しております。かなり安定しており、最高神様も、宇宙意思の反動は少ないだろうとおっしゃってました」

 

「そうですか」

 

「しかし、貴方の思惑から外れた予想外な事もあります。形成された世界は確認しましたが2つではなく3つです」

 

「……やはりそうですか」

横島はそのイレギュラーについても予想をしていたようだ。

 

「貴方もわかっていたのですか?」

 

「はい、最高神様に気付かれた事に少し焦りまして、世界を分離中に残ったかけらの様な気配を感じたのです」

 

「そうですか、あなたはもはや、私など手の届かない高見まで登っていたのですね」

小竜姫は伏目がちにそう言う。

 

「……一人よがりで事をなそうとし、結局周りに迷惑だけをかけてしまいました」

 

「貴方の心は優しく、温かい。それが故、苦しんだのです。……もう、いいではありませんか」

小竜姫は横島に微笑みかける。

 

 

 

しばし、神と人の姉弟弟子は、山頂から何もない地平線を並んで眺めていた。

 

 

 

静寂の時を終え、小竜姫は横島に話しかける。

「横島さん。おキヌさんからの伝言です」

 

「え?おキヌちゃんから?いや……完全に記憶をけしたはず」

 

「貴方の文珠を使い、記憶が戻ったのです」

小竜姫は笑顔で言う。

 

「いや、そんなはずは、……かなり強力な暗示までかけたのです」

横島は動揺していた。

 

「愛の力ですかね。少し妬けます」

 

「しかし」

まだ、納得いっていない横島。

 

「『あなたと会えて幸せでした』……と。彼女が37年前、亡くなる間際での事です」

 

横島の目から、涙がゆっくりと流れ落ちる。

 

「彼女は70歳で記憶が戻り、ここに悲壮な覚悟で尋ねてきました」

 

「…………」

 

「知っていますか?おキヌさん。この現世では、『救済の女神』なんて呼ばれているんですよ。それだけ多くの人を救ってきたのです。貴方と一緒で……」

 

「おキヌちゃん……」

 

「貴方の事を思い出したのはおキヌさんだけです。この現世、貴方の人間の知り合いはすでに故人でしょう」

 

「そうですか」

 

「それと、これを渡すように言われておりました」

 

「手紙……ですか」

横島は小竜姫から一通の封筒を渡される。

 

「そして、氷室家に必ず来るようにと……寄り道はしないようにとも言ってましたよ」

 

そう言って小竜姫は横島をここに残し先に、修験場に戻っていく。

 

 

 

そして横島は封を開ける。

 

 

 

 




次でおキヌちゃん編次回で終わりです。

サイドストーリーはその他に横島過去編も一応ありますが、別の形で出すかもしれません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。