誤字脱字報告ありがとうございます。
今回も横浜騒乱編と関係が無い話になってますが、一応本編とはリンクしてます。
二学期が始まって、2週間目
風紀委員では活動開始前の定例会を行っていた。
「この9月で私と辰巳が風紀委員会を辞任する。よって、10月から新たに2名任命されるのだが、先に1名慣れてもらうためにも来てもらっている。2年の千代田花音だ」
摩利はここにいる風紀委員8人にそう宣言する。
「千代田花音です。」
ショートヘアのボーイッシュな少女が摩利の横で挨拶をする。
「10月からは、この千代田を委員長に就任させるつもりでいる。色々と教えてやってくれ」
摩利はそう言って、花音の肩をポンと叩く。
千代田花音の千代田家は魔法師百家本流の一つであり、固有魔法である振動系魔法の地雷原は対陸上兵器に絶大な威力を持っており、その分野において十師族をもしのぐとも言われている。
花音本人も、九校戦でアイス・ピラーズ・ブレイクで優勝している実力者だ。
ただ、難点なのは、短気で大雑把なところがある。姉御肌なのだが、摩利と違い細やかな気遣いや、短絡的で長期的な展望を見るのが苦手なのだ。
しかしながら、摩利も花音を可愛がっており、花音も摩利を慕っている間柄でもある。
ちなみに、花音には許嫁がいる。同学年の五十里啓、草食系イケメンだ。2人がそろうとラブラブ空間が形成され、他者が入る余地が無くなってしまう。
「では、出動だ………達也くんは残ってくれ」
摩利はそう言って、定例会を終わらせる。
他の風紀委員メンバーが本部室を出て行った後、
達也は風紀委員長のデスクまで行く。
ちなみに横島はこの定例会に出ていない。既に横島には仕事の予約が入っておりそっちに行っていたためだ。
「達也くん、さっきも紹介したが千代田花音だ」
摩利は横で立っている花音を見やり達也に再度紹介する。
「1年E組司波達也です」
「千代田花音よ。司波くん、摩利さんから色々聞いているわよ」
達也は花音の含むような言に、何を聞いているのか気にはなっていたが、ここでは言及しなかった。
「達也くん、風紀委員の仕事に付いて花音にレクチャーしてくれ、しばらくの間教育係を任命する」
摩利は達也にそう言ったのだが
「えーーーっ、摩利さんが教えてくれるんじゃないんですか?」
花音は間髪入れず抗議する。
達也は達也でため息を付いていた。
「なんで俺なんですか?」
「達也くんは優秀だ九校戦での活躍をみただろう?説明も理論付けて行え校則にも詳しい。検挙率も言うことないが問題行動の遭遇率も高い。私が行くと生徒達は問題行動を起こさないからな」
摩利は花音にそう説明する。
摩利はある意味有名人である。学校内では生徒から恐れられている存在なため、生徒は委縮して問題行動を自粛してしまうか、摩利の前では回避してしまうのだ。
「……分かりました」
「なーるほど……まいっか、司波くんよろしくね」
そうして、達也、花音の二人は校内巡回に出動する。
「巡回ルートなどは特に決まってません。全部回る必要もありません。人によっては同じルートを毎日回っているようです」
「ふーーん」
花音は摩利に言われた手前、後輩の達也の説明をちゃんと聞いている様だ。
「よう、司波!お前いっつも隣にいる女が違うな」
「そんな事言ったら失礼よ、桐原君、千代田さんには五十里君が居るんだから」
剣術部主将、桐原武明と剣道部主将、壬生紗耶香である。
彼らは、ブランシュ襲撃事件の後、関係が進展し付き合っている。
「ふん、まあいいわ」
花音は桐原の言葉に反論したかったが、紗耶香のフォローで気分が良くなったようだ。
「なんで、司波が千代田と一緒に居るんだ?」
「桐原先輩、千代田先輩の教育係に任命されたんです」
「という事はあれか、渡辺先輩の後釜か。渡辺先輩も面倒見がいいって言うかあれか?宝塚みたいなもんか?」
「へぇーー、聞き捨てならないわね。私と摩利さんが百合だっていうの?」
花音は桐原の冗談を真に受けて、怒りを噴出させ、サイオン粒子を放出させていた。
「ちょ、百合なんていってねーぞ」
「問答無用!!」
花音は桐原に怒りに任せ魔法攻撃をしようとした。
達也は溜息を付きながら、花音の首筋を突いた。
「ひゃっ」
花音の魔法式は霧散し、顔を恍惚とさせながらも、振り返り達也を睨む。
達也は、今日の早朝訓練で九重八雲に快楽のツボなるものの点穴術を習ったのだ。
その効果覿面であったことに、達也自身も驚いていた。
「風紀委員が自ら問題を起こしてどうするんですか」
達也は花音を見据えて冷静にそう言った。
「だって…」
「だってじゃありません。そんな瞬間湯沸器みたいに短絡的でどうするんですか…今後は慎んでください」
「分かったわよ」
花音は口を尖らせそう言った。
達也は再度溜息をつき、やれやれという表情をする。
次に校舎外回りを巡回していた。
「あっ!あれは不審者で間違いないわね!よーーし!」
そう言って花音はCADを操作しようとした。
花音は不審者らしき人物を見つけたのだ。
屋上からロープを垂れ下げ、自らを括り付け、宙吊りになり教室内を覗き見ている様相の男子生徒を……
「待ってください」
達也はそんな花音を制した。
「今度は何?」
花音はそんな達也不満そうに見やる。
「……あれも風紀委員のメンバーです」
達也は頭痛がする様な仕草をしながら説明する。
「えっ?だって明らかに不審者じゃない……とっちめないと」
「あれは多分、事務方の職員の依頼で校舎の雨樋を直しているんです」
「はぁ?なにそれ、風紀委員の仕事?」
「いや、奴は例外なんです」
「なにそれ?」
「……話せば長くなるのですが……奴が…横島です」
達也は説明するよりも、本人の名前を言った方が早いと判断したのだ。
「はぁ?横島ってあの横島?」
「たぶん、千代田先輩が思っている横島で合ってます」
「えーーーーーっ彼、風紀委員会のメンバーなの?そんなの聞いてないわよ!!」
横島は学内でもいろんな意味で特に女子にとってはマイナスイメージで有名人である。
「……」
達也は悟る。摩利が故意に花音に横島の事を言っていない事を……
「横島って、あれよね!!チカン、変態、ナンパ野郎って噂の!!」
「まぁ、その……その評価は間違っています。確かに横島はそう噂されてますが、そこまでひどくありません。たぶん……今も、真面目に修理をしているはずです……」
そう言っている達也は自信がなさそうだ。
そんな宙吊りの横島は達也に気が付いたようだ。
「おっ達也か!!ぐふふふふっ、今日の仕事はラッキーーー!!ここから、茶道部の着物美人見放題!!」
何時もの横島である。
「……お前は真面目に仕事しろ!!」
「そんなものはとっくに終わってるっての!!」
横島は既に依頼を受けた修繕は終わっていたのだが、茶道部を鑑賞するため宙吊りのままでいたのだ。
「やっぱり、覗きじゃない!!覚悟しろ!!」
花音は魔法を横島に向かって放つ。
横島は宙吊りながら、器用にそれを避けていた。
「うわっ、なんだっ、ぐわっ!!」
達也は額を抑えてうんざりした表情になる。
横島は器用に避けていたのだが、魔法が横島をつりさげている紐に当たり千切れる!!
「なんでじゃーーー!!」
ボトッ
横島は三階の高さから花壇の合間のコンクリート床に頭から落下。
「司波くんやば!!やりすぎちゃった!!」
「先ほどいいましたよね、短絡的な行動はしないで下さいと」
「そんなのは後でいいわ彼を保健室に!!」
「大丈夫です。無傷です」
達也は冷静に言う。
「えっ?だって」
横島はガバっと起き上がり、達也達に近づいて行く。
「大丈夫ちゃうわーーーー!!」
「ええ?」
めちゃくちゃ元気そうな横島を見て驚く花音。
「横島、その仕事が終わったなら、お前も巡回でもしてろ」
達也は驚く花音を横に、普通に横島と会話をしていた。
「ったく、こんな目にあわせたこの美人ねーちゃんは誰?」
「ち……千代田花音…よ」
花音は動揺しながら自己紹介をする。
「お前は聞いていないかもしれないが、渡辺先輩が9月で引退して、その後釜になる2年の千代田先輩だ」
「まじか、摩利さん辞めちゃうのか……あの純白の白がもう拝めないのか……で、えーと千代田先輩が後釜って?」
「ああ、10月から風紀委員の委員長になるのだが、何せ未経験者のため、俺がしばらくの間教育係に任命された」
横島はその間、花音を下から上へと舐めるように見る。そして……
「ボク横島!!よろしくお願いします!!お茶くみからお着換えのお手伝いまで何でもできます!!」
花音の手を掴み何時ものナンパ口調でそう言った!!
「え…えええ……??」
花音は急な横島の行動に面食らっている。
「横島、言っておくが、千代田先輩は五十里先輩の許嫁だぞ」
達也と横島は九校戦の時、サポートメンバーとして五十里啓とはちょくちょく話す仲になっていた。
「なにーーーー!!あの、何もしませんって顔の草食系ナンバー1イケメンが!!こんな美人の許嫁だとーーーーーー!!くそ、人畜無害な顔してるのに、やる事やってやがったのか!!」
横島は吠える!!しかも内容はゲスそのものだ!!
「な……なななに言ってるのよーーーー!!」
花音は顔を真っ赤にして、恥ずかしさと怒りで我を忘れて、魔法を横島に放つ!!
横島の立っていた地面が爆発した様に弾け、横島は吹っ飛んで行った。
「やっぱ、こんな落ちかーーーーーーーーー!!(かー!かー!かー!エコーが掛かる)」
「はぁ、はぁ、は!またやっちゃった!?」
「千代田先輩、もう何回言いましたか?短絡的な行動をしないようにと。これでは先が思いやられます」
達也は冷静に花音に注意をする。
「あの、その……彼は大丈夫なの?結構キツイ魔法はなっちゃったけど」
あの魔法を喰らった横島の心配など一向にせず注意する達也に向かって花音はモジモジしながら問いかける。
「大丈夫です」
達也は自信を持ってそう言った。
花音の放った魔法は、自動車が吹っ飛ぶレベルのものだったのだが……その程度で横島は傷一つつかないと達也は確信していた。
「そ……そう、想像以上の現場だわ……わたし、やっていけるかな」
はい、今回も横浜騒乱編にほぼ関係ありませんでしたが、風紀委員の引継ぎはしとかないとあれかなーということでこのお話です。