誤字脱字報告ありがとうございます。
前回予告通り、急展開です。
横浜騒乱編どうなっちゃうの展開です。
「一週間後、横浜で開催される全国高校生魔法学論文コンペティションの会場警備に派遣する人員及び配置について最終決定をする」
十文字克人は集まった生徒達にそう宣言する。
論文コンペは基本的に生徒の自主性を尊重し、全国の魔法科高校の生徒自らが運営することになっている。受付からスケジュールおよび会場警備、それこそ広報まで全て生徒が行う。十文字はその中でも会場警備の全国魔法科高校の総隊長となっていた。
現在、第一高校から、警備に派遣する人員とその配置について会議を行っている。ここに集まっているのは、風紀委員会メンバーと全校生徒から募集した有志の生徒だ。
もちろんその中に横島と達也もいるのだが、達也は論文コンペの代表者であるため、警備人員からはおのずとはずれるのだ。
論文コンペ代表の達也の周りを自主的に半ば強引に警護しているエリカとレオはこれには参加していない。飽く迄も、達也の個人警護らしい。
十文字は、派遣する人員を次々と発表していく。
「風紀委員からは2年辰巳…………そして1年森崎、以上だ」
風紀委員ほぼ全員が呼ばれたが、横島の名前は上がらなかった。
横島は選ばれずにホッとした表情をしていたが……
十文字は続いて……
「京都国際会議場の警護にも派遣することになった。あちらは、横浜の中継を流すのみだが、企業関係者が多く参加するはずだ。警備規模は小さいため生徒からは少人数のみ派遣される……我が校からは一名……1年横島……行ってくれるな」
そう行って横島に顔を向けて言う。
「えっ!?俺っすか?」
十文字の横に座っていた花音が席を立ち
「これは既に決まった事なの、異議は受け付けられないわ、いいわね」
横島に有無も言わせないような言い方をする。
花音は内心この決定にホッとしている。先日のルゥ・ガンフゥ襲撃事件で達也と横島達が巻き込まれた件について相当頭を抱えていたのだ。この2人が揃うととんでもない事が起きるのではと短絡的に考えていた時にこの決定だ。花音の心労の種が一つ軽減される思いだった。
「ちょっ、聞いてないっすよ!?」
十文字は何故か申し訳なさそうに
「すまんな。横島、お前なら一人でも対処できる実力も十分備わっていると思っての事だ。」
そう言った。
「……俺一人っすか…」
「他校からも1~2名ずつ派遣される事になっている。そんなに畏まったものではない、気軽に行ってくればいい」
「……仕方ないっすね。旅費とかは出るんすか?」
横島はしばし考える様相をしてから了承した。
「ああ」
十文字は何故か苦い顔をしていた。
こうして、一週間後の論文コンペ当日、横島だけ京都に派遣されることになった。
前日の放課後
十文字と真由美は第一会議室で2人で話し合っていた。
この二人だけで話し合う話題は間違いなく十師族がらみの話しである。お互い十師族当主の直系の息子、娘なためだ。
「横島が呼ばれたな……」
十文字から話題を切り出す。
「そ、そうね。生徒会にも教職員からも横島くんを派遣するようにと通達があったみたいよ」
真由美は十文字から横島の名前がでると、何故か顔を赤らめる。
真由美はあの事件以降、横島を避けている。どうしてもあの例のシーンが思い出されて、まともに顔を見ることが出来ないでいるのだ。また、その事であの事件で助けてもらったお礼も言えない状態になり、思い悩んでいる。
何とかしたいようだが、なかなかきっかけも作れずに日にちばかりが経過していた。
「横浜の論文コンペ当日に、魔法協会京都の本部で、十師族の会合が秘密裡に行われる。その議題の一つに間違いなく、『氷室家の人間』である横島についてが上がっている。もしかするとそれが主題なのかもしれん」
「十文字君は気が進まないようね」
「ああ、気分がいい話ではない。要するに氷室家の横島を品定めするつもりなのだろう」
「それと、横島くん、いいえ氷室家を十師族のどこか一家に取り込ませたり関係を持たせないため、お互いけん制する意味もあるのでしょうね」
「ああ、俺たちがその一端を担っていると思うとな……」
十文字は苦々しい顔をしていた。
横島について、当主である父親に報告をしている。十文字自身、横島の事を気にいっているため、余計に思うところがあるのだろう。
「……そうね」
真由美も同じ立場なのだろう、下向き加減で同意する。
大人たちの思惑に加担している罪悪感は拭えないのだろう。
「一応、京都国際会議場の会場警護という事になっている。他校からも数人来る予定になっている。大々的なカモフラージュだな」
十文字はそう言ってはいるが、実はその他校の生徒も十師族では話題になる人物が選ばれている。要するに、十師族の長が気になる若い魔法師の担い手を秘密裡に品評するいい機会なのだ。今回は横島に集中しているが、毎年恒例となっている様だ。
「わざわざ、そんな事をしなくても、直接、横島くんに話を聞きたいと言えば良いように思うのだけど」
「さあな、俺にもわからん。だが十師族が集まるとなると、世間にはあまりいいイメージを持たれないからな、論文コンペはいい隠れ蓑なのだろう。去年は論文コンペが京都で有った際、関東支部で集まった様だしな」
十文字は次期当主とあって、真由美より下りてくる情報が多い様だ。
「横島くんに伝えられないのも心苦しいわ」
「ああ、
十文字は憂鬱そうにそう言った。
「フフフフフッ、でも、普段の横島くんの態度を見れば、十師族のお歴々の方々も面食らうかもしれないわ」
真由美は悪戯っぽく笑う。
確かに、横島の普段のおちゃらけた態度や、とんでもない行動を見たら、どんな反応を示すのか楽しみではある。
一方京都行きを告げられた横島は
「これでよかったのかもな」
一人ごちる。
横島は自分が闘争の渦の中心にいる。自分がいる事で余計な厄介ごとが降り注ぐのではないかと未だに考えていた。
横島の過去を顧みればそう思っても仕方がない事なのだが……
今回の事は丁度いいと、一旦皆から離れ、それを見極めるいい機会だと思い、京都行を了承したのだ。
次回は京都に赴く横島です。