もしも過去から戻ってきたリィンが、ドフラミンゴの味方になったら。
「海軍辞めますので、お邪魔します〜!」
居なくなったはずのコラソンを片手に、やってきたのはずっと欲しかった海兵だった。
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「──いやちょっと待て」
ドンキホーテ・ドフラミンゴは流石にストップをかける。
時は、頂上戦争の直後。
リィンが過去に戻って、現代にやってきて、『あーもうやってられっか!』と色々みなげしたタイミングである。
「は……?お前、麦わらの一味は……?海軍は……?」
「あぁ……………………──疲れた」
「疲れた!?」
「クロコダイルの所は目をつけられてるし、麦わらの一味も今後気苦労が耐えないし、海軍もちょっとだいぶしんどい。だからまぁ、1回根を下ろそうかなぁって」
そこで選ばれたのがお前です!そう言いたげなリィンの姿にドフラミンゴは一瞬でため息を吐いた。
「お、り、リィン???」
「なんだよ、なっちゃん」
「なっ……!???!!??」
「悪いけど私の部屋用意してくれない?こんな世界やってられっか、ポイズン」
「説明を!説明をください!!!つーかほんとにリィンちゃん!?なんか口調も雰囲気もガラッと違うんだけど」
「一週間待って、めっちゃ頑張って戻すからよ」
「怖い!!!!!!」
そして約束通り一週間後、ようやく
「ただいまドフィさん。では説明しますぞ」
「お、おう」
「こっちはドンキホーテ・ロシナンテ。私の家族」
「俺のな?」
「すっごく端的に言うとですね、私の家になって欲しくて」
この間、海軍をやめようとしたのだがセンゴクに殺すほど止められたとのことで辞めるには至らなかった、とリィンの愚痴が飛ぶ。
あれ、俺なんで正座してるんだろ。
椅子に座るリィンを見ながら、ドフラミンゴは姿勢を正していた。その体勢でも残念ながら目線はドフラミンゴの方が高いので、見上げるほどにはいかなかったが。
「ドフィさんはそもそも、多方面に依存しすぎだし敵を回しすぎ」
「俺こそ敵なしなんだが?」
「まず普通に革命軍やローさんに狙われてるでしょ?んで、多分直情型の海賊……まぁルフィとかエースがこの国の状況見たらブチギレるでしょ」
「俺が──」
「叩き潰せばいいとかそういう脳筋なこと考えているのでしたら一旦黙っていただいて」
「……。」
「海軍と政府を上手く押さえ込んではいますけど、まず革命軍がまずい。少なからず、そう遠くない未来で確実に全面戦争になるじゃないですか」
ドフラミンゴは『たしかに』という顔をして納得した。
「革命軍と善良な野良の海賊。ここから目をつけられないためには」
「善良な野良の海賊つてなんだよ」
「ルフィやエース、今後現れる同じような感情だけで動いて実力者に目をつけられないためには──国を正当な物にするしかない」
その言葉にドフラミンゴは素直に嫌だと言う顔をした。礼儀正しいなんて吐き気がすると言いたげだ。
「けど!!!ドフィさんの国を正当化するためには、カイドウという取引がめちゃくちゃネック!『他に狙われないためにカイドウとの取引縮小しますぅ』…って言ったところで!キレられて逆に潰されるのがオチ!!!」
「クソ、事実だから何も否定出来ない」
「ドフィさん詰みすぎてない?まだクロさんの方が救済措置考えれる」
本当に否定できない。
リィンが言っているということは、革命軍は既に動いていて、麦わらの一味や火拳などはこの国の惨状を見て動き始める可能性が高いということだ。
麦わらの一味ならともかく、特に火拳はやばい。なんと言ってもダグラス・バレットがいる。それだけで損害どころかドンキホーテファミリーが終わる可能性があった。
リィンの兄三人に目をつけられないように舵を取ったとしても、悪の道から外れるためにはカイドウやジョーカーといった存在が邪魔をする。
ドンキホーテファミリーの盾がそのまま枷になる。
た、たしかに詰んでる……。
頭を抱えた。
「幸い、貴方が殺したはずのコラソンがここにいることで、ローさんという行動派復讐者がドフィさんに手を出すことは少なくなったでしょう」
「そこに関しても聞きたいところなんだけど」
「そして次点の復讐者のコラソンも私がここでお説教兼ねて悪逆非道の行動を止めれば、目的は達するので命や名誉までは持ってかないでしょう」
「リィンちゃんもしかして俺の話って聞く価値ないと思ってない?」
「──そして最大の行動派復讐者である私がドフィさんに着くということは、まぁまぁドフィさんの延命は望まれました。おめでとう」
「ありがとう……こんな言いたくないお礼は初めて……」
さてさて、とは言えだ。
ドフラミンゴの状況は依然として良くない。例えばローやリィンが居なくとも、『レベッカを泣かすやつどいつだ!』みたいな感じで主人公が乗り込んでくることはどうやっても変わらないだろう。アラバスタ然り。
麦わらの一味をドレスローザに上陸させない、というのは有効手段ではあるが、イコール未来永劫安定した状況に、とはならない。
「改革は必須。おわかり?」
「じゃあどうすればいいのか、リィンちゃんには手があるってことだな?」
その問いにリィンはドヤ顔で頷いた。
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レベッカには何かドンキホーテ・ドフラミンゴに違和感があった。
「……っ、くそ、このままじゃ間に合わねぇ」
時々漏れるドフラミンゴの愚痴。
最近になって増えてきた、ように思える。
その時は決まってお金が裏にある。
「(私はなにか、大事なことを見逃している……?)」
国を混乱に陥れ、悪逆非道の限りを尽くし、父を玉座から引きずり落とし、国民を殺し、おもちゃにした男。裏ではジョーカーとして商品を密売する新世界最大規模の犯罪組織の主として君臨し、カイドウを始めとする海賊たちを相手に取引をしている。
そんな最悪な男。悪のカリスマと誰かが言っていたが、それは正しいだろう。
抱いた微かな違和感にヴィオラは問いかけた。
「何を考えているの?」
するとドフラミンゴは、驚いた顔を見せたあと、しばらく黙った。
そして──傷ついたような、笑みを浮かべた。
「人を殺す方法だ」
決定的なことが起こったのはとある真夜中。
「──金をかき集めろ!国民から、強奪しろ!今すぐにだ!」
横暴な命令がドンキホーテファミリーに放たれた。焦りを浮かべたドフラミンゴの顔には、汗が流れている。
「海賊、国民、全てから奪い取れ!一時間以内だ!俺の命令を聞け!」
「ドフィさん!!!!」
ドフラミンゴの状況を見た、リィンという子供は男の元に駆けつけた。リィンがもっと子供の頃にこの国を訪れたことがある少女で、今では準ファミリーに位置する者だ。元海兵との事で、ヴィオラにとっては毒気がない彼女にほんの少しだけ救われていた。
「もしかして、もう……!?」
「あぁ……っ、リィン、今すぐ金を」
「ダメでしょう!それでは根本解決にならない!それは、10年前と同じ悲劇を生むことにしかならない!」
「なら他になんの策がある!!!お前ならこの国を救えるって言うのか!?ふざけるな!!」
「救う救えないではなく、救うように動け!いい加減悪役にあぐらかいて座ってんじゃないって言ってるんです!!!」
リィンの言葉にドフラミンゴの顔はハッと驚いたようになった。
「私がフォローします。だから、動け、足掻け!」
「……助かる、頼んだリィンちゃん」
「承知です。──ヴィオラさん、このドレスローザに近付く海賊船を監視してください。何処からやってくるのか、他に周辺からの攻撃は無いか、全部です!」
突然役割を振られたヴィオラはその剣幕に驚きながらも頷いた。
「俺は国民をなるべく1箇所に集める。パラサイトで有無を言わさない。1秒でも惜しい」
「ピーカさんは今すぐこの土地を防衛戦に切り替えて!コロシアムの出場選手に戦ってもらって、おもちゃを今すぐ支援に回してください!」
次々飛ぶ指示に混乱状態のヴィオラは、リィンに聞いた。
「一体、何が起こってるの?」
「…………10年前、この国がドフィさんに乗っ取られました。それは当事者のヴィオラさんもご存知のはず」
忌々しい過去。
リィンの言葉にヴィオラは素直に頷いた。
「実は、その過去にはもう少し複雑な事情があったんです」
「……事情?」
「とある海賊がこの国を食い物にしようとしたんです。人を虐殺し、国の資産を我がものにしようとした男が」
まるでドフラミンゴの話だ。それがドフラミンゴでは無いというのか。
「……海賊は並ならぬ平和に対しての執着を持っていて、800年戦をしていないこの国の平和は目標となってしまった。だから、ドフィさんはこの国を売ることに決めた。『かつては俺の一族の国だ。俺のものと言っても過言では無い。金なら払う、だから見逃せ』と」
「そんな……」
「金額は──200億ベリー。ドフィさんは当時、一介の海賊でしかなく、100億も持っていなかった。せめて半分。それが10年前、ドフィさんがリク王に提案した真実です」
途方もない提案だ。
ヴィオラは震える手で服を握った。
「でも、彼は父を操って国民を殺したわ!それならなぜ!」
「この国を平和から逸脱させる為に、です」
リィンが悲しそうに目を伏せる。
「足りなかった。どうやったって金は足りなくて、だからその海賊から狙われない、平和という国を変えようとした。だからドフィさんはリク王を操り、あくまでもこの国が国民の平和を奪うという、『国としての平和』を消し去りました。まぁその行動自体は大違いですけど」
「リィン!」
「はいはいごめんです。……平和を奪われた側はドフィさんを恨む資格があります。というかドフィさんは恨まれることで救えなかったという罪悪感から目を逸らしたいだけです」
あまりにも衝撃的な話が多く、ヴィオラはいっぱいいっぱいだった。
「『七武海の国王』『悪のカリスマ』『リク王が国民を殺し回った』ここだけ聞けば平和とは言えない国です。一切。だからその男は平和ではなくなった国に興味を抱かない、はずだった。でも実際はこの10年間、ドフィさんは裏稼業で稼いだ利益の殆どを上納し、目を逸らし続けました。おもちゃにされた人間は他者から記憶を消されます。要はまぁ、国民全員をおもちゃにしてしまえばその男からの記憶からドレスローザという標的が消せる、と思ってもいたんですよね」
「……それじゃあ、もしかして今って」
「はい。その男が今までの上納金に満足いかず、襲いかかって来るところです」
ドフラミンゴでさえ怯える人間が今、この国の平和を壊しに来た。
「ヴィオラさん、恨むなとは言わないです。ただ、この国を延命し続けたのは、ドフィさんでした。覚悟を決めてください、ドフィさんが負ければ、この国は滅びます。ひとり残らず」
「っ!!」
「敵は──この歴史上最も危険な男、ロックス・D・ジーベックの息子、黒ひげマーシャル・D・ティーチ」
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「はい、お疲れ様です〜」
「イテテテテ。ドフラミンゴが思っているより強すぎたんだが」
「トンタッタ族のちゆぽぽっていう回復能力奪い取ってきたですから、これで回復してください」
海賊島。
ここには黒ひげの一味とリィンが居た。
『──ねぇティーチさん、貴方悪名高めたくないですか?作戦に乗ってくれれば、四皇と並ぶくらいの悪名を広げますよ?まぁ貴方の悪名を広げないようにしてたの、私なんですけど』
提案の一番最初の言葉はこれだ。
「被害者が出てもいいから、ドフラミンゴと戦って最終的に撤退して欲しい、だったな?ゼハハハ!随分とまぁ、面白いことをするじゃねぇか!」
「まぁこれでドレスローザは『凶悪な外敵から国を守っていた不器用なドフラミンゴ』というイメージを抱いたでしょう。善戦お疲れ様でした。ドフィさんがボロボロになればなるだけ政戦は有利に動きますからねぇ」
「悪魔だよお前は」
「能力者ですもん!」
「元国王に怪我を負わせ、それを守るドフラミンゴの姿と来たら、お優しくて涙が出ちまうよ。──全部演技だって知らなかったらの話だが」
裏で手を組み、真の悪役として暴れて貰った黒ひげにリィンは笑顔を浮かべる。
「おかげさまですぅ。コレのお陰で、海軍では貴方を賞金首に出来ますので、まぁトントンってことで」
「悪い女だ。馬鹿をさせてくれねぇ」
ヒーローとは言い難いが、愛され悪役、くらいにまでは評判を回復させたであろうドフラミンゴ。
黒ひげは素直に黙祷を捧げた。
これからジョーカーの繋がりを海軍で叩き、膿取りをしなければならない。ドフラミンゴはリィンの平和のためにせっせと働かざるを得ないだろう。
国の真実は、ヴィオラが涙ながらに語らざるを得ない。なぜなら国民の殆どがドフラミンゴの行動に疑問を抱いた事件だったからだ。
『なぜリク王を助けたのだ?』などなど、リク王側の人間やおもちゃからはより一層向けられるはずだ。
怯える闇を振り払った今、『あえて悪役しなくて良くなったんだから、素直になっちゃえよ』という演技をする必要があったので。
「ローさんがこれでSADを壊してくれれば、ドフィさんはカイドウに狙われる。国民はようやく訪れた真の平和から再び混沌に戻りかねない。……ヘイトが向くのはどっちだか」
「おいおいおいおい」
「あ、でもそうなると今度はシーナの方が離れかねないので、ローさんにはもちろんロシナンテの生存報告と共に徐々に味方に着いてもらいますよ。そうすればロシナンテもローさんを守るためにドフィさんと共に動く」
「すまん前後関係が全く分からないから何を言っているのかさっぱりだ」
「要は幸せな砂糖菓子でできた甘い首輪を互いにつけて暖かい人質にしましょうね、ってことです」
「分からないってことにしておいてくれ。巻き込まれたくなくなってきたな」
リィンは明るい空を見上げながら微笑んだ。