姫騎士と傭兵   作:姉川春翠

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第一章 姫騎士と王国
プロローグ


 この世界には、五つの大陸が存在していた。北に位置するクローロン。西に位置するレウコン。東に位置するキュアノエイドス。南に位置するエリュトロン。そしてそれら四つの大陸に囲まれるように中央にあるクサントンである。

 長い間、それぞれの大陸には多くの人が住み、それぞれの文化を持つ国が存在していた。ただ一つ、中央の他より小さな大陸であるクサントンを除いて。

 しかしある事件をきっかけにして中央の大陸には大勢の人々が集まり出した。子供、老人、そのほとんどがその事件を境に貧しくそして国にもいられなくなった人たち。

しかし彼らは貧しい身でありながらも、長い年月を掛けてある一つの国を生んだ。

 その国の名を、フローライトと言った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 近年大きな繁栄を得たフローライト王国は、膨大な面積の森林を仕切りに帝都と一つの小さな村で出来ていた。村から帝都へと向かう場合。帝都から村へと向かう場合。そのどちらも中央を仕切っている森を二、三日は歩かなければならないほど大きな森林だ。

 そんな大きな森の中を、たった一人で歩く青年がいた。白を基調とした丈の長いコートに身を包み、身の丈ほどはある大きな剣を背中の鞘に納めている。

 首の裏の付け根辺りにほんの一瞬見えたまるで風を模したような紋章は、この世界において“傭兵”を意味していた。

 そんな彼の顔はどこか少し大人びたような整った形をし、それとは相反して髪は所々跳ねた状態となっている。

 

 不意に青年は立ち止まり大きなため息を吐いた。

 

「全く……相変わらずここは無駄に広いな」

 

 今青年が歩いている道は帝都と小さな村を結ぶために作られたただ一つの道だった。

 昨夜の晩に村を出発した彼は、帝都へと向かうためにまだ二、三日は森を歩かなければならない。

 

 何故青年がこの道を歩いているのか。それは幾つかの理由があった。

 まず一つはある目的のために里帰りをするため。次にとある情報を手に入れるため。そして最後に、ある人物を探すためである。

 

「最近ここいらの魔物は突然変異だかなんだかで凶暴化してるってよく聞くしな。一応は警戒しとくか」

 

 そう言って青年は、背の大剣の柄に手を添えて少しの注意を払いながら森の中を進んだ。

 

 彼の言った“魔物”とは、この世界に生きる生物の一種である。

 犬や猫と名付けられた動物や人間と区別され、凶暴性があり、人を襲うことがよくあるとされている。

 しかし、知能ある人の力を持ってしても“魔物”がどういう存在なのかという概念そのものに関しては未だ解明されていないことが多く存在する。

 その一方で、遙か昔に作られた世界最古とされているある書物の一説にこう書かれている物があった。「“魔物”とは、人の罪である」と。

 この意味がわかれば魔物がどういう存在なのか、どういう経緯で誕生したのか。そもそも何故他の動物は襲うことが少なく、人を多く襲うのか。その謎が解ると判断した多くの研究者達は、その真意の解明に急いているのだった。

 

 それはさて置き、そんな魔物が多いとされているこの森の中を、たった一人で横断しようとしている彼はそれなりの実力者ということなのであろう。

 

「あー、面倒くせ……何もやることないし暇。ちょっと休憩」

 

 しかし、どうやら面倒くさがりの部分もあるようで、彼はそう言うと丁度近くにあった岩に腰掛けた。

腰に下げていた水筒の水を一口二口と飲みため息を吐く青年。

 

 彼が探している人物とは、行方不明となった王国の姫である。直々に王からの呼び出しを受け渋々その依頼を受けた青年であったのだが、何分大陸のほとんどを占めるだだっ広い森林において行方不明者を探すのは非常に困難であった。

 しかも村へ行く正規の道、つまりは青年の通っている道を通っていないというのだから探す難易度は上がっていた。村にいたという情報もあったのだからすぐ見つかると思っていた青年だが、宛が外れてしまったというわけである。

 そもそも何故青年に姫を捜すという重大な依頼が王直々にされたのかは、やはり彼にそれだけの実力と信頼が大きいというのがわかる。

 

「ったく……なんで俺が」

 

当の本人は、迷惑以外の何物でもない様子ではあるのだが。

 そして再び帝都への帰路を歩こうと立ち上がった時だった。

 

「きゃあぁぁあぁーっ!!」

 

 突然何処からか、女性の大きな悲鳴が森の中に響いた。

 

「ああ……面倒なことは嫌なんだが……」

 

 道中を急いでいる、のかどうかはわからないが、面倒なことを避けたい気持ちで一杯の青年はその悲鳴を無視しようかとも考えた。

 しかし、この場所で悲鳴しかも女性の物となると彼が探している人物である可能性も捨てられない。

 

「仕方ねぇな……ったく」

 

 青年はため息混じりに嫌々そうな表情をしながらも、悲鳴の聞こえた方向へ駆けだした。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 悲鳴の先には一人の少女がいた。どちらかと言えば美人と言えるその顔立ちと、少し薄い感じの金髪。前髪を目の上で揃えて切り下ろし、後ろ髪は背中までの長さ。服装は右腕は半袖、左腕は長袖のヘソが出るような短いシャツの上に胸当ての甲冑を着け丈の少し短いスカートを履いている。

 そんな彼女の目の前には、刃の横幅が広い大剣を持った牛のような頭をした魔物が命を狙おうと立っている。

 対し少女の手には無惨にも折れてしまった細い剣。

 

「あ、あぁ……」

 

 絶望的な状況に、少女は恐怖した。今の自分に待ち受けているのは“死”。それがわかっている彼女はすぐにでも逃げ出せれば良いのだが、その恐怖によって足が竦みその場から一歩も動くことが出来ない。

そんな恰好の獲物を魔物は見逃すわけもなく、手に持った得物を大きく振り上げた。

 死ぬ。そう少女が思った時だった。

 

 突然、何処からか飛んできた魔物の持つ物に負けないような大きな剣が、風を切る音を鳴らしながら、少女と魔物を割ってはいるように地面に突き刺さった。

 

「おいおい。いつからそんな剣持った魔物なんて出るようになったんだ?」

 

 そう言って木々の陰から姿を現したのは、先ほど道を歩いていた青年だった。

 少女は呆然とした顔で青年を見た。対し青年は少し呆れた表情で少女の顔を見る。

 

「おい、そこのお前。突っ立ってないで少し下がれ」

 

 青年の発言に、最初は呆然としたままだった少女だったが、ハッとすると、

 

「ぶ、無礼者!私を誰だと思っているのですか!!」

 

罵声を上げた。

 

「ん?ああ。助けいらない?じゃあ俺道に戻るわ」

 

 そう言うと青年は、いつの間にか手にしていた大剣を背中の鞘に納めると、その場から立ち去ろうと背を向けた。

 

「え?あ、ちょ、ちょっと!」

 

少女はすぐに呼び止めようとする。が、それを見計らったかのように魔物は彼女に向けて剣を振り下ろした。

 

「ひっ――!」

 

 少女は短く悲鳴を上げて思わず目を瞑った。

 しかしそれ以降全く痛みを感じなかった彼女は、瞑った目を恐る恐る開ける。すると、

 

「全く……あんま強情張ってっと早死にするだけだぞ?」

 

あの青年が、大剣で魔物の攻撃を受け止めていた。

 

「ほら。さっさと離れろ。邪魔で仕様がない」

「なっ!?邪魔ですって!?」

 

 青年の言葉が癪に障ったのか、少女は声を上げた。

 

「邪魔って、私もちゃんと戦えます!」

「そんな折れた“鉄の枝”でか?」

 

 青年の指摘に少女は言葉に詰まった。

 彼の言う通り、少女が持っている剣は細くそして折れている。こんな状態では、ましてや先ほどまで恐怖に囚われていた少女では目の前の魔物に太刀打ちが出来るはずもなかった。

 

「わかったら下がる」

「――はい、わかりました」

 

 そう言うと少女は少し思い詰めた表情で青年の背中から距離を取った。

 

「素直でよろしいってな」

 

 そう言うと青年は魔物の方へと向き直る。

 内心少女は少し心配だった。それは、果たして青年はあの魔物に勝てるのか。大丈夫なのか、ということだ。

 青年の服の袖から見える腕は華奢で細く、見た感じ体つきもいいとは言えない。

 

「さてさて、この牛野郎。面倒だからさっさと終わらせるぞ?と言っても」

 

 しかし、青年に対してその心配は無用だった。

 

「俺が剣を受け止めた時点で、お前は死んでるがな」

 

 青年がそう魔物に吐き捨てた瞬間、牛のような頭をした魔物の体切り刻まれ、肉片すら残らずに跡形もなく消えた。

 少女は唖然とした。目の前で一体何が起こったのかさっぱりわからなかった。

 そして彼女はハッとして思い出した。先ほど自分を置いて立ち去ろうとした際、地面に突き刺さっていたはずの剣が、いつの間にか彼の手元にあったことを。

 

 少女は驚愕し、今真っ先に思っていることを口にした。

 

「あなた一体……何者なんですか?」

 

 少女の問いに、青年は無表情で答えた。

 

「ヒスイ=シジスモンド。んまあ、ただの傭兵だ」

 

 この時彼らは知らなかった。この日から、世界が大きく動き出していたことを。

 

 




 どうもこんにちは。今回このサイトで初めてオリジナルを書く不屈の心です。
 今回はプロローグにより結構文字数が少ないかと思いますが、これから増えていく予定です。

 ありきたりな設定ではありますが、次回以降も温かく見守って頂ければなと思っています。

 では、次回でまたお会いしましょう。
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