姫騎士と傭兵   作:姉川春翠

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 盗賊との遭遇から丸々二十四時間が経ち、ヒスイとリナの二人はそれ以降なんのトラブルもなく森の道を進み、今現在丁度森を抜け出ていた。

森を抜けた先には小川が広がっており、橋が架けられている。そしてそのさらに先には、帝都の門が建っていた。

 帝都は魔物の多いクサントンにおいて壁で覆われているのは当然で、二人が出発した隣村であるアネモス村もまた壁に囲まれていた。

 

 それはさておき、二人は橋を渡り帝都の門の前で立ち止まった。

 

「さて、着いたぞ?お姫様」

「またバカにしたような口調ですね、あなたは」

 

 ヒスイの口調に内心呆れながらも、リナは門を見上げた。

 

「何してる?さっさと門を潜るぞ」

「わかってますよ」

 

 そう言うとリナは門を潜ろうと歩き始める。そんな姿がどう映ったのか、ヒスイは小首を傾げて自分も続いて歩いた。

 

 二人が門を潜り、彼らの視界に入ってきた光景は、とても賑やかで穏やかなものだった。

 生活用品や食べ物類を売る店がずらりと建ち並ぶ城下町の商店街。そこには買い物をする町の住民たちで多くの賑わいを見せている。

 そこを進んでいくと次に見えてきたのは住宅街。人が多く住めるよう作られた三階立ての住宅や一件一件家が建ち並んでおり、そこには洗濯物を干す女性とそれを手伝う子供の姿が見える。

 またまだ建設途中の建物もあり、その工事を行っている大工の姿も見えた。

 

 そんな城下町に住んでいる者当たり前のような光景を、リナは目を輝かせて見ていた。

 

「まさかお前、城下町に来るのは初めてか?」

「えっ?あ、ええ。私、あまり外には出られませんので」

 

 ヒスイの質問に、リナは微笑みながら答えた。

 先ほどまで少々不機嫌そうだったのを鑑みるに、どうやらそれが忽ち消えてしまうくらい彼女にとってこの町の景色が新鮮な物に見えたのであろう。

 

「こんなに賑やかだったんですね」

「まあな。昔は皆そうでもなかったが、最近は元気だぞ?」

「そうですか、よかった……」

 

 リナは少し安堵したような優しい表情をする。そんな彼女の姿を見て、ヒスイは少々疑問が浮かんだ。

 

「だがお前、何度か隣村に出てるんだろ?」

「ええ。ですがその時はいつも城の秘密通路というのでしょうか?そこを使っているので」

(――ああ、そういやそんなもんあるって言ってたか?あのじじい)

 

 ヒスイは内心でそう呟くと、一度ため息を吐いて空を見上げた。

 雲一つない快晴で、大空を羽ばたく鳥の色やその姿はっきりとわかるぐらいとても良い天気である。

 と、そのときだった。

 

「あれ?ヒスイ?」

 

 ふと、おっとりそうな雰囲気の少女がヒスイに声を掛けた。

 髪は金色の綺麗な色をし、瞳はライトグリーン。長い髪を首の付け根辺りで三つ編みに結っている。

 

「今日帰って来てたんだ。何かいい情報は……こちらの方は?」

「ん?ああ、例のあいつだよ」

「ああ、お騒がせお姫様ね」

 

 少女の発言に一瞬むっとしたリナであったが、否定が出来ないため反論をしようという気は起きなかった。

 

「はじめまして、私の名前はエクレール=シトリンです。ヒスイとは一緒に傭兵業をやっています」

 

 エクレールと名乗った少女は、リナの前に立つと丁寧にお辞儀をする。対しリナも同じようにお辞儀をして自己紹介をした。

 

「フローライト王国第一王女、リナ=フローライトです。以後お見知りおきを」

「よろしくね、リナ」

 

 そう言うとエクレールはリナに手を差し出す。リナもそれに応じ手を出し、お互い握手をした。

 

「よろしくお願いします。エクレールさん」

「エクレールでいいよ」

 

 お互いニコヤカな笑顔で握っていた手を離すと、ヒスイは少々感心したように口を開いた。

 

「珍しいな、エクレール。お前が誰かと握手するなんて」

「だって、リナとは仲良くなりたいなって思ったから」

 

 エクレールの意見に、リナも同意だった。

 何故かはわからないが彼女とはきっと仲良くなって色々なことをする。リナはそんな気がしているのだ。

 

「そうかい」

「うん。ところで今からあのじじいのとこに行くの?」

「ん?ああ、そうだ。さっさと行きたいし、話の続きはまた後でな。買い物の途中だろ?」

「あ、そうだった。今日のご飯何がいい?」

「ん、お任せする」

「了解♪じゃ、またねリナ」

 

 そう言うとエクレールは手を振りながら走り去っていった。

 それを手を振りながら見送ったリナは、ヒスイの方を向き首を傾げて訪ねた。

 

「彼女とは付き合いが長いのですか?」

「まあな。あいつ小さい時に両親を“あの事件”で亡くしてっから、俺が親代わり兼兄的な感じで一緒に住んで一緒に傭兵やってんだ。あいつも昔はあんなに明るい笑顔は見せなかったな」

 

 そうですか、と返事をするとリナは聞いてしまったことに対する罪悪感と共にあることを彼女は思った。エクレール=シトリンという少女はヒスイ=シジスモンドという青年のおかげで今も明るく生きているのだと。そして改めて、目の前にいるこの青年は優しい心を持っているのだと。

 

「優しいのですね、あなたは」

「優しくなんかねぇよ」

 

 そう返すとヒスイは城に向けて歩いていく。

 

(――照れている……のでしょうか?フフフ、少し可愛いところもありますね)

 

 そう内心で呟いたリナは、先を進むヒスイの後を追って走った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 この国フローライト王国の帝都の構造は、壁に囲まれた城、城壁を越えた東に広がる城下町、そして南にある港と、大きく分けるとこの三つによって成り立っている。

 ヒスイ達は城へ向かう間少し町を散策しながら進み、というのも町へ来るのが初めてもしくはそんなに来ていないリナが町の様子を見たいと言ったためであるが、ヒスイが予定していた時間より少し遅く城門に差し掛ろうとしていた。

 町から階段に上がり、城門前の少し開けた場所に出た時、ふと「姫様ー!」と言って駆け寄ってくるメイド服姿の少女の姿が見えた。

 

「姫様!ああ、姫様。心配したのですよ?」

 

 見るとその少女は、メイド服と言っても少し丈の短いのを来ているため、少女の綺麗な素肌と臍が露わになっている。

 

「ゴメンなさい、マリア」

 

 マリアと呼ばれたこの少女、左目は前髪で隠し、背中まではありそうな長い髪の毛は左の頭の高いところで一つに纏められている。

 

「大体姫様、一体どこに」

「あ、紹介します。こちらは私の侍女のマリア=トルマリンです」

「て、無視しないで下さ……なんであんたがここにいるのよ?」

 

 リナがヒスイに紹介していると、マリアは睨み付けるような目つきでヒスイを見た。

 

「よぅ、バカメイド」

「えっ?お知り合いですか?」

「まあな」

(――もしかして彼、以外と顔が広い?)

 

 町の住民とかならともかく、まさか自分の侍女とも知り合いだとは思っていなかったリナは、首を傾げながら内心でそう呟いた。

 

「まあいいわ。姫様を連れてきたのなら王の下まで案内するわ」

「お前は方向音痴だからやめとけバカメイド」

「はぁ!?なんですって、この天然記念物!!」

 

 ヒスイの悪口ならともかく、マリアの“天然記念物”というのがよくわからないリナだが、この二人の関係についてあることを思った。喧嘩しているように見えるだけで、仲が良いのだろうなと。

 

「はいはい、とりあえずじじいの所に行くぞ」

「なっ!?まさかじじいというのは、お父様のことだったのですか!?」

 

 不意に聞こえたヒスイの言葉に、リナは思わず反応してしまった。当然と言えば当然だ。なんせ一国の王である父を「じじい」呼ばわりするような輩がいるとは思ってもいなかったのだから。

 

「そうなんですよ姫様!この天然記念物、こともあろうかじじ、お父様のことをじじい呼ばわりしているのですよ!」

「な、なんてこと!?」

「あー、どうでもいいから」

 

「「どうでもよくない!!」」

 

 リナとマリアの二人は同時にヒスイに罵声を浴びせる。対するヒスイはやはりと言うべきか面倒くさそうにするわけで、二人のことは無視し城の仲に入ろうと歩きだした。

 

「こら!ヒスイ!」

 

 ヒスイが歩きだしたのを見たマリアは、呼び止めようと声を張り上げた。だがヒスイは、それを無視するかのように耳に手を当てて歩いていく。

 

「はぁ……」

 

 マリアはため息を吐いた。

 

「久しぶりに顔を見せたと思ったら、相変わらずなんだから……もう」

 

 などとぶつぶつ呟くマリアのことを、リナは不思議そうに見ていた。

 

「もしかしてマリア、彼のこと好きなんですか?」

 

 リナがそう言った瞬間、マリアの顔が例えるならまるでトマトのように真っ赤に染め上がった。

 

「な、ななななな何を言っているんですか姫しゃま!?」

 

 リナの問いに否定しようと声を上げる。が、あまりにも動揺し過ぎたマリアは、早口になってしまい自分の舌を噛んでしまった。その痛さに耐えきれず、マリアは涙目になりながら口に手を当てて「うぅー」と唸り声を出すのだが、

 

(――なんてわかりやすくて可愛らしい反応をするんでしょうかこの子は)

 

 リナはそんなマリアの姿を見、苦笑いになった。

 行動からしてどうやら自分に仕えている侍女が自分が出会った男性を好いているのだと思うと、リナはどうしてもマリアを弄らずには居られないのが彼女の性分である。

 

「どこですか?彼のどんなところが」

「あぁー!私は何も聞いてません!何も聞いてませんからー!!」

 

 しかし、リナが弄ろうと質問し掛けたのだが、マリアはそれに耳を傾けようともせずに、顔を真っ赤にしながらヒスイを追うようにして城の中に走り去っていった。

 

「あ、ちょっと待って下さーい!」

 

 一人取り残されたリナは、せっかく普段弄ることのない侍女を弄る機会が出来たというのにそれを逃してしまったと内心舌打ちをしながら、彼女もまた二人をを追いかけるようにして城の中に入っていった。

 

 

 

ちなみに、

 

「そういやバカメイド。お前、じじいって言い掛けてなかったか?」

「うっ……姫様には絶対に言わないでよね」

 

などと、王の謁見の間に向かうまでの道中マリアとヒスイがそんな対話をしていたというのは、リナには内緒のことである。

 

 

 




どうでしたでしょうか?

ちなみに今回出てきたマリアは、作者の結構気に入ってるキャラです。活躍にご期待下さい……なんてねww

ではでは、次回でお会いしましょう。
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