姫騎士と傭兵   作:姉川春翠

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7.

 

「いやー、助かったよー!」

 

港に着いたヒスイとマリアの二人は、海賊の少女とエクレール、そして遠くで見守り待っていたリナと合流していた。

 

「突然後ろに現れるもんだからさ、いやービックリしたよー。船を反転させようにも、その隙に的にされちゃうだけだし。術もそう長くは使えなかったから、ホント助かったよ」

 

 ありがとうと少女は頭を掻きながら、ヒスイとマリアに感謝の言葉を述べた。

 

「船はどこに置いてきたんだ?」

「案内された洞窟に停めてきたよ。町の人に騒ぎにされても困るしね」

「まあ、それが賢明だな」

 

 ヒスイと海賊の少女のやり取りを見ていたリナは、自分の思っている疑問を口にした。

 

「えっと、彼女は誰なんですか?」

 

 リナの質問に真っ先に答えたのはヒスイではなく本人だった。

 三角帽子を取り丁寧にお辞儀をして自己紹介を始める少女。

 

「どうもはじめまして。アイオライト海賊団の船長、マリネ=アイオライトです。姫ちゃんって呼んでいいかな?」

「えっ?あ、はい。って船長!?」

 

 リナは少女の自己紹介を聞き、思わず驚きの声を上げた。

 目の前にいるマリネと名乗った少女は、どこからどう見ても10代前半のまだ幼い少女。

 そんな少女が海賊の船長をしているというのは、リナにとって驚き以外の何物でもなかった。

 

「うっふふん♪新鮮な反応をどうもありがと♪」

 

 そんなリナの反応が嬉しかったのか、マリネはニコニコとしながらそう言った。

 

「っていうかマリネ。なんであんた戦わなかったのよ?海はあんたの領域(テリトリー)でしょ?」

「確かにわたし(・・・)の水奏術は水が多ければ多いほど威力が上がるけどさ。でもわたしが前線出ちゃったら船沈んじゃうじゃない?」

「まあ、そうかもね」

 

 ニコニコと笑顔で答えるマリネに対し、マリアはため息を吐く。

 どうも何か腑に落ちないらしい。

 と、マリアがそんなことを考えていた時だった。

 

「ところでさ」

 

 と目を輝かせて言うと、マリネはニヤニヤと笑いながら背後からマリアの胸に触れた。

 

「ちょ……!?」

「いつからそんなマニアックな格好するようになったのー?相変わらず胸は小さいけど」

 

 手をにぎにぎとさせ、マリアの胸を触るマリネ。その感触に体を震えさせているメイドに、彼女は大興奮していた。

 

「うふふ♪でも敏感さんだねー?」

「ちょ、ちょっと離しなさい!」

「うーん♪いい匂いだー♪」

 

 マリアの体に顔を擦り付ける幼い少女。彼女の行動から見てわかるように、マリネにはある女性癖があった。それは、可愛い女性を見るとスキンシップ基セクハラ行為をせざるを得ないという。

 一体、何の病気であろうか。

 

「いい加減に、しろこの変態女!」

 

 そろそろ我慢の限界だったのだろう。マリアは体に引っ付いているマリネを無理矢理引き剥がしに掛かった。しかし、

 

「うっ……!くぅ……!?」

 

 マリネの力が想定以上に強く、簡単に引き剥がすことが出来なかった。

 それどころか締め上げられる感触に、マリアは歯を食い縛った。

 

「マリアってば、意外にこういうことされると喜んじゃうMさんだもんねー♪」

「んなわけ、くぁ……!?」

 

 マリネは一度思い切りマリアの体を強く抱き締めた。

 その圧迫感に身を仰け反らせたマリアを見て満足したのか、マリネは彼女の体を離した。

 開放されたマリアは、息を荒くしながらマリネを睨み付ける。

 

「んー、もっとマリアを堪能しても良かったのだけど」

 

 しかしそれには目もやらずにそう呟くと、変態少女は標的を変えた。それは、

 

「お、姉ちゃーん!」

 

 彼女が世界で最も愛していると言っても過言ではない人物「お姉ちゃん」と慕っているエクレールだった。

 

「ひゃっ!?」

「んー、これこれ!この感触だよー♪お姉ちゃんってば、年の割りに胸大きいよねー♪」

 

 そう言うとマリネは、マリアにした時と同じように今度はエクレールの胸を触り始める。

 

「細く引き締まった体、柔らかい胸」

「やっ……!んっ……!」

「そして可愛い声可愛い顔!やっぱりお姉ちゃんは最高だー♪」

「い、いい加減離れてよマリネ!」

 

 頬をほんのりと赤くしながらも、エクレールはマリネをなんとか引き離した。

 どうやらマリネの女性癖はほとんど生まれつきのような部分があるようで、その証拠に彼女の年齢は13歳だった。

 そしてその対象のほとんどが親しい人物のようでもある。まあ、受ける側からすれば迷惑極まりないのであろうが。

 

「んー、お姉ちゃん成分はまだ足りないけど」

 

 再び呟き、マリネはリナの方を見た。

 

「新しい成分、姫ちゃん成分を堪能しますかねー♪」

「へっ?」

 

 マリネの発言に、リナは素っ頓狂な声を上げてマリネの方を見た。

 

「じゃあ、いっただきまーす!」

 

 そう叫ぶと、マリネはリナの胸に手を当てた。

 

「おっ……!おぉ!?」

 

 するとマリネは、歓喜の声を上げた。

 

「大きすぎず、小さすぎもしない丁度良い大きさ。お姉ちゃんに負けないくらい柔らかく、そして弾力性があってすごく揉みごたえがある!」

 

 いらない解説をどうもありがとうございます。マリネさん。

 

「ひゃうんっ!?」

「しかも感度抜群!?何この娘!?姫ちゃんもしかして誰かに触られるために生まれてきたんじゃ!?」

「そ、そんなわけ……あぁん!?」

 

 リナの甘い声に震えながらも、マリネは彼女の全身を触り始めた。その瞬間だった。

 

「姫様から離れろ!この変態っ!」

 

 リナのあられもない姿に一瞬フリーズしていたマリアが、マリネを引き離そうと、

 

「うひゃあ!?危なっ!?」

 

一本のナイフを投げた。

 マリネのスキンシップという名のセクハラ行為から開放されたリナは、まるで力が抜けたかのようにその場にへたり込んだ。頬はほんのりと赤く染まり、息も少々荒い息づかいになっている。

 

「ちょ、ちょっとマリア!姫ちゃんに当たったらどうするの!?」

「当たらないように狙ってるわよ!」

「だからって、万が一のことも!」

「やかましい!」

 

 それを傍目にマリアが叫び、二本目のナイフが投擲された。

 マリネはそれを素早く、しかし間一髪ながらも回避する。

 だがそれは、悲劇を生んだ。

 ナイフは一直線にヒスイに向かって飛んでいったのだ。

 ちなみにヒスイはマリネのスキンシップ行為に、目を瞑りながらイライラしていた。と言うのも彼は早く城に戻って話をしなければならないと思っていたからなのだが。

 そして飛んできたナイフをパシッと受け止めた瞬間、何かが切れる音が聞こえた。ヒスイの中にある堪忍袋の緒が切れる音が。

 

「「あっ……」」

 

 マリアとマリネは、声を揃えて固まった。体は小刻みに震えている。

 そして、

 

「てめぇら……いい加減にしろやーっ!!」

 

 大きく息を吸ったヒスイの大きな罵声が、夕焼けの空に大きく鳴り響いた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 マリネのセクハラ行為、そしてマリネとマリアの追いかけっこはヒスイの罵声により終止符が打たれた。

 どうやら相当怒りが溜まっていたようで、ヘたり込み力が入らないリナを余所に、三人を正座させ小一時間くらい説教が飛び交っていた。

 ちなみに三人というのは問題の二人の他に、どういうわけか巻き添えを食らったエクレールを含めてである。

 

「うぅ……ちょっとしたスキンシップだったのに」

「何がちょっとしただ?どんどんエスカレートして行きやがって」

「えぇー?でも実はヒスイも興奮してたんじゃない?男の子だもんねー?」

「ほほぉ?どうやら痛い目に遭わないといけないらしいな?」

「どうもすいませんでしたぁ!」

 

 ニヤニヤとからかうように言うマリネだったが、ヒスイがポキポキと指を鳴らしたのを見た途端土下座をして謝った。

 どうやら割りと本気でヒスイは怒っているようだ。それを証拠に、

 

「ぐずっ……」

 

 マリアが今にも泣きそうな目をしていた。

 

「マリア大丈夫?」

「ええ、大丈夫。大丈夫だから……うぅ……」

 

 ヒスイにここまで怒られたのが久しぶりだったのだろう、マリアは結構堪えているようだ。

 

「マリア、これはお前のためでもあるんだぞ?爆発して人を殺したら洒落にならんからな。いや例外はあるが」

「わかってる……ゴメン」

「反省してるならこれ以上言うことはない。まあ今度何か甘いもの奢ってやるよ。俺も少し言い過ぎたかもしれないしな」

 

 ヒスイは面倒くさがりがほとんどだが、親しい人間に対しては面倒見が良い性格だ。

 でなければここまで真摯に怒ったりはしないだろう。

 

「で、私は何で巻き添えを?」

「ん?いや、なんとなく」

「なんとなくで私も怒られたの!?」

 

 いささか疑問ではあるが。

 

「つかもう夕方じゃねぇか。さっさとじじいの所に行くぞ」

 

 そう言うとヒスイはリナの下に近づいた。

 

「大丈夫か?見たところ力が上手く入らないようだが?」

 

 ヒスイの質問に、リナは苦笑いで答えた。

 

「だ、大丈夫です。あれほどの行為を受けたのは初めてだったので……」

「多かったらむしろ問題だがな。良かったら力貸すが?」

「いえ、大丈夫です」

 

そう言うとリナは立ち上がろうと脚に力を入れた。

 初めは何の問題もなく立ち上がるかに見えた。だが、

 

「えっ?あれ?」

「おっと……」

 

 途中で再び力が抜け、倒れそうになりヒスイの体に顔を埋めた。

 リナは驚き直ぐ様顔を上げた。その顔は熟れたトマトのように真っ赤だ。

 するとヒスイは呆れたようにため息を吐き、

 

「あんま無理すんな。ほれ、おぶってやるから」

 

 ヒスイはそう言うとしゃがみ、リナに背中を向けた。

 最初は拒んでいた、というのもあまりヒスイには迷惑を掛けたくないと思っているからなのだが、彼女は自分で歩ける自信があまりなかったため、ヒスイに甘えて背中に掴まった。

 

「よこらせっと。ほら行くぞお前等」

 

 リナをおんぶして立ち上がると、ヒスイは呆然と佇む後ろの三人にそう告げて城に向けて前に進んだ。

 

「ねぇ。ヒスイ、まだ会ったばかりなのに姫ちゃんにすごく優しくない?」

 

「「確かに」」

 

 三人はリナに優しさを見せるヒスイに対し疑念を抱きながらも、彼の後ろを歩き城へと向かう。

 ヒスイの背中に揺られながら、リナは彼女が思っていた以上に落ち着いていた。

 というのも彼女は同い年の男性と接したことがないため、ドキドキするかと思っていたのだが不思議とそういうことはないようだ。

 

(――ヒスイの背中……暖かい……)

 

 内心でそう呟き、リナは同時にあることを思っていた。

 

(――この温もり、どこか懐かしい)

 

 一国の姫である少女は、疲労からかそれとも落ち着きからか、ほんの少しの間目を閉じて眠った。

 

 

 




どうでしたでしょうか?

マリネ。初めて変わったキャラを書くので、ウザイとかそういうことを感じるかもしれませんが、私ともども温かく見守って上げて下さい。

では、次回でまたお会いしましょう。
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