姫騎士と傭兵   作:姉川春翠

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8.

 

 港を後にしたヒスイ達一行は、フローライト城に赴いていた。

 海賊騒ぎに関しては、ヒスイが追い払ったということでほとぼりが冷めた。

 実際は追い払ったのではなく、追われていたのを保護したのであるが、海賊を良く思わない者が多いため隠すということになったのである。

 城の廊下を一度も間違えずに謁見の間に着いた一行は、扉を開けて中に入った。

 

「連れてきたぞじじい」

「やっほー♪久しぶりだねじじい♪」

「ホント、久しぶりだねじじい」

「うむ。以前から思っていたがそのじじいという呼び方はやめないか?やめたら美味い食い物を何でも」

 

「「「ふーん……だが断る」」」

 

 部屋に入って早々王のことをじじい呼ばわりしたヒスイ、エクレール、マリネの三人は、王の要求をきっぱりと断りそう言う。

 それを聞き王は深くため息を吐く。どうやらこの光景は会う度になっているようで、マリアは苦笑いになった。

 そんな中リナはあることを思っていた。

 それは何故父がこんなにも知り合いがいるのか。しかもその知り合いは皆娘と同い年か年下。

 一体どのような経緯で彼らと知り合ったのか、リナは知りたいという衝動にかられた。

 勿論場所が場所と言うだけに、父を問い詰めるということはしないのではあるが。

 

「大体マリネ。あれ程時間に気をつけろと念に念を入れて伝書を送ったはずだが?」

「仕方ないじゃん!いきなり後ろに現れて襲われたんだもん!」

 

 ぷんぷんという擬音が聞こえそうな程頬を膨らませてマリネは言った。

 対し王は少々深刻そうに顔をしかめる。

 

「潜水船……本当なのか?」

「うん、いきなり海の中からこう、ザバァ!っと」

 

 王もまた知っていた。

 現代の技術ではまだ潜水船は作れるはずがないということを。

 方法がないわけではない。例えば魔術、マリネが得意とする水奏術を使えば不可能ではなかった。

 しかし、それには高い技術と血の滲むような鍛錬が必要。

 それを、

 

「ヒスイ。船に乗っていたのが魔物だったというの本当か?」

 

魔物が可能にするとはとても考えられなかった。

 

「ああ、本当だ。マリネ達を襲ったのは魔物だった」

 

 襲ってきたのは魔物。このことにはさすがのマリネも驚きを隠せなかった。

 

「そんな!だって」

 

 魔物には知能がないはずじゃ。リナは思わず叫んだ。

 長年の間、人や他の種族間では魔物は知能を持たないとされてきた。

 だがこれまでの事は全て本能で行えることではない。ましてや船を潜水いやそもそもの前提として扱っていたのだ。

 そう、今回の出来事は今まで歴史が積み上げてきた結論を全て覆す事になるのだ。

 

「おいじじい。こりゃ世界に何かが起こるぞ?それこそ、世界が滅びるかもしれない何かが」

 

 王を除く全員がヒスイの言葉に息を呑んだ。

 

「てめぇが貿易を行うって言ったのも、それを見越してのことだと推測するが、どうだ?」

 

 ヒスイの問いに、王は一度目を瞑り答えた。

 

「知っての通り、最近この国で魔物の被害が多くなった。原因は魔物の突然変異及び凶暴化とされている」

 

 だが、と一言置き、王は瞑っていた目を開ける。その瞳には真剣以外は何も感じられない。

 

「被害報告を見ている内に思った。魔物は突然変異や凶暴化したのではなく、知能を持ったのだと」

「そ、そんな!それじゃ今まで言い伝えられて来たことが」

 

 間違っていることになると言おうとした時、リナはハッとした。

 自分が襲われた時、魔物が妙な行動を取っていたことを思い出したのだ。

 襲った魔物は、一振りの大きな剣を扱っていた。

 しかもまるで鍛錬された人間が扱うかのように。

 

「あくまで言い伝えは言い伝え。もしかすると、魔物は最初から知能があったのかもしれん」

 

 そして、何かの意図があってそれを隠してきた。そう王は告げた。

 王の言葉に、その場にいる者は深刻な表情をした。ただ一人、

 

「なになに?みんなしてなに深刻な顔してんの?元気に行こうよ!」

 

 マリネは例外だった。

 

「マリネ?あなたちょっと緊張感という物を覚えたらどうかな?」

「お姉ちゃんはもう少し楽観的に物事を考えたらどうかな?」

 

 マリネはそう言うと、笑顔で口を開いた。

 

「そんなの今考えても仕方ないじゃん!とりあえず目の前のことを考えようよ!」

 

 全員の緊張を解すかのような発言に、ヒスイはニヤニヤと笑いながらマリネの頭に手を置いた。

 

「へぇ?お前にしちゃまともな意見だな」

「失礼な!私の考えはいつもまともだよ!」

 

 どこが。とマリネを除く女性陣は声を揃えて呆れた表情で呟いた。

 しかしその口に、三人は微笑みを見せている。

 ヒスイはマリネの頭を少し乱暴に撫でると、息を吐いて真剣な眼差しになった。

 

「目の前のことに関してだが、俺が隣村である情報を手に入れてきた」

 

 そう言うとヒスイは懐から一枚の地図を取り出した。

 それを見たマリアはすぐ玉座の近くに置かれている小さなテーブルをヒスイの下に持っていき、置く。

 ヒスイはそれに感謝しつつ、地図をテーブルの上に広げた。

 

「これは、森の地図ですか?」

 

 覗き込み、リナが言った。彼女の言う通り地図には森の詳細が書かれている。

 

「どうやらある村人が偶然魔物の巣らしき物を見た奴がいたらしい」

 

 それを聞き、エクレールも地図を覗き込んだ。

 

「その巣、ていうのはこの赤いインクで印があるところ?」

「そうだ。そしてここに、魔物の城がある」

 

 瞬間王が「なに……?」と呟いた。

 何度も魔物の巣を調べようと思い兵を派遣した王からすれば、それは違和感でしかないのだろう。

 

「魔物の……城?」

 

 マリネは少し震え声で聞いた。

 当然だ。魔物の城なんて聞いたことがないのだから。

 

「ああ。情報を下にパパッと見に行ってきたんだが、そこには城が建っていた」

 

 ヒスイの返答に、場が凍り付くような空気が漂った。

 リナの頭をある疑問が駆け巡る。

 城を築こうんものなら、村の人間や他の者が森を歩いた際気がついてもおかしくはないはずだ。

 

(――そう言えば、私を襲った魔物……どこかに行かせないよう追いかけて来たような)

 

 もし城に気がついた者がいたとして、何故今までそれが城に伝わることがなかったのか。考えられるとすればそれは、見た者は殺されたかもしくは記憶を操作されたかだ。

 それならば、派遣した兵士がなんの情報を持たずに生還したのも頷ける。

 

「そんな……船の次は城?」

 

 今まで魔物と遭遇すれば倒せばいいと考えてきたエクレールやマリアにとって、今回ばかりは少々勝手が違った。

 城を作り出すにはそれに必要な頭数とそれ相応の知識が必要だ。城が建造されたということは、普段とは桁外れの兵力と知能があるということだろう。

 

「ど、どうするの?ヒスイ」

 

 心なしかエクレールの体は震えていた。目もどこかうろたえの色がある。

 

「そんなもん決まってる。潰しに行く」

 

 そう言うとヒスイはエクレールの頭に手を置き、優しく撫でた。

 

「安心しろ。お前だけじゃなく俺やマリ……」

 と、エクレールに向かって何か言おうとした時だった。

 突然言葉を途切らせ、ヒスイは黙り込んだ。

 異変に気づき、エクレールはヒスイの顔を見上げる。すると、

 

「えっ?」

 

 先ほどの優しかった表情とは打って変わり、ヒスイは怒りの形相に変わっていた。

 

「ヒスイ?」

 

 その雰囲気から殺気に似た何かを感じたエクレールは恐る恐るヒスイに声を掛けた。

 

「くっそが……っ!」

 

 だがそれに気にも止めずに怒りの声で呟く。がりっと言う音が聞こえる程強く歯を噛み、空いている方の手で爪が食い込むほど強い力で握り拳を作ると、ヒスイは部屋を退出しようとの扉の方に向かい歩いた。

 

「どこに行く気よ?」

 

 それをマリアが阻んだ。

 最初はこうして問い掛ければヒスイは答えるとマリアは考えていた。

 普段の優しいヒスイならば、彼女の思っているような展開になったであろう。

 しかし、普段とはどこか雰囲気の違うヒスイから返ってきたのは、

 

「どけ……」

 

 まるで凍り付くような冷たい視線、そして殺気の込められた一言だった。

 マリアは固まった。体はぶるぶると小刻みに震えて、瞳は潤み今にも逃げ出したい気持ちで一杯になる。

 

「ど、どうしたのよヒスイ?」

 

 それども勇気を振り絞り、マリアは再びヒスイに問いかけた。

 だがヒスイは先ほどと同じ様な反応をし、どけという言葉には更に強い気持ちが込められていた。

 

「い、一体どうしたって言うのよ?」

 

 今にも泣きそうな気持ちを我慢し、めげずにマリアは問いかける。

 また同じ反応が返ってくるかもしれない。内心でマリアはそう思った。

 しかし、

 

「えっ……?」

 

 今回、三度目の返答はなかった。

 代わりにヒスイはマリアを無視して素通りし、部屋を出ていったのだ。

 過ぎ去ったの感じマリアはその場にへたり込んだ。そして、ヒスイにまるで獅子にも似た殺気に当たられたことに耐えられず、目から一杯の大粒の涙を流した。

 今までの優しかったヒスイとは違う。なにを言っても呆れたようにしながらも、優しくしてくれたヒスイとは違う。それはその場にいる者全員が感じ取っていた。

 

「ま、マリア!大丈夫ですか?」

 

 リナは自分の良き親友でもあるマリアを心配して彼女に近づいた。

 マリアの目からは大粒の涙が落ち、城の床を濡らす。

 それを慰めるように背中をさすり、リナは心配の表情を浮かべた。

 

「ヒスイ、どうして……?」

 

 泣きながら、マリアは疑問を口にした。

 一体突然どうしたというのか。そんな疑念が溢れて止まない。

 やり取り一部始終を見ていたマリネは、小首を傾げた。

 

「ヒスイ、急にどうしたんだろ?」

 

 マリネはそう呟いた。いや、呟いたのではない。

 彼女はそこにいると思っている少女に問いかけたのだ。そう、ヒスイの異変にいち早く気がついたエクレールに。

 だがどれだけ待っても彼女からの返答はなかった。

 不審に思ったマリネは、エクレールが先ほど立っていた場所を振り向いた。

 

「あれ?」

 

 マリネの視線の先に、エクレールの姿はなかった。

 辺りを見回すが一人の少女の姿はどこにも見当たらない。

 

「お姉……ちゃん?」

 

 何度もマリネは辺りを見回した。だが何度見回しても見つからない。

 

「まさか!?」

 

 考えられることは一つだった。

 それは、ヒスイの後を追ったということ。

 

「お、お姉ちゃん」

 

 この時、マリネは何か不吉な予感がしていた。何か、ドス黒い大きな闇が近づいてくるような不吉な感じが。

 

 一方、ヒスイは城を飛び出し、夜の暗い道を駆けていた。

 その表情はさながら何かを追う獣のようだ。

 風を突っ切り、まるで疾風の如く駆けるその勢いは台風のようだ。

 走りながら、ヒスイは呟いた。

 

「この感じ、まさか……!?」

 

 エクレール達と話していた際に感じた、どこか覚えのある気配。ヒスイはその気配の招待と、その居場所を知っていた。いや、感じていた。

 ヒスイは呟く。森にある魔物の城。そこに奴がいると。

 だがヒスイはこの時気づくべきだった。彼の背後約数十mを離れて追いかけるエクレールがいたことに。

 そしてエクレールもまた知らなかった。追いかけたことにより、悲劇が待ち受けていることを。

 

 

 




どうでしたでしょうか?
我ながらちょっとペースが早いような気がして、内容が薄くなってないか少し心配ですw

何かご不明な点、ご指摘などがあれば感想にお願いします。

ではでは。
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