ドラえもん のび太と仮想世界   作:断空我

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13:強くなりたくて

 

「え!?」

 

 抱きしめられたノビタニアンは目の前の事態に戸惑う。

 

「の、ノビタニアンさん!?」

 

「お、おいおいおい、これはどういうことだ!?なんて羨ましい展開なんだよぉ!」

 

 目を丸くするシリカと嫉妬の声をあげるクライン。

 

 対するノビタニアンは目の前の事態にただ戸惑うことしかできない。

 

「えっと、君は……えっと」

 

「のび太君よね?私よ。詩乃……朝田詩乃」

 

「詩乃……え、詩乃ちゃん!?」

 

 ノビタニアンは驚きの声を上げる。

 

 少し離れて少女と向き合う。

 

 ショートヘアーで、不安そうにこちらを見ている少女の顔は数年前のあの日を連想させる。

 

 昔の面影が残っている。

 

 ノビタニアンは察した。

 

「本当に、詩乃ちゃんだ」

 

「久しぶり、のび太君。それにしてもなにその恰好……コスプレ?」

 

「えっと、そのぉ、実はここ」

 

「おい、ノビタニアン、その子は?」

 

 キリトがおそるおそる尋ねる。

 

「少し待ってね。えっと、詩乃ちゃんはどうしてここに?」

 

「……思い出せない」

 

「え?」

 

「思い出そうとすると頭に靄がかかっているみたいにはっきりしないの。唯一、覚えていたのはのび太君の記憶だけ」

 

「どういうことかな?ユイちゃん」

 

「おそらくですけれど、この世界へ来た時のショックなのかもしれません」

 

「それよりも、ここはどこなの?なんでみんな変な格好をしているのよ」

 

 戸惑う詩乃。

 

 彼女がリーファ同様に外からやってきた人間ならキリトやノビタニアン達の格好は変だといえるだろう。

 

 

 ノビタニアンがゆっくりと説明する。

 

 

「えっと、まずは落ち着いて聞いてほしいんだけど、ここはソードアート・オンライン、二年前に発売されたVRゲームの世界なんだ」

 

「ソードアート……オンライン、うそ!あのゲームで死んだら現実でも死ぬというあの!?」

 

「うん、それで……詩乃ちゃん、ここではリアルの名前は禁止なんだ。プレイヤー名……えっと、シノンで呼ぶから、僕たちのことも表示されている名前で呼んで」

 

「わかったわ……えっと、ノビタニアン?」

 

「うん」

 

「どうせだし、自己紹介しましよう!アタシはリズベット!」

 

「シリカです。この子はピナ」

 

「きゅるる!」

 

「俺はエギル。この宿の店主を務めている」

 

「お、俺はクライン!二十四歳独身!」

 

「その情報はいらないだろ……俺はキリト、ノビタニアンとパーティーを組んでいる」

 

「私はアスナ、よろしくね?」

 

「最後はボクだね!ユウキだよ!よろしく!」

 

「……よろしく」

 

 それぞれが挨拶をして詩乃こと、シノンは小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ノビタニアン」

 

「うん?」

 

 クラインへシノンについての情報収集を行うように頼んだ後、キリトは隣にいる親友へ尋ねる。

 

「あの子、シノンと知り合いだったのか?」

 

「……友達、かな」

 

 ノビタニアンの言葉に少しキリトは気になった。

 

「珍しく歯切れが悪いな」

 

「うん、その、彼女と出会ったのはあの事件の後なんだ」

 

「あの事件、か」

 

 ノビタニアンの言葉通りの意味なら“あの事件”とすぐに結び付ける。

 

「あの後、いろいろとやけくそになって東北の方まで家出した時に知り合ったんだ」

 

「長い家出だったよなぁ」

 

 キリトがしみじみとつぶやく。

 

「その家出の途中で知り合って……いろいろとあったんだ」

 

 含みのあるような言い方だが、ノビタニアンとしてはそれ以上、踏み込んでほしくはなかった。

 

 なにせ、シノンこと、詩乃の過去は――深い傷がある。

 

「キリト、ノビタニアン、情報屋とかに調べてもらったぞ」

 

 クラインが店へ入ってくる。

 

「どうだったクライン?」

 

「色々と調べてもらったが、ダメだな。他にこの世界へやってきた奴はいねぇみたいだ」

 

「そうか……とりあえず、一安心ってところかな」

 

「そうだね」

 

 キリトの言葉にノビタニアンも同意する。

 

「とにかく、今後についてシノンと話をしないとな」

 

「何の話?」

 

 三人で話をしていると噂の本人であるシノンがやってくる。

 

「シノンさん」

 

「さん付けはいらないわ。私のことは呼び捨てでいいわ。あなたのことはノビタニアンって呼ぶから」

 

「え、ああぁ、うん」

 

「ねぇ、この世界でHPがゼロになると死ぬのよね」

 

「あぁ。だから安全なところで」

 

「この世界から脱出するために戦っているのよね」

 

 キリトの話を遮ってシノンが尋ねる。

 

「あぁ、今は七十六層、百層攻略を目指している」

 

「命がけの戦い」

 

「……シノン、もしかして」

 

 ノビタニアンが何かを訪ねようとした時、シノンが決意した表情で答える。

 

「私も攻略に参加させて」

 

「な!?わかっているのか!これは」

 

「わかってる。この世界は命がけの戦いをしている。私は強くなりたいの」

 

 強い意志を宿した瞳でシノンはキリトをみる。

 

 その目に何かが気になりながらもキリトは確認した。

 

「後悔、しないな?」

 

「えぇ」

 

 頷いたシノン。

 

 キリトは「わかった」と答える。

 

「俺やノビタニアンが一緒にレベル上げに付き合う。それが条件だ」

 

「わかった、よろしくね」

 

 二人とシノンは握手する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというものの、キリトやノビタニアンはシリカ、リズベット、リーファ、シノンらと交互にパーティーを組みながら迷宮区の攻略を行う。

 

 リーファやシノンと出会い、少しばかりの時が進み現在は第七十九層の攻略をしていた。

 

 システム的な問題なのか周辺のモンスターは脅威と言えずSAO初心者であるシノンでもなんとか戦える相手ばかりだった。

 

「なんというか悔しいわね」

 

「え?」

 

 短刀を構えながらシノンが半眼でノビタニアンを見る。

 

「いくら実戦の差があるとはいえ、こうも差が開かれていると悔しい。昔は私の方が強かったから」

 

「あはは、そ、そうだったね」

 

 昔、うっかりシノンを怒らせてぼこぼこにされたことを思い出してノビタニアンは苦笑する。

 

 仲直りできたがあれはすさまじい思い出だ。

 

「あれから、シノンは」

 

「強さを求めてきたわ」

 

 空へ手を伸ばす。

 

 シノンの目は強さを渇望していた。

 

「私は強くなりたい……あれを乗り越えたいから」

 

「……シノン、キミは」

 

 シノン。

 

 彼女は幼いころにある事件に巻き込まれた。

 

 その時の出来事から彼女は強さを求めるようになった。

 

 抱えている傷を自分で乗り越えるため。

 

 だからこそ。

 

「その強くなる手伝い、僕にできるかな?」

 

「え?」

 

 ノビタニアンの言葉にシノンは驚きの声を漏らした。

 

 目を丸くしている彼女はまじまじとこちらをみている。

 

「僕は強くないけれど、その手伝い、してもいい?いや、させて欲しい」

 

「……どうして?」

 

「放っておけないから、じゃダメかな」

 

「アンタには関係のないことなのよ?」

 

「だとしても、僕がやりたいから」

 

「自分勝手ね」

 

「ごめん」

 

 苦笑するノビタニアン。

 

「でもいいわ」

 

 シノンは小さく微笑みながらノビタニアンを見る。

 

「そこまでいうんだからこれからもっとレベル上げにつきあってもらうからね。さ、次のエリアへ向かうわよ」

 

「あ、待って、待ってよ!」

 

 歩き出すシノンに引っ張られる形でノビタニアンは歩き出す。

 

「……本当にお節介ね。そんなアンタだから」

 

「え?何かいった?」

 

「別に!ほら、行くわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノビタニアン、少し、いいかしら?」

 

 あれからボス部屋までたどり着いたノビタニアンとシノンは宿へ戻っていた。

 

 夕食を終えて後は寝るだけの時間となった時、部屋へシノンがやってくる。

 

「あれ、シノン、どうしたの?」

 

「この世界のこと、教えてもらおうと思って」

 

「SAOのことを?」

 

「そうよ、ここへきて私は日が浅いから。色々と知識とか不足しているからそういう面で足を引っ張りたくないの」

 

「……別に急がなくても」

 

「あんなところで足を引っ張りたくないもの」

 

 シノンが言うのはトラップに引っかかった時のことだろう。

 

 簡易的なトラップだったから問題はなかった。

 

 しかし、シノンはそんなミスも許せないらしい。

 

「私は強くなりたいの」

 

「強くなりたいっていっても急ぎ足でなれるものじゃないでしょ?」

 

「……そうだけど」

 

「何の話~?」

 

 二人が扉前で騒いでいるとユウキがやってくる。

 

「あ、ユウキ」

 

「どうしたの?痴話げんか?」

 

「そんなのじゃないわよ!ノビタニアンにSAOのことを教えてもらいたかったの」

 

「いいことじゃないの?」

 

「そうだけど……」

 

「もう、ノビタニアンは心配性だよ!シノンだって、力になりたいって思っているんだからさ!」

 

「……そう、だけど」

 

「いいわ、私が焦りすぎたみたいだし」

 

「わかったよ。いろいろと教えるよ」

 

 ノビタニアンは折れてシノンの提案を受け入れる。

 

「そうこなくっちゃね!」

 

「(ユウキめ……覚えていろよぉ~)」

 

 笑顔で去っていった台風娘を恨みながらノビタニアンはシノンへレクチャーを行う。

 

 彼女の強くなりたいという思いにこたえるため。

 

 

 


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