色々と意見があるかもですが。
「うーん、これはどういうことなんだろうな?」
キリトの問いにノビタニアンは「うーん」と返すことしかできない。
皆で行った宴からアインクラッドの攻略は進み、現在九十二層まで進んでいた。
ホロウエリアと呼ばれるエリアの騒動にひと段落ついたらしく、メンバーにフィリアが加わっている。
「二人とも、この階層の何が気になっているの?」
ユウキが尋ねる。
「前に俺とノビタニアンがリアルで大冒険したことは話をしたよな?」
「うん、面白そうだよねぇ」
「その中の一つとこの階層のフィールドとモンスターが似ているんだ」
ノビタニアンの言葉にユウキが驚く。
「じゃあ、攻略も楽だね」
「そうだと、いいけれど」
答えるキリトの言葉もどこか覇気がない。
「とりあえず、攻略は明日からにしてエギルの店へ戻ろうか」
「そうだな」
頷いて三人は宿へ戻る。
戻ったところでキリト達を出迎える者がいた。
「よぉ、キー坊、ノンビ!」
「アルゴさん」
「聞いたぞ、九十二層を解放したようだナ」
「相変わらず情報が早いな」
キリトが呆れながら頷く。
「早速だが、その九十二層である情報が見つかったんでナ。お前達に売ろうと思ったんダ」
「情報?」
「払う。これでいいか?」
「毎度アリ、あるNPCが言っているんだガ、ヨラバタイ樹とかいう樹の上に」
「最強の剣と兜がある?」
「ム?なんで知っているんダ!?」
「キリト……」
「どうやら、そういうことらしいな」
「ちょっと二人だけで話をまとめないでよぉ!」
「悪い悪い、アルゴ、新たに情報が手に入ったらまた教えてくれないか、ちゃんと買うから」
「お、オウ。それにしてもなんでわかっタんダ?」
「まぁ、内緒だ」
キリトはアルゴへそういってウィンクする。
翌日、エギルの宿でキリトとノビタニアンは九十二層の攻略について打ち合わせしていた。
「まずはヨラバタイ樹を探さないといけないわけだけど……僕とキリトで二手に分かれた方が効率いいかな?」
「そうだな。俺とノビタニアンが一緒だと効率が悪い可能性がある」
「大樹を見つけたら連絡だね」
「あぁ」
「二人とも、何の話をしているの?」
「フィリアか」
テーブルへやってきたのは自称トレジャーハンターのフィリア。
ソードブレイカーという武器を操る少女。ホロウエリアでキリトと出会い、今はともに攻略組として活動している。
「九十二層の攻略をノビタニアンと別れて行うことにしたんだ。それで誰と攻略するか考えていたんだ」
「あ、じゃあ、私はキリトと組みたい」
「俺と?」
「うん、ノビタニアンはユウキも一緒になると思うから」
「え?そんなことは」
「あれ」
フィリアに言われて視線を向けるとノビタニアンの傍にユウキと薄紫の長い髪の少女、ストレアがいた。
薄紫を中心とした衣装、女性として魅力的なスタイルに宝石のように赤い瞳の女性プレイヤー。
「ボクはノビタニアンと組むよ!」
「じゃあ、アタシもノビタニアンと組むね~、キリトと組むのもいいけれど、今回はこっちにする。ぎゅ~~」
「あ、ズルい!ボクも!」
左右から顔を抱きしめられてジタバタしているノビタニアン。
その光景を見て、キリトは小さく合掌する。
――ストレア。
少し前にキリトとノビタニアンをストーキング、もとい観察していた両手剣を操る少女でキリトと同じくらいの実力者。
ところどころ謎が多いが裏表の性格がないことからメンバーに好かれている。
そして、ストレアはどういうことかキリトとノビタニアンを気に入っていた。理由はわからない。
「じ、じゃあ、私もノビタニアンさんと行きます!ね、ピナ!」
「きゅるる!」
左右にサンドされているノビタニアンをみて力拳を作りシリカが参戦を決意。
ピナは既にノビタニアンの頭の上を占拠していた。
「あっちはあれで決まりだな……こっちは、シノン、一緒に来てくれないか?」
「いいわよ、あっちは…………今日だけ譲ってあげる」
シノンはちらりと一瞥してからこちらへやってくる。
気のせいか瞳が険しい気がした。
「後は一人だけど……」
「あ、キリト君、あたしも行きたい!」
名乗り出たのはリーファだ。
四人パーティーで行動ということでひとまず話はまとまった。
ちなみにアスナは血盟騎士団の仕事で、リズベットはアイテムの整備などで今回は見送りとなった。
ノビタニアンは九十二層へきて早々に疲れていた。
「(どうしてこうなったんだろう?)」
左右をみる。
腕に抱きついているストレア。
反対側で頬を膨らませているユウキ。
その様子を見てなんとか背中へ向かおうとしているシリカ。
頭の上でのんびりと寝ているピナ。
はっきりいおう、胃がキリキリと痛んで仕方がない。
モンスターは動物系統が現れていて、さっきからユウキとシリカが倒している。
本当ならノビタニアンが前衛として奮闘するべきなのだが。
「ストレア、そろそろ放してほしいんだけど」
「だぁめ!滅多にできないんだから、ぎゅ~~」
強く抱き着いてくるストレアにノビタニアンは息を吐くことしかできない。
「はぁ、ところでヨラバタイ樹って、どれなのかな?あっちこっちに木があるからわからないなぁ」
ユウキが周りを見る。
九十二層ユミルメはところどころ大きな樹木があり二人の探している“ヨラバタイ樹”について判断できなかった。
そのユウキへノビタニアンが答える。
「多分だけど、ヨラバタイ樹は一番大きな樹でてっぺんが輝いているんだ」
「あのぉ……どうして、ノビタニアンさんは詳しいんですか?」
疑問の声を上げたのはシリカだ。
「キリトからリアルの冒険について聞いたよね?」
「は、はい」
「その中の一つの冒険とこの階層は似ているんだ……多分だけど、この川沿いに沿っていけば、ヨラバタイ樹は見えてくると思うんだ」
「そういえば、どんな冒険だったの?」
ユウキが尋ねてくる。
「ユミルメ国を支配しようとする妖霊大帝オドロームを倒すためにヨラバタイ樹にある白銀の剣と兜を手にした剣士が他の三剣士と共に戦うものだよ」
「SAOだとあってもおかしくはないね~」
「うん、だから……気になっているんだ」
ノビタニアンは思案する。
「ノビタニアン?」
首を傾げるユウキだが、ノビタニアンは前へ進み始める。
その時。
「あ――」
何かにバランスを崩して前のめりになる。
普段ならなんとか立て直すことも出来ただろう。
しかし、彼の腕はストレアに掴まれていることに加えて、頭にピナが乗っている。
倒れたノビタニアンはごろごろと下り坂を転がって川の中へ落ちてしまう。
「の、ノビタニアンさん!」
「ノビタニアン!ストレア!大丈夫!?」
「アタシは大丈夫~」
「ピナは……きゃっ、冷たい!」
ぬれたピナはシリカの前で体を震わせて水を弾き飛ばす。
水滴が当たってシリカは冷たい水に顔を隠した。
「ブハッ、ゴホッ、ゴホッ!ぼ、僕、泳げない!誰か!」
「この川、浅いよ?」
「……」
ストレアにいわれてノビタニアンはゆっくりと立ち上がる。
「さ、行こうか!」
「……スルーしたいんだね」
「無理だと思うなぁ」
「お願いだから……放っておいてほしかったよ」
ノビタニアンは涙をこぼしながら顔を上げる。
「……あ、あれって」
ノビタニアンは水面に輝くきらきらとしたものを見つける。
「うぉおおおお!」
キリトの振るう二本の剣が近づこうとする獣型モンスターを倒す。
「この辺りはモンスターが多いわね」
弓を構えてシノンが周りにモンスターがいないか調べる。
「それにしても、ここ、本当に似ているね」
剣を構えてリーファが呟いた。
「前にアスナ達から聞いたけれど……リアルで体験したっていう冒険と似ているんだよね?」
「あぁ、おそらくだが、攻略のカギになるのはヨラバタイ樹にある剣と兜が必要になる」
「その剣と兜はクエスト攻略用のアイテムなのかな?それともお宝?」
「わからないなぁ、あの時に剣と兜を手に入れたのはノビタニアンだけど……アイツが使うととてつもなく強力な武器だったな……この世界でどういう扱いなのかはわからないが」
キリトは自分の手の中にある二つの剣を見る。
一つは魔剣といわれるエリュシデータ。
そして、赤い片手剣。
リズベットが打ってくれたダークリパルサーに匹敵、もしくはそれを超えるほどのスペックを持つ剣、リメインズハート。
「まぁ、向かえばわかるさ」
「ねぇ、キリト君」
リーファがキリトへ近づく。
「ヨラバタイ樹ってことは木を登らないといけないんだよね?」
「あぁ、そうなるかな」
「前にノビタニアン君から聞いたんだけど、その時は川に沈んでいる月を膨らませたと聞いたから、それと同じってないかな?」
「川か……可能性としてはあり得るかもしれないな」
「何かお探しかな?」
キリトが川を見た時。
村人のような出で立ちをしたNPCが現れる。
頭上には?マークがある。
「あ、はい、ヨラバタイ樹というものを探しています」
「ほぉ、では、白銀の剣と兜を探しているということですな?でしたら」
リーファが答えると頭上の?マークが!マークとなる。
「クエストが発生したみたいだな」
「どういう内容のものかしら?」
「ヨラバタイ樹は一番高いといわれる神霊樹じゃ。それを普通の人は登ることはできぬ。登るために風精霊の加護を受ける必要がある」
「加護?」
「左様、その加護と器があれば、ヨラバタイ樹はすぐに登ることができる」
「あの、どうすれば加護を受けられますか?」
「ここから少し先にいった森にあるペンダントを手にする必要がある。だが、そこは妖霊軍がおり、入ることはできん」
「妖霊軍?」
「ユミルメは今や妖霊大帝オドロームが支配しようとしておる。その森も妖霊軍の幹部がいるということじゃ」
首を傾げるフィリアとシノンに村人が説明する。
「つまり、そいつを倒せばクリアということね?」
「そうなるな」
「任せてください。お爺さん。私達がなんとかしてみせます」
リーファが伝えて、一行は森を目指す。
「妖霊軍って、どんなのがいるのかな?」
「おそらく人型のモンスターがほとんどだと思う。特殊能力を持っているかもしれないから注意する必要はある」
「それにしても、風精霊の加護だって」
リーファは何かが面白いのか笑っている。
「どうしたんだよ?リーファ」
「私のこのアバター、風精霊なんだ。SAOにも風精霊がいるなんて少し面白いなって」
「そうなんだ。それは楽しみだね」
フィリアとリーファがほほ笑んでいる中でキリトが手で制する。
「モンスターの反応だ。シノン、後方で準備してくれ」
「わかったわ」
「二人とも、俺が突撃するからフォロー頼む」
「了解!」
「任せて」
しばらく進んだ先、キリトの視界に現れたのは二メートルを超える像型モンスターだ。
人の形をしており、手には巨大な手斧が握られている。
耳は翼のように巨大だ。
ぎろりと周囲を警戒する像型モンスターの名前をみる。
――ジェネラル・ジャンボス。
「(どうやら周囲にモンスターはいないみたいだな……よし)」
二つの剣を構えてキリトは走る。
キリトの存在に気付いたジャンボスが巨大な手斧を振り下ろす。
「おっと」
斧による斬撃を躱したところで距離を詰めて二刀流ソードスキル“エンド・リボルバー”を繰り出した。
衝撃を受けてジャンボスは後ろへ下がる。
「スィッチ!」
キリトの指示と共にリーファが片手剣を、フィリアがソードスキル“ファッド・エッジ”を放つ。
攻撃を受けながらもジャンボスが手斧を振り回す。
キリト達を追いかけようとした時、シノンの射撃スキルによって放たれた矢がジャンボスのHPを削っていく。
「よし、これでとどめだ!!」
ジャンボスの懐へ入りソードスキルを繰り出す。
攻撃を受けたジャンボスの体は消滅していく。
「やったね!」
フィリアがガッツポーズをとる。
ジャンボスが消滅すると祠があった。
「みて、祠があるよ!?」
「近づいてみるか」
キリトが祠へ近づいたとき、小さな光が目の前に現れた。
「剣士様、助かりました。ありがとうございます」
「……へ!?」
現れた妖精の姿を見てリーファは驚きの声を上げる。
祠から現れた妖精は白いワンピース、背中に小さな羽を生やしていた。
何よりもその顔は。
「(うわぁ、リアルのスグの顔だ)」
「あわわわぁ!?」
妖精の顔はキリトの妹、直葉の顔そのものだった。
リーファは慌てた様子だ。
その事情を知らないフィリアやシノンは首を傾げている。
「あの、俺達はヨラバタイ樹の天辺を目指したいんだ。そのために加護が必要だって聞いたんだけど」
「はい、私の力の一部を宿した宝石が祠の中にあります。それを持って行ってください」
妖精が扉を開けて中から緑色の綺麗な宝石を差し出す。
キリトはそれを受け取る。
「気を付けてください。妖霊大帝の力は強大です」
「わかっている。一度、倒されているからな」
――夢の中でだけど。
心の中でそういいながら手の中にある宝石を握り締める。
「そうだ、ヨラバタイ樹はどこにあるか、知っているか?」
「はい、この道をまっすぐに進んでください」
妖精が指をさすと一本の道が開ける。
「気を付けてください。剣士様たち!」
そういうと妖精の姿は消えていく。
残されたキリト達は道を見る。
「行くか」
「ええ」
「そうだね!」
「うん……でも、さっきの妖精は驚いたなぁ」
「そうだな」
二人だけがわかること。
リアルの直葉の顔だったことから二人は考えていた。
「あれ、ドラちゃんが設定したんだよね?」
「ああ、妖精役は直葉になっていた」
夢幻三剣士。
ドラえもんが出してくれた道具の中のカセットの一つ。
その中でノビタニアンが白銀の剣士として、キリトは彼を手助けする夢幻三剣士の一人として参加していた。
リーファは妖精役を務めており、その妖精と目の前の妖精が同じだった事に驚きを隠せなかった。
「ノビタニアンと話をしてみるべきかも」
「うん」
「キリト~~、行くよ!」
「早くしなさいよ」
フィリアとシノンにせかされて二人は道を急ぐ。