幻想狂縁起~紅~ 《完結》+α   作:触手の朔良

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筆者はこの三章が一番好きです
(よく出来ているとは言わない)



三章 三度目の正直
メイドの奸計


 意識が戻ってから咲夜は、いの一番に館の隅々を見て回った。

 外はまだ月が支配している時間だ。誰も起こさぬよう、事は静かに行った。

 どこもかしこも異常はなく、始めから姉妹の殺戮の痕跡がそもそも無かった。間違いないと、咲夜は確証した。

 自分は過去に戻ってきたのだ。

 時を刻まなくなった時計を取り出して、思う。自分は時を止める。時を進める。そして時間の概念を操り空間をも拡張はするが、時を戻す事だけは頑なにしてこなかった。

 出来る出来ないの話ではない。もししてしまったら、と少し考えるだけで恐怖が、少女の心を蝕み一線を越えるのを留まらせていた。

 おそらく、だが。気を失った際、たまたま時計が落ちて、偶然その拍子で針が戻ったのだろう。そんな奇跡的な出来事が、本当にあるのだろうか? 今私が見ている景色は所謂、死の際に見る走馬灯ではないのか?

 そんな疑心を懐きながら目の前にある扉に触れれば、きちんと硬質ながら温かい、木特有の感触が指先から伝わってきた。

 ……いや、夢なら夢で構わない。十六夜咲夜がする事は最初から最後まで、何時だって変わらないのだから。

 少しずつノブを回して、音を立てないよう慎重に扉を開く。誰にも見られていない事を確認してするりと、その空き部屋へ身体を滑り込ませる。

 空き部屋だったのは昨日まで、だが。

 部屋は真っ暗だった。扉の隙間から差し込む一条の明かりが棒状になって部屋を照らした。そっと、音を立てずに扉を閉めれば部屋は再び暗闇が支配する場へと戻った。だが少女は淀みない足取りで進む。館の間取りは全て頭に叩きこんである。例え目を瞑っている状態でもどこをどう歩いているのか手に取るように分かった。

 新しく部屋の主となった男の元へと向かう。そう、男である。

 これから男が目を覚ますまでは、幾許かの時間を有する。主人の前で名無しの権兵衛と名乗る男がベッドに横たわっていた。

 胸も薄く上下して、足もちゃんと付いている。残念ながら、幽霊じゃぁなさそうだ。

 時折苦悶に顔を歪める様子は、快眠という訳でもなさそうだ。

「……」

 咲夜は寝ている男に馬乗りになり、懐からナイフを取り出す。ナイフを握る掌の、火傷の痕が痛みを伝えてくる。その痛みすらこの胸の中で燻る感情を消す事は出来ない。高々と掲げると暗闇に於いて尚、鈍色の光を放ったような気がした。

 ふぅと一呼吸置いて、咲夜は男の顔目掛けナイフを振り下ろした。

「っ!」

 刹那、咲夜の脳裏を一つの映像が過ぎった。

 鈍い、音が響く。

 ナイフは深々と突き立てられた。権兵衛のすぐ横の枕へと。

「なんで――」

 よりにもよって今日なのだと、思わずにいられようか。男が目を覚ましていれば、諦めもついたろう。逆に男と出会う前まで遡っていれば、彼を見殺しにも出来たろう。何故、何故今日なのだ?

 愛用の懐中時計は無情にも時を刻んではいない。もし、私の指が針に触れて、ほんの少しくるりと、逆巻きに動かしたら、この願いも叶うのだろうか? しかし咲夜には、己の確固たる意思で時を戻そうなんて勇気を、持ち併せてはいなかった。

 この男さえいなければ、館は変わらず平和だったのに、という気持ちは今も確かにある。だから一瞬、殺してやろうとさえしたのだ。だが、この時の自分は既にレミリアから命令されているのだ、「殺すなんて真似をするな」と。

「お嬢様に感謝するのね」

 ナイフを引き抜くと中の羽毛が数枚、宙を舞った。

 意識の無い男にその言葉だけを残して、咲夜は部屋を後にした。

 退出する際にふと――脳裏を掠めた映像――男の死に際を思い返し咲夜は思った。彼が私に笑顔を向けたのは、あれが初めてだったな。そんな益体にならぬ事を考えた自分に首を傾げながら、少女は後ろ手に扉を閉めた。

 部屋は再び暗闇と静寂が満ちた空間となった。

 

 権兵衛が目を覚ますまでの間、咲夜は館の住人を観察した。

 住人の皆は――彼女が覚えている限りだが――前回と変わらぬ、いや同じ生活を送っている。その事実が咲夜に一つの計画を実行させる決心をさせた。

 一計を案じたせいで前回は、拗れに拗れたというのにまだ懲りぬのかと呆れ返るばかりだが、しかし今回こそ咲夜は自信があった。前回は複数の人間を同時に、完全な管理下に治めようとして破綻を迎えたのだ。ならば――。

「ん、どうかしたのかい?」

「いいえ、何も」

 ――この汎用そうな男一人ぐらい、操るのは訳ない。

 目を覚ました男を主人の元へと引き連れる途中、メイドの頭はあれやこれやと奸計に満ちていた。上手くいくという確信が、お固いメイド長の表情にすら現れていた。権兵衛は突然機嫌が良くなったメイドが心配になり声を掛けるも少女は何でもないと言う。

 どう見ても何でもない訳が、ない。「変な娘だなぁ」との印象を受けたが、殊更機嫌を損ねる様な真似は、黙っていた。

 そしてレミリアと権兵衛は邂逅を果たす。矢張りと言うか、自己紹介とも呼べぬ紹介を受けてレミリアはカリスマを崩壊(ブレイク)させた。自分とて知らなければ平静でいられなかったろうが、生憎とっくに知っているので咲夜はさして驚かなかった。しかし全く驚かないのも不自然かと思い「まぁ」と素振りだけをした。

「……咲夜?」

 従者の反応が限りなく棒読みに聞こえ、レミリアは振り返る。そこに控えていたのは、あまりにもいつも通りな咲夜だった。

「どうかなさいましたかお嬢様?」

「い、いや。どうかしてるのは、……何でもない」

 レミリアはこほんと一つ咳払いをして顔を逸らした。「変な咲夜……」本人には聞こえないように、レミリアは小さく呟いたつもりだったが、従者の耳はしっかりはっきりとその小声を聞き逃す事は無かった。

 そんなに下手糞な演技だったろうか。彼女はちょっと落ち込んだ。その間にも、二人の遣り取りは続き、権兵衛の腹の音を、終わりの合図とした。

「ククッ、食いしん坊め。もうすぐ食事の時間だったな。立ち話もなんだ。食事をしながらでも、色々話そうじゃぁないか。色々とな」

 権兵衛が目を覚ましてから、ほんの少しだが、前回の展開とは変わっていた。おそらく、私が以前と異なるアクションを起こしたからだろう。だが、おおまかな流れ自体は変化していない。その事実に、咲夜は一層計画の自信を強めた。

 話の終わり、その縫い目をついて、咲夜は主人に進言した。

「お嬢様。権兵衛様は目覚めたばかり、まだ館に不慣れです。暫しの間、私が付くというのはいかがでしょうか?」

「何?」

 極々自然に、話を切り出せただろうか。

 平静を装ってはいるものの、内心は主人に物申すなんて畏れ多さに恐縮している。可能な限り角の立たない言葉を選択したつもりだが、結局は主人の腹心一つで、咲夜の計画は一歩目から頓挫してしまう。これこそが最初の関門且つ最大の難所なのだから、神経を使い過ぎるに越した事はない。

 レミリアは片側の眉を吊り上げて、じっと従者の真意を図るべく瞳を覗き込んだ。咲夜のメイドとしての能力は疑う余地はない。その忠誠心もまた、見上げたものだと評価している。

 だが女だ。どれ程信頼していようと咲夜は女で、好ましいと感じている男の側で、自分以外の女が行動を共にするのはレミリアの我慢を越えていた。

 ありありとレミリアの顔に不満の色が浮かぶ。主人にそんな感情を抱かせるなんて、従者失格だと思うが今回ばかりはどうか、どうか堪えて許可を出して欲しいと強く念じる。

 レミリアが咲夜にとって非情な宣告を告げようした間際に横槍が入る。

「俺からも頼むよ。彼女、一番のメイドなんだろ。そういうのが一緒なら、心強いからさ」

 助け舟は、思ってもみないところからやってきた。

 咲夜は内心複雑だった。一度は命を救われたとはいえ、そもそもの元凶は彼なのだ。その元凶に、再び助けられる形になるなんてのは素直に喜べない。それに何より、咲夜は権兵衛が嫌いなのだから。

「む。……仕方ないな」

 権兵衛の頼みである。無碍に断るのも何だったし、ここで当主としての度量を見せるのもまた、彼に対してのアピールになるかとレミリアは考えた。

 こうして権兵衛は咲夜と行動を一緒する事になった。

 去り際に咲夜は主の情け深い采配に深く頭を下げた。

 そして一人残されたレミリアは、これから起こるだろう騒動と生活に思い馳せる。色々と面白くなりそうだと、ご機嫌に喉を鳴らした。

 しかし、気になる点もある。

 記憶喪失の男の事ではなく、自分にどこまでも忠実なメイド長だ。あんな突拍子もない発言をするような女だったろうか? それがどうにも腑に落ちず、レミリアは考える。

 咲夜の違和感。

「あれは――」

 そうだ。態度もそうだが、思えばレミリアは一目見た時から彼女に異質な部分を感じていた。

 その正体が解った。手袋だ。咲夜は普段していない、白い手袋を嵌めていた。

 ……それがどうした。結局、レミリアは違和の正体が掴めず、どうして大した事もないだろうと思考を切って捨てた。

 

「働かざる者食うべからずと言います。ですので、権兵衛様にはこの部屋を掃除して頂きます」

 翌日、咲夜はまだ本調子でない権兵衛を連れ出し、リハビリと称しメイドの仕事の一つを選んで与えた。

「こちらの客室はほ、とんど権兵衛様のお部屋と間取りが変わりませんから。掃除を覚えて頂いても損はないかと」

「はぁ」

 それっぽい理屈を並び立てて、権兵衛にバケツと雑巾、箒を押し付ける。

「道具一式はこちらで用意しておきましたので。足りないものがあれば、近くの妖精メイドらにお聞き下さい。もしくは、私も近くの部屋を掃除しているので、何かあればお呼び下さい。では」

「……準備が良いことで」

 自分に宛てがわれた部屋にそっくりな部屋を見渡して、権兵衛は溜息を吐いた。

 この部屋を、一人でか……。

「……やるか」

 愚痴ろうがサボろが、その間に妖精さんががやってくれるなんて都合のいい話はないのだ。妖精は沢山いるくせに、彼女らは全然やってくれないのだ。

 

 男が水拭き片手にせっせと腕を動かし初めたのを覗き見て、咲夜はしめしめと思う。

 権兵衛を一人で仕事させるのには幾つか理由があった。

 可能な限り――例えメイド妖精であろうが――レミリア以外の女性との接触を回避する為である。同時にメイドの仕事をさせることで彼を監視し易い状況を生み出す事が狙いだった。

 先の計画の反省が早速生かされていると言えよう。

 慣れぬ掃除に四苦八苦する男を見て、咲夜は胸がすくような快感を覚えた。このようにして私怨も晴らせるし、一石二鳥とはこの事か。

「ねぇ……、アレ……」

「シッ! 見ないようにしましょう」

 廊下を過ぎる妖精メイドらは一様に皆、咲夜に目を向けてから誰もが例外なく逸らして、早足にその場を去った。

 何せメイド長ったら人の目も憚らず腰を落として、鍵穴から中を覗いているんだから。変態そのものだった。

 そして、メイド妖精らの騒々しさと言ったら、内緒話なんてどだい無理な話。彼女らのひそひそ話はしっかりはっきり咲夜の耳にも届いていた。その耳は今、真っ赤に染まっている。

「……さーて! 私も仕事しましょうかしらね!」

 誰に言うでもなく、咲夜は高らかに宣言した。覗き見する人物を覗き見る妖精らはその奇行を、再び話のタネとして盛り上がるのだった。

 咲夜は早足に、近くの部屋へと逃げるように駆け込んだ。というか実際逃げた。こんな失態、いつ以来だろうか。そして人知れず「おのれ権兵衛……!」と男に対し恨みを募らせるのだった。酷い責任転嫁だ。

 時を操れない自分は一介の優秀なメイドに過ぎない。男から目を離す事に一抹の不安を覚えるものの、仕事もしなくては――メイド妖精はてんでアテにならないので――いけないのが歯痒いところだ。

 メイド達には既に、「意味もなく権兵衛には近づくな」と厳しく通達してはいるものの、物覚えの悪い妖精たちが命令を守るなんて端から期待していない。とりあえず、破った娘を片っ端から仕置きしていけば、いずれ近寄る馬鹿はいなくなる、と思いたい。

 テキパキと仕事をこなしながら、思考の片隅で計画の算段をあれこれを考える。

 紅魔館に部屋は多い。無駄という冠を被る程に多い。それこそ、主人の見栄だけに作られたものが多々あり、一通りの部屋を綺麗にしても、最初に掃除をした部屋はまた埃が溜まる。正にイタチゴッコの清掃にはメイド妖精からの不満の声もあがっていた。

 何を言っているんだ、と咲夜は思う。仕事が無ければ、我々は露頭に迷うだけではないか、と。

 言ってしまえば彼女らは妖精で、それでも構わないと思っているのかもしれない。人間との、覆し様のない価値観の差がここにも存在していた。

 淡々と天井と壁の埃を落とし終え、咲夜は白い、ナイロン製の手袋を外し雑巾を絞る。

「痛っ」

 火傷痕から痛みが奔り少女は顔を顰めた。こんな痛み程度で、仕事を滞らせる訳にはいかない。

 咲夜は痛みを堪えつつも、掃除を進めていった。

 

「こんなところかしらね」

 一息吐き、少女は自らの仕事の出来栄えに満足する。

 こんなところ? 謙遜も過ぎれば嫌味となろう。

 塵一つない、とは表現の一つに過ぎないが、彼女の仕事振りは正しくその通りだった。家具の類も新品同様に手入れがされ、むしろ部屋全体が輝きを放ちそうな勢いだ。しかし残念な事にこの客室には飾り窓しかない為、日光が差し込むことはない。

 部屋を後にして更に隣の客室へと移り、再び掃除に取り掛かる。気分も上々、鼻歌を口ずさみながら掃除している最中の事。

「~~♪」

「あぁ、いたいた。咲夜ちゃん」

「っ!?」

 急な呼びかけに、ぐわっと反射的に懐へ腕を突っ込む。あるべき場所にあるべき物がなく、その指先は空を切った。そうだ、時計は壊れていたんだっけ。軽くなった懐に覚えていた違和感も始めだけ、時間と共にすっかり忘れていたみたい。如何に日常茶飯に時を止めていたか、その証左だった。

「……何してるの?」

 結果として、何だかよく分からないポーズのまま咲夜は静止する羽目になった。鼻歌を見られるなんて、恥ずかしい姿を誤魔化す為に、一層恥ずかしい姿を晒すなんて。しかも相手が権兵衛ときた。屈辱の極みである。

 鼻歌を口遊む姿なんて、それこそ時を止められるから誰にも見られた事ないのに。

「……こほんこほん。どうかなさいましたか権兵衛様」

 軽く咳き込んで、無理矢理話を流す。些か強引な手段であったが、きちんと視線で威嚇するのも忘れない。触れるな、と。

「あ、あぁ。あの部屋の掃除が終わったからね、一先ず報告しておこうと思って――」

「えっ、もう終わったのですか!? ちょっと見せて下さいっ!」

「お、おい!」

 彼の言う掃除が終わったという部屋を、咲夜はじいっと確認した。

 自分の仕事と比べれば随所に甘さはあるものの、……ふむ。十分な成果を残しているではなかろうか。

 ハッキリ言えば、一日で終わらせるなんて思っていなかった。何せ部屋の掃除は妖精メイド五人を投入しても、丸一日掛けて終わるか終わらないかの仕事量なのだ。咲夜からすれば、嫌がらせの意味も篭めて任せたのだが……。

「全く、急いで出るから何かと思ったら。人を疑うなんて感心しないな」

「……メイド長のチェックが入るのは当然ですわ」

 何だか彼の正論が悔しくて、言い返そうにも言葉が見つからず、そう返すだけが精一杯だった。

 しかしこの男、意外にも使えるではないか。

 彼女は知らない。妖精メイドを五人掻き集めても烏合の衆に過ぎない事を。まして五人も集めてしまったら悪戯盛りの妖精達、サボって話に花咲かせてしまい、実は一人一人の運用の方が効率が良い事を。知らない故に権兵衛への評価は、幸か不幸か過大になっていた。

 咲夜の中で権兵衛の評価が、害虫から労働力へとランクアップした瞬間だ。

「ご苦労さまです。それでは次の部屋へ行きましょうか」

 彼女が「次の部屋――」と口にした瞬間、権兵衛は目に見えて嫌そうな顔をして、再び彼への評価が少し落ちる。

「ここも、先程と同じように。お願いしますね」

 次の部屋へと連れられて、権兵衛は少々混乱した。

 同じ部屋じゃないのか、と勘違いしてしまうぐらいの差しか、先程の部屋との違いがない。具体的な違いを挙げるのなら、燭台や家具のなどの調度品、その装飾ぐらいか。それも目を凝らさなければ気付かないものだ。

 床やシーツの色にでも変化があれば、気分も変わるのだが。紅魔館はこれでもかー、という程に赤を基調に統一されている。

「さっきさ、咲夜ちゃんが歌ってた曲って、タイトルとか分からない?」

 男の案内も終え、咲夜も仕事に戻ろうかという時に、権兵衛が他愛のない話を振ってきた。彼女からしてみれば無駄話にもほどがある。適当に合わせて、さっさと退散しよう。というかだ、その話題は忘れてほしいものだ。

「……いえ、曲名はありません。私の思いつきが口を吐いて出ているだけなので」

「そうなんだ。いい曲だと思ってさ」

「っ~~!」

 言って男は、咲夜へ笑顔を向けた。

 以前に視た、今際の儚いものとは異なり、彼の生きた笑顔に咲夜は頬が熱くなるのを感じた。そしてそれを悟られぬよう、慌てて顔を伏せてろくすっぽ返事もせずに急いで退出した。

 ――何と軟派な男なのだろうか!

 咲夜は顔を真っ赤にしながらプリプリと肩を怒らせて大股に歩いていた。とても瀟洒と呼べる行儀ではないが、メイド長を諌める度胸を持つ者は紅魔館に一人としていない。部下達は言わずもがな、唯一指摘出来る立場の主人は無頓着だから。

 それとも、男という生物は皆あの様なものなのか。考え込んでしまうぐらいには、思えば咲夜は男性との付き合いが無かった。仮に権兵衛の様な軟弱さが男の標準であるならば、彼女の軽蔑は男性全体に波及する事だろう。

 それと、咲夜ちゃんだなんて気安く呼んで。以前にも忠告したではないか。ちゃん付けはやめろと。私達の関係は、客人と従者。それ以上でもそれ以下でも、決してないのだから、馴れ馴れしいにもほどがある。

「あっ」

 思わず足を止める。声を出そうとした覚えもないが、すとんと、記憶が蘇ったあまりつい喉から漏れてしまったのだ。

 忠告したのは前回の世界で、今の権兵衛が知っている筈もない事を咲夜はすっかり失念していた。

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