バカとナイトと有頂天 作:俊海
……いやほんとすみません。
今回から、あの少女が登場します。
タイトルでお察しだろうと思いますけど。
「Dクラス代表!平賀源二!討ち取ったりーーーー!!!」
『うぉぉーーーっ!!』
その報せを聞いたFクラスの勝鬨とDクラスの悲鳴が合わさり音爆弾のように聞こえる。
戦争をしていた皆がDクラスまで押し寄せてきて、教室の中は一気に満員状態になる。
「凄ぇよ!本当にDクラスに勝てるなんて!」
「これで畳や卓袱台ともおさらばだな!」
「ああ。アレはDクラスのものになるからな」
「坂本雄二サマサマだな!」
「吉井隊長もすごい活躍だったな」
「それを言うならブロントさんもだろ?」
「いやいや衛宮のやつも相当だ」
「全員スゴいってことでいいんじゃねえか?」
『それに賛成だ!』
『やっぱりあいつら凄い奴らだったんだな!』
代表である雄二どころか、僕や他の皆を褒め称える声があちこちから聞こえてくる。
そんな喧騒の中、雄二がどこか照れくさそうな顔をしながら教室に入ってきた。
「あー、まぁ。なんだ。そう手放しで褒められると、なんつーか」
「おいおい照れてんのかよ?素直に賞賛されてろ!」
「本当にお前のおかげだよ!ありがとよ代表!」
あれだけ戦争前だと自信満々に豪語していた雄二も、こうも持ち上げられるとむず痒いんだね。
……その気分を僕は戦争前から味わってたけど。おもに雄二のせいで。
「いや、俺は何にもしてないぞ。皆が頑張ってくれてたからこうやって勝てたんだし」
「んなわけあるかよ!お前がいなきゃ統率なんか取れてなかったっつーの!」
「あの弓矢の命中度高すぎだ!さすがは弓道部のエースってとこか!」
士郎も気恥かしそうにしてるけど、驕ることもなく皆のおかげと言ってる。
こういうところがあるから士郎はいつまでたってもお人好しって言われるんだよ。
まあ、そのほうが士郎らしいけど。
「ブロントさん」
「何か用かな?」
「戦争の功績者は誰だと思う?」
「このクラスのフレ全員なのは確定的に明らか」
「そうかありがとう。ブロントさんもすごかったな」
「それほどでもない」
「ブロントさんは謙虚だなー憧れちゃうなー」
「やっぱり謙虚じゃないとだめかー」
ブロントさんも士郎と同じようなことを言ってるけど、謎の異世界感がそこに漂っていた。
なんだか、僕達のクラスメイトが未知の世界に取り込まれているような錯覚すら覚える。
……いや、僕はまだ取り込まれてないよ?
その気になればブロントさんと同じように喋れないことはないけど、ナチュラルに出てくるほどじゃないからね?
「吉井もよくやってくれた!まさか一気に討ち取るとは思わなかったぜ!」
「こりゃあデコピンなんかできねえな。Fクラスの英雄様にんなことしたら罰が当たる」
「あ、あはははは……どうも」
あーーーー!!!やっぱり慣れない!!!
こうやって崇め奉られてるような気分には全然馴染めない!
おかげで、せっかく賞賛してくれた皆に曖昧な返事しか返せなかった。
これだけ英雄扱いされるなんて、本当に皆があの教室に不満を抱いていたのかが分かる。
畳の一部も腐ってたし、卓袱台の足なんて折れてたもんね。
「明久。よくやってくれたな」
「あっ、雄二」
「お前の性格考えてりゃ、なんだかんだで教室に突っ込むことぐらいわかってたがな」
そういえば、僕が平賀君を討ち取れたのも雄二があの三人を援軍に回してくれたからだ。
雄二って本当に軍師の才能があるのか、それとも唯々悪巧みをするのが得意なだけか。
なんにしても助かったのは事実だ。
僕は右手を上げて颯爽と駆け寄る。
「へいっ!」
「おう!」
パンッ!といい音を出して片手でハイタッチした。
これだけうまくいったのも雄二の作戦がうまかったから。
それに関しての感謝の念をタッチに込めた。
「それでもまさか、お前が平賀を倒すとは思わなかったぞ。ブロントさんか士郎あたりと予想してたんだが……」
「僕だってやるときはやるんだよ。それでも皆がいたからできた訳だけど」
「……しかし本気で上手くいったな。これで姫路がFクラスにいることを知られないで次の戦争に挑める」
どこか安心したかのように声を潜ませる雄二。
何を隠そう『今回の戦争では姫路さんを使わない』というのも雄二の作戦の一つだったからだ。
そのこともあって、今この場には姫路さんは居ない。
今頃教室で美波とガールズトークでもしてるんじゃないかな。
「でも、それだったらなんで俺達に時間稼ぎさせたんだ?時間稼ぎしてたって相手にもバレてたし」
「それは俺も疑問が鬼なってた。姫路が牙むかないなら先に手を出すべきだったな。確かに作戦を立てるのは勝手だがそれなりの理由があるでしょう?鬼の首みたく過去に粘着して何も話さないのはずるい。早く教えるべき死にたくないなら教えるべき」
士郎とブロントさんまでこっちに来た。
作戦の納得がいかないところについての説明を要求してくる。
雄二は戦争をする前、僕達に『なるべく時間稼ぎするために守りを重視して戦え』って伝えられてた。
Dクラスも僕達の挙動を見て、先生を増やしたり一気に攻め込もうとしていたんだから、作戦としてはおかしい気がする。
「言っただろ?『お前の性格考えてりゃ、なんだかんだで教室に突っ込むことぐらいわかってたがな』ってよ」
「どういうことさ?」
「相手の立場になって考えろ。敵の先行部隊が守りに重きを置いてるにもかかわらず、早い段階で本陣まで乗り込んできたらどう思う?」
「そりゃ、自分たちの部隊が全滅したって考えるんじゃない?守勢なのに特攻する奴なんているわけないんだし」
防衛戦なのに敵陣に奇襲をかけることは殆どない。
防衛するのが目的なのに、攻め込んだって意味ないからだ。
だとするなら防衛する必要がないほど敵の兵力が下がっていたと考えるのが普通かな。
「じゃあどうやって全滅したと思う?相手は自分たちの半分以下の戦闘力しかないのにも関わらずだぞ?」
「女生徒のスカートでも捲れ上がって、そっちに気を取られているうちに攻撃を食らったんだと思う」
「そんなバカな奴がいるか!」
いるんだけど。
そこで打ちひしがれているDクラスの代表とか。
「普通は、そうなると相手の本隊が動き出したって思うんだよ」
「そういえば平賀君もそういうこと言ってたね」
何の迷いもなく、僕達の本陣が動いたって確信していたなぁ。
あれも、自分たちが壊滅状態になるなんて、相手の総大将が動いたとしか考えられないのか。
僕達でまともに正面からDクラスと戦える生徒って少ないし。
「だったらクラス代表――つまり俺がすぐそばまで迫ってると考えて、一気に勝負に出たってわけだ。本陣が動いてるってことは生き残ってるのが俺達だけって勘違いして、止めを指すためにな」
「ああ、それで……」
あれだけいた平賀君の周りの近衛兵を攻撃させにいってたのか。
その防御が手薄になった瞬間に、僕たちが攻撃しておしまいって魂胆だったって訳?
どんだけ考えてるんだこいつ。
「まさかFクラスにそんなに点数が高い奴がいるとは……」
背中から気落ちした声が聞こえてくる。
振り返るまでもなく分かる、平賀君だ。
「これもFクラスを甘く見ていた俺の責任か……」
「お前調子ぶっこきすぎてた結果だよ?調子に乗ってるからこうやって痛い目にあう」
「おいブロントさん……あまり言ってやるなよ」
「いや、そう言われても仕方ないくらいに俺はお前らを見くびってた。ただ、クラスを明け渡すにしてもこんな時間だから、作業は明日でいいか?」
普段の調子でブロントさんが平賀君を挑発し、士郎がそれを宥め始める。
士郎って、もう完全にFクラスの苦労人ポジションになっちゃってるよね。
……そして、どうして僕の脳裏に『人のふり見てわがふり直せ』だとか『明日は我が身』とか浮かんできたんだろう。
「いや、その必要はない」
「おいィ?お前ら今の言葉聞こえたか?」
「聞こえないわね」
「何か言ったのか?」
「俺のログには何もないな……なんだこの流れ」
「必要ないって言ったんだ。Dクラスを奪う気なんてないからな」
あまりの突然の言葉に、近くにいたブロントさん達もがざわつき始める。
せっかく普通の設備が手に入れられるのに、それをすてるなんてとんでもない!
「……お前は馬鹿すぐる。その提案にはどっちかというと大反対なんだが。お前あの今にも頭がおかしくなりそうなほどダークパワーが見えそうになってるクラスのままでいいと思ってるわけ?お前ほかのやつらのことも考える心を持つのが必要不可欠」
「そりゃ分かってるさ。ただ俺達の目標はAクラスだろ。こんな設備なんかよりももっと上等なもんが手に入るんだ。だったら交換してやる必要もないだろう?」
「それでも次に負けた時の保険になるじゃない。次で負けたらこの戦争の意味がなくなるでしょ?」
「大体それだったらなんでDクラスと戦争したんだ?これじゃ骨折り損のくたびれもうけじゃないか」
ブロントさん、霊夢に魔理沙も少し慌てている。
僕だって疑問に思う事だ。あの敵には血も涙もないような作戦でひねり潰す雄二がDクラスに温情をかける道理がない。
だというのに、その権利を放棄するなんてこんなの普通じゃ考えられない。
「そこだ。ここで設備を奪ったらこの中で戦争に反対する奴が絶対出てくる。だからこの勝利で設備を得るんじゃなくて、次の戦争のための工作をしてもらう。そもそもDクラスに挑んだのは元よりそのためだ」
「むぅ、言い返そうと必死に回転させたが言い返す言葉が出なかった。『俺はこのままこの教室でもいいんだが?』と言って戦わないで一歩引くのが保守派の醍醐味。それでは追撃の試召戦争ができないできにくい!そういうことなら俺の反対意見も改心した」
「なるほど。正直に言うと俺だってもう少しまともだったらなと思ってただけだし、モチベーションの低下になるってわけか」
そりゃそうだ。
実際僕はDクラスの設備で十分満足できるんだもん。
僕の目的も『Fクラスのみんなが、もう少しまともな環境で生活を送れるようにしたい』だからね。ここで戦争をやめてもいいって思ってた。
でも、雄二はAクラスに勝つことを目標にしているみたいだ。
一体なんでそんなに執着しているのかはわからないけど、不本意ながらこれでも僕は雄二の悪友をやらせてもらってる。
そういうことなら、僕も協力せざるを得ない。
「ならいいよ。雄二は平賀くんに要求を通しておいて。僕が皆に上手く説明しておくから」
「……お前にできるのか?」
「失敬な!これでも先生達のあいだでは伝言係として有名なんだぞ!」
「それってただこき使われてるだけじゃない」
「流れるように僕の傷口を開いてきた!?」
くっ!霊夢は人に気を使わずにズケズケ言うタイプだったか!
せっかく僕がオブラートに包んで表現したというのに全く無意味になったじゃないか!
「僕だってこれくらいできるよ。要は次の戦争への不満を持たず、モチベーションが維持できるように伝えればいいんだろ?」
「……お前本当に明久か?偽物のスパイならこの場で爪を剥ぐだけで勘弁してやるぞ」
「それは勘弁じゃなくて拷問してるって言うんだよ!」
こいつ相手にスパイをするのはやめておこう。
命がいくつあっても足りない。
これで勘弁しているってことは、本気を出したらどれだけ恐ろしいことをさせられるんだろうか。
「大丈夫だって、僕にいい考えがある」
「……余計に不安になったぞ」
何かまだ言いたそうにしている雄二をほっといてFクラスのみんなが見える位置に移動する。
ちょっと緊張するけど、僕だって雄二の手伝いくらいしたいんだ。
これくらい屁でもない。
「みんな。この戦争では僕たちは相手から何も奪わないことが決まったよ」
「……え?」
「正気か!?」
「じゃあなんで戦ったんだよ?」
みんながさっきの僕たちと同じような反応をし始める。
命懸けだったのに、何の戦果も得られないんじゃ疑問に思うのも無理はない。
「僕達の目標はAクラスであってDクラスじゃない。そのかわりに次の戦争で有利になるように協力してもらうんだ」
「……まあ、そういうことならいいか?」
「そういやAクラスに勝つんだったな。あまりにも上手くいってて忘れてた」
「この戦争で勝てたのも、吉井達のおかげだし」
「このまま行けば次でも勝てそうだしな」
……あれ?意外と反対意見は少ないな。
僕がこんなこと言い出したら石でも投げつけられてもおかしくない気がしたんだけど。
「……俺は反対だ。このクラスを貰っておいたほうがいい」
「俺達はいいんだけど、次負けたら女性の体調がやばいだろ」
「あんな環境で授業を受けさせるのは、衛生面で問題がありすぎる」
うっ……
そこを言われると弱いな……
自分のためだったらまだ説得できる自信があったけど、理由が女の子のためっていうのは反論するのが難しい。
あの環境よりもひどくなるのは、女の子にとってもリスクが高すぎるし……
「そういうことなら俺に任せろ。戦争が終わったら俺が教室を掃除することになってるからな」
「士郎?」
「これでも家事は得意なんだ、負けたとしてもDクラスよりもいい環境を整えてやるさ。……ただちょっと本気を出させてもらうがな」
「ぶ、ブラウニーが本気を出すだと!?」
「だったらここで引く必要もないじゃないか!Dクラスなんかいらねえ!」
後ろから士郎が援護してくれた。
何をやらせても期待以上の成果を出してくれる士郎が言うととても心強い。
そういう雰囲気が漂ったのか、さっき反論してきた生徒たちも賛成し始めた。
「え?ちょっと士郎。だったらなんでいま掃除しないのさ?手伝いくらいならするよ?」
「いや俺も初日から掃除しようと思ったんだがな……なんでか知らないけど雄二に止められたんだ」
なんで雄二が?
先生ならまだわかるけど。
「うーん……でもこの教室で俺は満足なんだけど……」
「また勉強しなきゃいけないのか……欝だ……」
それでもやっぱり保守的な生徒もいるんだね。
ふっふっふ……そのために僕はこの作戦を考えていたんだ。
皆のやる気を出させるのに効果的な方法は、さっきの戦争で調査済みだ!
これならみんなのボルテージが上がること間違いなしだ!
「それと追加するけど
Aクラスに勝ったら士郎が女の子紹介してくれるって」
「……………………え?」
『……………………え?』
さっきの目撃表現で、士郎の家に女の子が出入りしているのは確定している。
なら、士郎に僕が代償を支払うなりなんなりすれば、女の子を皆に紹介することは可能だ!
須川君は勝利のために自分の身を犠牲にした。
なら僕だって何かを捧げて戦争に貢献するしかない!
何かを変えることができるのは、何かを捨てることができる者だけだ!
「ちょっ、俺何にも聞いてな――」
「本気を出さざるを得ないな!」
「やってやんよ!」
「そこは譲れない!」
「Aクラスに勝てないだと?そんな道理、私の無理でこじ開ける!」
ふっ……
やはり女の子には弱いね。
士郎が困惑してるけど僕は知らない。
これも勝つためなんだ。あとでリンチするなりパシリにするなり好きなようにするがいい!!
「悪いとは思ってるけど僕は謝らない!その代わり僕が出来ることなら何だってやってしんぜよう!」
「じゃあとりあえず謝れ」
「ごめんなさい」
命令されたら従わざるを得ない。
とりあえず床に埋まる勢いで土下座した。
「そこまで綺麗な土下座、俺生まれて初めて見たぞ……」
「ゲザー歴は10年以上あるからね」
「なんだよゲザーって!?」
思えば土下座ばかりの人生を送ってきたな。
「いや正直そんなに怒ってないんだ。ようは俺の知り合いの女の子を数人紹介したらいいんだろ?」
「そんなことを軽くできる士郎が恨めしいよ」
「……つっても、本当にそういうのじゃないんだけどな」
絶対嘘だ。
「そもそも、俺の親父が知り合いと家族ぐるみで付き合ってるってだけで俺が何かしたわけじゃないんだ」
「そうなの?その体質で家の中に誘い込んでるとかじゃなくて?」
「……明久は俺をなんだと思ってるんだ?」
「女誑し」
「よーし表にでろ」
無駄に爽やかな笑顔で親指を校庭の方に向ける士郎。
でもその額には血管が数本浮き出ていた。
「でも、協力してくれて助かるよ。僕じゃあ女の子の知り合いなんて連れてこれないからね」
「お前がそれを言うか?」
「どういうことさ?」
「……やっぱ何でもない」
変な士郎だな。
「さて皆!今日はご苦労だった!明日は消費した点数の補給を行うから、今日のところは帰ってゆっくり休んでくれ!解散!」
士郎との会話が終わると同時に雄二が号令をかけた。
それを聞いた皆は雑談を交えながら、帰る準備をするためにクラスに向かっていく。
「僕も帰るかな……」
満足感はあるけど疲労も半端じゃなく溜まってる。
今日のところは素直に帰るか。
とりあえず教室に戻ってカバンをとってこないと。
そのあと誰か誘って一緒に帰ろう。
「ふー疲れた疲れた。えーと、僕のカバンは……」
「あ、あのっ!吉井君!」
「……へっ?」
教室の扉を開けると同時にこっちに向かって声が聞こえてきた。
……あれ?姫路さん?
「どうしたの?戦争なら僕たちの勝利で終わったけど」
「実は、吉井君に聞きたいことがあるんです!」
何か興奮気味で僕に詰め寄ってくる姫路さん。
それ以上近づかれると、その胸部の装甲が僕に触れそうになってしまう。
……よし、バッチコイ!
「じゃないでしょ!?姫路さん、ちょっと近いよ!」
「あっ…………す、すみません!!」
興奮してもともと赤かった顔が、さらに真っ赤に染まりあがる。
もはや健康状態どころか、生死に関わるんじゃないだろうか。
どうも真剣そうだし、一旦状況をリセットするためにも教室の端に移動する。
「で、話って何?」
「その……坂本君が、この試召戦争を始めたのは吉井君のおかげだ。って言ってましたけど。それって本当なんですか?」
むう、それを掘り返されるのか。
正確には、僕の目的と雄二の目的が一致したからに過ぎないんだけど。
それでも、僕が言い出したからっていうのはあながち間違いじゃないかもしれない。
「うーん、そうといえばそうなるのかな……」
「それも、この教室が皆のためにならないってことで……ですよね?」
「そうだね。そこに関しては嘘偽りはないよ」
少しだけ落ち着いてきたのか、顔の赤みも引いてきている。
にしても、そんな僕の黒歴史的な過去を掘り返してどうするつもりなんだろう。
「それでも、それを言い出したきっかけって……」
「ん?……そうだなぁ、姫路さんがこの教室だと生活しづらいと思ったからだね」
「えっ…………」
「だって姫路さん病気持ちでしょ?あんな教室だったらいつ病気が再発するかわからないじゃない」
最初に出てきたのは姫路さんだった。
振り分け試験の時にあんなに酷い状態になってたのに廃屋にいたら致命的すぎる症状が出るかもしれない。
それだけはなんとしてでも避けないと。
「そ、それって……その…………私のためですか?」
「それも入ってるね。誰だってこんな教室嫌でしょ?大丈夫、僕も頑張るし皆も頑張ってくれてるんだからAクラスなんてすぐだよ」
「え、えっと、その……」
「次の戦争には姫路さんにも頑張ってもらうからね。期待してるよ。……あ、その無理だけはしないでね?」
「は、はい!任せてください!!吉井君のためなら何だってしますから!!!」
「ちょっ!?声が大きいって!」
ん?今なんでもするって言ったよね?なんてネタを振る暇もなく錯乱し始める姫路さん。
そんな危なっかしいセリフを誰かに聞かれたら、僕の学園生活は終了してしまう。
あわてて僕は姫路さんの口を手で塞いだ。
「むっ!?むー、むー!!」
「一旦落ち着こうか姫路さん。そのセリフは人に聞かれると僕の命はまずいことになる。いいね?」
「ふむっ……ふー……ふー……」
「……あれ?姫路さん?何でそんなに顔が赤いの?」
しまった!このままだと酸欠状態になってしまう!
あまりに慌てすぎたせいか僕の行動もどこかおかしいことになっていた。
そう結論づけて、僕は素早く手を離した。
「ご、ごめん姫路さん!!いきなり口なんか塞いで、息苦しかったでしょ!?」
「あ、ふー……えへへ……あふん……」
「何だかとんでもないことになってるーーーー!?」
姫路さんの目の焦点が何処にもあってない!?
なんか熱に浮かされてるかのように意味不明な言語も出てきてるし!?
ほっといても危なすぎるし、結構強めに姫路さんの肩を揺すった。
「気をしっかり持つんだ姫路さん!!」
「うぅ……はっ?あれ?私は何を……?」
ふぅ……なんとか魂を現世に引き止められたみたいだ。
あのままだと僕が人殺しになってしまう。
この歳で刑務所に行くのは避けたい。
「それじゃあ僕は帰るから。姫路さんも気を付けてね!」
「え、あ、はい、分かりました」
「またあした!」
これ以上ここにいると何をしでかすのか自分でもわからない。
そのためにも戦術的撤退させてもらう。
誰かと帰ろうと思ったけど、辺りにはもう人はいないし、雄二も先に帰っちゃったのかな。
「一人で帰るしかないか」
そういえば、まだ補習室には人はいるんだろうか。
さっき戦争が終わったときは、内藤君も美鈴さんもいなかったし。
気になって補習室の方を見ると、薄暗くなってきた空とは反対に未だ明かりがついて、鉄人の指導する声が聞こえてきた。
課題でも終わらせないと帰れないようになってるのかな?
「ちょっと、そこのあんた」
「ん?僕?」
突然後ろから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
なんとなくだけど、どこか勝気な雰囲気がある声だ。
振り返ると、青い髪をした小さい女の子が立っている。
けれど、その服はこの学園の制服じゃなくて、高そうな素材で作られてそうな上等な服だった。
ってことは、この学園の生徒じゃないのかな。
「この学園の駐車場ってどこにあるか知ってるかしら?」
「ああ、それなら裏の方の玄関を通ってしばらくまっすぐ歩くと右の方にあるよ」
「うーん……なんかこの校舎って広すぎてよく分からないのよね……」
迷子になってただけか。
ここには見学にでも来たのかな。
確かにここって広すぎて、慣れないうちはどこに何があるのか把握しずらい構造になってる。
……仕方ないか。
「よかったら僕がそこまで送ってくけど?」
「そう?だったら早く案内しなさい。私に手間を取らせないで」
「……うわあ」
聞こえないように小さい声で嫌そうな声を上げてしまった。
この子、絶対お嬢様タイプだ。
姫路さんのホンワカしてるのとは逆に、偉そうにするのに慣れてるお嬢様だ。
……もしかして面倒なの拾っちゃった?
「何よその嫌そうな顔」
「ベツニナンデモナイデスヨ」
「じゃあとっとと連れていきなさい」
くそう、絶対この子と僕は仲良くできない!
初対面で偉そうにしてくる人なんか信用できないに決まってる!
どこにも親近感がわく要素が見当たらない!
「早くしてくれないかしら?このままだと私の寿命がストレスでマッハなんだけど?」
「…………え?」
「何?」
「いや、その、え?」
なにかとんでもない言葉が聞こえてきたような気がする。
すごく親近感がわくような、そんな独特の……
いや、まさかこんなお嬢様然とした子が使うわけがない。
多分気のせいだろう。
「にしても助かったわ。このままだと道に迷って裏世界でひっそり幕を閉じることになってたもの」
「………………」
「その反抗的な目はなによ?緋想の剣スウィフトでバラバラに引き裂かれたいのかしら?」
「………………」
「おいィ?あんた頭悪いわね、こっちから話しかけてるのに返事しないのはずるいわ。返事をしない奴は心が醜いのよ?」
「………………」
「汚いなさすが生徒きたない。あまりにも卑怯すぎるでしょう?あまりの無反応すぎると私の怒りが有頂天になるけど、あんたそれでいいの?」
「君、ブロントさんの知り合い?」
「なんで分かったの!?」
「分からない訳があるかァァァァァァァ!!!!」
感染度が僕達のクラスよりもよっぽどひどいのに、無関係って言われたらそっちのほうが驚くよ。
下手したら霊夢や魔理沙よりもひどいんじゃないの、この子。
「まあ確かに私はブロントさんの知り合いよ。……というよりは家族に近いかしら?」
「兄弟なの?」
「そうじゃないけど、小さい頃から知り合ってたから幼馴染みね」
「なるほど……」
つまりこの子も、あの変な日本語を使う外国人か。
横文字の名前って覚えにくいんだよなあ。
「僕は吉井明久。ブロントさんの友達をやらせてもらってるよ。君の名前は?」
「比那名居天子よ」
「思いっきり日本人の名前!?」
普通に日本人の名前なんだけど!?
それなのになんであんな言葉使ってるの!?
「いろいろ事情があって日本に住んでて、名前もこっちに移った時に変わったの。元々はイングランド生まれよ」
「あ……そうなんだ……」
そこには複雑な家庭事情とかあるんだろう。
あまりこれ以上踏み込まないようにしよう。
「にしても、なんでこの学園にいるの?ここの生徒じゃないよね?」
「転校するし、もう少しでここの生徒になるけどね」
ああ、それで下見をしてるのか。
だとしたら、一体どこのクラスに入るんだろう。
お嬢様っぽいし、結構上のクラスに行きそうだ。
「どこのクラスとかは決まった?」
「先生に私が携帯を使ってるの見られたから点数はないわよ」
「思いっきりカンニングしてる!?」
「はぁー?カンニングじゃないですしおすしー?」
「じゃあなんで携帯なんか使ってたのさ!?」
「色々あんのよ。なかなか面白いことになりそうだし今は黙秘権を使わせてもらうわ」
もしかして比那名居さんって不良?
……こんなところでもブロントさんの影響を受けちゃって……
「っと、もう駐車場に着いたよ」
「あら、ありがとう。んーーと………………」
夕暮れも過ぎて、辺りが一層暗くなってきているせいか、比那名居さんは目的の場所がよく見えていないようだ。
車で帰るのかな。だったら車を運転する人がいるはずだけど。
「おいおい(呆れ)一体どこをほっつき歩いてたわけ?集合時間には時既に時間切れ、このままでは俺の寿命が空腹でマッハなんだが。誇り高い思考の騎士じゃなかったら既にお前は海の中だったな。何か言うことはないのか?」
「迷子になってたの。いちいちそんなことを気にするなんてせこいわよ。せこい心→我慢力が雑魚→心が狭く顔にまででてくる→いくえ不明。ほらこんなもん。私が冷静なうちにいい加減ブロントさんのバカみたいにヒットした頭を冷やしたら?」
「おまえもし化して空気が読めない馬鹿ですか?お前が悪いんだから俺を悪者にできない。あと一分までに謝ったら許す。早くすろ!」
「何か粘着がいつまで立っても鬼の首みたいに粘着してるが時代は進んでるのよ。女の子をそんなに悪者にしたいなんてブロントさんは謙虚じゃないわね。すごくないなー憧れないなー」
「どうしたら俺の責任の義務は最強のプレッシャーとなって襲いかかってくるって証拠だよ?相手を挑発する言葉は非常に人をふるかいにする!こっちが礼儀正しい大人の対応してればつけあがりやがってよ!」
「はあ?あんた逆ギレする気!?そんならもう死ね!」
「逆ギレはお前の方だろ!みろ見事なカウンターで返した!」
そこにはやはりというか、予想通りというかブロントさんが立っていた。
けれど、比那名居さんがなにやら遅刻してきたことから、とんでもない喧嘩が始まろうしている。
今にも取っ組み合いの喧嘩が始まろうとしたとき、ブロントさんの背後からもうひとり男の人が出てきた。
「はいはい、そこまでにしておこうかブロントさん。これ以上喧嘩していると無駄に夕食の時間が遅れるだけだよ」
「……俺は「」確かになとみとめてしまうしかなくなった。空腹でちょとわずかにイライラしてた感、悪かったな天子」
「まぁいいわ。こっちにも非があるわけだし。ごめんねブロントさん」
その男の人は、ブロントさんと同じように銀色の髪を持っていて、それとは対照的に肌が透き通るほど白い。
メガネをかけているが、着ているものが独特の服装で、夏場だったら暑苦しいだろうなぁ。と思えるほどに厚着をしている。
……なぜだ。あの男の人からも僕と同じ不憫の匂いがしてきた。
初対面だというのに、なにかしら面倒事に巻き込まれる気がしてならない。
「む、明久か。お前が天子をここまで連れてくる系の仕事をしていたのか?」
「迷ってるみたいだったしね。ちょっとしたおせっかいみたいなもんだよ」
「それでもこっちとしては助かったという事実。お前全力で胸を張って良いぞ」
「それほどでもないよ」
「やはり優しかった!しかも胸を張れと言ったのに謙虚にもそれほどでもないと言った!」
うーん。なんでこんなにブロントさんに好かれてる……っていうか好印象なんだろう。
僕何かしたっけ?
「おーい香霖!早く行こうぜ!私もう腹が減って仕方ないぞー!」
駐車場に止めてあったワゴンから魔理沙の声が聞こえてきた。
魔理沙も一緒に帰るのか。
で、この男の人は香霖っていうのかな。
「やれやれ……どうも魔理沙は堪え性がないね。どうだい、君も一緒に来るかい?」
「一緒って?」
「これから皆で食事に行くんだ。食事代はこっち持ちだけど」
なん……だと……?
貴重なカロリーを昼だけでなく夜も手に入れられるだと!?
僕は今日だけで一生分の運を使い果たしたんじゃないだろうか。
「い、いいんですか?」
「もともと大人数だったんだ。一人ぐらい増えても構わないさ」
「お前はリアルで骨になりそうなほど貧弱食事生活を送ってるらしいし、ここは素直に食事を奢られるべき」
「奢るのは僕なんだけどね……」
「あまり細かいことを気にするな霖之助、そんなんじゃすぐハゲる」
「ハゲてない。っと、明久君、どうする?」
「是非お願いします!!」
何だっていい、タダ飯を食べられるチャンスだ!
こんなチャンスを逃す手はない!
カロリーを得るためなら何だってやるよ!
「そうか、それじゃあよろしく頼むよ。僕は森近霖之助、リサイクルショップを経営してるしがない商人さ。よければ今度うちの店に来てくれると嬉しい」
「露骨に自分の店を宣伝する……いやらしい」
「ほう…………ならブロントさんは今度から給料が減ってもいいって言うんだね?」
「調子こいてすいまえんでした;;許してくだしあ;;」
ブロントさんが言ってたアルバイト先の店ってこの人のだったんだ。
……あれ、そういえばこの人銀髪でメガネをかけてるな。
ブロントさんが放送で呼び出したのってこの人?
「さあ明久君、空いてる席に座ってくれ。少々狭苦しいかもしれないが……」
「あの……その助手席に座って落ち込んでる人って…………」
助手席からとんでもない負のオーラが飛んできた。
ブツブツ言ってる言葉にもそのネガティブなエネルギーが乗ってしまってるのか、呪言のように聞こえてくる。
顔は俯いていてよく見えないけれど、その後ろ姿と銀色の髪をみるだけで誰なのかすぐわかってしまう。
僕らの日本史の先生、上白沢慧音の他ならない。
「うん?慧音のことかい?ブロントさんに呼び出してもらって『今夜一緒に食事にでも行かないか?』って聞いたあたりまでは上機嫌だったんだけどね」
……あれ?食事に誘われた時までは喜んでたってこと?
告白だー。って思ってたのが勘違いで終わって悲しみを背負ってるのかと思ったんだけど。
……もしや森近さんは士郎並みの鈍感なんだろうか。
だから食事に誘ってもらえるだけで嬉しかったと……なんと不憫な。
「おかしーよなぁ。『たまたま』その現場に居合わせた私達が『慧音にだけなんて不公平だから私たちも連れてけ』って香霖に頼んだだけでそんなに落ち込むなんて、この魔理沙さんにも見抜けなかったぞ」
「……くっ!あれさえなければ霖之助と二人で食事できたのに……!」
「おいおい、生徒に対して迷惑なんて言うつもりじゃないだろうな?私だって香霖の世話になる権利ぐらいあるはずだぜ」
助手席の真後ろから、魔理沙が会話に割り込んできた。
普段のように快活に笑っているように見えるけど、目が全く笑っていない。
どっちかというと、獲物を捉えるのにどうやって策をめぐらそうか考えている狩人の目だ。
そんな目をしているのに、『たまたま』なんて言葉は信じられるわけがない。
間違いなく確信犯だ。
あの放送を聞いて、魔理沙はその現場に行ったんだろう。
朝、ブロントさんが言ってた魔理沙の気になる人ってもしかして……
「ふぅ……君が少しは商品でも買っていってくれれば、少しはその権利のことも認めてもいいんだけど」
「こんなに可愛い女の子達と一緒に食事できるなんて、それだけでご褒美みたいなもんだろ?」
「自分で言うな、自分で」
「いはいいはい!ひっはふな!」
他人に遠慮がない魔理沙だけど、森近さん相手にはさらにそれが助長されるのか、当社比二割増で強気なセリフを口走った。
その態度にイラッとしたのか、森近さんはそうやって偉そうな口調でにやりと笑う魔理沙の頬を引っ張り上げる。
それでも本気でやっていないあたり、この人は魔理沙に対して甘いんだろう。
「本当に魔理沙って分かりやすいわね」
「あ、霊夢もいたんだ」
呆れ気味にぼやく霊夢の声が最後列のシートから聞こえてきた。
今までおとなしく座っていたせいか、それとも前列で繰り広げられる女同士の戦いの印象が強すぎるのか、今まで全く気付かなかった。
霊夢は特に森近さんに何か思うものはないらしいのに、どうしてこんなところにいるんだろうか。
「タダ飯が食べられるのに見逃すわけ無いでしょ」
そんなの当たり前だ。
自然の摂理と言っても過言じゃない。
僕達のような貧乏生活を送っている人間にとって、タダ飯ほど尊いものはないんだから。
「……あれ?これって席足りるの?」
この車は3列シートになっているけど、皆の荷物が場所をとっていて横幅が狭いせいか、一列に二人しか座れそうにない。つまり定員数は六人だけだ。
それに対し僕たちは、男は僕とブロントさんに森近さん、女は霊夢と魔理沙、比那名居さんに上白沢先生の七人。
……まずくない?
「一応七人乗りだから法律の上じゃあ問題ないんだけど、物理的に厳しそうだね」
「ブロントさんも体がデカイし、圧迫感が半端ないわね」
「別に俺は存在感をアッピるしてるわけじゃない。その問題は霊夢達が小さいことで回避されるし議論するだけ無駄」
「へっへっへっ……私にいい考えがあるぜ!」
おお、魔理沙なにか思いついたのか!
いい考えだなんて、これは期待できそうだ。
「なんで余計に不安になるのかしら」
「私に分かるわけないでしょ」
霊夢と比那名居さんが何か言ってるけど、気にしない。
魔理沙はいきなり車のドアをスライドさせて、森近さんが座っている運転席まで向かっていく。
そのまま勢いよくドアを開け、軽くジャンプすると――
「ここが空席だぜ」
「なあっ!?」
チョコンと、森近さんの膝の上に座った。
魔理沙は小柄だから、普通に森近さんの上に乗れている。
その光景を見て、上白沢先生が驚きと悲鳴が半々の叫び声を上げた。
……いやまさかそんな方法で解決しようだなんて思いもよらなかった。
今僕の頭の中でガン○ムの刹○とグラ○ムが戦ってる時のBGMが聞こえてきた。
一体何が起こるんです?大惨事女同士の戦争だ!
けれど、この冷戦はすぐ沈静化に向かっていく。
悔しそうな先生の態度に魔理沙が満足そうな顔で座っていると、森近さんに後ろを掴まれて扉からほっぽりだされたからだ。
「痛っ!?いきなり何するんだよ香霖!」
「いきなりはこっちのセリフだ!普通に事故るだろ!」
「香霖のケチ!」
「ケチとかそういう問題じゃないと思うんだけど?」
空気を読まずに、空気を破壊してくれて助かった。
横を見るとブロントさんもどこか安心したようにため息をついた。
「マジ震えてきやがった……怖いです……女同士の戦いとかちょとsYれならんしょこれ。助かったもう終わったと思ったよ」
「森近さんって、モテるんだね……」
「意外とアチコチでフラグを乱立してしまうほどの超パワーの持ち手だからな。店主はラスボスよりも強い系の話があるのだよ(シレン話)しかもそのまま店主の器に収まらぬだろうと言ってマジでダンジョンのラスボスになったときは『そんな装備で大丈夫か』と言ってたやつが『大丈夫だ問題ない』とジョブチェンジしてしまうあるさま、まあ中の人論でね?」
「何それ怖い」
こんなにフラグを立てるだなんて、そんなの普通じゃ考えられない。
こんなんじゃ僕、森近さんに嫉妬したくなっちゃうよ……
「でも、膝に座るって発想はいいと思うわよ。霖之助さんに座るのが問題ってだけで、後部座席の誰かなら問題ないもの」
……それってブロントさんを標的にしてない?
しかも、お誂えしたかのようにブロントさんと絡みのある霊夢と比那名居さんがここに……
やばいお腹痛くなってきた。
もう帰っていいかな。
「これが『一難去ってまた一難』の正しい使い方か……」
「…………俺の上に座れ明久!どうなっても知らんぞ!」
「えっ?ちょっ!」
「き、急にどうしたんですかブロントさん?」
絶望しそうになっていたら、いつの間にかブロントさんの膝の上に座らせれていた。
なにか焦った様子で必死になってるブロントさんに、若干引き気味で霊夢がブロントさんに尋ねる。
「定員オーバーになるのをガードするのに明久を乗せただけ。見事な仕事だと感心はするがどこもおかしくはないな」
「別に明久じゃなくても良かったんじゃ……」
「それだとリア♀を乗せることになるでしょう!?俺にはそんなの耐えられにい!俺は紳士だからよ、刺繍入りのハンカチはポケットに入れてるし、女と気安く触れ合ったりしない!」
「はっはーん。ブロントさん、照れてますね?」
ニヤニヤしながらブロントさんを見つめてくる霊夢がいた。
見上げてブロントさんの顔を見ていると、本気で耳まで赤くしているのが見える。
……あれ?もしかしてブロントさんの修羅場を危惧してたの僕だけ?
「う、うるさい気が散る!一瞬の油断が命取り!」
「ま、ブロントさんは昔からそうだったものね。小さい頃から女の子と普通に遊べるのに、手をつないだりするだけで真っ赤っかになったりしてさ」
「おいやめろ馬鹿!情報漏えいは犯罪だぞ!それ以上喋るなと言っているテンシ!」
「へー、そのことについて【興味があります】早く話すべき死にたくないなら話すべき」
「あら霊夢はなかなか解っている様ね。昔話を奢ってあげるわ私は優しいからね。他のやつらにも伝えてやるべきよ」
「ちくしょうおまえらは馬鹿だ;;」
完全に蚊帳の外になってる僕がいた。
でも、修羅場が発生するよりはガールズトークをしてもらってるだけの方が何億倍もいい。
たとえそれがブロントさんの犠牲のもとに成り立っているものだとしても。
ブロントさんの鳴き声をBGMにして、ようやく車が動き出した。
なんとなく、この車が子牛売りの馬車に見えたのは僕の錯覚だろうか。
「それじゃあまずは、ブロントさんが小さい頃ガチ泣きした話を――」
「おいィィィィィィィィィィィ!!!!!」
うん、錯覚じゃないね。