バカとナイトと有頂天   作:俊海

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今回、姫路さんが原作と変化しています。
そのことを心の片隅に置いて読んでください。


第十一話 バカとナイトと毒物劇物取扱責任者

翌朝、いつも通り学校に向かう。

今日は試召戦争で消費した点数を補給するためのテストを受ける日だ。

ただ、僕に限って言えば昨日の戦争で点数を減らされていないから、放課後になったら直帰するつもりでもある。

Bクラスとの勝負は、明日か明後日に開幕ってわけ。

 

 

「おはよー」

 

「おう明久、時間ギリギリだな」

 

 

すでに到着していた雄二が隣の席で胡座をかいて勉強している。

……雄二って負傷してなかったはずなんだけど?

 

 

「おはようだな明久。今日は朝飯を食べてから来たんだろうな?昨日のアレを見てると明久の食生活が不安顔になって、このままでは俺の寿命が心配でマッハなんだが……」

 

「あははやだなぁブロントさん。今日はちゃんと食べてきたよ」

 

 

ちょっと高級にソルトウォーターを三杯も食べてきたんだから。

砂糖を入れたのはちょっと贅沢だったかな。

 

 

「昨日……?お前、明久の何を見たんだ?」

 

「ああヒーローは本当に偶然常に近くを通りかかるもんだなと納得した出来事があってな。天子が集合時間に遅れてしまったんだが、俺は集合場所にいたので天子が急いだところがアワレにも俺達の胃袋がくずれそうになっているっぽいのが胃袋で叫んでいた。どうやら天子が迷っていたらしく「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいる俺達のために明久は学校生活の経験を使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ天子を参戦させると『もうついたのか!』『はやい!』『きた!案内役きた!』『メイン案内役きた!』『これで食べるる!』と大歓迎状態だった。ここで明久を無視してお恩をアダで返す人がぜいいんだろうがおれは無視できなかったので、俺が明久に『夕食をおごってやろう』というと『やっと許しが出たか!』『封印がとけられた!』と喜んでるのがバレバレでバレてる証拠に笑顔が出てしまっていた」

 

「明久、通訳」

 

「たまたま帰りにブロントさんの知り合いを見つけて、ブロントさんのところに送ったら夕食に誘われたって事だよ」

 

 

遂に要約するまでの能力を手に入れてしまった。

この言語理解能力が英語とかに使われないのはなんでだろう。

 

 

「どこに行ったんだ?」

 

「焼肉だよ。食べ放題の」

 

 

霊夢なんかは『焼肉に行かなかったら殺す』ってぐらいの迫力で推してたし、ブロントさんと魔理沙も賛成してたからね。

その中でも天子――なんか比那名居さんと呼んでたら『面倒だし呼び捨てでいいわ』って言われたから天子にした――は、普段はあまり行かないらしくて少し物珍しそうにしてたなぁ。

夕食の時にブロントさんに聞いたんだけど、天子はやっぱりいいとこのお嬢様らしく、騒がしい店なんかは行ったことがなかったらしい。

最近になって一人暮らしするようになってからは、そういう店にも行ってみると天子が主張してた。

 

 

「なんだ、羨ましいな。どうせなら俺も行きたかったぜ」

 

「戦争が終わったら皆で打ち上げにでも行く?」

 

「そりゃあ良い。戦勝祝いってのも悪くねえな」

 

 

快活に笑って雄二が提案に乗ってくる。

ただ問題は、その時に僕が打ち上げに行くだけのお金を持っているかということだ。

昨日は奢ってもらったから行けたけど、今度行くときは匂いをおかずに白米を食べる羽目になるかもしれない。

ブロントさんって食べるとき豪快だから、残ったものをこっそり貰おうかな。

昨日だって『九人前でいい』とか言って、全種類の牛肉を制覇してたし。

 

 

「……あれ?もうそろそろ授業始まるんじゃないの?」

 

「それがどうしたんだ?」

 

「須川君の姿が見えないんだけど」

 

 

まさか、日をまたいで補習なんてことはないよね?

補習に対して少しの恐怖心を持ち始めたところに美波が来た。

 

 

「……それね……一時間目の数学のテストなんだけど」

 

 

美波が気の毒そうに、本当に心から気の毒そうに告げる。

 

 

「監督の先生、船越先生なんだって……」

 

 

聞いた瞬間、教室の外から一人の生徒が死に物狂いで走っているような物音を聞いた。

……無事に帰ってくることを切に願う。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

「うあーー本当におかしいってあの先生、なんであんなに生徒に対して求愛できんの?なんでその行動力をもっと若い時にしなかったの?なんで世間はあれを先生と認めてるの?今日午前中俺だけリアル鬼ごっこじゃねーか。そもそも俺より年食ってる船越先生がなんであんなに体力持つんだよ。コンピューターか、コンピューターおばちゃんか。自動男追尾機能搭載型のロボットか。そんな機能があるなら俺にもつけてくれ。スケープゴートを探すのに使うから。年取れば取るほど強い奴なんてウォルターとかだけで十分だっつーの」

 

 

須川君が机に突っ伏した。

授業による疲れではなくて、サバイバルゲームを生き残るための疲労によって。

なんていうか……いつかいいことあるよ!

 

 

「どうやって逃げ切ったの?」

 

「ああ、近所に住んでる他校の知り合いを紹介して逃げてきた」

 

「その人大丈夫?」

 

「いや、むしろあの男を攻略できる人間がいるなら見てみたい。他人との付き合いを拒絶しまくってるし。第10の使徒の拒絶型よりも分厚いATフィールド持ってるぐらいのレベルで人付き合いが嫌いっていうか、疑心暗鬼になってるっていうか。おかげで今でもそいつはボッチだ」

 

 

なんだその人間。

僕と同い年で人間が嫌いなんて、人生を達観しすぎじゃないだろうか。

それとも、昔何か嫌なことでもあったんだろうか。

 

 

「そんな人と、よく知り合えたね」

 

「去年俺少し入院してたら、となりの個室がそいつだったんでな。俺といろいろ趣味が合うからよく話してたんだよ。はぁーあ、もう少しあいつみたいにオタク趣味を持ってる奴がいたらいいのに」

 

 

僕はゲームはするけど、須川君が言ってるようなアニメとかはあんまり見ないし、昔の漫画もそんなに知ってるわけじゃない。

せいぜい何かしら有名なセリフを知ってるくらいで、本気で詳しいわけじゃない。

士郎なんかは絶対に興味なさそうだし、ムッツリーニはそんなの見る暇があるなら自分のカメラのメンテナンスでもしてるだろう――興味がないというわけじゃなくて、見ると多分出血死するだろうから――秀吉もそういうタイプじゃないし……

 

 

「ほう、お前もオタクだったのかと驚きが鬼なる。自慢じゃないが俺も『オタクスキルが廃人レベルですね』と言われたこともある。日本のサブカルチャーはPTAにとっては地獄の宴だが外国人にとっては神の贈物だからな。オタク文化を世に広めることでイングランドよりも充実した日本生活が認可される。日本のアニメは破壊力ばつ牛ンで、多くの国の心を魅了してしまうほど。日本の文化はすごいなー憧れちゃうなー」

 

「あれ?ブロントさん好きなんだ。あんまり見ないと思ってたけど」

 

「SA○だけは認めにいがな。ナイトがラスボスとか想像を絶する悲しみが俺を襲った。 しかも主人公も黒っぽくて二刀流とか、俺の理想形をどちかというと大反対にした感じの主人公で読み終わったときマジでかなぐり捨てようとしたが本自体には罪がないのでそのまましまわれ、今頃俺の本棚でひっそり幕を閉じている」

 

 

読んだことはないけど、ナイトが悪役なんてブロントさんには許せないんだろうな。

しかし、日本語の文章を読み通せるなんてブロントさんの読解力もすごいなあ。

 

 

「……お前ももう少しわかりやすい日本語なら話せたのによ」

 

「稀によく言われるが、そんなに俺の日本語はおかしいですかねぇ?」

 

「どっから突っ込めばいいかわからないぐらいに変だ」

 

「……いや、この喋り方は俺の責任じゃないことでその問題は回避された。明久ならわかるはず、俺だけがこういう喋り方じゃないと完全論破するのも時間の問題。時すでに時間切れになる前に早く言っテ!」

 

「もしかして天子のこと?でもあの子普通の日本語も喋ってた気がするけど?」

 

「ちくしょうお前らは馬鹿だ……」

 

 

最初は変な日本語も混じってたけど、ブロントさんに比べたらはるかにわかりやすい。

どうして天子とブロントさんでこうも差がついてしまったのか。

慢心……環境の違い……

 

 

「よし、昼飯食いに行くぞ!今日はラーメンとカツ丼と炒飯とカレーにすっかな」

 

 

雄二の胃袋はどうなってるんだ。

……でも、昨日の焼肉を見ている限り、ブロントさんは明らかに体の体積よりも大きい量のご飯を食べてたから、まだましに見える。

 

 

「それじゃあ僕はソルトウォーターでも……」

 

「ちょっと、アキはこっちでしょ」

 

 

雄二達に続こうとしたら、後ろから襟首を掴まれる。

振り返ると、すこしムスッとした感じで頬をふくらませている美波がいた。

その片手には、大きさが多少異なるお弁当箱が。

 

 

「えっ?本当に作ってきてくれたの?」

 

「何?いらないわけ?」

 

「そんなことないよ!ちょっと記憶の片隅から消え去ってただけだって!」

 

「忘れられるくらいなら、食べなくてもいいんじゃないの?」

 

「すみません、本当に作ってきていただいてありがとうございます。そして、そのような大切なことを忘れてしまって申し訳ありませんでした」

 

 

せっかくのお弁当だというのに、取り上げられそうになったから全力で土下座する。

僕のプライドなんか、カロリーに比べたら安いもんだ。

 

 

「ん。よろしい。ちゃんと心して食べなさいよ」

 

「ははー!ありがたき幸せでございますー!」

 

「うむ、苦しゅうない。とくと味わうがいい」

 

 

どこかのお殿様と家来の寸劇をした後、僕の手のひらに美波の大きい方の弁当箱が手渡された。

おお、あの夢にまで見た女の子からの手作り弁当。

いっそのこと、このまま家に持って帰って家宝にしたい。

 

 

「俺も作ってきたから、好きなだけ食べてくれ。結構な量を持ってきたしな」

 

「美波と士郎が胃袋のガードを崩した上についげきの俺の弁当でさらに食事量は加速した。これならみんなで食べても充分足りるのではないか?そこに瑞希の弁当が合わさり満腹に見える」

 

 

士郎とブロントさんが、結構な量の弁当箱をどこからともなく出してきた。

……一体どこにしまってたんだろう。

まあそんなことより。

 

 

「きた!弁当きた!」

 

「メイン弁当きた!」

 

「「これで勝つる!!」」

 

 

僕と霊夢が諸手を挙げて喜んだ。

お昼ご飯がこんなに充実するなんて、今まで僕は経験したことがないよ。

こんなに嬉しいことはない!

これに姫路さんまで参戦するとは……実にナイスだね!

 

 

「え、えっと……その…………」

 

「どうしたの姫路さん?」

 

 

何か挙動不審になっている姫路さんがそこにいた。

あっちを向いてはこっちを向いて、たまに僕と視線が合うと真っ赤になって目をそらしたり。

ソワソワして落ち着きがなさそうにしている。

その顔はどこか落ち込んでいるようにも見えるけど……

 

 

「じ、実は……あの、お弁当…………持ってきてないんです……」

 

「え……僕なんかに作るのがそんなに嫌だったの?」

 

「違います!……その、作ったんですけど、家に忘れてきてしまって…………」

 

 

肯定されてたら、そこの窓ガラスを突き破る事案になっていた。

ガラス代の請求が来るのは避けられたからよかった。

……にしても、姫路さんが忘れ物するなんて、珍しいこともあるもんだな。

 

 

「んー?そこに置いてあるのが弁当じゃないのか?その背中に隠してある、大きめのバッグ」

 

「ひゃわっ!?」

 

「おいおい、持ってきてるのに嘘つくなんてひどいじゃないか。皆でつつくんだしそれもみんなで食べようぜ」

 

 

魔理沙が目ざとく姫路さんの後ろにあるバッグを持ち上げた。

こっちに注目していたせいか、驚いた様子で声を出す姫路さん。

そして、その声に何となく萌えてしまった僕がいた。

 

 

「俺達の弁当の量が多かったから気遣ってくれたのか?男子生徒の食事量なんてとんでもないからいくらでも食べれるぞ」

 

「食べるのではない食べてしまうのが成長期。このまま完全無欠になる日も近い(成人)男子生徒は胃袋を広くすることが必要不可欠。だからそんな心配は【いりません】」

 

「は、はい……」

 

 

なんだ、そんなことを心配してくれてたのか。

押し付けがましいって考えたのかな?

僕だったら、女の子からの差し入れなんて腹をかっさばいてでも食べる所存だ。

……でもそうなると、そのあと力尽きちゃうからな。どうせなら楽にあの世に行きたい。

 

 

「その時は、介錯を頼むよ秀吉」

 

「お主の理論はいつも飛躍するのう」

 

 

秀吉が苦笑しながら言い返してくる。

うん、自分でもどうかと思った。

あ、そうだ。これだけ多いんだったら須川君も誘おうかな。

 

 

「須川君もくる?」

 

「いいのか?それじゃあ「うにゅー!!」

 

 

……何かが通り過ぎたと思ったら、須川君の姿が見えなくなっていた。

というか、拉致られた。

 

 

『何してくれちゃってんの!?なんでいきなり誘拐した!?説明しろバカ女!』

 

『バカ女っていうな!私は霊烏路空ってちゃんと名前があるんだから!!』

 

『お前なんかバカ女で十分だ!つーかマジでなんで誘拐したんだよ!?俺なんか誘拐しても俺の親は身代金何ざ払ってくれねえぞ!むしろバカを始末してくださってありがとうと言われるまである!』

 

『え、えっと……ごめんね?アメ食べる?』

 

『おい、本気で謝るな。おい。余計惨めになんだろ』

 

『泣かないでよ?そ、そのさ。生きてればいいことあるって!』

 

『そのいいことがたった今お前のせいでおじゃんになったんですけどォォォォォ!?俺に対して中途半端な優しさを向けるくらいならほっといてくんねーかなマジで。中途半端な優しさは、どこぞの聖人も『詰めの甘い気づかいは気づかいじゃないんだ!!』ってブチギレる位の所業だからね。普段は穏やかな心をもっている目覚めた人でも怒りでスーパーなんとか人みたくなるからね』

 

『仕方ないなぁ。今日のお昼ご飯はおごってあげるよ。どう?優しいでしょ?』

 

『優しいならこの腕を離してくれねえかな。昼飯おごるくらいなら俺に知り合いの女を奢ってくんねえかな。美人と飯が食えるならこっちが昼飯をおごるレベルだけど』

 

『あ、そうだ。今度のご飯奢るのってどこの店に行くの?』

 

『まさかそのために俺を拉致ったんじゃねえだろうな……!!』

 

『そうだけど?』

 

『拉致る必要性あったのかそれェェェェェ!?メール使えよ!昨日しぶしぶ俺メアド教えたじゃねえかよ!なんでメールしねえんだ!!こんなところにいられるか!俺は教室に戻る!』

 

『知らなかったのかお空からは逃げられない』

 

『どこの大魔王だお前は!?』

 

 

……うん!楽しそうで良かった!

 

 

「それじゃあ先に行っててくれ。飲み物でも買ってくるから」

 

「ウチもついてくわ。アキ、お弁当持って行っといて」

 

「分かった。それじゃあお先に」

 

 

雄二と美波が財布を持って教室を出ていった。

士郎もブロントさんも、本来ならジュースを買うのに付き合うんだけど、このお弁当の量じゃあこっちに残ったほうがいいと判断したんだろう。

この重たいものを女子に運ばせるわけにもいかないもんね。

 

 

「僕らも行こうか」

 

「そ、そうですね……」

 

 

暗い影を背負いながら姫路さんが返事した。

僕はそこまで嫌われているんだろうか。

 

 

「なんだったら、そのバッグ僕が持つけど?」

 

「だ、大丈夫ですよ。これくらいなら私にだって……」

 

 

僕の提案を拒否しながら、姫路さんは階段へと足を運ぶ。

よそ見をしてしまっていたせいか、姫路さんの足が段差に引っかかった。

その瞬間、姫路さんの手からお弁当が宙を舞う。

 

 

「あー、転んでしまいました!」

 

 

どこか空々しい雰囲気を漂わせながら、姫路さんが叫ぶ。

だけど、それよりも僕の行動は早かった。

姫路さんが転んだ瞬間、僕はとっさに姫路さんと階段のあいだに割って入り、姫路さんの下敷きになった。

階段なんかに姫路さんがぶつかったらひとたまりもない!

 

 

「むぎゅっ」

 

「ひうっ!?よ、吉井君!?大丈夫ですか!?」

 

「…………?」

 

 

仰向けに倒れこんだんだけど、何やら柔らかいものが僕を包んでいる。

目の前が真っ暗になり、どことなく息苦しい。

そのせいか全く喋れなくなった僕は、親指をグッと立たせる。

 

 

「ああ……怪我がなくて良かった……心配させないでくださいよ……」

 

「む、むぐー!?むぐぐーー!?」

 

 

僕を包んでいる物体の圧迫感が上がった。

後頭部から目の前のものに押し付けられているような、そんな感触が……

…………え?も、もしかしてこの感触って…………

僕の上に乗っかかってくるなんて、姫路さんぐらいしか居ないわけだから…………

僕って今、姫路さんに抱きしめられてる?しかも、その、僕の顔面に……

 

 

「お、おい姫路!明久が窒息してるぞ!?」

 

「どんなものでも質量あると凶器になるのか。今回のでそれが良くわかったよ>>瑞希感謝。…………っておいィィィィィィ!!!離すべき!明久が死にたくないなら離すべき!!」

 

「…………(ガフッ)」

 

「む、ムッツリーニが鼻血を噴水のように吹き出しておるぞ!?」

 

「(ペタペタ)…………べ、別に羨ましくなんかないぜ。私だってこれから……」

 

「知ってる?女性の体って中学生あたりで成長止まるのよ?」

 

「夢を壊すなぁぁぁ!!霊夢だってこっち側だろ!?なんでそんなひどいことが平然と言えるんだ!?」

 

「……いつから私がそっち側だと錯覚していた?」

 

「なん……だと……?」

 

 

あ、なんだか気持ちよくなってきた。

このまま寝てしまおうそうしよう。

 

 

「よ、吉井君!?しっかりしてください!!」

 

 

もう眠いんだパト○ッシュ。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「…………はっ!?ここは一体!?」

 

「明久はアワレにも盾の役目を果たして死んでいた。今のがリアルでなくて良かったな、士郎がいなかったらお前はもう死んでるぞ。それにしても士郎は万能すぐる。士郎の蘇生スキルはA+といったところかな」

 

「家にいると、そういう技術を持ってなかったら死ぬから、必要に迫られて覚えただけだよ」

 

「どういう生活をしてるんじゃお主は……」

 

 

起き上がるとそこは、屋上だった。

一体いつの間に僕は瞬間移動を覚えたんだろう。

ふと横を見ると、殺人現場さながらのおびただしい量の血を流しているムッツリーニがいるけど。

 

 

「ご、ごめんなさい吉井君。私のせいで……」

 

「さぁ……?何のことかさっぱりだよ?」

 

 

実は記憶にバッチリ残ってる。

でも、そのことがばれると、あの感触を堪能していたことがバレてしまう。

いや、僕としては完全に不慮の事故であって、わざとそういうことになったわけじゃないんだけどね?

 

 

「そんなことより、お弁当を食べようよ。姫路さんのお弁当楽しみにしてたんだよね」

 

 

……っあ。そういえば、姫路さんが転んだ時にお弁当落としてたんだっけ。

あれじゃあ、とてもじゃないけど無事とは思えない。

……はあ、今回はお預けか……

 

 

「ああ、これのことか。とっさだったからびっくりしたよ。落とさなくてよかったな」

 

 

そう言って、片手に持ったバッグを持ち上げる士郎。

……もしかして、あの一瞬でバッグを空中でキャッチしたの!?

なんて反射神経だ!

 

 

「は、はい……そうですね…………」

 

「姫路?本当に大丈夫か?さっきから顔色悪いぞ?」

 

「なんでもないです……」

 

 

士郎が心配そうにするも、姫路さんはなんでもないと言い続ける。

あんなに暗い顔をしていたら、意味がないのに……

 

 

「もう雄二たちが来るの待ってるのもあれだし先に食べないか?これだけあったら全部なくなるなんてこともないだろ?…………何より、霊夢がどんどん猛獣化してきてるし」

 

「そんなことないわよ魔理沙……?ただここ一週間まともに食べられなかったところに昨日のご飯でしょ?あれよ、空腹状態でちょっと食べると余計にお腹がすくってやつ。朝ごはんもなかったし、そのせいかも……ぐ、ぐるるるる……」

 

 

そこには半分人間をやめてしまっている霊夢がいた。

なにか赤いオーラをまとっているようにも見えるし、若干目が赤くなっているような…………

 

 

「やばい、怒れる鬼巫女(バーサークレイム)だ!」

 

「知っているのかブロントさん!?」

 

「普段は確かに心優しく言葉使いも良い霊夢でも、あまりの飢餓状態に完全な怒りとなった霊夢のことだ。この学校はもうだめかな鬼巫女相手では持つわけもない。鬼巫女はダークパワーの力を持ったすごい腋巫女で霊夢のキャラ改変の中で一番有名な変身だべ。この変身で某格ゲー(笑)の多くの狂キャラを殺して来た」

 

 

そう言い切ると、ブロントさんは冷や汗をタラリと一筋流した。

あの何にでも立ち向かうブロントさんが冷や汗を流すなんて、相当やばいのかもしれない。

こうなったら、雄二を待つなんて悠長なことはできない!

 

 

「昨日の焼肉だけでは足りなかったっていうのか……?くそっ!霊夢の貧乏性は化物か!」

 

「霊夢落ち着きたまえ^^俺の弁当を奢ってやろう」

 

「ありがとうございます!!そしていただきます!!」

 

 

一転して、霊夢は穏やかな表情に戻った。

その笑顔は、そこらの男なら一発で引っかかるほど魅力的なものだった。

本当に幸せそうで、見ているこっちが幸せになるような笑顔だった。

…………ただ、その片手に持っているものが、ブロントさんの作った焼豚丼でなければ。

女子力が圧倒的に欠如しちゃってる、残念な美少女だ。

 

 

「……ま、そのほうが親しみやすいのかもね」

 

 

初日の、何人たりとも寄せ付けないかの固有結界を張ってる少女と同じ人物とは思えないほどだもんね。

完璧なのはつまらないって誰かが言っていたような気がするけど、今ならその気持ちがわかるかもしれない。

 

 

「士郎のお弁当を先に広げようか。そっちのほうが量が多そうだし」

 

「あんまり自信はないんだけどな……」

 

 

士郎が、照れくさそうにお弁当の蓋を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、光がこぼれ始めた。

 

 

「な、なんだこの輝き!?」

 

「す、すごく眩しいです……」

 

「食材が光り輝いておるのか!?」

 

「……………………(パシャパシャパシャパシャパシャパシャ)!!!」

 

 

僕と姫路さん、秀吉が同時に驚き、ムッツリーニが激写しまくる。

僕らの様子を見たせいか、ブロントさんたちも寄ってきた。

 

 

「お前ら何してるわけ…………な、生半可な料理人には真似できないホーリー!?」

 

「な、なんなのぜ、こんな漫画みたいな現象……」

 

「これ……お払いに使ったら悪霊退散できそうね……」

 

 

霊夢が料理を料理以外の目的に使おうとしている。

あんなに、欲求がすごかった霊夢が……

これ、聖遺物とか入ってないよね?

 

 

「友達に振舞うから少し気合入れて作ったんだ。その焼豚なんかは何時間もじっくりタレに漬け込んで作ったんだぞ。その卵焼きもちょうど良質な卵が手に入ったから作ってみた。それからこれは……」

 

 

士郎が、あんなに控えめだった士郎が輝いてる……!

もしかして、士郎って料理とか大好きなの?

料理が上手なのは知ってたけど、これほどのものだなんて予想してなかった。

……やばい、これ姫路さんのハードル上げちゃってない?

 

 

「じ、じゃあ姫路さんのはどうかなー……」

 

 

軽い感じで姫路さんのお弁当の蓋を開ける。

 

 

「お、旨そうじゃないか。姫路も料理得意だったんだな」

 

 

そう、士郎が零すくらいにはすごく美味しそうに見えた。

士郎のものと比べたら、少しは見劣りするものの、お弁当の見本として挙げるには十分な出来栄えのお弁当だ。

というより、士郎のを他人と比べるのが間違ってたね。

あれはもはや例外だよ。殿堂入りってやつ。

 

 

「それじゃ、雄二には悪いけど、先に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、ダメです!!!食べたらいけません!!!」

 

 

僕が箸を伸ばそうとして、ひったくるように姫路さんがお弁当を抱え込む。

普段のおっとりした姫路さんに似つかわしくない動きを見せられて、僕たちはポカンとした。

え、どうしたの?これ?

 

 

「もしかして士郎のお弁当と比べたの?そりゃあダメだよ。あれはなんていうか料理じゃなくて儀式レベルだから」

 

「お、俺のせいなのか?だったら、ゴメン……」

 

「違うんです!!衛宮君のせいじゃなくて、私が悪いんです!」

 

 

涙を目に溜めながら叫び続ける姫路さん。

本当にどうしたんだろう。

 

 

「……このお弁当、失敗作なんです。人が食べていいものじゃないんですよ」

 

「いやだから士郎と比べたらなんでも失敗作に――」

 

「……私、自分のお弁当味見してみたんです。そしたら、私気絶しちゃってました」

 

『えっ』

 

 

僕らは一斉に声を漏らした。

気絶?食べ物で?どういうこと?

 

 

「起きたときにはもう二時間が経っていて、お腹に激痛が走っていました。今でもお腹が痛いくらいですよ?」

 

 

自嘲気味に笑いながら、お腹をさする姫路さん。

その姿が一層悲壮感を醸し出す。

 

 

「作り直そうにも時間がなくて、仕方ないからこれを持ってきたんですけど……最初は、出すつもりはなかったんです。持ってきたことをなかったことにしてしまおうって、だから『忘れた』なんて嘘を付いちゃいました」

 

「それを魔理沙が見つけちゃって……」

 

「今度は、どこかでわざとお弁当を散らかそうって考えました。そうしたら食べなくて済むし、作ったことはわかりますから…………そしたら、吉井君が気絶する程の怪我をさせてしまって……」

 

 

いや、あれは完全に役得だった。

むしろこっちが感謝したいほどだよ。

でも、この空気でそんなことは言えない。

 

 

「……結局、私が見栄を張りたかっただけなんです。料理が出来るって見せたかっただけです。そうじゃなかったら、学校にお弁当なんて持ってこなかったんですから……」

 

 

遂に、涙が一筋姫路さんの顔を伝った。

今にも壊れてしまいそうなほど、自分を責め立てているのが分かる。

『どうして、自分のプライドのために他人を巻き込んだのか』と

 

 

「本当に、ごめんなさ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。この唐揚げは不味いね。中が真っ黒になってる」

 

 

外は綺麗に揚がってるのに、中だけこんなに焦げてるなんて、むしろどうやって作ったのか疑問に思うレベルだ。

ジャリジャリと、嫌な食感を残しながら、僕は唐揚げらしき物体を飲み込んだ。

さーて、次はあのアスパラ巻きでも……

 

 

「ど、どうして食べてるんですか!?今、私が言ってた事聞いてたんですか!?」

 

「聞いてたよ?その言葉通り、唐揚げすごく不味かったね。僕じゃなかったら即死だったよ」

 

「文句を言いながら食べるくらいなら、食べなかったらいいでしょう!?なのに、なんで……」

 

「だって、今度作るときの参考になるかなって」

 

「……えっ?」

 

 

覚悟を決めずに食べたら卒倒してる自信はあるけど、昔から胃袋は鍛えられてるからこの程度気合を入れれば平気だ。

この中じゃあ僕くらいしか食べられないだろう。

 

 

「不味いと思ったところを正直に言うから、今度はそこに注意して料理すればいいと思うな。そしたらいつか美味しい料理が作れるよ。何もお弁当を作らなくても、きっと何かの役に立つはずだから」

 

「よ、吉井君……」

 

「唐揚げは、中は焦がさないようにね。それと、唐揚げに使ったタレなんだけど、刺激臭がしたのはなんでなの?」

 

「そ、それは……」

 

「はいストップ」

 

 

僕が持っていたお弁当箱が士郎に取り上げられた。

なんだよ。せっかく食べてたのに。

 

 

「いいか料理は化学だ。手順通りに作らなかったら失敗するに決まってるだろ。料理のレシピは工夫を凝らして歴史を重ねて進化してきた、先人の知恵の結晶とも言える。初心者が手を加えて成功できるわけがないんだよ」

 

「だ、だったら作ってる途中で失敗したら……」

 

「捨てろ」

 

「えっ」

 

「潔く捨てろ。初心者にそこを修正できるほどの技術はない。『もったいない』なんて間違っても思うな。むしろ失敗は次の成功へとつながる鍵だと思え」

 

「はい……」

 

 

今回の姫路さんの失敗を容赦なく突いてくる士郎。

でも、それは決して意地悪で言っているものじゃない。

むしろ、姫路さんのことを思って指摘している。

 

 

「何より大事なのが、『料理は愛情』って言葉があるだろ」

 

「はい。それがどうしたんですか?」

 

「あんな言葉くそくらえだ」

 

「そんな!どうしてですか!?」

 

「愛情なんて調味料は存在しない。愛情だけで料理が上手くなるんだったら世の中に料理人はいらない。料理での愛情ってのは、相手のことを思いやって、その人に美味しく食べてもらおうと努力することだ。決して『愛情こめて作ったんだから美味しそうな顔をして食べてくれ』なんて思っちゃいけないんだ」

 

「…………そう、ですね」

 

「そんなことをしたら、相手の愛情を求めてることになる。『作った人のためにも美味しそうに食べなきゃいけない』って感じでな。そこだけは決して間違えてはいけない。……明久は、そんな愛情は持ってなかったみたいだけどな」

 

「え、いや、僕愛情がないなんて事は!」

 

「明久の場合は『相手が成長できるように正直に話そう』って愛情だよ。そっちのほうが数倍良い」

 

 

士郎はそう言って笑った。

再び、士郎は姫路さんに向かい合い口を開く。

 

 

「姫路は、自分が不味いと思ったものを明久達に押し付けなかっただけましだ。押し付けたとしても、多分姫路が自分の料理の下手さに気づいてなかっただけなんだろうし、まだ立ち直れるさ」

 

「そう、ですか……?」

 

「なんなら俺が料理を教えるよ。俺なんかが教えるってのもおこがましいけど、力になれるならいくらでも手伝うさ」

 

「それじゃあ……お願いします」

 

 

ペコリと、姫路さんは士郎に頭を下げた。

士郎なら、料理を教えるのも得意だろうし、これで一安心だ。

 

 

「吉井君も……ごめんなさい。食べさせちゃった感じになって……」

 

「いいよいいよ。僕なんかでよかったら、いくらでも試食するから」

 

「今度こそ、美味しいって言わせてみせますから!」

 

「それは、期待して待っとくよ」

 

「言っとくけど、この弁当は捨てるからな。これは食べるなよ?」

 

「わ、わかってるって……」

 

 

実は少し食べようと思った。

女の子からのお弁当なんてレアアイテム、中身が悪くても捨てるのに未練がある。

 

 

「あ、坂本君に美波さん。お疲れ様です」

 

「おう、待たせたな!……あれ?姫路の弁当はどこだ?」

 

「瑞希、お弁当どこにやったの?」

 

「あぁ、それなら――」

 

 

まあ、でもいっか。

美波のお弁当もあるし、姫路さんのお弁当も

 

 

「――不味すぎるんで、捨てちゃいました!」

 

 

もっと美味しくなって、食べられるだろうし。

吹っ切れた笑顔を見せた姫路さんの姿を見てそう思った。

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