バカとナイトと有頂天   作:俊海

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だから!なんで!こう間の話を長くするんだ私は!

これは卑劣な忍者のネガキャンが始まってしまった感。
このままだと俺の小説は裏世界でひっそり幕を閉じることになる。
俺が調子ぶっこきすぎた結果だよ?
この小説ももうダメかな、ナイトがいないのではもつはずもない。

おそらく、この次に投稿される小説はまたも番外編だと思います。
なんか書きたいものができたんで。

それではどうぞ


第十八話 バカとナイトと瀟洒な従者

「協定を結びたいだと?」

 

「ああ、そっちにとっても悪い話じゃないはずだ」

 

「内容は?」

 

「簡単な話だ。『四時までに決着がつかなかったら戦況はそのままにして、翌日の午前九時に持ち越しにする。ただしその間試召戦争に関わる一切の行為を禁止する』ことを協定として取り付けたい」

 

「ペナルティは何なんだ?」

 

「こっちの条件としては『この協定が破られた場合、破った側のクラスは試召戦争をその場で挑まれても拒否せずに受け入れなければならない』ってだけでいい」

 

「それって協定で結ぶ意味があるのか?」

 

「まあまあ、あくまでこっちの提示する条件ってだけだ。お前らはこの権利を使ってもいいし、別に提案があるならそっちでも構わねえ。平等だろ?」

 

「そこまで言うなら結んでも構わないが……」

 

「それじゃあ、お前らからの条件を聞かせてもらおうか」

 

「……そうだな、俺もお前らの条件と同じでいい。ただ、少し付け加えて欲しい」

 

「その内容如何じゃ拒否するが、それでもいいなら言ってみろ」

 

「何、そっちにとってはあまり関係ない話だ。付け加えるのは『この条件で戦争を挑んだクラスは、どのタイミングであっても試召戦争を中断する権利を持つ』って文章だ」

 

「……要は、試召戦争を仕掛けた側のクラスは、同時に一時休戦を施行することもできるってことか?」

 

「その通りだ。この一時休戦は、先生立会いのもと行われるから、違反した場合戦死扱いになってもらうがな」

 

「それはつまり、俺達もその権利が使えるってことで相違ないな?」

 

「そうだ。互いにフェアに権利を使おうじゃないか」

 

「ああ、交渉成立だ。その条件で調印しよう」

 

「ご理解感謝するってな。……にしても、協定を結ぶのも笠松がやるんだな。根本はどうした?」

 

「気にすんな。あいつにも事情があんだよ」

 

「やれやれ……本当にお前がクラス代表じゃなくて助かった。そうなったら勝ち目がなかったぞ」

 

「買いかぶり過ぎだっての。じゃあな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手く行ってよかったわね忍者」

 

「さぁ……そいつはどうだろうな」

 

「なんでよ?協定を結びさえすれば作戦を実行できるんでしょ?」

 

「坂本は、この協定に何かあるって感づいてやがる。それを承知でさっきの条件で調印したんだろうぜ」

 

「はぁっ!?それってまずいんじゃないの!?」

 

「いや、気づいてくれた方が上手くいきやすいから問題ねえ。あとは坂本の出方次第だ。さっさと頭を切り替えろ、終わったことは気にしても仕方ねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、雄二はそれに調印してたからこの惨状に気付かなかったってわけ?」

 

「ああ、そういうことだ。……ったく、いちいち汚い野郎だ」

 

 

教室に引き返した僕らを出迎えたのは、穴だらけになった卓袱台とへし折られたシャーペンと消しゴムだった。

 

 

「酷いね。これじゃ補給がままならない」

 

「うむ。地味じゃが、点数に影響の出る嫌がらせじゃな」

 

 

会ったときはそう思わなかったのに、なんか笠松君って器小さいなあ。

 

 

「…………で、雄二がここにきょうきょ参戦できなかった理由はわかったが、これを指示したのは誰なのか理解不能状態」

 

「そんなの、笠松に決まってんだろ。笠松が坂本を協定だって言って連れ出したんだからよ」

 

「その意見にはどちかというと大反対なぜならば――」

 

「…………(トントン)」

 

「お、ムッツリーニか。何か変わったことはあったか?」

 

 

ブロントさんが何か言おうとした時、ムッツリーニがそばにいた。

今日のムッツリーニは戦闘に参加せず、情報収集に動いてもらっていた。

何かあったんだろうか。

 

 

「……Cクラスの様子がおかしい」

 

「どういうこった?」

 

「……Cクラスが試召戦争の準備をしている」

 

「ほっほー、漁夫の利を得ようって魂胆か。いやらしい奴らだ」

 

 

なるほど、疲弊した相手になら楽に勝てる。

この戦争に勝利したクラスに勝負を挑もうってことか。

 

 

「雄二、どうするの?」

 

「そんなの決まってんだろ」

 

 

この場合、Bクラスと停戦状態になった時に、Cクラスとも協定を結んで攻め込ませないようにするのが一番かな。

相手もどうせ、こっちが勝つとは思ってないだろうし。

 

 

「Cクラスはどうでもいい。どんな動きをしても無視しとけ」

 

「えっ?」

 

「お前それでいいのか?このままではFクラスの寿命が点数不足でマッハなんだが……」

 

「いや、どう考えてもCクラスはFクラス相手に勝負なんか仕掛けてこないだろうが」

 

 

何を言っているんだ雄二は。

疲れきった僕たちなんて、Cクラスからしたらカモだよ?

 

 

「あのな……この戦争、俺達が勝ってもBクラスの設備を奪う気はないんだぞ?なのに、Cクラスが攻めてくると思うか?」

 

「「あっ」」

 

 

そういえばそうだった。

もしBクラスを倒しても、Aクラスに勝つまでは僕らはこのちゃぶ台と共に生活するんだっけ。

そんな貧相な設備をCクラスが欲しがるわけがない。

 

 

「それだとCクラスのタゲはBクラスに向くのではないか?病院で栄養食を食べるハメになるほど致命的な致命傷を負ったBクラスに未来がにいのは確定的に明らか。Bクラスは前門の虎前門の王神状態でなす術なし、そのまま裏世界でひっそり幕を閉じる。そんな体たらくでは「損害があまりに大き過ぎた」「これじゃ何も出来ない」系の事を言っていたがもうだめ。そのままBクラスは絶望顔になる」

 

「明久」

 

「それだとBクラスがCクラスに負けるから、Bクラスは僕たちの言う事を聞かなくなるんじゃないの?」

 

「だとしても、Bクラスの連中にとったらまだCクラスの設備だ。わざわざさらに格下のFクラスの設備なんて欲しがらないだろ?」

 

「おっととグーの音も出ないくらいに論破されてしまった感。誰もこんなダークパワーが宿ってそうな教室なんか欲しがるわけがない」

 

 

あー、だから雄二は士郎にこの教室を掃除するなっていったのか。

この教室の価値を最底辺にまで貶めるためにも。

 

 

「とりあえず、この話は保留だ。ブロントさんとムッツリーニは休んでてくれ。博麗……は、寝てるか。姫路と島田も一旦休みで、明久と秀吉に士郎、そんで須川はもう少し敵の数を減らしてきてくれ」

 

「おい、狩りならPTにナイトを連れて行くべき。ナイトがいないとPTももつはずもない」

 

「……今の主な先生達の教科は国語と理科だぞ?」

 

「すいまえんでした;;」

 

 

……ブロントさんなら仕方ないよね。

国語で勝負挑まれたら、絶対負けちゃうもん。

それで言うと美波も国語は苦手だから戦えないし、姫路さんは体力の問題でなるべく温存しておきたい。

心配材料としては、士郎は現代文が少し苦手っていうことだけど……それでも結構高めだから問題ないか。

ムッツリーニ?……彼には彼の役目があるから……。

 

 

「よし、それじゃあ行くよ」

 

「指示は明久に任せるぞい」

 

「ああ、頼んだぞ明久」

 

「頼りにしてるぜ、明久」

 

「なんでさ!?それなら一番点数が高い士郎に――」

 

「お主ら、明久の言葉が聞こえたか?」

 

「聞こえない。何か言ったの?」

 

「俺のログには何もないな」

 

「ちくしょう、みんなはバカだ……」

 

 

なんだろう、着実に染まってきている。

秀吉や士郎が、なんか独特の空気に染まってきている気がする。

須川君に関しては、最初から諦めてる。

 

 

「もういいよ!こうなったらヤケだ!野郎ども僕に付いて来い!」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

 

皆ノリが良すぎる。

全力で廊下に飛び出した僕たちは、とりあえず不利な戦況になってそうなところに突貫する。

これだけの戦力がいたら、ある程度はひっくり返せるだろうし。

 

 

「Fクラス吉井明久!そこのもみくちゃになってるところに勝負を挑む!」

 

「同じく木下秀吉、推して参る!」

 

「Fクラス衛宮士郎、勝負する!」

 

「同上で須川亮、やらせてもらう!」

 

 

挑んだあとで相手を確認する。

ヤバそうだったからってだけで突っ込んだだけだし。

さてと、相手は……

 

 

「あれ?十六夜さん?なんでこんなところに?」

 

「そんなの、私がBクラスだからに決まってるでしょう?もしかして知らなかったのかしら?」

 

「なんだ、誰かと思ったらアニメ好きが露呈したバカじゃねーか。どうよ、元気にやってる?」

 

「バカだなんて言わないでください!私には東風谷早苗って名前があるんですから!」

 

 

そこには二人の女子生徒がいた。

片方は銀髪で、もう一人は緑色の髪。

って、緑の方は宣戦布告した時に須川君が弄ってた生徒じゃないか。

 

 

「のう明久、あの女生徒を知っておるのか?」

 

「んー、まあちょっとだけね」

 

「あら、つれないわね。あれほど明久は体を火照らせて私に向かってきたというのに」

 

「それは美鈴さんと稽古してた時に十六夜さんがスポドリを持ってきてくれたからじゃないですか!?」

 

 

そう、彼女は僕が美鈴さんに拉致――もとい連れられて行った先のお屋敷にいたから知っているだけだ。

なんでわざわざ誤解されるような言い方をするんだ十六夜さんは。

 

 

「それと、本当に口調が変わるんですね。そこまでなりきるなんてコスプレイヤーの鏡ですよ」

 

「……なにか誤解しているようだけど、私コスプレイヤーじゃないわよ?」

 

「またまた、こんなご時世にメイドなんて……」

 

「しっかり働いてるし、お給料ももらってるわ」

 

「……え、まさかあの言葉、本当のことなんですか?」

 

「まさか、信じてなかったのかしら?」

 

「信じられないですよあんなの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし!一旦ここで休憩しましょう!』

 

『……あの美鈴さん、もう日が暮れきってるんだけど』

 

 

そう言って時計を見ると六時半を示していた。

二時間以上ぶっ続けやってたのか、僕は。

 

 

『ありゃりゃ、もうこんな時間に……。それじゃあいっそのこと、ここで夕食を食べていきませんか?その後続きをやるってことで!』

 

『君のそのスタミナはどこから出てくるの?僕もうヘトヘトだよ?』

 

『そうです、そこがすごいんです』

 

『へ……?何が?』

 

『正直、ここまでついてこれるとは思ってませんでした。私も最初は加減してたんですけど、途中から徐々にレベル上げていってたんですよ?』

 

 

なん……だと……?

道理で途中からしんどくなってきたと思ったわけだ!

そのせいで僕汗だくなんだよ!?

 

 

『明久さん、今の状態で歩けますか?』

 

『まあ歩けるよ』

 

『じゃあ、走れますか?』

 

 

なっ!

まさか、ここから耐久マラソンやらせるつもりなのか!?

少しでも遅れたら、後ろから熱湯をかけられて全力で走らなきゃいけない感じの!?

そんなの確実に死んじゃうよ僕!

 

 

『フルマラソンは無理だよっ!勘弁して!』

 

『いやいやいや、流石にさせませんよそんなこと!そうじゃなくて、100m走くらいはできますかっていうことで……』

 

『ああ、なんだ……それくらいなら普通にできるよ』

 

『……明久さんは異常です』

 

『えっ!?そんなに僕って虚弱!?』

 

 

もしかして美鈴さんが僕に要求しているのは、『問題ない!!15メートルまでならッ!!!』とか『日に30時間の鍛錬という矛盾のみを条件に存在する肉体ッ!!』とか、そのレベルのものだったの?

鬼の遺伝子を持っているならありえたかもだけど、僕は普通の人間だから無理です。

 

 

『逆ですよー、逆』

 

『逆?』

 

『なんでまだ体力が尽きてないんですか?普通の人だったら、走るどころか立つことさえ出来ないほどの鍛錬だったのに……』

 

『そんな鍛錬を一般人相手にしないで欲しかった!』

 

 

それはもはやイジメだよっ。

この恨みはらさでおくべきか、末代まで呪ってやる。

絶対に許さない絶対にだ!

 

 

『でも、明久さんは立ってられてるじゃないですか。そのせいでちょっと私も熱が入っちゃいまして……』

 

『それでももうちょっと手心加えるとかさぁ……』

 

『えへへ……すみません』

 

『超許す!』

 

 

可愛さこそが正義……いい時代になったものだ。

照れ笑いしながら謝る美鈴さんを見て、そう思った。

所詮世の中、顔と金だよ。

……言ってて悲しくなってきた。

 

 

『それじゃあ、何とか夕飯を明久さんも食べられるように説得しますから!』

 

『その必要はないわよ美鈴』

 

『『い、いつの間に!?』』

 

 

突如、美鈴さんの背後から少女が飛び出してきた。

……って、本当にどのタイミングでここに来たの!?

僕はおろか、美鈴さんさえも気づかないなんて……。

 

 

『いらっしゃいませお客様。私はこの館のメイドをやらせていただいている十六夜咲夜と申します』

 

 

メイドだとっ!?

今の時代にメイドなんて生物が存在していたのか!?

 

……いやいや落ち着け僕。

メイドは幻想上の生き物で、現実にいるとしてもコスプレだ。

あんな青と白を基調としたメイド服なんて、その衣装に決まってる。

 

 

『謀ったな美鈴さん!ここは実はメイド喫茶で、バカ高い食事をさせてお金をむしり取る気だったんだね!?あいにくだけど、僕は今お金を持ってないから何も頼まないよ!』

 

『それがですね、咲夜さんは本当にメイドなんですよー』

 

『はっ!そういうことか!目を覚ませ僕!ここは夢だ!』

 

『あ、あわわわ!明久さん落ち着いてください!そんなに壁に頭を打ち付けたら怪我しちゃいますよー!』

 

『去れ!僕の幻想よ!いいぜ、そこまで言うんだったらまずはその幻想をぶち殺す!』

 

 

最初っからおかしいと思ったんだ。

今日一日であまりにも役得すぎることが多すぎた。

これは僕の下世話な欲望が見せたまやかしだ。

僕は正気に戻るため、この頭をぶん殴らなくては!

 

 

『おやめくださいお客様。そのように怪我をされてしまっては私達が困ります。どうか落ち着いてください』

 

『あ……すみません』

 

 

その拳を、メイドさんに止められた。

そして、その真剣な表情に、ヒートアップしていた僕の脳が冷却されていく。

 

 

『本日は美鈴がご迷惑をおかけしました。お詫びと言ってはなんですが、今夜はどうぞ御夕食をこの館でご堪能ください。私も腕によりをかけさせていただきます』

 

『ああ、いえ、お構いなく……あ、僕は吉井明久って言います。すみません名乗らなくて』

 

『いえいえ、わざわざありがとうございます。それでは、あと30分ほどお待ちください。その時になればまたお呼び致しますので』

 

 

では。と言い残すと、十六夜さんは『消えた』。

瞬きもしていないはずなのに、一瞬で……。

 

 

『……美鈴さん、もしかして十六夜さんって魔法使い?それか超能力者?』

 

『咲夜さんは人間ですよ?』

 

『いやどー見ても瞬間移動してるようにしか見えなかったんだけど』

 

『手品だって言ってました。瞬間移動しているように見せかけてるとかで』

 

『タネは?』

 

『わかりませんけど』

 

『……それはもはや魔法じゃない?』

 

『……否定できませんね』

 

 

武道の達人である美鈴さんが見えないなら、それはもう魔法でいいと思う。

もしかしてガチで超能力者なのかも。

実は僕よりもはるかに年上の仙人とかで。

 

 

『失礼ですが、私は吉井様と同い年ですので年上じゃありませんよ』

 

『ぎゃああああああああ!!!!?』

 

『何をそんなに驚かれているので?』

 

『驚きますよ!』

 

 

音もなく背後に立たれたりとか、頭の中で考えてただけなのに返事されたりとか!

なんなの十六夜さんって!?

 

 

『あれ、咲夜さんどうして戻ってきたんですか?』

 

『ああそうでした……あれほどの稽古だと吉井様が喉が渇いてると思いまして、こちらの清涼飲料水をお持ちしました。どうぞお飲みになってください』

 

『なんで美鈴さんが普通に受け答えしてるのかは置いとくとして、ありがとうございます十六夜さん』

 

 

多分、慣れってやつだね。

 

 

『あら、私は吉井様の同い年ですので、敬語でなくてもいいですし、呼び捨てでも構いませんよ?』

 

『十六夜さん、それブーメランです。あなたも僕に対して敬語使ってるじゃないですか』

 

『私はメイドですので。公私は分けるタイプです』

 

『……やっぱり慣れないなぁ』

 

 

銀髪ボブの、美人な女の子にメイドですって言われるのは滅多にない体験だと思う。

しかもそれが僕と同い年だと言うんだから。

ここまでメイドになりきれるなんて、相当レベルの高いコスプレイヤーなんだろう。

 

 

『私も学校でお会いすることがあれば友達口調でお話いたしますので、気にすることはないと思いますが』

 

『そういう問題じゃないと思うんですけど……』

 

 

というか、十六夜さんの雰囲気が、リラックスさせる気がしない。

正直何も知らない状態でアリスさんと喋ってる時並に緊張する。

 

 

『ふむ……お客様にそう畏まられると私としても不本意なんですが……では『お前』と、お呼びください』

 

『何かハードル上がってない?』

 

 

本当に従者に対して喋ってるようになってるんですがそれは。

雄二とか須川君なら問題ないけど、僕にはそう呼びかけられない。

十六夜さんはどこまで従者然としているんだろう。

 

 

『それが無理でしたら、さっちゃんと呼んでもらえると、私がとても喜びます』

 

『……へっ?』

 

『さっちゃんと呼んでもらえると、喜びます』

 

『うん幻聴じゃなかったって確認させてくれてありがとうございます。でも僕が言いたいのはそういうことじゃないです』

 

 

別に従者だからって訳じゃなかったらしい。

無表情で淡々と喋ってくるから、冗談なのか本気なのか分からない。

 

 

『……十六夜さんで勘弁してください』

 

『分かりました。そうおっしゃるのであれば、そのように。では夕食の準備をしてきますので、何か御用があればまたお呼びください』

 

 

そう言い残すと、また消えた。

……なんだろう、様々な意味でミステリアスな人だなあ。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

そのあと、招待された夕食では、漫画の中でしか見たことないようなでかい部屋の中で、漫画の中でしか見たことないような巨大なテーブルの上に、漫画の中でしか見たことないような豪華な料理が並んでいた。

あまりの場違い加減に、マナーはどうだったかとか、どう食べたらいいのかさえも分からなくなって心休まる暇はなかった。

せめてもの救いが、食べている人が僕と美鈴さんだけってことぐらい。

間違いなく美味しかったんだろうけど、落ち着かなかった一番の原因が食事中ずっと後ろに十六夜さんがいたことかな。

何かあればすぐに対処できるようにってことらしいけど、小市民の僕には耐えられない。

 

 

「……明久?だんだん目が死んでいっておるぞ?」

 

「ああ、ごめんね秀吉。ちょっと自分の存在価値について考えていたところだから」

 

「何があったんじゃお主」

 

 

それは置いといて、本当に学校だと喋り方変わるんだなぁ。

あまりの変貌ぶりに他人かと思っちゃったよ。

 

 

「あなたが宣戦布告に来たとき、私もいたのだけれどね」

 

「いや……他の人たちのインパクトが強すぎて、十六夜さんのことまで気が回らなかったというか……」

 

「それじゃあ、私も普通に喋っているのだから、あなたも友達口調で喋ってくれない?敬語で喋られると息が詰まるから」

 

「うん、まあそれはいいけど……」

 

「それと、ついでにさっちゃんって呼んでくれたら嬉しいわ」

 

「絶対に呼べないから!十六夜さんさっちゃんって雰囲気全然ないから!」

 

 

クールビューティーな十六夜さんをさっちゃんって呼ぶのはレベルが高すぎる。

 

 

「そう……残念ね」

 

「なんでそんなに残念がってるの!?」

 

 

クールじゃなくて、ただの天然のような気がしてきた。

 

 

「明久……本当にお主何があったんじゃ……」

 

「僕が聞きたいよ……」

 

 

はあ……これなら、東風谷さんと喋ってる方が楽だったかもしれない。

東風谷さんの相手している士郎と須川くんが羨ましい。

 

 

「ほう……向かってきますか……。逃げずにこの早苗に近づいてきますか……」

 

「近づかなきゃテメーをぶちのめせないんでな……」

 

「やってみなさい!この早苗に対してッ!」

 

「ラッシュの速さ比べだ!」

 

 

ふと彼らの方を見ると、須川君の召喚獣の木刀と東風谷さんの召喚獣のお払い棒がぶつかり合っていた。

……周りの敵味方関係なく、巻き添えにしながら。

 

 

「なあ……お前ら、いつの間にそんなに仲良くなってたんだ?」

 

「士郎、テメーはまだ理解していないようだな。ジョ○ョ好きに悪い奴はいねーんだよ。ジョ○ョさえあれば世界平和になるから」

 

「ええそうですとも!ジョ○ョラーは互いに惹かれあうんです!」

 

「んなこと言ってる場合かァァァァァ!!お前らが無駄に激しく殴り合ってるから周りにまで被害が行ってんだろうがァァァァ!!現在進行形でジョ○ョ好きの奴らが周りに災厄を振りまいてんじゃねーか!!平和からかけ離れてることしてんじゃねえ!」

 

「平和と災害は表裏一体だぜ士郎」

 

「いつまでたっても平和が訪れる気配がしないんですけど!?」

 

「ここは戦場ですよ。戦場という特殊な場において常識にとらわれる方がおかしいです」

 

「特殊なのはお前らの頭の中だ!つーかなんでそんなに威力出てんだよ!?お前らそんなに点数高くねえだろ!!」

 

「そりゃお前RPGとかでよくあんだろうが。ステータス的にはしょぼい性能しかない奴が、ムービーに入った途端に建物をぶち壊しながら敵とバトルしてるやつ。あれと同じだ」

 

「ああよくありますね。生まれた意味を知る的なRPGのOPでル○クとア○シュが戦ってる時に床壊れてましたし」

 

「お前らは一回戦う意味を知ってからやりなおせ!いっそのことお前らを深淵の底にぶち込むぞ!」

 

「そうやってカッカすんなよ。ここに戦いに来てるやつらは、そういうのは覚悟の上で出てきてんだろ。そうやって気にしてたらなんにもできやしねえじゃねえか」

 

「味方がバカ騒ぎやって巻き込まれることは覚悟してねーから!」

 

「大丈夫です!皆さん分かってくれてますから!」

 

「お前らが分かってねえんだよ!死屍累々だよもうここ!もはや兵どもが夢のあとみたいになってるよここ!」

 

 

ボケ倒す須川君と東風谷さんを相手に全力でツッコミを入れている士郎がいた。

普段の穏やかの態度からは想像もつかないほどキャラ崩壊しているレベルで突っ込んでる……。

 

 

「……十六夜さんの相手でよかった」

 

「露骨に面倒じゃからのうあっちは……」

 

「……なんだかごめんなさいね。うちの子が」

 

 

何故だ。

今の目の前の十六夜さんから魂魄さんと同じようなオーラが出ている。

さっきまではこっち側じゃなかったはずなのに。

 

 

「早苗は多分、久々に話が合う相手が見つかって喜んでるのよ」

 

「それ、須川君もだよ」

 

 

……いっつも須川君は面倒を起こすなぁ。

 

 

「もう僕達も勝負しようか。なるべくあっちの被害は受けない範囲で」

 

「そうしましょう。あの非常識の嵐には巻き込まれたくないもの」

 

「傍迷惑なやつらじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『 Fクラス 吉井明久    

                 VS Bクラス 十六夜咲夜

  Fクラス 木下秀吉

 

                

 

        112点          

  現代国語          VS     212点

        87点         

                             』

 

 

 

 

うわあ、やっぱり高い。

僕達を足しても追いつかないや。

 

 

「へえ、明久は結構点数が高いのね。Dクラスレベルじゃない」

 

「まあちょっと勉強したからね」

 

「何度見ても、ワシよりも点数が高い明久は違和感を感じるのう」

 

「秀吉、違和感は『感じる』じゃなくて『覚える』だよ」

 

「……まさか、指摘までされるとは」

 

 

そう言われるのも仕方ないよね。

事実僕はこの学年で一番馬鹿だったわけだし。

 

そういえば、あっちの点数はいくつなんだろう。

ちょっと気になるな。

 

 

 

 

『 Fクラス 衛宮士郎    

               VS Bクラス 東風谷早苗

  Fクラス 須川亮

 

                

 

        142点          

  現代国語         VS     198点

        67点         

                             』

 

 

 

 

 

まあいい勝負ってところかな。

でも、それであの被害は少しおかしいけど。

 

 

「十六夜さん、召喚獣までメイド服なんだ」

 

「武器は……短剣?いや、ナイフじゃな」

 

「さあ来なさい。あなたたちの時間は私のものよ」

 

 

そういうやいなや、両手のナイフをこっちに投げてきた。

近接戦闘じゃないの!?

 

 

「その程度、剣を盾にして!」

 

「すまん、明久!」

 

 

すかさず秀吉の前に飛び出し、剣でナイフをガードする。

秀吉の武器は薙刀だしね。

でも、投げてくるだけならこれで……

 

 

「甘いわね。隙だらけよ」

 

「うそぉ!?」

 

 

昨日の十六夜さんのように、召喚獣が瞬間移動してきた。

ガードしていて、反応が間に合わなくなった僕は、そのまま攻撃をくらってしまった。

 

 

『 Fクラス 吉井明久    

                 VS Bクラス 十六夜咲夜

  Fクラス 木下秀吉

 

                

 

         93点          

  現代国語          VS     212点

        87点         

                             』

 

 

 

うわ、二割近く消し飛んだ。

しかも、この攻撃、軽く一発もらっただけなのに。

 

 

「大丈夫か明久!?」

 

「この程度なら……うん、やっぱり痛い!」

 

 

あまりに攻撃を受けてないせいでフィードバックのことを忘れてた。

さっきも間桐君のパンチをもらったのに。

 

 

「同情するわ、召喚獣のダメージを受けてしまうなんて」

 

「じゃあちょっと手心加えてくれない?」

 

「それはできない相談ね」

 

「そりゃそうだ。……そのナイフ便利そうだね」

 

「ええ、投げても手元に戻ってくるもの」

 

 

くっ、遠近両用ってところか。

……思ったけど、召喚獣の武器って当たり外れ多くない?

 

 

「あなたは美鈴の訓練を受けているから油断しないわよ。しかも召喚獣は精密動作を得意としている……なかなかに手ごわいわ」

 

「過大評価しすぎだってば……」

 

「メデューサや慎二を倒しているのに過大評価するなってのもおかしな話と思わない?」

 

 

そういえばそうだ。

 

 

「それなりに頑張ってみるよ。このまますごすご負けるのも嫌だし」

 

「戦力になるとは思えんが、協力くらいならワシもするぞい」

 

 

これは負けられない。

僕がやられたら秀吉まで巻き添えなんて、そんなことは許容できない。

こっそりと十六夜さんに聞こえないように耳打ちする。

 

 

「任せなよ。僕にだって作戦くらいあるさ」

 

「ほう、それは心強い。して、どんな作戦じゃ?」

 

「僕がナイフをなぎ払って、秀吉が突貫」

 

「……それは作戦と言えるのか?」

 

 

ややっ、秀吉が何か残念な子供を見る親のような目にっ。

い、一応根拠だってあるんだからね!

 

 

「投げても戻って来るってことは、あのナイフは無限じゃないんだ。十六夜さんが投げたのを全部撃ち落としたら隙だらけになるじゃない」

 

「確かに……いや、すまん。昔の明久を知っているとつい……」

 

 

またも……またしても……時空を超えてお前は一体何度――

僕の前に立ちはだかってくるというのだ!!昔の馬鹿な僕!!!

 

 

「作戦タイムは終了かしら?」

 

「うん、待たせたね」

 

「何も律儀に待たなくとも良い気がするんじゃが……」

 

 

そこっ、こっちに都合がいいんだから黙っておく!

 

 

「さあ行くよ!十六夜さん!」

 

「来なさい!このナイフの弾幕をくぐり抜けられるのならね!」

 

 

ナムサン!僕は勉強を怠っていた己のウカツを呪い、十六夜=サンに向かって渾身の全力疾走!

新幹線めいた猛スピードで飛び出した召喚獣は、十六夜=サンのトウテキ・ジツによって発射された数多ものナイフを必死になって弾き飛ばす!

 

 

「イヤーッ!イヤーッ!」

 

「まさか……本気で突破するつもり!?」

 

 

召喚獣のカラテが唸る!鋭いナギハライ・ジツがナイフを、空を切り裂く!

いかに洗練されたナイフと言えどカラテの前には無力!

ゴウランガ!十六夜=サンまでの距離はゴジュッポ・ヒャッポ!

召喚獣は空中を三回転したあとに着地!

走れ!召喚獣!

 

 

「これは想定外だわ、ここまで精密な動きができるなんて……」

 

「秀吉、今だ!」

 

「おう!」

 

 

『Wasshoi!』

僕の召喚獣の後ろから突如白い影が稲妻のごとき速度で飛び出し、ナイフを投げ続ける十六夜=サンの召喚獣の前に立ちはだかった。

秀吉の召喚獣のエントリーだ!

Bクラス殺すべし、慈悲はない。

 

 

「これで終わりだ!」

 

「それはどうかしら?」

 

 

十六夜さんが不敵な笑みを浮かべると、いきなり秀吉の召喚獣の姿が消えた。

いや、違う、消えたんじゃない。

蹴り飛ばされたんだ、あの生徒によって。

 

 

「隙だらけだぜ木下。そんなの攻撃してくださいって言ってるようなもんだろうが」

 

「な、お主は!?」

 

 

……そんな、なぜ、こんな事が!

まさにその時!周りの生徒に目もくれず、空中回転しながら、黒いニンジャ装束をまとった人影が、巻き上がった床のホコリを暗黒のジュウニヒトエのように纏い棚引かせながら、勢い良く飛び込んできたのである!

秀吉の召喚獣は真横からの恐るべき打撃を受けオハジキめいてふっとばされたのだ!

その召喚獣はひらりと飛び降りると、背筋をピンと伸ばした姿勢で着地し、腕を組んだ直立不動の姿勢を取った。

 

 

「ドーモ、ヨシイ=サン。汚い忍者です」

 

「……ドーモ、カサマツ=サン。吉井明久です」

 

 

Bクラスのリーダーである、笠松君が参戦してしまった。

……これ、僕生きて帰れるかなぁ。

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