アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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結3

 

 

帝国魔法省。

 

バハルス帝国を裏表に支える原動力と言える魔法の力を生み出している場所。

皇帝直轄の近衛隊の『ロイアル・エア・ガード』や『ロイアル・アース・ガード』の騎士団により厳重に警護された場所。

ここでは魔法によるあらゆる試みが為されている。

軍事、生産、産業、日用、様々な用途の魔法が日々研究され実用化されている。

この省一つの存在で帝国は旧弊な王国をあらゆる意味で凌駕しつつある。

後数年も経てばもはや取り返しのつかないレベルまで。

 

幾重もの壁で施設が区分けされている魔法省の中で、もっとも奥まった場所にその塔は存在した。

そこに普段通りフールーダ・パラダインは数人の直弟子を連れ、定例の視察を行っていた。

 

しかし、一つだけ普段とは異なっていた。

 

「ここで待つがよい」

 

フールーダは、弟子達に待機を命じたのだ。

塔の最下層に通じる螺旋階段の手前で。

 

弟子達は当惑した。

この先に存在する【怪物】の事を考えれば当然の事だ。

 

「師よ。しかし危険では……」

「良いのだ。私一人で。二度は言わぬ」

 

皺と眉で細められた目が、弟子達に対して凍てつく様な光を放つ。

口答えをするな、と。そこで黙って待て、と。

 

「わ、わかりました」

 

直弟子達の中でも最も優秀な、第5位に一番近いとされた弟子が一礼する。

慌てて他の弟子たちも追従するかの様に一礼し、師への承諾の姿勢を示す。

 

だがその時にはフールーダの姿は既に螺旋階段の下を目指していた。

弟子達の姿など目に入らず、彼らの返事などどうでもよいとばかりに。

 

 

長い螺旋階段を下り終えたフールーダは最下層に到着した。

心と身が凍り付く様な最下層に居る存在が放つ威圧感。

普段であれば緊張しているフールーダの表情はまるで恋人と逢引するそれだ。

手早く精神防御と物理防御の魔法を己にかけると、待ちかねたように目の前にある扉の開閉を行うキーワードを唱えた。

 

鈍い鉄の大扉が開く音と共に、中から冷気とも霊気とも判別しかねる異様な空気が流れ出す。

気が弱い人間であれば気絶するか発狂しかねない、悪意と敵意に満ち満ちた死者の怨念が実体化したかの様な。

生者を拒絶し圧殺するとばかりに張り巡らされた気配の中を、フールーダは進んでいく。

 

その視線の先に、それは存在した。

 

墓標の様に打ち建てられた石の壁に、幾重にも強化された鎖によって張り付けられた巨体。

偏執的と言えるぐらいに巻きつけられた鎖は、それを封じているものに対する恐怖の裏返しとも言える。

 

凶悪なデザインを施された漆黒の全身鎧。

フェイスガードの無い兜と、朽ち果てた眼窩の中より放たれる赤い双眸。

その双眸は見つめるだけで心の弱い者の精神を破壊しかねない憎悪に満ち溢れている。

両手には武器は握られてないが、一度解き放たれれば一瞬でフールーダを防御の加護ごと拳で粉砕するだろう。

 

 

死の騎士(デスナイト)

アンデットの聖地たるカッツェ平野にて確認された最強格のアンデット。

定期討伐の騎士中隊を為すすべも無く半壊させ、フールーダが率いる魔法使いの部隊が空中からの攻撃で漸く弱らせ捕獲したものだ。

 

死の騎士(デスナイト)の強さに惹かれたフールーダは、何とかしてこのアンデットを支配しようと試みた。

捕獲してから四年もの間、彼の知識の及ぶ限り、所持しているマジックアイテム、果てには専用のマジックアイテムを編み出して支配を試みた。

だが、結果はでなかった。四年の成果はならず、いまだ死の騎士(デスナイト)は隙あればこちらを殺さんとばかりに睨みつけてくる。

 

 

フールーダは死の騎士(デスナイト)の、

 

 

「お待たせいたしました。アイダホ様。人払いは済ませております」

 

 

手前で折り畳み式の椅子に座って待っていた軽装戦士風の男の前へと進み、恭しく片膝をついて頭を下げた。

皇帝ジルクニフが見たら目を剥くような、主君に対してよりも深く敬意に満ちた仕草である。

 

 

 

 

「いや、時間通りだ。こっちもフールーダが塔に入るのを見計らって跳んできた。ここの雰囲気じゃ菓子や茶を嗜む気にはならないからね」

 

男は軽く手を振ってフールーダに立つように言う。

フールーダは礼を強調するように、ゆっくりと立ち上がる。

これでも男の度重なる説得により、簡略化した位だ。

一時は這い蹲ったまま舌なめずりをしてにじり寄って来たので軽くトラウマものである。

妖艶な美女がやってくれればうれしいかもしれないが、相手はいい年したじい様だ。

目の前の死の騎士(デスナイト)よりも百倍は怖かった。

 

「それで、今回の帝都来訪のついでに……以前の約束を果たす訳なんだが。つまり、貴方が望むこの死の騎士(デスナイト)の支配だ」

「おお、やはり、貴方様はその死の騎士(デスナイト)を支配する事が可能なのですかっ!」

「いや、俺はアンデッドの支配や創造の魔法は使えないんだ」

 

目を輝かせるフールーダに、アイダホはすまなそうな口調で答える。

アイダホの使用可能な魔法は戦闘用の攻撃魔法や補助魔法が大半であり、モンスター召喚、創造系の魔法は殆ど習得してない。

 

「サモン系は専門外でね。だが……貴方の助けになるマジックアイテムを与える事が出来る」

「ア、アイテムですか?」

「ああ、これを使えばアイテムの強制力によって、アイテムへ登録した者にアンデッドを服従させることが出来る」

 

どこからともなくアイダホが取り出したのは杭の様に先端を尖らせた一本の骨。

おどろおどろしい呪文が書き連ねてある呪符が満遍なく張り付けられた禍々しさ満載のそれは【支配の頸】。

この骨に自分の名前を登録し、アンデッドに突き立てれば下位から中位までのアンデッドを支配可能となる。

 

知り合いの某オーバーロードが課金ガチャで山盛りにしてた外れアイテムのそれを、魔法戦士用の課金ガチャであふれた外れアイテムと交換して手に入れたブツだ。

オーバーロードのコレクター魂を満足させる為に交換したのは良いが、正直ジョブ的にもレベル的にも全く使い物にならない代物。

適当に【外れアイテム用】と書かれた無限の背負い袋の中に放り込み、ずっと放置していてこちらに来るまで完全に忘れ去っていたアイテムだった。

 

(しかし、迷子っちといい、こいつといい。こっちに来て百年。ゴッズアイテムよりも外れの屑アイテムの方が使用頻度と価値が高いってどうなんだろ?)

 

ユグドラシルでは微妙過ぎて単なる置物かゴミ箱行き、机の中に置き忘れてカビまみれになる給食のパン的扱いの課金外れアイテム。

それがこちらに来てからは罠から外敵駆除に便利な労働力、果ては輸送力などまで利用できるという有能振り。

温存し過ぎて百年で両手の指位しか使ってないゴッズアイテムより、遥かにアイダホの活動を手助けしている。

尚、外れアイテムやゴミアイテムは遺跡やギルドの廃墟にも多数転がっていて、それらもアイテムを作れないアイダホの大いなる助けになっていた。

 

(こいつもカッツェ平野で中位アンデッドをハントする時には便利だものな)

 

アンデッドを支配する魔法や手段を持たないアイダホにとって、無駄に多いこの【支配の頸】は便利な使い捨ての駒を入手するのに重宝していた。

マジックアイテムの広域動体サーチャーで中位アンデッドを見つけては魔法の束縛縄(ルーン・ロープ)で対象を捕獲。

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)死者の大魔法使い(エルダーリッチ)、廃墟群から湧いたのか死の騎士(デスナイト)を捕獲した事もあった。

前の二種なら複数、死の騎士(デスナイト)なら単独を引き連れて上位瞬間移動(グレーター・テレポート)を利用。

軍事行動の時期に入ったビーストマン国の後方に転移、『目についたビーストマンを殺せ』と命令してからポイっと放り込む。

 

後はそのまま。

そうすると何故か連中の動きが悪くなったり、上手く行くと攻勢が発生しない場合もあってとても楽になる。

わざわざ竜王国に出張して陽光聖典に拝まれながら戦う手間が無くなり、自分の仕事に専念出来るようになって非常に助かるのだ。

何かと仕事が多くなった近年において、大変重宝している一品とも言える。

 

そんな感じで再評価して重宝しているアイテムを、死の騎士(デスナイト)を支配しようと悪戦苦闘しているフールーダに譲ろうと考えた。

彼には帝国の情報から組織の構成案、学術的な意味合いでの魔法に対する講義、ニニャとアルシェに対する指導などかなりの手助けを受けている。

今までも魔導書などの贈り物はしたが、ここらでまたご機嫌を取ろうと考えたわけである。

自分に対する崇拝は正直ドン引きだが、アイダホにとってはあの二人と同格かそれ以上に非常に重要な人物なのだ。

 

「おお、確かに、特殊な術式を感じますぞ。ぬぬっ、これはまさに未知としか……り、利用法は如何に?」

「骨の横に何も書かれてない呪符があるだろ?そこに支配者の名前を書けばいい。ペンでも血でも大丈夫だ」

「わ、わかりました」

 

フールーダは震える手で握ったペンを使い、呪符に自分の名前を書き込んでいく。

普段は達筆な彼も、過度の緊張の為かかなり文字がぶれていた。

 

「出来ました!」

「後は、死の騎士(デスナイト)にその尖った方を軽く叩きつけてやればいい。後は吸い込まれて支配を開始するだろう」

 

フールーダは未だにギシギシ鎖を軋ませて暴れようとしている死の騎士(デスナイト)に向き直る。

そして躊躇の無い動きでその血管の様な文様が描かれた胸甲に、手で握った【支配の頸】の先端を叩きつける。

 

「おお!!」

 

フールーダが驚嘆の声をあげた。

 

【支配の頸】は先端が接触した瞬間、禍々しい黒い瘴気となって死の騎士(デスナイト)に吸い込まれていく。

貼られていた呪符は体表を滑るようにして体のあちこちに張り付きこれまた滲む様に溶けて消えた。

先端にたたきつけられた場所に、一行の文字が赤く浮かび上がる。

 

【承認成功:支配者フールーダ・パラダイン】と。

 

 

 

 

オオオァァァアアアアアアーーー!!

 

 

 

 

そこで初めて、死の騎士(デスナイト)は大声で叫んだ。

ビリビリと音響による刺激を感じ、フールーダは顔を顰めた。

 

「……お、おおお!」

 

咆哮が途絶えた後、死の騎士(デスナイト)を見上げたフールーダは目を見開いた。

あれほど、室内に満ちていた死の騎士(デスナイト)の殺気が消え果ていたのだ。

フールーダを見つめる赤い光は、まるで凪の様な静けさに満ちている。

 

「成功したぞ……ッと!!」

 

鞘走りと同時に数十条の剣戟が瞬時に奔る。

この世界の南方でいう【神刀】を両手に構えたアイダホは、既に抜いた刀身を鞘に納めつつあった。

 

チン、という鍔と鞘の重なる音と共に、死の騎士(デスナイト)を拘束していた鎖は塵の様に消え果る。

 

動き出せば即座にフールーダを殺せる、そんな位置に居るにも関わらず死の騎士(デスナイト)は動かない。

動かない死の騎士(デスナイト)を前にして、フールーダの口がゆっくりと開いた。

 

 

「――服従せよ」

 

 

この四年間、あらゆる手段を講じて支配しようとして呟いた言葉。

死の騎士(デスナイト)はただ、憎悪と殺意を持ってこちらを見返すばかりだった。

 

その、死の騎士(デスナイト)は鎧を軋ませながらフールーダに対して跪いた。

まるで絶対の支配者に対する騎士の如き忠実な礼儀をもって。

 

「服従した……私の命令に服従した、死の騎士(デスナイト)が服従したぞぉぉぉぉぉぉぉ」

「ああ、そうだなァ……おめでとう。フールーダ」

 

狂喜の叫びを挙げて両手を子供の様に突きあがるフールーダを、アイダホは疲れた様子で椅子に寄りかかりつつ見ていた。

 

彼にとってデスナイトとは某オーバーロードが数十体単位でこさえて初撃で即死しない特性を活かした使い捨ての壁。

敵モンスターや敵冒険者が文字通りバタバタと打倒していくのを見て、ああ今日も派手に倒されてるなとどうでもよく考えていた程度の存在。

または多段攻撃が出来る、つまり瞬時に数撃を入れれる彼からすれば瞬殺の定義から外れない雑魚である。

 

(そんなに嬉しいのかね……しょぼい中位アンデッドなんかより、蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)具現した死の神(グリムリーパー・タナトス)とか目指せばいいのに。いや、そんなもん召喚支配したら本気で王国軍を撤退の機会すら与えずに鏖殺してしまうだろ。というか、ツアー辺りがマジで切れそうだし考えない様にしとこう……)

 

ただでさえ、国造りすら始めている状況だ。

派手にやり過ぎるとあの白銀の鎧がダッシュでやってきてジャンプして殴りかかってきそうだ。

と、アイダホは椅子を手にして立ち上がる。

螺旋階段を駆け下りて来る複数の足音を感知したのだ。

 

「フールーダ。貴方の部下達がこいつの叫び声を聞いて騎士達と降りて来ている。俺は貴方の執務室の方に移動する。後処理と、言い訳を上手くやってくれよ?」

「は、はいアイダホ様、貴方様はやはり………ふ、ふふふふ!! フアハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

アイダホが上位瞬間移動(グレーター・テレポート)を利用して瞬間移動で最下層を立ち去り。

弟子達とロイアル・アース・ガードの騎士達が最下層に雪崩れ込んで来てもフールーダの哄笑は暫し続いたという……。

 

 

 

 

 

バハルス帝国のフールーダ・パラダインが、死の騎士(デスナイト)の一体を掌握した。

この事実は、帝国の対リ・エスティーゼ王国の戦いにおいて非常に大きな意味を持つことになる。

 

このきわめて強力なアンデッド兵器は、魔法の装具が一般的でなく民兵ばかりの王国軍兵に対して圧倒的な優位を誇る。

これを打倒できるのは、リ・エスティーゼ王国に伝わる五宝物全てを装着したガゼフ・ストロノーフのみだ。

 

そしてそれは、王国の切り札たるガゼフ・ストロノーフを死の騎士(デスナイト)へ完全に釘付けにされるという事になる。

残りは練度不足の騎士達と数だけの民兵だけとなり、それらは帝国軍の精兵達とまともにぶつからざるを得なくなるのだ。

 

 

 

 

しかし、リ・エスティーゼ王国は知らない。

この死の騎士(デスナイト)の戦線投入可能という事実が、その年におけるカッツェ平野の戦いにおいての悪夢の前菜に過ぎない事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おじいちゃんの調教完了
美少女で言えばアへ顔Wピースしてその様子を撮影されちゃう位



オェ――――――(;´Д`)――――――――!!!!




後、この【結】はもうちっとだけ続くんじゃ

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