アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。


結5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイダホは大きなパイを前にして思案に耽っていた。

このパイをどう切り分けるかで、自分を含め今後の未来が決まるからだ。

 

人口850万を抱え、大陸の西側一帯を支配するリ・エスティーゼ王国という名前の巨大なパイ。

 

しかし、このパイは多くの問題を抱えている。

部分的にカビが生えてたり腐ってたり生焼けだったり蛆が湧いていたり。

食べる為には工夫が必要であり、そのまま食べようものなら間違いなく腹を下す。

なまじサイズが巨大なだけに、食べる為の前作業だけでも困難を極める。

 

戦争で勝利し割譲という力尽くで切り分ける事も可能だろう。

それだけの力がアイダホにはあるし、それに抗う力は王国にはない。

だが、そうして切り分けたパイは食べれる場所とそうでない場所がグチャグチャになるだろう。

下手に口にすれば激烈な食あたりを起こし、国力の少ないアインズ・ウール・ゴウンは割譲地と共倒れになる。

 

どうやって腐っていたりカビが生えた部分を除去し。

アインズ・ウール・ゴウンに都合の良い場所とサイズを得られるか。

 

欲しい場所は決まっている。

エ・ランテルを含めた東側はジルクニフが「欲しい」と言っていたので遠慮する。

となれば、まずはある程度の大森林と接している場所から。

徐々に段階的に内陸へと蚕食していく。

これが理想であるが、協力者が必要だ。

それも、王国の内部の協力者が。

内部を知っているがゆえに、切り捨てる場所と残す場所を的確に出来る協力者が。

 

(となれば、数は限られるだろうなぁ)

 

弱り切った王国で、いまだ貴族の世が末永く続く等と考えてるおめでたい奴らが大半を占めるのが王国貴族だ。

その中から選び出さないといけない。

まるで汚泥の溜め池の中から金の粒を探すような感じだ。

 

(王国の貴族のリスト……よくそろえたもんだあいつら。王国については随分と頭を悩ませて来たようだし。ついに俺が手を入れるのかと大喜びで風花聖典の連中が情報を揃えてきたなぁ)

 

王国の件に関して法国が長年頭を悩ませていたのは、アイダホも知っている。

昔から事あるごとに、スレイン法国の神が無理であれば、せめて王国の王権を担ってくれないかと頼まれてきた。

そんなに深刻な問題なのかと聞いてみたら、神官長達全員が陰鬱な顔で首を縦に振って来たのをよく覚えている。

 

王国が何故法国の頭を長年悩ませて来たか?

 

それは図体がでかい癖に周囲に汚物を垂れ流すだけの、人類にとっての与太者だからだ。

 

長年の腐敗により国力は弱体、国軍は防具すらまともに纏えない民兵が殆ど。

周辺諸国との折り合いも良くなく、ジルクニフ率いるバハルス帝国と無駄な戦いを定期的に行っている。

豊富な筈の穀物や資源も国内で無駄に浪費し、近隣諸国に対して潤いを齎したりはしない。

否、最近に至っては【黒粉】と呼ばれる常習性の高い麻薬まで非合法に流出し始めている。

八本指の暗躍により取り締まりが行われるどころか、高位の貴族が積極的に加担して見返りと引き換えに庇護する始末。

大陸の東側に横たわるその巨大な病身から、膿と腐肉を周囲に飛ばして恥じる事のない連中。

 

アイダホとしても、正直好かない感じではある。

企業の関係者、というだけでアーコロジーに住まい怠惰に生きる連中。

たっち・みーに鉄拳制裁を食らう前の、過去の嫌な自分を思い出させるからだ。

 

 

人類の結束を求めるスレイン法国からすれば、役立たずどころか害悪ですらある国。

法国上層部も最初は外交や神殿を通じてなんとか改善を試みたが、近年に至りもはや処置無しと判断したそうだ。

アイダホがビーストマン国に対しハラスメントをしていなければ、余裕を無くした法国は要人暗殺などの非合法手段に出ていたかもしれない。

 

今は比較的余裕があるにせよ、スレイン法国からすれば王国の処置は遅からず行わなければならない。

数年後のバハルス帝国による併合、というシナリオも良いだろう。

だが、野心を更に膨らませた皇帝ジルクニフが覇道を目指しそれ以上を求めて近隣諸国に服従を求める危険性もある。

それは些か危険であり、スレイン法国の望むところではない。

彼らとしては、ジルクニフよりも王国の後釜を任せたい存在。それがアイダホである。

 

(だから、俺に食べて欲しいと。俺でいいのかよ、神様ならいいのかよと言いたい。すっごく言いたい。お前らそれで良いのかと)

 

案の定、建国宣言後に王国の扱いについて軽く突いてみたら即座に飛びついてきた。

風花聖典からの全面協力、王国各地にある神殿も全て協力すると通達してきた。

 

(どんだけ潰れて欲しいんだよおい……確かに資料と放浪時代に見た退廃具合を見りゃ、しょうがないかもしれないけど)

 

リストや資料に目を通しながらそれも仕方がないかとは思えてくる。

 

治安はガタガタで強盗や夜盗はあちこちに跳梁跋扈。

近年は無茶な税制と徴兵の負荷で餓死者が発生し、他国への流民が絶えない農村部。

国庫が危険な領域に達しているのに、私腹は肥やしても国には還元しない高位貴族達。

軽く小突いておとなしくはさせたが、犯罪結社【八本指】の権勢は並みの貴族すら凌駕する。

そんな有様で帝国の挑発に乗り毎年本格的な戦いこそ無けれども大規模動員を行ってるのだから処置無しだ。

 

(確か、帝国の官僚の予測では、後三年も収穫期前後の会戦を繰り返せば王国の財政は完全に破たんする、だったなぁ)

 

フールーダから貰った資料には、真っ赤っかな王国の財政状況が示されている。

帝国中央情報省から掠め取ったらしい資料は、スレイン法国から提供された資料と一致していた。

 

(三年目には、もはや根こそぎ動員する予算すら無くなり、頑張って無茶をして動員しても総兵力は15万人を下回る。その総兵力も毎年の無茶な動員で士気も練度も最低、装備どころか糧食すら満足に行き渡るかどうか。カッツェ平野に辿り着く前に脱走兵が続出、戦いになれば空腹で満足に動けず損害は多数。貴族共が定例通りに終わったと判断して背中を向けた処で満を持した全軍で追撃しエ・ランテルまで打通か。

 たっぷり飯を食べて馬に乗ってる貴族達と供回りなら逃げれるだろうけど、空きっ腹の民兵達が意気軒昂な追撃から逃れられるかね?)

 

間違いなく王国軍は総崩れとなり半数かそれに近い大損害を受けるだろう。

残りも逃散してしまい、エ・ランテルに辿り着くのは精々1割か2割程度。

貴族連中だって、エ・ランテルに籠城するかそれとも王都側に逃げ出すか判断に迫られる。

いや、もう王国は終わったとばかりに裏切り、王族や他の貴族を差し出して我が身は助かろうとする貴族も出るかもしれない。

 

分かっている事は、その時点で王国は完全に詰んでいるという事だ。

 

王国は終わっている。

これだけは変わらない。

余命は短くて今年、長くても三年後。それだけの差だ。

 

(だが、三年後のシナリオになれば王国の体力も底辺に落ちている。国土も人間も荒れ果ててるだろう。そんな草臥れきって死人同然の王国の領土を割譲しても、負担が大きすぎてこっちまで傾きかねない。だから、今年で終わりにする。主に俺と俺の国の為に。その方策として内通者に腑分けの手伝いをしてもらう訳だが……)

 

条件としては、

 

王国が詰んでいると認識している者。

王国内部で高い地位を持つ者。

高い行政能力を持つ者。

苛烈とも言える決断力を持つ者。

 

王国が詰んでいると認識しているのは、この国が自助努力で助からないと理解しアイダホの手を取れる者である事。

高い地位が必要なのは、王国の支配層が権威的、貴族主義的な為。プライドの高い貴族達にいう事を聞かせれる条件である事。

高い行政力が必要なのは、弱り切った王国の国力、軍事力を(後々併合するアインズ・ウール・ゴウンの為に)早急に立て直す為。

苛烈とも言える決断力が必要なのは、鮮血帝並みの粛清も迷わず行える事。腐敗を除去するのに躊躇しない為。

 

スレイン法国の資料と、フールーダの集めた資料を比較してすり合わせる。

名前の手前に赤く×が書きつけてある王国貴族の大半は読み飛ばした。

帝国に保身を条件に通じている売国貴族も同じく。

こちらはジルクニフが戦後に断頭台へ送ってくれるだろう。

 

暫く悩み、メイドエルフが持ってきた山盛りのポテトフライをモシャモシャと食べ終える。

更に悩んでフールーダにメッセージで相談し、リザードマンの漁場から直送した魚で作ったフィッシュアンドチップスも食す。

エールを混ぜた衣のフライとポテトにビネガーをかけると、運んできたツアレが驚いた顔をしてた。

そんなに意外な食べ方かなと首を傾げた後、メモ帳に残った二つの名前を見やる。

 

候補に挙がったのは、二人の名前。

 

リ・エスティーゼ王国の第二王子である、ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。

六大貴族の一角であり、派閥を飛び回る事を蝙蝠と揶揄されるエリアス・ブラント・デイル・レエブン侯爵。

 

戦後の領土と利権を保証すれば同じ六大貴族のブルムラシュー侯も転びそうだが、既に帝国と通じているので彼を候補にするのは辞めた。

二重に裏切られてはかなわないし、ジルクニフが王国の東部を牛耳る頃には断頭台に送られてるだろうし先が無いのが目に見えている。

 

更に暫く考え、追加のジャガイモ料理をおやつに頼もうとしてツアレに「食べ過ぎです!」と怒られる。

少しシュンとしつつも、めぐっていた考えは候補を絞っていた。

ああ、こういう時に軍師役というか知恵者が居れば客観的な意見や策を用意してくれるだろうに。

 

アイダホの脳裏を、知恵者が過る。

 

何時もギルメンに頼りにされていたヴァイン・デスのぷにっと萌え。

巧言令色を弄するアーチデヴィルのデミウルゴス。

ハイライトの消えた金色の目でこちらを見て真なる無(ギンヌンガガプ)を構えてるアルベド。

 

(んんっ!?)

 

何だか変なのが混ざり込んだ気がする。

多分、気のせいだろうと思いつつ、アイダホはレエブン侯に接触を試みてみる事にした。

いきなり第二王子ではけんもほろろに断られるだろうし、王族だけにガードも固いだろう。

その点、レエブン侯は様々な人物と接触を繰り返していて、その中には王都の神殿の高位神官もいる。

その伝手を使い彼に接触を図るとしよう。

 

(まぁ、別に今回の回答は保留か拒否でもいいんだ。秋にボコって力を示してから再度【交渉】すれば随分聞き分けは良くなるだろうし)

 

頑迷な貴族も一度頭を棍棒でフルスイングされればきっと聞き分けも良くなるに違いない。

彼の場合、ご子息の身の回りの安全と不慮の事故が発生する可能性について質問すればなお効果的だろう。

最終的な交渉は棍棒で行うのがアイダホの限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良く晴れた昼下がりの王都リ・エスティーゼ。

 

石畳で舗装された王都中央通りを、六大神神殿の馬車が王宮に向かって移動していた。

王宮や宮殿に神殿関係者はそこそこ出入りしているので、特に珍しい光景ではない。

だからこそ、潜入するには好都合な立場でもあるのだが。

 

 

司祭の従者に化けたアイダホは、王城に向かう馬車の中で向かい側に座らず、狭い床に跪いている神殿付き司祭に声をかける。

 

「すまないなカジット司祭。幾ら城内への入場が許可されているとはいえ、君にも危ない橋を渡らせてしまう事になる」

「滅相もございませんアイダホ様。このカジット・デイル・バダンテール。御身にこの身と信仰を捧げる覚悟にございます」

「そ、そうか」

 

こちらをキラキラとした目で見つめている王都の六大神神殿付き司祭、カジット・デイル・バダンテール。

数十年前にアイダホが法国の村をお忍びで視察した際に、苦しむ声を聞きつけて彼が民家の中を覗くとカジットの母親が頭を抱えて苦悶しているのを発見。

カジットの母親を病気治癒のポーションで癒した事件がきっかけでこうなった。

愛する母を救った奇跡に幼きカジット少年は感涙感激し、今やアイダホを神として崇めてしまってすらいる。

法国の神官になったのも【アイダホの神託を聴きたいから】研鑽に励み、本人はその力に目覚めたと歓喜している。

 

(えー、いや、俺神様になった覚えないし、信徒に力与えたり啓示とかした覚えないんだけど? どっから来てるんだその信仰パワー? つか、啓示が来たら俺の声で喋っちゃったりするのかおい?)

 

なお、性質が悪い事にカジットの様な一方的な信仰を捧げてくる人間は、アイダホを七番目の神として年々増加している。

ビーストマン狩りの活躍を見て心酔した陽光聖典の一部からも信仰を捧げられ、アイダホは内心うんざりしていた。

というか、なんで自分を信じて他の神様と同じ神聖魔法使えたりできるんだろうと心底疑問に思った。

 

全く、自分がいう言葉じゃないかもしれないがこの世界は不思議が多すぎる。

そんな事をぼやいている内に、馬車は城門へとたどり着く。

 

 

ロ・レンテ城の一角。

エリアス・ブラント・デイル・レエブン侯爵の執務室。

 

執務室の手前にある従者の控室で待つ事暫し。

【神殿の孤児院に対する寄付の話】を終えたカジットが退出してくる。

本来であればそのままカジットについて帰るのが普通だろう。

だが、レエブン侯の司祭との会談に割り振られた時間と比較すると、まだ随分と余裕がある。

そして主である筈の司祭が従者に深々と一礼し、恭しい仕草で執務室に続くドアを手ずから開ける。

 

「お待たせしました。貴方が、スレイン法国の七柱目の神であり、トブの大森林の大領主ですかな?」

「世間一般ではそう言われる事もある。神と言うには正直大袈裟なので、領主の方で呼んで頂けるとありがたい」

 

従者のフードの下から、赤地に緑とラインが入った泣き笑いの様なマスクが現れる。

その奇怪なデザインを見てわずかに困惑するが、直ぐに彼は表情を引き締める。

レエブン侯にとって、本当の意味での話し合いはこれからなのだから。

 

 

 

 

 

 

 








原作の一年手前ですが、その程度の差異では変わらない位に王国が終わってしまってます。本気で詰んでるよこの国……。

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