原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
ご注意ください。
ゴーレムの馬に牽引された馬車や荷車が、十数台の車列を作って遠くに見える大森林へと走っていく。
その多くに軍属や民間人が乗っており、更に本陣を警護していた歩兵達も含まれていた。
この車列は何度も往復するだろう、この地にあった陣営の設備、人、全てを彼らの根拠地へと運び切るまで。
「よーし、騎馬部隊の準備は出来たな? 補給部隊と護衛の歩兵部隊は、夜明けと同時にトブの森第3兵站拠点まで後退せよとの事だ。本陣と野営地の撤収急げよ!!」
指示出しを終えたヘッケランは、椅子に座ったままのアイダホに報告する。
「大将、野戦軍機動隊を除く支援部隊の撤収は順調です。夜明けまで余裕をもって終わるでしょう」
「そうか。ご苦労。後は如何に王国軍を振り回し、帝国軍に捕まらず勝ち逃げ出来るかだ」
アイダホの前で、明朝からの戦いに参加する為の準備をしているのは、騎馬隊300名。
最後に姿を現すのは、派手に戦旗と本陣の旗を掲げる彼らだ。
「君らには、連中のヘイトをたっぷり買って貰い、振り回して貰う。王国軍に目に見える相手とだけ戦うのが戦争じゃないと教育してやってくれ」
「わかりました。給金分以上の働きをさせて頂きますよ!」
「ああ、頼む。それと、彼女は……あの子はもう移動したか?」
「はい、数時間前に向こう側に。あのニグンとか言う奴に連れていかせました」
ヘッケランはやや渋面で答える。
アイダホには自分達が引く位丁重丁寧な態度と仕草で接する癖に、彼以外に対してはどこか高圧的なあの男は正直好かなかった。
それに、フードとマントで外観を隠した小柄な少女。彼女は常にニグンと部下らしき男達に囲まれていた気がする。
「分かった。俺もそちらへ向かう。彼女はあれだ……色々、まぁ、気難しいからな。宥めないといけない。後、任せたぞ」
すこしだけ口ごもったアイダホが一瞬で姿を消した後、それを見送ったヘッケランは無言で後頭部をぼりぼりと掻きむしった。
あの少女は不思議な存在だった。
アイダホと二人で行動しているらしいが、その時の姿を見た事はない。
陣中に居る時は妙な玩具で遊んでいるか、アイダホに付き纏っているか、オロオロするニグンに対して何やらごねているかどちらかだ。
一度だけ目線があった様な気がするが、相手はすぐに目を逸らしてしまった。
ワーカー時代でいろんな相手と接してきた感じで言えば、ヘッケランに対して【全く興味がない】ような気がする。
ただ、その時一緒にいたアルシェがタレントの負荷を抑制するマジックアイテムの眼鏡を、震える手で必死に抑えていた。
何故そんなに怯えるのかと聞いたら「アイダホ様と同じぐらい怖い。これ無かったら吐いてた」と言われた。
(大将と同格とか、一体何もんなんだか……ま、大将からは詮索するな、って言われたし俺には関わりがネェって事にしとこう)
高い報酬に釣られてトブの大森林に忍び込み、アイダホの罠にかかって一度は「俺に従って生きるか、拒否して死ぬか」と言われた身である。
迂闊な行動は死出の旅に通じると身に染みて学習したので、ヘッケランは謎の少女に対する興味をすっぱりと捨てた。
「俺は俺の仕事をして給料を貰うだけさ。そろそろ、イミーナにも楽をさせたいしな」
アルシェと一緒に大きな絨毯の上に乗り、アイダホから支給された魔法の弓の具合を確かめているイミーナを見ながら。
ワーカー時代にはあまり想像できなかった【安定した生活】の為に、ヘッケランは気合を入れなおした。
「この書類と、レイモンへの書状も渡しておいてくれ」
まだ片づけられていない天幕で、アイダホは目の前の男性に幾つかの書状を渡した。
「承りました」
アインズ・ウール・ゴウンの刻印が刻まれた蜜蝋で封印してある書類を漆黒聖典の隊長が恭しく受け取る。
彼より数歩分更に後ろにレイピアを装備した軽戦士とローブを羽織った魔法使い、羽飾りを付けた修道服を着た女性が片膝をついて控えていた。
「法国の支援もあって、今回の戦いによる王国の解体、及びアインズ・ウール・ゴウン国として蘇生する計画は順調に進んでいる。法国の働きには幾ら感謝しても足らない」
「勿体ないお言葉でございます。アイダホ様御自らが御親政を決意なされたからこそ、法国と王国は疲弊から救われるのです」
御親政と言っても、大まかな行政を司るのは腐肉と贅肉を切除した後の王国貴族達だし、国家運営の舵を取るのはあの超級暗黒鬼畜外道王女だけどな、とアイダホは内心で呟く。
アイダホ自身は支配層出身でも親のすねかじりをしてたボンボンであり、彼自身に為政者としての能力は全く存在していなかった。
素質はあったかもしれないが、つい最近まではそれを開花させるための努力を全くしてきていない。
村から町にバレイショがランクアップした辺りから必要を感じ、村長などの経験者たちに学んだり帝都で買ってきたり忍び込んだ図書館で内容をコピーしてきた帝王学や政治学の本を急いで読んで来た程度だ。
そんななんちゃって支配者であるアイダホだけで国が回る訳がない。
事実、アインズ・ウール・ゴウンの国政はリ・エスティーゼ王国や竜王国からの難民や亡命者達に含まれていた僅かな官吏達、法国から派遣された役人達によって行われている。
近年はフールーダが政治学等の資料を持ってきてくれたり、法国の引退した政治家達に政治を学んだおかげで随分形にはなって来たがそれでもあくまでマシ程度だろう。
あの王女に教鞭を振るってもらおうと考えた事もあったが、ある程度王女と話し合いをしている内にそれは諦める事になった。
あれは普通の人間に理解できる存在ではない。自分では学ぼうとしても学べないだろう。いや、むしろ色々壊されそうだ。
「しかし、アインズ・ウール・ゴウン国を真っ当な国家へ引き上げるには苦労しそうだ。来年から数十年位は長旅は出来そうにない。王国の民達があまりにも惰弱だからな。今日戦うさまを見て確信した。貴族のいいなりになって反抗する気概もなくただ敵に突進し無為に死んでいく彼らをみて。王国の民は人としての強さを放棄している。長い間貴族の栄華を支える為の家畜としてのみ生きていてる。法国が望む人類の防壁としての役割を担うには弱すぎる。少なくとも現状では」
何故か、遥かに遠い故郷の事が脳裏をよぎる。
穢れに満ち切り、澱んだ世界。
そこだけ奇妙に整えられた、完全循環都市。
自分を含めた中に住まう者たちの傲慢と虚栄。
モモンガ、ヘロヘロをはじめとするギルドメンバー達の嘆き。
ウルベルトの社会全体に対する怒り。
たっち・みーの、腐敗しきった社会に対する失意。
ああ、そうだ。
アイダホは納得した。
どうしてもリ・エスティーゼ王国が好きになれないのは、アーコロジーを、あの社会を思い出すからだと。
もはや長くは持たず、ゆっくりと滅びへと向かっているところも。
それなのに、支配者層はただ現状の生活を維持する事だけに執心しているところも。
民は嘆き喘ぐだけで、革命を起こす気概も無くしているところも。
誰もかれもが、上から下までもが、緩慢に滅びへ突き進んでいる社会をどうにかしようとは思わない。
そう、かつての自分も。
「だからこそ、正す」
今の言葉は誰に言ったのだろうか。
かつての自分か、それともリ・エスティーゼ王国か、目の前にいる漆黒聖典隊長にか。
それとも、そんな社会を本音では誰よりも嘆いていたたっち・みーに対してか。
「連中を自力で外敵を叩き返せるレベルまで引き上げる。自分の手で剣を持ち戦う気概を得れるまで。何十年もかかるだろうが、少なくとも俺にはその余裕はある。何といっても俺は寿命の長い化け物だからな」
「アイダホ様、それは」
「いや、いいんだ隊長。すべては物の言いようだから。神のありようは様々。そうだろう?」
緑色のフードの中の闇が渦巻き、目に値する光点が僅かに窄まる。
自分が如何に人間とは違うかをリアクションで示してから、アイダホは言葉をつないだ。
「王国を一度破壊し、そして創造しなおす。破壊と創造、これぞ神の役割って奴だろうよ」
陽が上がり、戦場は陽光の下に照らされる。
リ・エスティーゼ王国軍は緊張のただ中にあった。
帝国軍陣地の大門が開かれ、動員されている七軍の内六軍が戦場に展開し始めたからだ。
先日の様な前哨戦や、今まで何度もこの地で繰り返して来たような【予定調和】の戦いではない。
鮮血帝は本気で、今回の戦いで雌雄を付けるつもりだ。
多くの王国貴族が顔を顰めた。
彼らにとってこの地での戦いはデモンストレーションでしかない。
いや、最初はそうでなかったかもしれないが、近年は対陣しては小競り合いを繰り返し双方退却という形が延々と繰り返されていた。
中にはそんなローテーションに慣れ切り、陣形の端で欠伸を噛み殺しながら戦いが終わるのを待つという貴族が多数居る始末。
そんな彼らが本気で戦いをしかける気でいる帝国軍とぶつかったらどうなるか?
数はいまだ21万以上のリ・エスティーゼ王国軍と7万の帝国軍と兵力差は3倍近くある。
質は兵力差をも超えるだろうが、それでも数という暴力は侮れず最終的に勝利するにしても帝国軍も手痛い損害を受けるだろう。
だからこそジルクニフ皇帝は大軍同士の直接的な戦闘を避け、大軍を動員させることにより国力を削る政治的手段に出たのだから。
「だが、今の帝国軍は違う……奴らが居る!」
活力の籠手、不滅の護符、守護の鎧、剃刀の刃を装備したガゼフ・ストロノーフは、鋭い目つきで戦場を見渡す。
先日の戦いでリ・エスティーゼ王国軍を文字通り壊滅させた総兵力7体のアンデッド達。
5000名の王国兵達はついに1体のアンデッドすら倒せなかった。
それは
物量すら無効化されてしまったら、王国軍には勝機が無い。
否、
奴が暴れれば暴れる程、死霊の軍勢はその規模を膨らませるだろう。
「それだけは、我が剣に賭けても阻止せねば……!!」
それは右翼側、そして左翼側の両方だった。何が起きたのかと見張り台に向かおうとした彼の耳に、伝令の叫び声が届く。
「報告!! 右翼陣地に敵が、アインズ・ウール・ゴウン軍が押し寄せてきます………あれは、芋だ――――!!!!」
「……芋?」
伝令の言葉と正気を、本陣の貴族達は疑った。
しかし、それは事実だった。
右翼の側面から突如現れた黄色い芋のようなゴーレムの群れ。
そしてその更に後ろに控えるレンガと石で出来たゴーレム群。
けたたましい奇声をあげながら突っ込んで来る足の生えた芋の群れ。
その後ろから黙々と接近してくるゴーレムの群れ。
そして、その真上に飛んでいる絨毯が掲げているアインズ・ウール・ゴウンの国旗。
布陣の位置からして、左翼側面からの攻撃を想定していた王国軍としては完全な奇襲であり。
アインズ・ウール・ゴウン軍などたかが数百人の歩兵騎兵程度と侮っていたリ・エスティーゼ王国軍の度肝を抜くに十分な戦力だった。
「さーぁ、あの芋型に驚いている暇は無いぞぉ?」
リ・エスティーゼ王国軍の右翼が奇襲に驚いていたその頃。
アインズ・ウール・ゴウン軍総帥であるアイダホ・オイーモは
「では、退場すべき敵に、退場して貰うとしようか」
陣形はレエブン候からの内通により把握済みだ。
先日の
彼が今いる位置に飛んできたのは、この真下に居る存在が第一目標である。ただそれだけだ。
「
第十位魔法の電撃魔法で、極大の雷を形成して敵に打ち出す攻撃魔法。
槍状にして威力と完全耐性貫通と誘導能力を高めた単体用と、雷の球を形成して広域を薙ぎ払う範囲用と使い分けられる。
発音がドイツっぽく、モモンガが前口上と使用時の発音にこだわってたのを見て「あ、いいなー」と習得した魔法。
電撃耐性貫通の高威力の電撃ダメージに加え、耐えきっても感電のバッドステータスが追加される。
アイダホはボウロロープ侯とバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ第一王子を見下ろし。
極大の電撃で構成された雷の球体を無造作に投げ落とす。
「え」
「あっ」
白熱する電撃の球体は眼下の陣地に落着し、放出された雷光によって全てが焼き尽くされた。
ボウロロープ侯とバルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ第一王子。
彼らの側近と親衛隊。そして周囲に展開していた精兵兵団4000名は雷撃の一撃により全滅したのだった。
(よし、第一目標達成。これって単体でも範囲でも両方いけて制御も楽でいいんだよな。モモンガさん、ドイツ語の発音が好きでよく使ってたっけ……)
円状の巨大な黒い焦げ跡。
荒野の砂と石が溶解し、黒い煙がうっすらと漂っている。
そんな凄まじい雷撃が全てを薙ぎ払ったのに、本陣の外側に居た騎士団や民兵の部隊は無傷のまま。
余分な犠牲は極力出さない。それがアイダホなりの指針だった。
「実験の通りでよかったぜ。周りの部隊には犠牲者は出てない。不要な犠牲を出さなくて結構だ」
いい仕事をした。
アイダホは満足げに頷くと、眼下で始まったボウロロープ侯軍の大混乱など知らぬとばかりに次の場所へと飛んで行った。
この後、3回
王国軍左翼七万の指揮を行う本陣の幾つかが消失し指揮系統が麻痺。
精兵兵団や各貴族の親衛隊を含め合計8千程が消滅し、王国軍左翼6万2千人の兵力はほぼ無力、遊兵化した。
残存戦力の6万2千人の8割強は招集された戦意も経験も無きに等しい民兵である。
貴族の指示と騎士の槍なしに陣形を維持する事などできず、ただ慌てふためき左往右往するのみ。
残りの僅かな指揮官や騎士達では掌握するに少なすぎ、また上層部だけ消えた兵団も多く指揮系統は回復の見込みがない程混乱していた。
中央の王国軍が何とか指揮を掌握しようとしたものの、6万2千人の貴族軍は王室や中央の貴族軍との連絡手段や指揮権移譲の権限を持ってなかった。
おまけにアイダホが意図的に残した貴族軍の指揮官達が移譲を拒否し、尚且つ内輪もめすら始める始末。
左翼の混乱の収拾を試みた為に中央の陣は更に対応が遅れ、前面に展開し前進を続けている帝国軍に対する対応も全く打てない有様。
アインズ・ウール・ゴウン軍との開戦から30分足らずで、王国軍の左翼は壊乱。
中央も左翼の混乱に足を取られ、右翼も芋型ゴーレムのかく乱により動きが鈍くなっていた。
戦力の大半が常備軍ではなく臨時に召集した民兵である事による統率力の無さが、この戦いにおいては最悪の枷になっていた。
この軍の崩し方を考えた存在は、よほどの智謀の持ち主か、王国軍の欠陥的構造を熟知しているのだろう。
そう、これらの作戦の基幹。
現在アイダホが遂行している王国軍崩しの作戦の骨幹はラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフの発案であり。
それらに対し第二王子が現地でのサポートをし、レエブン侯は作戦発動の為の段取りと下拵えをし、アイダホは実行時に【現地の標準的な実力では到底出来ない手段の発案と実行】を担当したのだ。
あの民を愛する王女にして民を窯にくべてしまえる魔女は、はるか遠くの王都に居てカッツェ平野で行われた戦いの手順を組み立て上げてしまっているのだ。
「王国軍の敗北は確定としても、あまり減らし過ぎないでくださいね。家畜と同じく、労働適齢に値する国民は育てるのに時間がかかる資源ですから」
作戦を実施する三人としては、自分を敬愛する民を【資源】【家畜】と言い切るあの魔性の機嫌を損ねる真似だけは止めようと。
その点については固く誓い合っている位である。
「左翼はこれでもう役には立たない。右翼もニニャ達が上手くやってくれるだろう……後は本陣だな。任せたぞ?」
『了解でござるっ!!』
リ・エスティーゼ王国軍全体がフルボッコタイム突入
左翼:指揮系統壊滅で軍団の大半が遊兵化。精鋭が一瞬で消し飛んで士気も飛びました
中央:左翼が足手まといだよ、おまけに両翼とも大ピンチで指揮統制\(^o^)/オワタ
右翼:ゴーレム軍団が押し寄せて来るよ!
尚、前面からは6万人の精鋭帝国軍とフールーダ達とアンデッド部隊が前進を開始
もうどうにでもな~る?
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*。ヽ つ*゚*
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☆ ∪ 。*゚
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