アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。














結16

 

 

彼にとって、そのゲームは居心地の良い場所だった。

 

彼にとって、初めての、そして唯一のギルドは楽しい場所だった。

 

肩肘張らず語り合えるギルドメンバー達が居た。

 

人柄も面倒見もいいギルドマスターが居た。

 

彼にとってゲームを教えた先輩であり、リアルでも憧れた男が居た。

 

初期メンバーの様に、ましてやギルドマスターの様な生活すら賭けた程に入れ込んだ訳ではない。

 

ただ、あのナザリックに多くのメンバーがたむろして。

 

彼等と共に遊んだあの時間は、彼の人生で掛け替えのない楽しい時間だったのは事実だ。

 

だからこそ、ゲームが終わる日に彼はナザリックを訪れた。

 

自分の思い出が消え去る瞬間に、立ち会い看取る為に。

 

あの楽しい日々を共に過ごしたギルドマスターに、いくらかでも感謝を述べる為に。

 

果たして、あの最後の来訪は彼にとってどういう意味を持ったのだろうか。

 

彼も他のメンバーと同じく、または父親の説教が更に長引いてサーバーダウンに間に合わなかった方が良かったのだろうか。

 

ギルドマスターやナザリックと離れ離れになり、身一つで異世界を百年生きるといった苦難を味合わずに済んだだろうか。

 

それとも玉座の間に入るのが間に合い、ギルドマスターと共に異世界での冒険を楽しんだ方が良かったのだろうか。

 

 

 

どれが正しく、どれが良かったのか。

 

それはアイダホ・オイーモ、その中に宿る人間の残滓にとって、どうだったのか。

 

恐らく、彼自身にも分からないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初夏の風が、カルネ村を吹き抜けていく。

 

人口が百人を少し超える程度の小さな開拓村、カルネ村。

特にこれと言った産業や特産品もなく、平地に開いた麦畑等とトブの大森林の恵みで細々と日々を生きる人々の村である。

 

彼等にとって、最近領主が入れ替わった事は関心事ではあるものの実感しがたいものでもあった。

村民達からすれば国だの貴族だのは年に一度徴税の為やってくる徴税吏を除けば接点など無きに等しい。

 

だからこそアインズ・ウール・ゴウン国へ編入が布告された後に。

アーリー・スターチなる街がカルネ村の近隣に建設される事を役人から告知された時は村中が驚きで満たされたものである。

 

「しかし、驚きましたねぇ。こちら側に街を作るとは」

「帝国軍のものになってしまったエ・ランテルに近いからのぉ。騎馬隊が来れば目と鼻の先なのに大胆なものだ」

 

村長と男が、村はずれの丘から見える建築予定地への道を見ている。

トブの大森林との境界から、絶えず馬車が出入りしてたり、妙な器具を持った男たちがあちらこちらを移動している。

先週巡回しにやってきた役人にそれを質問したところ、都市計画の為の用地測量だと言われた。

測量だの用地だの意味はよくわからなかったが、彼らが、というより彼らの上にいる支配者が本気でこちらに街を作る気であるのは本当だと村人達は理解したのだ。

 

「都市計画は綿密なスケジュールと下見をもって行われている。諸君らの生活に悪影響は及ばないので安心する様に」

 

巡回の役人はそう言っていた。

確かに水源や農地等の問題は起こらないだろう。

予定地はそれらの問題が起こらない程度には村々から離れていたのだから。

 

「国やら貴族は、儂らの為に何かしてくれるとは思えんかったがね……新しい領主様は色々してくださるようだな」

「ええ、編入されてから徴税も幾分軽減されましたし。今年の作物の実りが良ければウチもかなり余裕が出来そうですよ」

 

あの町が完成したらどうなるか、村長や男には想像もつかない。

精々が極まれに行く事があるエ・ランテルの様な城塞都市が出来るのかも、という程度だ。

 

「街が出来れば、周囲にも富が行くかもしれん。少なくとも、カルネ村の生活も変わりそうだ」

「そうだといいですね……そういえば、昨日から来ているバレアレさん家のンフィーレア君が、あの街が出来たらバレアレ商会の支店を作るって言ってましたな」

「おお、そうなのか。そういえば、彼はエンリに御熱だったね?」

「ええ、そうですねぇ。まるで若い頃の私が家内を口説こうって時に似てましたよ。若いのはいいですなぁ」

「はっはっは、そうだなぁ。で、どうなんだね?」

 

そのンフィーレア・バレアレが彼の娘のエンリに御熱なのは、村中では知れ渡っている事であり。

知らぬのは恋愛に関して天然なエンリと、それを隠してるつもりのンフィーレアだけであった。

 

「まぁリィジーさんもエンリが良ければ是非、と言ってましたし。後は二人次第ですよ。私も妻も温かく見守るつもりです」

「そうかそうか。あの子は良い子だから、良人に恵まれて幸せになれればそれに越したことはないさ」

 

二人がそんな事を話している頃、エモット家でアーリー・スターチにおける支店計画を語っていたンフィーレア・バレアレと。

内容を半分も理解できず相づちだけ打って聞き流していたエンリ・エモットが同時にクシャミをしたのはただの偶然かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分、寂しくなったね」

「しょうがないさ、リアルもゲームも切羽詰まれば、誰も彼もその場に留まれなくなるんだ」

 

人気の無い円卓の向こう側で、グラスに注がれたワインを揺らしながら 世界に災厄を齎す者(ワールド・ディザスター)こと、ウルベルト・アレイン・オードルは呟いた。

会話は基本敬語で話し合うのがこのギルドの暗黙の了解だったが、こうして個人で話し合う時は意外にフランクである。

かつては格差の差やたっち・みーと親しい事もあってそれ程仲が良い訳でもなく。

交流もチームなどの団体絡みだけであったウルベルトとアイダホであるが、最近はこうして雑談をすることが多い。

 

それはギルドの人数が減少した事もある。

最盛期を超えたユグドラシルのプレイヤー数は減少を続け。

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーもその数を減らし続け、既にメンバーはフルメンバーの半数を割る手前まで来ていた。

ナインズ・オウン・ゴールのメンバーが何人も引退した事は少なからず他のメンバーに衝撃を与えていたのだ。

特にギルドマスターであるモモンガはショックを受けていた様で、表向きはにこやかに送り出していたが時折円卓で何事か考え込む事が多くなっている。

 

「近々モモンガさんに言う事なんだが……引退することにしたよ」

「ウルベルトさんも抜けるのか?」

 

アイテムボックスを整理していたアイダホは、思わず顔をあげる。

ブレードの様な長い鉤爪で器用にグラスを掲げた悪魔は、ふっと顔を天井へと向けた。

 

「………やらなきゃ、いけない事があるんだ。与えられたパンを齧ってばかりじゃ、居られなくなったんだよ」

 

生粋の反骨者であるウルベルト・アレイン・オードルは、どこか遠くを見る様に呟き、ワイングラスの中身を一気に飲み干した。

幾つかのステータス上昇とバットステータスが表示されるが、バットステータスの方は装備品の付与により掻き消される。

 

「それに、アイツが抜けてしまって、どうにもゲームに身が入らなくなったのもある。居なくなった時は清々すると思ったんだけどな……おかしなもんだ」

(そういうあなたも、たっちさんが引退してからインする回数がめっきり減ったじゃないか)

 

アイダホは余程、そう指摘したかった。

自分がユグドラシルを知る前から、あの二人は犬猿の仲で何時も喧嘩してばかりだったという。

アイダホも、よくウルベルトに関する愚痴をたっち・みーから聞かされた。

 

だが、アイダホはこうも思う。

あの二人は生まれや立ち位置は真逆であっても、本質は意外に近いのではないかと。

だからこそ衝突する反面、お互いに気にせざるをえないのだと。

 

好きの反対は無関心、という言葉がある。

人間関係の定義にそれを当てはめれば、あの二人は本人達が認識している以上に意外といい友人関係だったのではないか。

勿論、アイダホには知人である聖騎士にも、目の前にいる悪魔にもそれを確認する度胸は無かったが。

 

「ログアウトする。じゃあな……引退の件、俺が直接モモンガさんに言うまで黙っておいてくれよ?」

「ああ、分かっている。おやすみ」

 

悪魔が青白く発光して消滅し【ウルベルト・アレイン・オードルさんがログアウトしました】と表記がされる。

アイダホは暫く黙って無人の円卓を見回していたが、自分もコンソールを開いてログアウトを選択した。

 

(こうして、みんなどんどん去っていくんだろうか)

 

意識がリアルに戻る直前に見た円卓は、記録映像で見たかつての地球の夕暮れ時の公園だった。

誰もが家に帰り、乗り手の無い遊具と忘れた玩具が寂しく転がる、そんな寂寥に満ちた世界。

 

 

そんな世界にただ一人残る子供。

一心不乱に、自分と友達達の作った砂の山を維持し続ける。

アイダホは、見える筈もないものを幻視した様な気がした。

 

 

それから暫くの後、アイダホはユグドラシルでのプレイ活動を停止する事をギルドマスターに伝える事になる。

実家の稼業が忙しくなり、兄の予備に過ぎなかった自分や弟達にも動員がかかったからだ。

アイダホが名残を惜しんでアカウントこそ消さなかったが、事実上の引退であり。

その後最終日に至るまでログインした回数は両手両足の指の数にも満たなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バレイショ魔導研究所 会議室

 

 

 

「なるほど、学院の建設か。悪くないな」

 

フールーダ・パラダインは白く長い顎髭を撫でながら何度も頷いた。

 

「はい、魔法使い、術師の育成は国力増強の急務です。王国は帝国に比べ地盤からして弱体過ぎます。であれば、教育機関から始めるべきだと」

「素質の有無に関しては、私のタレント【看破の魔眼】を活用すれば在野から能力のある人物を発掘するのは容易かと」

「うむ、まずは人材育成の基盤を作る。これから王国を吸収していくに辺り、軍備や人材は幾らいても足りぬだろうからな。私の方でも協力は惜しまぬよ」

 

アインズ・ウール・ゴウンは、何れは王国の残った領土を全て差し押さえる予定だ。

 

リ・エスティーゼ王国、連邦化計画。

 

ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフが提唱した西方勢力圏統一計画。

段階的にリ・エスティーゼ王国を保護と称して同化、吸収していく政策だ。

その為に支配層である貴族達をあの戦争で多く間引き、効率よく排除する為に裏社会を支配した。

 

これから彼女は最大効率を持って、王国に必要なあらゆる必要悪を行使して行くだろう。

自分と愛する子犬が最上の幸せを手に入れる為に、王女はいかなる手段をも肯定し実行していくに違いない。

 

それを知らぬ魔法使い達は、表向きの政策である学院設立などの実行プランを練り上げていく。

ラナーの知啓と慧眼を讃えながら。

 

 

「ようやく、一息つけたわね」

「うん」

 

会議が終了した後。

研究所のラウンジで、ニニャとアルシェはお茶を飲みながら一息ついていた。

戦時程ではないにしても、忙しいのは変わらない。

新しい領土の魔法的な調査、人員の発掘、減耗したゴーレム達の再編。

 

やらなくてはならない事は山ほどあり、いまだ研究所の人員は少ないままだ。

今週は半分ぐらいは帰れるといいな、とアルシェは小さくため息をつく。

仮眠室の備品が充実したり、シーツと毛布が体になじむのは正直嬉しい事ではない。

 

「仕事が充実しているのは事実だけど、妹達ともうちょっとゆっくりしたい……」

「あはは、妹さん達は甘えん坊だからねぇ」

 

元貴族の娘達であるが、天真爛漫なアルシェの妹達をニニャは可愛がっていた。

彼女自身は妹でお姉ちゃん子であるが、妹も欲しかったと思っていたのだ。

 

「ニニャは、お姉さんとどうしてる?」

 

アルシェの問いに、ニニャは少し複雑そうな顔をした。

テーブルの上に置いてあった菓子皿から焼き菓子をとってポリポリと齧る。

 

「……最近は以前程会えてないの。アイダホ様が官邸に居る間は付きっ切りみたいだから」

「え? そんなにシフトきつかったっけ?」

 

アルシェは不思議そうな顔をした。

官邸にはそれを維持する為の使用人が配置されている筈だ。

側付きとはいえ、エルフメイド達以外にも何人かメイドが居て余裕をもってローテーションを組んでいる。

戦争も終わり平時であるから、ローテーションに代わりはない筈だと訝しむ。

 

「うん、聞いてみてもお姉ちゃんは何だか誤魔化すから、他の人達に聞いたんだけどね……」

 

ニニャは肩に近い位置まで伸びた髪の先を軽く梳きながら口先を尖らす。

戦争後辺りからニニャは髪を伸ばし始めている。

せっかく綺麗な髪なんだから伸ばした方が良いなと、アルシェは思ってたのでこれは賛成である。

 

「アイダホ様の御付き、出来るだけ入れて貰っているみたいなんだ。後、休暇の場合でも官邸に居るみたい」

「? それはどういう?」

「………わかんない」

 

ニニャの口先の尖りが増し、もうアヒル口みたいになっていた。

何か心当たりがあって、それがもどかしく感じるような様子だ。

ニニャとの付き合いはそれなりにあるアルシェはそれ以上追及せずに、そうなの、とお茶を濁した。

 

 

 

 

それから、アルシェがお代わりの焼き菓子を取りに行き。

一人テーブルに残っていたニニャは苦々し気な面持ちで突っ伏した。

 

「お姉ちゃん、幾らなんでも無理だよ……」

 

つい最近、官邸に会いに行った時のツアレの顔を思い出す。

アレをみて、ニニャは確信したのだった。

 

「相手は、神様なんだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

官邸の執務室。

 

執務用の机に広げられた地図を見てアイダホは打ち震えていた。

八欲王時代に作られたと思しき、一般的に出回っている地図よりも遥かに精巧な地図。

そこには無数に髑髏マークが付けられ、更に赤いバツが書きなぐられている。

 

「そんな、マジなのか……」

 

呟くアイダホの横にある窓の外では、寒風が吹き荒んでいた。

新しくなったアインズ・ウール・ゴウンが正式な国家となって一年が過ぎ、冬を迎える頃合いとなっている。

 

「本当に、来てないのか?」

 

アイダホは、否定したかった。

しかし、目の前の結果がそれを否定する。

 

 

これが、事実なのだと。

 

 

この百年もの間、アイダホは大陸中にプレイヤー探索の眼を伸ばして来た。

特に百年周期でプレイヤーが出現するという情報を得てから、この百年目に全ての期待を賭けていたのだ。

 

探査網、メッセージの感応、使い魔や走狗による監視。

アイダホは探索系のキャラクターではなかったが、それでもユグドラシル時代を思い出しながら必死に構築を続けていた。

大陸各地を廻り、遺跡などを拠点にし、何時か訪れるかもしれない友とナザリックを見つける為に。

 

この年に入ってから、暇さえあれば情報を集めた。

公務の合間を縫って各地を巡り、メッセージを飛ばし魔法装置を起動して反応を伺った。

フールーダ・パラダインにも命じて、情報を集めさせた。

大陸を巡る間に培ったコネも全て動員し、法国にも協力を求めた。

 

それだけやった。

アイダホが思いつくこと、出来ることはやった。

 

それでも結果は無残だった。

反応も、証拠も、相手も見つかる事はなかった。

ナザリックらしき存在も、モモンガと呼ばれる相手も。

 

唯一、変な黄色い球体に羽が生えた存在らしきものが確認されたが。

会いに行ってみたものの、ナザリックとは全く無関係だった。

 

 

「そんな……じゃあ、また、俺は百年間孤独なままなのか?」

 

アイダホはストンと椅子に座り、ポツリと呟いた。

この世界に放り出されてから、百年耐えて来た。

きっとこの世界にはモモンガとナザリックが来ている筈だと。

そう信じて探し続けて。結果、彼らが来てないと知った。

 

それでもこの年になって、彼らがきっと来てくれる。

それだけを信じて、存在してきた。

 

「無意味、だったのか? 俺がしてきたことは」

 

次の百年を待てるのだろうか?

以前は寝て待とう等と呑気な事を考えていた。

だが、この胸にぽっかりと空いたような空虚な気持ちを抱えてまで、それを出来るとは思えない。

 

 

アイダホは甘かったのだ。

自分の存在の異様さ、異常さについて。

自分自身の事だというのに全く認識していなかった。

 

自分が異形というキャラクターに包容された人間の精神でしかない事に。

異形の精神性と人間の精神性がまじりあい、かつての自分が残滓になった場合どうなるのか?

化け物にとって耐えられる事、人間にとって耐えられない事。

それらが複雑に入り混じ合い、周期によって影響されたのが今の自分の精神なのに。

 

結局は与えられた力を振るうしか能のない、神ならぬ凡庸な人間の精神を纏った異形だという事に。

漸く、失意と絶望をもってして気づいたのだ。

 

 

次の百年を待つ、それはいいだろう。

もし、その次の百年も無駄足だったら?

更に、次の百年もナザリックが来なかったら?

 

「俺は、一体、この世界で何年待てばいいのだ?」

 

ナザリックに対する執着が、音を立てて崩れる。

希望が物質化して、砕ける瞬間があったとしたらこんな感じかもしれない。

この世界と、人々と関わりつつ、それでも一番の拘りと優位はナザリックと友人だった。

 

どれだけ人間に神と崇められても、部下達と親し気に言葉を交わしても。

それでも、自分にとってかつての世界の残り香であり、友人が何よりも最優だった。

 

それは、自分が化け物だから。

友人とナザリックが化け物だから。

どうしても付けていた区別。

 

こっちは、あっちと違う。

 

それが、彼とこの世界との住人の壁。

どれだけ接近しても、区分けされた存在同士だったのだから。

 

 

 

振るわれた拳の空圧で、執務室の入口のドアが酷く軋んだ。

家具のガラスや壺などが全て割れるが知った事ではない。

 

「もう、嫌だ」

 

ドアを誰かがノックしているが、気にはならない。

 

「もう、待てないよ。待てるものか」

 

誰かがドアの向こう側で叫んでいるのを、人外の聴覚で知るがどうでもいい。

渦巻く激情に導かれる様に、アイダホは突き進んでいく。

 

「もう、知るか。何もかも知るか。俺は、眠る。眠るんだ。モモンガさんが見つけに来てくれるまで」

 

アイテムボックスを探り、指輪を取り出す。

それは流れ星の指輪(シューティングスター)

アイダホが持ち込み、最後の頼みの綱となった一つ。

 

それを装備し、彼は願いを浮かべる。

軋んで半開きになったドアの隙間に誰かがその身を捻じ込もうとしているがどうでもいい。

もういいんだとアイダホは思う。

こんな自分に、国なんて、背負うのは重過ぎたのだ。

 

「我は、願う。我が友モモンガが来るまで「アイダホ様ぁ!!」」

 

軽い衝撃と共に詠唱の為の言葉が途切れる。

自分に抱き着いてきた相手を、アイダホは見た。

 

「ツアレ?」

「なにを、なさって、るのですか……!?」

 

涙に濡れた青い瞳を見て、アイダホは激情が引いていくのを感じた。

代わりに満ちていくのは後ろめたさと、情けなさ。

 

自分が現実逃避して、見捨てられるものの中には、彼女も含まれているのだから。

 

「ツアレ、私は……いや、俺は」

 

アイダホは、次の一言を吐き出すべきか迷った。

こんな自分でも、彼女にとっては全能の神に違いない。

自分を救い、なんでもできる万能の神だと。

 

アイダホは表情の無い顔で苦笑する。

何が神だと。助けた相手すら放り出して眠りに逃げ込もうとした奴のどこが神だと言うのだろうか。

 

自分が酷く惨めであると気付いたアイダホは、驚く程あっさりその言葉を口に出した。

 

「もう、一人は嫌なんだ」

 

 

アイダホが口にした、あまりにも弱弱しい一言。

それに対し、ツアレが返した言葉は………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










原作時間軸に値する 結、終了


後日談と終章

多分前中後編でこのお話は完結します。

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