アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。














終1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その広大な墓地はトブの大森林の奥、森の中の都市と言われたバレイショより奥まった場所に存在している。

バレイショの郊外の森一帯を取り仕切る一族の所有地の中にあり。

幾重にも結界が張り巡らされており、その存在を知る者は一族と極一部の関係者のみである。

 

 

「………」

 

トブの大森林の夜道を、一人の女性が歩いていた。

年は20代半ばに差し掛かるかどうか。

長く伸ばした白銀と漆黒の髪が、夜風に吹かれて揺れている。

大森林ともなればたとえ街道沿いでも夜は危険とされている。

その女性はそんな危ない場所を平然と、愛用の戦鎌を肩に担いだまま墓地へと近づいていく。

 

装飾が施された白い石壁に囲われた墓地の内部は、参道以外は白い花が埋め尽くす様に咲き誇っている。

 

白い花畑の中に浮き上がる様に、ポツリ、ポツリと立派な墓石が建てられている。

そのいずれも、一族本家の者達の眠る墓。

基本的一族は、この地にて埋葬されるのが習わしである。

その墓地の入り口に差し掛かった女性は、足を止めて前に進むのを止めた。

足を止めたおかげで、複数の結界は無粋な反応を返さずに済む。

 

(やっぱり、ここに居たんだ)

 

その一番奥まった場所にある墓石。

この場所に最初に葬られた人物の墓の前で祈りを捧げている影が一つ。

その影を遠目に見やりながら女性はその場で彼を待つ事にした。

木々のざわめきと、夜の静寂。

月光に照らされた墓場は、夜風に揺れる白い花々によって神聖さに包まれていた。

 

この日のこの時間、彼は必ずその墓石に祈りを捧げている。

それを邪魔するのは、よろしくないと判断している。

普段は戦闘狂でとても気儘な彼女であるが、こういう時は空気を読む。

 

この墓地を荒らされる事を、彼は極端に嫌う。

もしも、この地を穢されようものなら、彼は普段の分別を忘れて激昂しその慮外者を惨殺するだろう。

 

彼女としても、彼を怒らせるのは大昔の一度切りにしたかった。

かつての部下達からすれば、その傍若無人を恐れられた女性でも彼に関してはそれなりに気を使っているのである。

あくまで、彼女の基準において、だが。

 

女性が墓場に来てから数十分が過ぎた頃になってから、影はようやく腰を上げ入口へと向かう。

普段とは違う、白いローブに身を包んだ男は、待っていた女性に対して声をかける。

 

「やはり、お前が来ていたのか」

「うん、色々あったからね。報告をしようと思って」

「待たせて悪かった……あそこで話そうか」

 

男が指をさしたのは、石造りの東屋だった。

恐らく葬列の参加者が休憩する為にあるのだろう。

十人以上の人間が休憩できるだけのスペースと椅子とテーブルが置かれていた。

その中の一つに男は座ると、女も隣に遠慮なく座った。

 

 

暫しの沈黙。

 

男はローブに包まれ、俯いたまま。

女は戦鎌の刃先をゆらゆらと揺らし、夜空を見上げている。

 

「お墓参りはどうだった?」

 

女が先に口を開く。

 

「変わらず、だったよ。彼女は待ってる気がする。ニニャは相変わらず嫌味を言ってそうだけど」

「嫌味、ねぇ」

「しょうがないと言えばしょうがないさ。甲斐性の無い男の所為で、要らん気苦労を最後まで背負わせてしまったからな。姉想いの彼女からすれば、嫌味の一つも言いたくはなるだろ」

 

そういいながら、男は視線を墓地の方に向ける。

一番奥の姉の墓の隣に、妹は自身の遺言により埋葬された。

こうして命日に墓参りをしていると、近くから彼女の低い声が聞こえてきそうな気がするのだ。

この世界は魂の概念があるから、実際に墓の上辺りから睨んでいるのかもしれない。

 

「そんな甲斐性なしの神様にご報告。ツアーが他の真なる竜王と盛んに連絡取り合っているみたい。いよいよあなたの存在に許しがたい感情を抱いてる様ね」

「………嫌だなぁ、評議国と一戦だなんて。法国の上が大喜びで協定を破って仕掛けるぞ。一応、釘は刺しているけどどこまで自重するやら」

「そうよね。あなたは人類の衰退は勿論だけど、先鋭化も望んでいないもの。最近は人類そのものが順調だから、色々緩んでいるのかしら?」

「そうだろう……ったく、墓参りの後位、しんみりとした気分になりたいものだ。最近は物騒な話題が多すぎる。頼むからもう少し静かにして欲しいよ」

 

重々しい溜息を吐きながら、白ローブの男は続けた。

 

「もうじき、次の百年目なんだからな」

「ええ、次の、ぷれいやーが来る時期ね」

 

次のぷれいやーが、出現する時期はもう間近だ。

そんな時期に、あのツアーが、ツァインドルクス=ヴァイシオンが動き出す。

この百年間の男の所業に、遂に堪忍袋の緒が切れたのか。

それとも、次に来訪するぷれいやーを先手を打って滅ぼす心算なのか。

男と来訪する者が手を組めば、評議国ですら抑えきれないかもしれないからあり得る話だ。

 

二人は気付いている。

世界に次なる規格外の要素が継ぎ込まれる時期が来る事を。

他ならぬ二人は、その要素の一部なのだから。

 

「ねえ」

「なんだ」

 

女は男をじっと見つめながら、問い掛ける様に囁いた。

 

「まだ……期待しているの? 今度の周期で仲間が来る事に」

 

白ローブの男は、彼女の問いに沈黙した。

ザワザワと周囲の木々が夜風に揺れて音を立てる。

そのまま、たっぷり数十秒間黙り込んだ男は、不意に呟く。

 

「わからない。来て、欲しいのか。望んでいるのかどうか」

 

来てほしくない、とは言えなかった。

幾ら、ここでの縁が切れないものになってしまったとはいえ。

あのギルドマスターに対し、割り切れない感情を抱いているのも事実だからだ。

 

「200年前なら無条件だったろう。100年前なら、身の回りの連中が安全であれば受け入れられた。だが、今は」

 

また俯いて暫く黙る。

本人も言葉をどう発したらいいのか、分からないのだ。

200年の長き時間は、人とも異形とも付かない男の価値観を流動させるには十分に過ぎた。

 

「アインズ・ウール・ゴウンは悪の華。モモンガさんも、NPC達も殆どが悪よりだ。そして、設定されたテキストとカルマで行動基準は確立される」

 

それはただのロールプレイ。

非公式の魔王だの言われているギルドマスターは、鈴木悟という温厚なサラリーマンであるという事を男は知っていた。

 

NPCの設定もただの数値であり、テキストのフレーバー。

キャラクターにイメージを付与し、楽しむためのスパイスでしかない。

それは元の世界にあり、ユグドラシルというゲームの中にある場合であれば。

 

 

男は知っている。

こちらの世界に移動し実体化すれば、どうなるのかを。

 

 

六大神。

八欲王。

13英雄。

他の歴史の狭間に見え隠れしたプレイヤーやギルド達。

 

彼等の歴史を知る事で、男は理解した。

ゲーム時に何気なく決めたことが、こちら側では事実になってしまう事に。

悪の種族はそのまま悪に、善の種族はそのまま善に。

そうであれと、定められたままに行動してしまう。

 

 

その道理のままに行けば、アインズ・ウール・ゴウンがこの世界に出現した場合どうなるか。

 

極悪(-500)死の支配者(オーバーロード)に率いられたカルマ悪の軍団。悪のアヴァターに引き寄せられたモモンガさんが、悪よりのNPC達に寄って集って担ぎ上げられ世界征服とかし始めかねない」

 

ユグドラシルの世界においても、彼等はきわめて強力な存在だった。

それがユグドラシルよりも遥かに弱体な戦力しか有さないこの世界に解き放たれたら、世界の存亡に関わる危機が発生するだろう。

かつての八欲王以前であり、竜王達が今よりも遥かに強力だった頃ならまた話は別だったろうが、八人のぷれいやーとの戦いで彼らは悉く滅んで果てた。

有力なプレイヤーも、男の知る限りではあの超セクハラ好色・ニンジャ・マスター位しか知り合いは存在しない。

 

「もし、そのナザリックとかいう連中が出て来たら……あなたは、どうするの?」

「……」

「その、ナザリックとかいうギルドに戻るの?」

 

男の脳裏に、最後に出会った時のモモンガが脳裏をよぎる。

ユグドラシルという世界に誰よりも依存し執着したギルドマスターの事が。

 

『最終日は終日居るつもりですので、何時でも来てください!』

 

約束、守れなかったな。

男はそう内心呟いて、こう付け加えた。

 

もし、彼らがこの世界に現れたとしたなら。

 

会いには、行こう。

ただ、帰る訳ではない。

 

そして、もし、意見が物別れになってしまった場合は。

男は、どうするべきなのか。

 

(ナザリックと、いや、モモンガさんと……戦う可能性か)

 

だが、百年の時を超えて生きて来た男の思考は冷静に告げていた。

 

もし、ナザリックが次元を超えて来訪した場合。

それは彼がこの地で築いてきたモノにとっての最大の危機になるかもしれないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーリー・スターチ。

 

AOG連邦(アインズ・ウール・ゴウン)の最も東側に位置する都市。

 

人口は十万人を超え、連邦軍の東方軍総司令部が据えられている重要拠点。

バハルス帝国が治めるエ・ランテルが近くにある国境の都市として有名である。

敵の侵攻が想定される国境の街にも関わらず、放射型に都市設計された街並みは先進的な帝国の帝都に負けず劣らずとも言われた。

 

この街には幾つかの特殊な施設が存在している。

その中でも国立の教育機関として有名な【ラナー・アカデミー】。

トブの大森林縦貫街道(ツリーウェイ)の中継地点及び国の象徴としての街に価値を変じた都市バレイショから移転してきた旧名魔導研究所、現在は【賢者の学院】。

 

賢者の学院は国立の術者養成機関だ。

魔法使いが軽視され日陰者扱いされていた旧リ・エスティーゼ王国とは真逆に、連邦は魔法使いの育成を国を挙げて奨励した。

各地に点在しているだけの魔術師ギルドを再編成し、国を挙げてその在り方と国への貢献を最効率で行えるようにした。

 

そして今では多数の優秀な術師を抱え、【東の魔法省、西の賢者の学院】とさえ言われる程に発展している。

100年前は国内の最高術師の位階が3位であったのを、今では学院導師であれば4位、ロードと呼ばれる高導師であれば6位か7位に至っている事実を思えばまさに奇跡とも言えた。

 

 

その学院の最高責任者にして真理の塔の主。

 

【大賢者】【真理の魔眼】と謳われ、大陸に現存する逸脱者の中でも最高の術師。

彼女が居るからこそ、異形種の国もバハルス帝国も連邦との交戦を恐れているとすら言われている。

人類で最初に第10位階に至ったとされる故フールーダ・パラダインに続く、人類唯一の第10位階魔法を操れる大魔法使い。

 

アイダホの起こした才能限界突破(ウィッシュ・アポン・ア・スター)と己の早熟特性の相乗効果により魔導の頂点に至った魔女。

アルシェ・イーブ・リイル・フルト。

彼女は今、深々とため息を吐いていた……。

 

 

 

「あー、その、またやらかした件に関しては俺も遺憾に思うんだ。いや、また私財から寄付をさせて貰うよ………なので、どうか怒らないでいてやってくれ、この通り!」

 

執務室の隣にある応接間にて、彼女は来客者から頭を下げられていた。

テーブルには、とある生徒がやらかした事件に対する弁償費用が書かれた書類が置かれている。

 

「いえ、別に重大な処罰などはしませんのでご安心ください……厳重注意はしますけど。仮にも国父と言われたあなたがそんな軽々しく頭を下げないで頂きたい」

「それは分かってるよアルシェ。後、国父って言い方は止めてくれって言ってるだろ。あのラナーが国母と言われてるから凄く気持ち悪い」

 

そんなことを言い合っている二人を他所に、戦鎌の女は出されたお茶と焼き菓子を呑気に貪っていた。

そのいかにも他所の事柄ですと言わんばかりの態度に、アルシェの眉間に注意しなければ分からない程の小さな皺が寄る。

百歳を超える老齢に至った彼女であるが、すっかり白くなった髪以外の見栄えは60代で充分通じる。

その魔法使いの鋭い視線を受けても、戦鎌の女の態度は全く変わらない。それが更にアルシェの神経を逆なでする。

この女の存在は彼女の親友だったニニャが生涯敵視してた事から、アルシェも良い感情を抱いていない。

ましてや、緑色のローブを着た男が気にかけている存在に対し、彼女と連なる存在と法国がやってるちょっかいを思えば猶更だ。

 

「あなたはなんでそんな他人事な顔してるんですか。あの子と同じ位に、貴女の娘御も問題を起こしているんですよ? 彼女の性格については、あなたの責任も大なりだと私は思ってるんですけど」

「そうは言っても、あの子の教育と養育したの神官長達だし。でも、私ん時よりは随分とマイルドに教育した筈だけどなぁ」

 

あっけらかんと返され、アルシェの苛付きは更に増す。

表面こそポーカーフェイスを貫いているが、付き合いが長い男の方はアルシェの苛立ちに気づいていた。

あの子達の立場の複雑さには身に覚えがあり過ぎる為、男の背中はすっかり丸くなってしまっている。

ソファの端に寄ろうとして、アルシェの眼光がチラリと向けられて動きが止まるぐらいだ。

もし、男に【表情があったら】冷や汗を流して顔面の筋肉を引き攣らせていたに違いない。

 

「だからって、連邦の国営教育機関の中であからさまに囲い込みをしないでください。この方がそういう事を嫌うのは知っているでしょうに」

「だーかーら、そういう事は神都の連中に言ってってば。というか、あの子の抑えはちゃんと寄越したって聞いたけど?」

 

焼き菓子のお代わりを探す戦鎌の女に、アルシェはまたしても深々とため息を吐きながら指を軽く鳴らす。

テーブルの上に瞬時に焼き菓子の皿が幾つも並び、戦鎌の女は大喜びでかぶりついた。

 

「あの二人でしたら全く抑えにはなってません。片方は畜産試験場の馬小屋で焼きを入れられてから完全に言いなりですし、もう片方は最初から使いっぱしりやらされてましたよ」

「……何やってるのよ聖典の隊長候補が二人してあっさりと。鍛えが足りなかったかなぁ……」

 

かけらも悪びれてない戦鎌の女と、アルシェの言い合いを聞きながら男は書類に手を伸ばす。

やんちゃをやらかして高祖母に怒られる予定の、とある少年の行動が描かれた書類を一字一句丁寧に読み直す。

 

 

(驚いた……まさか、このアイディアがこの世界で考案されるとは)

 

そこに描かれた少年と、彼のアイディアとその結果。

今回は失敗したが、少年のアイディアはこの世界に革新を齎せるかもしれない可能性に満ちた図案。

 

【魔法装置による超高速飛行の実現。または人間が搭乗可能な飛翔装置の開発】

 

それはまさに人類の知性の可能性と言えた。

飛行ならフライの魔法や魔法の絨毯やグリフォンを使えばいいじゃない。

そこで停滞しがちな発想を飛躍させられる、新時代の発想だ。

 

(ああ、そうだ。だからこそあの子等が愛おしい。あの子等が作る世界が素晴らしい。俺がいまだにこの世界で生き続けられる理由だ。彼女が、ツアレが与えてくれた希望だ)

 

二つの輝きを失った流れ星の指輪を思い出しながら男は心中で囁いた。

 

この世界に来てからの時間を考えれば短い時間だった。

短い時間だったが男はとても幸せだった。

肌を合わせた時の温もりを、芽生えた命を彼女と一緒に見守った幸せも覚えている。

その時間の間に育んだ命の絆が、存在する事に疲れ果てた自分を今もなお生き永らえさせている。

弱り果てた自分を受け容れてくれた女性との間に出来た存在は、どうしようもなく愛おしくて。

竜王達などからすれば到底理解が出来ない、人類に対する恋煩いという不治の病に侵された。

 

子達が紡ぎ続ける系譜がどこまで行けるかを知りたい。

たとえそれがかつての世界と同じ結末に向かうにしても。

六大神のスルシャーナの如く、たった一人で見守り続ける運命にあっても。

 

(俺はあの子等を見続けたいんだよツアー。お前の言葉がどれだけ正しくてもこれだけは絶対に譲れない。彼女との間に出来た血筋こそが、俺にとってこの世界を愛せるきっかけになったのだから)

 

 

だからこそ、何人たりとも人類の歩みの邪魔はさせない。

例え相手がかつて世界を支配した竜王の末裔だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直ぐに迫った周期によって出現する、プレイヤー達であろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今の彼なら、かつてのスルシャーナ様の心境を理解出来たかもしれません。
残り二話予定










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