アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。












終4

 

 

 

 

 

 

 

 

アイダホはかつて、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフに尋ねた事がある。

自分が、為政者に足る存在であるのかを。

 

彼女はすまし顔で、辛辣な評価を返してきた。

 

『あなたは力はあっても為政の器ではありません。帝王学をきちんと学んで……そうですね、バルブロお兄様より、少しはマシか、程度ですわ』

 

精神の中に苦い渦が巻き起こるが、同時に納得もしている。

確かに、自分は国家を統べるにたる存在ではないという事に。

 

『ご自身も十分にそれは理解しているのでしょう? だからこそ、私を手放す事が出来ない』

 

女は優雅な仕草でティーカップを手に取り、中身の香りと味わいを楽しんでから横目でこちらを見た。

最高の策士であり、最悪の性根である救国の王女は自分の立場と旨味を十分に理解した上でこの態度をとっているのだ。

 

『連邦の問題は旧リ・エスティーゼ王国からの問題を継承している。これらを全て矯正し膿を出し切るには数十年がかかる。その時間を維持するには、私の助力が無ければ無理ですもの』

 

彼女の言うとおりである。

あの国が抱えていた内憂と病巣の重さを解決するには、ラナーの知啓と情を排した政策が無ければ無理だった。

 

『だから、私の要求をあなたは全て呑むしかない。私の願いがささやかでよろしかったですね?』

 

してやったり、な笑顔を浮かべる魔性の女の姿と、ティーラウンジが暗闇に姿を消す。

 

結局、あの女には終生良い様に扱われて、悠々と勝ち逃げをされてしまった。

ジルクニフ皇帝の言うところの【見てる領域が人間ではない】という事なのだろう。

神の如き力を持っていても、ラナーが決して手放せない人材であったが故に好き放題やられてしまった。

 

ラナーがこの世を去って随分と経つが、故帝国皇帝の意見と同じく、今でもなおあの女はこの世で一番嫌いな女だ。

 

 

 

 

だが、あの女がいい仕事をしたのは事実だ。

ラナーのおかげで百年以上の月日をかけてため込まれた膿と腐肉は切除され。

リ・エスティーゼ王国の残務処理が終わり、正式にAOG連邦に移行した頃には健全な国家に早変わりしていた。

勿論、その陰には不要な支配層の粛清など、全体がソフトスライディングする為に必要な犠牲が一切の情をかけられる事なく遂行されてきた。

現在、連邦が幾多の問題を抱えつつも恙無く運営されているのは、ラナーが組み上げた骨子がうまく機能しているからに他ならない。

 

時折、大陸中央からの攻勢があり帝国との冷戦も数十年間続いているが今のところ問題はない。

連邦の運営は、アイダホの助けがなくなったとしても後数十年は余裕で安定し続ける。

 

 

 

し続ける、筈だった。

 

 

「だが、しかし……来た。来てしまったんだ」

 

 

先程、アイダホは緊急連絡を受けた。

極々一部、【一族の当主】【法国の分家】【先代番外席次】【二代目番外席次】にのみ渡した連絡用アイテムから驚くべき報告がやってきたのだ。

 

「……ナザリックが、来た……」

 

娘から出た言葉、ナザリック、セバス・チャン。

かつてはあれ程切望したギルドの来訪を聞き、アイダホは頭を抱えていた。

 

「来て、しまった」

 

ナザリックは来てしまった。

しかも、よりにもよって連邦の領内に。

 

「……俺は、どうしたらいいんだろうか?」

 

アイダホは、今までこの世界に訪れたプレイヤーの行動を知っている。

知っているからこそ、モモンガとナザリックがどう動くかは理解できる。

 

悪の華のロールプレイ。

ギルドの成り立ちから、最盛期に至る所業。

 

【ユグドラシルの世界の一つぐらい、征服しようぜ】

 

等と結構本気で考えていた連中が犇めいていたギルドだ。

NPCは設定とギルド内に居た時の情報が、その性格や行動に反映される……つまり、この異世界に超DQNギルドが降臨する事になる。

例えギルドメンバーがギルドマスターしか居なくても、かつての悪の華としての影響を受けたギルドがやってくるのだ。

 

それらをモモンガが止められるかと言ったら、アイダホとしては期待できないと言うしかない。

あの人は調停役としては最高だった。

彼だからこそ、あの41人は喧嘩をしつつもギルドとして成立していた。

あの人だからこそ、アインズ・ウール・ゴウンは最後まで瓦解せずにいられた。

 

だが、主導者になれていたか、と言えば違う。

ウルベルト、るし★ふぁー達悪童軍団の悪乗りにも、最初は宥める感じだったのが最終的には一緒に暴走していた時もある。

良くも悪くも、流れが決まってしまえば主流へと一緒に流れて行ってしまうのだ。

 

かつてたっち・みーが「もう少し我が侭を言った方がいい」と指摘した事もあった。

だが、結局モモンガはみんなのまとめ役に徹し、強く出た事は殆どなかった。

ユグドラシルが衰退期に入り、ギルメンのみんなが徐々に去っていく時も。

アイダホが長期離脱を申し出た時も、彼は自分の気持ちを出す事も無く快く送り出してくれた。

 

後々、サービス終了一年前位にギルドの事を思い出して様子を見に言った時に、モモンガが少しだけ心中を吐露した時にアイダホが気づいた事だ。

結局、モモンガは周囲の為に自分を押し殺してしまうだろうと。

 

そんな彼が、恐らくは自我を発露させたNPC達に振り回されない訳がない。

エリュエンティウのNPC達の記録と、遺跡で極稀に出会ったNPCのなれの果て達を見る限り、彼等の創造主への忠誠心は基本異常に高い。

ましてや、ナザリックのNPCはギルメン達が時間と手間と趣向をこれでもかと継ぎ込んで作り上げたのだ。

能力と忠義の塊のNPC達を、ゲームのギルドマスターとしては適材だった、しかし中身は営業サラリーマンである鈴木悟が御しきれるとは思えない。

 

「……一歩間違えれば、モモンガさんと戦う事になる」

 

既に人類のすそ野は広がっている。

アイダホが守らねばならない、人類の庭が。

悪性のナザリックが、モモンガの意志があろうとなかろうとそれらを傷つけるつもりであれば。

 

 

アイダホは、ナザリックと戦わねばならない。

 

 

二百年前なら躊躇せず帰参し、百年前なら顔見知り以外は見捨てられただろう。

現在の彼では、人類を切り捨ててナザリックに付くという判断は出来ない。

彼は、この世界の人類を己の精神が持つ間は見守ると決めたのだから。

戦力比、勝敗などは関係ない。

彼らが害すつもりであれば、戦うしかないのだ。

 

 

 

だが、それでも。

 

かつて親しくした仲間想いのオーバーロードと戦う可能性は、アイダホの心を酷く締め付けた。

 

 

 

 

 

『それだけのものを背負って、今更悩むとは。下らんな愚弟よ』

 

暗がりの中から、温かみなど一切感じない男の声が響く。

あの時代、余程の上流階級でなければ着る事の出来ない化学繊維ではない繊維で出来た背広を着た男が嘲笑を浮かべている。

 

『その程度だからこそ、お前は当主に相応しくなかったのだ。運よく当家の三男に生まれだけの無能。それがお前だ』

「……兄貴」

 

己以外は全て数値化した駒に過ぎぬと言わんばかりの高慢と傲慢の権化。

とてもじゃないが、血の繋がった弟に向ける視線とは思えない。

自分達以外の階層は人間とは見てなかったアーコロジーの上流階級でも、あれ程の冷血漢はそうはいなかっただろう。

事実、自分の身代わりとして三男を危険な視察に送り使い捨てた男なのだ。

 

『私の端末を務める程度に弁えて生きるのがお前の限界なのだよ。お前には血筋はあってもそれに足る器と知性がない。それがお前達愚弟共に我が家を担う価値の無い証左だ』

 

為政者として敬意を抱いていた男を世紀末風にカリカチュアした様な支配者。

実の兄は二百年を過ぎても尚アイダホの中身に嘲りと共に呪詛を残す。

 

『お前では、舞台の主役にはなりえん。なのに関わらず、器ではない役目を担ったのだ』

 

冷笑を浮かべながら消えていく長兄を見送るアイダホはただただ自嘲するのみ。

 

『分際を弁えなかったからには、精々無様を晒すがいい。滑稽な道化芝居がお前には似合いなのだ』

 

ああ、分かっているよ、分かっているんだよ兄貴と虚空に消えた兄の幻影に対しアイダホは呟く。

 

そうだ、自分は舞台の主人公なんかじゃない。

舞台袖から出てきてしまった、舞台の中央に立たされたただの端役だ。

端役が何故か勇者の力を持ってしまった結果が今の自分。

それがアイダホ=オイーモの中身なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシンという音と共に、物思いに沈み込んでいたアイダホは一瞬で現実に引き戻された。

 

 

 

 

「痛いなぁ……ナニするんだよ」

「幾ら話しかけても返事も何もしないあなたが悪いんじゃないの」

 

目覚めると、そこは彼の私邸にある会議室だった。

壁には連邦と帝国と法国を中心とした人間世界の地図が張られている。

 

並べられたテーブルの上には、アイダホが放浪時代に収拾したユグドラシルの探索用アイテムの数々が並んでいる。

アイダホがエリュエンティウに至った時に培った、守護者達との交渉で得た品々も含まれていた。

これらのアイテムは人間世界の各地に仕掛けられたマジックアイテムと連動していて、何かしらの緊急事態が発生した時即座に対応できるようにしてある。

 

「すまん、正直、意識飛ばしていた……」

「あのねぇ、揺り返しが来たって聞いて意識硬直させるってどうなの、神様として?」

「そうは言ってもな……あの子からの緊急通信の内容が、内容だったんだよ」

「?」

「……ぷれいやーのギルドが転移してきた…………名前は、ナザリック」

 

先代番外席次の目がすっと細くなる。

この目つきの時は冗談の効かない時だ。

 

「まさか、あなたが所属していたギルド?」

 

 

その名前を先代番外席次は聞いた事が何度かある。

アイダホがかつて棲んでいた場所を語る時に挙がった、彼が所属していたギルドの名前。

 

「そうだよ……俺達の娘と、あの子が気にいってる本家のセガレが巻き込まれてた。転移したギルドの近くでNPCに接触したそうだ」

「っ……………………」

 

先代番外席次が纏う雰囲気が徐々に剣呑なものになる事は、暗黒の精霊にとって十分に予想できた。

元々、彼女はアイダホが過去を語る時は大概機嫌が悪くなる。

それがユグドラシル時代であれ、50年以上前の事であれ。

 

「………そう、良かったわね。ようやく、お望みの場所がやってきてくれた訳なんだから…………………そのまま、向こうに戻ってしまうの?」

「今は、違うよ。あそこへは行くさ。だけど、それは確認と交渉の為だ」

「え、そ……そう、なの?」

 

意外そう、と言わんばかりの目つきで先代はアイダホを見る。

彼のそのギルドへの思い出は度々聞いていたから。

その彼がギルドがやってきた事を歓迎していないとは、意外の感を抱いたのだ。

 

「二百年前なら大喜びで戻っただろう、百年前なら顔見知りの保護だけ申し込んで、後は知らぬふりしたかもしれない。だが、だけどな。今は」

 

アイダホは作戦室の隣にある応接間、そこの窓に顔を向けた。

窓からは私邸から離れた場所にある小さい白い離れが見える。

50年以上前に彼が人間に戻った間、伴侶となった女性と共に過ごした家だ。

 

「そうはいかないんだよ……ナザリックは悪の華のギルドだ。カルマも悪が殆ど。ギルマスのモモンガさんも極悪だ」

 

八欲王の再来の如き混乱が、この世界を襲う可能性が高いのだ。

今までのプレイヤーの動向を考えれば、アイダホの憂いは当然の事である。

 

「………」

「場合によっては、人間の国を鼻歌混じりに滅ぼすかもしれない。世界征服と称し、この世界を混沌に叩き込むかもしれない」

 

そうなれば、連邦は滅び、彼が知る人々も多くが助からない。

この私邸も、あの離れも、火に包まれるやもしれないのだ。

転移した直後でなら、まだモモンガは鈴木悟であるかもしれない。自制が出来るだろう。

しかし、時間が過ぎれば今までこの世界にやってきたプレイヤー達の様に、精神が変質し中身まで人ならざる者へと変わってしまうかもしれない。

彼等の多くは孤独だった。人類という希望を得たアイダホですら200年の時の流れによる精神の変質と疲弊は自覚している。

 

「故に、今のナザリックの現状を確認し、モモンガさんと話し合いをしなくてはならないんだ」

 

だからこそ、アイダホはモモンガと会わなければならない。

彼が、取り返しのつかない状態になる前に。

本当の意味での亡者の王(オーバーロード)になってしまう前に。

 

 

「……アイダホ、私も」

「駄目だ。俺だけで行く。行かなきゃならない」

「アイダホ!!」

「分かってくれ。     。」

 

詰め寄ろうとした先代は、極一部の存在しか知らない本名で呼ばれ思わずたじろぐ。

暗がりと二つの小さな光球で出来た彼から、嘆願とも思える気配を感じたからだ。

 

「こればかりは、俺がやらなきゃいけない事なんだ。アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーだった。俺がやらなきゃいけないんだよ」

「……」

「あの人は、ギルドメンバーであれば話を聞いてくれるだろう。この世界に居るギルドメンバーは俺しかない。だから、俺だけがやれる役目なんだ」

 

八欲王の如く、そのギルドの保有する力だけで世界を蹂躙出来る。

アイダホの記憶にあるナザリックの戦力はまさしくそれだ。

そして、八欲王の時代とは違い、ぷれいやー等と戦えた真なる竜王の軍勢は既にいない。

アイダホの影響によって、近隣の人類は強くはなったがあくまで比較論でしかない。

異形種や亜人とそこそこ対等に、レベルでしかなく、ナザリックの前では鎧袖一触だろう。

彼女やあの子、自分というカンスト級が居ても総合力では大幅に劣る為、結局は敗亡は免れない。

だからこそ、アイダホは唯一、そして何よりも有効なギルドメンバーが直談判するという手に出る事にした。

 

「あの人が本格的に動く前に、話をしてみる。お前は、法国に戻って待っていてくれ。くれぐれも神官長達が早まらない様に頼む」

「………………」

 

白と黒の瞳が、じっとこちらを見上げて来る。

 

「頼むよ、     。俺の代理は、お前しか居ないんだ」

 

二百年近く法国最強の座に座り、娘にその座を譲った今でもなお先代番外席次の影響力は法国上層部にて大きい。

アイダホの妻が死去した後、唯一その傍に侍る事が許された女性であり、神との子を為すという奇跡を成し遂げた聖女。

本人の政治的センスは皆無でも、彼女が齎すアイダホの言葉は神官長達、国の幹部達を動かせる。

七柱目の神殿【暗黒】を統括する神官長が助力すれば問題は無いだろう。

 

暫くの沈黙の後、先代は静かに頷いた。

 

「……分かった」

「すまないな。この埋め合わせはするよ」

 

アイダホは彼女の頬に手を当てる。

そして長い白と黒の髪を優しい仕草で梳いてから、小さく頷く。

先代番外席次は、何となく暗黒精霊の暗がりの中に男の顔が見えたような気がした。

どこか疲れた面持ちの、かつて見た黒髪黒目の中年の男だった。

 

 

「早く、戻ってきてね?」

「ああ」

 

少しだけ振り返り、視界の端に白い離れを収めた後で。

その後は迷うことなく、アイダホは転移の間へと向かった。

黒と緑を組み合わせた法衣を纏い、アイダホの個人サインが刻まれたベールで顔を隠したエルフの侍女達が深々と一礼し両開きのドアを開ける。

三人目のエルフの侍女が、オレンジ色のフード付きマントとマスケラのお面を恭しく差し出してきた。

 

労う様に三人のエルフに頷いた後、マントを纏いマスケラのお面を装着したアイダホは部屋に入る。

 

十数秒後、転移陣が光り輝いた後……アイダホの姿はそこにはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 










次回こそ本当に最終回、ホントだからね?
しかし、ギルドに戻るのにこんな時間をかけたオリキャラって珍しいかも
普通ならプロローグか数話程度位だろうに。ホント、ここまで来るのは長かった……






歌劇【戦え薔薇乙女よ民を救う為に!唸れ超技!暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)


旧王国領でいまだ人気の高い英雄、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。
八本指が最後に起こしたラナー元王女拉致を始めとする悪あがきの争乱にて、勇者クライムと共に蒼薔薇を率いてこれらを打倒し正義を示した女傑。
騒乱の前既に人類の限界である英雄に至っていた彼女が、己の裏の人格……魔剣キリネイラムに宿っていた暗黒に打ち勝ち人類の限界を超えたエピソードは非常に有名だ。
この語り草は大器には成れぬと宣告されて尚英雄の領域に至った勇者クライムの王女ラナーとのラブストーリーと並び、旧王国領での歌劇館で人気の英雄譚になっている。
ただ、謙虚なのだろうか。ラキュース本人は終生幾ら誘われてもその演目を観ようとはしなかったという。

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