アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 ご注意ください。









終5【完結】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐かしいと言えば、良いのだろうか。

 

 

第九階層のきらびやかな通路を、アイダホはセバスの先導で歩いていく。

管理している41人のメイド達は荘厳な廊下の端に一糸乱れず揃い、敬意と忠義を込めて平伏し首を垂れる。

いいデザインだ、ホワイトブリムの事を思い出す。

ちらりとメイド達に目線を投げつつ感慨に浸った。

普通に戻って来れたならば、思う存分メイド成分を堪能しただろうに。

 

(まるで別世界だ。確かに俺はここに通っていたのに)

 

ナザリックに戻ってこそ、思う事があると彼は感じる。

ここは何もかも生まれたばかりのようだと。

二百年を異世界で彷徨い、相応に煤けた自分とは違うと。

アイダホは自分の装備がいい具合にこなれ、色褪せているような気がした。

自動修復と状態保存の魔法がかけられていても、二百年の時を持ち主と過ごした所為かそんな気がするのだ。

 

(これが、二百年過ごした、差異という奴だろうか?)

 

第九階層の自室に戻れば、真っ新な装備に交換できるだろう。

宝物殿に行けば、個人金庫に預けていたもっと貴重な装具を取り出せるだろう。

だが、こちら側としてここに来ているアイダホとしては、それは違うんじゃないかと思えたのだ。

 

(そう、つまりは……受け入れているんだな。俺は)

 

二百年の時の流れ。

自分とナザリックの間に流れている、深い溝を。

時間で開いただけじゃない、精神にも刻まれた溝を。

 

 

 

 

 

 

あの後、草原に出現したアイダホがした事。

それはまず、手刀で自分の頸を落とそうとするセバスを制止し、宥める事だった。

アイダホ自身から少年と少女との関係を教えられたセバスの顔色は真っ青を通り越して白になっていた。

衝動的に自らの首を手刀で落とそうとした彼の速度に反応出来たのは、この二百年ものの戦闘経験の賜物だろう。

必死に自決を止める視界の端で、同じく自決しようとしたユリを娘に力尽くで止めさせたのは悪い判断ではないと思う。

号泣する彼らに話を聞いたところ、彼等にとって至高の四十一人、即ちギルドメンバーは神と同一であるという事。

その縁者に手を挙げる等という事は許されざる大罪であり、死を持って償う他ないとの事。

セバスの作成についてはたっち・みー経由でアイダホもあれこれ聞いてたが、創造主譲りの頑固さを持ってるような設定は無かった筈だ。

 

(全く、あのうんざりとした経験が活きたというのは、嘆かわしいのかどうか)

 

七柱目の神殿【暗黒】初代神官長故カジット・デイル・バダンテールの顔を思い出す。

伊達に百年以上、法国をはじめとした現地民相手に似非神様をやってきた訳ではない。

あの男みたいな、自分に対して強烈な狂信を抱いてくる人間を手懐け、あやすのは不本意ながらも慣れている。

とても、健全とは言えず、寧ろ嘆かわしい事ではあるが。

 

(おまけに、最近になって身内にもそういうのが出てきたからな……だから法国には行きたくないんだよホント)

 

自害するとか死を賜り贖罪するとか色々ごねていたが、アイダホの手管によってあっさりとセバスとユリは丸め込まれた。

二人を落ち着かせた後で、娘と少年に学園都市に戻るよう指示し、今に至る。

娘の方が若干駄々を捏ねたが、後で説明すると言い含めて漸く帰らせた。

 

 

セバスにモモンガとの通信が可能だと聞き、メッセージを発信してみる。

 

200年前。

そして100年前。

かつて数え切れないほど、無為に虚しく繰り返した行為。

今回に至っては諦めていた行為。

 

 

メッセージは拍子抜けするほどあっさりと繋がり。

大分記憶から朧げになっていた、友人の声が頭部と意識する箇所に響く。

 

 

【アイダホさんっ、本当にアイダホさんですかっ!?】

「ちょ、モモンガさん、声でかい、声でかいですよっ」

 

メッセージがつながった後のモモンガは、赤い布を見せられた闘牛のソレだった。

かつての彼は物腰穏やかで、相手の言葉を受けてから話す感じの人だ。

しかし、今のモモンガは止めないと延々喋り続けかねないし、自分の所へと突進して来るだろう。

取り合えず制止しておかないと今すぐ玉座の間から飛び出し、ゲートを開けてこちらに来かねないので自重する様に言っておく。

 

「今からセバス達と一緒にそちらに向かいます。円卓の間で待っていてください」

 

重要な話ですから、と付け加えて。

 

 

 

 

 

 

円卓の間に近づくと、廊下の壁沿いに並んでいる異形達の姿が見えた。

 

 

白いドレス姿の黒い翼を持つ妖艶な美女。

洒落たスーツ姿の、銀の尾を持つ男。

蒼い巨躯の複眼の蟲王。

黒妖精の姉弟。

銀髪と抜けるように白い肌の真祖の姫君。

 

(タブラさん、ウルベルトさん、武さん、茶釜さんにペロロンさんの作ったNPC………だったよな?)

 

NPCの名前の方は朧げになってて完全には覚えてない。

元々ゲームそのものよりも、ゲームを共にするギルメン達との交流の方を楽しんでいた口だ。

40人の仲間達の事は今でもはっきり覚えているが、彼等の拠点であるナザリックの知識については随分と劣化してしまっている。

唯一、仲間との交流が盛んだった第九階層についてはかなり正確に覚えてはいたが。

 

(そういえば、俺のNPCは結局未完成のままだった)

 

ふと、自室の保管用培養層に入れたままである、五人組のホムンクルス・アイドルユニットをアイダホは思い出した。

当時タブラ・スマラグディナとのTRPGに嵌っていたアイダホは、ギルド会議で決まったギルメンは必ずNPCを作成すべしというイベントを些か面倒臭がり後回しにした。

それ故に各階層守護者が決まり大体の役割りが埋まってしまい、最後の残った僅かな容量で作れるとても防衛用とは言えないアイドルユニットを作ったのだ。

ヴァーチャルアイドル好きなギルメンに意見を聞きながら作って、ほぼ完成まで行ったのだけどそのギルメンが引退したのと自分も忙しくなり仕上げをせず放置していた。

 

そういえば彼女達の名前も覚えてない。

最終日から二百年過ぎた今になって、不意に思い出した。

アイドル好きなギルメンとペロロンチーノの意見を参考にし、適当に割り振ったような気がする。

 

(後で見に行けばいいか。今は、モモンガさんだ)

 

会談が終了した後で自室を確認すればいい。

そう判断しアイダホは自作NPCの事を思考から流す。

少なくともアイダホにとって、ナザリックのNPCに対する感情はその程度だった。

彼にとって大事なのはギルメンなのだから。

 

 

階層守護者達は、セバスを先導させたアイダホとの距離が迫ると一斉に片膝をついた。

対するアイダホは軽く片手を挙げてそれに応じるだけで、特に目線も向けず彼らの横を過ぎ去っていく。

 

 

 

(………!?)

 

 

 

妖艶な美女の前を通過した時に微かな違和を感じた。

彼女はタブラ・スマラグディナが作った統括用のNPC。

名前の方は忘れてしまったが、玉座の間に待機してたのは覚えている。

 

(この感覚は……)

 

この異世界で生き続けて二百年。

その前の30年前後の人間としての生。

両方の世界で数え切れないほど受けて来た、負の感情。

恐らく二百年以上生きて来た経験と感覚の蓄積が無ければ、気づかない程度の小さな動き……敵意。

 

今横を見れば恭しく忠義の姿勢をとっている、タブラ・スマラグディナのNPCが居るに違いない。

浮かべている面持ちも、きっと魅力に満ちた微笑みに違いない。

しかし先程感じた微かな敵意を思えば、それらが張りぼてに思えてしまう。

 

 

アイダホは何も気づかなかったかのように、歩くスピードも姿勢も乱さず彼らの前を横切る。

 

(やれやれ、モモンガさんの事だけでも頭が痛いのに、NPCとも問題が起きそうだ……)

 

会議室のドアを開き深々と頭を下げるセバスに頷くとアイダホは円卓の間に入る。

奥側、ギルドの象徴たるギルドアイテムが保管されてる壁側の席に座っていたオーバーロードが立ち上がった。

 

「アイダホさん、その、お久しぶりですっ! 帰ってきてくれたんですね!?」

 

喜色を声に出して円卓をグルリと廻って近づいてくる。

きっとゲーム時代だったら彼の頭上に【感動】や【笑顔】のアイコンがピコピコ表示されたに違いない。

二百年前に見たきりのネットゲームの友人は、当然ながら全く変わっていなかった。

セバスから受け取った情報通りであれば、彼にとって流れた時間は最終日から一日と経過してないのだから。

アイダホが過ごした二百年の時の流れの重さや長さは、モモンガにとっても、ナザリックにとっても理解の範囲の外でしかない。

 

 

「お久しぶりですね、モモンガさん」

 

ただいま、とは言えなかった。

自分は帰って来たのではないのだから。

 

既に、アイダホにはこの異世界に戻るべき場所が存在する。

家族が、愛した女性が残してくれた血筋が存在するのだから。

 

アイダホ・オイーモにとって、現実世界(リアル)もナザリックも自分が居るべき処ではなくなっている。

そして、それを知るのはアイダホ本人のみであり、彼の想いを理解してるのはナザリックには一人も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二百年、異世界を彷徨った暗黒の精霊。

友達の遺したギルドと共に異世界に渡った死の支配者。

 

 

 

彼等の邂逅が齎すのは、世界の繁栄か、もしくは破滅か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーリー・スターチの学生街。

ラナー・アカデミーと賢者の学院に在籍する学生達で賑わう場所。

学院側の学生寮に二台の馬車が到着し、荷役の男達が小さな家具を幾つも寮へと運び込んでいる。

 

 

「うわー、寮って幾つもあるんだぁ! 見てみて姉さん、パンフレットに載ってた時計塔もあるよ!!」

「すみません、この子ったらはしゃいじゃって。学園都市に行くことが夢だったんですよ」

「それは仕方がありませんよ。魔術師にとって、この学園は憧れの一つですからね」

 

辺りをクルクルと駆け回りはしゃいでる小柄な少女と、それを窘める少し年長の少女と苦笑する監督官。

彼女らは転校生である。連邦西部の地方学院での優秀な成績が認められ、賢者の学院への転入をする事がかなったのだ。

 

監督官による一通りの案内が終了した後で、二人の少女は自室となる寮の部屋で荷解きをしていた。

 

「夢が叶ってよかったわね。あの憧れのアルシェ院長の下で勉強が出来るんだから」

「それにここなら最先端の付与魔術も学べるからね!……後、姉さんも自分を卑下しないで。監督官に対する態度、ちょっと卑屈だったよ?」

「うん、でも、あなたが本当に天才なのは事実だし。入学期以外の転入なんて、少し出来が良い程度の私だけじゃ無理なのは本当だから」

「もう……姉さんってば……」

 

自嘲気味にそういう姉に対し、妹は子供っぽく頬を膨らませた。

既に術師として第二位階に至り第三位階を目指している妹と、最近になって漸く第一位階術者である事を認められた姉では出来が違う。

実家でも父親は術者としての家督は妹を重視し、姉の方は他の家との婚姻による実家の強化を考えているようだ。

妹が転入に当たって強硬に姉と一緒に行くことを願い出なければ、実家に残された姉はとんとん拍子に政略結婚への道を進まされただろう。

その意味で言えば、妹は姉を一時的にせよ望んだ訳ではない結婚から守ったのかもしれない。

 

「あ、そう言えば寮長への挨拶と入寮の書類提出ってまだしてなかったよね?」

「そうね、監督官と一緒に部屋に行った時不在だったから……ちょっと今から行ってくる。あなたは休んでていいわよ」

 

そう言うと、姉は部屋から出て寮の長い廊下を少し速足で歩いて行った。

妹の気持ちは嬉しかったし、幾らかのモラトリアムが出来た事には感謝している。

ただ、学院に入ったからと言って才能に開花するとは限らない。

 

「結局、先延ばしになるだけなんだろうなぁ……ハァ」

 

彼女は自分の才覚に対しては自覚している。

恐らく、頑張っても第二位階が限界だろう。

幾ら術師の育成と上限についての革命が行われても、生まれ持った才能については限度があるのだから。

学期が終われば恐らくは学院の高等部に昇格するであろう妹と、学歴を受け取って実家に戻り結局は父の敷いた道を辿る自分が現実として残る。

 

「何の為に、私はここに来たんだろう?」

 

妹ならわかる。

天賦の才を持つ彼女なら地方学院で学ぶよりも、ここで学べば術師として更なる高みを目指す事が出来る。

では、自分は? 妹の進言にかこつけて、気が乗らない結婚を先延ばしに来ただけ?

 

「はぁ……」

 

気持ちが沈み、自然と視線が下に向く。

 

「だから、部屋に居ればおじさんが帰ってきて説明してくれるって言ってるだろ?」

「そうだけどさー、私的には今からでも戻って迎えに行こうって考えてるんだけど」

「勝手な事したらおじさんに……「あ、居ましたわ!」「あ、居たー!!」うわ、僕は部屋に戻るからっ」

「あ、こら、待てっ逃げるなってのー!!」

 

十字路に交差する横の廊下を複数の人物がドタドタと通過していく。

監督官に「緊急時以外は廊下を走らないで」と注意されてたのは何だったのか。

 

「はぁ……」

 

トボトボと、頼りない足取りで一階に降りる。

先程監督官に案内された寮長室に向かう彼女の視線は変わらず床を見たままだ。

 

 

「ったく、モモンガさんも……物腰柔らかな愛され系ギルマスがヤンデレ拗らせに進化してるとか、タブラさんならギャップ萌えとか大喜びだろうけど……」

 

 

故に、ブツブツ言いながら疲れた様に廊下を歩いてくる仮面を被ったローブの人物には気づかなかった。

 

「おわっ?」

「きゃっ……!?」

 

盛大にぶつかり、少女が手にしてた書類が床にぶちまけられる。

少女も廊下の床に尻もちをついて顔を顰める羽目になった。

一方の男の方は全く小揺るぎもしてなかったおかげで、すぐさま少女を助け起こすべく屈みこんだ。

 

「大丈夫かなお嬢さん、怪我をして……………ぇ」

 

男の動きは少女の顔を見た瞬間に止まった。

まるで彼がかつて居た世界で使われた時を止める魔法を受けたかの様に。

 

「………」

「………」

 

沈黙が廊下を包んだ。

床に座り込んだ女学生と、傍に屈みこんだ変なマスクを付けたローブ姿の人物。

傍から見れば即時警備員に通報される、または女学生が悲鳴をあげるシーンである。

 

だが、何故か少女は悲鳴も上げず、気絶もしなかった。

 

「あ……」

 

何故か、男の声を聞いた瞬間に混乱と恐怖が一瞬で薄れたのだ。

何故か、男の声を聞いた瞬間に安心感がその身を包んだのだ。

何故か、頬を一筋の涙が伝って落ちていったのだ。

 

対する男の方も混乱していた。

 

「あ……」

 

どうしてこの少女は彼女なのだろうか。

かつて初めて出会った頃よりも幼く、髪も瞳の色も違う。

人として既にこの世を去っていた彼女が、生者として存在する訳がないのに。

しかし、どうしようもなく胸に込み上げて来るこの気持ちは何なのか。

鋼の精神で自制しなければ、すぐさま彼女を抱きしめてしまう程に高ぶったこの気持ちは。

 

ヒトの存在であれば、涙を流していただろう自分に気付いていた男は自制に欠いた言葉を発した。

 

 

 

「君の名は……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アイ・ライク・トブ  完結】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








アイ・ライク・トブ、今回をもって完結です。
ダラダラと冗長にして、尚且つ完結を先延ばしに先延ばして申し訳ありませんでした。
アイダホとナザリック、異世界の国々とでこれからもあれやこれやはあるでしょう
しかし、それでもアイダホが全てを何とかしてくれる事を祈ってお話を結ばせて頂きます。
アイダホに死力を尽くして貰う為に、彼女に戻って来て貰った訳だしね?(外道スマイル


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