アイ・ライク・トブ【外伝更新中】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
 
 アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
 また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。



蛇足ならぬ芋の尻尾 後編

 

 

 

 

 

 

 

リ・エスティーゼ王国最東端の都市エ・ランテル。

かの都市とバハルス帝国の皇弟たるスメイロトの関係は意外に密接である。

偽名とダミー商会経由で王国商人との取引を盛んに行い、同時に兄と帝国情報局からの依頼で王国関係者への調略も行ったりする。

果てには魔法省から譲り受けた変装用の装備各種を施した上で、帝国の商人ウカリ・ハチベイとして直接乗り込んだりもしている。

大森林を拓いて作った開拓地から出る様々な商品。

広大な農園から生産される食料は主に自国で消費している。

それ以外の木材や薬草、洞窟から産出される鉱物などは王国向けとして高く売れていた。

開拓地開発の責任者として、生産物を交易品として捌くのもスメイロトの仕事。

勿論これらの商談や調略は全て兄であるジルクニフからの依頼か相談したもの。

権力者の猜疑心怖い。前世での父親の凄惨な死因はスメイロトにとってもトラウマだ。

 

「今回はかなり長く滞在する事になるぞ。王都でも長居する事にもなりそうだ」

「皇帝陛下は本腰をあげられる様ですね」

「ああ。早ければ来年にはこの都市の所属は変わるかもしれん」

 

最高級の宿屋である黄金の輝き亭のスイートルーム。

実は幾重にも防諜用の占術魔法をかけられた室内。

その応接間で寛ぎながら、スメイロトは数本のワインボトルを見定めていた。

 

「やはりレイヴン侯の領土の葡萄畑は安定してるな。育ててる領民の生活が良いとブレが無くていい」

 

栓を抜いて匂いを確認し、少量を注いでテイスティングし口に含む。

以前は毒見を『寵姫』が申し出ていたが、多少の毒ではこの体には通じないと言って却下している。

彼はアヴァターの潜在的な影響により、ギガントバジリスクの生き血をジョッキ一杯飲み干すと腹痛になる程度には耐毒性があるのだ。

白葡萄の甘味、爽やかな風味、軽やかなのど越し、全部申し分なし。

 

「うん、悪くない」

 

他の産地は外れだな、と既に栓を開けて試飲しそれ以上手を付けてないボトルを見やる。

毎年秋に兄が仕掛ける遠征も影響を及ぼしているのだろう。

臨時徴兵で働き手を取られてもリカバリーが利く領地と、リカバリーが利かず農作物の出来に悪影響が出る領地との差だろう。

うちの兄貴の仕業ですすんませんとしか言いようがない。

 

「それで、明日の昼間は少し席を外すのか?」

「はい、情報交換と共有の為風花聖典の者達と会合いたします」

「あー……やっぱ、大きな街には滞在してるんだなぁ」

 

風花聖典。

スレイン法国の諜報機関と言える存在。

彼女の所属している漆黒聖典とは部署は違うが、任務次第では情報共有して事に当たるのも多いという。

 

「国に仕えると色々大変だな」

「……御身も為政者と存じますが?」

「皇籍は剥奪されてるし、あらゆる責任は存在しないし明記もされてないけどね」

 

開拓地での事業もこうした商売や間者の真似事も自分が生き延びるため。

勿論兄貴の国家経営に対する感銘や、母国の更なる発展がスメイロトの盤石な人生に繋がると考えている部分もある。

 

「こほん、明日のご予定ですが、スメイロト様は予備日のスケジュール通りでよろしいでしょうか?」

「ああ、商談は昨日と今日でほぼ済ませたから、明日は篤志家に寄付をした後で屋台でも冷やかしながらぶらつこうと思ってる。神殿までの移動の護衛はブレインを付けろよ?」

「承知いたしました。……本来は御身に付けるべきだと思います」

「私は無駄に頑丈過ぎるからね。それに能力的に単独で周りに同伴者が居ない方がむしろやりやすい」

 

外出用の上着に入っている、または仕込まれているものたちについて思いを巡らせる。

純粋な戦闘技能者としては玄人には至らない彼は、まだまだその辺の加減が難しい。

帝国の武芸者達や術師達、最近は『寵姫』にも手伝って貰っているが平均的な速度でしか伸びていない。

 

「護衛との連携その他は君にも手伝って貰い頑張って鍛えるしかないな。……ふむ、今日はこれぐらいにして寝るか」

「はい、かしこまりました」

 

手早くボトルに栓をし、卓上を片付けておく。

気に入らなかったボトルは、日中にメイキングへ入る従業員にでもあげれば喜ぶだろう。

スメイロトが気に入らなかっただけで、彼らからすれば楽しめるに違いない。

 

寝間着に着替えさせられた後、天蓋付きの寝台へと滑り込む。

魔法灯りが消されて真っ暗になった室内で、聞き覚えのある足音が近づいてくる。

シーツがすれる音が聞こえ、スメイロトのすぐ隣に彼女が身を寄せてきた。

 

「………」

 

普段、こうした迫り方を彼女はしない。

スメイロトが求めねば、隣室の寝室で寝るのが普通だ。

女達が集う後宮に様々なルールがあるように、彼女も帝国式のそれに従っていた。

閨で男が女を誘い女はそれに応じる。男性が主導権を握るのが当然。

ジルクニフがもっとも頼りにしている愛妾ロクシーの様に、ずけずけと男にものをいう女性は希少である。

ちなみにスメイロトは彼女を兄のジルクニフ以上に苦手としており、聡明で果断な気質に内心恐れてもいたが。

 

当初は『寵姫』もそれに応じて行動していた。

だが、最近はこうして迫る、までは行かずとも何か言いたげな距離感を示している。

 

(神官長達に急かされてるのかな?)

 

スメイロトはせっかちな法国の上層部に対し、呆れの感情しかわかなかった。

超大昔の昼ドラに出て来る、子が出来ない嫁を役立たずと罵る姑のいびりみたいな事をやっているんだろうかと。

別に彼女には体の問題や不調などなく、自分も同じくだ。きっと、巡り合わせが悪いだけだろう。

『寵姫』が自分のもとに来てまだ1年も経ってない。全く、自分達を馬のツガイだとでも思っているのやら。

 

(あの爺様共は俺達を何だと思ってるんだ。適当に番わせて嗾ければ子供がポンポン出来るとでも? ……全く)

 

流石にそんな事を考えたら気分が乗る事もなく。

スメイロトはその晩はそのまま寝る事にした。

結局、彼女はベッドから出る事も無理に迫る事もなかった。

 

 

 

 

 

翌日。

昼過ぎに黄金の輝き亭の食堂でランチを楽しむ約束をし、各々の出る先に向かう。

スメイロトもとい、帝国の商会『エチゴノ・チリメーン』の若旦那たるウカリ・ハチベイは篤志家の事務所での用事を済ませた。

『寵姫』もといオ・ギンは寄進という名目で立ち寄った神殿で、風花聖典と情報交換をしているだろう。

ブレイン・アングラウスともといカク・スケは、多分神殿の待合室で待たされているに違いない。

 

(今頃嫌そうな顔してそうだけど、正式な騎士になりゃもっと堅苦しい事もせにゃならんから練習って事でいいよな?)

 

まだブレインは正式に騎士叙勲しておらず、皇帝と側近位しか認知されてない傭兵扱いだ。

これはブレイン本人のガゼフとの決着に対する拘りと、戦場でガゼフを下す事による政治的かつ軍事的な影響力をジルクニフが狙っているに他ならない。

 

(鮮血帝が見出した無名の剣士が、王国最強の戦士をタイマンで下す。うん、確かに武勇伝としちゃいいシチュエーションだよね)

 

主にバハルス帝国のプロパガンダとしてだが。

ピュアに剣技でガゼフを上回りたいだけのブレインにとっては嬉しくも何ともないだろう。

そんな事を考えながらあまり雰囲気のよろしくない街並みを歩く。

篤志家の事務所はスラムの外れ、入口付近にあるがそれでも普通の街並みまで少し歩く事になる。

篤志家は腕っぷしの強い用心棒を出口まで付ける事を勧めてくれたが丁重に断った。

 

「ねえ、お兄さん」

 

後ろから声をかけられ振り向く。

そこには血色のよろしくない少女が一人立っていた。

粗末な衣装にすえた体臭と安物の香水の混ざった不愉快な臭い。

充血し荒み切った眼差しがこちらを見据えている。

 

「私を買ってくれない? 金、持ってるんでしょ?」

 

スメイロトはじっと数秒間観察した後で、彼女に小さい巾着を投げつけた。

 

「金は持ってるけど抱く気にはならんな。神殿に行ってその金で治療して貰え。病気だろ?」

「……っ、ちがっ」

「血色も悪いし、安物の香水でごまかしてるが膿の臭いが強い。小さなできものが幾つも出来てるだろ……違うか?」

 

服で隠してるだろう症状を言い当てられ、巾着を受け取った少女は戸惑った。

帝国での貧困者救済事業で、彼女の様な症状を出している女性を何人も見てきた。

恐らく、不法な売春を行って買った男に性病をうつされた。

このままでは、一か月後には彼女の顔が崩れるレベルで酷い事になるだろう。

 

「警告しておくがさっさと行っておけよ。顔が崩れたりどこか欠損したら商売にならんだろ」

「……!!」

「水銀とか使う藪は利用したらダメだからな。治らないどころか死ぬぞ」

 

そう再度言い含めると、少女はキッとスメイロトを睨んだ後で路地裏に駆け出して行った。

遠ざかる後姿を眺めていると、後ろに誰かが立ったような気がしたので振り向く。

 

『世間知らずのアーコロジーのぼっちゃんが何様のつもりだよ!』

 

かつて、アーコロジーと外周街のはざまにあるエリアで出会った少女が憤怒の形相でこちらを睨んでいた。

 

『この、偽善者が!!』

 

自分の安っぽい同情心と捨てられた子犬に餌を無責任に上げる程度の気持ちで破滅した少女が。

 

「……すまない」

 

呟いた先には、もう少女の姿はなかった。

スメイロトは深々と嘆息すると、そのまま出口へと歩き出した。

途中、何人かの物乞いに硬貨を巡んだが、彼の気持ちは全く晴れなかった。

 

「結局、異世界に来てまで代償行為か。俺って奴は」

 

 

 

 

 

 

 

「元漆黒聖典のメンバーが脱走して指名手配されていて王国内に潜伏中?」

 

黄金の輝き亭の食堂。

その奥にいくつかある予約必須の個室。

太客や賓客が饗応や会食に使う席で、スメイロトと『寵姫』は食事をとっていた。

ブレインは個室の入口に一番近い席で食事をとっており、油断なく個室に近づくものを見張っている。

スメイロトとしては一緒に食事をしてもよかったのだが、『寵姫』が会食時に行う会話ゆえに彼を遠ざけたのだ。

 

「君の所属してた漆黒聖典のメンバーが実行してたって事か」

「はい。クインティアの片割れたる、クレマンティーヌです」

「ああ、あのショートボブの女。疾風走破だっけか」

 

小さな籠から取り出した焼き立ての白パンをちぎりながら、スメイロトは呟く。

会食の予定時刻に合わせて焼く王国産の良質な小麦を使ったこのパンはこの食堂でも人気の商品の一つだ。

 

「なんでまぁ、脱走したんだか」

「私には理解致しかねます」

(ひょっとして、あの聖典のブラック具合に嫌気が差したとか?)

 

当のクレマンティーヌに陰で「こまっしゃくれた優等生気取り」と悪口を言われていた『寵姫』は澄まし顔で川魚のスープを口に含む。

彼女の礼儀、仕草はとても優雅だ。帝国貴族の子女とみられてもおかしくない気品すらある。

 

「それで、エ・ランテルに潜んでいる可能性が高いか」

「はい、私はその点につきまして風花聖典より協力を求められております。近隣で冒険者の行方不明が相次いでいるそうですので間違いないかと」

 

英雄級の人材が国元から脱走してあちこちで犯罪を働いている。

法国にとって醜聞であるし、本来英雄級は人類の大国でもトップクラスの強さを誇る存在だ。

王国で言えば戦士長ガゼフが出奔し、野盗に加担したり無差別な辻斬りを実施している様なものである。

法国が風花聖典を動員して追跡を行うのも当然なのだろう。

 

(スメイロト様には申し訳ございませんが、この件を詳細に語るわけにはまいりません……)

 

もっとも、彼女が執拗に追われる理由が他にある事を『寵姫』は語らなかった。

クレマンティーヌと彼との接触があるとは思えないし、巫女の存在は法国でも機密の部類。

『叡者の額冠』はオーバーマジックを巫女の自我と引き換えに複数の階位で行える法国の秘宝である。

法国はそれを何としてでも奪還したいのだ。

一度、クレマンティーヌに追跡隊を撒かれてしまった風花聖典であるが、この付近で潜伏しやすい場所がこの都市である事を理解している。

故に丁度エ・ランテルにやってきた漆黒聖典である『寵姫』に援護を求めてきたのだ。

 

「いいんじゃないかな。君は今も漆黒聖典の所属で、正式に他の聖典から援護を求められたんだ。受けるべきだろ」

 

家畜のシチュー肉をナイフで切り分けながら、スメイロトは快く承諾する。

南方から輸入したらしいスパイシーな香辛料をふんだんに使ったシチューで煮込んだ肉を彼は旨そうに咀嚼した。

 

「御身に仕える身でありながら、大変申し訳ございません……」

「構わないよ。私も敵対的な英雄級が潜伏してる都市でゆっくりしたいと思わないから」

 

隠し事をしている申し訳なさもあるのか、静かにサラダを食べている『寵姫』に苦笑しながらスメイロトはワイングラスを傾けた。

 

「ん、悪くない赤だ……他には何かなかったか?」

「はい、もう一件ございます」

 

口直しの為か白ワインのグラスを軽く傾けた後、『寵姫』は風花聖典から聞いた情報をスメイロトに告げた。

 

「王国戦士長ガゼフ・ストロノーフが開拓村付近に出没する大規模な野盗団を討伐した件です」

「ガゼフがね……開拓村の位置は王族の直轄領だから、国王直属の戦士長が盗賊を討伐するのは不自然ではないだろ?」

「しかし、不審な点がいくつかございます」

 

王都駐在の風花聖典が挙げた不審点をまとめるとこうなる。

 

国王が提言した戦士長率いる王国戦士団による討伐に第一王子が賛同した事。

国宝の盗難や紛失を懸念した貴族の一派の提言により、戦士長の装具が大幅に制限された事。

それについては討伐に賛同した第一王子は特に反対せず、傍に控えていたボウロロープ侯がなぁなぁにしてしまった事。

迅速な討伐を実施する為に、エ・ランテルなどの駐留部隊との連携は行わず戦士団は速やかに現地へ突入すべしとなった事。

これにはさすがにレエブン侯が拙速に過ぎないかと疑念を投げかけるも、ボウロロープ侯が巧遅であったらどうすると反論。

大貴族派の多数がこれに同調し、第一王子も開拓民の安全が第一ではないかと国王に進言し国王もこれに頷かざるを得なかったとの事。

 

やだ、王国の会議内容外部に洩れすぎ……と呆れつつ、スメイロトはデザートの果実を口に入れた。

 

「………なぁ、これって罠じゃない? 多分、大規模な野盗団ってのが偽装したボウロロープ侯の直属兵でもおかしくないぞ」

「罠ではある、という意見は風花聖典でも同じくです。元より戦士長は宮廷において蛇蝎の如く嫌われておりましたから」

「でも、君のその様子だと直属兵じゃないんだろ? あの武断派侯爵も戦士長を殺りたいんなら、証拠は残したくない筈だ」

 

これが戦士長を忌み嫌った貴族派の陰謀であれば、露見すれば国王への反逆とすらとられかねない事案だ。

絶対にばれたくない以上は、証拠は残さず手を汚さずでありたいはずだ。

そうなると、貴族派の連中に加担する相手となれば……

 

「八本指か?」

「おっしゃる通りでございます。八本指の警備部門、六腕のゼロと他複数がガゼフ出立よりも早く王都から姿を消していたとの事です。また、暗殺部門の動きもあったようです。警備部門と暗殺部門の共同でガゼフを抹殺するつもりかと」

「おいおい、自国の王の部下を消す為に犯罪結社雇うのかよ。いよいよ終わって来てるなこの国」

 

取り合えず戦争結果に関わらず八本指と貴族派の貴族はこの世から消そう。

兄はもとよりそうするつもりだろうが、自分も積極的に加担しようとスメイロトは心に決めた。

 

「結果はどうなったんだ? 討伐した、だからガゼフは生還したんだろう」

「はい、戦士団から幾人かは死傷者は出たものの、野盗団の殲滅には成功したと都市長への伝令が報告していたそうです」

「へぇ……貧弱な装備で他の部隊との協力もなし、その上で万全の状態で待ち伏せてる八本指の罠を食い破って帰還したと」

「詳細はまだ不明です。戦士団は簡素な報告をしたのみで王都へ直行。風花聖典も現地への調査を行おうとしたのですがその矢先に……」

「クレマンティーヌの離反騒ぎでそちらへ手を取られて調査できずか。全く面倒な事をしてくれる女だ」

 

溜息を吐きながらスメイロトは食後の温かい飲み物を啜る。

 

(こちらのコーヒーもすっかり味覚に馴染んだな。プラント産では無い豆を焙煎したコーヒーを飲めるとか最初は驚いたものだけど)

 

エ・ランテルに訪れる様になって知己と取引を得たバルド・ロフーレが、南方から来訪する商人が持ってくる嗜好品だと言っていたのを思い出す。

一般的に流通している紅茶程幅広く嗜まれてはないものの、富裕層や商人達の中に熱狂的なファンが居て彼らが買い占めるらしい。

黄金の輝き亭に通う客層の求めに応じて、この食堂では食後に紅茶だけでなくコーヒーを嗜む事が叶うのだ。

 

実は法国でも上層部や官僚が眠気覚ましにコーヒーを嗜む習慣があるとスメイロトは法国に訪れた際に聞いた。

『寵姫』はあの苦みがどうにも苦手で紅茶派であり、紅茶より割高なコーヒーを好き好んで飲むのは理解しがたいと呟いていた。

 

「戦士長の件は兎も角、クレマンティーヌの捕縛なら手伝えそうだ。見つけたら私にも報告を……ん?」

 

二人が食後の飲み物を楽しんでると、個室の外から何やら女性の甲高い声が響いてきた。

ぴたりと二人の動きが止まり、相変わらず高い女性の声と小さな男性の声が連続して響いてくる。

この調子では、外の座席で食事をしている宿泊客やブレインはさぞかし迷惑しているだろう。

 

「これって、例の高飛車なお嬢様って奴か?」

「そのようです。昨日から宿泊しているそうですが何かと騒ぎを起こしてるそうで」

「うわぁ……あ、御代わりを」

「はい、ただいま」

 

スメイロトはげんなりした顔で、『寵姫』にコーヒーの御代わりを自らのカップへ注いでもらう。

朝方に出会ったバルド・ロフーレから噂を聞いていたが、まさかこれほどとは。

彼女がやらかす度に関係者各位と宿泊客に頭を下げている執事殿はさぞかし苦労してるだろう。

スメイロトはお嬢様も執事も見たことは一度もないが、執事には多少なりとも同情だけはした。

 

「間者の真似事をしてる時にあの手の人物には関わり合いたくない。もう少しここでカフェでも楽しむか」

「……スメイロト様がそうおっしゃるのであれば異存はございません」

 

 

 

 

外では、甲高い足音を立てて一足先に上層の客室に引き上げていく『お嬢様』。

宿屋の担当者と客人達に対して頭を下げ続けている『執事』が居た。

 

その際に執事が、食堂の奥にある個室に向かって僅かだが怪訝そうな顔を向けた事については誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 





もうちょっとだけ続くんじゃよ。蛇足だけに
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