※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。
クレマンティーヌにとって、それはお楽しみの始まりの筈だった。
秘密結社ズーラーノーンの高弟、カジット・バダンテールが引き起こそうとしているエ・ランテルを死の街にする為の陰謀。
第七位階魔法、死の軍勢を発動させるために必要な人材であるンフィーレア・バレアレを誘拐する。
そのあらゆるマジックアイテムが使えるというタレントと、『叡者の額冠』をかけ合わせれば儀式は完成する。
儀式の準備が整った事と、外に出かけていたンフィーレアが都市に戻ってきたのを確認し身柄を確保しに来たのだ。
エ・ランテルの冒険者が四人護衛についていたが、クレマンティーヌとカジット・バダンテールにとって脅威ではない。
彼女にとっては銀級の冒険者など、一撃で一人消せる。四秒足らずで終われる。
「あーら、何? 武器なんて構えちゃって抵抗する気ぃ?」
彼らの首にぶら下がっている銀色のプレートを見て、クレマンティーヌは口の端を楽し気に歪める。
彼女にとって嗜虐は悦楽だ。邪魔な護衛をさっさと始末せず必要のない会話をしているのは恐怖を煽る為。
強者ぶっている相手を徹底的に嬲り尊厳破壊する事が大好きだった。
自分は強い。そう自負している者達が、泣き叫び命乞いをしながらのた打ち回るのを見るのは心躍る喜悦だった。
「いいよぉ。遊んであげる……と言っても一方的過ぎるからあなた達にとっては面白くないけどねぇ?」
そして、目の前に居る様な健気に勇気をもって自分に挑んでくる弱き者達を、絶望と苦痛を散々に味合わせて死に至らしめるのも好みだ。
特に奥に居る小柄な術師。必死に気を奮い立たせているのも悪くないし、仲間たちが小声で逃げるよう勧めていたのも聞こえていた。
実にいい。一番最後に惨たらしく殺してやろう。
「クレマンティーヌ。しょうもない事をやってないでさっさと始末せんか。余計な事で遊ぶ暇はないのだぞ?」
「いいじゃん、カジっちゃんだけでそっちの坊やを連れていけるでしょ。私はこいつらでちょっと遊んでいくからさ」
「……はぁ、全く。貴様ら、さっさとそこの小僧を確保するぞ」
指揮官であるカジットは、心底くだらなさそうではあるが止める気配はない。
彼自身、ンフィーレアや小柄な術師の魔法では相手にならないレベルで熟練した死霊魔術師である。
更に背後には武器を手にした骸骨兵を複数率いているので、ンフィーレアがカジットから逃れられる可能性は万に一つもない。
神経質なカジットは無駄と無為を嫌うが、クレマンティーヌの残虐性の発露を邪魔して彼女の機嫌を損ねる危険を負うつもりもないのだ。
儀式はンフィーレアを地下聖堂に連れて行けばほぼ完成である。
だからクレマンティーヌの趣味を咎めはしても、彼女の行動を無理に止める必要はない。
「さ~あ、初手は譲ってあげるからかかって………」
スティレットをくるくると回転させていた彼女は、その回転をぴたりと止める。
視界の端。そこに見える窓の向こう側に人影が映っていたからだ。
「ぁ?」
喜悦を瞬時に引っ込めた彼女は冷徹に思考を切り替え優先順位を変えた。
護衛対象が居て更にカジットが居る為逃げられない四人組と。
窓の外に居て何時でも逃げる事が出来る招かざる覗き見をした人物。
排除の優先対象を変更。スティレットを握り直す。
瞬時に狙う対象を変更し、文字通り疾風の速度で窓際に迫る。
銀級程度では目で残像を追うことですらできない即応に、覗き魔は動くこともできず。
「死ね」
最小の挙動で繰り出された刺突は、窓ガラスに穴を開け。
窓越しに相手の頭部の眉間を正確に突いた。
オリハルコンコーティングが施されたスティレットだ。
たとえアーメットの様な完全防護の兜をかぶっていても全くの無意味。
問題なく相手の眉間を打ち抜き、目撃者を即死させることが可能。
「あ?」
その、筈だった。
クレマンティーヌの目が驚愕で見開かれる。
「な!?」
スティレットの先端が頭部へと突き刺さっていない。
まるで串の先を押し当てただけの様に、一撃必殺の刺突は相手の頭蓋を貫通していない。
先端で突かれた結果わずかに表皮が赤らんでいるだけ。
「!?」
視線を感じ、目を動かす。
銀髪で碧眼の軽薄そうな男の目が、自分を見ていた。
そこには絶望も痛みもなく、ちょっと驚いた目つきでクレマンティーヌを見ていた。
全身にぞわり、と怖気が走る。
複数の隊員達と共に隊長の第一席次と模擬戦をして叩きのめされた時の。
何より、あの先祖返りのアンチクショウに『わからせ』られた時の感覚。
コイツは誰だ?
この一般人の皮を被った化け物はなんだ?
一瞬の思考の後、クレマンティーヌは答えにたどり着いた。
(ふっざけんなぁぁぁぁ、このタイミングでエ・ランテルに来てるんじゃねぇぇぇぇ!!!)
駄目だ、勝てない。
自分単独では勝てないし、コイツの傍にはあの優等生気取りのクソビッチが居る。
駄目だ、詰んだ。
例え死者の軍勢が完成しても、一晩分の時間稼ぎに足りるかどうか。
クレマンティーヌはズーラーノーンとの共闘と、目の前の男と戦う選択肢を完全に放棄した。
こうなれば、カジットが儀式を成功させる事を祈りつつ、自分は逃げに徹するしかない。
(どの道あの皇弟に滅ぼされるだろうけど精々時間稼ぎ頼むよぉカジっちゃん!!!)
反射的にスティレットの『仕掛け』を作動。
スティレットの先端から雷撃がけたたましい音と共に発射され、男の頭部に直撃。
頭部を貫通した雷が路面を削り、向かいの工房にある荷物置き場のドアを真っ二つに裂いた。
「やっぱり効かねぇっ! 《能力超向上》!」
「クレマンティーヌ、貴様何を考えておるか! 何故派手な魔法を!?」
雷撃が直撃した男のその後なんて気にしない。
後ろで叫んでいるカジットの言葉にも反応しない。
衝撃でボロボロになった窓を突き破り、クレマンティーヌが工房から飛び出す。
路面に着地後、そのまま逃走する為に脚部に力を入れる。
「っ!?」
「《仙域》!!」
その一撃に反応出来たのは事前に武技を発動していた事と、回避特化の英雄級フェンサーだからだろうか。
迫る死のイメージに対し、跳躍しかけた姿勢を強引に回避にもっていく。
今まさに、鞘から得物を抜刀しつつ『居合斬り』を敢行してきた男。
男がなぜか足を動かさずスライドする様に移動し、自分に超瞬速の斬撃を浴びせようとしているのは武技故か。
「《超回避》!!」
浅い血の筋を残して回避。
だが、男は瞬時に次の一撃を放つ。
「《神閃》!!」
「《疾風走破》!!」
即座に適切な武技を発動できたのは彼女の卓越した判断力。
だが、それでもなお完全に男の一撃を回避し切るには足りなかった。
庇うために掲げたスティレットのブレードが斜めに切断され宙を舞い。
肩から頬に掛けて深々と血の筋が刻まれる。
本来であれば痛覚を感じる前に首が宙を飛んでいたのを、負傷で済ませられたのは『疾風走破』故か。
「ぐ、が、クソがぁ!!」
凄まじい激痛を気合で堪えながら転がって距離を取る。
即座に予備であり最後の一本のスティレットを抜きながら壁際に跳躍。
工房の壁面を駆け上がりながら、スティレットの仕掛けを作動させた。
「待て……うおっ!?」
すぐさまクレマンティーヌを追撃しようとした男の前に突如膨れ上がった火球が迫る。
「おりゃっ」
そして火球は突然投げつけられた直径1mほどのサイズのジャガイモにぶち当たり爆発。
爆散した火炎と生焦げのジャガイモの破片が辺り一帯に散乱。
実に不味そうなジャガイモのローストが完成した。
「すめ……若旦那、ご無事か」
「強化されてない第3位階魔法程度なら安泰じゃ」
あんな凶悪なコンボを浴びせられても、男……ブレイン・アングラスの雇用主は何事もなかったかの様に起き上がる。
小さく腫れあがっている眉間をさすりながら、スメイロトはどこか呆れた様子のブレインに指示を出した。
「アイツを追撃してくれ。嫁には私から連絡しておくからメッセージには気をつけろよ」
「……あ、はい。了解しましたっ」
頷いて走り去るブレインを見送りながら、メッセージのスクロールを起動。
スメイロトはジュンノに連絡を送り手短に指示を送る。
そして彼はどこからか取り出した黄色のカボチャを頭部に被った。
更に取り出した黒いローブを羽織り、魔法省謹製のチョーカー型変声魔法装置を首に巻き付ける。
そのどっかの異世界の万聖節で使われそうな仮装姿をしたスメイロトは鷹揚に頷く。
「さて、ズーラーノーンに反省を促すとするか」
急がねばならない。
攻撃魔法を連発した所為で流石に騒ぎになりつつあるのだから。
バレアレ工房のドアを蹴り開け中に入る。
戦いにより散乱した店中ではメイスを手にした大柄なドルイドと折れたショートソードを握ったレンジャーが倒れていた。
店舗の奥側に砕けた骨と武器が幾つも散乱している。
そして立つのがやっとのファイターと、無傷で曲刀を振り回しているスケルトン・ウォーリアー。
壁際には術を使い切ったのか疲弊した様子で杖を構えている術師が居た。
「あ、あんた逃げろ! 強力なアンデッドが居る!! 早く、早く衛士か冒険者組合に応援を……」
こちらに気づいたファイターが声をかけてきた。
「自分達より私の身を案じるとは」
自分が死地に居るにも関わらずやってきた闖入者を気遣うとはなかなかの好人物と見える。
だが、こちらに注意を向けた結果その隙をついたスケルトン・ウォーリアーが高々と曲刀を振り上げた。
「その心意気やヨシ!」
直後、スケルトン・ウォーリアーは頭蓋に拳大のジャガイモを食らって敢え無く崩壊し床に散らばった。
自分達が苦戦していた相手をあっさり粉砕され、戦士ペテル・モークと術師ニニャはあんぐりと口を開けた。
「……怪我をしているな」
どうやらアンデッドに深手を負わされたらしいドルイドとレンジャーを見て、黒いフード姿のスメイロトは棚にある盗難防止用のケースに手をかける。
スキルか手持ちのアイテム(法国から寄贈された赤いポーション含む)で回復させてもいいが、あまりエ・ランテルの冒険者に自分の情報を与えたくはない。
このままじゃ廃業になりかねないし、非常時だからいいよねとスメイロトは容赦なく棚のケースを破壊し商品のポーションを取り出す。
この店に何度も来ているのとジュンノの占術による透視調査により、どこに何のポーションがしまわれているのかよく知っているのだ。
両手に掴んだ回復用の青いポーションの栓を机の端で叩いて飛ばす。
レンジャーのルクルット・ボルブとドルイドのダイン・ウッドワンダーへと無造作にまんべんなく振りかける。
カラになった瓶を放り捨て、棚から新しいポーションを取り出してまた栓を飛ばし二人に振りかける。
赤毛の鉄級冒険者が見たら卒倒しかねないポーションの使い方だが悪くない方法だったようだ。
合計3回ほど繰り返しているとヒュウヒュウと浅い呼吸をしていた二人がゲホゲホと咳をあげ始めた。
「ぐほっ、う、あ……い、いってぇ……」
「うぅ、助かった、ので、あるか?」
「おっ、効いてきたな(やっぱり、こっちの青ポーションは効きが遅いし回復量も少ない。次の試験薬でその辺の改善案を提言してみるか)」
両手のポーションの空瓶をテーブルに転がし、身震いする二人が何とか死の間際から脱したのを確信する。
所詮他人でしかなくよその国の人間に過ぎないが、流石に眼前で死なれるのは気分が悪い。
何より、こうして助けた方がたとえ見ず知らずの相手でも口が軽くなるものだとスメイロトは判断した事もあるが。
「君らは大丈夫か?」
「あ、ああ、俺は疲れてるだけだから問題ない……助太刀助かったよ」
「………わ、私も。そ、その、助けてくれてありがとうございます」
「そうか……ここで何が起きたんだ?」
スメイロトの問いに、彼ら……漆黒の剣は素直に答えていった。
見るからに怪しい、何故か頭にカボチャを被った不審者そのものであるがメンバー全員にとって命の恩人。
王国の人間としては揃ってお人好しである漆黒の剣のメンバーは、ついつい彼の質問に答えてしまった。
眼前に迫った死地を脱した直後で、本人達が体力も気力も尽きる寸前であり判断力が酷く低下していた事も要因である。
「なるほど、分かった」
ンフィーレア・バレアレが死霊魔術師に攫われた事で、今回の拉致がズーラーノーンの思惑の上であるという事をスメイロトは理解した。
ンフィーレアのタレントはエ・ランテルでそこそこ知れている。
ズーラーノーンの思惑や儀式内容の詳細は分からないが、恐らくンフィーレアのタレントが必要なのだろう。
「君らは早く仲間と一緒に組合へ逃げ込んで助けを求めろ」
そう言い残し死霊魔術師が逃げ出していった裏口から出ていく。
背後から貴方は誰だと聞かれたが、助けた相手を口封じとかはしたくはないので敢えて無視した。
その後、ジュンノと宿で合流し風花聖典のセーフハウスで風花聖典の部隊と合流。
丁度その頃になって追跡中のブレインからメッセージが届く。
いくらか手傷を負わせたもののクレマンティーヌを取り逃がしたと報告を受けた。
結果としてズーラーノーンとクレマンティーヌを分断できたのは好都合だとスメイロトは主張。
スメイロトの報告と想定よりもズーラーノーンが早く行動を開始した事を受け、風花聖典は増援部隊との合流を待たずに討伐を決行。
その直後、ジュンノは都市の墓地区画から大規模な負の力が吹き上がるのを感知。
墓地区画から溢れ出ようとするアンデッドの大群によりエ・ランテルは大混乱に見舞われる事になる。
風花聖典は直ちに全部隊へ墓地の包囲と閉鎖を指示。
スメイロトとジュンノにズーラーノーン討伐の協力を要請。
両者は要請を受けブレインと合流して墓地へと向かう。
風花聖典の包囲完了と共に市民や冒険者達に見つからぬ様に墓地へ侵入する予定だった。
だが、『死者の軍勢』を発動させたズーラーノーン高弟をアンデッドの群れごと殲滅。
死者の群れからエ・ランテルを救ったのは彼らではなかった。
従者のナーベを連れてたった二人でアンデッドの群れを突破。
二匹の骨の竜を従えた高弟を苦も無く打倒した漆黒の鎧を纏う冒険者。
その名は、『漆黒の』モモン。
遠くない未来に人類史でもっとも速く最上位のアダマンタイト級に至る栄誉を得るであろう英雄冒険者である。
翌日のエ・ランテルの正門。
「そんなわけで今でも市内の一部は閉鎖中な訳よ。下手にうろつくと職務質問されるから気をつけろ」
「そうでございますか……死者の群れの大暴走とはいやはや恐ろしい事ですねぇ」
南方から訪れていた大規模なキャラバンを率いる商人と検問の兵士達が話をしていた。
「おい、あんた。あんたも街の中じゃその仮面を外してくれよ? ただでさえみんなが不安になってるんだから」
衛視の一人が、馬車の荷台に腰掛けている護衛の男に声をかける。
「………駄目なのか?」
「いや、ダメに決まってるだろう」
男の姿は一目で言えば術師だった。
裏地が赤の黒いマントを羽織り、あちこちにベルトが装着されている漆黒のコートを着ている。
手にしている黒色のねじれた枝の様なワンドの先端には、赤い大輪の薔薇の様な宝石が載せられていた。
一番特徴的なのは顔に装着している山羊の仮面だろう。
灰色の面に刻まれた生々しい形相と、金色の瞳に禍々しい二本の角。
大人でも初見ではたじろぐだろうし、子供が見たら間違いなく泣き出すだろう。
「そっか……」
以前にも同じように言われたのか男は大人しく仮面を脱いだ。
下にあったのは少し天然パーマの入った黒い髪に、南方人らしい浅黒い肌の精悍な顔立ち。
そして仮面のレンズと同じ金色の瞳だった。
「それで、あんたの名前を教えてくれ」
通過した人物を記帳する為の羊皮紙が張り付けられたバインダーを手にした衛士長が声をかける。
男は商人を見て頷いた後、衛士長に名前を告げた。
「俺の名前はプリテンダー。プリテンダー・イービルと名乗っている」