アイ・ライク・トブ【外伝更新中】   作:takaMe234

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※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
 
 アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
 また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。



王都だョ! ギルメン全員集合!! 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

王都の滞在の間、スメイロトはあちらこちらへと出かけていく。

帝国の商人としてのウカリ、はたまたは魔法省の変装具を使用しての身元不明な旅人に。

前者は王都の上流階級に対する諜報行為、後者は実地的な現地の観察と本人の気晴らしでもある。

実質気晴らしの方が比重は多いだろう。

腐敗の激しい王都での折衝はストレスが激しいものだから。

 

「賄賂は前提条件で場合によっては更に差し出さないといけないからな、君の事は絶対に連中の前には出せない」

 

あいつらが君をどんな目で見るかは言うまでもないだろう?

娘は当然として嫁ですら一晩相手をさせろと言い出す連中なのだから。

そう不愉快そうに吐き捨ててスメイロトはブランデーが注がれたグラスをグイッと呷った。

 

「早く帝国に帰りたくはあるけど、エ・ランテルの件もあってそうもいかなくはなったのがなぁ」

 

スメイロトがぼやくのも仕方がないと言えるほど、王都における政情は混乱化していた。

風花聖典の諜報とジュンノの情報収集能力により、それらはスメイロトにもよく伝わっている。

 

(無理はありませんね。戦士団派遣に関しての大貴族派と八本指の失態。更にエ・ランテルでの死霊騒動。こうも立て続けにおきれば……)

 

帰還した戦士団及び戦士長たるガゼフにより現地で盗賊団と思われていたのが死を撒く剣団と呼ばれる傭兵団であるという報告が為され。

表向きには開拓地域で暴れる盗賊団に対しての問題は解決したかの様に見えた。

だが、そうは問屋が卸さなかったのがこの件で戦士長ガゼフと戦士団の抹殺を企んでいた貴族派と八本指である。

ガゼフを仕留めそこなったばかりか、八本指の精鋭達は誰一人としてカルネ村から戻らなかった。

それだけはない。エ・ランテルに滞在していた八本指の後詰め隊や現地の纏め役も戻らぬ実行部隊を確認しにカルネ村に向かい。

彼らも誰一人として戻らず消息を絶った。貴族派からすれば困惑する程度だが、八本指からすれば大損害だろう。

八本指の上層部にせっつかれる形で大貴族派主導による戦士長に対する査問が行われ。

更に戦士長に協力したというマジックキャスターについても問いただされた様だ。

 

(アインズ・ウール・ゴウン)

 

近頃の派閥による私的な会議において、八本指と貴族達は計画失敗の原因がそのマジックキャスターにあるのではないかと睨んでいる様だ。

国王が報償を目的にアインズを王都に呼び出そうとするのに対し、ボウロロープ侯達は王国による魔法使いの蔑視を利用し貶め破滅させようと画策している。

八本指の方は事の真相を明かす為の捕縛と、マジックキャスターに対する報復を検討している。

だが、今のジュンノにとって、気がかりなのは自分の主の事だ。

 

(あの名前を読み上げた時から、スメイロト様の様子は明らかにおかしくなった)

 

報告時にかのマジックキャスターの名前を告げた時。

スメイロトはお気に入りのブランデーの瓶を自分のグラスに傾けていた。

 

「は…………………………うぉ!?」

 

唖然とした彼が我に返ったのは、瓶の中身を全てグラスに注いでしまい。

テーブル全体がブランデーでびしょびしょになってからだった。

明らかに、彼は動揺していた。

今まで、接点すらなかった筈の存在を知って。

 

(かの術師とスメイロト様は一体どの様な関係なのでしょうか? )

 

その報告があってからスメイロトの様子は変わった。

酒量は多くなり、ジュンノの女を求める回数が増えてきた。

その事は彼女の務めとしても、彼女自身としても喜ばしい事だろう。

終わった後に抱きしめて眠りにつくのも、ジュンノとしては非常に好みだ。

たとえそれがスメイロトが抱えている何かに対する負の感情から由来するにしても。

 

何度か、アインズ・ウール・ゴウンとの関係を聞き出そうかと考えたが彼女は止めていた。

あれだけ動揺したのに彼がその後マジックキャスターの件に関して何も聞こうとしなかったからだ。

否、露骨に話題から遠ざけようとしている感じすらある。

 

(漆黒聖典の身であれば、聞き出すべきなのでしょうね)

 

法国としても、アインズ・ウール・ゴウンについては不明の存在であり。

そして明らかに異常な存在であるとの結論に至っていたからだ。

 

(あの様な事が起きてしまったのだから)

 

神都の神殿における悪魔の襲撃、巫女姫の拉致という一大事。

 

スメイロト達がエ・ランテルから去った後、風花聖典は漸くカルネ村で何が起きたのかを調べようとした。

だが、正体不明のアンデッド騎士が夜な夜なエ・ランテルの郊外で走り回り。

複数のギガントバジリスクが開拓村跡地を徘徊し。

高笑いを発する巨大ゴキブリがゴキブリの津波に乗りながら移動するのを見た等の異常が相次いだ。

特に最後の件はミスリル級冒険者パーティー【クラルグラ】が討伐に向かって失踪した件を受け、冒険者【漆黒】が討伐を成功させた事で有名となる。

結局アンデッド騎士とギガントバジリスク達も漆黒が討ち果たす事で今ではオルハリコン級を越えてエ・ランテル唯一のアダマンタイト級の冒険者となった。

そんな中エ・ランテルに居残っていた八本指のアジトへ、風花聖典が踏み入り生き残りを尋問した所驚くべき情報を入手した。

闘鬼ゼロと取り巻き、暗殺部門の精鋭達の失踪。

更に彼らの安否を確認する為に出向いた居残り部隊の失踪。

まるで何者かが訪れるものを生かして帰さないが様だ。

 

この尋常ならざる事態に法国は通常の偵察などでは不測の事態に陥ると判断。

一番安全と思われる偵察方法として、神殿の巫女姫を用いた第8位階魔法による占術『次元の目』を実施しカルネ村とその周辺を見る事にした。

 

結果は大失敗だった。

 

まるでそれを待っていたかの様に、空間を切り裂いた穴から低級の悪魔の群れが出現。

神殿の衛兵と神官長を始めとした神官たちが悪魔との戦いに集中したその一瞬の隙を突かれる。

よりにもよって、悪魔の一匹に祭儀の間に居た巫女姫が拉致されてしまったのだ。

国家の中枢に位置する神殿の一角に置いて悪魔の跳梁を許し国家機密たる巫女姫を奪われるという最悪の事態。

急遽、ビーストマン王国での残党狩りをしていた漆黒聖典を本国に呼び戻して神都の警備と警戒へと再配置する事を決定した。

ジュンノは帰還の対象にはならず、そのままスメイロトと行動と共にするようにと命令を受けた。

渦中である王国に滞在しているスメイロトへの護衛は必要だと判断したのだろう。

 

だが、そのままで済まされるのかは微妙だ。

恐らく本国はカルネ村への強行偵察として漆黒聖典派遣を行うか否かも検討しているだろう。

そこまで行くとなれば、彼女も聖典に戻される可能性は出て来る。

ひょっとしたら、臨時の戦力としてスメイロトも応援を要請されるかもしれない。

 

(スメイロト様。私は、貴方を……)

 

ジュンノのスメイロトに対する憂慮は深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

少し離れた鐘楼から、正午を知らせる鐘が鳴り続けている。

 

かつては奴隷の売買に使用され、奴隷制度廃止と共に廃墟になった屋敷の屋上。

商談後の寛ぎの場だったのだろう、テラスの一角で一組の男女が語らっていた。

 

「ご苦労様、今回ので大まかに欲しかった情報は集まったよ」

 

手にした羊皮紙をくるくると丸めてコートの内ポケットに入れたプリテンダーは、目の前の朽ちたソファーに腰掛ける少女の労を労う。

長く伸ばした白髪に一房の黒髪。黒いドレスと羽織った灰色のジャケット。

大きく露出した白く眩しい素足の先には黒のハイヒールが履かれていた。

 

「ありがと。取り合えず王都に駐在している冒険者で脅威が高いのは彼女らだね。他にも2組居るけど」

 

猫の背中をゆっくりと撫でながら、角を持つ少女は鋭い眼光をプリテンダーへと向ける。

そう、彼女は人間ではなく悪魔だ。

だが、悪魔の眼光を受けるプリテンダーは意に介した様子はない。

彼女の眼光はただ単に生来の顔付きと設定によるものでしかないからだ。

 

「これが作戦の障害になりそうな青の薔薇だった。か? 今の王都に残ってるアダマンタイト級の片割れ」

「そう。と言っても小さい術師以外は取るに足らないね。小さいのも変わり種だけど鎧袖一触程度だよ」

 

一番の脅威たる小さいのはLv50ちょい。

リーダーのプリーストがlv30前後で他は少し下程度だと評価された。

 

「靴の中に入り込む砂利ぐらいの脅威度かな」

「……俺はな。南方に住んでいた頃は靴に入り込む砂が大嫌いだったんだよ。だから油断はしないぞ?」

 

あの不快感だけはどうにも我慢ならなかった。

そして彼はその手の小さな石の棘が積もり積もれば思わぬ敗北を齎す事を知っている。

 

「俺のショーを邪魔しなければそれでいい。が、するのであれば何時も通りちょいと痛い目を見て貰うだけだ」

「へー、叩き潰す訳じゃないんだ」

「一応、この国の膿を絞り出す側なんだ。俺の邪魔をしない程度にはするがそれ以上はしないよ」

「ふふ、何時もながらお優しいね君は」

「……合理的と言ってくれ。というか悪魔が優しいとか言うな」

 

目を細めてほほ笑む悪魔に対し、どこか不貞腐れた様にプリテンダーは答える。

 

「残りの二組だけど。一組目は執事とお嬢さんだね」

「旅行か何か……と言いたいけど違うんだな?」

「巷じゃ新興の帝国貴族って触れ込みだけど、そんな訳がないよ」

 

お嬢様は人間に擬態した混沌系異形種。

執事は一見人間であるが、竜種の気配を感じるという。

前者は恐らくLv50台後半。

執事は……lv90以上。

二人とも探査阻害の装備を施しているので、これ以上詳しく調べるには近づく必要があると言われた。

前者は兎も角、執事の方は感知される危険性があるねと悪魔は肩を竦めた。

 

「まさか、エ・ランテルに入り込んでた連中の手のものか?」

「そこまでは分からないかなぁ。君のいうプレイヤーか、もしくはえぬぴーしーかもしれないけど」

「……むぅ」

 

プリテンダーは少しだけ考えた後。

再調査の場合は執事への接近は避ける様にと悪魔に指示を出した。

 

「あら、ショーは止めないの?」

「止めない。そいつらの手先が居るのであれば、俺のショーにどう干渉するかが気になる」

「そっか……無茶はしないでくれよ。君が死んでしまうのはつまらないから。あ、最後のひと組だけど」

 

悪魔は、

 

Lv70前後の帝国商人を名乗る男。

Lv34の妻を名乗る少女。

Lv31の彼らの護衛である男。

Lv42のペット。

 

を挙げた。

 

「そいつら……ひょっとして」

「ひょっとしなくても君のお気に入りの彼とそのお供さ」

「……いや、気づいていたけどな」

 

少し気まずそうに呟いた後、プリテンダーは報告を促した。

 

「報告は以上か?」

「いや、実はもう一件あってね。それが脅威度的に言えば本命かな」

 

悪魔はそう言うと、少し視線を外に向けた。

その先にあるのは王都の中央に位置する、周囲を丘と森林で覆われた巨大な王城。

 

「あそこの離宮で、同胞の魔力の痕跡を見つけたんだ。用心深い様できちんと拭ってはあったけどこの子を誤魔化せる程じゃあなかった」

「上位悪魔か?」

 

ルビーの様に双眸を光らせる悪魔の使い魔たる猫。

看破と追跡に特化した彼女の使い魔に見破られた存在とは何かプリテンダーは非常に気になった。

 

「上位も上位。おそらくアーチデヴィルだよ。しかも場所はどこだったと思う?」

 

フフフッと蠱惑的に笑いながら、悪魔はプリテンダーにそっと囁いた。

 

「この王都でも慈悲深いと名高い、第三王女殿下のお部屋さ」

 

ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

リ・エスティーゼ王国の良心にして黄金姫と称えられる王女の部屋だと。

 

 

 

悪魔が姿を消して数十分後。

 

昼前からシトシトと降り出した雨で覆われる王都を見下ろし、物思いに耽っていたプリテンダーは何気なく呟いた。

 

「……今日も行ってみるか。ひょっとしたら待っているかもしれないし」

 

王都に向かう途上で同行し、王都に到着後も何かと出会う機会を設けている男。

何かと気前よくいい酒とツマミを奢ってくれる。

明らかにこの世界では異常な力を秘めたウカリの事を思いながら。

おそらくアーチデヴィル、という言葉に少なからず動揺した自分を自嘲しながら。

過去の傷に、もう二度と戻れない場所で刻まれた傷に苛まれている男は重力を無視した速度で建物から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック第五階層 

 

氷結牢獄

 

 

 

 

「素晴らしいね。これでもうじき発動する計画に間に合わせられるというものだよ」

 

橙色のスーツを着こなす悪魔。

第七階層の守護者デミウルゴスは『傀儡』の仕上がりに上機嫌であった。

 

「いやはや、それは重畳でございますな。吾輩もこの者の心を念入りに調教した甲斐があったというものでございますぞ」

 

何時もであれば巨大な同族に騎乗している筈の王冠を被りマントを羽織ったゴキブリもとい恐怖公がそれに追従する。

彼らは不心得な者達を閉じ込めておく牢獄。収監率に於いて今や盛況になりつつある施設の前で意気揚々と語らっていた。

 

「他の八本指の者達の仕上がりも順調ですぞ。物理はニューロニストが、心理は吾輩が担当しておりますので」

 

牢獄には多数の人間達が囚われていた。

カルネ村の村民達を捕縛して人質にし、後々でやってくるであろう戦士長を脅迫しようとしていた傭兵達。

その傭兵達を雇い隠れ蓑にして、人質を前に苦慮する戦士長を確実に抹殺しようとした八本指なる裏社会の者達。

後々で確認にやってきてあっさり捕らえられた者達も含めれば後者が最大数と言える。

当初カルネ村を占拠していた傭兵達を、『逆らうか逃げようとしたら殺せ』と言う命令を受けたデス・ナイトが勢いに乗り過ぎて殺し過ぎた結果だ。

そのデスナイトの材料になったザックという男も、色々内心に抱え込んでいたのかもしれない。

殺される直前に村娘の妹を抵抗されたと張り倒した後で姉を手籠めにしようとしていたのだから、因果応報自業自得なのかもしれないが。

 

「ニューロニスト・ペインキルもよい仕事をしてくれたが、君と君の眷属も人間たちの抵抗心をへし折るのに効果的だった。実にね」

「そう評価していただければ幸いです。ただ、聊か張り切り過ぎて数人程廃人となってしまいましたが」

「構わないよ。廃人化してしまったのは大した価値もない下級の構成員達のみだ。寧ろ他の者達への見せしめになれば安いものだ」

 

彼らについては、見せしめとしての用途が済み、許可が降り次第君達のおやつにしても構わない。

そう伝えると恐怖公は嬉しそうに頷いた。

 

「た、助け、れ、助けてくれっぇぇぇ!!?」

 

そんな彼らの横を、マニアックな拘束具のみを装着した全裸な男が牢屋から搬出されていく。

無慈悲な扱いでストレッチャーに縛り付けられている彼は、確かエ・ランテルで有名な冒険者だったか?

 

「おおっ、活きがよろしくて何より。あれは吾輩を捕えようとした男ですな」

「なるほど。しかし捕まえたばかりだろうから少々喧しいね……『少し黙りたまえ』」

「……」

 

デミウルゴスに呪言で黙らされた彼はトーチャー達によってさっさと連行されていった。

恐らくはニューロニスト・ペインキルの拷問室行きだろう。

 

「してデミウルゴス様。このような人間達に対する、特に八本指に対する『教育』にはどの様な意味があるのでしょうかな?」

「偶然の成り行きとは言え、このナザリックに……至高の御方へ刃を向けたのだ。本来であれば末端の構成員に至るまで万死に値するだろう」

 

その不敬は組織全ての者達を死に至らしめるに相応しい。

否、それですら生温いとデミウルゴスは断言する。

 

「それは同感ですな。しかし、この者達への教育を見るに至高の御方のお考えは殲滅と異なるという事でしょうか?」

「そうだとも。アインズ様は仰せになられた。八本指を掌握しこの世界における足掛かりにしようではないかと。つまりこれは、この王国を裏側から掌握し支配するという事なのさ」

 

アインズ……モモンガがこの場にいたとすれば、実に慌てふためいただろう。

 

 

違う! 違うぞデミウルゴス! 

俺は使えるものは使おうという精神で八本指を利用してみたら?という提案をしただけ。

どうしてそこから何時の間にか国盗りというか侵略の方向に話が進むんだ!

 

と叫んでいただろう。

もう手遅れであるが。

 

 

「なんと、そのようなお考えを!!」

「その通りだよ。あの矮小な都を人間の恐怖と狂乱で満たし、ナザリックが必要とする資源を手に入れ、アインズ様のカヴァーである冒険者モモンを冒険者の頂点に導く」

 

デミウルゴスはゆっくりとその両手を掲げる。

まるで、偉大なる支配者の深慮遠謀を称えるかのように。

 

「この国に希望を齎す英雄の存在、この国に絶望を齎す邪悪の存在。双方揃った瞬間、リ・エスティーゼ王国はナザリックの掌に転がり落ちる事となるのだ」

 

そんなデミウルゴスの演説を恐怖公は歓喜の声を漏らし。

恐怖公の下で騎乗用の乗り物となっていたボンテージ姿の『闘鬼ゼロ』は腰をヘコヘコ動かしながら「イグゥッ❤」と嗚咽を漏らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シトシトと降り注ぐ雨の中。

 

スメイロトが変装した旅人は路面に転がされていた麻袋から伸びた手にズボンを掴まれていた。

 

『たす、けて、みん……な、が』

 

スメイロトの見開いた目に、ある光景が重なる。

 

『マン、ハント。銃で、撃たれ……て』

 

自分を偽善者と罵った少女の命が、眼前で失われていく。

下層民の命を金で得た権利でデス・ゲームの的にした連中によって。

スメイロトの前世の自分がアーコロジーに絶望した事件を記憶から抉り出された。

 

ずるりと、力が尽きかけたのか傷と痣だらけの掌が落ちかける。

 

「!」

 

あの後、もう少女は動くことはなかった。

生まれの不平と世界の理不尽に憤っていた少女は永遠にその活動を止めた。

そしてその後の友人の死、兄に命じられるままにベルリバーを事故死に見せかけて謀殺した事で自分はあの世界で生き続けるのを諦めた。

死の間際のベルリバーの遺言を聞き入れ、彼の遺品を然るべき相手に渡すべく動き、最後には……

 

 

気が付けば、落ちかけた傷だらけの細い手をスメイロトは取っていた。

 

 

袋が捨てられた近くの建物の鉄製の扉に気配が近づくのを感じ、伸ばされた手をそっと袋に戻す。

やせ細っているものの、人間一人が入った袋を軽々と担ぎ上げると手を素早く振るい急激に伸びた蔦を屋根の突起部に絡める。

瞬時に蔓が伸縮し男の体は屋上へと降り立っていた。

下の路面で投げ捨てた袋が無くなっているのに気づき、如何にも破落戸な巨漢が騒いでいたがどうでもよかった。

少し離れた場所まで屋根を伝って移動し、袋の中身の生命力を感知する。

そっと袋を開いて中を覗く。襤褸の布切れを体に巻きつけている酷くやせ細った女性。

 

無数の打撲と捻挫。

骨折複数個所。

内出血は数え切れず。

複数の感染症と思しき病の気の流れ。

今も下腹部からの出血が続いている。

 

このままではもって100分足らず。

 

スメイロトは何度も王都に訪れている。

だから、袋の中身とその由来をよく知っている。

八本指の息がかかっている神殿に袋の中身を診せる訳にはいかない。

 

(完治させるにはアイツの魔法が必要か)

 

何故、今更助けるのか。

この王都では今までも何度もこのような風景を見ただろうに。

自分の任務を優先して目を背け助けなかっただろうに。

前世でも、今世でも。助けなかったくせに。

 

歯軋りが零れ、小さくスメイロトは叫ぶ。

 

「……ッ、誰かが困っていたら!」

 

微弱な持続回復作用を齎すスキルを発動し、目の前の女性に付与する。

本格的な治療を行うまでの間を持たせるための回復を。

法国製の赤いポーションを持って来ていればよかったのだが、散策なので持って来なかったのが悔やまれる。

 

「助けるのは、当たり前っ!!」

 

誰よりも憧れ、尊敬していた男の言葉を口に出し。

不可視の外套を被ったスメイロトは己の借家へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 




7/18 
悪魔とプリテンダーの会話を一部改訂。
不自然なつなぎ部分を修正。
スメイロト達とセバス達の情報を追加。
※正直、彼女ほどの諜報力を持つ悪魔があの二組を見逃すとは思えないので。
ナザリック組は魔力の残滓を見つけられたりセバスが捕捉されててミスが多くなってます。
これは漆黒聖典等との遭遇が無かったため原作より若干気が緩んでる感じです。
王国内最強戦力の戦士長と、最大手の裏組織八本指がナザリックからすれば取るに足りない雑魚である点も油断に繋がってます。

後、小ネタですがツアレさんが捨てられる時期が微妙に早まった感じです。
貴族と八本指がカルネ村の件でギスギスした結果、間に挟まって対応に追われたスタッファンはストレスMAX。
頻繁に娼館に通い、結果ツアレさんを全身くまなく滅多打ちにしました。
普段は上半身だけなのを、飽きてきて下半身もまんべんなく痛めつけています。
おかげでダメージを過剰に受けた彼女は、数日繰り上げで廃棄判定を受けています。

スタッファンを屋上に連れて逝くのは芋か悪魔かどっちか。
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