※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。
ツアレニーニャ・ベイロンにとって、人生とは辛酸に満ちた生の連続に過ぎなかった。
リ・エスティーゼ王国のあまり豊かではない地域に生を受けた彼女の家族は不幸だった。
妹のセシーリアが生まれて物心がついた頃に、父親は帝国との国境での小競り合いに徴兵され帰らぬ人となった。
村の働き手が戦死しても何の補填も与えられず、彼女の家も村も平等に貧しくなる一方。
残された母親は重くなる年貢に耐えながら、姉妹を養う為に身を粉にして働いた。
だが無理が祟ったのだろう。ツアレが漸く一人前に働ける様になった途端に流行り病に倒れてそのまま病死した。
両親を失い、それでも必死に生きようとする姉妹を嘲笑うかの様に不幸は降り注ぎ続ける。
「お前、悪くないな。領主様の御屋敷へ参れ。侍女として召し抱える」
偶に村を巡回していっては働き手を強制招集していく領主の使用人頭が、いやらしさを秘めた目つきでツアレを見ながらそう言った。
その瞬間にツアレの故郷での生活は終わりを迎え、村長達に抱きかかえられながら姉の名を叫ぶセリーシアを置いて使用人頭に付いていくしかなかった。
滂沱の涙を流すセリーシアの顔へ、舌打ちと共に投げつけられたのは雀の涙程しか銀貨の入ってない小袋。
ちょっとした町に出て食堂で姉妹が食事をすれば、その一食で無くなってしまう程度の硬貨がツアレの売価だった。
後で知った事であるが、領主親子の好色さは病的であり。
定期的にこうして領内の町や村から召し抱えという体裁で年頃の女性を連れてきては女色を楽しんでいた。
王国の地方貴族にはこうした暴政を行う者はそう珍しくもなく、この貴族の領内は度が過ぎる重税と支配層の分別の無い享楽により衰退する一方。
しかしツアレを妾にして好き放題した変態領主も、妾を父が知らぬ所で辱める事に性癖を感じてる鬼畜息子も領内の荒廃に対して我関せず。
不幸にも目を付けられ連れて来られた女性達を貪り、飽きれば伝手の非合法な奴隷商人に売り飛ばすを繰り返していた。
ツアレも今までの哀れな女性達と同じく数年で奴隷商人に売り渡され、王都へ連れて来られ苦界へと墜とされる。
数え切れない程の男たちの慰みモノにされ。
果てには観客たちが見守る中で、観客が連れてきた飼い犬に犯され。
それでも飽き足らず相手を甚振るのを好む男に半殺しにされる。
人間の尊厳を蹂躙する様な男たちの娯楽に耐え切れず、同じ境遇の女性達は自死か発狂して壊れる事を選んだ。
ツアレは妹と再会する事を一縷の望みとして耐え続けた。
だが、精神と体は別のもの。心は耐えられても長年悲惨な境遇に曝され続けた体は遂に限界を迎える。
『こりゃ、ダメですなコッコドール様。直すのに金がかかりすぎます。廃棄処分するしかないかと』
『全く入手経路が減って来てるのに商品をポンポン壊して困るわぁあの豚野郎は……はぁ、しょうがないわね。これ、捨ててきて頂戴』
『承知しやした。おい、誰か、コレぇ、裏口に捨ててこい!』
袋に詰められ、無造作に路面へと放り出される。
乱暴に地面へ落ちたというのに、もう痛みも感じない。
常連客から連日全身をまんべんなく殴られた所為か、痛覚がマヒしてきた。
下腹部から流れ落ちる血がずっと気持ち悪かったが、それももう気にならなくなった。
(私、これで、死ぬんだ)
惨めで辛く、痛みしかなかった人生だった。
でも、同時にこれで漸く終われるという安堵も同時に存在した。
死ぬという事は、これ以上苦しまずに済むという事だから。
(でも、せめて、もう一度)
唯一の悔いは、故郷に残してしまった妹の事だけ。
(セリーシアと話をしたかった。弱い姉でごめんね)
闇の中にツアレの意識が落ちていく。
このまま眠ればもう二度と起きることはないだろう。
(ごめんね、セリーシア……)
最後に妹への謝罪を繰り返してから。
ツアレは意識を手放した。
ツアレは知らない事であるが、無意識に生を望んだのかもしれない。
そして知らぬ間に手を伸ばして、偶然通りかかった人物のズボンを掴んだ。
結果、彼女の運命は本人の知らぬ間に勢いよく動き出していく。
闇の中でツアレは漂っていた。
(あれ、私……死んだのに?)
死んで終わった筈なのに意識がある。
矛盾した状態に困惑するツアレだが、体全体がゆっくりと温まっていくのに気付いた。
(え、何、これ、どうして)
知覚してないのに、体の変化がわかる。
表皮に刻まれていた傷や痣や火傷が消えていく。
剥がされた手足の爪が、見る間に再生していく。
歪んでいた頬や鼻の骨が正常な形へと戻っていく。
暴行で引き抜かれた髪が、何事もなかったかの様に毛根から毛先まで元に戻る。
ツアレの困惑を余所に、今度は体の内側にも効果が及び始めた。
(あ、あひぃっ)
体内に直接注ぎ込まれる温かさ。
反射的にツアレは甘い声をあげてしまい、全身がビクンと痙攣する。
半分程抜け落ちていた歯が生え代わり綺麗な歯並びへと戻る。
残っていてぐらついていたり酷い虫歯になっていた歯も修復される。
裂けていてもう声も出せなくなっていた声帯の筋肉や靭帯が修復される。
罅が入っていたり、折れていた骨が元通りに戻る。
傷ついてたり破裂していた臓器が修復される。
内側から体を蝕んでいた感染症が痕跡すら残さず消え去る。
酷使でズタズタになっていた性器と肛門が修復され正常な状態へ戻る。
性器と肛門の奥にある破損して機能しなくなっていた臓器も何事もなかったかの様に健康な状態に戻された。
「え……」
闇の中にいたツアレの意識が急激に引き上げられる。
慌てて手足をばたつかせるも、意味はなかった。
腫れあがっていた筈の瞼が開き、彼女は見知らぬ天井を見上げていた。
「ここ、どこ?」
見るからに高級そうな魔法の照明は、明らかにあの忌々しい娼館の室内ではない。
辺りを見渡す為に、ツアレは上半身を起こそうとして。
「……え?」
ベットの脇で、こちらを見下ろしている存在に初めて気付いた。
「!」
それは身長150センチ前後の小柄な女性……だった?
流れる様な緑色の長髪(?)を背中辺りまで流し。
薄緑色の肌をそれを覆う葉っぱや蔦や蔓で構成されたドレスで覆っている。
愛嬌を神の領域まで高めた様な、それこそ誰もが目を離せなくなるような美貌。
そんな少女(?)が星の如きを放つ団栗色の両目で、こちらを興味深そうに見ていたからだ。
想像して欲しい。
見知らぬ場所で目が覚めて起きた直後に。
すぐ傍に今まで見た事のない様な異形か亜人と区別が付かないような存在が自分をじっと見ていたらどう感じるのか。
少なくとも一般人の領域を出ない少女であるツアレは恐怖を感じた。
知らず知らずの内に完全なる健康体に回復していた彼女は、ありったけの声量で悲鳴をあげた。
「ニュンペ。治療以外になんか余計な事をしたんじゃないだろうな?」
悲鳴を聞きつけて室内に突入した直後。
ベッドで怯えて震えている女性にビシッと右腕を高々掲げてポーズを取っていた全身緑色の少女っぽいモノ。
「……! ……!?」
部屋から出された彼女……ニュンペはスメイロトの問いに首を左右にフルフルと振る。
彼女は何故か言葉を発さないが、スメイロトはなんとなく彼女の意思を感じ取る事が出来た。
なにもわたし、してないよ。
ニュンペの顔をじっと見た後、スメイロトは溜息をついてから彼女の頭をポンポンと撫でた。
どうやら嘘は言ってない様だ。頭を撫でられた所為か、彼女の表情が嬉しそうになる。
ニュンペは亜種のドライアドだ。
顔面の造形はピニスンをベースに目に星が浮かんでそうなアイドルの造形を足してデフォルメした様な感じ。
その後暫くしてアイドルの方がベースを侵蝕した様で、顔立ちはアイドルそのものとなった。
どうやらスキルを利用した結果、スメイロトの記憶と心象の一部が具現化した結果らしい。
その後、色々あって造形は葉っぱと蔓で出来たドレスを着たドライアドの少女っぽいものに落ち着く。
これで3人のアイドルユニットと一緒に歌い出せば、第九階層のコンサート会場に居る彼が作ったNPCっぽくなるかもしれない。
(はぁ……まさか。自分の作ったナザリックのNPCの顔をこんな形で再び見るとは)
ピニスンというドライアドがスメイロトに魔樹討伐のお礼として差し出した自身の分木。
あの魔樹が法国の兵器として利用される前に摘出した頭頂部。
今は法国の研究機関に6割、魔法省に3割9分。そして最後の一分をスメイロト個人が貰った。
その一分をスメイロトの異能によってピニスンの分木と悪魔合体の後急成長させた結果、出てきたのがこの亜種なドライアドである。
トブの大森林の切り開かれた農地が王国の穀倉地帯以上に肥沃なのも、この常識逸脱謎生物が農地一帯を管理しているおかげ。
人間には聞こえない森の精霊の歌を歌えば、大地は息づき豊穣は地面から溢れ出さんばかりだ。
正直、このドライアドのおかげで王国へ侵攻する価値が5割ほど減少してしまっている。
ジルクニフも安全保障の為に王国の王都よりも東半分の領土を手に入れたら、残りは緩衝国家の意味合いも兼ねて残す方向に舵を切っている。
帝国の国家戦略をも左右してしまってるので、どれほど規格外の存在であるかは自明の理だ。
(一体、何をどうしたらあんな合体事故が発生するというのか……俺のスキルってこんなエラーと言うかバグをやらかすのか?)
こんなふざけ切った存在であるが、恐るべき事に個体としての強さの領域は逸脱者レベル。
あのブレインが道端で喧嘩を吹っ掛けられ、闘技場で仕合った結果30合撃ち合った後で切り捨てた男が連れていたエルフ達。
奴隷の証として切られてたエルフ達の長耳を、クレリックの『大治癒』と同じ効能の魔法で再生してみせたのだ。
見た感じはドライアドのカリカチュアで、存在自体があり得ないのに法国の大神官よりも高位の魔法を使えるのである。
助けられたエルフ達はこのドライアドもどきのお世話に勤しみ、恩人であるブレインもお世話しているそうだ。
ブレインとしては不愉快な強者の技をラーニングするついでにし合っただけなので、感謝と世話に対し困惑しているようだが。
「あー。その君、体調は大丈夫かな?」
スメイロトは客間の中に入らず、開いたドアの所で立ち止まって女性に声をかけた。
帝都での貧困救済事業で経験した事だが、虐待や暴力を受けた女性は異性からの接近に恐怖や拒絶を覚える傾向がある。
だから善意からだとしても近づかず、相手の様子を見ながら冷静に言葉をかける事が大事だ。
「は、はい。その、大丈夫……です」
思ったよりしっかりしてる様でスメイロトは安堵した。
これで錯乱したり声もでない有様だったら、またニュンペの力を借りるところだったから。
錯乱した女性を宥めるか取り押さえるのは大変なのだ。
帝都の貧民街でボランティア活動中に、娼婦まで身を落とした元貴族令嬢に何度も刃物で腹を突かれた経験は伊達ではない。
「取り合えず、落ち着いて欲しい。私とこの子は君に危害を加えるつもりもないし、君が恐れているだろう連中とは関係がない」
彼女が自分の言葉を呑み込んだのを確認してから、穏やかな言葉で畳みかける。
「私は君の味方だ。今はゆっくりと休んで欲しい。何か困った事があったら机の上にあるベルを鳴らしなさい」
そう言い含めて、
「朝になったら朝食を届けさせる。では、お休み」
彼は客間のドアをそっと閉めた。
今の屋敷の自屋であるサン・ルームにニュンペが向かった後。
スメイロトは自室へと向かい、入室後に硬直した。
天蓋付きのダブルベッドの上から瘴気を放っている存在に気付いたからだ。
「いや、あの、ジュンノさん。私としては言い訳を聞いて頂きたいんだけど」
「……私からは今やなにも申し上げる事はございません」
ゆらりとシーツの上に立ち上がったネグリジェ姿の便宜上の妻は。
とてもじゃないが、話し合いが通じる様に見えなかった。
「アイエエ……」
スメイロトの引き攣った呟きは、防音措置が為された寝室の外に漏れ出る事はなかった。
「ふひぃ……」
いろんな意味でゲッソリとしたスメイロトは寝室の天井を見上げていた。
隣で満足げな寝息を立てているジュンノについては、翌朝には機嫌を直してくれている事を願うばかりだ。
(やっぱり、怒るのはしょうがないよなぁ。任務外の余計なリスクを持ち込んで来てしまったんだから)
立場上ジュンノが怒るのも無理はない。
彼女が自分の所に来てから、彼女にも自分の『悪癖』の手伝いをさせてしまった過去があるからだ。
以前からジルクニフに苦言を呈された様に、彼女からも個人の不幸に対してスメイロトが関わるべきでないと忠告されてきた。
(以前の事と言うか。ジュンノを関わらせたアルシェと妹たちの件についてはちゃんと反省しているし多少はね……?)
貴族共が邪神崇拝しているという情報を手に入れ墓場の隠し神殿に乗り込んで信徒もズーラーノーンの司祭も制圧。
直後に祭壇に捧げられた袋がもごもご動いたかと思うと二人の少女の泣き声が地下神殿に響いた。
まさか行儀見習いという体裁で『売られた』元貴族の双子の姉妹が買った貴族によって贄に捧げられるとはスメイロトも驚いた。
その後、一時的措置として保護した双子からあれこれ聞き出し。
半狂乱になって双子を探していた姉を、ジュンノの探査魔法で見つけて双子と引き合わせた。
スメイロト的にはそれで義理は果たしたと言えるが、このままお別れしても姉妹の未来は暗いだろう。
姉の方にも実家の事情は聞いたが、アレではまた同じことを繰り返す。
近いうちに袋小路に行き詰まり一家そろって破滅だ。
かと言って貴族として没落した実家に対してスメイロトが出来る事はない。
彼女たちの実家が没落したのは兄の政策の結果だ。
寧ろ兄に従い政策の促進に加担してたスメイロトにとって、それを否定する事は絶対に出来ない。
スメイロトはアルシェへ実家に対して打てる手は無いと告げた上で、彼女に苦渋の決断を迫った。
「もう朽ちて果てるだけの家と救えない両親よりも、君と妹達が生き延びる事を選びなさい。私に出来る手伝いはそれが限度だ」
結果として、アルシェは自分と妹達を救う事を選んだ。
元々アルシェは学院において才女扱いでフールーダの弟子だった事もあり。
フールーダに取り次いで成人するまでの間姉妹三人の後見人になって貰った。
アルシェはそのままフールーダの研究室のスタッフとして就職し魔法省で勤務している。
妹達も学院に入院させて勉学と教養を学ばせた後で、それぞれの道へ進ませる事にした。
スメイロトもアフターケアとして実家の執事のジェイムスへ匿名の手紙をジュンノの魔法で送り。
こっそりと事の顛末を伝え、早々に退職と転職をした方がいいと伝えておいた。
アルシェ達の両親? 故郷にでも帰ったのだろう。なぁザナック。
あの件でも事後にジルクニフから長々と説教された。
ジルクニフが言う事は確かに正しい。
そうやって無節操に人助けをする事はトラブルに繋がるし何より切りがない。
個人の善意で救えるものには限りがあるのだと。
ましてや、お前の立場でそれをすればお前自身の身を危うくしかねない、と。
場合によっては最悪お前を帝国の敵として処断しなければならなくなるのだぞ?と。
お前はあの八方美人な聖王国の女みたいな真似事をするな、と。
だから公の福祉事業や貧困層への施しなどを除けば個人で誰かへ肩入れする形で助けるのは控える様努力はしていた。
(真剣な顔で言われたから、もう軽率な事をしない様には努力してきた、つもりだ)
唯一残した弟まで殺す決断をさせたら申しわけないとは思うから『一応』自重してきたのにやってしまった。
今回の衝動的に王国の女性を助けた事については兄のお叱りを受けかねない。
だから上手い事処理しなければならない訳だが、どうしたものかとスメイロトは嘆息する。
思えば情報入手の為とは言えエ・ランテルの冒険者たちを助けたのもあまりよくない事ではあったなと今更思い返したがまさに今更だ。
取り合えず、今は保護した女性の件をどうにかする事を優先して考える。
(回復するまで世話した後で故郷までの旅費を渡して解放する……は、駄目だ)
普通の行き倒れとか失業して困ってたとかであればそれで解決だろう。
だが彼女の立場は普通じゃない。八本指が経営してた娼館の娼婦だ。
たとえそれが廃棄してどの道死ぬ娼婦であろうとも、盗んで来てしまったからには八本指はそれを許さないだろう。
ましてや、何年も前に領主に連れ去られた娘が全く余裕のない寒村に戻ったところで生きていく当てもないと来ている。
そもそも彼女を売り飛ばした領主は売却の伝手からして八本指と繋がっているのは間違いない。どの道故郷に戻すのは論外だ。
(もう、いっそ今回で八本指に回復不能なレベルでダメージを与えて彼女を追跡できない様にするか?)
ポン、と物騒な発想が脳裏を過る。
最近できた友達である魔術師。何というかかつての友人を非常に彷彿……彷彿とさせるのだ。
似通っている彼であれば何というか嬉々として付き合ってくれそうな気がしないでもない。
(いや、無理と言うかまだ完全に信頼できる相手じゃないから却下)
普通の冒険者に頼む依頼とかでなら兎も角、今回の件はダーティーに過ぎる。
何というか、無自覚に彼を信用どころか信頼してしまっている事にスメイロトは気づいた。
(いくら、ウルベルトさんに似ているからってこれはないよな。注意しないと)
いかんいかんとスメイロトは自戒した。
これもそれも、アインズ・ウール・ゴウンという記号を聞いてしまったが故かもしれない。
(ひょっとしたら、エ・ランテルで感じた異常な存在や、カルネ村での事件に関わっているのかも?)
本当に、ジュンノの報告で知ってしまってからどうにも脳裏に張り付いて余裕があれば考えてしまう。
アインズ・ウール・ゴウン。ナザリック地下大墳墓。
スメイロトが前世で遊んだゲーム。40人の仲間達。
(こうなれば王都での仕事を早めに切り上げて、往路のエ・ランテルで事実を確認しないと……)
そこまで考えてスメイロトは頭をぶんぶんと左右に振った。
どうにも考えが纏まらない。エ・ランテルから王都に至るまで色々と起き過ぎだ。
(今は、八本指への対応を優先して考えよう。八本指にダメージを食らわせて追跡できなくするっていう方向性は悪くない)
(いい加減八本指の連中には『黒粉』の件についてもムカついてたし。あの娘の件で面倒な奴隷売買部門を潰しておこう)
(奴隷の部門長はアンペティフ・コッコドールだったか。こいつらと側近共を潰しておけば暫く動きが鈍くなるでしょ)
(どうせ帝国が王国の腑分けを始めたら残らず粛清する連中だし、ちょっと前倒しって事で兄貴には納得してもらおう)
そこまで考えた所で、いい加減眠くなってきたスメイロトは睡魔に意識を委ねた。
翌朝の朝食後のサロン。
「そんな感じなんだけどどうかな?」
「ダメに決まってるじゃないですか。調略任務なのに幹部とその取り巻きの暗殺とかやばいですよ」
「……デスカネー」
あっさりと娼館と奴隷売買部門の無力化プランをブレインに却下され、スメイロトは気まずそうにティーカップを呷る。
「そもそも俺なんかに語ってる時点で、奥さんを説得できないって思ってるんじゃないすか?」
神刀の手入れをしつつ、ブレインはスメイロトに容赦のない突っ込みを入れる。
ジュンノの姿は食堂にはない。どうやら母国への連絡の為に自室に居るようだ。
保護した女性……朝食を持って行った従者のカヴァーを持つ帝国情報局の女性局員がツアレという名前を聞き出したのでツアレとする。
彼女はまだ客間に居る様だ。保護して24時間も経ってないので仕方がないが、局員と会話できる位までには精神的に立ち直れたのは喜ばしい。
「……まぁ、そうなんだけどねぇ」
「普通に匿ったまま帝国に戻って、救貧院辺りに入れてあげる位でいいじゃないですか。あんまり構い過ぎると兄君に怒られるんでしょ?」
「……怒られるねぇ」
少ししょげた様子のスメイロトに、刀身に打粉を当てているブレインは苦笑する。
己の剣に対する求道者に徹する彼にとって、弱者に対する保護や支援は興味の範疇外だ。
だが、自分の剣の腕を買ってくれているパトロンの手伝いをする事程度は悪い事ではないと思ってはいる。
「しょうがない。ツアレはこのまま匿った上で王都を離脱。後は帝国に連れ帰って身の振り方を考えて貰うとしようか」
「ええ、それが無難でしょうよ」
そんなスメイロトとブレインの会話を壁から上半身だけヌルリと出した状態で。
赤い目を細めて盗み聞きしている不可視の黒い猫が居たのを屋敷に居た者達は誰も気づけなかった。
「だ、そうだよ」
「へぇ、思ったより過激な事考えるなアイツ」
奴隷商館の屋上。
朽ちたテラスでプリテンダーは愉快そうに肩を揺らした。
「君、愉快そうだね」
「ああ、俺とのランチを楽しんだ後でまさかこんな事をしていたとかな」
初日以降は自宅に招くと彼の嫁があまりいい顔をしないという事で、大通りの飲食店で待合をしてはランチやカフェを楽しんでいた。
ランチの後で八本指の違法娼館の娼婦を偶然助け、彼女への追跡を断ち切る為に八本指に喧嘩を売ろうと考えるとは。
「面白そうな事を考えてるじゃないか。俺に提案してくれたら是非乗ったのに」
「いやいや、少しばかり仲良くなった旅人にそんな提案する訳ないでしょ」
「ま、そりゃそうだけどよ」
意外に常識論を語る悪魔を鼻で笑うと、プリテンダーは寄りかかっていた柱から背中を離す。
既に乗り気なのかコートの内ポケットから取り出した計画書の羊皮紙にいくつか修正を入れている。
「あれ、そっちに襲撃を仕掛けるの? 麻薬取引部門よりも先に」
「いいって事よ。潰す順番を少し前後させるだけだ」
そして計画書を悪魔に差し出してから、プリテンダーは喉を鳴らして笑った。
「それにウカリ……スメイロトには毎回酒と食事を奢って貰っている」
遠くに見える違法娼館の屋根を指差し、プリテンダーは帽子を外す。
赤と黒の布地で構成された頭巾を被ってから顔全体を覆う山羊の面を顔に当てた。
「ここらで、奢りの礼をしておくべきだろうさ……大災厄の魔としてな」
その日、自室で法国と連絡を取っていたジュンノは漆黒聖典の同僚からメッセージを受け取る。
第十一席次たる占星千里から受け取った秘匿文章には簡潔な一行のみが記されていた。
【王都は朱と魔に染まる。街は消えぬ火に包まれ、魔神と悪魔の群れが晩餐を始める。そして惡の華が咲く】
Qギルメン集合なのにまだモモンガさん出てないよ?
Aギルマスなので重役出勤なんです