アイ・ライク・トブ【外伝更新中】   作:takaMe234

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誤字修正の方々に、この場を借りて感謝を。

※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
 
 アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
 また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。






モモンガさんちょっとタンマ! 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ数日の王都は、異様な雰囲気に包まれつつあった。

 

それはまさに、権威の失墜。

そして新たな支配者の台頭。

 

前者は本来王都の支配層に位置する者達だ。

王族、貴族、騎士、八本指。

後者は神出鬼没の劇場型犯罪者。

前者の全てを翻弄し、いまだ正体すら不明。

 

王族の命令は空回りし、貴族の怒りは空回りし、騎士達の奔走は空回りし、八本指の激昂と殺意は空回りした。

主に襲われ被害を受けたのは八本指の隠し拠点や倉庫などだが、二次被害で貴族たちもとばっちりが行っていた。

何せ八本指と貴族たちの癒着は公然の秘密である。その関係を暴かれればどうなるかは言うまでもない。

たった数日で王都内及び郊外の20カ所前後のアジト、ご禁制の品々が蓄えられた倉庫、麻薬などを扱う秘密の取引所。

その場にいた人員は再起不能にされ、書類は王城の門前に箱に入れられて届けられ、麻薬やご禁制品は腐敗し汚泥となっていた。

蒼の薔薇がラナー王女の依頼で過去から現在に至るまで実施した対八本指への遊撃戦。

それらの成果の10倍以上を謎の存在は成し遂げたのだ。たった数日で。

空前の大打撃を受けた八本指は全部門の総動員をかけて犯人を追っているが、相も変わらず証拠の一つすら見つかってない様だ。

 

誰もこの問題を解決できる方法を見いだせなかった。

そう、アダマンタイト級の冒険者パーティーである、蒼の薔薇であっても。

 

 

 

「で、俺らは道化の役割をやらされてるって訳かよぉ」

 

拠点の高級宿屋の一階にある大食堂。

ジョッキに注がれたエールを一息で飲み干したガガーランは、ジョッキを卓上に転がしてから深々と嘆息した。

隣の宅では双子の盗賊がぐったりとテーブルに突っ伏している。

 

「現状ではそうと言うしかあるまいな。状況も把握してない長男王子に急かされた王女が計画を早めても意味がなかった」

 

円卓の向かいに座っている白いお面を付けた小柄な術師、イビルアイが物憂げに首を左右に振った。

数時間前まで実施していた謎の犯罪者捕縛作戦が空振りに終わってしまった事は蒼の薔薇を大いに疲弊させていたのだ。

 

「はっ、布告で勇ましい事言ってる割にゃ、王城から出やがらねぇ第一王子殿下が余計な事してくれやがる」

 

不愉快そうに吐き捨てたガガーランは、御代わりを持ってきたボーイの少年からジョッキを奪い取り再び一気に呷る。

ここ数日のストレスは酒を飲むだけではどうにも収まりそうにない。

自分が女を教えた相手である、ボーイの少年を夜にでも自室に連れ込もうと決意した。

 

「バルブロが焦るのも無理はない。安全な筈の自室に居たにも関わらず、ふざけた嫌がらせをされたら半狂乱にもなるというものさ」

 

イビルアイはクククッとくぐもった声で嘲笑を漏らした。

 

「寝室に忍び込んでおいて、殺しも盗みもせずに髪と髭を剃った上で顔に落書きを描くだけだったのは効果的だ。後々を見れば余計に」

 

王都を震撼させている奇怪な事件が王城に及んだのはつい先日。

厳重な護衛で幾重にも防護された寝室で何時もの様に就寝した第一王子バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ。

彼が翌朝、慌てふためいた従者に起こされた時には恐るべき変化が王子を襲っていた。

 

髪型はモヒカン。

唇と周りに『赤い円』。

そして額に『黒色の肉マーク』が描かれていた。

 

尚、落書きが行われてから一日と半日が過ぎているが未だ落書きの色は落ちてないようだ。

取り巻きやら呼ばれてやってきた神殿の神官やらが、落書きを消そうと必死になっているが肌が荒れたり被れたほかは何ら解決になっていない。

後々でメイドが見つけた紙切れによると、落書きは7440時間後に自動的に消えると王国語で書かれていたという。

メモの実物を見たラナー王女曰く、筆跡は女性であるという事は間違いないらしい。

 

見た目があまりに奇抜なおかげで、バルブロ王子は頭部をすっぽりと隠せる帽子と顔を隠せるベールを着用している。

本人にとって今の状況はあまりにも屈辱的なのだろう。

妹たるラナー主導で行っている蒼の薔薇による捕獲作戦にまで口を差し挟むとは相当だ。

 

「犯人も大した腹黒だ。いっそ、くたばってくれた方がよかったよ。生きてて積極的に口出ししてくれるから問題が更にこんがらがってしまった」

 

実際、バルブロの介入は蒼の薔薇の捕獲作戦だけではない。

王都駐在軍の警備行動から、普段毛嫌いしている戦士団の調査活動にまで口出ししている。

あまりに多方面に介入している事から、僭越ではないかとザナックから苦言を呈され激昂。

普段温厚な父王が強く叱責するまで口論になるなど、王城の空気は険悪だとラナー王女の衛士であるクライムが零していたほどだ。

犯人がバルブロの性格を知った上でこう仕向けたのであれば、イビルアイの言う様にかなり腹黒いやり口と言える。

 

「どーすんだ。アンタがそう評価する位にまで頭が回って、俺達に尻尾も掴ませない位には立ち回れるんだ。もう、どうすりゃ捕まえられるか見当もつかねぇよ」

 

更に追加で注文したジョッキを投げやりに掲げながら、ガガーランは愚痴った。

捕獲作戦での、何度も捕まえられるかも、と期待を抱かせるだけ抱かせて。

最後の最後であっさり逃げられたのが堪えたようだ。

連携で追い回して漸く、と思わせて双方が抱き合う形で盛大に空ぶってしまった双子の精神的打撃は深い。

こんな有様で相手を捕獲できるかについてはイビルアイに答えはない。

 

(まさか、あれほどの存在がこの国に存在して、私にもどうしようもないとはな……リグリットが居れば……いや、居ても無理だあれは)

 

初回だけなら、まだ言い訳の余地はあった。

この地で長く存在し強者の自覚があるイビルアイにも、己の力に対する余裕があったから。

二回目の、つまり数時間前の捕縛作戦ではイビルアイは相手が容易ならざる者と認め、全力を尽くして犯人を捕まえようと動いた。

しかし結果はあの有様で、イビルアイも含め彼女らは相手に散々翻弄され弄ばれた。

プライドが高めのイビルアイも、自分よりも相手の方が上手だと認めざるを得ない程の力量差を感じた。

 

(まさか、ぷれいやーか? 100年の揺り返しの時期を思えば全然不思議ではない。だが、何故こんな事を?)

 

知り合いにして元仲間である真なる竜王から聞いたプレイヤーの所業を見れば、あまりにも迂遠すぎる行動と言うしかない。

かつて真なる竜種が治めていた世界を八欲王が崩壊させた時、その武威は天を裂き地を割りかねない程だったという。

それに比べれば今回の一見は表向き、あまりにも静かすぎる。

 

(ぷれいやーであれば、真正面から叩き潰すのが常道。それが出来るだけの力がある。わざわざこんな事をする意味があるとすれば悪趣味だ)

 

バルブロに対しての悪ふざけなどがそれだ。

王位継承権と本人の気性もあり王城において、第一王子の部屋の警備は国王の居室と同等の警備が実施されている。

その部屋があっさりと侵入の対象になり、リ・エスティーゼ王国は侵入した相手に対して何ら手を打てていない。

 

(あの一件で犯人は証明できたのだ。王都の城に居る重要人物を皆殺しに出来るという事を)

 

そしてそれは、王都以外に住まう大貴族達の城館についても同じだ。

どれほど王族に匹敵する権勢を持っていても、王都の警備力に勝る手勢を持つ大貴族は存在しないのだ。

 

(犯人は何時でもこの国を瓦解させる事が出来る。支配層を余さず滅ぼせる)

 

王族と六大貴族の鏖殺を相手は望んだ瞬間から行える。

この事実にイビルアイは戦慄していた。

 

(王国は自覚がないだけで、既に断頭台に首を乗せられた状態だ……首を何時落とすかは相手の思うがままというだけ!)

 

彼女自身は愛着も愛国心もないが、彼女の認めたリーダーが憂いている国は今まさに滅びの瀬戸際に居るのだ。

既にこの国家は影も姿も知らない絶対者に、生殺与奪を握られている事になる。

 

(行動原理は釈然としないが、力量からしてぷれいやーの可能性は高い。こうなったらツアーに連絡して相談するしか……)

 

物静かに沈黙している様にみえて、テーブルに居るメンバーで一番焦っていたイビルアイがそこまで考えた瞬間。

 

「みんな! 戻ったわよ!!」

 

冒険者の武装した姿でリーダーたるラキュース・アルベイン・デイル・アインドラが食堂に入って来た。

何時もは綺麗に整えられた金髪があちこちほつれ、疲れと隈を隠す為か濃い化粧をしているが彼女の声からは生気が漲っている。

 

「リーダー、あんた……元気だな?」

 

捕縛作戦が大失敗に終わった直後は一番落ち込んでいた彼女が、何故だか元気を取り戻している。

新しいエールとツマミも注文したらしいガガーランが唖然とし、いつの間にか顔を上げている双子も訝し気だ。

 

「元気にもなるわよ。援軍が来るってラナーが言っていたわ!」

「援軍って……リーダーの叔父貴さんが戻って来たのかい?」

 

ガガーランが言う叔父貴とは、『朱の雫』のリーダーであるアズス・アインドラだ。

王都所属の割にはほとんどを王都の外、しかも国外の評議国で活動しているという変人達のリーダー。

彼自身もアインドラ家という貴族位を捨てて自由人として生きている、ラキュース曰く『子供の教育に悪い大人』。

 

「違うわよ! ほら、みんな覚えているでしょ、エ・ランテルの史上最速でアダマンタイト級冒険者になったという人の事!!」

 

叔父の帰還を否定の言葉で一蹴し。

ラキュースは、久しぶりの笑顔を浮かべメンバーに援軍の名を告げた。

 

「大魔獣を従え、ギガントバジリスクの群れと死霊騎士に黒蟲王を討伐した英雄、『漆黒』よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか間に合ったとみていいかレエブン侯?」

「はい、先ほど我が手の者より王都の正門を通過したとの報告を受けました。蒼の薔薇と同じ宿屋へと向かわせ顔合わせをする予定との事です」

「そうか……」

 

王国の第二王子たるザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフは、城内の己の執務室でふぅーと深い息を吐きながら己の椅子に身を沈めた。

普段であればふくよかと形容していい頬は少し肉が落ち。

やや険を感じさせる眼差しの下には、従者が施した薄化粧でも隠しきれない隈がうっすらと浮かんでいる。

 

「ははっ、これでわが父、我が兄、我が妹、そして俺の首が寝ている間に床へ落ちているという恐怖からは逃れられるかもしれんな」

「その恐怖は私も同じですぞ。今や、城、そして王都に詰めている貴族達はいかなる口実で己の領地へと戻れないか論議を交わしている有様ですので」

 

同じく表情や仕草の端々に疲弊を漂わせているエリアス・ブラント・デイル・レエブンは、嘆息交じりに首を左右に振る。

 

「あれほどの神出鬼没を見せる相手に対し、王都から離れて領地に戻りさえすれば助かる。その様な考えはただの楽観論に過ぎません」

「ははっ、そうだな。我が兄は義父と一緒に何とかボウロロープ侯領に移動できないか考えているようだがなぁ」

 

あの兄には、王都の危機に踏ん張るだけの王族としての心意気などない。

そういい捨てた後、ザナックはレエブン候に向き直る。

 

「後はラナー経由でアインドラ嬢に調査命令書を手渡し、一応独自の調査を行う形を取る漆黒と歩調を合わせて犯人を追い詰めるか」

「王城内に犯人の耳が無いか不明ですので、現地での調査を実施するまでは分かれて行動させます」

「文字通り付け焼刃での合同捜査か……なぁレエブン候。漆黒は見えぬ相手を捕える事は出来ると思うか?」

 

どこか、そうであって欲しいという願望すら混じった声。

本来であれば根拠のない願望など鼻で笑う現実主義者であるレエブン候であるが、今はザナックの気持ちは十分に分かった。

 

「そうであると信じる他ありません。現状、我々で揃えられる札はこれ以上ありません」

「そうか……そうだな」

 

ザナックはそう呟くと、既に冷え切っている卓上の紅茶を一息で呑み切った。

ザナックが空のティーカップをテーブルの皿に置くと同時に、執務室のドアがノックされる。

 

「時間か、入れ」

「失礼いたしますお兄様。レエブン候」

 

ドアが開くとそこには普段と変わりのない様子の彼の妹……ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフが護衛のクライムを引き連れ佇んでいた。

 

「何時も通りで安堵したぞ我が妹よ。お前にとって姿の見えぬ暗殺者は恐れの対象にならんようだな」

「まぁ、お兄様ったら。私もクライムが不眠不休で守ってくれなければ怯えて夜も眠れないのですよ?」

「ははっ、そうか。それは何とも頼もしい事だ。そう思わんかレエブン候?」

「……そうでございますな」

 

何とも心のこもってない貴人たちの茶番劇に内心げんなりしつつも、レエブン候は用意していた調査命令書。

それとは別に漆黒に渡す予定の依頼書を鞄から取り出した。

 

「では、会議を始めさせて頂きます」

 

 

 

 

それから始まった三者の会議を、窓の上側にはりついて見下ろすように目の紅い黒猫がじっと見ていた。

王女の影に潜む悪魔と屋根の上で周囲を見張っている不可視の悪魔、両者に対して気取られない様にこっそりと会話を聞き取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄上からの命令だ。全ての予定を中止。明日中に王都から離脱し、エ・ランテル経由で帝国へ帰還せよ……だとさ」

 

その日の朝食の時間、メッセージの暗号文を解読した情報局員から渡されたメモをスメイロトは翳した。

 

「オ・ギン、君の母国からの退避勧告と重なってしまったね」

「さようですね。こちらよりも半日遅かった訳ですが」

 

果実のジャムが乗ったパンケーキを切り分けながら、ジュンノはいささか手厳しい反応を返す。

同僚が送って来たらしい『予言』について、帝国側の対応が当初は半信半疑だったのは事実だ。

 

「それがあやしげな事件が起きて、あれよあれよと事が大きくなってしまってこの有様だよ」

「愚か者の第一王子が愉快な有様になったらしいのは捧腹絶倒ではありますね」

「愉快ではあるけど、面倒でもあるんだよなぁ。あんなのでも、一応王位継承権第一位だ」

 

その日から市中を警邏する警備兵は倍に増え。

普段であれば厭われる戦士団も総動員で市街の巡視を行っている。

市内は半ば戒厳令下じみており、商業活動も普段より低下している有様だ。

 

「こんな有様では調略も進まないと判断されたのでしょう。早期に出立出来るのは善き事です」

(兄貴も法国も共に認識が甘いけどな。事実を知ってりゃ兄貴は今すぐ逃げろと言うだろう)

 

何食わぬ顔をして川魚の干物のグリルをフォークで口に運びながら、スメイロトは脳裏に最悪の可能性を過らせていた。

 

(やばいな、エ・ランテルに続いて王都でもやらかしてやがる。仕掛けてる奴が同じなのかは不明だけどこれはやばい)

 

王都で起きている事件の黒幕が、難度にして200を優に超える脅威的存在だと知れたらどうなるか。

法国なら、ジュンノに複数人数を同時に転移可能な方陣を儀式で組ませ。

スメイロトと随員たちを連れて即座に帝都の彼の自宅に瞬間移動をさせただろう。

いや、なりふり構わなくなれば局員やブレイン達を見捨ててスメイロトのみ一緒に強制転移をさせたに違いない。

 

神官長達は価値の序列と優劣がきっちり出来ている。

トロッコ問題も選択肢の判断を序列に従って迷わず選択できるタイプだ。

そんな判断が必要とされる位に、王都は危険地帯と化している。

 

(いや、相手が相手ならもう王国はダメだ。と言うか、既に周辺国もやばい)

 

もう、スメイロトの予想なんて意味がなくなりつつある。

この世界において『プレイヤー』とはそれほどの意味を持つのだ。

 

(でも、もしそれが『アインズ・ウール・ゴウン』に関わるものであったのなら?)

 

目の前で値上がりしたらしいベリー系の果実を口に含んでいる少女が齎したスメイロトにとっての重要過ぎるキーワード。

 

『アインズ・ウール・ゴウン』。

アイダホ・オイーモにとってかつてのゲームで所属したギルドの名前。

懐かしくも苦い気持ちが過る、9年目を前にして引退を宣言しアカウントを削除したギルド。

既に残存しているギルドメンバーが半数を切っていて、引退を受理したモモンガがどことなく元気がなかったのを覚えている。

 

(誰が居るんだ……モモンガさんはまだ、居るのか?)

 

引退した理由はベルリバーの遺志を叶える為と、自分が感じた絶望を少しでも実家とあの鬼畜生の兄にぶつけたいが為だった。

だから、あの後のユグドラシルの事は殆ど耳に入らなかった。

共犯者であるウルベルトとの秘密裏のやり取りや、表向き従順に振舞いつつも準備を進めるのに忙しかったから。

最後に聞いたのは元ユーザーらしい部下の「ユーザー減少が酷くて後1~2年でサービス終了してもおかしくはない」という噂ぐらいだ。

 

(もし、これを仕掛けているのがアインズ・ウール・ゴウンだとしたら。王国への揺さぶりを行ってるのはモモンガさんか、残っているギルメンの遺志なのか?)

「ウカリ、様。紅茶で、ございます」

「……あ、ああ、ツアレ。ありがとう」

 

そっと差し出された食後の紅茶を見て我に返る。

向かいのジュンノに対しても紅茶を配膳するツアレの姿があった。

彼女はメイドの様な使用人の服を着用し、局員達の手伝いをしているのだ。

女性用の帽子を被っているが、その為か髪の毛が茶色になり顔立ちも全く別人になっている。

元々は局員用の結構高価な変装道具を、身元がばれないようにツアレに貸与した結果だ。

 

(あんな目に遭い続けたのだからもう少し休んでいていいのだと言ったんだけどな)

 

スメイロトは見ていた。

ほんの少しだけだが、彼女の手が震えていたのを。

 

(いくら助けた側とはいえ、男になんて近づきたくないだろうに)

 

手伝いをするのは、また捨てられたくないという無意識の行動。

スメイロトに世話と言う形で近づくのは自分を助けた主であり、生殺与奪を握られているから。

今の身一つの彼女の立場を思えば、かつての経験も併せてそういう心理になっても仕方はないとは思える。

 

「ツアレ」

「っ」

 

下がろうとしたツアレの全身がびくりと揺れる。

抱えていたトレイが少し滑りそうになっていた。

 

「そう怯えなくても大丈夫。君を一度助けた以上はちゃんと面倒を見るから」

「は、い」

「我々は明日、帝国に帰還する」

「……」

 

ツアレは黙って、こちらを見ている。

ジュンノの方からチクチクとした視線の圧を感じる。なぜだ。

 

「帝国に帰還する以上、君をここには残せない。君が誰に狙われているかは明白だからだ」

「……は、い」

「君を帝国に連れ帰り、帝国の地に住まわせる事になるが……君はそれでいいか?」

 

もう、この王国に戻れることはない。

そう言外に告げるが、意外な事にツアレの返答は早かった。

 

「それで、かまいま、せん」

「……そうか。分かった」

 

ツアレの返答を聞いて、スメイロトは一口分紅茶を飲んでから更に続けた。

 

「従者から渡された、その帽子を王都から出るまで決して外してはダメだよ。窓際に出るのも外出も禁止だ」

「……」

「君を持ち運んだ時には誰も見つからなかった。ここに君が居る事を知る者はこの建物に居る者以外居ない」

「……はい」

「それが一番大事だ。従者の指示に従い、明日まで色々と我慢して欲しい。私からは以上だ」

「承知、しまし、た」

 

ツアレは深く頭を下げた。

ジュンノの方から視線の圧が増大したのを感じる。なぜだ。

 

 

その後、スメイロトは午前の用事を済ませた後でそそくさと屋敷を出ることになる。

目指す先は高級宿屋の傍にある王都ではそれなりに有名な喫茶店。

スメイロトは王都から離れる前に、ここで出来た友人に食事をしながら別れを告げるつもりだった。

 

 

その、筈だった。

 

 

 

 

 

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