アイ・ライク・トブ【外伝更新中】   作:takaMe234

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誤字修正の方々に、この場を借りて感謝を。

※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
 
 アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
 また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。




モモンガさんちょっとタンマ! 中編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、彼女の心配性も困ったもんだ」

 

人通りもまばらで、開店してる露店も少ない通りをスメイロトとブレインは歩く。

普段一人で出歩く彼がブレインと一緒に歩いているのは、ジュンノが無理に連れて行くようにと念押ししている為でもある。

 

「奥方は貴方を心配しているんですよ」

「彼女からの心配かぁ……カクさんよ、君は恋愛ってした事はあるか?」

「ないですねぇ。それこそ故郷に居た頃から」

 

ブレインの返答は極めて端的だった。

 

「夫婦の組み合わせなんて年寄り連中が村の都合で決めてたし、自警団が廃棄した中古の剣を手に村を飛び出してからは剣が恋人でしたよ」

「え、君、童貞?」

「んな訳ないですよ」

 

無遠慮な突っ込みに、苦笑いしつつ青髪の男は語る。

 

「戦場に行く前の景気づけや、決闘に勝って高ぶった時には娼館の女を抱きましたよ。でも、あいつらに特別な感情なんて抱きはしませんでしたね」

「へー、君にとっちゃ女より剣ってか……」

 

分かってはいた。

この男は剣しか見てない。

剣で己をどこまで高められるかしか、興味が無いのだ。

 

「いいね。私は君のそーいうところが好きだ。半端な私にゃない、拘りってものがある」

「え。そうですか? 旦那だって、色々こだわりがあるじゃないすか」

「そうか?」

「そうっすよ。と言うか、なんで最初に恋愛したとかなんとか聞いたんです?」

「ん……いや、俺も恋愛をした事が無いからだよ」

「え、マジで? 帝都じゃ結構浮名を流してたって話では」

 

ブレインが意外そうにスメイロトを見る。

噂話だが、彼が雇われる前は帝都の高級娼館の常連だった彼がしたことがないと。

その点を問われるとスメイロトは苦笑いを浮かべる。

 

「あれはまぁ、俺が放蕩者であるというイメージ付与と、その放蕩者がふらついてるのを刺客が狙う様にってやっただけだわな」

 

何度か殺されかけた事を除けば国庫から出る金で高級娼婦を侍らせ、酒池肉林な豪遊をできたいいお役目とも言えた。

娼婦に成りすましたイジャニーヤの頭領たる女を色んな意味で退けてからは刺客が来ず、通う意味もなくなり予算が停止しお役御免になってしまったが。

その後も自費でチョコチョコ通ってはいたものの、ジュンノが来てから「嫁を抱かずに娼館通いとは何事?」という感じになって止めてしまった経緯がある。

帰宅すると寝室で待ってて無言で圧をかけてくるのは堪えた。

法国の花嫁修業って何だろうと思った。

なお、この様な圧迫は法国の花嫁育成カリキュラムには存在せず、ジュンノのオリジナルだ。

火の神官長辺りにばれたら即時呼び戻されて説教及び再教育ものだろう。

 

(この辺、前世といい今世といい、縁が無いというか)

 

どうにも、自分と言う男には異性愛という縁が無いのかもしれない。

兄たるジルクニフもその辺ドライであり、後宮には側室が唸るほど居るがロクシーを含め全てに対して情を感じていない。

酒の席で寂しさとかは感じないのかと質問してみた事があるが、支配者とはそんなものだろうと鼻で笑われている。

兄曰く、半端に身内に情をかけるからランポッサ三世の様に後継者争いが長引いた挙句、内患の中心であるバルブロが好き放題しているのだと。

あんな過ちを犯すぐらいなら、最初から情けなど必要ないとジルクニフは断言していた。

 

(全く、異世界に行けようがどうにもならん事もあるもんだ)

 

気鬱になって来たので、スメイロトは話題を変える事にした。

 

「そういえばカクさんよ、どうしてガゼフに接触しなかったんだ? 宿敵なんだし、少しは話しておきたい事もあっただろうに」

「あー……そりゃ、必要が無かったからですよ」

「え、そうなんだ?」

 

御前試合で敗れて以来、ずっと執着していた男に対するそっけなさにスメイロトは少し驚いた。

事実、ジュンノの報告では王都滞在中ブレインは任務を除けば自己研鑽に励み続け。

一度だけ王都内にあるとある剣士の道場の様子を見に行き、それすらも以後は近寄るそぶりすら見せずにいた。

 

「わざわざ語り合う必要はないんです。俺とガゼフが逢うべきは戦場で果たし合う時だけで十分だ」

「……大した自信だ。その心は?」

 

スメイロトの問いに、ブレインは一言で返した。

 

「ガゼフには、純粋な剣術であれば勝てる。俺は、剣士としてあいつを越えた」

 

勿論、戦いの最中での駆け引きやガゼフを戦士長たらしめている武技による勝敗の逆転はあり得るだろう。

それでもブレインは確信していた。自分は剣を扱うものとしてガゼフを越えたと。

 

「ヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファン相手だって、今なら互角にやり合える自信がある」

 

最近、直弟子である高弟達と共に市内の巡回を自主的に始めた元アダマンタイト級冒険者の老剣士。

老境に至るまで剣を極めた男と、もう既に同じ領域に居る。

これはブレイン・アングラスの自尊心を大いに満たした。

あの老人が至った場所に今自分は居る。まだ若年の自分が。

 

「諸国最強のガゼフを越えた俺はもっと先に行ける。行けるはずだ。旦那、あんたが与えてくれた機会のおかげで」

 

スメイロトからユグドラシル式、法国式に言う『れべりんぐ』の教えを受け。

トブの大森林の亜人のボス達と討伐、秘密裏に行われた竜王国への支援作戦におけるビーストマンの部族長達との決闘。

更にカッツェ平原にあった秘匿遺跡(猫カフェ)において、残置されていた魔神(lv32の狂った量産型猫メイド)との死闘を経てブレインは壁を越えた。

 

「ヴェスチャーの、逸脱者の、その先の伝説ですら居ない超越者って存在を目指してみせる」

「………」

「それまで、あんたの為に剣をいくらでも振ってあげますよ」

「ああ、そいつは、ありがたいねぇ」

 

不遜としか言いようのない態度だが、スメイロトは不思議に不愉快を感じなかった。

 

コイツはどこまでいけるんだろう?

スメイロトがブレインを気に入ったのと、周りにあれこれ言われても雇い続けているのはまさにこれだ。

病的と言えるほどの向上心と、天性の剣を操るセンス。

これがもし人間最強やガゼフ、ローファンだとしたら雇う事の利便性は考えても興味は抱かなかった。

強くなりたいという、子供じみたシャカリキさ。

それが何というか見てて飽きないのだ。その純真なまでに強さを乞い求めるスタイルはスメイロトにはないから。

 

(俺の首を切り飛ばせなくて何回も居合をして、それでも飛ばせなくて半月落ち込んでいた時には考えられなかったなぁ……)

 

ガゼフ用の切り札を私の首に浴びせてみろと言われてやったら何度やっても切れず。

「顎と首で白羽取りは出来ずとも、表皮が断ち切られなければ安泰じゃ」とどや顔で言われ、二週間ほど与えられた客間で引き籠っていた。

とはいえ、今のブレインの躍進とスメイロトの関係の良好さを思えばいい思い出になるのかもしれない。

しょうもない好奇心で危うくブレインを潰しかけたスメイロトは、やや無責任な考えで過去を誤魔化した。

 

「あ、そうだカクさん。昔話で聞いたけど、鬼退治する前にやるゲン担ぎって知ってるか?」

「へぇ、どういうもんで?」

 

ブレインの返しに、スメイロトはどことなくいやーな笑顔を浮かべて囁いた。

 

「その土地で一番のシコメを抱くと宜しいんだとさ」

 

生き試し以外の価値がわからん、つまりはそういう事なんだろう。

 

「あ、今、少し悩んだな?」

「ち、違うっすよマジで! それぐらいで勝てるならやりますから抱けますってば!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

呼び出しのメッセージが来るまで、その辺をぶらついていますよと離れていったブレインの背中を見送り。

スメイロトもとい帝国の商人たるウカリは予定通りの時刻に喫茶店へと入店した。

 

「ご予約のプリテンダー様はまだいらっしゃっておりません」

 

ウェイターに自分の名前で予約を取っていた二階席のテラスへと案内されるが友人はまだ来てない様子。

 

「そうですか、では、中で待たせて貰いますよ」

「かしこまりました」

 

紅茶を飲みながら待つ事暫し。

最初の一杯を飲み終えた後で、懐中時計を取り出す。

予定の時刻から16分。少し遅れている感じか。

 

(待ち合わせ時間は、きちっと守る方の人だけどな……衛兵でも絡まれてるんだろうか?)

 

派手な格好だから、不審者扱いで詰問されているのかもしれない。

ふふふと笑いながら、もの思いに耽る。

ふと、ブレインからの質問が脳裏を過った。

 

(恋愛をした事がない、か)

 

スメイロトは誰かを愛した事がない。

前世も、今世も。

少なくとも、本人は自覚していない。

 

(兄貴に対しても家族愛は無いと思う……支配者として、政治家として尊敬してはいるけど)

 

ならば、現在形で内縁の妻となっているジュンノは。

 

(わからない。相手は期間限定での内縁関係で、どの道俺の元から去っていく女だ)

 

最初の頃のアルカイックスマイルを浮かべていた時の彼女。

面倒ごとに関わらせてしまったあとのしかめっ面。

トブの大森林で穫れた珍味を食べた時の驚いた様な顔。

完成した大風呂に一緒に入った時の寛いだ顔。

閨の暗がりの中に浮かぶ、顔を赤らめ満たされた様な彼女の寝顔。

 

(そうだ。ジュンノが俺の傍に居るのは法国の花嫁だからだ。政略結婚の相手としての)

 

それが敢え無く手元から消える事をスメイロトは知っている。

彼女の役目が満たされれば、子供が出来ればジュンノは彼の前から消える。

最初にあった時の綺麗に作り上げられた微笑みを浮かべて迷う事もなく背を向けて去るだろう。

 

(それ以上でもそれ以下でもない)

 

そして次の法国の寵姫が送られてくるのだ。

ジュンノと同じことを繰り返す為に。

 

(彼女にとっての俺は、それだけの存在でしかない)

 

分かっている。

 

『私の務めは、法国と人類の未来の為に貴方の子を授かる事です』

 

これは政略結婚なのだ。

バハルスは魔樹討伐の借りと今後の人類国家の安全保障の枠組みの為。

スレインは神人の確保とスメイロトの戦力の貸与の為。

国家間のギブアンドテイクの結果であり、そこに夫婦の情は必要ないのだから。

 

 

 

『本当に莫迦な子ね。あの御方の血を引いてないお前なんて、どれほどの価値があると思ってるの?』

 

『女が寄って来ても、それはグループの富、家柄、権力があってこそよ』

 

『自分の男としての価値? はっ、思い上がりも大概にしなさいな■■。お前そのものを見て好意を持ってくれる女なんて居はしない!』

 

『あの御方、そして私の駒は、小賢しく余分な事など考えず駒らしくありなさい』

 

 

思わず、強くテーブルを叩いてしまった。

 

「……クソが!」

 

前世の毒は、世界を渡っても尚スメイロトの精神をジクジクと蝕む。

こういう時だけは、前世の記憶なんて転生したタイミングで消えていれば良かったと思う。

 

「黙れってんだ……クソッタレの、お母様がよぉ……!」

 

畜生、あの皇妃め。無残に失脚させて刑死させてやったのは本当に気分がいい。ざまぁみろ。

前世の母親とやらも親父が死んだ後の御家騒動時に破滅したが、どうせなら自分の手で皇妃の様にしてやりたかった。

自分が手を下す前に弩畜生の兄の手で『芸術品』にされてしまったので、前世での心残りの一つは間違いなくそれだろう。

流石に見た瞬間に嘔吐する様な前衛的オブジェにされた母親には、さっさと殺してやろうという気分ぐらいにはなってしまったが。

その殺してやる役割も、高笑いしながらオブジェを凌辱するあの狂いきっていた兄に取られてしまったのが悔やまれる。

 

「はぁ……」

 

嘆息を深々と吐き、スメイロトはテーブルに突っ伏した。

直後、外の通りで激しい破砕音が響き、振動によってテーブルのカップがカタカタと揺れる。

 

「おい、どうしたんだ!?」

「馬車が壁面に突っ込んだ! 子供が巻き込まれている!!」

 

ノロノロと上半身を持ち上げ、テラスの手すりから下の通りを見る。

 

「た、助けてぇ!!」

 

見れば、重量オーバーの荷重によるものか車輪の片方が折れた馬車が喫茶店の隣の建物に突っ込んでいる。

近くを運悪く歩いていて巻き込まれたのか、車体の下の隙間から子供の上半身が出ていて助けを求めていた。

今はまだ何とか隙間が維持されているが、車体に乗せられた荷物の量を見るに長くは持たないだろう。

 

「だ、誰か持ち上げるのを手伝ってくれ!」

「む、無理だよ。馬車の荷物が多すぎるし、下手したら倒壊に巻き込まれるぞ」

 

何人かは助けようとしているが、荷物の大きさ故に何時馬車が崩れ落ちてもおかしくはない。

人だかりは出来てはいるものの、ほとんどは及び腰であり何時まで経っても救助は行われそうになかった。

このままであれば、馬車の倒壊と同時に哀れな少年は圧し潰され圧死だ。

 

「………ったく」

 

小さく屈伸運動をしてから深呼吸。

テラスの手すりに手をかけてそのまま飛び降りようとし。

 

「失礼。私が助けましょう」

 

眼下の人だかりが一瞬で割れ、馬車の傍に一人の執事が現れたのをスメイロトは見た。

 

「…………ぇ?」

 

そこに居たのは老年に差し掛かりそうな年齢の執事だった。

しわぶき一つない漆黒の燕尾服に身を包んだ厳粛な雰囲気の執事は、傾いた馬車の荷台に手をかけると。

 

「よし、では、そこの方。少年を引き出してください。そっとですよ」

「あ、は、はいっ」

 

成人男性が数人がかりでも持ち上げられるか怪しい馬車の傾きを、執事は片手ですっと持ち上げた。

近くに居た中年の男が慌てて動き、何とか動けるようになった少年に手を貸して馬車の下から引き出す。

 

「す、すげぇ……あの荷物満載の馬車を片手で引き上げたぞ」

「あの人助けのセバスさんだろ? 力持ちって有名だけどどんだけだよっ」

 

事もない仕草で彼は傾いてた馬車を固定し、これ以上倒壊しない様にする。

たちまち周囲は彼に対する賞賛に包まれ、老執事は少年に大した傷がない事を確認すると会釈してその場から離れていく。

あっという間に人助けを終えた彼を群衆が褒め称える中。

 

「………………マジかよ」

 

飛び降りようとした姿勢のまま、スメイロトは遠ざかる執事の姿を凝視していた。

何故かその後姿を、そこらをぶらついている筈のブレインがまっすぐに追いかけて行くのが見えたがスメイロトには気が回らなかった。

 

(セバス・チャン。ナザリック第九階層の責任者。たっちさんが作ったNPC)

 

 

『何というか、イングリッシュな感じの装いになりましたね。主にも諫言を躊躇わないみたいな?』

『執事というか、家令というものはそういうものだと思ってるけどね私は』

『身内にも厳しい感じはたっちさんに被りますね』

『厳しいとは違うけどね。と言うか、君は私の事そういう風に見ていたのかい?』

『え、あ。いや。で、でも、そういう割にはプロフィール短すぎません? もうちっと頑固な老執事って感じの設定を細々と……』

 

ナザリック第九階層のたっち・みーの私室で、セバスのクリエイトの試案を見た時が脳裏を過る。

 

 

「セバス・チャン、たっちさんの……王都に、来ていたのか?」

 

 

思わず呟いたその一言は、

 

 

「……今、セバスって言ったな?」

 

 

スメイロトにとって致命的だった。

 

「え、な、プリテンダー、さんっ!?」

「いやはや、少し遅れたら二つもビックリする事が起きるとは」

 

黒いスーツ姿の男が、黒のパナマハットの下に鋭い眼光を秘めたまま部屋の入口に立っていた。

プリテンダーが小さく何事かを呟くとドアが自動的に閉ざされ、ガチャリと施錠する音が響く。

 

「後、たっち、とも確かに言ったよなあんた」

「いや、その、お、俺は」

「動かないで」

 

背後から制止の声がかかり、背中に何か筒の様なものを押し付けられる。

何時の間にか、真後ろを取られていた事にスメイロトは驚愕した。

 

「確かに貴方は言ってたよ、セバス・チャン、たっちさん、と。ごまかしは許されないからね?」

 

真横からするりと顔を出して来た女を直視し、スメイロトは驚愕した。

 

「悪魔!?」

 

長く伸ばした白髪に一房の黒髪。

黒いドレスと羽織った灰色のジャケット。

何より特徴的な角を白髪の間から覗かせている美貌の少女。

それは可憐な少女であったが明らかに人外だった。

 

「へぇ、やっぱり御同輩だったか。あんたも中身はユグドラシルの元プレイヤー、ってとこかバハルスの皇帝陛下の弟さん?」

「……そこまでばれてるか」

「プライバシーを探ったのは悪かった。が、あんたも、あんたの周りも普通じゃないからつい探ってしまった」

 

あんたの連れが中途半端に優秀だからついつい覗いてしまったと。

軽く頭を下げた後で、プリテンダーはスメイロトを凝視する。

 

「しかし、腑に落ちないのはさっきの執事。セバスの事を知ってるって事だ。あれを知ってるのはアインズ・ウール・ゴウンのギルメンだけ」

 

プリテンダーはツカツカと近寄って来て、スメイロトと視線を合わせた。

 

「あんたは、何者なんだ。ひょっとして、俺の知っているプレイヤーなのか? ……それとも」

 

スメイロトは息を呑んだ後で、覚悟を決めた。

もう、言い逃れも嘘も通じない。

近くに居る悪魔は確か魔将クラスだ。

絶対に逃げれようがない。

 

「俺はアイダホ・オイーモ」

 

腹をくくるべきだろう。

 

「あなたは、ウルベルトさんですよね?」

「……え……………マジか」

 

金色の瞳が僅かに揺れた。

共犯者とはいえ前世で撃ち殺した相手と、異世界の先で再会するとはさすがの大災厄の魔も予想だにしなかっただろう。

 

「そうですよ。オフ会の時、俺が最初の一杯を全員に奢るって言ったら真っ先にヒシャ・ハイボールを頼みましたよね?」

 

どこか、安堵した口調でプリテンダーは苦笑し。

 

「……変な事覚えてますねぇ。いや、俺が頼んだのは確かにそれだけどさ」

 

ウルベルト・アレイン・オードルは頭を掻きながら魔将ベレトに指示を出した。

 

「ベレト。銃を下ろしてくれ。彼は……俺の友人だ」

 

 

 

 

 

 

  

 

 

(もう、わけわからん)

 

蒼の薔薇との会合を終えた後。

事件の調査を名目に姿をくらませた漆黒はとある屋敷に来ていた。

王都の内情調査の為にセバスとソリュシャンが借りていた場所である。

 

「納得いかないでありんすぇデミウルゴス! 何故に妾が後備で荷役扱いに!?」

「そ、そうですよデミウルゴスさん、僕も頑張って作戦に貢献したいのに合図役と荷物運びだけなのはどうしてですか?」

 

その広間では今や、守護者たちの口論が最高潮に達しようとしていた。

 

このリ・エスティーゼ王国王都での作戦。

何時の間にかデミウルゴスが進行させ、既に明日の夜には作戦を発動できる手筈が整っているという。

アインズとしては、一体いつの間に作戦を進めていて、しかも何故か自分が全てを把握してるかの如く悪魔が言うのでもう理解不能としか言いようがない。

……もっとも、彼が執務室で適当に流し読みしていたデミウルゴスからの提案、作戦企画書をピンポイントで全て採用サインを押してしまった結果だから自業自得だ。

 

そして数十分前にアインズが、

 

『デミウルゴスよ、ここに居る皆に分かりやすく、順序だてて説明してあげなさい。最初から最後まで丁寧に、な?』

 

と最上位悪魔が考えている事を今更ながらに知ろうとした結果がこれである。

 

作戦名はゲヘナ。

作戦内容はシンプルだった。

 

①八本指の幹部を拉致、ナザリックに送り王国支配への布石の為に第五階層で教育。

②八本指への工作を隠蔽する為の大規模な市街戦の実施。

③今後の類似作戦への布石として『悪魔ヤルダバオト』のプロデュース。

④市街戦を想定している区画内の資源、人員、財産を収奪しナザリックで確保。

⑤ヤルダバオトに対抗する冒険者モモン、という構図を作り出し王国及び周辺国における英雄と悪魔の対決イベントを確立。

 

ここまでを守護者達、プレアデス達を前に朗々とした口調でデミウルゴスは語る。というかまだ語ってる。

 

アインズは思った。

全部初めて聞いたしなんでそんな大事になってるのこれ?と。

確かに王都への調査は必要だとセバスとソリュシャンを派遣したのは覚えてる。

八本指のゼロだかマルム何とかを捕まえたのはいい機会だから、連中を今後の為に利用しようとも提案した。

 

(まさかこんな大事になるなんて……今後はちゃんと、書類には目を通しておこう)

 

アインズの困惑と後悔を余所に、デミウルゴスの説明はいよいよ作戦への参加者の役目の割り振りとなる。

 

参加するメンバーは階層守護者からは、デミウルゴス、マーレ、シャルティア、セバス。

戦闘メイドのプレアデスは仮装した上で、悪魔ヤルダバオトの従者達という設定で参加する。

他にも監視及び情報収集役としてニグレドが参加する訳だが……口論になったのは主力部隊が殆ど悪魔で構成されていた点だ。

 

ゲヘナは火の壁の幻術で覆った区画に大量の悪魔をデビルロード達により大量に召喚及び放出。

それらを暴れさせている間に、区画内部の収奪と輸送をシャルティアとマーレが行う訳だが二人はそれに不満を示した。

 

「これじゃ、自分達がわき役じゃないか」と。

確かにデミウルゴスが主導した計画だし、使い捨てが利き証拠も残らない召喚悪魔が主力な訳だから仕方がない。

だが、まだ精神的に幼いともいえる二人にとっては不満が有り余る配役なのだ。

その辺をデミウルゴスから正論と整然とした理論を以て語られても、感情的に納得できず不満を反論として返している。

このままでは、シャルティア辺りが暴れかねないな、と判断したアインズはすっと右手を挙げた。

 

「騒々しい。皆、静かにせよ」

 

ピタッと言い争いが止み、守護者たちの表情が焦りと恐怖に彩られていく。

自分達の口論が主人の勘気を買ったのか、と今更ながらに思い至ったのだろう。

 

(あ、やばっ。練習通りの台詞を言っちゃったよ。もうちょっと優しく言うべきだったか……まぁ、いい。次に上手く繋げよう!)

 

こほんと咳を必要もないのにし、アインズは大げさとも言える仕草を取り全員の視線を自分に集める。

 

「確保と輸送も大事な役割なのだ。この経験は何れ次の作戦への糧となる。マーレもシャルティアもその事を心得よ」

 

まずは一般論を語り体裁を取り繕う。

 

「それに、他にもシャルティアとマーレに相応しい役割がある……そうだろうデミウルゴス?」

 

次にもっともらしいパスをデミウルゴスに投げて纏めさせる。これでヨシ。

事実、デミウルゴスは承ったと言わんばかりの笑顔を向けてきた。

 

「流石はアインズ様。全てお見通しなのですね」

「お、お見通し……どういう事なんですかデミウルゴスさん?」

「ああ、ちょっと待ちなんし! 今、メモ帳を出すからっ」

 

期待に目をキラキラさせてるマーレ、そして最近メモ書きを習慣付け始めたシャルティア。

二人に対して、デミウルゴスは表情を引き締めて語り始める。

 

「ゲヘナの作戦には追加の目標があるのだよ。ここ暫く、我々の手先となる予定の八本指を襲撃している者達が居る」

 

ゲヘナ作戦を策定するに辺り、やや支障が出るレベルで王都を掻き回している存在が居る。

デミウルゴスも手勢のシャドウデーモンや、偵察系の悪魔を召喚し警戒させていたが捕捉に至っていない。

 

「私が思うに……プレイヤーの存在である可能性が高いのだよ」

 

プレイヤー。

この世界の人間どもなど比較にならない強大な存在。

その言葉に広間の緊張が一気に高まる。

 

「なるほど、私が依頼で受けた件も下手人はプレイヤーかNPCである可能性は高いという事か」

「仰る通りでございます。マーレとシャルティアには、作戦中にプレイヤーが出現した場合、捕縛の役割を与える予定です」

 

悪くない、とアインズは考えた。

守護者最強格のシャルティア、そして攻撃力と多彩な魔法の運用で言えば彼女に伍せるだけのスペックを持つマーレ。

たとえカンストのプレイヤーであっても、このコンビであれば負けることはないだろう。

万が一に備えてワールドアイテムを装備させ、戦闘時には増援と各種支援も追加する必要はあるが。

 

「デミウルゴス。捕縛と言っていたな? 私も可能であればプレイヤーをナザリックに引き入れたいと思っている」

「……対話で、ございますか」

「ああ、強力な味方は欲しいし、我々と対話をしてくれるのであればな。だが……相手にそのつもりがないのならば」

 

眼窩の奥で光る赤い炎を強く煌めかせながら。

アインズはデミウルゴスに低い声でこう告げた。

 

「ナザリックに対して反抗的、敵対的であれば、処遇はお前に全て任せる」

 

デミウルゴスは満面の笑顔で返答した。

悪魔らしく、口の端を裂けんばかりに吊り上げながら。

 

「お任せください。私が適切に『処遇』致します」

 

 

 

 

 

 




デミウルゴス、かつての創造主の調教イベントフラグ?
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