※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。
廃館となった奴隷商人の商館の屋上。
既に寛ぐ人々も居ない朽ちたテラスで、二人の男が語り合っていた。
「……そうか。失敗したんですか」
「すみませんね。死んだ後の事も考えてあれこれ手筈を整えてくれたのに」
「はは、手筈と言っても、実家を、特に糞兄貴殿を誤魔化しつつだから微々たるものですよ」
手にしていた古びた扇子を放り投げながら、スメイロトは苦笑した。
「俺がくたばってから1年後ですか……アーコロジーの基幹施設まで侵入出来たのはウルベルトさんの手腕と執念の賜物です」
「ええ、でも、失敗しました。アイツが来なきゃ……上手くいけたかもしれなかった」
「……たっちさん、ですか」
「はい、アイツです」
少しだけ、二人とも言葉が詰まった。
ウルベルトにとっては、ライバルであり倒すべき相手。
アイダホにとっては、良き知人であり尊敬してて……二人の計画の障害になると予想してた人物。
「怒ってましたよ。アイダホさんを殺した事を」
「気づいてたのか。たっちさん」
「色々調べて、俺が犯人だって気づいたみたいです。……ネット越しでも散々やりあったけど、あれほど怒ってたのは初めてでした」
「……怒ってたんですか。たっちさん。俺の事で怒っていたのか………はは………そっか」
家族でも親類でもない。
ただ同じアーコロジーに住んでいるだけの知り合いの事で。
同じアーコロジーの住人でも、少し地位が違うだけで人間扱いしないようなあんな世界で。
(■■さんも、■■ちゃんも、悲しませちゃったかなぁ)
3人とも、本当にいい人達だった。
あの家族に出会えて、自分は家族愛というものが実在する事を確信した。
三人の家族に憧れていて、同時に羨み嫉妬していた。
どうして自分は、温かい家庭に生まれなかったのかと。
どうして自分は、人間の醜悪を煮詰めた蠱毒の様な一族に生まれてしまったのかと。
その感情こそが、異世界に渡っても尚スメイロトを苦しめているのに彼は気づいてない。
その日の朝。
八本指の部門の長が集められ緊急の会議が行われた。
理由は長らく行方が不明だった警備部門の長たる『闘鬼』ゼロからの呼集。
『王都における八本指の問題を全て解決できる用意がある』
謎の襲撃者に対する手立てに苦慮を極めていた八本指の幹部達は、彼からの呼び出しに応じた。
応じてしまった。
彼らの中には他人を日常的に騙していた人物も居ただろうに、何故気づかなかったのか。
丁度いいタイミングで解決法があると申し出て来る都合のいい人物には大概悪い意味で裏がある、という事に。
「【ひれ伏したまえ】」
涼やかな声音の一言で。
王国の裏社会を牛耳っていた組織の幹部達は悉く無力化された。
会議場の床に額を擦り付け、文字通りの平伏で待機している。
腕に覚えのあるものは何とか動こうとするが、まるで金縛りの如く指先すら曲がりはしない。
それだけではない。ナッツの焦げた様な匂いがしたかと思った瞬間、口から言葉を発せられなくなっていた。
幹部の中には毒を警戒して耐毒のマジックリングを装備している者もいたが、その幹部も声を発せられなくなっている。
毒か? それとも魔法? 原因不明の力によって完全にひれ伏す事しかできなくなった幹部達の恐慌は高まるばかりだ。
「ふむ、結構。やはり人間はこの姿勢が一番お似合いと言うものだ」
突如として会議場に入って来た男。
誰何の言葉すら発させずに会議場に居た人物全員を平伏させ、オレンジのスーツ姿の男はどこか満足げに頷いた。
これが一番いいだろう、みたいな感じで。
「ゼロ君、君も隷属としての自覚が出てきて何よりだ。よく彼ら全員を集めてくれた。おかげで手間が省けたよ」
視界の端で他の幹部達同様、ゼロは平伏し剃り上げた頭部を地面に押し付けている。
否、彼だけは強制効果だけでなく、自分自身の摺り込まれた習性で従っているのだ。
他の幹部であれば呪いを解かれれば逃げるか戦おうとするだろうが、ゼロのみはそのまま動こうとしないだろう。
彼は上位者が「立つことを許さなければ」例え殺されようが、決して動いてはいけないのだと躾けられてる。
かつての警備部門長としての精神性を念入りに粉砕され唾を吐きかけられ足蹴にされ。
それにゴキブリの糞を流し込み念入りに混ぜた後、歪に再成型されたかの様な今のゼロはもう幹部達の知るゼロではなかった。
「さて、私がここに来た理由は一つ。八本指の再定義。この組織を我々の偉大なる御方がリ・エスティーゼ王国を掌握する為の手駒と為す為に。異議はあるかね?」
本来なら嵐のような反論や罵声が飛んで来ただろうが、幹部達に出来る事はただひれ伏すだけだ。
「……異議はない様だ。では、決定としようか」
五秒ほど待ってあげた男は、彼らの沈黙を肯定と見做した。
勿論事実はそうでないのは男も理解していたが、だとしても人間の意思なぞいちいち気にする必要などない。
ただねじ伏せ、屈服させ、身の程を弁えさせ、ナザリックの駒として再利用できればいい。
「皆様とのお話わ終わりになりましたでしょうか?」
「ああ、勿論だとも。このように全員快諾してくれたからね」
新しい存在が姿を見せた。
白い道化の装束に黒く禍々しいカラスの面を付けた奇怪な雰囲気の男だ。
スーツ姿の男の返答に、男はどこかお道化た様な仕草で喜びを示す。
「それわ重畳でございますねっ、これで幸福をより大きく出来るというものです!」
両手を高く広げて朗らかに言うが、彼の言う幸福と言うのはナザリックの事だ。
決して八本指はその範疇に入っておらず、寧ろ八本指を不幸にすればそれをナザリックの幸福へと変換できると堅く信じているのだ。
「承諾を得た事だ。ゼロ君と同じ場所で『洗礼』を受けさせるとしよう。トーチャー達を連れてきたまえ」
「承知いたしましたっ。ほら、みんなそんな緊張をする必要わありませんよっ。スマイルスマイルっ」
平伏したままの幹部達は、男達の会話を聞いて自分達に生き地獄が迫っている事を自覚したがどうにも出来ず。
やがてやってきたトーチャー達に連れられ絶世の美姫が開いたゲートによって『どこか』へと移送された。
そのゲートへはゼロのみが入る事なくただ一人で会議場に残った。
そして数時間後、長い会議が終わり幹部達は各々の部門の拠点へと戻っていく。
彼らはゼロを除き、見た目と記憶を模倣しただけの偽物だと知っているのはゼロだけだった。
例外的に、こっそりと覗いてた者達を除いて。
「いよいよ動き始めたなデミウルゴス」
スラムの隠れ家。
元は八本指のアジトの一つだったのを、プリテンダーは私的な拠点として利用していた。
表側の詰め所には八本指の構成員が居て普段通りの活動をしているが、暗示によって裏の空き倉庫が勝手に使われている事を誰も認識できていない。
プリテンダーはこの様に敢えて八本指のアジトを利用する事で彼らの捜索を難無くかわしている。
「第五階層行きとは哀れだな八本指共も。俺に捕まった方が慈悲はあったかも……アイツが設定よりも悪魔っぽくなってりゃそうもなるか」
「アーチデヴィルだからそりゃね」
「敵に対しては容赦がない、とは書いたけどな。いや、俺のテキストだけでああもなるのか? 相手がいくら人間だからって?」
悪魔にとって人間とは基本下等生物だ。
殺して楽しいか、甚振ったり玩具にして楽しいかどちらか。
(一番世の中に対して荒れてた時期に設定考えてたからな。俺が思ってるよりも本質がやばくなってる可能性もあり得る)
デミウルゴスの悪魔としての苛烈さについて、プリテンダーは自分の作成した頃の感情が影響してるのではないかと懸念していた。
丁度、あの頃は対企業連合の組織と繋がりを作り構成員となっていた頃だ。
彼の理不尽な社会システムへの怒りが、一番苛烈だった時期でもある。
そんな時期に作り上げた存在に、悪意やら憎悪やらが内包されていたら……という懸念だ。
(デミウルゴスが魔神化している可能性か。今のところ、可能性としては低いが……)
プリテンダーは魔神、かつてのユグドラシルNPCとは何度か対峙している。
眼前で一瞬だけ正気を取り戻し自害した一体も含め、例外なく全て狂っていた。
そして自害した一体も、製作者の設定と作り上げた時の思いに幾重にも縛られていた。
『わ、たし、は、あr、じさまのもとへ、m、まいり、mす』
「………はぁ」
「ふぅん……どうしたの? 悩み事?」
プリテンダーはああと生返事を返し、テーブルに広げてある王都の地図を見やる。
「いや、ここに来てままならんことも増えたって事だよ。不肖の息子の事も、ちょいと優柔不断な友人の事も」
「溜息はついても、彼を巻き込むんだ?」
「俺も望んだし、彼も望んでくれた。それで十分だよ」
確認の言葉を発した魔将に、プリテンダーは即座に答えた。
「それに、今のままじゃ兵力が足りない。お前たちを召喚できる時間も数も限られてる状態では押し切られるのがオチだ」
「それほどまでに強力なの? あなたが想定している敵対戦力は」
「ああ、デミウルゴスと親衛隊、第七階層に配置している上級悪魔達を揃えてきたらな」
更に言えば、それらはナザリックの兵力の一部に過ぎない。
最終日の配置がかつてのままであれば、複数の守護者による同時襲撃もあり得るのだ。
戦力差はなかなか絶望的と言えるが、数少ない優越もある。
自分はデミウルゴスを知っていて、デミウルゴスはプリテンダーの正体を知らない。
これは非常に大きなアドバンテージだ。
プリテンダーはこれを大いに活用するつもりである。
「だからこそ、アイダホさんの手勢のスキルが必須だ」
全力戦闘を行うための、膨大な魔力。
プリテンダーが戦闘に使用する魔力。
そして魔将四名をフルで呼び出し更に召喚時間を延長させる為の魔力。
これらの問題を解決するのに【彼女】はうってつけだった。
あれはただのLv42程度のドルイド術師ではない。
大森林に潜んでいた異界の魔樹の系譜に連なる森の異形。
生まれつきの固有スキルを持つ故に今回の作戦において存在が必要不可欠なのだ。
「お前と、上司と同僚二人。全て召喚して運用する。その為の切り札だよ……それに」
「それに?」
壁際で呻いている鎖でぶら下げられた血まみれの肉塊と、次はどこを削ろうかと悩んでいる風なトーチャー。
常人であれば悲鳴を上げるか吐き気を抑えなければならない惨状を前に、プリテンダーと魔将は何事も無い様に語り合い続ける。
「それに、アイダホさんはこっちに来てまでウジウジ悩んでるみたいだからな………いっそ」
ニヤリと、どこか悪ぶった顔でプリテンダーは嗤う。
「ここで一気に吹っ切れさせる。それが、俺なりの友情って奴さ」
その日は、本来であればとある帝国商人の一行は王都から出立する予定の日だった。
「どの城門も閉鎖されていて、出立できるかは本日中は不明のままだそうです」
屋敷に戻って来た局員の報告によれば、普段王都外への通用門として使用されている門全てにおいてトラブルが発生したらしい。
曰く、八本指の輸送馬車が門の真下で突如爆発して今も崩落により通行不能である。
曰く、朝方門を開門しようとしたら門の蝶番が全て外れて門があべこべに倒れてしまい、今も復旧中である。
曰く、黒粉で発狂した麻薬中毒者の群れが門の詰め所に籠城し、挙句放火して門の周辺で火災が発生中である。
最後の門は軍や行政、高位貴族の使いのみが通行を許されており他の一般人や馬車の通行は規制されている。
事実上、今の王都は城壁で囲まれた陸の孤島に近い感じになっていた。
「如何しますか、スメイロト様」
「一日待つことにしよう……君の奥の手はまだ取っておく。使ったらもうカヴァーが再利用できなくなるからね」
「致し方ありませんか」
私物の荷物は馬車の方に移動させられており、据え置きの家具のみの客間は聊か侘しさを感じるものがある。
ジュンノはどこか焦燥を感じさせる仕草で、手にしていた漆黒聖典の術具をテーブルに置いた。
「早くこの街を出たいか。まぁ、予言でもうじき焼けますよ、と言われた街になんか長居したくもないのは分かるが」
「それもそうですが……嫌な、感じがするのですスメイロト様」
「それは君の勘か?」
「………はい、占星千里の様な明確な予言ではありませんが」
ジュンノはどこか心細そうに、室内用のドレスの裾を握った。
彼女としては、こんな生地だけが上等な衣服よりも、任務遂行時に着ている聖遺物級の法衣を着ていたい気分だ。
「まるで、あの破滅の竜王と対峙する前の様な、張りつめた雰囲気を感じるのです。このような場所に貴方が居るべきではないと思います」
「……そらまぁ、私も無駄に危険な場所に居るのは好かないけどね。ジュンノ、本当にどうしたんだ?」
「どうした、とは?」
銀色の瞳がスメイロトの兄と同じ赤い瞳を捉える。
普段の毅然とした態度とは違う、どこか不安定で落ち着きのない態度のジュンノが身を乗り出してスメイロトに顔を近づける。
「ちょっと……ジュンノ?」
「私は、不安ですスメイロト様」
顔を近づけるだけでは足りなかったのか。
立ち上がるとテーブルを回り込み、スメイロトが腰かけているソファの隣に座って来た。
そして、顔をグイと近づけて来る。おい、近すぎだよとスメイロトは思った。
「あなたは、最近、どこか遠くを見てるような気がします」
「……」
「帝国でも、王国でも、法国でもない。どこかを」
「……」
「そのまま、スメイロト様が、私の知らないどこかに行ってしまわれそうで……」
「いや、何を言っているんだ君は……」
スメイロトは唖然とした。
ジュンノが潤んだ目でこちらを見ている。縋るような乞うようなそんな面持ちで。
(君、そんなキャラだったか……?)
スメイロトからのジュンノのイメージは、『法国命の大義に生きる女』だ。
今はこうして自分に妻として寄り添っていても、何れは法国の使命である自分との子を為せば迷わず去っていける女……の筈だ。
スメイロトは仕事に徹しきれる女が実在する事を知っている。
娼婦に扮して自分を閨で暗殺しようとした頭領の様に。
数瞬前まで蕩ける様な顔をしてた女が、いきなり自分の喉に毒針を突き立ててきたのはトラウマだった。
結局その時は殺せずに逃走し、性懲りもなく何度か挑んで来た後で何故か娼婦として自分の元に継続してやって来たのは呆れた。
美人だったし色々と具合は善かったからその後も付き合いを続けたが、数か月もした後でぱたりと来なくなった。
あの女も何考えてるのかわからなかったが、ともあれ女には目的の為には男を平然と殺したりできる女もいるという事をスメイロトは学んだのだ。
(女と言う存在は複雑怪奇)
事実、前世の父親は色々と複雑な状況下であったが結局は女絡みで死んだのだから。
自分もユグドラシルのアヴァターが無ければ、元侯爵家令嬢かあの頭領に殺されていたのかもしれない。
ジュンノは……そも、この異能が無ければ出会う事すらなかっただろうが。
「ですから、この様な場に残って欲しくないのです。スメイロト様、早く、帝都の離宮に戻りましょう」
ジュンノの両腕がスメイロトの背中に回り、強く抱きしめられる。
彼女と直接接触した事で、パッシブスキルが発動して彼女の体の情報が脳裏に流れ込む。
強い発汗と興奮による体温の上昇。
そして……スメイロトはすんでのところで驚愕を出さずに押し込んだ。
(あー……)
彼女の下腹部。
そこに宿る、新しい命。
(ついに、かぁ)
それは、ジュンノの任務が達成された証明であり。
彼女が遠からず、スメイロトの傍から去っていく事が確約された事でもあった。
「あ……スメイロト、様ぁ」
スメイロトの両手が彼女の背中に回る。
少し強めに抱き寄せてしまったのは、スメイロト自身にも何故かわからなかった。
抱きしめられ甘い声を上げ、唇を寄せて来るジュンノ。
彼女の下唇を吸い上げながら、スメイロトはこの時間が長く続かない事を察していた。
一昨日から、屋敷の裏手にある庭園の木に同化しているスメイロトの下僕たるニュンペは『準備』を整えている。
王都からの退去が遅延する事を想定していた主から、彼女は根を巡らせるよう指示されていた。
根は毛細であり、王都の内部の地下一帯はおろか、丘の上の城の周囲にすら張り巡らされている。
否、丘の向こう側にある王家が所有している狩猟用の森林地帯にも及んでいた。
本来であれば大森林の一角を立ち枯れさせ、大地の養分も地表の恵みも余さず搾取できる魔樹の業を引き継ぐ彼女にしては大人し過ぎる。
彼女は指示を受けていた。現段階では根を伸ばすのみに留めろと。
本来であれば今のうちに少しずつ吸い上げ、プレイヤーのいうMPを貯蓄しておくべきだろう。
だが、彼女の主は予想していた。王都で事を起こす者達の中に彼女を格段に上回るドルイドが居るだろうと。
今の段階でリアクションを起こせば、相手に探知されてしまう恐れがあると。
故に『事』が起きるまではそのままで待機している様にと命じられた。
彼女の役割は『事』が起きた後の主とその同盟者において反撃の軸になるからだと。
ドライアドの口の端が楽し気に歪む。
彼女にとって主への献身は何よりも重要だ。
帝国の穀倉地帯を肥えさせるのも、願われた怪我人や重病者を癒すのも、この様に王都の地下に根を巡らせるのも。
全ては創造主たるスメイロトの為。彼女の善悪の基準は全て主の為だ。
彼女のスキルによる顕現により王都とその周囲の植物が立ち枯れても、彼女にとってそれは些事であり何ら心が痛むようなことはない。
と、ニュンペの巡らせた根が広範囲で魔力の発現を感知する。
宿った木の頂上に昇り、意識を感知した方角に向ける。
街の一部を覆う様に、紅い火の壁が大きく揺らめいていた。
あ、やっとでばんだ!
ニュンペは無邪気に笑顔を浮かべ、スメイロトからの連絡を心待ちにしていた。
街の中から次第に大きくなる混乱と悲鳴、そして戦いの騒音はニュンペにとってどうでもよかった。