アイ・ライク・トブ【外伝更新中】   作:takaMe234

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誤字修正の方々に、この場を借りて感謝を。

※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
 原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
 原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
 
 アイ・ライク・トブ+蛇足を既に閲覧済みであることを前提として書いております。
 また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。

※息抜きとスランプ抜けをお祈りして。
※多分、3-5話で終わります。
※蛇足との分岐部分
『ジルクニフからの信頼度がちょっと足りなかった』
『スメイロトが斜め上に頑張ってしまった結果』
『遠ざけるには丁度いい位置があの国』
※スタート地点、原作開始から3年位前。ジルクニフが20歳ちょい手前。スメイロトが17歳位。カルカ様が21歳前後。


例の指輪を掲げながらスメイロトさんぼやく。

「愛人とか娼姫とかあんな歪な感じじゃない、普通の結婚生活がしてぇなぁ」

『願いは受理されました』

「えっ?」


セイ王国で理想のヒモ生活()
セイ王国で理想のヒモ生活()  『王配スメイロト・ベサーレス』


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が弟よ、聖王国に行ってあの八方美人聖女と結婚してこい。政略結婚だ」

「え………………あッハイ」

 

全てはジルクニフのこの言葉から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これって、厄介払いだよなー……)

 

離宮の馬車置き場に並ぶ十数台の車列。

貴賓室のバルコニーから従者や使用人たちが荷物をせっせと離宮へ運び込んでいくのを見下ろす。

 

ここは王都ホバンスの郊外に位置する王族が所有している離宮の一つだ。

かつてはローブル聖王国王女カルカ・ベサーレスの兄カスポンド・ベサーレスが所有していた。

だが彼はカルカに王位への道を譲る際に、所有していた幾つかの所領や施設を妹に譲渡。

郊外の森林地帯に接しており避暑や狩猟を楽しむ際に便利だったらしいが、即位後多忙を極めた彼女はこの離宮を持て余し殆ど利用していない。

その折に飛び込んで来たこの結婚に際し、ベサーレス家への入り婿であるスメイロトへ居城として離宮は譲渡されたのだ。

 

(離宮といえば聞こえはいいけど、ここじゃホバンスの王城への往復はそこそこ時間がかかる。忙しい身の上の王族が住むには不向きだ)

 

スメイロトは卓上に広げられたスケジュールがずらりと書き連ねられたスクロールを横目で見る。

 

(大国とは言え遠国の一度は廃嫡された皇族の次男坊に対する扱いなんてこんなものかねぇ。ホバンスで変な気を起こさずに聖女様の王配として大人しくしてろってか)

 

聖王国側としてはスメイロトに、ホバンスの権力構造に関与して欲しくないのだろう。

王族たるベサーレス家か、もしくは重鎮として王族に縁の深いカストディオ家の思惑だろうか。

情報局に渡された資料から見るに、カストディオ家の方の思惑に思えた。

 

(その辺の権勢絡みは正直どうでもいい。実際、変に頑張った結果この結婚に至ってしまったわけだし)

 

スメイロトとしては、寧ろ政治的な隔離処置は好ましいと言えた。

王城やホバンスの一等地で、面倒な支配層としての振舞や付き合いをするよりはずっと気軽と言える。

それでも聖王国側の監視や干渉は存在するだろうが、実害が無い程度であれば我慢は出来るのだ。

 

(五日後にはあの王女様と結婚か。王城での婚儀前のお目通りが明後日となると、あちらも準備や各所での挨拶で忙しいんだろうよ)

 

緻密な写実絵画……まるで旧世界の見合いの写真みたいな感じのカルカの肖像画を思い出す。

確かにとてもとても美人だった。聖王国の至宝と言われ聖女と称えられるだけの事はある美人だ。

世代こそ違うが、彼女に匹敵する美貌を持つと言われるのはあの『黄金』と言われるラナー王女ぐらいと言われている。

 

(恋愛結婚だったらあんな美人と結婚出来るとか飛び跳ねていたかもしれないけど、現実は政略結婚だものなぁ。しかも動機がやり過ぎた俺を遠ざけるっていう……)

 

確かに頑張り過ぎた。

己の異能を使って帝国の脅威、潜在的なものも含めて排除しまくった。

そして活躍し過ぎた猟犬は役目が無くなり、猟犬に対してドン引きした飼い主の意により遠方へ預けられる結果となった次第である。

 

(狡兎死して走狗烹らる、だっけか? 煮られなかっただけましかね)

 

正確に言えば煮ようにも煮れず、怒り狂った猟犬により返り討ちにされそうだったからこその苦渋の策であるが。

スメイロトの帝都における離宮に勤務していた運の無い使用人達も、皇帝の勅命により聖王国への移住に付き合わされた。

そんな彼らにしても一年ごとに一定数の希望者は特別報奨と共に帰国する事が許され、その空いた枠には聖王国の人材が入れ替わる。

恐らく3年後ぐらいには、物好き以外は帝国に帰国しているだろう。

隣国ならともかく遠隔地の聖王国で残りのキャリアを過ごしたがる帝国人の使用人など殆どいないのだ。

スメイロトの予感では物好き以外にも監視役で居残る情報局出の使用人も存在しているとは思えているが。

 

(ともあれ、俺個人でやる事は殆ど終えたし使用人達への指示出しも終えている……それじゃ、ちょっと早いけど展開するかねぇ)

 

離宮には複数の庭園があり、その中の一つが丁度使われてない状態なので使わせて貰う。

馬車の一つの荷台をほぼ占拠していた包装済みの苗木を使用人達に運びこませ、後は自分の手で一つずつ植えていく。

こればかりは庭師も使用人も手伝わせる訳にはいかない。

機嫌を損ねてしまうし、何より彼らにとって危険だ。

 

「こっちの土も悪くないか。そりゃよかった……」

「スメイロト様!」

 

他にもトブの大森林で採取した薬草の苗木なども手際よく植えていく最中で執事がスメイロトを呼びに来た。

 

「本当に彼女なのか?」

「は、はい。確かにケラルト・カストディオ様でございます。スメイロト様にお目通りを願いたいと」

 

幾らか顔色の悪い執事に先導され、本館の応接間へと通される。

 

「こうして直接お会いするのは初めてですね。スメイロト殿下」

 

儀礼に則った優雅な挨拶を交わした後、白を基調に蒼の意匠をちりばめた聖王国神殿の高位神官衣を纏った女性は笑みを浮かべた。

これでもかと言わんばかりの外交向けの笑み。勿論、目は笑っておらず澄ました眼差しの奥はスメイロトをじっくりと探る様に見据えていた。

 

 

 

 

 

 

(無難な入り婿としては及第点、でしょうか)

 

帝国から来た入り婿たるスメイロトと今後の予定について話し合った後でケラルトはホバンスの城へととんぼ返りしていた。

神殿の要人が乗る馬車の窓からゆっくりと近づいてくるホバンスの街並みを見やる。

やはり、あの離宮は普段使いするには遠いと感じた。

もっとも、政治中枢に深入りして欲しくない相手をやんわりと隔離するのには適しているとは思えている。

 

(能力としては鮮血帝たる兄と比べればこそ、かなり劣りはするわね。エル=ニクス家の皇統を組み込むのは悪くないのも事実ですが)

 

政治的人材としては、中の下だろう。

間違いなく上の上であるジルクニフからは格が数段落ちる。

ジルクニフの即位直前に粛清された皇妃が彼を傀儡にしようとした、と言うのも頷けはする。

全くのバカではないが支配者として足りない部分が多い故、そこに操り手を配置して思うがままに動かす。

何も考えてない馬鹿ではないので制御の利かない暴走はせず、現状維持か保身を意識させておけば都合の良い皇帝と言う名の人形に出来るわけだ。

 

(鮮血帝が今回の縁談について随分乗り気だった事についての真意はまだ釈然としませんが、こちらとしては悪くない話だったからのりましたけどね)

 

今回のカルカとスメイロトの縁談について、王家のベサーレス家も彼女の実家たるカストディオ家も最初から乗り気だった。

それらは複合的な問題に起因するものであるが、何よりカルカ本人が望んだことでもある。

 

(カルカ様は結婚願望が強かったから……)

 

二年前の話であるが、とある縁談がかなり進んだ時点でとん挫した。

その時慰めで個人的な茶会を開いたのだが、一息ついた後でカルカがポロリと零したのである。

 

結婚するなら糸の一切ついていない、私という人間を愛してくれる伴侶がいいですね。と。

 

我儘かしらね?というカルカに対しケラルトは曖昧に微笑んで誤魔化したが、政務に携わるものとしては冷静に結論付けていた。

 

カルカ様、それは我儘です。貴女の立場でそれを望むのはまさに奇跡ですよ。

今の立場では御身は国と結婚した様なものですから、国の最善の為に相手が誰であろうと結婚するしかないのです。

 

勿論ケラルトとしても、幼馴染であり親友であり盟友であるカルカの望みは可能な限りかなえたかった。

カルカにとっての最善の結婚を模索して、その結果21歳になっても彼女は結婚できていなかった。

20歳を過ぎて21歳になってしまい本人も周囲も焦りが見え始めた頃、この縁談が飛び込んできた。

 

家柄は皇族だから申し分はない、性格や能力も飾りの王配としては無難。

容姿は……兄程ではないが美男と言えるだろう。

どこか軟派に思えるのでケラルトの好みではなかったが。

ともあれ、条件としては悪くないのでカルカの兄であるカスポンドにも協力を要請し彼女の背中を押す事にした。

その結果かどうかはわからないが、カルカが首を縦にあっさり振ったのは意外だった。

 

「優しそうな方ではありませんか。帝都でも貧困で苦しむ民衆を率先して救済していると聞きます」

 

慈善業については帝政の民衆に対する懐柔策でもあるから、個人の善性とは違いますよと突っ込む程彼女もカスポンドも野暮ではなかった。

同じ帝都で私財でとは言え、高級娼館で遊び歩いていた風聞についてはケラルトの一存で握りつぶしている。

 

「なるほど、カルカ様が評価する相手であれば悪くはないかもしれませんね!」

 

考えてなさすぎる姉の言葉も、今回ばかりは縁談を決定づける為に利用できたのは喜ばしいとケラルトは感じた。

 

かくして縁談はトントン拍子で進み。

数日後の結婚式を控えるに至る。

聖王国の執政官も兼ねているケラルトとしては満足のいく結果と言えるだろう。

 

(これで、政権としては一息吐けそうではある)

 

少なくとも、これで内外の貴族の突き上げを黙らせる事は出来る。

カルカ本人の願望は兎も角、男性社会であった聖王国政界で成人女性が結婚し子を為さないのは十分な攻撃材料になるのだ。

前例がないにせよ生涯を女王として独身で過ごさせる選択もあったが、カルカの立場や現在の政情でそれを達成するのは不可能に近い。

今のカルカの政権は明確な対抗者こそ存在せずとも、不安定さを残した北部の地盤と明確に対立している南部の貴族達。

外敵としては黒粉と呼ばれる麻薬を聖王国に流行らせようとしている麻薬組織。

何よりもアベリオン丘陵に巣食う十傑と呼ばれる亜人の英雄達とその軍勢。

内憂外患のこれらがいつ問題化してもおかしくはない。

カルカが政権を掌握してから幾分落ち着いたものの、それら全ては解決に至っていないのだ。

 

(この婚儀でいくらか事態を好転させればいいのだけど……)

 

ケラルトの脳裏に応接間でのスメイロトが過る。

愛想よく作った笑顔で、自分の言葉にのらりくらりと答える軟派な男が。

 

(あまり、期待し過ぎるのも良くないわ)

 

ケラルトは嘆息し、間近に迫ったホバンスの城門を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚式当日。

 

王城近くにある大神殿の控室にスメイロトは居た。

三代前の皇帝から計画的に発展していった帝都とは違い、このホバンスはやや雑然とした感じがある。

それでも所々に建てられている白亜の石材で作られた宗教施設が、この街の風情を作り出していた。

 

(法国の神都とは違うんだろうな。あそこも結局は行かなかった……必死に連れていかれない様に頑張った結果なんだけどね!)

 

自分の異能をどこかで突き止めたのか、一時期前から度々接触を図って来た連中を思い出す。

帝国でも兄と行政の上澄みと魔法省のトップと側近、軍部の将軍達しか知らないスメイロトの異能を。

 

(一応、俺ってこの国の王配になるんだけど。追ってくるかも……来るだろうな、多分)

 

かつて見慣れていた装備(ユグドラシルのアイテム)を継ぎ接ぎの様に纏っていた、漆黒聖典(法国の切り札達)

 

『あれほどの活躍をしたにも関わらず、他ならぬ兄君に疎まれて他国に遠ざけられるのをなぜよしとするのですか?』

 

あの薄っ気味悪い笑みを浮かべた召喚術師の言葉。

 

『我々であればあなたの価値を理解しております。どうか我が国への亡命を検討してはくださいませんか?』

 

ふん、と鼻を鳴らす。

大きなお世話だと、スメイロトは内心で吐き捨てた。

 

「スメイロト殿下。まもなく式のお時間となります」

 

控室のドアが開き、礼服を着た神殿の従者達の誘導に従ってスメイロトは式場に続く廊下を歩む。

数m間隔で聖騎士たちが立哨している中、廊下の十字路でスメイロトは彼の花嫁と合流した。

 

(改めて見ても、すごい美人だ)

 

純白の婚礼衣装に身を包んだ、御年21歳の聖女の美貌はまさに国宝と言わんばかりの輝きだった。

 

(これなら、姉さん女房も悪くないかも……しかし、これだけの美貌とナイスバディと王女という箔があっても21歳でようやく結婚か。聖王って大変だねえ)

 

貴族の女性は15歳で成人し、遅くても20歳までには結婚するのが通例だ。

つまり21歳は行かず後家寸前のお年頃だと、ジルクニフは皮肉っている。

 

『お前が貰ってやらねば、2~3年後位に肌の曲がり角を気にしながら必死に結婚相手を探していたかもなぁ?』

 

この人の立場も考えてあげろよ。

兄の物言いは色々と癪ではあるが、自分がこうして婿入りでもしなければそうなった可能性は高いだろうなとは思えてしまった。

 

「スメイロト様、参りましょう」

 

真っ白なフェイス・ヴェールの向こう。

色鮮やかなピンク色の唇が柔らかな笑みを形どった。

 

「はい、陛下」

 

差し出された彼女の手を恭しく取り。

エスコートする様に式場への廊下を進んでいく。

 

式場である大聖堂の中は人で満たされていた。

荘厳な楽曲を演奏する楽団、声を合わせて讃美歌を歌う聖歌隊。

祭壇への道の左右に列席する聖王国の貴人達、一緒に入国して結婚を見届ける少数の帝国貴族達。

どこか安堵が見える北部の貴族達と、取り澄ました顔の下に忌々しさを隠している南部の貴族達。

祭壇の近くで化粧でも隠しきれない程に目元を真っ赤にしている聖騎士団長。

神妙な顔で列席の上位に佇んでいる彼女の兄。

近々引退し最高位神官の地位を禅譲する予定の老齢の神官と、その横に立つ後任者であるケラルト。

 

新婦と新郎が祭壇の前に到着し、重々しく頷いた老神官が婚礼の儀の開始を宣言した。

 

 

 

 

 

 

その日、スメイロトは聖王国の聖王女の王配となり。

式が終わった後でホバンス王城の離宮で寂しい一人寝をした。

 

(そら、忙しいからしょうがないよなぁ)

 

カルカが夫婦としての時間が取れる様になるまでは明後日まで待つ必要があり。

下心満載の輩があなたに群がる事になりますので、離宮でお待ちくださいとケラルトから慇懃に言われた。

 

(そういえば前世の親類の結婚の時も似た様な事あったな。式を終えた新郎がすぐさま別のアーコロジーに出張してたのが)

 

あの時の式場内の寒々しい雰囲気と、能面の様な新婦の形相は今でも忘れられない。

数年後に子供が出来た後でその新郎があっさり『事故死』したのはきっと偶然ではないだろう。

権勢者の冠婚葬祭とは、実に裏と表が入り組んでいるのである。

生まれが生まれでなければ関わり合いたくない類の事柄だろうが、そういう生まれに出てしまった以上は仕方がない。

 

「全くこっちに来ても難儀だよな……『警備はどうか?』」

 

ホバンスの離宮の彼が滞在する部屋は、バルコニーの外に大きな庭園が広がっている。

深夜の今は出入り口に居る警備兵以外は無人であり、木々が夜風にざわざわと揺らいでいるだけだ。

 

『『『『『イジョウゴザイマセン、アルジサマ』』』』』

 

その庭園から返って来た返答に、スメイロトは拍子抜けした。

歓迎か挨拶代わりに、誰ぞが刺客でも送ってきそうなもんだと思っていたからだ。

 

(当面は気を抜けないな。特に初夜でカルカと一緒に始末しようとか合理的な事を考える奴も居るかも……まぁ、アダマンタイト級でも正直楽勝だしな彼女らは)

 

スメイロトの寝室に入り込むには、庭園に擬態している5体のLv40~35のアルラウネを突破する必要がある。

アダマンタイト級の強者……最低でもLv30の刺客を十名以上。

または逸脱者を数名用意しなければ、不意打ちを食らいあっさり始末されてしまうだろう。

 

(六腕の一員……アダマンタイト級の強さを自己申告してたルベリナだったか? それと一緒に居た六腕候補の暗殺者も正直相手にならんかったし。例外が来なきゃ大丈夫だろう)

 

アルラウネ達は各種の植物由来の毒を多彩に扱うので、対策無しで挑めばそれはもう酷い事になる。

ルベリナの方は毒耐性のリングを装備していたようだが、耐性以上の猛毒を大量に流し込まれれば意味がない。

あっさり昇天した六腕候補者は兎も角ルベリナは猛毒でもだえ苦しみそれは酷かったので、スメイロトの命令で斬首されこの世から去っていた。

リーダー格のLv40のアルラウネ曰く、主を狙った不敬者はこの世の地獄で苦しみ抜いてから死ぬべきだとの事だが敢えてその意見を退けた。

前世の兄貴や父親の様な加虐趣味は、スメイロトには無いのだから。

 

「……もう、寝よッと」

 

バルコニーに通じるドアを閉め、大きな寝台に身を横たえる。

 

(そういえばまだ、彼女と数秒しかキスしてないんだな。夫婦なのに)

 

抱く嫁が居ない独り寝の寂しさを紛らわせる為か、彼はさっさと睡魔に身を委ねた……。

 

 

 

 

そんな寂しい独り寝の彼を、薄い水晶板越しに見ている少女がいた。

司教冠の様な被り物を被り法衣を纏い、手にしたロッドで何やら念じている。

スメイロト……否、ある程度プレイしていたユグドラシルプレイヤーであれば一目で気づくだろう。

彼女が占術魔法の使い手であり、ちょっと上質な遠隔視の鏡を利用して遠地を覗き見している事に。

 

「……異常なし」

 

やがて術を解除した彼女は、魔法陣の外側にあるチェアーに載せてあった報告書に『異常なし』と綴った。

本来であれば来年漆黒聖典へ異動する予定だった少女は諸事情により繰り上げで異動。

彼女が現在受け持っている主な任務の一つ。それはスメイロトを定期的に遠隔の監視魔法で監視する事だった。

 

 

 

 

 

スメイロトの滞在する離宮にカルカがやって来れるのは、明後日ではなくて明々後日となった。

どうやら王国の使節団の貴族(ボウロロープ侯派)が帝国の皇族とカルカが結婚した事について、遠回しに嫌味を言い募り。

他の王国貴族が取りなそうとしても尚口を閉じようとしなかった為、護衛のレメディオスが激昂。

あわや一触即発となりかけ、後始末で予定にずれが生じてしまった結果だ。

 

(相変わらずだな王国貴族(豚共)は……全く。新婚の嫁さんとのキャッキャウフフが一日遠のくとか地獄だろ常識的に考えて)

 

昼下がりのラウンジでハーブティーを楽しみながら、スメイロトは余暇を今後の予定について考える時間にあてていた。

本当に新郎の王配とは思えない程に何もする事が無かったが、スメイロトはその時間を無駄なく利用していたのである。

 

彼が今後為すべきこと。

それは、別に聖王国を帝国の支配下に置くべく暗躍するとかそういった事ではない。

もう帝国に対しては十分義理を果たしたし、兄に生かされた恩も十二分に返したと思っているからだ。

それに下手に力を発揮して過剰に期待されるのも頼られるのも恐れられるのも疎まれるのもコリゴリだ。

大きな喜びや成功は要らない、多くを望まねば大きな不幸や失敗に苦しまずに済むのだから。

 

彼が聖王国でこれから為すべきこと。

 

それはカルカの王配と言う名のヒモ。

多忙ではない、程ほどの支配層としての不自由のない生き方。

理想のロイヤルなヒモ生活を送る為の準備である。

 

(本当なら今からでも悠々自適に暮らしてもいいんだが、そんな余裕はないんだよなこの国)

 

民衆に人気のある聖王女が取り仕切るこの聖王国の状況は一応平和とも言える。

だが現状を仔細に見れば、その平和は薄氷の上の代物に過ぎない。

徴兵に適した民衆を常備軍体制で動員する事で、北部の要塞地帯である長城の防備を維持するというのは経済軍備共に負担が大きい。

経済活動は鈍化し農業の生産力は下がり、反面莫大な軍事費を負担する為に税金だけは上がるという悪循環。

負傷者が多数出れば神殿や施療院の負担は重く、死者が出れば遺族への補償も行わなければならない。

リ・エスティーゼ王国みたく動員された国民に対する補償を怠れば、カルカの政権は内外からたちまち突き上げを食らうだろう。

そこに麻薬問題、北部での政治的基盤の揺らぎ、南部貴族達の敵意に満ちた蠢動とくれば内憂外患のオンパレードだ。

これだけの問題を抱えながらも大まかな世論が好意的であり、政権運営が回っているのはカスポンドとケラルトの手腕によるものだ。

 

(でも、そんな状態を長い間維持してたら何れ破綻が来る。カルカの政権がこけたら、自動的に俺も路頭に迷う。所詮は外様だし……だから俺は)

 

だからこっそりと聖王国を蝕んでいる諸問題を自主的に解決させて貰う事にした。

 

そう、こっそりと。

 

スメイロトは英雄にも救世主にも国家の便利な火消し屋になるつもりもない。

この国の諸問題を程ほどに内密に解決し、適度に安定させて誰に気兼ねする事もなくカルカのヒモとして生きる。

 

(俺は頑張ってこの国の問題を解決してカルカのヒモになる! ヒモになって、美人妻に養って貰うんだ!!)

 

スメイロトの壮大なチャレンジが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






「おい、全然普通じゃないぞこれ?」
【普通の政略結婚生活です。現状は仕様となります】
「この、クソ運営がぁ……」
【そのような御言葉は残念です。ありがとうございます、最高のほめ言葉です】

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