※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。
※息抜きとスランプ抜けをお祈りして。
※多分、3-5話で終わります。
※分岐部分、『ジルクニフからの信頼度がちょっと足りなかった』『スメイロトが斜め上に頑張ってしまった結果』『遠ざけるには丁度いい位置があの国』
※スタート地点、原作開始から3年位前。ジルクニフが20歳ちょい手前。スメイロトが17歳位。カルカ様が21歳前後。ケラルトが22歳。レメディオスは24歳。
※ジルクニフ、一安心しつつも帝国最高戦力を手放して将来がちょっと不安だけど何とかなるやろ(特大フラグ)。後、最近脳をくちゅくちゅされた様な感じの爺の様子が気になる。
※王国は皇弟を婿入れした聖王国に対して反感を抱いている。八本指は対帝国の麻薬浸透を阻止し刺客を悉く返り討ちにしたスメイロトを警戒している(特大フラグ
※法国はスメイロトが亡命に応じてくれなかった事に「ホワイ?」な顔をしてる。折角数十人の選りすぐりの美人美女を宛がい何不自由のない生活を与えると提案したのに何故?(節穴
第一席次は自分が嫌がってる役目(結婚と子作り)を押し付けれなかった事を残念がってるが、何とかスメイロトに役目を間接的にでもいいから押し付けるべく神官長達に働きかけてる。
ジュンノは14歳でスメイロトの監視任務の為に繰り上げで漆黒聖典入りしている。彼女の本性的に任務は凄く辛い事になるもよう。
新婚初夜。
そこに新郎新婦はどんなイメージを抱くだろうか。
望んで結ばれた相手と熱い閨を楽しむ晩?
恋愛結婚で結ばれたのであれば、それもあり得るだろう。
だが、スメイロトとカルカは恋愛結婚ではない。
国家間の利益と外交と打算と妥協の結果による婚姻だ。
初夜の段階で男女の愛情なんてものは存在しえない。
それがあるとすれば、一目ぼれなどと言うレアイベントが発生した時ぐらいだろう。
そしてこの夫婦において、レアイベントは適用外である。
彼らの初夜は夫婦の共同作業、子作りを終えて何事も無く終わった。
「でも、ちょっと頑張り過ぎたか」
私はいつもやり過ぎてしまう。
どこぞのポンコツエルフではないが、スメイロトも肝心な時に力を入れすぎてしまう傾向がある。
前世でのギルメンと共謀した自作自演テロ計画しかり、今世でのバハルス帝国内外の脅威の徹底排除しかり。
「えーと、大丈夫ですかカルカさん?」
汗とその他体液まみれのシーツの上に仰向けに転がっている全裸の彼女に呼び掛ける。
ぐったりと両足を開いている、いわばエム字開脚と呼ばれるハシタナイ姿。
「………返事が無い、ただのしっき……失神した女性の様だ」
辺りに立ち込める男女の体液の臭いとアンモニア臭。
正直スメイロト以外に見せるのはよろしくない状態だ。
涙と自他の唾液でドロドロになった顔からは完全に意識が飛んでいる。
取り合えず色々と後始末した上で気付けをしないと朝まで意識が飛んだままだろう。
観葉植物に擬態していたシモベに色々指示出しをしつつ、スメイロトはカルカの侍女たちは呼ばない事にした。
彼女らが信奉している聖王女のこのような、人妻が寝取り野郎に促されるまま旦那が見ているカメラに向かってWピースしてそうな姿を見せるのは憚られる。
そう思う情けがこの男にも存在した。
(ええと……その……まぁ、処女相手に鬼畜すぎたかもしれないけどね!)
しょうがないじゃないか。
出国前に最後の憂さ晴らしを行きつけのクラブで楽しんでからずっと禁欲生活だったんだから。
ドルイドのシモベに回復魔法をかけさせながら、スメイロトは心底しょうもない自己弁護に勤しんでいた。
成婚後一か月が経過した。
今日も今日とて政務に励むケラルト・カストディオは、資料の分厚い束を補佐官に抱えさせカルカの執務室を訪れていた。
執務室に続く控えの間で待つ間、姿見で全身を軽くチェックしておくのが彼女の習慣だ。
(……少しは薄くなりましたかね)
隈が化粧を透けてないかどうかを確認したが、昨日は
沿岸部で海藻の搾り汁を使って作られているスキンケア用の化粧水で肌荒れ対策も完璧だ。
カルカの結婚や跡継ぎ問題に対する当面の攻撃が沈静化したおかげで、無駄な手間をかけずに仕事を進められているおかげだろう。
しょうもない連中の、益体もない嫌味交じりの提言を延々と聞かされるストレスが減ったのもプラスに働いたかもしれない。
政権樹立後の嵐のような執務の量は年々減ってきているが、これもギリギリのバランスの上でしかないのをケラルトはよく心得ている。
この国に蔓延っている問題は火山噴火の如く一度に噴き出すか、地面の下を浸透しじわじわと蝕むかどちらかなのだから。
(近々亜人の侵攻が起こる可能性は周期的に非常に高いと軍部は予想している。また仕事の量が増える……)
そうなれば、またカルカが北部の長城に出向いて王族として前線を鼓舞する必要が出てくる。
過去における亜人の大規模侵攻時にもカルカは王都からの増援を率いて前線視察をしている。
十傑中四傑同時による最大規模の攻勢時には神殿騎士団と神殿神官団を率いて親征を行っていた。
(もっとも、今年からは代役を出せる予定ですので、カルカ様が王都から離れる必要とその負担もなくなりそうではあるのですが……)
ケラルトが持ってきた書類。
その中には王配たるスメイロト・ベサーレスの【運用方法】の一つが提示されている。
王族における視察や外遊は、現在のホバンス政権にとってかなりの負担である。
王女が頻繁にホバンスから出るのは、政権の安定と暗殺などの防止においてよろしくない事だからだ。
王座についてからのカルカは現場を見て回る事を希望していたが、複数回の暗殺未遂により余程重要な案件以外は許可されなくなっている。
カスポンド・ベサーレスが代理で外遊や視察を行っていたが、これらも暗殺の危険は勿論男王復権という【聖王回帰】を目論む派閥を増長させかねない。
本人が王位を辞退し妹へ公的に道を譲っても、それでも彼に対して王位を望む者達は少なからず存在するのだ。
ホバンス政権がいまだ安定しきっていない事もあり、カスポンドにはカルカと共にホバンスでの執務に専念して欲しい。
(ならば王族であり尚且つ政権に負担にならない人材を出せばいいのです)
ベサーレス家とカストディオ家が、今回の婚儀に乗り気だった理由の一つがこれにあるのだ。
「王配スメイロトを王国内の視察や外遊の名代として活用する、ですか」
執務室の椅子に座ったカルカは、書類に目を通しながら呟いた。
「はい。これも王族として、王配としての務めです」
「そうですか。確かに、ケラルトらしい合理的な判断です」
読み終えた書類をそっと机の上に置いて、カルカはどこか迷いを見せているような様子を見せる。
「何か、問題でも?」
「いえ、現状の政権の取り回しをよくするにはとてもよい施策です……ですが」
「……? 護衛は十二分に付け暗殺対策は万全を期しますが」
首を微かに傾げたケラルトに、カルカは少しだけ眉を潜めて書類にもう一度視線を落とす。
「こうなると……王配、スメイロト様との時間が取りにくくなりますので」
「……は?」
「その、夫婦の時間が確保し辛くなりますというか」
机の下。
ケラルトからは決して見えない位置で彼女はもどかし気にその太ももを内側にすり合わせた。
頬を上気させなかったのは、カルカの必死の自制の賜物である。
「どうか、その辺りの配慮も………して貰えると」
「………」
「ケラルト?」
「うっふっふっふ」
「え?」
その後、色々と妥協案などを組み込んでこの王配による名代案は可決された。
スメイロトとしては名代については、別に否やはなかった。
寧ろ、名代などの仕事が割り振られるまでの、カルカとの夫婦生活以外本当に仕事が無かったのだから。
(政略結婚だから仕方がないにしても警戒し過ぎだろ……でも、これで聖王国の有名所を見て回れるぞ。何時までもここに雪隠詰めは流石に飽きる)
聖王国のあちこちへと国の予算で赴けるのはなかなかに心が躍る仕事でもある。
彼にとって聖王国は全くの未知の場所であり、興味深いロケーションも数々聞き及んでいたからだ。
(こういうのは、モモンガさんとか好きそうだよな。あの人、冒険もそうだけど名所めぐりも好きだったし)
かつてのユグドラシルで所属していたギルドのマスターを思い出しながら、森林側に突出する様に建てられた東屋の中で紅茶を楽しんでいた。
少し離れた場所で待機しているメイド達からすれば、王配が一人だけで寂しく森の中をぼんやり眺めている様に見えただろう。
この異国から来た王配は何かと孤独と静寂を好む。聖王国出の使用人たちはそう認識していた。
【
スメイロトの問いかけに、周囲の木々が小さく、しかし一斉にざわりと音を立てる。
掌握完了、そんな感じの意思が帰って来てスメイロトは満足げに顎を引いた。
【よろしい、これで大概の相手に対する防備は整ったか】
Lv38の森を統べる王。
森林地帯に根を張り巡らせ、知らず知らずの内に広範囲の木々を己の眷属として支配する魔樹の一種だ。
こうしてプロフィールを見るとなんだかすごそうに見えるが、高位ドルイドからすれば『生きているアラーム』程度の扱い。
カンスト勢が戦いだすと、フィールドそのものに根付くという生態環境も相まって余波に巻き込まれ知らない間に倒される場合が多い不遇モンスターだ。
(こちらの世界では相応に役に立つ。予定の途中までしか進められなかった大森林での開拓地でも、こいつを境界線の森へ配置しておくだけで雑魚を遮断してくれるから便利だった)
スメイロトは離宮の後方に広がる森林地帯に
ユグドラシルではしょんぼりな性能でしかないエリアの広域支配や眷属召喚も、強者でもLv30に達する事が少ないこの世界では十分過ぎる脅威と言える。
【侵入者が来ても私が滞在中は報告を第一にしろ。離宮の住人が入り込む可能性もあるからな】
エルフ奴隷を連れているからと、独断で立ち入り禁止区域に踏み入った傲慢なワーカーが王の森の怒りに触れ『事故死』した事もあったのでこの辺の念押しもしておく。
了承の気配を感じたスメイロトは満足げに焼き菓子へと手を伸ばし、薄切りの果実が乗ったクッキーを頬張り咀嚼する。
(それで、最初の名代の任務は……長城の視察か。しかも聖騎士団を連れて)
手元のスクロールに書かれていたのは、名代の日程だった。
最近になって長城に対する小規模な襲撃が相次いでいるので、長城付近の町に屯田している常備軍が警備の為に長城に再配置される。
軍事演習も行う事になっているので、その視察と激励をしてほしいとの事だ。
(……単なる視察で済めばいいが、それだったらあの猪突団長殿まで付ける事はないよな。来るって予測してるのか?)
書状からは単なる前線と演習の視察程度としか書かれていない。
だが、騎士団長率いる二個中隊が随伴するとなると何とも物々しく感じられる。
長城に守備兵力が再配置される事も、きな臭さを助長させている。
(いや、来るのであれば丁度いい機会かもしれない。竜王国で散々やって来た仕事だからやってみるか)
どこか物騒な笑みを浮かべ、スメイロトはハーブティーをクィッと飲み干した。
【出番だぞ諸君。出撃準備だ】
スメイロトが愛用している庭園の草木が、一斉にざわついた。
スメイロトが長城を視察し、接近する亜人達の軍勢を確認してから2日後。
長城より外周の森林地帯との境界線付近にて合戦はいよいよ激化していた。
空に広がる暗雲は戦場に小雨を降り注がせている。
遠近双方から聞こえる剣戟、空中を飛び交う矢や魔法の飛翔音が木霊する。
長城から討って出た聖騎士騎兵隊と随伴歩兵部隊と神官戦士団。
それらを迎え撃つは二手に別れた亜人の軍勢と、それらに従属する亜人の傭兵部隊。
両軍はなだらかな丘で激しくぶつかりあっている。
そんな戦場のあちこちが踏み荒らされた木立、亜人も聖王国兵も見向きもしない場所。
両軍では決して感知できないだろう、小さな会話が為されていた。
【マダカ?】
木立の中に更に茂みを作り、偽装シェルターを作っていたアルラウネは周囲を監視しつつ呟いた。
この監視哨は5体1組のアルラウネ達で構成され、戦場の推移に従って移動しつつ機会を伺っている。
今日だけで監視網を四カ所変更しているが、彼女たちに疲れや嫌気は見えない。
この手の任務は竜王国なる獅子頭の獣人共に侵略されていた国、あそこで数十回は経験しているからだ。
そんな5組の分隊の一つに潜伏しているアルラウネ達、彼女らは好機を得ようとしていた。
【キタゾ、アイツダ】
前衛のバフォルク達と傭兵達が長城から釣り出した聖王国軍を本格的に叩き潰す為だろう。
百を超えるバフォルクの直属兵と十を超える取り巻きの部族長達を引き連れた巨躯のバフォルク、その名は“豪王”バザー。
銀色の体毛とその巨体に装備した数々の魔力を帯びた装具、見るからに強者の雰囲気を漂わせている。
彼らとは別に“白老”ハリシャ・アンカーラが今回の戦いに参陣しており、聖王国軍は二つの勢力を相手取らなければならない。
“豪王”は“白老”の部隊に迎撃を差し向けねばならない聖王国軍の横っ腹を突く為に移動してきたのだ。
【殺ルノデ?】
【チガウ、アクマデアノオンナニヤツヲシマツサセル。ワレラハカゲニヒソメトノコトダ】
緑色の葉に覆われた指先が指すのは、乗騎を失ったのか徒歩で丘を駆け上がって来る聖剣の使い手。
【勘ノイイコトダ、ダガ、ワレラニハコウツゴウデモアル】
得物を構える部族長達を制止し、“豪王”は己の愛剣である黄色のバスタードソードを引き抜き最前衛に出て構える。
挑発するように大音声で名乗る“豪王”と、激昂して吶喊していく聖剣の使い手たるレメディオス・カストディオ。
はるか後方から必死に追いついてくる副官達と聖騎士達……をスメイロトが見たら少し不憫に感じただろう。
だが、アルラウネ達は何の感慨もなく、己の任務を果たすべく行動を開始した。
【アルジサマノゴシジノママニ、シビレトモウロウヲキシャクシテツカエ。バザート、オンナノウチアウシュンカンニアワセヨ】
そう、あくまで亜人の長を仕留めるのは聖王国の聖騎士団長でなくてはならない。
不自然ではなく、だが致命的に。例えあの“豪王”が異常に気付いても口や態度に出る前に事が終わる様仕向ける。
【シカシ、コウモカゲンセネバナラヌトハイササカテマデハアル】
主に連れられて赴いた竜王国なる国での秘密任務の方が楽ではあった。
あちらは猛毒を容赦なく撃ち込み、効率よくビーストマン達を葬ればよかったのだから。
こちらはいちいち抹殺のタイミングと方法に拘らなくてはならないのだ。
アルラウネ達が機会を伺っている間にも、“豪王”とレメディオスの戦いは激しさを増していた。
聖騎士団長の振るう聖剣サファルリシアには、“豪王”の得意とする武器破壊は通じなかった。
逆にレメディオスの得意とする悪を破する聖なる武技は、カルマ値が低くない“豪王”には大きなダメージを与えるには至らない。
だが亜人故のステータスの高さに加え、人間で言えば英雄級に至った難度を誇る“豪王”は単純な強さでレメディオスを押し始める。
【フム、コノママデハアノオンナハマケルナ】
レメディオスが大きく下がり、聖剣を大上段に構える。
【オンナガシカケルゾ……ヨウイ】
周囲では既に乱戦が行われているが、“豪王”とレメディオスの戦いに横入りする者達は居ない。
長期戦では不利だと悟り一撃に賭けるレメディオスと、それをあえて正面から叩き潰すつもりの“豪王”。
【カマエ】
後衛以外の三体のアルラウネ達が、一斉に片手の一部を緑色の筒へと変える。
毒草の葉で形成された筒を、“豪王”に向ける。
雄叫びと共にレメディオスが駆ける。
跳躍し落下速度をも味方に付けて、“豪王”の首を叩き斬らんとする。
それらを読んでいた“豪王”はにやりと笑い必殺のカウンターを狙う。
【ウテ】
次の瞬間にそれは起きた。
聖騎士団長の渾身の一撃に意識を集中していた“豪王”の体に複数の針が突き立つ。
研ぎ澄まされた金属の剣ですら滑らせる、剛毛の隙間を縫ってバフォルクの皮膚に針が突き立った。
まるで串焼きの串を極限まで細くしたような、どす黒い毒針が堅い表皮を貫いたのだ。
突き立った瞬間、針に纏わりついていた黒い液体がすっと突き立った先へと吸い込まれていく。
そして緑色に戻った針は、一分と経たない間に自壊して細かい破片へと還った。
「!?」
意識がぐらりと揺れる、体の節々が痺れる。
どれもが目に見えてバフォルクの王の動きを鈍らせるような、強烈な猛毒の類ではない。
普段の彼であれば、それらの苦痛を強引に無視して戦闘を継続できる程度のもの。
事実、毒の成分は一分も経たぬ間に“豪王”の体から痕跡を残さず消えて失せてしまうものだった。
(なんだ?)
問題は毒が体内に流れ込み効果を発揮したタイミングが。
騎士団長の必殺の一撃が間近に迫った最悪の瞬間だっただけ。
回避の動き、盾の構え、紙一重を狙うカウンターの姿勢。
全ての挙動が狂い、その結果を理解した“豪王”は唖然とした。
(一体、何が起きた―――!?)
理不尽な展開に唖然とした形相。
その形相のまま、“豪王”バザーの首は空中へと刎ね飛んだ。
「この私、聖騎士団長レメディオスが“豪王”バザーを討ち取ったぞ!!」
こうして、この戦場における勝利は決定づけられた。
裏方で暗躍していた者達の思惑も行動も気づかれる事なく、聖王国軍の勝利として。
【シュウリョウヲカクニンシタ、コレヨリキトウスル】
聖王国北部。
長城付近に位置する都市にある、領主の館では戦勝の宴が盛大に催されていた。
亜人軍の撃退と十傑の一つに数えられた“豪王”バザーの討伐成功。
生き延びた将兵とそれを讃える近隣のお偉い方が勝利の酒杯を酌み交わしている。
「スメイロト様、酒杯が空いておりますわ。ささ、お飲みになってくださいませ」
「ああ、感謝する」
領主の娘から酒杯にワインを注がれ、スメイロトは80点位の愛想笑いを浮かべる。
自分と同じ上座に座らされたレメディオスは高笑いしながら、周りに居る客人達に対して武勇伝を聞かせている。
もう十回以上は同じ話を入れ替わり続ける客人達に聞かせているだろうに、酒も入っている為か飽きも怒りもしていない。
(俺にとっても殊勲者だけどな。似た様な事があれば、『また』英雄になって貰うつもりだけどこうなると聊か鬱陶しい)
とは言え、現地で頑張り体を張ったのは彼女であるから栄誉を受けるのは正しい。
自分はスケジュール通りの視察と歓待を受けてひたすら「わが軍は大丈夫です」「わが軍は勝ちます」と笑顔で言い続けただけ。
それはケラルトの派遣した補佐官の言いなりであり、つまりはケラルトが望んだ役割から何ら外れずこなし続けたという事だ。
予定以外の行動と言えば息抜きの散歩中に訓練場近くの公園の片隅で塞ぎ込んでいた見習いの少女に声をかけ。
彼女……ネイア・バラハの将来の進路に対する悩みを聞いた程度だ。
目つきがやたらとアウトロー風味だったが、父親のパベル・バラハと元聖騎士の母親を尊敬し両親に相応しい娘でありたいと頑張っている年相応の少女だった。
一通り話を聞いてから「一人で抱え込み過ぎるのは良くない」「大切な将来なのだからご両親ともよくよく相談して決めなさい」などともっともらしいアドバイスを与えた。
最後に訓練施設で彼女の弓の一撃を見せて貰い、年齢と見習いと言う時期を思えばかなりの腕前だったので褒めちぎっておいた。
「剣が何よりも尊い訳ではない。弓の腕で九色に至ったお父さんがいるじゃないか。剣の扱いが苦手でも君が卑屈になる必要はない。自分の才能に誇りを持ちなさい」
それぐらいである。
他はケラルトが立てた予定通りの楽と退屈の入り混じったスケジュールのままだった。
彼の手勢がバザーを待ち伏せしている間も、長城の出城部分の屋上の天幕の下で一緒に観戦している現地の支配層達に空虚な演説をぶち。
戦勝の報告が届いた後は領主や貴族達に「レメディオス殿であればやってくれると信じておりました」等と思ってもいない事をウソ泣きをしながら宣い。
祝いの席では領主や近隣の貴族の娘達からの酌を受けながら、彼女達のアプローチをやんわりと避け続けただけだ。
ただ、それだけだった。
「それで、もう一体の方……ああ、“白老”の方は確かに撤退したんだな?」
【ハイ、シンリンチタイヲヌケ、イワバノホウヘトサッテイクノヲカクニンイタシマシタ】
寝室で寝酒を楽しんでいた時に、前線から戻って来たスカウトのアウラウネから報告を受ける。
どうやら“豪王”バザーを打倒した直後に、“白老”の方は目ざとく戦場の流れを感知。
迅速に手勢をまとめ戦場から離脱したようだ。
丘の向こう側の森林地帯に素早く逃げ込み聖騎士騎兵の追撃も撒いた。
【ツイゲキハスルナトオッシャッテオラレマシタガ、アノママデヨロシイノデスカ】
「いや、いいよ。初めにも言ったが今回は“豪王”を仕留めただけで十分だ。何事もやり過ぎはよくない」
スメイロトとしては十傑が真に纏まって聖王国に侵攻をしていれば、聖王国は既に北部を失陥していると思っている。
それが出来ないのはアベリオン丘陵に住まう亜人達の中でも、内輪もめや覇権争いが絶えず起こっているのだろう。
事実観測していたアルラウネ達からは、“豪王”と“白老”の間でお互いを出し抜くような功名争いをしていた形跡があるとの指摘がある。
「後の事は亜人達の方でよろしくやってくれればいいさ」
武力とカリスマで部族を束ねていたボスが居なくなった以上、バフォルクの群れは跡目争いに突入する。
そしてバフォルクに押さえつけられた少数の亜人部族、仲のよろしくなかった他の亜人もそれに介入するだろう。
相手側で勝手に消耗戦をして聖王国にちょっかいを出さなくなればスメイロトとしては問題なし、なのだ。
「理想としては数年ごとに一首ずつ狩って、亜人達には程よく纏まりなく均等にいがみ合い続けて欲しいところだ」
聖王国には亜人の侵攻を防ぐ力はあっても、アベリオン丘陵を制圧し問題の根本を解決するだけの国力はまだない。
ならば、こうして相手側に侵攻するだけの余裕を発生させない事が大事だ。
亜人達からすれば災難だろうが、聖王国側の都合を考えればこうするしかない。
「すまんなぁ亜人共、お前達の英雄達では俺の手勢には勝てん」
スメイロト個人の、聖王国の安寧の為に彼はアベリオン丘陵に混沌を齎し続ける。
「だが許せよ。誰かの為の平和とは全てそういうものだ」
誰かの為の平和は、他の誰かにとっての戦争。
この弱肉強食で律された、異世界における理なのである。
そしてホバンスへの堂々たる凱旋パレードが行われ。
王家主催の戦勝式典を経て王城に帰還した数日後。
「スメイロト様……」
ホバンス王城の離宮。
何時も王城に滞在する時に寝泊まりする寝室で、彼はカルカに迫られていた。
「え、その、カルカ様?」
「もう、二人の時はカルカと呼んでくださいと言っているではありませんかっ」
思えば、長城での視察予定よりも十日程延長した視察である。
戦後処理、現地での追加の視察や歓待、現地将兵への式典による栄誉の授与等々。
戦争とは勝っても色々面倒と仕事が重なるものであり、名前だけの名代でもそれは同じだったのだ。
結果として、色々と目覚めてしまった新婚の妻へのお預けも随分と長引いてしまった事もあり。
その晩は文字通り
レベル差とか能力値は問題じゃない、女の欲望というものを見せつけられた。
聖女というよりは、セイ女じゃないですか?と突っ込みを入れたかった。
翌朝、殆ど寝てないのに妙に艶々で執務に出るカルカを見送りながらスメイロトはゲッソリとしていた。
夫婦の営みを【監視】していた少女が最近覚えた慰めで初めての絶頂を覚えた事について、誰も知るものは居なかった。
そして、三か月後。
聖王女カルカ・ベサーレスのご懐妊の報が聖王国内を駆け巡る事になる。
スメイロト君がやっている事って、アインズ様よりは過激で徹底的でないってだけで根本は同じ感じはする。