※オリジナル要素やねつ造要素ありまくりです。
原作などで見なかったり聞いた覚えがないものは恐らく該当します。
原作ネタバレ、及びあちこち改変しておりますので閲覧にはご注意ください。
アイ・ライク・トブを既に閲覧済みであることを前提として書いております。
また、アイダホさんの設定も変動しておりますのでご留意ください。
※息抜きとスランプ抜けをお祈りして。
※分岐部分、『ジルクニフからの信頼度がちょっと足りなかった』『スメイロトが斜め上に頑張ってしまった結果』『遠ざけるには丁度いい位置があの国』
※第1話地点、原作開始から3年位前。ジルクニフが20歳ちょい手前。スメイロトが17歳位。カルカ様が21歳前後。ケラルトが22歳。レメディオスは24歳。
※第一王子ラムロッド・ベサーレスとの接点が作中で殆どないのは、王家(notカルカ)+カストディオ家がそれとなく遠ざけているのと将来を見据えてる貴族&神殿が王子の囲い込みを競っているから。
役目を終えた王配との接点を増やしても帝国絡みで面倒が増えたり不穏な要素が増えるだけだからとも言える。相変わらず外様扱いの特に表だった功績の無い王配の肩身は狭い。
これで生まれてきたのが王女であればそれなりに接点は作れたけど、王位継承権第一の健康な男児は王家において重要過ぎるのだ。
王国でランポッサがバルブロの扱いに苦慮しまくってるのが分かるってもんである。
※スメイロト君なんか妙に命中率よくね?と思われるかもしれないがこれは芋のクラスの中に豊穣神由来のものがあり、フレーバーテキストで微弱ながらも子孫繁栄が入ってしまっている。
更にヒモのタレントの性交渉絡み補正が加算されているので少なくとも今まで関係を持った女性は遅かれ早かれ懐妊している。(帝国時代に遊んでた時は某女首領以外はキチンと避妊している。
※ジュンノとラクレマの懐妊で気を良くした法国最高機関は、更に愛人投入のピッチを上げようと画策している。
これは単なる遺伝における時代の英雄逸脱超越的な人材の確保のみならず、愛人達との縁を幾重にも作り上げ情でスメイロトを縛り付けようとしている思惑もある。
本人もLv65のドルイド系術師()で、逸脱者レベルの配下を小隊規模、英雄級の配下を中隊規模揃える事が出来る存在を確保できると思えばそうもなろうかもしれない。
神官長達は少なくともあと数十年は聖王国とその近隣での亜人やモンスターによる人類国家崩壊レベルの危機は無いと判断している。
※「ごしゅじんさま、これなに~?」「最終兵器」「え~、これが~?」「まぁな、俺の配下共が対処できないレベルの化け物が来た場合に必要かもしれん」「へぇ~、まりょく、ちゅ~にゅ~」
※「おお、見た目も声もそっくりだ……君は記憶とかも読めるのか?」「違うよー。見た事と聞いた事を読み込んで、それで演じれるってトコだよ旦那様ー」「ほぉ……」「だから、出来るだけ同居しないとねー」
※ちなみに巫女姫について、妄想的な設定を考えてます。
かなりえぐくて人道的にクソな仕様です。才能として4位階使える少女の肉体に魔法的&生物学的魔改造→更に冠を付けて儀式魔法の装置にする→数十人の女神官の魔力を同調させて儀式魔法を使う。
巫女姫になった時点でマックス第6位階まで。儀式装置で更に8位階まで。しかしこうなると完全に本人の体の限界を超える魔法と魔力を行使するので何れ自壊する。
人間の器そのものが崩壊する場合は一般的な治療や回復ではどうにもならない=前作におけるアイダホさんでも普通のやり方では巫女を救う事が出来ない。
冠を外したンフィーレアは殺害後に蘇生出来たのに、原作でクレマンティーヌの暴挙により巫女が死亡した時に蘇生という手段が考慮されない時点で……。
多分、願いの指輪でも使わんと救えないと設定しております。
森林地帯から最も近い街。
街で一番大きな宿屋には、賓客をもてなす為の別館がある。
この街は聖王国の北部と南部を繋ぐ中継地点として、人間と物資の流入が多く中部において最大規模の商業都市であった。
それゆえに貴人の出入りも多く、彼らが宿泊する時にこの別館は貴賓室として利用されるのである。
「しかし、酷い警備だ。いくら何でも張り合いが無さすぎるだろう」
消灯時間がとっくに過ぎた別館の、二階の窓から複数の侵入者が廊下に入り込む。
誰も居ない廊下を眺め、その優男は肩を竦めた。
「次の二階客室の巡回は?」
「半刻後だ。巡回もスカスカだな。この程度では話にもならんぞ」
同行者である暗殺部門の暗殺者の言葉に、優男……六腕の“千殺”マルムヴィストは更に呆れた表情になった。
(おいおい、この程度の警備なのにスメイロトを今まで始末出来なかったのか?)
街の警備隊の中隊長を買収し、警備のスケジュールは全て筒抜けである。
更に中隊長はそのスケジュールに微細な穴を作っていた。
一見普通に巡回しているように見えて、実は穴が出来るようにしてある。
警備隊の派遣している警備兵も、最低限のノルマと勤務後に飲むエールと口説いている酌婦の事にしか興味がない下の上程度の質。
この別館の警備状況は、まさしく意図的にザル警備へと変貌させられていた。
(それとも、ホバンスの方では警備がしっかりしていたのか……どちらにせよ、奴を守れる騎士団長も騎士団も殆どが森へと行った。残った連中は見当違いな所を見張ってる)
正直、拍子抜けしたという感想しか出ない。
騎士団も殆どを騎士団長が連れて行ったので、屋敷の周りを騎士一個分隊と兵士一個小隊が警備しているに過ぎず。
しかも一番若い班長が指揮している程度なので、手引きが無くても易々と侵入出来ただろう。
中隊長が言うにはスメイロトの警備の為騎士一個小隊と兵士一個中隊を残すべきだと騎士団長の副官が申し出たのに対し。
他ならぬスメイロトが亜人が相手であればこの様な街中に出るとは思えない。
直接亜人と対する騎士団長達に戦力を可能な限り回すべきであり、最小限の護衛でいいと主張しそれを通したとか。
(亜人が相手か。ふん、確かに相手がそうならそうかもしれんが、選択を間違えたなおぼっちゃん)
マルムヴィストが鼻で笑った様に、今回の亜人討伐は南部側が八本指と協同でしかけた罠であり大嘘だ。
ここの領主は八本指や南部の思惑と全く無関係であるものの、市内の警備隊に南部貴族の息がかかった存在が中隊長と他数人居た。
彼らの思惑により市内の大多数の人間が知らぬ間に、この街に滞在する聖王国王配に暗殺者の魔の手が忍び寄っていた。
「廊下と出入り口を見張ってくれ。俺はスメイロトを始末する」
「了解した」
「ああ」
二人の暗色の衣装をまとい、フードを深く被った男達に指示を出してからマルムヴィストは堂々と寝室に入る。
寝室には頑丈なカギがかけられていたが、片方の暗殺者がシーフの手並みも持ち合わせておりあっさり開錠してみせた。
(全く、張り合いがないな。ここまでやる気がないと罠とすら思えてくるが……その気配もないから違う)
事実、暗殺者たちも彼自身もいまだ、自分を見張るような気配を感知していない。
そしてここまで踏み込まれても警報一つ出ていない。
貴人の部屋に暗殺者が踏み込んでいる時点で警備失格なのに、だ。
(やはり、帝国支部の連中や先代がしくじった原因はフールーダか。そして奴という守護者が居なければこうも楽に首元までたどり着ける)
スメイロト自身は、恨みを買う立場を兄に押し付けられただけだろうと彼は推測する。
かつての六腕の一人と手勢を討ち取ったのは、ただの皇族に過ぎない彼ではない。
マルムヴィストが考えている様に魔法省の逸脱者か、もしくは近頃帝国にすり寄ったと噂されるイジャニーヤによって討たれたのだと。
そう八本指は判断していた。
(呑気に眠ってやがるか。わざわざ起こして口上を述べる必要も無駄に苦しめる手間も要らないな。他の奴なら嬲り殺し位はしそうだが)
天蓋付きの大きな寝台。
掛け布団を被り、行儀のいい姿勢でスメイロトは寝息を立てていた。
マルムヴィストは愛剣のレイピア『薔薇の棘』を引き抜き、くるりと回転させた後に構える。
狙う先は、薄い掛布団の下にあるスメイロトの胸元。
一突きで心臓を複雑な刃先が抉り抜き、刃に仕込まれた致死性の毒が時間を置かずに彼の命を奪い去るだろう。
「悪く、思うなよ?」
軽薄な口調でそう小さく呟き、マルムヴィストは『流れる星の如き速度』で剣先を掛け布団に突き込んだ。
「?」
その瞬間、ブワリと掛け布団のシーツが視界を埋めた。
「なっ……?!」
レイピアを突き刺した掛け布団が一瞬で膨張し。
彼の愛剣を一瞬で包み込んだからだ。
「こ。これは、植物?!」
破れたシーツから溢れ出てきたのは根だった。
膨大な量の根の塊だった。
それが薄い掛布団の下に分厚く敷き詰められている。
「ぐ、くそっ!」
しかも、それらは明確な意思の元、マルムヴィストの攻撃を受け止めたのだ。
更に膨れ上がった幾千幾万の根は一瞬でレイピアを絡めとりホールドした。
「抜けな……いぃ!?」
無数の根によって突き入れたブレードをガッチリ拘束され。
焦りを浮かべたマルムヴィストが渾身の力で剣を引き抜こうとする。
「なんだ、これは! こんな細い根がどうして切れないっ……ぐえっ!!?」
「残念、時間切れだ」
目の前の事に集中していたマルムヴィストの声音が突然潰れる。
背後からいきなり不可視の存在に首に両腕を巻き付けられたからだ。
「が、はっ、がぁ……!?」
ギリギリと首筋を締め上げられ、声を満足に出す事も出来ない。
愛剣から手を放し、ホールドされた首元に指先をねじ込もうとするがびくともしなかった。
「何も知らんまま死ぬのは無念だろうから最後に教えてやるよ」
真後ろから聞こえる平坦な男の口調とは別に、首筋を締め上げる力は勢いよく増していく。
泡の混じった吐息を絞り出し、足をばたつかせるマルムヴィストの抵抗は何も意味をなさない。
「貴様ら盆暗共が鴨だと思ってた王配こそが、貴様らにとって最悪の強者で、逆に罠にかけた御方だって事さ……じゃ、悪く思わないでくれよ?」
「っ……!」
強制的に、視界が真横にぶれる。
ゴキリと自身の脊椎が圧し折られる音が、マルムヴィストの聴いた最後の音だった。
「マルムヴィストの始末を完了……っておい」
頭部があらぬ方向に向いたまま床に崩れ落ちたマルムヴィスト。
己の目的を達成した男……漆黒聖典所属の第十二席次“天上天下”はそこに至ってもベッドの主が起きてない事に嘆息した。
「おい、こら、起きろ」
スピスピと健康的に寝ているスメイロトに対し、“天上天下”は更に言葉をかける。
「そんなだからお子様扱いされて、愛人扱いされないんだぞ。分かってるのか?」
【ソチラモオワッタヨウダナ】
寝室のドアが開き、緑色の人型が姿を現した。
150cm程の小柄な体、緑色の髪と肌に蔓と樹脂と葉で出来た軽装の鎧を着用した森の女妖。
スタスタとベッドに近づき、ベッドの上でうねうね動く毛根の山をするすると回収していく。
毛根もスメイロトが作り出した植物系モンスターなのだろう、大人しくレイピアを離すと瞬く間に縮んでアウラウネの腕に収まった。
「そちらも、仕事は終わったのかい」
【アア、アンサツシャドモハコチラデシマツシタ】
アルラウネ達は、他の場所で同時に潜入していた暗殺部門の暗殺者を始末していたようだ。
六腕のアシスト役だった彼らが、存在しているのもしていたことがばれるのもよろしくない。
【シタイモハコビダシテアル。コンセキハナニモノコサン】
六腕によるスメイロトへの襲撃は無かった事にする。
それがスメイロトと漆黒聖典が、彼の特異性を隠蔽する為に決定した事だった。
今まで通り、事件が無ければその事件がどう解決されたか追及も探求もされない。
この別館では何も起きなかった。
スメイロトを歴史の影に隠すのにはこれが最善手なのである。
「なるほど。手際がいいな……後はこいつの死体を持ち帰って終わりだ」
彼女らは味方としては忌々しくも実に素晴らしく、敵に回れば極めて脅威だ。
かつて帝国でスメイロトと敵対した犯罪組織が、トップダウン式に瓦解していったのは彼女らの功績だろうと法国は判断している。
首領、次は幹部、更に下位の現場責任者、その順序で音もなく消されたり死体に変えていく暗殺者集団がアルラウネ・スカウト達だ。
スカウト達は文字通り斥候であるが、敵に音もなく忍び寄り反応すら許さず排除する事も得意としている。
同格のアサシン達よりは純粋な戦闘面で劣るが、スカウト達の潜入と暗殺に対抗できる存在は法国ですら限られていた。
故に六腕如きでは、スメイロトの直属の配下である難度100を超えるアルラウネ・スカウト達には手も足も出ないのは当然である。
天上天下はそんな事を考えながら、マルムヴィストを安眠の屍袋で包み終えた。
【ソヤツハ、カタヅケヌカ】
「ああ、こいつは取り決め通りに本国に連れ帰って蘇生する。戦闘部門の幹部級だ。情報を絞り出した上で『有効活用』させて貰うさ」
【ソウスルガイイ】
それ以上の問答は必要ないと判断したのだろう。
アルラウネ・スカウトは部屋から音もなく去っていく。
入口で見張っていた別の個体も、同じく気配が消えて失せた。
同格の存在の気配が消えたのを確認してから、天上天下は無言で掌を上げ。
「お前は本当にいい加減起きろ」
「いたっぁ!?」
いまだに快眠を続けるスメイロトの額をビタンと叩いた。
そも、殺し合いが起きた傍で、おまけに毛根モンスターが蠢いてるのに全く動じず睡眠を続ける辺りどういう神経をしているのか。
「あ、あれ……天上天下さん? ちぇー、旦那様じゃないのかよ……」
髪の毛をガシガシと掻きながら、大口を開けてクァゥとあくびを一発。
声音だけ少女のスメイロトは凄まじく違和感を感じるが、こいつはそういう奴なのだと天上天下は割り切る。
水明聖典においてかつての上司達の神経と胃を衰弱させた最年少の問題児は、起こした相手がスメイロトでない事が御不満の様子であった。
そして本物のスメイロトはと言うと。
そこは木々で作られた天蓋とも言える場所で。
そこに巨大な絨毯が張り付けられていた。
「スメイロト様、間もなく騎士団が八本指のアジトに突入します」
「ああ、そうだな」
絨毯にはまるで森林地帯をドローンで空中撮影しているような、上空から俯瞰している映像が映し出されている。
そこには迎撃態勢を整えている八本指の者達と、伐採された場所を駆け抜けて敵地に突入していく聖王国騎士団の姿が映し出されていた。
「さぁ、頑張ってくれよ義姉殿……我らが、聖王女の為に(後、ついでに俺の安寧の為にも)」
飛んでくるクロスボウの矢じりを最小限のステップだけで回避。
障害物の多い森林の只中でも全く動きに支障はなく、それはまるで突出した空間認識能力によるもののようだ。
聖騎士団団長たるレメディオスは、その光り輝く聖剣を掲げて八本指のアジトへと吶喊していく。
「よし、じゃあ一人師団……堰を切ってくれ。『五月の王達よ、流れを制御しろ』」
八本指にとっての計画では町で待つスメイロト、討伐を陣頭指揮するレメディオスは各個に始末する予定だった。
前者は非常に簡単である。亜人討伐に大半の戦力が派遣される以上スメイロトに残される護衛は限定される。
可能な限り聖騎士団と支援兵団を森林地帯へと引き出し、南部貴族の息がかかった協力者の手引きを受けて始末をしてしまえばいい。
レメディオスの場合は、万全を期す必要がある。
王国の裏社会における暴の強者を選りすぐった六腕であるが、今まで英雄級と対峙した事がない。
王国はおろか辺境国最強と言われるガゼフ戦士長ですら、英雄級手前と定義されている。
今のレメディオスはガゼフを上回るとゼロは想定していた。
ゼロは自分の強さに自信はあったし、戦闘者としてのプライドも高く持っている。
ただ、だからと言って馬鹿正直に格上へ真正面から挑むような真似はしない。
彼は戦いの強者であったが、同時に戦闘技能者として必ず戦いに勝つ様におぜん立てするだけの意識も持っている。
敵に勝利してこその裏社会での立場があるのだ。
己のプライドや拘りにかまけて敗北に至るような真似をするつもりはない。
故に地元の案内役の纏め役であり買収された裏切り者を利用し、的確に案内している様に見えて微妙に道や方角を間違える様にする。
少しずつ各討伐隊を遠ざけ、自然とレメディオスとその供回りが孤立する様に仕向けるのだ。
そしてレメディオスたちは孤立ししたまま、ゼロ達主力が潜む隘路へと誘い込まれる。
森林地帯の只中にある小さな窪地に誘引し、罠と搦め手によって供回りを討ち取り本人を弱体化させる。
最後に包囲した上で満を持してゼロ達精鋭を投入、一対多数で弱り切ったレメディオスを倒す。
ゼロ達六腕は対人戦闘専門であり、囲んで倒すというやり口は手慣れたものだ。
タイムスケジュール的に、先にスメイロトが暗殺されるだろう。
だが、作戦中にレメディオスが街へ引き返す事はない。
街から伝令が出ても途中で必ず不慮の事故に遭い、スメイロトの訃報がキャンプ地の騎士団や騎士団長に届くことはないのだから。
騎士団長さえ罠に引きずり込めればうまく行く。その予定だった。
ゼロは激怒した。
必ずかの無能な手下と協力者を私的制裁しなければならぬと決意した。
数刻前に便女を一人逃がしたとの報告を受け、猟犬を連れて追跡し始末してこいと命じた。
それに関しての問題の解決報告が来ない内に、外周の見張りから「騎士団が急速に接近中」との連絡が来た。
まさか、あの逃げ出した女が騎士団に通報した?
足に重篤な障害を負い、衰弱した女が森林を踏破して正確にキャンプ地に向かう?
キャンプ地への最短ルート、比較的人が通りやすい場所には罠と見張りが幾重にも仕掛けてある。
それらをただの女が掻い潜った上で通報など出来るなど想定外だ。
しかも、レンジャーでもないし土地勘も無きに等しい女の案内で騎士団が正確にここを突き止めた?
内通者たる案内人のリーダーからの連絡もない事から、この進撃が極めて短時間で行われた事は明白である。
「あり得ん」
ゼロの心境はこの一言に尽きる。
便女が騎士団と接触するまで逃げ切った事も。
自分達が森林の外周へ張り巡らせた罠や監視が機能しなかった事も。
秘匿してある筈の拠点への騎士団の短時間での到達も。
あまりにも不可解な事態が多すぎる。
だが、状況の推移はゼロに疑念を抱かせるだけの時間を与えなかった。
「ゼロ、空から見張ってるデイバーノックからの連絡だ。もうじき、騎士団長と騎士団がここに雪崩れ込んで来る」
「ど、どうするんだゼロ!こ、こんな事態は想定してないぞっ!?」
「そうだ、亜人の英傑殺しがやってくるんだ。君達で対処できるのか!?」
コッコドールが寄越した奴隷売買部門の幹部が慌て、ヒルマから派遣されてきた麻薬部門の幹部が指摘する。
「狼狽えるな! ……向こうから来るならそれでもかまわん。このアジトの堅牢さと罠のしかけ、知らんとは言わさんぞ?」
ゼロは慎重でありいざという時の保険もかけていた。
アジトに仕掛けてある無数の罠。
対人戦闘を想定した防御設備。
待ち伏せに適した地形は、山ほど敵対者を葬って来た八本指の殺人術の集大成でもある。
「貴様らは非常用の地下室に隠れて居ろ……何、そう時間はかからん筈だ」
アジトの貴重品や書類を隠してある地下室への退避を幹部達に勧め、ゼロは己の拳を打ち付け合う。
「エドストレーム、ペシュリアン、デイバーノック!!」
妙齢のダンサーの如き身なりの妖艶な曲刀使い“踊る三日月刀”。
全身鎧を着用した鞭の如き邪剣扱いの男“空間斬”。
黒いローブに身を包み邪気を発するエルダーリッチ“不死王”。
「ここで聖騎士団長を仕留める。侵入者は一人も逃がすな。マルムヴィストが仕事を果たせばどの道目標は達成できる!」
警備部門が誇る武の象徴の六腕の内三人を引き連れた頂点たる“闘鬼”ゼロ。
「六腕達よ、征くぞ!!」
そして外周の守りを突破したレメディオスをゼロ達が視認した瞬間。
八本指のアジトに、森林地帯を住まいとするモンスターの群れが雪崩れ込んで来た。
「あっはっは、見ろ、八本指共がゴミのようだ!!」
「ええ、そうですね実に素晴らしい光景です」
絨毯に投影された映像の下で。
スメイロトと漆黒聖典第五席次は無数のモンスターに蹂躙される八本指達に喝采し。
「うわ、ぐろ~」
投影用の魔法装置を操作する第七席次“占星千里”は、ばらばらに吹き飛ぶ建物と人を見て顔をちょっとだけしかめ。
「えぐしゅぎー」
胡坐をかいて座布団に座っているスメイロトの、胡坐を枕にしている長い水色の長髪の少女は仰向けに寝転び虚ろな目つきのまま謎の言葉を叫ぶ。
占星千里が扱っている魔法装置はLv60台のユグドラシルの魔法職プレイヤーに匹敵する彼女のMPの譲渡によって最大スペックで稼働していた。
「いやぁ、やっぱ気持ちいいなぁ! 大きなギミックの罠がスパッと決まった時は!!」
一人師団のテイマー能力によって、五月の王の魅了スキルによって酔わされ、八本指のアジト近くに集結させられた森のモンスター達。
それらを五月の王達の作り出した木々の壁によって動きに指向性を付けて狂暴化させ、暴走させたのが今回の策である。
モンスターの大群による横殴りの襲撃。
突入態勢に移行していた騎士団の動きは完全に止まっていた。
千を超える大小様々なモンスター達に轢き潰されていく八本指の構成員達を見ればそうもなるだろう。
だれだって、自分達が立ち入れば即死に繋がりかねない、そんな死地を目前にすれば躊躇する。
「ちぇおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
だが、例外はどこにでもいるものである。
聖騎士団長レメディオス・カストディオだ。
「だ、団長ぉぉぉぉぉ!!!??」
副団長グスターボ・モンタニェスの絶叫を背に、彼女は八本指アジトへの吶喊を敢行した。
サイズの小さなモンスターは切り捨て、中型はいなすか張り飛ばして進路を逸らし、大型は素早く回避。
動物的かつ直感的にであるが、彼女は優先順位を間違えておらず、モンスターの群れを倒すべき相手と認識してなかった。
「ば、莫迦な何故突っ込んで来る!?」
「『寄足』!」
突進してくるモンスター達を切り飛ばしていた邪剣を、レメディオスに慌てて向けようとするペシュリアン。
その彼の視線の先で、まるで瞬時に動いたかの様な……スメイロトの表現で言えばコマ送りの様な動き。
ペシュリアンの間合いに入る直前で、急激に動きが加速したレメディオスの振り降ろしが彼の命をその装甲ごと切断した。
「がっ?」
彼の邪剣の威力を活かすには相手との相対的な距離感が命である。
その距離感を一瞬にして詰め一撃で鎧を着ていようが叩き斬る。
まさに天敵である。
「ペシュリアン……って、く、来るなぁ!!」
傍で同じくモンスターを迎撃していたエドストレームにとってもそれは同じ。
空間認識能力によって複数の曲刀を操り多角攻撃を行う彼女も、瞬時に間合いを詰めて来るレメディオスとは最悪の相性だった。
「『寄足』!」
「こんな早、ぎゃあ!?」
慌てて飛ばした二本の曲刀は瞬時に見切られ。
他の二本を動かす前に眼前へ移動してきた聖剣使いの一撃が彼女を袈裟懸けに叩き斬った。
六腕の中では回避力も身のこなしも俊敏なエドストレームが、回避の反応すら許されなかったその移動の加速。
訓練の視察で訪れたスメイロトの「敵の間合いに入る手前で急激に加速したら相手の意表を突けない?」という意見をレメディオスが真に受け。
グスターボの胃壁と副団長イサンドロ・サンチェスの過労と残業を犠牲にして、討伐任務中亜人相手に頭真っ白になるまで剣を振ってたら出来るようになっていた独自の武技である。
その名は武技『寄足』。
相手の間合いに入るタイミングで発動させると、使用者の敏捷力を瞬発的にであるが大幅に跳ね上げる武技である。
踏み込む速度も、剣を振るう速度も瞬時に倍化するその一撃は、まさに初見殺しと言えた。
「ならば我が秘術で貴様を!」
離れた位置からレメディオスめがけて火球を放とうとしていたデイバーノック。
だが、火球が放たれる事も、彼の言葉が最後まで紡がれる事もなかった。
「は」
途中で、横合いから猛スピードで突っ込んで来たギガント・バジリスクの大口に被りつかれ。
一瞬で上半身をかみ砕かれてしまったからだ。
まるで汚いものでも口に入れてしまったかのように、砕かれた上半身をバジリスクはペッと吐き出し。
そのまま一般通過の野生モンスターですよな仕草で走り去っていった。
「お、お、おのれぇぇぇぇ!!?」
三人の手下があっさり倒され、ゼロはこれ以上なく激昂した。
彼の主観で理不尽すぎる展開にか、それとも英雄級らしい理不尽な強さを示したレメディオスにか。
全身の入れ墨が発光し、彼に出来る全てのバフは完了した。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
相手が理不尽な加速をしてくるのは、二人の部下のおかげで理解した。
ならば、こちら側から加速を仕掛けてタイミングを崩すしかない。
合間に飛び込んで来る巨大グマを一撃で殴り殺しながら、ゼロは突き進んでいく。
対するレメディオスは数匹の悪霊犬を瞬時に切り捨て、ゼロの一撃を迎え打つ。
相手との距離が極限まで迫った瞬間。
その優れた直感からかゼロは見た。見てしまった。
モンスター達が駆け抜けていく小さな茂みの中。
その中から突き出る緑色の複数の筒と、そこから飛んでくる針を。
ゼロが戦い抜いてきた裏社会では『よくある事』である為、彼は何を意図したか理解してしまった。
(そうか、この戦いは)
次の瞬間、体を襲う痺れと悪寒。
僅かに鈍る必殺の一撃と、逆に跳ね上がる勢いで迫るレメディオスの必殺の一撃。
(茶番、か!!)
真実にたどり着いたその時。
闘鬼ゼロの命は潰えていた。
聖騎士団長レメディオス・カストディオが、副団長グスターボ・モンタニェス達僅かな供回りを連れて早馬でホバンスに帰還。
駅馬の馬達を使い潰す勢いで中部から北部の首都まで駆け戻った騎士団長は、供回り達に大量の書類を持たせていた。
「聖王国の一大事にございます! 至急、聖王女にお目通りを願いたい!!」
緊急で招集された政権の責任者達は、団長達が持ち込んだ書類に目を通し絶句した。
八本指のアジトの地下室。
気絶していた八本指の幹部代理達と、彼らが潜んでいた部屋に並んでいた大量の黒粉と違法な商品の数々。
そして彼らがこの国で誰と謀を組み、何を企んでいたかを示す書類の数々の内容を。
南部貴族の過激派と八本指の麻薬部門と人身売買部門と密輸部門に警備部門が企んでいた謀議の初手。
王配スメイロト・ベサーレスと、聖騎士団長レメディオス・カストディオを虚偽の亜人討伐で釣り出し両者を暗殺。
王位の名代を弑してホバンスの権威を失墜させ、聖騎士団の英雄団長が亜人相手に倒れる事で騎士団を機能不全にし政権に大打撃を与える企みを。
ミシッ。
音が王城の会議室に響き、全員が音の発生源を見て息をのむ。
手にしていた羽ペンの柄を握力で歪めたカルカ・ベサーレスの面持ちは無表情だった。
「カ、カルカ様?」
異様な雰囲気に恐れを為したのか、呼びかけたレメディオスの声も控えめである。
プルプルと震える手を下ろすように、ゆっくりとカルカは柄が握力で歪んでいる羽ペンを卓上に置く。
カタン、という硬質な音がやけに会議室に響き、何人かの喉がごくりと鳴った。
「4名は会議室に残ってください……宰相カスポンド・ベサーレス。神殿神官長ケラルト・ベサーレス。聖騎士団長レメディオス・カストディオ、副団長グスターボ・モンタニェス」
それだけ言うと、聖王女は沈黙した。
彼女の圧を受けたのか、会議室に居た上級騎士と廷臣達は整然と……足早に退出していく。
え、私も残るんですか?というグスターボの救いを求める視線に、誰も彼も目を逸らして会議室から出ていく。
パタン、と会議室の両開きの扉が閉じる。
十数秒の沈黙の後……今まで誰も聞いたことのないカルカ・ベサーレスの激しい怒声が会議室に響いた。
この怒声こそが、聖王国の歴史で【聖女王の覚醒】と言われる国内における不穏分子に対する粛清の号砲とされる。
ゼロ相手の時は普通に勝てたとは思います。
が、万が一にでもレメディオスが不慮の事態に陥るのは拙いと判断し勝手に介入しています。
後、こうして最後のどうしようもない瞬間に、ゼロが自分達を襲い続けた理不尽の正体が何なのかに気付き唖然とする……美しいと思いませんか?
レメ「見てくれ―、亜人を追っててとんでもないものを見つけてしまったぁ。どうしよう(素」