アイ・ライク・トブ【完結】   作:takaMe234

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「こ、これは……どういう、ことだ」

 

アルベドから手渡された指輪を、モモンガは驚愕と共に見た。

 

「はい、玉座の間の手前にある神像の陰に落ちていたのを配下の者が発見いたしました。

 内側に刻まれたサインから、アイダホ・オイーモ様のリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンである事は間違いございません」

 

モモンガは指輪の内側を確認する。

交差する二つの剣とアバターの目をイメージした円が二つ。

間違いない、アイダホ・オイーモのものだ。

 

つまり、彼は玉座の間のドアの近くまで来ていた。

これは動かない事実になった。確かに、彼はモモンガとの約束を果たそうとしたのだ。

 

しかし、どういう事だろうか。

何故、指輪はあっても、本人が居ないのだろうか。

 

指輪の一つや二つはいい。

宝物庫に引退したメンバーの分がある。代わりは効くのだ。

 

だが、ギルドメンバーの代えなど存在しない。

共にナザリックの栄光を築き上げた友達に、代えなど存在しないのだ。

 

「アイダホさんは、まだ見つからないのか?」

 

その冷えつくような声に、アルベドは恐懼しながら答える。

 

「お、恐れながらまだ見つかっておりません。姉のニグレドにも指示を伝え、ナザリック内部の更なる探査を行いました。指輪の魔力の残滓等も調べ追尾も行いましたが、そのリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが最後に使用されたのはかなり昔となります」

 

ドン、と玉座の肘掛が強く叩きつけられる。

そのままの勢いでモモンガは玉座から立ち上がった。

 

アイダホは見つからない。

指輪は見つかっても本人はいない。

利用履歴を見ても、明らかに転移したのは昔の施設移動。

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは、見つかった。

だが、それを所持したアイダホ・オイーモは見つからない。

居たという事実は発見しても、モモンガが何より知りたい彼の安否は分からない。

 

 

「糞がっ、糞がぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

支配者たらんとし、自制するつもりだったが我慢できなかった。

これが別の案件であれば自制できただろうが、唯一の例外であるギルメンに関しては無理だった。

オーバーロードの天に響く様な怒号に、更に縮こまる階層守護者。

そんな彼らの怯えなど知らぬとばかりに、ギルドマスターにしてナザリックの支配者は精神抑制を押し切る程の負の感情を放出した。

 

 

 

何故だ、何故自分は仲間と再会する事が出来ない!!

 

やっと孤独から解放されると思ったのに!!

 

彼だけが一人、自分と共に残ってくれた筈なのに!!

 

この奇跡を分かち合い、具現化したナザリックを共有できる筈だったのに!!

 

 

 

「あなたは、どこに行ってしまったんですか、アイダホさん!!!!!」

 

 

 

モモンガは堪え切れぬ激情をまき散らし、絶望のオーラを噴き上げる。

意識が揺らぐほどに精神抑制が繰り返されるが、それでも抑えきれない程の怒りとも嘆きとも言えない感情が駆け巡る。

うつむいたままの階層守護者達。その中で叫びを聞いたアルベドの口元が引き攣り、歯がギチリと咬み締められた。

 

 

 

 

 

セバスの報告は、まだ来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中の街、バレイショ。

 

その中で近年になって建造され、まだ一部は増築を行われている施設がある。

魔樹の残骸から切り出された木材を軸に建造されている領主、アイダホの館だ。

その最上階の一室。彼の執務室でアイダホは書類を確認しながら物思いに耽っていた。

 

(………転移して、もう、百年近くか)

 

ナザリックを、モモンガを、アインズ・ウール・ゴウンを思い出すと無意識にあの指輪を思い出す。

ギルドサインが、自分のギルドメンバーのサインが彫り込まれた指輪の事を。

 

「どこにも見つからなかったよな」

 

自分が填めていた筈の指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

転移して暫くしてから、無くした事に気づいたアイテムだ。

思えば、アレを使えば一瞬でナザリックに帰れるのに知らない場所で方向も分からず飛んで帰ろうとした。

認識していた以上にパニックに陥っていたという事だろう。

 

その後、散々に探したが帰還の頼みとなる指輪はついに見つからなかった。

各種探索系のスクロールを使用し、アポート(アイテム召喚)を利用しても出てこなかった。

諦めれるまでは数年かかったが、今でも折を見て探す時がある。

 

(……結局、大陸の中央側近くまであちこち探したけど、指輪どころかギルドの痕跡や情報も一切見つからなかった)

 

百年間の間、彼は多くの時間をナザリックとモモンガの捜索に費やした。

しかし、その努力は直接の成果にはつながらなかった。

代わりに多くの人種亜種との繋がりや腐れ縁、八欲王や六大神、歴史には出る事なく朽ち果てたプレイヤーの痕跡は発見したが。

 

アイダホの中では結論が出ていた。

少なくとも、自分と同じ時期、もしくは過去においてナザリック大墳墓は転移してきていないと。

 

結論が出た時は随分と落ち込んだが、それでも期待できる時期が近付くにつれて立ち直る事が出来た。

 

(一縷の望みは来年。揺り返しの時期だ。これで来なかったらまた百年待たなきゃいけないのか……)

 

もし、来年が期待外れの年だったら。

いい加減、次の百年が経過するまでどこかの洞窟に籠って不貞寝してようかとも考えた。

今こうして領主の真似事をしなきゃならず、更に予定としては巨大な面倒ごとを来年辺りから抱え込む身としては。

 

(出来ないのが俺なんだろうなぁ。ああ全く、来年はゆっくり捜索出来る様に今年中に手間がかかる事は片づけておかないと。そうでなくても捜索の期間がどんどん削られてるってのに。ああ、どうしてあいつらは好き好んで俺に面倒ごと被せようとするんだろ)

 

それは神様ですから、と凄いいい笑顔で神官長達は言いそうだ。

神様ってなんだろ、とアイダホは哲学した。これ以上為政者の仕事が忙しくなるならヘロヘロさんは間違いなく労働の神様だ。

 

 

 

神官長達の顔を羊皮紙に見立ててクシャクシャと丸めてると、卓上の招き猫が目をピカピカ光らせる。

館内連絡用のマジックアイテムであり、一階の管理室に置かれている招き猫の右腕を下す事で電話の様に会話が出来るのだ。

アイダホも招き猫の右腕を下して通話状態にする。

 

「アイダホ様。ツアレでございます」

「ああ、ツアレか。どうした?」

「ご予定通り、イビルアイ様がアイダホ様にお会いしたいとの事です」

「そうか。じゃあジャイムスに案内させてくれ」

「かしこまりました」

 

猫の腕を押し上げて通話を終了させて暫しの後、執務室のドアの通路側からノックが響いた。

 

「おう、入れ」

 

ソファに移動していたアイダホが声をかけると「失礼いたします」との返事と一緒にドアが開いた。

 

黒いスーツに身を包んだ、老齢に差し掛かった執事が執務室のドアを開けている。

通されたのはまだ幼いとも言える少女だった。仮面で顔を隠し、黒を基調にした衣装を着用していた。

 

「やぁ、イビルアイ。久しぶりだ。どうぞ座ってくれ。ああ、ジャイムス。お茶は要らないからな。下がっていいぞ」

「かしこまりました。アイダホ様」

 

恭しく一礼し、執事がドアを閉めたのを見計らう様にイビルアイはソファに座った。

少女は落ち着かないのか、深々と腰が沈むソファを何度も座りなおしている。

都市国家連合で作られた特注のソファはお気に召さないのかなと考えていたら、イビルアイが口を開いた。

 

「頼まれていたのはこれだ。ラキュースが知り合いから手に入れた情報と、連中の近日の動きが載っている」

「いや、助かったよ。王国の情報を手に入れるには君らは最適だからね」

 

ムスッとした口調に内心苦笑しつつ、アイダホは書類を改めた。

 

そこには、王国を蝕み裏側を支配する犯罪結社、八本指の情報が整然と書き連ねてある。

腐敗の極みにある王国の支配層では、癒着し過ぎてもはや除去すら出来なくなった組織だ。

法国と関係のあるアイダホに王国の堕落と恥の集大成を見せるようなものだ。

イビルアイも、恐らくはそれ以上に彼女のチームのボスであるラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは忸怩たる思いをしているだろう。

 

だが、近年はその八本指もいまいち調子が悪いらしい。

王都の直営している違法娼館が何者かによって破壊され幹部が死亡したり、蒼の薔薇や朱の雫の妨害で【黒粉】と呼ばれる麻薬の生産に妨害が入っている。

トブの大森林の中に麻薬畑を作ったりもした様だが、それも何者かによって畑と管理者や偶々視察に来ていた幹部が護衛も含めて壊滅している。

更に麻薬取引部門の長たるヒルマが王都から姿を消し行方不明になるなど、組織の中核たる部門長達とその武力たる五腕も神経をとがらせているそうだ。

 

(そういえばニニャの頼みでツアレを助ける時に、連中の幹部っぽいのが居たな? 気が付いたら死んでたけど)

 

救出する際に建物内に居た幻魔だかなんだかは、通路に居た雑魚という名の用心棒を一掃する為に放った衝撃波を食らいフレッシュミートになった。

あんな攻撃で一撃死する位だから周りの雑魚と変わらないし大して気にはしなかったが、あれでも一応戦闘部門の幹部だったらしい。

確認しなかったので今となっては分からない事だ。それに今更確認のしようがないのも事実。

 

ツアレをはじめとする娼婦達を手当をしてからミニ石像に変えて背負い袋にしまった後。

彼はその違法娼館を建物ごと爆砕して隠滅したのだから。

 

襲撃前に周囲にパーフェクト・サイレンス(完全なる静寂)を仕掛けたので傍目から見たら音も無く館が崩壊するのが見えただろう。

あの後、王都は随分大騒ぎになったようだが、アイダホからすれば知った事ではないので気にも留めなかった。

 

 

その点、麻薬畑の壊滅には慎重を期した。

明らかに領域の侵犯に値する為だ。背後関係も慎重に探って再犯が無いように叩き潰さないといけない。

殺さず無力化し、その後ハムスケのチャームスピーシーズ(全種族魅了)で支配して根こそぎ情報を抜き出した。

その情報からこの麻薬畑を企画した相手であるヒルマを手繰り出し、屋敷を襲撃して本人と証拠となるブツを根こそぎ持ちだしたのだ。

ヒルマも既にチャームスピーシーズ(全種族魅了)で支配して情報を抜き出し済みだ。

それらは情報の引き換えで渡した封筒の中に証拠と一緒に入っている。

 

ヒルマ達のその後はどうなったのか。

故郷にでも帰ったのだろう、なあハムスケ?

 

「ありがたい。これを使えば告発は出来なくても私達の作戦で効率的に麻薬部門の力を削ぎ落す事が出来る。感謝するよ」

「なーに、その辺は持ちつ持たれつだ。こっちとしても森の中に麻薬畑作ろうと企む連中なんざ許容できん。しかし、それだけ証拠を揃えても告発すら出来ないとはな。王都なのに司法が機能してないって本気で拙くないか?」

 

イビルアイは答えなかった。

ただ、小さく歯を噛み締める音だけが聞こえた。

悲しい位に腐りきり、自らを蝕む膿を絞り出す余力もない国。

ラキュースもイビルアイと同じかそれ以上に己の無力を嘆いてるだろう。

大変だろうなと同情だけはしつつ、アイダホはあえて明るい声を出して労う事にした。

彼女らは有能で勤労精神に溢れている。王国は兎も角、主に自分の為に頑張って欲しい。

 

「それと、今回の情報に対する報酬のおまけだ。君と君の属するチームは優秀だからな。

 今後も万全に活動を継続できる為の資金源だと思って受け取ってくれ。俺も、蒼の薔薇には期待しているよ?」

 

机の上にある鈴を軽く鳴らすと、執務室脇の使用人控室から三人の女性が出て来る。

深緑と白で組み合わされたメイド服に身を包んだ、三人の美しいエルフ達だった。

トブの大森林も人類側に属する。それを加味すれば彼女達の立場をイビルアイは想像できた。

 

「エルフの使用人……アイダホ、亜人種の奴隷とは趣味が悪いぞ! ……ん?」

 

イビルアイが不愉快を含んだ物言いをしたが、それは仕方がない。

人類の国家において亜人種は奴隷扱いされることが多いのだ。

エルフの奴隷は主に法国からの戦争捕虜による事が一般的と言える。

最近は奴隷制度を嫌悪した某人物の影響により、一時期よりは減ってはいた。

だが、それでも奴隷制が消えたわけではなく、細々と流通はしているのだ。

そして、イビルアイというよりも彼女が属する冒険者チームの蒼の薔薇はそういう事柄を嫌う。

 

以上の理由でイビルアイはアイダホに尖った物言いをしてしまったわけだがその言葉は途中で途切れた。

 

「耳が……再生されている?」

 

奴隷階級に落とされたエルフ達は、証として耳をその半ばまで斬り落とされる。

しかし、穏やかな面持ちでテーブルの傍までやってきたメイド達の耳は種族の特徴である長く尖った耳だ。

 

「お前たちは、奴隷じゃないのか」

「お客様、私達は奴隷ではございません。慈悲深きアイダホ様の御手によって救われ、その御傍に侍る事を許されたメイドでございます」

 

テーブルに三人のエルフ達が次々と木製の小箱を置いていく。

彼女らの手によって小箱が開けられると、その中には金貨がぎっちりと詰まっていた。

 

「彼女たちのいう通りだよイビルアイ。確かに昔は奴隷だったが俺が貰い受けてメイドにしたんだ。その証拠に耳は治っているだろう? こういう証明は正直好かないからな。だから、そんな不機嫌な顔はしないでくれよ」

 

仮面で動揺を隠しているだろうイビルアイに対し、アイダホは軽く肩をすくめて見せた。

 

「君達とは今後ともよいお付き合いをしたいからね。さ、報酬を受け取ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この三人のメイド、もといエルフ奴隷を拾った……というよりも雇用したのは数か月前の事だ。

帝都の観光ついでに側仕えとか雇用できないかなと考えていた頃合いである。

バレイショを本格的に国の中心として設える時、支配者が住む場所は相応に体裁を整えなければ恥を掻く。

当時はザイトルクワエの遺体を流用して建築が進む領主の館に、商工会から派遣されたお手伝いさんと清掃ゴーレムしかいない。

館に相応しい従者や使用人、メイドが必要だとの指摘を受け、それらをそろえる段取りをつける為に帝都へ赴いたのだが……

 

 

帝都名物の闘技場を覗いた時に、廊下に並べられて折檻を受けるエルフ達と変な気障男が目についた。

帝国でエルフを見かける事があれば、それは殆どが奴隷としてのエルフである。

何度か帝都を訪問していたアイダホは知識としてそれを知っていたが、目の前で行われている事は彼にしても不愉快に過ぎた。

周りを通り過ぎる人々からも隠し切れない嫌悪の感情が伺える事から、奴隷制度を公認している帝国人達からしてもこの男のやり方は暴挙なのだろう。

 

だから、アイダホが注意をしたのはしょうがない事だ。

いくら黙認はされても目につく範囲で立小便をしてたらそれは注意すべき事柄だ。

そんな感じで嫉妬マスクを被り感知抑制の指輪を装備したアイダホはエルヤーに注意をしたのだが。

 

結果、エルフの所有権、また白金貨30枚を賭けてその日の午後に飛び入り参加で戦う事が決定した。

何を言っているのかわからないと思うが、単なる注意をしただけの事からそうなってしまったのだ。

 

エルヤーのアイダホに対する愚弄と嘲笑に対し、アイダホが静かにブチ切れてしまっただけの事である。

そしてエルフの所有権の羊皮紙、またはアイダホが財布から取り出して提示した白金貨30枚が勝利者の報酬となった。

 

 

 

そのエルヤー・ウズルスがどうなったかというと。

 

剣技で言えばまぁ、確かにこの世界では上位であるとは思えた。

ユグドラシルのルール外である武技の発展型としては興味深くもあるが、それ以上に不愉快だったのでアイダホは潰す事にした。

こういう手合いはお上品に勝利しても事実を認められず、後で逆恨みしてくる場合がある。

なので、徹底的に心をへし折る事に決めた。単にむかついてたのもあったけれど。

 

「さぁ、我が剣の神髄を見なさい! そして屈するのです!!」

 

自信満々に切りかかって来たエルヤーの一撃を軽く手甲でパシッと弾く。

エルヤーご自慢の『神刀』は、隠ぺいの為に装備してきた聖遺物級の防具に細かい傷一つつけられない。

あまりにも退屈な一撃に、戦闘スキルを使う気にもならなかった。

というか、出会った頃のハムスケと戦ってもろくに抵抗できないんじゃなかろうか。

 

「えっ」

 

一瞬で眼前に現れた、動きとかそういう生温い感じではない出現。

残像を認識すらできないエルヤーは間抜けとも言える呟きを漏らす。

瞬時に間合いを詰めてから奴の両肩をホールド。

動けなくしてから種族スキルで利用可能なフィアー(恐怖)を流し込んでやる。

更に腰のベルトを引き千切ってズボンと下履きをずり落とし、後ろへと勢いよく突き飛ばした。

へたり込んだエルヤーは、落とした武器も拾わずがくがく震え出したかと思うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」

 

 

 

 

 

 

 

闘技場のど真ん中、大衆の眼前で全力脱糞して敗北するというその性根に相応しいラストを迎えた。

以前夜盗に対してフィアー(恐怖)を実験注入した時に、彼らが至った末路がアレだったのでそうなればいいかなぁと思ってやってみたらばっちりだった。

 

「おおー、期待通りだったねぇ。糞野郎だけにうんこブリブリだwww   っていうかクセェよこのうんこ野郎!!」

 

闘技場を埋め尽くす罵声と嘲笑のただなかで、アイダホはガッツポーズをとった後で罵倒し更に後ろに下がった。

もっとも多かった事例は狂死だったが、流石に闘技場でそれをやると問題になるので自重はした。狂死寸前の量だったのは秘密である。

それでも『最強の剣闘士(笑)』を自負し闘技場でもその扱いだった男がこんな敗北を迎えれば、それは剣闘士としての【死】だろう。

技量だけでなく世間的な評判も大事な剣闘士がこんな無様な試合を見せれば再起不能(リタイヤ)と言っても過言ではない。

アイダホからすればイラっとした相手をボコって社会的に抹殺し、丁度欲しかった側仕え達を手に入れたので一挙両得と言える。

 

こうして、アイダホは胸糞悪い手合いを成敗した上に、エルフ達を手に入れたのである。

ちなみに糞まみれになって嘲笑を浴びせられるあまりにも無様なエルヤーを、一番嘲笑っていたのはそのエルフ達だった。女って怖いね。

 

闘技場の試合中に漏らしたら人生終わるナリ。

 

エルヤー・ウズルスの人生は実際にして終わった。

そして、アイダホにとっては汚物野郎がその後どうなったのか等どうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イビルアイが転移魔法で王国の拠点側に去った後、アイダホは後片付けに勤しむエルフメイド達を観察してなごんでいた。

フリフリとしたエプロンドレスや、綺麗な文様が入れられたホワイトブリムが金髪の中で揺れるのを見ると精神が安定化してくる。

 

(メイド服を着たエルフは可憐だ……人間の文明社会の極みであるメイド服と、自然の神秘であるエルフの大融合。文明と自然と神秘のハイブリット、エルフ・メイドは正義! このギャップならタブラさんもきっと萌えてくれるに違いない)

 

この間法国の使者としてやって来たニグン・グリッド・ルーイン等は恐れながらと言いつつ諫言してしたが、アイダホは全く気にしてない。

このエルフ・メイドの善さに比べれば、法国とのエルフに対する扱いの不一致など些末な事柄である。

 

アイテムボックスの中に入ってたヘロヘロ、ク・ドゥ・グラース、ホワイトブリム監修の衣装データ集【メイド衣装百下百全】。

その中から抽出したデータを描き起こし、帝国の帝都アーウィンタールで一番と言われた仕立て屋に白金貨がぎっちり詰まった小袋と共に依頼した。

 

(当時はメイドは可愛いと思ってたけどその程度だったし、あの三人が騒ぐ理由が解からなかった。しかし、こうしてみると……素晴らしいなぁ)

 

金を惜しまず仕立てたメイド服は素晴らしい出来具合の一言だった。

帝国の優れた日用魔法により劣化防止、汚れ排除、形状記憶、の効能がかけられている。

メイド萌え三人衆の徹底した拘りによる清楚さと機能美に満ちたデザインは秀逸の一言。

 

(ツアレの御淑やかさもグっとくるし、三人の神秘さとメイド服のコントラストも堪らないんだよなぁ)

 

しかも、それを纏うのがツアレとこのエルフ達である。

異形種故に人間や亜人に対する美意識が愛玩止まりのアイダホでも、久方ぶりに動揺を感じてしまった位だ。

「メイド服は決戦兵器」というホワイトブリムの言葉は真理である。心洗われたアイダホであった。

惜しむらくはこの完成されたメイド美を三人に見せられない事だ。

ホワイトブリムなら感極まって絶叫しつつ模写しただろうに。

 

(後は、メイドとしての本格的な教育が問題なんだよな。アルシェの処で働いてた執事と奉公人が頑張ってくれてはいるが。まだメイド服着たお手伝いさんだし。その辺、追加でアルシェに相談してみるか。元貴族だし教養系の伝手はあるだろ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイド服を作り上げた仕立て屋が出来栄えに感動し、アイダホに土下座してデザインの一部を流用する事を許された。

そのデザインは仕立て屋の腕と才能によって瞬く間に帝都で流行する衣装を構成する事になるのだがそれは余談である。

 

 

 

 

 

 




守護者一同「セバスー!はやく(報告に)きてくれー!!!!」




尚一年早く救出が行われた為、娼館に売り飛ばされてからそれ程日にちが経っておらずソリュシャンの飢えを満たしたツアレさんのアレはありません。ツアレさんも不幸な過去に苦しんではいますが、あの鬼畜娼館で受けた苦しみそのものは大幅に減少しています。

ツアレさん+エルフメイドズのメイド服は、ツアレのステータスに表示されていたイラストのタイプをやや装飾華美にし、黒地を深緑色にした感じとなります。
服の文様は蔓や葉の形をイメージしてあります。


4/30 gi13さん、誤字報告ありがとうございました。









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