魔法少女リリカルなのは~ブレイジング・ルミナス~ 作:火神はやて
黄昏に溶ける雲の上。
夜の暗がりが迫る、海鳴市上空。
空が足元にある世界で、氷と炎が激突し、千切れて溶けた。
「シュテル、やめるんだ!」
「いいえ、クロノ、どいてください」
二人の魔導師が、空中で己が意思をぶつけあっていた。
一人は少年。
狼狽を隠せず、しかし努めて冷静であろうとする、クロノ・ハラオウン。
一人は少女。
今にも泣き崩れそうな瞳を揺らし翔ぶ、シュテルだ。
ーー彼の寂しそうな横顔が、こびり付いて消えない。
撃ちだされた火柱は、けれど分厚い氷の壁を突破出来ずに虚しく霧散する。
ーーどうして。
「どいて……どいて下さい……クロノ……! お願いです……!!」
破れかぶれの無茶苦茶な特攻。
それは理性も知性もない、まるで子どもの駄々そのもの。
普段のシュテルからは想像もつかない、激情に身を委ねただけの稚拙な攻撃。
ーー貴方が、隣にいない。
シュテルは右の手首を名残惜しそうにさすった。
ーー痛む鼓動が、抑えられない。
「シュテル……!」
クロノは悔恨とも、忸怩ともつかぬ表情で、バインドを放った。
それはシュテルへと絡みつき、動きを完全に封じる。
「あ……」
ーー何もかも、気が付くのが遅かった。
「あ……ああ……」
ーー血に沈む冷たい体の感触が、忘れられない。
「ーーあああぁあぁああああああああぁああぁあああ!!」
怒声とも悲鳴とも聞こえる裂帛の叫びと共に、シュテルはディザスターヒートで自身を打ち抜いた。
高濃度の火炎で強引にバインドを消し飛ばしたのだ。
「どいて……下さい……」
シュテルはふらつく体を引きずり、尚も前へと進もうとする。
痛みに顔を歪め、ボロボロのバリアジャケットを気にもせず、ただ、懇願する様にルシフェリオンの砲塔をクロノへ向ける。
それは、あまりにも痛々しい光景であった。
「お願い……です……」
その暗澹たる瞳に、シュテルは明らかな敵意を灯してみせた。
最早憎悪とも取れる、その強く暗い光。シュテルがみせた剥き出しの感情。
クロノは、奥歯を砕ける程に噛みしめた。
「シュテル、冷静になってくれ! 頼む……!」
クロノは魔力を込めた氷塊を放つ。
普段のシュテルならば目を瞑ってでも避けられる、ただの牽制でしかない攻撃。
けれどそれは、シュテルに直撃した。
当然クロノは防ぐものと考えており、想定外の事態に明らかな焦りをみせる。
「ーーーー」
地へと滑落する中、シュテルはニコリと目を細めた。
ーーあぁ、これで。
大粒の涙を上へと流しながら、笑う。
ーーこれで、貴方と同じ場所にいけるのでしょうか。
シュテルの影は、雲の下へと、何処までも墜ちていった。
とても素晴らしき挿絵は、「んにゃら」様に描いて頂きました。ありがとうございます!
んにゃら様pixiv→https://www.pixiv.net/member.php?id=1437319
6話まで投稿していましたが、色々思う所があり、0話となるプロローグを追加しました。挿絵も0話に移動させたため、2話のあとがきも少々変わっております。精進します。
シリアスかと思いきや、そうでない時もあったりなかったり。
基本的にはシュテルが可愛い感じになる事を中心に書いていこうかなと。
もしよろしければ、お付き合いいただければ幸いです。