魔法少女リリカルなのは~ブレイジング・ルミナス~ 作:火神はやて
2人の出会いです。
ではでは、ほんの少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。
太陽が空の真上に至るお昼時。
海鳴市藤見町の片隅に設けられた小さな緑地にも、燦燦と陽の光が注がれていた。
『藤見町公園』と看板が掲げられたそこは、錆びついたブランコがポツンと設置されるだけの、簡易な公園だった。
楕円形の公園の周りにはグルリと木々が囲み、日差しを和らぐ影を落としている。
そんな手狭な避暑地の奥、背もたれのない木製ベンチの上に1つの人影があった。
「…………」
無言でペラリと本の頁を捲る少女。
薄ピンクのカーディガンに青を基調としたスカートを履き、ボブカットの髪をそよ風になびかせている。
『古代ベルカ式広域攻撃魔法』と題された分厚い書籍を涼しい顔で読み解く少女の名は、シュテルだ。
(ふむ、実に興味深い。流石はクロノの推薦書ですね)
表情筋は動かさず、しかし内心で満足げにため息を吐きながら、シュテルは紙面から意識をふっと外した。
(しかし、まさかこれほど穏やかな気持ちで読書に耽られる日がこようとは)
一陣の風が、読みかけの頁をパラパラとめくり、シュテルは慌ててそれを押さえる。
(あれからもう、2か月ですか……)
シュテルは思う。
『砕け得ぬ闇事件』を。
あれだけの大事件を起こしながらも安寧とした時を過ごせている事実に、シュテルは心地よい違和感を覚えていた。
(管理局委嘱魔導士の道を指示してくれた夜天の主には、感謝せねばいけませんね……)
流石にお咎めなしに放任という訳にもいかず、1つの体裁として管理局付けの委嘱魔導士にシュテル一行は誘われ、許諾した。
色々と制限はあるものの、こうして平穏とも呼べる時間を手に入れた。その事実をシュテルは噛みしめ、小さく笑みをこぼす。
と、そんなシュテルに近づく影があった。
「えーとごめん、そこの君」
「……はい?」
平日の昼間である故にこの公園には自分しかおらず、という事は私に対し声をかけたのだろう、とシュテルは思考する。
(はて、しかしどなたでしょうか)
シュテルはまじまじと、見知らぬ声の主へと視線を注いだ。
乱雑に伸ばされたボサボサな黒髪。
線は細いが良く鍛えられた体躯を持ち、身長は170センチ後半といったところか。
20歳前半と思われるその顔立ちは、どちらかといえば端正ではある。
上下共に黒色な着衣は泥汚れが目立ち、とても清潔とは言い難い格好である。
そして、半袖から覗く腕に限らず、体のあちこちに大小様々な傷が見受けられ、中には明らかな刀傷すら確認出来る。
特に右頬には大きな傷があり、爽やかな笑顔と対照的に浮き上がって見えた。
そしてそのような特徴的な男性と自分は知り合いではなく、記憶が正しければ初対面だ。
見た目は小学生のそれである自分に声をかけるとなると、これは。
ーーなるほど、つまり変質者ですね。
うむ、とシュテルは自分の思考に頷き、目の前の青年をどう撃退しようかと思案する。
「ん、あれ、何か凄く失礼な事考えてない?」
「いえ、決してそのような。それで、何か御用でしょうか」
「えっとね、実は助けて欲しくて」
「ふむ……?」
小首をかしげるシュテルに、青年は飄々と言葉を放つ。
「あぁ、魔法の事で、ちょっと」
ーー瞬間、シュテルはベンチから跳ねるように立ち上がり、短いバックステップで青年と距離を取った。
(聞き間違い、いえ、確かに今魔法と……)
地球こと第97管理外世界では、基本的に魔法を扱える者は存在しない。
渡航者であればまた別ではあるが、シュテルの知る限り現在地球に異世界渡航者は在留していないはずだ。
それであってこの青年は、悪びれる事もなく「魔法」と口にしたのだ。
(考えられる可能性は2つ。1つは何かしら良からぬ事を企む悪人。1つは何かしらのトラブルに巻き込まれた一般人……)
シュテルは件の青年を観察するため鋭い眼光を飛ばす。
「え……? えぇ……?!」
青年はシュテルの突然の跳躍に明らかに狼狽を見せており、ダラダラと冷や汗を流していた。
「…………」
青年の態度から、後者の可能性が高いとシュテルは考えるが、しかしその確証がないのも事実である。
油断させる常套手段ではあるし、警戒体勢を維持する選択肢しか今の所なかった。
「なぜ、私が魔法関連の知識があると……?」
シュテルは少しでも情報を得んと、青年へと質問の言葉を投げかける。
「ん、や、えっと、だ、だってその本読んでたから」
青年が震え指さすベンチには、先ほどまでシュテルが読みふけっていた教本が乱雑に転がっていた。
なるほど確かに、この本を持ちうるのはこの世界の住人であるはずがない。
「納得しました。それで、助け、とは……? あまり穏やかではないですが」
「いやえっとね、実はコレの事なんだけど……」
自分の潔白を証明する為か、青年は両手を上にあげ、ゆっくりと近づいてくる。
その青年の左の手に、ひどく異質なモノがはめられているのをシュテルは見た。
(……黄金の、手枷?)
薄く発光を繰り返すソレは、確かな魔力を放っていた。
デバイスか、はてはロストロギアか。
少なくとも注視せざるを得ない「何か」であるのは確かだ。
シュテルは尚一層警戒を強くし、軽く身を屈め咄嗟の行動が出来る様に備える。
と、青年とシュテルの距離が2メートル程に近づいたその時だった。
「ーーえ?」
手枷が強く輝き、青年の間抜けな声と共に金の閃光がシュテル目掛けて放たれた。
(!? 回避を!)
何かしらの攻撃と判断し、シュテルは右後ろへと大きく跳躍。直線軌道で迫る光線の射程から外れるための回避行動をとる。
着地と同時にシュテルの身体を紅の焔が包み込み、次の瞬間にはバリアジャケットを着こむ姿がそこにあった。
「ーーな?!」
完全に戦闘態勢に入ったシュテルであったが、しかし光は直線から歪曲する挙動を見せ、避けるシュテルを追随する。
(ホーミング……! 回避しきれない……!!)
正体不明の攻撃故、可能な限り接触を避けようと踏んでいたシュテルであったが、それが果たされないと判断し、魔力障壁を展開。
衝突に備え重心を落とし、身を構える。
「ーーーーッ」
直後、
「ーーーー!」
次々と起こる想定外な出来事に、しかしシュテルは取り乱す事なく冷静に分析を行う。
(痛みはありません、遅行性の攻撃の可能性もありますが、今は)
2撃目が放たれる前にと、青年目がけ突進の行動を取ろうとした、まさにその時だった。
カチン。
と、乾いた金属音がシュテルの耳に届いた。
音の発生地点は、自分の右腕からである。
(今のは?)
そう疑問符が浮かんだと同時、シュテルの体は青年の方へと強烈な力で吸い寄せられていく。
(くっ……!)
奥歯をギリ、っと噛み抗うシュテルであったが、意思とは逆に身体を押し留める事が出来ない。
「え、ちょ、え、えええええええ?! なんでコッチ来るのぉお?!」
青年の驚き慌てる大音声が至近で聞こえる程引き寄せられ、ドン、という鈍い音と共に、シュテルと青年は抱き合うように衝突した。
「ーーッッ」
かなりの勢いがついていた事もあり、そのまま二人はゴロゴロと3メートルほど転がり、ようやっと静止した。
無理な姿勢で引っ張られ、方向感覚を失ったシュテルは低いうめき声をあげかぶりを振る。
「…………」
状況を把握するべく素早く目線を周りに飛ばすシュテルであったが、自分の状態を理解するや否や、スッとその無表情を更に硬直させた。
シュテルと青年は上下逆さに、具体的に言えば互いの股間を見せ合う形で倒れていた。
おまけに、シュテルのスカートは完全にめくれ上がり、パンツを見せびらかす形となっている。
「わぁ、黒とはまた見かけによらず大胆な」
お尻の方から拍手と共に間の抜けた声がしたため、シュテルはスカートを抑えながら青年の鼻っ柱目掛けつま先を叩き落とし、その反動を利用し宙で一回転し着地する。
そのまま距離を取ろうとするシュテルであったが、ガクンと右手が引っ張られ、たまらずペタリと尻もちをついてしまう。
「……これは」
何事か、と自分の手を見るシュテルであったが、そこには、青年と同じく黄金の手枷がはめられていた。
つまりは、二人は完全に手枷で繋がれている状態だ。
「……どういうつもりですか、これは」
冷静ではあるが詰問の色を濃く出し、シュテルは淡々と言葉を紡ぐ。
返答いかんによっては零距離収束砲で自爆するしかないですね、とシュテルは内心覚悟を決め、青年の言葉を待つ。
「いや確かに、年齢にそぐわないひらひらレースの黒パンツではあったと思う。けどね、僕はそういうギャップってとても魅力的だと思うし、あえて、そうあえて!! 大変素晴らしい絶景でしたと言わせて貰うね!!」
ーー瞬間、全体重を乗せたシュテルの正拳突きが変態の鳩尾をぶち抜いた。
「私の下着の話しではありません、この状態についての説明を求めています」
あくまで事務的に、しかしほんの少し頬を朱に染めたシュテルが尚質問を続ける。
ぐふ、と空気を吐き出し悶絶していた青年は、言葉を発しようと逡巡しているようだった。
どうやら青年にとっても予想外の出来事だったのか、目を泳がせながら口ごもっている。
「たぶんだけど、あー……」
青年は頬をポリポリと描きながら、
「うーん、ロストロギアが発動しちゃった、みたいだね」
何の事はない様に、そう言ってのけた。
「なん…‥‥」
唖然とするシュテル。
ロストロギア。
それは、正しく扱う術が確立されていない未知の技術。
つまりはこの手枷がどういった効力を持つのか分からないという事であり、今この瞬間に命が吸い尽くされてもおかしくはないのである。
それだというのにこの青年は、危機感の欠片もない、どこまでも軽い返事をしてみせたのだ。
シュテルは青年にバレないように小さく息を吐き、冷静さを維持するように努めた。
目の前の青年の言動にどうも調子を狂わされはするが、ここで取り乱してしまえば事態は悪化するだけだと、シュテルは理性的に考えを巡らせる。
「それで、私を捕らえた目的は何なのでしょうか」
「い、いや! 僕も何が何だか! 捕まえようなんてそんな?! あ!! でも合法的にいたいけな少女と密着できるのは幸運なのでは?!」
「…………」
ジト目で青年を観察するシュテルであったが、どうにも要領を得ない。とりあえずもう一発鳩尾に渾身の左ストレートをブチ込みながら、シュテルは思考する。
シュテルを拘束するにしてはもっとやりようがあるだろうし、チェーンデスマッチを仕掛けるにしては害意が無さ過ぎる。
「どうも貴方の真意を掴みかねます。敵意がどうやら無さそうだとは判断いたしますが」
「よ、よかった、もちろん敵対する気なんてないから!」
青年は安堵の溜息を大きく吐き、肩を落とした。ふるふると頭を振り、困ったような笑みを浮かべる。
「……えぇっと、ごめん。そういえば自己紹介がまだだったね」
落ち着きを取り戻した青年は、ハニカミながら続ける。
「僕はルイス。ルイス=シュヴァングだよ」
「……管理局委嘱魔導士、シュテルです」
「ええぇえ管理局ぅ?!」とオーバーリアクションするルイスと名乗った青年を横目に、シュテルは、ふっ、と息を吐いた。
「とりあえず、ここを移動しましょう」
ロストロギアが発動した以上、自分ひとりの手にはあまるとシュテルは判断し、ゆっくり立ち上がる。
(ーーそれに、王やクロノに念話を試みていますが上手くいきません。この手枷のせいでしょうか)
チラリ、と青年への注意はそのままに、視線を金の枷へと落とす。
(これは、想像以上に厄介な事態に巻き込まれた、と思っておくべきでしょうね)
シュテルは忌々しく金に輝く手枷に、冷たい目線を投げかけた。
何てことは無い平日の昼下がり。
ひと気の無い小さな公園から、長くて短い、二人の奇妙な束縛生活が始まりを告げたのだった。
0話で詳しく書いておりますが、挿絵を0話に移動しました。申し訳ないです。
ゲームのキャラ選択画面で「 私ですか? また物好きな」ってセリフが死ぬほど好き。シュテルに惚れたきっかけ。何か告白された時こういう台詞言ってくれそうって妄想。
少しでもシュテルの可愛さを書けるよう精進いたします・・・。
それでは、読んでいただき本当にありがとうございました。