魔法少女リリカルなのは~ブレイジング・ルミナス~   作:火神はやて

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リアルがバタバタとしており、更新遅れてしまいました、申し訳ないです。
アニメでいうAパートと言いましょうか、しかし盛り上がりに欠ける回になってしまっているかもです、精進します・・・

ではでは、ほんの少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。



第5話 朱と銀と繋ぐ掌

「……それは、どういう事でしょうか」

 

 洋風の居間に三人がいる。

 口調を強くし詰問するシュテル、それを受けるルイスに、見守るしかできないユーリだ。

 

「そうだね、どこから話せばいいか……」

 

 ルイスは苦笑を浮かべ、シュテルの目を正面から見る。

 少なからず発せられる疑念と敵意をルイスは飄々を受け流し、続ける。

 

「僕はすぐにでも石像の下に行くべきなんだろうけど、でもまずは、シュテルにしっかり説明をしないといけないよね」

 

「…………」

 

 シュテルは無言で続きを促した。

 現段階でのルイスは、明確な敵になり得る存在だとシュテルは認識している。

 そのため、自分からは極力情報を与えず、「ルイスに多くを喋らせる」という魂胆のもと、言葉数を意図的に少なくしていた。

 こちらは頷きと最低限の言葉だけを用い、相手に多くを語らせる。情報奪取の正攻法だ。

 

 それと同時、シュテルはルイスの腰後ろにあるデバイスを意識する。

 隠すようにベルトに括られるソレをシュテルは気付いていたが、あえて触れずにいたのだ。

 

(……さて、彼はどうでますか)

 

 あまりにも正体が見えないルイスの意図を図る為、泳がせる方策をシュテルは取っていた。

 

 ルイスがデバイスを抜く意思を見せるという事は即ち、明確な敵対行動を意味し、害意の是非を問うに最も手っ取り早い選択であったのだ。

 故に、シュテルは気付かれないように魔力弾を手の内に練り、いつでもルイスを打ち抜ける様に構えた。

 

「僕はね、遺跡の発掘を生業としているんだ」

 

 シュテルの思考を知ってか知らずが、ルイスは言葉を続ける。

 

「発掘、ですか」

 脈絡のない会話の流れに目を細めるも、シュテルは傾聴の姿勢を崩さない。

 臨戦態勢は維持し、ルイスの動向を、ただ見る。

 

「そ。どうにも元来そういった物に興味が湧く性分でね、いつしか生業と言ってもいい程度には日常になったのさ」

 

 ルイスは頬の大きな傷をトントン、と指でさす。

 

「僕が傷だらけなのも、大体が遺跡の罠とか防衛兵器を相手にした時に、ね。まぁ僕は弱いという証明でもあるのだけど」

 

「貴方の稼業は分かりました。それで、今回の件とどう関係が?」

 

 シュテルはあくまで、平坦に声を紡ぐ。

 もとより表情の読みにくい気質ではあるが、意図的に感情を消しているからか、シュテルのそれは最早能面に近い。

 

「んーと、僻地の星で未開の遺跡を見つけてね、小躍りして発掘に乗り出したのさ。いやそれがもう、凄い遺跡でね。宝物庫には数え切れないくらいの古代遺産が貯蔵されていたんだ」

 

「ほぉ……」

 

 話しの流れが見えず若干イラつきを覚えつつ、シュテルは相槌をうった。

 

「……でもね。その宝物庫には、何というか……どこまでも奇妙で不気味なヤツにいたんだ」

 

 ルイスは言葉を選ぶように薫らせる。

 

「何だろう……黒い…‥そう、本当にただただ、真っ黒な獣がいたんだ。毛並みが黒いとかじゃなくてね、暗闇が獣の形をしているというか……少なくても、決して生物ではない『何か』だったのは確かだよ」

 

 一呼吸置き。

 

「はじめは遺跡の守護者か何かかと思ったけど、どうも様子が違ってね。ヤツは遺跡を喰ってたんだ、比喩じゃなく、大口を開けてバリバリと」

 

「…………」

 

「本能的にヤバい、と思ったんで逃げようとしたんだけど……まぁ、普通に見つかってしまってね」

 

「……はい。それでどうしたのでしょうか」

 

「うん、もちろん応戦したんだけどね。それがまぁ、強いのなんの。まるで歯が立たないわけだ」

 

 ふぅ、と息をルイスは吐く。

 

「正直、もうダメだと思った。このまま殺されるんだろう、と覚悟を決めたその時、遺跡全体が急に光り出してね」

 

 

 ルイスは陽光が降る窓を眺め、藤見町をその目に収めた。

 

 

「ーー気が付いたら、この町にいたんだ」

 

「……なるほど」

 

「たぶん、遺跡そのものが長距離転移を可能とする古代遺産だったんだろうけど……」

 

 苦虫を噛み潰したような、けれど笑顔の色は残し、ルイスはじっと机を見た。

 

「だから、この町で暴れているっていう石像は、僕と一緒に転移されて来た可能性が高いと思うんだ。いや、というか、そう、なんだろうね……」

 

 シュテルはルイスの言葉を咀嚼する。

 

(なるほど確かに、筋は通っています。今現在の状況を説明するには、合点がいきますね)

 

 しかし、一方的な情報しかない現時点で是非を問うには、早計でもある。

 

(とはいえ……)

 

 今否定をしたとして、ルイスは自身の証言が真実だと反論を行うしかできないのも確かだ。

 では嘘を吐いていないという証拠が欲しいと詰め寄った所で、如何ともしがたい。

 

(となれば、今は彼の言葉を真実だと仮定するのが得策でしょう。話を合わせる事で得られる情報もまだあるでしょうし)

 

 シュテルはルイスの一足一挙動に目を光らせつつ、方針を固めていく。

 

「……仮にも古代遺産を相手にする者でありながら、不注意で他世界を危険にさらしているのは決して褒められたものではありません。また、迅速な報告を怠った事といい、貴方の非は大きいと私は判断します」

 

 無表情で、シュテルは俯くルイスに続ける。

 

「ーーそこまでは分かりました。しかし、何故、戦場に赴きたいと?」

 

 シュテルは疑問というより、疑念に近い感情を言葉に表した。

 ルイスの話す内容が真実として、実際に今クロノたちが解決に乗り出しているのだ。

 わざわざ危険を侵してまで、何を得ようというのか。

 

「そんなの、決まっているじゃないか。僕がこの状況をつくってしまったんだ」

 

 困った様に眉を下げ、力なく笑いながら。

 

「ーー()()()だよ」

 

「ーーーー」

 

 きっと何かしらの思惑があるのだろうと、シュテルは考えていた。

 古代遺産が高価な物であれば、失うのは惜しいと思う下賤な考えか。

 果ては、知的欲求を満たす為だけのエゴイズムか。

 

(けれど、彼は……)

 

 責任を取りたいというその一点のみの、明快な希望。

 

(……似ている、と感じてしまうのは、感傷でしょうか)

 

 シュテルはグッと、胸が締め付けられる感覚があった。

 それは、シュテルがかつてこの町で、大事件を起こした経験があるからか。

 ルイスの悔恨がシュテルにはよく理解でき、自分と重なって見えたのだ。

 

(私の場合は明確な意思によるものでした、けれど彼の場合は……)

 

 故意であれば、ある種覚悟に似た心持で備える事は出来る。

 

 しかし事故であったならば、その罪悪感は計り知れないものがあるだろう。

 

 そして何より、シュテルは委嘱魔導士という形で贖罪の機会に恵まれているのである。

 許しを乞うわけではないが、割り切る為には最も効果的な行動であるのも事実だ。

 

(彼もまた、同じ。犯した罪と向き合い、贖いの気持ちがあっての行動なのでしょう)

 

 シュテルはあえて放っていた剣呑な空気を解き、手に溜めた魔力弾も、気づかれない様に霧散させる。

 ひとまずは、この珍妙な青年の言葉を信じる方向にシュテルの思考はシフトしていた。

 

「……して、私にまず話す理由というのは、やはりコレのせいですね」

 

 シュテルは互いの手にはめられた金の枷を指さした。

 

 物理的に離れられない以上、基本的に2人は行動を共にする他ない。

 ルイスが戦場へ赴くという事はつまり、シュテルも同伴するという事になるのである。

 

(それ故に、私には打ち明ける他なかったのでしょうね。何の理由も無しに渦中に臨む事を、管理局が許すはずもありませんし。委嘱の身とはいえ、私は管理局付けではありますからね)

 

 ルイスは姿勢を正し、シュテルを見る。

 

「ーーうん。間違いなく、シュテルに迷惑をかけることになるからね」

 

 ルイスは続ける。力を込めた言葉を続ける。

 

「無茶は承知でお願いしたい、僕の我が儘に、付き合って欲しい。力を貸してほしいんだ」

 

 最早懇願に近い姿勢でルイスは頭を下げた。

 声には不安が見え隠れし、微かに震えを持っている。

 曲がりなりにも時空管理局が乗り出している案件である、場違いである事はルイス自身が良く理解していた。

 

「……私は貴方という人間と出会い、まだ数時間ともない薄い関係にあります。正直に言って、心よりの信頼は出来ないでしょう」

 

 シュテルはルイスの心情をよく理解するも、しかしソレを口にしないわけにはいかなかった。

 本音を言えば、協力するのもやぶさかではないと思い出している自分を、シュテルは自覚する。

 しかし、委嘱魔導士の立場にある以上、独自判断で動く事は決して出来ない。

 依然、監視体制にある故に、軽率な行動は家族全員に影響を及ぼす事をシュテルはよく理解していた。

 

「手厳しいね、事実なだけに反論も出来ないよ。つまりこれは、駄目って事かな……」

 

 明らかに気落ちするルイスを見て、シュテルは尚続ける。

 明確な打開策を提示するために。

 

「……ですので。エイミィ、聞いての通りです。もう調べはついた頃合いかと思うのですが」

 

『アハハ、ごめんね、聞いてたのバレバレだった?』

 

 と、テーブルの上辺りに空間モニターが表示された。

 先ごろクロノ達に情報を伝達していた女性だ。

 ついで、額に緑玉の様な印を4つ付けた、青の制服を着こむ女性も顔を覗かせた。

 

『ごきげんよう、シュテルさんにユーリさん。そして初めまして、ね。ルイス=シュヴァングさん』

 落ち着きはらった声で、微笑んだ。

『私は、次元航行艦アースラ艦長、リンディ・ハラオウンです』

 

『え、か、艦長さん?! は、初めまして! そ、その……この度はご迷惑を……』

『ふふ、そんなかしこまらないで大丈夫よ。それで、エイミィ、ルイスさんについて分かった事を皆にも教えてあげて?』

『りょーかいです! えーっと、シュテルちゃんが聞き出してくれた情報から、ルイス君について色々と検索してみたんだけどね。あ、ゴメンねルイス君。これも仕事だからさー』

 

 個人情報を調べていたと、その当人の前で話す若干の気まずさは滲ませつつも、エイミィはサバサバと続ける。

 

『結論から言っちゃうと、ルイス君の発言に矛盾はないね。古代遺産ハンターとしての申請も受理されているし、ライセンスも取得してる。犯罪歴もないし……あ、何度か管理局に古代遺産を届け出ている事もあるみたい。やーご協力感謝なのです』

 

「ふむ、なるほど……」

 

 エイミィの情報処理能力は、シュテルも信頼を置く所である。

 そんな彼女がこの場で否定的な意見を述べないという点は、シュテルにとって非常に大きな意味があった。

 

『だからねシュテルちゃん、私は賛成だよ! 実際、ちょーっとシュテルちゃんの力も借りたいと思っていた所だったんだー』

 

 画面上でエイミィは右手をサムズアップの形にし、ウィンクしてみせた。

 

『そうね、クロノの意見も聞かなければだけど、私もエイミィに賛成よ。シュテルさん、よければ貴女からクロノを口説いて貰ってもいいかしら』

 

『ーー分かりました。感謝します、エイミィ、リンディ艦長』

 

 シュテルがその微妙な立場故、動きかねているのを看破してか、彼女らは背中を押してみせた。

 

(表情が読みにくいとよく言われるものですが、本当に彼女たちはよく察してくれます。それに……)

アースラの重役が明確な肯定をしたとなれば、シュテルは踏み込んだ行動も可能となる事を意味している。

 

(けれど、リンディ艦長がクロノに直に命令をしない理由は分かりませんね……いえ、きっと何か考えがあっての事。私はその責を全うするのみです)

 

 シュテルは逡巡を経て、口を開く。

 

「ーールイス」

「は、はい!」

 

「私は貴方を信じようと思います、一緒に戦いましょう」

 

 シュテルの言葉をルイスは呑み込むも、しばらく意味を咀嚼出来ないのか、固まっていた。

 

「ーーえ、ほんと?!」

 

 と、爆ぜるように前のめりになり、その勢いのままシュテルを抱きしめた。

終始オロオロしていたユーリが、黄色い悲鳴をあげる。

 

「やーーった! いやぁありがとうシュテル!!」

 

「……分かりましたから、とりあえず放して下さい、苦しいです」

 

「え、あ! お、ぉっとゴメン……!」

 

 ルイスは慌ててシュテルから離れ、照れたように頬を掻いた。

 シュテルは咳ばらいをして、話を続ける。

 頬はほんの少しだけ紅に染まっていた。

 

「……それで、自ら戦いたいと言う以上は、何か勝算があるのですよね?」

 

「もちろんさ。あの遺跡はかなり独特な守護獣やトラップだらけだったんだ。もうそれこそ、呪詛魔法のデパートだったよ、見渡す限り一級品の呪いのアイテムだらけさ」

 

 つまり。

 

「もし今暴れてるっていう石像があの遺跡から飛ばされて来たのだとしたら、強力な呪詛がかかっている可能性が高いと思う」

 

「呪詛魔法、ですか。ルイス、貴方の力でそれを無力化できると?」

 

「ーーああ、それは僕の得意分野だ」

 

(ふむ、なるほど……)

 

 シュテルは次いで、クロノの事を思う。

 現在現場で直接戦闘を行っている上官に、どう取り入ろうかと考えを巡らせているのだ。

 クロノは聡明だ。

 故に、半端な説得が通じる相手ではない。それは強い味方であるという事を意味しているが、今この時に至っては、シュテルを悩ませる要因となっていた。

 

(しかし、エイミィは私の力を借りたい、と先頃話していたのは気になります。よもやディアーチェを含めた3人が遅れをとるとは思えませんが……しかし、エイミィの口ぶりからして順調でないのは確かです)

 

 仕える王たる少女と、同志たる少女を思い、シュテルは一抹の不安を感じた。

 

(尚の事、現場へ出る理由が増えました。やはり、私自身がジッとしているのは耐えがたいようです)

 

 ルイスの手助けとなる、という気持ちも本物ではあるが、やはり渦中の家族と上官を思えば、シュテルの性格上、呑気に座っている事は出来なくなっていた。

 

(クロノを説得するためにも、状況を整理しましょう)

 

 シュテルは、頭の中で情報を再構築していく。

 

 現状、クロノたちは苦戦を強いられている。

 石像の特性を知るルイスの話しが真実であれば、それはまず間違いなく呪詛魔法による所が大きいだろう。

 そして、ルイスは呪詛魔法への対抗手段があるらしい。

 

 となれば。

 

「エイミィ、クロノに繋いで頂く事は可能ですか?」

『はいはい了解! ちょっとまってねー!』

 

 数秒のコールの後、音声だけを流す空間モニターが現れる。

 

『クロノ君、戦闘中にごめんね、緊急案件。シュテルちゃんから!』

『シュテルが? 了解した、繋いでくれ』

『クロノ、取り込み中失礼します。率直に申しまして、戦線に加わる許可をいただけませんか』

『…………』

 

 戦闘中故、端的な言葉を選び、交わされる二人のやりとり。

 

(ーーそれはつまり、ルイスさんも一緒という事だが、どういうことだろうか。あのシュテルが無為に訴えをする訳がないだろうけど……)

 

 クロノは訝し気に表情を崩し、シュテルに問う。

 

『シュテル、理由を聞いてもいいか?』

『はい。件の石像とルイスは関係性が見受けられます。そして何より、彼には呪詛魔法の対抗策がある、との事です』

 

『ーー成るほど』

 

 ルイスと石像はほぼ同時にこの町に現れている。クロノの中では、ルイスと石像の関係を疑っている節は最初からあった。

 そしてそれが当人の口から語られたとなれば、とても無視出来るものではない。

 おまけに、呪詛魔法への対抗策という情報は、今に至ってはかなりの重要事項である。

 

『クロノ。誤解の無きように。私はルイスと対話をし、結果として彼を信じる事を決めました』

 

『…………』

 

 

 石像との関係性の明示は、シュテルの望む方向に転がるとは思えない。故に、シュテルはクロノの考えを含んだうえで、あえて「対話」という言葉を選んでいた。

 

(成程。シュテルなりに思う所があっての事だろうけれど。しかし、となれば……)

 

 残る問題としては、ルイスという人物を信頼していいのか、という一点に絞られる。

 

 現場を任されている故の当然の思考。

 敵とも味方とも付かない人物が、ある意味一番厄介な存在なのである。

 

『献言ではありますが、ルイスを()()という点でも、大きな意味合いがあるかと思います』

 

 重ねる様に、シュテルはクロノへ言葉をかけた。

 

(それは一理ある。しかしつまるところ、この短時間で彼を信じる事は僕には到底できない、不確定要素が多すぎる。となれば、シュテルを信じるか否か、という問題になるな、これは)

 

 ルイスという人間を信じるには、立場上クロノは出来ない。

 しかし、シュテルを信じるかと問われればーー

 

(ーー愚問だな。となれば、あとは艦長への確認だ)

 

 クロノはあえて念話を用い、リンディに連絡を取った。

 オープンチャンネルでは出来ない会話、つまりはルイスに聞かせられない内容をすり合わせるためだ。

≪艦長、ルイスさんが戦闘に加わる許可を求めます≫

≪ええ、私も同意見。現場のクロノが問題ないとするなら、反対する理由もないわ≫

≪分かりました、感謝します≫

 

≪本当は私が直接クロノに命令すればすむ話しだったのだけどね。きっと、シュテルさんと彼は、これから長い付き合いになると思うから、ね≫

≪ふむ、シュテルと信頼関係を築かせる目的があると……?≫

≪ええ、損になる事はないでしょう。彼が本当の目的を上手く隠している可能性もまだ捨てきれないし、探りを入れるにしても、シュテルさんがどうしても適任になるでしょうからね≫

≪なるほど、了解しました。では僕も、シュテルの希望だったからこそ許諾した、という印象を強くします≫

≪ありがとう、助かるわ。あと、念のため確認しておくけれど、やはり彼はまだ未知数な所は多いわ。こっちでも監視体制を強化しておくから、もし万が一の時は速やかに無力化して構わないわ≫

≪――了解です≫

 

 念話により、リンディと意見のすり合わせをを終えたクロノは、シュテルの応答として肯定を出そうとしたその時。

 

『ーー待て』

 

 と、そこにディアーチェの声が割って入った。

 念話が使えない都合上空間モニターを用いていたからこそ、クロノとシュテルのやり取りを一緒に聞く形となっていたのだ。

 

『シュテルよ、話しは聞かせて貰った。して、我の言い付けを忘れたわけではあるまい?』

『はい。ここを動くな、との命を受けています』

『ほぉ、ならば先ほどの発言は我の聞き間違いか?』

 

『……王、私は貴女の臣下です。故に、王の危機にこのまま胡坐をかくなぞ、出来るはずがありません』

 

『つまり、我の命令を反故にすると?』

『はい、それが王の為とあらば。いかなる処罰も覚悟の上です』

 

 一瞬の間を置き、ディアーチェは大きなため息を吐いた。

 

『……全く、どこまでも頑固者よ。ふん、臣下に護られるのもまた、王の冥利に尽きるというものか。よかろう、許可する。しかし1か月皿洗いの刑に処す、覚悟せよ』

 

『ありがとうございます、王』

 

『クロノ、というわけだ。お前が気にする所も分からんでもないが、なに、今は我がおる。不足な事態が起きようと、我が全力でどうにかしてやる』

 

『……助かる、心強い』

 

 クロノは石像へとバインドを継続してかけ続けながらも、シュテルとルイスへ注意を向ける。

 

『では、シュテル、それにルイスさん。戦線に加わってください、お願いします。今回はシュテルの希望あっての、特別な措置だと考えて下さい』

 

『やった! 恩に着るよクロノ! そしてありがとう、シュテル!』

『いえ、私自身の希望でもありましたので。ではクロノ、わかりました、すぐに向かいます。』

 

 言うや否や、シュテルは静かに目を閉じ、魔力を練り始める。

 と、全身を紅の炎が包み、衣服が燃え落ちる様に解けると同時、すでにそこにはバリアジャケットに換装し終えたシュテルがいた。

 

 青のロングスカートは深紫のバリアジャケットへと変わり、その手には愛機ルシフェリオンがある。

 シュテルのジャケットは、ある程度の機動性は確保しつつも重厚な壁となる、いわば当世具足の様な仕様だ。

 

「さぁ、貴方も」

「あいあいさー!」

 

 ルイスは弾む声で、口を弓にする。

 ルイスの身体を中心に銀の魔力光が収束し、弾けた。

 

 泥で汚れた黒の服は、漆黒のバリアジャケットに変質している。

 足首から腰辺りまではボディスーツで覆われ素肌は見えず、足袋の様な硬質の靴を履いている。

 首元から胴体は黒い布地で覆われているが、手首から脇辺りは何も無く、バッサリと露出していた。

 両の手甲には金属性の小手があるが、掌と指先部分は外気に触れる仕様となっている。

 

 身軽、といえば聞こえはいいが、本当に必要最低限の装飾でしかないいで立ち。大よそ、護りというものを考えていないデザインである。

 あと何か一つでも欠けてしまえば、バリアジャケットとすら呼べない程に、酷く脆く、薄い。

 最早それは装甲と呼ぶべき代物ではなく、簡易な魔力弾ですら致命傷になる事は、優に想像できた。

 

 そんな忍者装束を思い浮かべるソレを着こみ、ルイスはドン、と胸を叩く。

 

「よし、いつでも行けるよ!」

 

「……一応確認しますが、武装はそれだけで大丈夫なのですか?」

 

 バリアジャケットを見て息をのむ、という感覚を初めて味わい、シュテルは静かに狼狽していた。

 

(以前、ソニックフォームなる物を見ましたが、彼はその比でないですね。それに……)

 

 シュテルは、ルイスの持つデバイスに目をやった。

 件の、腰後ろにルイスが忍ばせていた物だ。

 流石に性能までは確かめられてはいなかった為、改めて観察すると、何の飾り気もないストレンジデバイスであるのが分かる。

 

 特注され、オリジナルの武装としているのであればまだわかるが、明らかに改造の後もなく、紛うことなき量産品のそれである。

 

 それこそ、アースラの捜査官に支給される初期装備よりも劣っていると言っても過言ではないだろう。

 

 よく手入れはされている様に見えるが、クロノたちが苦戦する相手と対峙するにあたって、分不相応であるようにも見える。

 

「言いたい事はまぁ、分かるけどね。大丈夫、僕にとってはコレが最善だから」

「……分かりました、最大限のフォローは致しますので」

 

 シュテルは自分の中に芽生えた大きな不安を思うも、どのようにルイスが戦うのか興味が湧いてきているのを自覚する。

 エイミィの話し通りであれば、ルイスは古代遺産ハンターとして一応の実績はあるのだ。

 このような装備で、どのように戦ってきたというのか。

 

(……いけません、これだから戦闘マニアとレヴィに言われてしまうのですね)

 

 今はもっと優先するべきことがあると自分に言い聞かせ、シュテルは頭を振った。

 

『シュテルちゃん、ルイス君準備はオーケーかな?』

 

「はい、いつでもいけます。ではユーリ、少し行って来ます。今晩はディアーチェ特性のカレーですし、急ぎ戻らねばですね」

「は、はい! いってらっしゃいです! ケガはしないでくださいね……」

 

「よし、じゃあ行こうかシュテル!」

 

 シュテルとルイス、二人が転送ポットへと足を向けた。

 先に待ち受ける、戦場へ。

 笑顔と無表情を持つ2人が、光に溶けた。




次回、シュテル&ルイスのデコボココンビ、初めての共同作業(戦闘)です。

それでは、読んでいただき本当にありがとうございました。
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