魔法少女リリカルなのは~ブレイジング・ルミナス~   作:火神はやて

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前回の投稿から遅くなってしまい申し訳ないです。
ゲムマとコミケにサークル参加と12月はてんてこ舞いでした・・・

さてさて、今回はサブタイの通りです。


ではでは、ほんの少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。



第7話 呪いとトイレとシュテルのパンツ

 消毒液の臭いが鼻をつく、白を基調とした空間がある。

 次元航行艦アースラの医務室だ。

 薬品が並ぶ戸棚の手前、問診用に区切られた空間に3つの人影があった。

 

「もう、聞いてはいたけど無茶しすぎ! めっ!」

 人差し指を立て頬を怒りで膨らませる金髪の女性ーーシャマルは、傷だらけの青年を介抱していた。

慣れた手つきで傷口を消毒し、合わせて回復魔法を適時使用。その後、回復促進の魔方陣が織り込まれた包帯をクルクルと巻いていく。

 洗練された所作で、細く白い指が包帯をキュっと結び終える。

 

「いやぁ、ごめんなさい」

 シャマルに介抱される青年ーールイスは小声で「役得フィーバー」と呟きながらガッツポーズをしていた。

 

「……どうでもいいですが、鼻の下を伸ばし過ぎではありませんか?」

 

 笑顔で謝罪するのがルイス、そしてそれをジト目で見るのがシュテルだ。

 シュテルはバリアジャケットを脱ぎ、私服に身を包んでいた。

 一方ルイスは上着を脱ぎ、半身を外気にさらしている。先ほどの戦闘で負った傷の手当てのためである。

 シュテルに負傷は見られなかったが、手枷に繋がれる都合上、ルイスと強制的に同伴するはめになっていた。

 その為、シュテルは半裸のルイスの真横にちょこんと座り、デレデレとだらしなく笑うルイスに侮蔑を込めた上目遣いを送っているわけだ。

 

「そそそ、そんな事はなないよ?! い、いやぁそれにしても、シャマル先生が居てくれたよかった! いよ! 女神! サイコ―!」

「もう、おだてるのはいいけれど、本当に自分の身体は大事にしないとだめよ? こんな怪我までして……痛いでしょうに……」

「あははー、いやぁまぁ慣れてますから!」

 心配そうに声を低くするシャマルと対称的に、ルイスはあっけらかんとどこまでも笑顔だ。

 シャマルは優しくルイスの傷口に魔力光をあてながら、唇をキュッと噛んだ。

「……ダメよ、そういう考えは。痛い時に痛いって言うのは、とても大切な事なんだから。痛みはね、どんなに慣れたとしても、決して無くなったわけじゃないの」

 

 シャマルはどこか遠くを、まるで、過去を覗き込むかの様に目を細めた。

 

「痛みに慣れすぎたら、心まで冷えきっちゃうのよ? 生と死の境界がだんだん曖昧になってきて、ただ在るがままに生きて、もっと傷ついて。それはね、とても悲しい事なの」

 

 まるで悪戯がバレた子供の様に、シャマルはばつの悪そうに目尻を下げる。

 ルイスの「昔の傷」を慈しむように撫でながら。

(どんな生活を送ったら、こんな……)

 ルイスの背に、シャマルは昔の自分を重ねていた。今の夜天の主と出会う前の、血と泥と闘争の色しかなかったその時の、自分自身を。

 そして、だからこそ、シャマルは言葉を紡ぐ。

 

「その道を、私も少しだけれど、歩いたから」

 あえて、明るい笑顔をシャマルは作った。

「だからね。自分の痛みに、もっと関心を持って。鈍感になっちゃ、駄目。シャマル先生との約束ね?」

「……はい」

 

 しおらしく、ルイスは曖昧に微笑んだ。

 そしてシャマルは、側にいるシュテルへと、小さくウィンクを投げた。

「……」

 

 シャマルとルイスのやり取りに、シュテルは側で耳を傾けていた。

(……今の話しは、私も肝に銘じて置いた方がいいのかもしれません。いえ、というより半分は私に言い聞かせていたのでしょう)

 

 家族至上主義ともいうべきシュテルの姿勢。

 もし自分の命を代償に家族が助かるというのであれば、一切の迷いなくシュテルは命を絶つだろう。

 もちろん普段であれば自他の生命を優先するわけだが、こと家族となればシュテルの考えは極端になる。

 

(思えば、ルイスの戦闘スタイルを悪く言える立場にはなかった、という事でしょう。私自身、目的のためであれば手段を選ばない質なわけですし)

 

 シュテルは自分への戒めを胸に、改めてルイスへと視線を投げた。

 

(それにしても……いえ、あまりジロジロと見るのは褒められたものではないのでしょうが……)

 

 シュテルは盗み見る様に、ルイスの身体へと注意を向ける。

 それは、酷く歪な身体と表現していいものであった。それこそ、ルイスと初対面のシャマルが、思わず注意に声を上げるほどに。

 

 異常に発達し、大きく硬い二の腕。 

 筋肉でガチガチに固められた腹。

 不釣り合いなほど盛り上がった太い腿。

 切創に裂創、銃創や刺創といった、普通は付かないであろうおびただしい無数の傷たち。

 寸検しただけでも分かる、それは明らかな「戦い」の痕であった。

 まるで歴戦の戦士の様な。

 長い年月、心血を注ぎ戦に明け暮れ辿り着く、死臭に塗れた肉体。 

 そしてそれは、ルイスの年齢からして、大よそにして不釣り合いな物であるのは確かであった。

 

(遺跡の発掘とやらで、果たしてここまで……いえ、これは邪推というもの。少なくとも、彼には彼の矜持があり、成し遂げたい何かがあっての結果なのは明瞭です)

 

 

 つい先ほどまで、ルイスに猜疑心を向けてシュテルは、まるでそれが抜け落ちたかの様に、思想にふける。

 

 

(それに、私はこの背を否定的な目で見る事は出来ません、いえ、むしろ好意すら感じます。意思を貫く事は、それだけで美徳です)

 

 シャマルと話しに花を咲かせるルイスに気付かれないよう、シュテルはそっとルイスの笑みに細められた目をのぞき込んだ。

 

(その手伝いを、私も出来たらしたいものなのですが……。いいえ、だというのに先ほどからシャマルの胸ばかりを凝視してこの男は)

 シュテルは自分の小さな胸にそっと手をあて、起伏の無さに顔を少ししかめた。

(私では、やはり不足だというのでしょうか)

 

 キュ、と口を結んだシュテルであったが、ハッと気が付いたように目を見開いた。

 

(……いま、私は何を考えて? らしくもない、あり得ません。私には今、成すべき事が山積しているというのに)

 

 

「ーーはい、これでもう大丈夫!」

 

 

 シュテルが自身から込み上げた感情に疑問符を投げたと同時、シャマルの溌溂とした声が思考を中断させた。

 

「出血は酷かったけど、傷口はあまり深くなくて良かったわ。完治……とまではいかないけど、もう大丈夫よ」

「おー! ありがとうございます! いやぁこれなら毎日でも通いつめちゃいますねー!」

「もう、ここの常連になんかならないでね。私が暇である方が、本来はいいんだから」

「あ、じゃあ! お茶しにまた来ますよー!」

「ふふ、なら私が焼いたケーキでもご馳走しようかしら。なぜか皆食べてくれないのよね~」

「ぜひぜひ! シャマル先生料理得意そうだし!」

 

(……ご愁傷さまです)

 二人の会話を聞いていたシュテルは、心の中でルイスに合掌をした。

 骨は拾ってあげなければですね、と小声で呟きながら、シュテルはスクっと立ち上がる。

 

「……さて、行きますよ。クロノたちを待たせていますし」

 

 続く雑談を遮るように、シュテルはグイっと金の手枷を引いた。

「っとと、シュテルごめんごめん」

「あ、ごめんなさい話し込んじゃったわね。それじゃあ行きましょうか」

「……はい」

 

 ルイスとシュテルを先頭にシャマルはそれに続く。医務室を出たその先は、ブリッジへと続く広く長い廊下だ。

 担架が通れる様にと幅広になっているそこから、ブリッジはほど近い場所にある。

 と、そんな通路に、三人の少女の姿があった。

 

「ーーふん、ようやく出て来おったか」

「お、シュテルんやっほー! ルイスも死んでなかったんだね、よかったよかったー!」

「ふ、二人とも無事でよかったです……」

 医務室を出た先にいたのは、仁王立ちで腕を組む銀髪の少女、ディアーチェと、ペタリと床にお尻を付いているレヴィ、そして心配そうに瞳を揺らすユーリだ。

 

 ディアーチェはジロジロとルイスを品定めするように見つめ、小さく舌打ちをする。

 

「……行くぞ。皆がブリッジで待っておる」

 ディアーチェは有無を言わさぬ言葉と共に、ズカズカと歩みを進める。

 ルイスたちは慌ててそれに続き、ブリッジへと足を向けた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 次元航行艦アースラのブリッジは二層構造となっており、一層部分にはズラリと並ぶ機器やモニターが並んでいる。そこで断続的に情報のやり取りが行われており、機械の淡い明滅が部屋全体を灯していた。

 そこでは幾人もの局員が忙しそうに走り回っており、慌ただしい雰囲気に包まれている。

 一方、上層部分は見晴らしの良い艦長席を中心に、外観が見える様にガラス張りとなっている。飛び込む景色は宇宙とはまた違い、「次元の海」と呼ばれる広域空間だ。

 最も、便宜上「海」と称されているだけであり、いうなれば世界と世界の狭間に位置する場所だ。実際に水で満たされているわけではなく、力の本流が渦巻く、決して生身で渡航の出来ない危険地帯である。

 

 そんなブリッジの一層部分に入室したルイスは、大勢の人が待ち受けているのを見た。

 ズラリと十人ほど、どうやらルイスたちの到着を待っているようであった。

 

「あー! オリジナルがいるー!」

 レヴィはそのうちの一人、流麗な金髪をツインテールに結う少女へととびかかる様に抱きついた。

「わっ、わっ、レ、レヴィ危ないよ……大丈夫、怪我してない?」

「うん! オリジナルも元気みたいだな! ね、今から遊ぼうよ!!」

「もう、フェイトって呼んでって言ってるのに。それに、今はお話を聞く時間でしょ?」

「あ、そっかー! じゃあちゃんと聞くからそのあと遊んで! 新技出来たんだ―! すっごいんだぞー!」

「ふふ、終わったらね?」

「うん!!」

 

 まるで親子の会話をしながら抱き合う二人。

 フェイトの足元で寝そべっていた赤い狼が人間のように「はぁ」と大きく溜息を吐いていた。

 

 と、シャマルがトコトコと手を振りながら車いすの少女へと近づいていく。

 その少女の周りは、3人の女性と1匹の狼がいる。

「はやてちゃ~ん、みんなもお待たせ~」

「お疲れさまやでシャマル、あとでナデナデしたらなあかんな~」

「わーい、はやてちゃんありがとー!」

「主はやて、あまり甘やかし過ぎるのは……」

「ふふ、リインフォースは相変わらず厳しいなぁ」

 はやてと呼ばれた、栗色のショートヘアを持つ車いすの少女。そして、はやての乗る車いすを押すのは、銀髪を澪の様に伸ばすリインフォースだ。

 リインフォースの側では、赤いおさげの少女が手を振り、ポニーテールの女性が軽く会釈をしている。そこから少し離れた位置に、付き従う様に青い狼が姿勢よく立っていた。

 みな、遅れてきたシャマルを暖かく迎え入れていた。

 

「……あ! おーいおーさまー!」

 はやてはふくれっ面のディアーチェを見つけると、ニコニコと元気に手を振った。

 リインフォースに押され、はやてはディアーチェの近くへと移動する。

 大きな舌打ちをするディアーチェの腰には、ユーリがどこか怯えた様子でしがみついていた。どうやら、人の多さに緊張しているようであった。

「王様も久しぶりやなー、元気しとった? 会いたかったで~」

「ふん、我は会いたくなぞなかったわ子鴉めが」

「えー? そんな事いうて、ホントは私に会えて嬉しいんやろ~? 照れんでええんよ~?」

 

「……よかろう、その様な世迷言を言う輩には我のジャガーノートをおみまいしてくれる」

「ちょ、ちょう待ちーや! 冗談やなくてホントにやんのが王様やからなぁ……まぁそんなところも可愛げあって好きやけどなー」

「……子鴉、貴様まだ懲りておらんようだな」

「私は本音を言うただけやで。なー、ユーリちゃんもそう思うやろー? 王様は可愛いよなー?」

「は、はい! ディアーチェはカッコよくて可愛くて、とっても素敵だと思います!」

「……ふ、ふん! ユーリに免じて今日は特別に許してやらんでもない」

「ふふふ、ほんま王様可愛いわぁ、おーきになっ」

 

 それぞれが親しき者と言葉を交わす最中、シュテルの元へと近づく二人がいた。

 

「ーーナノハ」

「えへへ、シュテル久しぶり! 元気だった?」

「ええ、問題ありません。ナノハも、変わらず?」

「うん! 元気いっぱいだよ!!」

「それは何より。師匠もお変わりないようで」

「だ、だから師匠じゃなくてユーノって呼んでってば。相変わらずだなぁシュテルは」

 シュテルと同じ顔を持つ少女ーー高町なのはと、金髪緑眼の少年ユーノ・スクライアは、親しみのある笑みを浮かべシュテルと言葉を交わし合っていた。

 

「……あれ、やっぱりシュテル、どこか調子悪い?」

 なのはが心配そうにシュテルへ声をかけた。どうにも、シュテルが身体をモジモジと気付かれないようによじっていた事が気になったようであった。

 シュテルは小さくビク、と身体を震わせるも、首を横に振る。

「いえ、特段問題はありません」

「そう……? ならいいんだけど……あ、そうだ! 昨日ね、ユーノ君と一緒に新しい戦術を考えたんだ!」

「ほぉ、それはまた興味深い……」

「にゃはは、今日の模擬戦は負けないよー!」

「ええ、楽しみにしています。今日、予定通り模擬戦が出来ればいいのですがね……」

 どこか温かな薄い笑みを浮かべるシュテルと、弾ける様に笑うなのはを交互にルイスは見比べる。

 

「……双子がいっぱい」

 

 首をひねりながら、ルイスは目をパチクリとしばたかせた。

 

「あぁ、決して私たちは双子というわけではないのですが……その辺りの事情はおいおい、ということで」

 シュテルはルイスの疑問に困った様に腕を組み、苦いコーヒーでも飲んだかのような顔をした。

 

「ーーあの、はじめまして、ですよね!」

 シュテルの渋い顔で更に疑問符を飛ばすルイスに、なのはがおずおずと、けれど明るい声で話しかけた。

 チラチラと、視線は金の枷に注がれている。

「ん、あぁ、はじめまして。僕はルイス、ルイス=シュヴァングだよ。シュテル……じゃなく、ええっと?」

「私、高町なのはっていいます!」

 天真爛漫という言葉の通りに、花が咲く満面の笑みをなのはは浮かべた。

(いやはや、同じ顔だけど、全然違うんだな)

 ルイスの意味ありげな視線をシュテルは敏感に感じ取る。

 「……なんですか?」

「いや、どっちも可愛いなと思って」

「……………………そうですか」

 

 いつもより長めの沈黙を経て、シュテルは声を絞りだす。表情筋は微動だにさせない。

 なのはも、にゃはは、照れたように頬をかいていた。 

 

「--コホン」

 大きな咳払いが一つ響き、みなの視線がその主に注がれる。

 音の主は、アースラの制服に身を包む、クロノ・ハラオウンだ。

 その横にはリンディとエイミィの姿もある。

 

「皆、呼び立ててすまない。今日集まって貰ったのは他でもない、海鳴市で現在起きている異変について、情報を共有するためだ」

 クロノは端的に言葉を重ね、趣旨を伝達する。

「内容としては、この町で不特定多数の古代遺産が四散した件について、だ」

 ピり、と周りの空気が張り詰めるのをルイスは感じた。

 古代遺産はそれだけで一級品の危険物である。一般人がどうこう出来る代物でない場合が殆どであり、魔力を持たないこの世界の住人に置いては、特級の危険物なのだ。

 

「こちらが掴んでいる情報を踏まえ、今後の方策を話し合いたい。では、艦長続きをお願いします」

 クロノは一歩下がり、代わりにリンディが前に出る。

「ありがとうクロノ。さて、まずは彼を紹介しなければ始まらないわね」

 クロノから会話を引き継ぎ、リンディは続ける。

「彼の名前はルイス=シュヴァング。いうなれば、この事件の最重要参考人ね」

 

 一斉に、ルイスへと視線が集中する。先ほどより、見慣れない新顔に奇異の視線は少なからずあったが、今は気色の違う物へと変わっていた。

 

「では、ルイスさん。申し訳ないけれど、事の顛末を簡単に話して貰ってもいいかしら。あ、ここにいるのは全員管理局の関係者だから、問題ないわ。各自の自己紹介は追々という事で」

 

「あ、はい! えっと、改めまして、ルイス=シュヴァングと言います」

 一つ、深呼吸をして。

「僕は遺跡の発掘を生業としているんだけれど……いつもの様に遺跡で仕事をしてると、正体不明のバケモノに襲われたんだ。無我夢中で戦っていたんだけど、遺跡が急に動き出して。古代遺産と一緒にこの世界に転移されたんだ」

 深く、頭をルイスは下げた。

「だから、今回の件の原因は僕、にあるんだ。本当に申し訳ない」

 

「はん、確かにな。ようは、テメーがちゃんとしてなかったのが悪いって話しじゃねーか」

 腕を組み、語気を荒げるのはヴィータだ。海鳴市は彼女にとっても故郷と呼べる場所になったからこそ、ルイスの齎した災厄に否定的な考えを持つのは自然と言えた。

 

「ヴィータ、そう言わないでください。確かに彼にも落ち度はあるかもしれませんが、事態の収束を図る為に身を挺したという事実も無視できません」

 割って入る様に、シュテルが声を荒げた。

 シュテルにしては珍しい口調に、ディアーチェが一番目を丸くしていた。

 

「……やけに庇うじゃねーか。ていうか、さっきから気になってたんだけどよ、その手枷は何なんだ?」

「そうそう、私も気になっててん。それ、どうしたんですか?」

 ヴィータの頭をなだめる様にはやては撫でながら、ルイスへと疑問を口にする。

「あー、えっと、これも件の古代遺産の一つなんだ。遺跡から転移する時にハマっちゃって……それで、シュテルと出会った時にこうなっちゃったんだ」

 

「外すことは‥‥…出来たらはじめからしてはります、よね」

「ええ、ハヤテ。残念ながら、今は解除が不可能です」

「それはえらい難儀やなぁ……」

「でもよ、結局それもアイツの自業自得じゃねーかよ」

「…………ッ」

 火花を散らすヴィータとシュテルを制する様に、シグナムが一歩前に出てリンディと向き合った。

「つまり、そこの青年が遺跡で何者かに襲われ、古代遺産と一緒に転移してきたと。そして現在、その古代遺産の一つである謎の手枷でシュテルと繋がれているという事で()()()()()()()()()()()()()()()ですか?」

「ええ、()()()そう考えているわ」

 リンディはシグナムの問いにニコリと肯定する。

 シグナムの問いかけは、ルイスの言葉をまとめたものでもあったが、管理局はその証言を是としているのかという確認の意味も含まれていた。

 リンディの返答に、シグナムは目を細め、小さく頷いた。

「成程。ありがとございます」

「ええ、おそらくシグナムさんの思う通りね。あぁ、さらに言えば、古代遺産はもう一つ発見されたのだけれど、シュテルさんやルイスさんたちの活躍によって討伐されたわ」

「……討伐、ですか」

 その二文字が意味するところをシグナムは理解し、無意識にレヴァンティンに手をかざした。

「そう。おそらく、遺跡の防御機構であったからこその戦闘型だったと思うのだけど……他の古代遺産の幾つかも、同質の物が含まれていると推察すべきね」

「成程。それは、なかなか厄介ですね」

「厄介ついでに言うと、高確率で呪詛が掛けられている可能性がある、という点も、ね」

 

「呪詛、ですか……?」

 なのはが聞きなれない言葉に、疑問の声を上げた。

「ええ、使い手はかなり少ないけれど、呪詛魔法という物があってね。その名の通り、条件が整えば相手を呪う事が出来るというわけ。魔力を封じたり対象にダメージを反転させたり、ね」

「……それ、結構相手にするのは大変なんじゃ」

 

「ええ、正直非常に面倒な相手ね。こちらも支援体制は万全を期して臨むつもりだけど、なのはさんたちにはまた無茶をお願いする事になると思うわ……」

「いえ、そんな! がんばります!」

「ふふ、ありがとう。頼もしいわ。さて、さしあたっては古代遺産の捜索とその回収が目下の目標となるわけだけれどーー」

 

「ーーあ、あの!」

 ルイスの突然の大声。

 一番近くにいるシュテルをはじめ、その場の全員がルイスを注視した。

 

「そもそもの元凶である僕が言うのもおかしいんだけど……」

 口ごもりながら、けれど明確な意思を持って。

 

「僕も……僕も、協力させてください!! お願いします!!」

 

 勢いよく頭を下げ、そのまま続ける。

 

「僕の不注意が招いた結果だし、償いをさせて欲しい……! だからどうか……! 古代遺産を探す手伝いを‥‥…!!」

 

 頭を下げ続けるルイス。数瞬の無音の空間になる。

 

「あの、リンディ艦長。僕からもお願いします」

 ルイスの行動を目にし、意を決して声を上げたのは、なのはの側にいた少年、ユーノだ。

「なんというか、ルイスさんの気持ちはよく分かるんです。僕もその、ジュエルシードの時は似たような状況であったわけですし」

「私からも、お願いします。何も出来ずにただ見守るだけなのは、きっと苦しいと思うから……」

 なのはも一歩前に踏み出し、ユーノと共に頭を下げた。

 

「……私からもお願いします」

 ルイスの真横にいたシュテルも、言葉をあげた。 

「今現在、呪詛魔法への効果的な対抗策を持っているのはルイスだけです。そしてその力は、先の戦闘で十分に証明されたとも思われます」

 シュテルはギュッと拳を握り、弁熱を振るう。 

「我々への敵対を主眼としているのであれば、説明がつかない行動が彼には多く見受けられると判断します。ここは、やはり彼を引き入れるのが得策かと思います。ですので、どうか」

 続けて、シュテルも頭を下げた。

 

(あらあら、大人気ね。実際、シュテルさんがここまで肩入れするのは正直予想外ね。嬉しい誤算であるのは間違いないのだけど)

 そして。

(なのはさんたちからすれば、過去の自分と重なり合う所があるわけで、親近感も湧くでしょうね。いえ、それ以前にはやてさんやフェイトも、放っておくことなど出来ない良い子たちだものね)

 潤んだ目で訴えかけるフェイトに、真剣な眼差しを宿すはやてを横目に、リンディは思考する。

(守護騎士は……はやてさんの決定に従うでしょう。マテリアルの子たちもシュテルさんが巻き込まれている以上、否定的な意見は出しにくいはず)

 腕を組みなおし、リンディは自分自身へ視線を落とした。

(さて、となればあとは私……管理局としてどのような見解を出すか、ね)

 

 リンディはニコニコと笑みを湛えつつ、脳内で思考を回転させる。

 

(古代遺産を放置はできない、これは考えるまでもなく決定事項。問題はルイスさんの処遇をどうするかという事だけれど、今ルイスさんを拘束するとなれば、すなわちシュテルさんを失う事とイコールになる)

 リンディは苛立ちから足を揺らすディアーチェを見る。

(シュテルさんを万が一にも拘束するとなれば、ディアーチェさんは特に穏やかではないでしょう。どの様な行動にでるか、考えるまでもないわ。今この状況下においてトラブルを増やすわけにはいかない)

 

 となれば。

 

(今回の相手は古代遺産であり、更に呪詛魔法という稀少技能に近い特性を備えている可能性も高い。ある種そのどちらともの専門家である彼の助力を乞うのは自然でしょう。この特異なシチュエーションであれば、本局を納得させるには充分ね) 

 仕事とはいえ、打算的な考えは嫌になるわね、と誰にも聞こえないように呟きながら。

(やはりここは彼の提案を受け入れ、民間協力者という位置づけで参入して貰う方が得策でしょう)

 リンディは考えをまとめ、ルイスへと柔和に細めた目を向けた。

 

「ーーええ、こちらからお願いしたいくらいだわ。ルイスさん、正式に民間協力者としてこれからお願いします」

「あ、ありがとうございます……! シュテルも、皆も、その、ありがとう!」

「……いえ、私は最善の判断をしただけですので」

 フッと、少しだが場の空気が弛緩する。

 ルイスにまだ懐疑的な視線も向けられてはいるが、大多数が穏やかな感情を向けていた。

「さて。話も纏まった所で、次は古代遺産に関してだが。まだ詳細や総数も分からない以上、今は情報収集に徹底する事になる」

 クロノはこうなる事が分かっていたかの様に、冷静に段取りを踏んでいく。

「また、繰り返しになるが、対象の古代遺産は呪詛で汚染されている可能性が高い。どのようなタイプの呪いが掛かっているかも不明だ。故に、接触時には最大限留意をして欲しい。基本的に一人にはならず、複数人でのチーム行動を基本にすること」

 一旦区切り、息を吸う。

「次は具体的なチーム編成を決めるわけだが……ここまでで、何か質問は?」

 

 クロノは確かめる様に全員の顔色を伺う。

 

「ーーあの、すいません」

 と、シュテルがおずおずと、クロノのへと伏目がちな視線を送った。

 

「グリーフィング中だというのは百も承知なのですが……その、えっと……ですね……言うべきか非常に悩んでいたのですが……」

 

 シュテルにしては歯切れの悪い言葉で、どこか遠慮がちにおずおずと手をあげている。

 

「シュテるんどったのー?」

 不思議そうに小首をコテンと傾げるレヴィ。

 シュテルは俯きながら消え入る様な声で、

 

 

「……いえその、ですね。トイレに行きたいのですが」

 

 

「ーーーー……」

 

 トイレ。なるほど確かに、言い出しにくい話題ではある。

 今はまさに協議の最中であり、その内容も決して小さなものではない。

 

 

 だが、それにしてはどうにも様子がおかしい。

 

「……あ!」

 

 なのはが何かに気が付き声を漏らし、顔を真っ赤にして俯いた。

 

 数瞬遅れて、みながなのはの表情の意味する所を理解し、何とも言えない気まずさで固まる。

 

 シュテルは今、ルイスと繋がれそしてそれを解く手段がない。

 となれば、必然トイレにはルイスと共に入る必要があるという事である。男と女である、ルイスとシュテルが、である。

 

 

「……やはり、馬の骨は消し炭にしてくれようか」

 

 ディーチェの本気としか思えない殺気とトーン。

 ルイスは額を地面に擦り付け、土下座で応戦する。

 

 

「その、すいません。実は割と前から我慢をしていたので、そろそろ限界です」

 

 消え入る様なか細い声。若干シュテルの目じりには涙が浮かんでいる。

 

 ディアーチェはわなわなと見るからに震え、ひと際大きく足裏で床を踏みしめた。

 

「ーー目隠し! 耳栓!! ええぇいあと猿ぐつわに拘束具!!」

 

 咆哮に近い怒号をディアーチェはあげた。

 

「さっさと持って来ぬか!!」

 

 クロノたちがわたわたと指示された物を探しに駆け出て行くのを、ルイスはサウナにいるかの様な滝の汗を流し、見ているしか出来なかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 『王家』のルールとして、家事は均等に分担する事になっている。

 リビングには当番表が掛けられており、小まめに掃除も成されている事が伺えた。

 

 『王家』の廊下の奥、木製の押戸の先はトイレがあり、例に漏れずそこも常に清潔に保たれている。

 

 ピカピカに磨かれたウォシュレット付きの洋式便器と芳香剤が置かれるそこに、二人の人間がいた。

 

 そもそもトイレに二人で入るという事自体が異常ではあるが、その内の一人は奇妙ないで立ちをしている。

 ガムテープでグルグル巻きにされた上に、目隠しと耳栓に猿ぐつわ、鼻には洗濯ばさみが二つ付けられていた。

 

 簀巻きにさたルイスだ。先ほどからもぞもぞと動いてはいるので生きてはいる様ではある。

 

 そしてもう一人、明らかに顔を赤く染め、便座にちょこんと座っているのは、シュテルだ。

 会議の最中にトイレの為退出する事になり、今に至る。

 

 アースラの女子トイレにルイスを同室されるのはどうかという事で、『王家』に急ぎ戻り、事を成すことで話はまとまったのだ。

 だが、やはりなかなかシュテルはスカートを下せずにいた。

 

(信じられない恥辱です……)

 

 手枷の長さからして、同室に入らざるを得なく、用を足すには服はおろか下着も脱ぐしかない。

 今日出会ったばかりの異性を前にするには、あまりにもハードルが高い行為である。

 

(しかし、限界は限界ですし……)

 今後もしばらくコレが続くのかと辟易した気持ちになるシュテルであったが、意を決してスカートに手をかけた。

 

(…………っ)

 

 腰辺りにあるボタンを外し、シュテルはゆっくりとスカートを下ろしていく。

 シュルシュルと、衣擦れの音が艶やかに室内に響いた。

 

 布に隠されていた健康的なふとももが少しずつ露になり、その白さを外気に晒す。

 鍛えられ引き締まった中にも、どこか幼い弾力を残すそれは、美しいと表現して間違いのないものがあった。

 

(う……)

 

 スカートを脱ぎ終え、ついで黒の下着が現れた。

 完全に視界を奪われているルイスに見られる事はないとはいえ、シュテルは無意識に手で覆い隠す。

 

 下着は黒の下地に小さなリボン、細やかなレースがフリルの様にあしらわれる、少し派手なものだ。

 シュテルの外見は幼く、けれどその雰囲気は妙齢な女性のソレでる為か、見事に履きこなしていた。

 

 シュテルは普段、纏め売りされている無地やワンポイントの下着を履いている。

 機能性と価格重視の結果であるが、周りの女性陣からは渋い顔をよくされていた。もっと可愛い物が絶対に似合うのに、と残念な視線が主だ。

 

 しかし、今日はなのはとの模擬戦が予定されていた。

 まさに文字通り「勝負パンツ」としてシュテルはこの黒レースの下着を選んでいたのだ。

 不思議な風習だとシュテルは思うも、日本通のリンディが言うからには間違いないだろうと、それ以来大事な日にはこの下着を履くことにしていた。

 その事をディアーチェに話すも、複雑な顔をしていたのはなぜでしょうか、とシュテルは思い返す。

 

(などと現実逃避をしていても仕方がありません……ありませんが……)

 

 下着を手にかけたまま、シュテルは先ほどからずっと同じポーズで固まっていた。

 

(このままでは埒が明きません、ええ、それはわかっています。……し、しかし、これをこの状況で脱ぐのはやはり……)

 

 生まれる当然の逡巡に、シュテルは耳まで赤くなる自分を自覚した。

 

 

 しかし脱がなければ何も出来ない。

 

 

 シュテルは生涯感じた事のない、恥じらいが軽い殺意に変わる感覚を味わっていた。

 

「……よい精神鍛錬だと思いましょうか」

 

 自分を納得させるかの様に言い、シュテルは勢いよく下着に手をかけーー

 

 

「ん……」

 

 

 

 ーー数十秒後、シュテルは涙を薄く浮かべた赤い顔で、簀巻きを引きずりながら扉を出た。

 

 そしてはたと気づいた様に足を止め、シュテルは天井を仰ぎ見た。

 

「……お風呂の時はどうしましょうか」

 

 シュテルは右手に繋がれる簀巻き男を眺め、深いため息を吐いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「申し訳ありません、ただ今戻りました」

「おお、シュテル! 今我が全霊をかけて練り上げた完全犯罪の計画がちょうど出来上がった所でな! 喜べ、馬の骨をこの世から抹消出来るぞ!」

「落ち着いて下さいディアーチェ。若干今は賛同したい気持ちが強いですが。して、他の方々はどこへ……?」

 シュテルはルイスの拘束を乱雑に解きながら、キョロキョロと周りを見渡した。

 先ほどまで人で溢れていたここは、シュテルとルイス、そしてディアーチェとユーリ、クロノしか残っていなかった。

 

「あぁ、皆町へ捜索へ出て貰っている。いつ古代遺産が起動するかも分からないから、先だって動かせて貰っている。シュテルとルイスさんが抜けていた際に決まった事は、追ってレポートとして送付する事になる。また目を通しておいてくれ」

「……その、本当に申し訳ありません」

「あ、いや。その、なんだ。仕方がない事ではある、からな。うん」

 明らかに気落ちするシュテルに、クロノはフォローを入れようとするも、どこか気まずさでしどろもどろになっていた。

 

「ええっと、それから。ルイスさんとシュテルはこのまま残ってくれ。メディカルチェックを受けてもらう、シャマルさんが医務室で準備をしてくれているはずだ」

 小さく咳ばらいをし、クロノは続ける。

「手枷型の古代遺産の解析も急ぎたい所だが、まずは君たちの体に異常がないかを調べなければならないからね」

「分かりました、配慮、感謝致します」

「ありがとう、自業自得の僕は兎も角、シュテルが大丈夫なのかはずっと僕も気になってたから!」

 

 拘束から解除されたルイスが、仰々しくクロノと両手で握手を交わす。

 

「……?」

 

 クロノはそこで怪訝な顔をするも、ルイスは申し訳なさそうにウィンクを返す。

 それで納得したのか、クロノはほんの少し口調を低くし、右の手をポケットへと移動させた。

 

「……いえ、当然の事ですから。では、早速行きましょう」

 クロノのに続き、シュテルとルイスも医務室へと足を向けた。

 

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 アースラ内に設置された執務官室内。

 縦長の部屋の奥に大きめの事務机が設置され、大量の資料や書籍がキチンと整理され置かれている。

 中央付近にはソファが置かれ、来客の際に使用する事が伺い知れた。

 部屋の隅には観葉植物が揺れており、唯一の彩りを添えている。

 

「どうしたものか……」

 クロノは使い慣れた机の上に置かれる、シワの寄ったメモに目を落としていた。

 

 

『皆には内緒にしてね』

 

 

 と、だけ書き殴られたソレは、ルイスがクロノと握手を交わした際に秘密裏に握りこませた物であった。

 次いで、クロノは『ルイス=シュヴァング、メディカルチェック報告書』と表された、数ページに纏められた書類へと視線を落とす。

 

「……はぁ」

 

 大きくため息をクロノは吐き、メモと報告書を交互に見比べた。

 

「しかし、これは……」

 

 何度目かのクロノの呟きを、聞くものは誰もいなかった。

 




アップする前、後輩に今回の話しを読んで貰ったんですが、

「最近全然パンツ出さないから正直先輩の頭がおかしくなっちゃったんだと思っていたんですけど、無事だったみたいで何よりです。頑張って下さい」

と、感想なのか何なのかよく分からないメールが送られてきたので、首をかしげるばかりです。

それでは、読んでいただき本当にありがとうございました。
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