二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ 作:クラリオン
本編ではないのはご容赦ください、こちらの方が先に浮かんでしまったので。
それでは、閑話、最新話です、どうぞ!
「……中々ギリギリの綱渡りをしてやがる」
苦虫を噛み潰したようにグラディウスが呟いた。
「<正義>殺しに規定ギリギリの情報開示。<偽装腕輪>と三重ステータスに女神まで利用した<防衛者>の復活。かなり思い切った事をやる。流石は元<勇者>と言うべきか」
淡々と事実を述べるのは人間態を取る始祖竜。
「しかもこっちと連絡とってないってのにこっちが欲しい動きを先取りしてくれてるしな。期待通り……期待以上か」
「少なくとも人魔大戦はアイツにとっては想定外の出来事のはずだが、中々柔軟な対応をしてくれた。さくら助けに飛び出したときは少し焦ったがな」
「<システム>が要請を蹴らなかったって事は不要な事でもなかったという事だ。気にするほどの事ではないだろう」
「それもそうか」
「問題はここからか」
「そうだ。時空帝竜の話では、今代においても前回と同様の経過をたどる可能性があるらしい」
「人族と魔族の連合軍か?」
「ああ」
「あの状況から? 人族側から戦争を仕掛けたあの状態から?」
「ああ。理由も戦況も不明だが──ケイトが単独で、『人形化』を使う、らしい」
「は?! 『人形化』ってあれアイツの切り札の一つだろ? それ切らなきゃいけないレベルなのか?」
「相手が<正義>だからな。多分固有技能使われたんだと思う」
「……<正義>の固有技能か。あれは厄介だが……」
「<孤独>は破れない。ただ数で押されたらしい。同レベル帯、つまりステータス的に同等の相手が多数」
「……その状態だと切れる札も多くは無い」
「多くは無いがないわけじゃない」
「その中で『人形化』を選んだ理由、か」
グラディウスは考え込んだ。
「痛覚や肉体の損傷をほぼ無視して魔力と気力が続く限り戦い続けることができる前衛傀儡術師の切り札。デメリットは自分という人形にさえも強化魔法を使えなくなることと終了時に長期間戦闘不能状態に陥る事だ」
「しかし<孤独>の素の防御力ならばまず並大抵の敵では破る事は出来ない、から基本的に最初のデメリットは無視していい。ただ二つ目はどうしようもない。おまけに単独でとなれば」
「詰んでるな。らしくない」
「ああ、らしくない」
彼自身は凡人だ凡人だと言い張る。実際彼自身だけならば凡人以外の何物でもないが、<賢者>という称号職業と<勇者>としての力が、彼の臆病な思考を結果として非凡レベルに押し上げていた。
失敗と死を恐れる凡人の臆病な思考に応えるために、<賢者>は数多の予想を導き出し、幾重の予防線を伴う困難な道を示す。しかし<勇者>の力は、その道を安易な道のりへ変え、彼はそれを突き進む。
このスタンスは例え戦闘中であろうと変わらない。現在の敵の動きから予想される攻撃、予想できない攻撃、そのすべてに対応できるような動き、あるいはそれら全てを避けられる動きで攻撃。それが彼らの知る<孤独の勇者>啓斗の戦い方の基本だ。
だから、らしくない。一対多、それも同格を敵に回して自分が動けなくなるようなスキルを使ってまで戦い続けるなんて、彼らしくないにも程がある。
「アイツがそういう手を使うしかないとなると……<システム>側の問題か?」
「まさか相手に全部バレた?」
「いや、だとしても時空帝竜の防御は破れない。むしろ全員で引き籠った方が簡単なはずだ……それ以外の問題が生じた?」
「その問題は<勇者>の命を天秤に掛ける必要がある程重大なものか?」
「……ないな。ありえないだろう。そんな事は<システム>が統べるこの世界であり得るわけがない。<システム>は絶対にそれを許さない。それにそもそもそんな事が起こらないようにするための我々で、<システム>だ。よしんばそんな事態になったとしても<システム>はそれを選ばないな」
グラディウスの質問に、始祖竜は自らの考えを即座に否定した。
「……という事は完全なアイツの独断というわけか。珍しい」
「経緯が分かっても理由が分からないと手の打ちようがないぞ、どうする」
「……お前達は動けないのだろう?」
「ああ」
「……俺が動く。あとアリスと出来ればアカリを起こしておきたい。万一の場合はアイツより早く動いてもらう。<勇者>の動きを先取りするなら<勇者>が要る」
「ならその間あの二人の代わりは」
「俺がどうにかしよう。その程度できずして<魔王>を名乗れるわけがないだろう。それに……娘が頑張ってるのに俺が何もしないとか許されるわけがない」
「……苦労をかけるな」
「元は自分達で蒔いた種だ。少々手間がかかったところで変わるものか。安心しろ、賃金は全部終わってから啓斗に請求してやるから」
「……ははっ、それは良かった。じゃあ、任せる」
「ああ、お前達はこの世界と<システム>の心配だけしてろ」
珍しく力なく笑った始祖竜に返事をした。
「俺の後輩はどう動いてくれるのかねぇ……まだ八歳の子供だってのによ。<システム>も中々酷な事を」
闇帝竜の様子を見てくると言って始祖竜が去った後。一人夜空を見上げグラディウスは呟いた。
本来のプログラムとは異なる形ながら、<システム>は人魔大戦を始めてしまった。つまり<正義の勇者>の存在が正当化され、魔族との戦闘を開始したために、竜種が手を出す大義名分が消滅してしまった。
一度こうなってしまえば、彼等自身の誓約により<正義の勇者>が何をやろうと彼等は手出しできない。ただひたすらに約定に則り、全てが終わるまでそれを見守り続けるだけ。
だからここは、<システム>発動の際、きっと存在を想定されていなかったであろう自分や、自分の娘が動くべきなのだ。何のために?
「……なるほど、俺はアイツに死んでほしくないと思っているのか。それも自分の命を天秤に乗せていいと考えるほどには」
初めて会った時は敵だった。どう攻撃をしても避けられるか受け流される未来しか見えずゾッとした。異世界とはそこまで過酷なものかと。
印象が変わったのは、大平原での対談後。その後で、それが<勇者>の、彼自身曰くの『チート性能』による物であると聞き、笑うしかなかった。<魔王>がどうやってあんな代物に勝てるというのか。
そしてなぜかあっさり背中を預けてくる<勇者>に戸惑いながら、何年か共に戦って。
「……ああ、そうか。命を拾われていたか。それでか」
人魔大戦プログラムは、基本的には<魔王>の指定を第一フェイズとして開始され、<召喚者>の回収を第九フェイズとしてそれを以て終了とする。そのうち現地人が関わるのは第七フェイズ:<魔王>と<勇者>の対決 と、その直後に短期間設けられる第八フェイズ:戦後処理 まで。
<勇者>が<魔王>を
そう、<勇者>の帰還は、<魔王>討伐が前提。それを小細工だけでどうにか辻褄を合わせたのは、かつての<防衛者>と<孤独の勇者>。<魔王>としての圧倒的なステータスと、ほとんどの戦闘用スキルの喪失、<元魔王>という称号への変更を以て、<システム>は<魔王>の消滅を確認、その後少々揉め事はあったものの、<孤独の勇者>パーティー4人全員<送還>となった。
『できれば、一度交流し親交を深めた相手を完全な自己利益のためだけに殺したくはない』というその判断は、『甘い』。自分が元の世界に戻れるかどうかが掛かっているというのに殺したくない、とは。
しかし彼等は紛れもなくやり遂げた。その代わり少々面倒な役割を押し付けられたが、娘との穏やかな生活を考えれば、過剰なまでの報酬を貰っていた。
そして千年が経った。二度と来ないはずの彼らは再度この世界に現れた。
「給料分の仕事はしようか」
久しぶり、それこそ数百年ぶりに、彼は一つの鎧を手に取った。それはかつて彼が全盛期に使っていた装備で、当時から今まで手元に残し続けた唯一の装備でもある。
それは煌びやかな宝石で飾られた、いわゆる見た目だけは立派だが、という品にも見える装備。しかし魔力を使える人間なら、それらの宝石が見た目だけではないとすぐにわかる。
鎧の各所に飾られた大粒小粒の宝石、それらは全て、潤沢に魔力を蓄えた魔石。必要時に魔力を供給できる魔力タンク。
人より魔法に優れる魔族を統率する、<魔王>にこの上なく適した装備。それを着る事、それは彼が臨戦態勢に入る事と同義。
ほぼ全て一般化されたステータスの中で、ただ一つ文字通り桁が違う項目に意識を向ける。
MP:120000(+12000000)/120000
かつて<勇者>に命を救われ、平穏な生活を与えられた<元魔王>は、恩に報いるべく、あるいはただ友を救うために、動き出した。
ほとんどが空白のスキル欄に記されたただ一つの初歩スキル。
それは単体では役には立たないスキルで、軽視されがちなスキル。
<魔力譲渡>。
「宝の持ち腐れだと思ってたんだが、良い偶然もあるものだな」
ニヤリと笑った。
<魔王>一人≦<勇者>パーティー
当然ながらやべーやつ。
というわけで魔力タンクが動き始めました。一度前回の決戦時に全部使いきった後1000年かけて自動回復する魔力で充填かけてます。
魔力量は魂の容量みたいな物なので変更する事が出来ませんでした。ちなみにHPは並ですコイツ。
それでは感想評価批評などお待ちしております。