ブラックブレット ーガストレアとなった少年ー 作:ブロマイン
御影 理玖
『ここは何処?』
半年前にそう問いかけられたならば、誰もが口を揃えて『東京』と答えだろう しかし今現在この惨状を見て、ここが東京だと断言できる人はまずいないに違いない。
ーー難民キャンプで身を寄せ合い、配給によって飢えをしのぐ人々。政府の用意した掌から零れ落ち、なんとしてでも生き延びようと草木をかじる人々。
ガリガリに瘦せ細り、最後まで抵抗を続けるも虚しく事切れた屍。むしろこの惨状は、戦地や敗戦国のそれである。
ここに立ち尽くす少年の名は御影 理玖。
彼は両親とともにかろうじて配給札手に入れた、この世界ではまだ幸運だと呼ばれる人種である。しかし彼は、このままでは自分もいつかは死ぬのだろうと思っていた。このキャンプの中にいる人々も希望を信じる一方で、幼い彼以上に死の恐怖に怯えているのかもしれない。
ブオン、ブオン、ドドドドド
ふと、廃ビル郡の向こうから何か大きなものが空気を扇ぐ音、そして聞き慣れた日本軍の軍事ヘリの音が聞こえる。すぐにビルの影からそれらの音源が姿を現した。
二対四枚の羽根に巨大な嘴、そして怪しげに赤く光る眼、誰かが「ガストレアが出たぞ」そう叫んだ、それからは早かった。
ある男はその襲来を伝える鐘を鳴らす、その鐘が人々の視線を上空へ向け、その姿を捉えた人々は死にものぐるいで逃げようとする。
そうして出来上がったのは人の波だ。波は止まることなく進む、たとえ進行方向に人が倒れていようとも、恐怖に足が絡まり転んだ子供がいたとしても、波はそれらを踏みつけ飲み込み、前へ前へと進んでいく。
そんな喚き蠢く物体にやつが気付かぬわけもなかった。
すぐに進行方向をこちらへと変えて、大きく鳴いた。その咆哮に思わず足を止めてしまう人々、近づいて来る巨体、しかしやつは突然バランスを崩し、墜落し始めた。
見るとその体にはミサイルが打ち込まれている。おそらく後を飛ぶヘリがはなったのだろう。羽根をやられたてうまく飛べないのか、ぐんぐんと高度を落としていく。
ほっとしたのもつかの間、今度はその巨体が人の波に向かって落ちてきたのだ。
一方向へ逃げていた先ほどとは対照的に、今度は落下地点から遠ざかろうと散り散りに走り去る。
しかし完全に逃げ切ることは不可能だ。
横の加速度を持ったまま墜落してきたその巨体は、逃げ遅れた人々を飲み込み、大地をえぐり少しずつ速度を落としていく。
その間およそ50メートル、一体どれだけの人が巻き込まれたのだろうか、数十人はくだらないだろう。数十人には、数百人の知人がいて。それだけの人がまた一つ、ガストレアに対して負の記憶を植え付ける。
その後しばらくしないうちに、日本各地にモノリスを建造。
人口の8割を失い、国土の7割が侵略される大敗をきしたものの、戦争は終わった。
生き延びた人々は、いっときの平和と仮初めの世界を手に入れたのだ。
次回は十年飛びます