かつて世界を踏破したIS操縦者、織斑千冬。


そんな世界最強の彼女が乗っていた機体、暮桜はどう思い感じていたのか。

「あ、限界じゃ」

そんな暮桜の一幕。

1 / 1
徒然暮桜

 ──ただ、割りと辛かっただけなのじゃ。

 

 人間の動きをパワーアシストするはずの機体(カラダ)は彼女の動きについていくので精一杯。

 もうこのままでは耐えきれないと自己成長をするも、最強でありながら成長し続ける彼女に自らの成長が追いつかず差は埋まらない。いや、その差は広がっていった。

 己の力不足かと嘆こうとするもネットワークに繋がった皆々に尋ねれば、やはり自分でなく彼女がおかしいという。

 それでも、なんとか食らいついていた。骨子が悲鳴をあげようと末端回線がいくらか引き千切れようと、諦めることなく自己修復を最大限に引き出した。むしろ自分の限界の前に相手を(ほふ)る一撃必殺すら自己成長の先に見い出した。

 

 零落白夜。日の沈まぬ白夜に一太刀振るえば、その地に立ち影を伸ばす者は己が一人。他者の見る影を残さぬ必殺の刃。

 

 彼女(チフユ)の身体能力に耐えるために暮桜が生み出したのは世界で初めて発動させた単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)

 それは自身の身を削る代わりに己のエネルギーを削り、撫でて斬れば相手を落とせる一撃必殺。これがまた織斑千冬に相性が良く彼女の人外染みた動きが合わさり殆どの相手は負けを認識する前に地に伏した。順調であった、チフユの試合時間が短いほど暮桜は負担が少なく空き時間は修復に当てられた。

 

 

 

 だが事件は起きた。その日にはISの大会、第二回モンドグロッソが開催されていた。前回の優勝者である織斑千冬は当然のように決勝へと上り詰める。決勝の相手も決まり後はアリーナへと出るだけ。そんなときにひとつ、彼女にとって最悪の報せが届いた。

 千冬の弟(オリムライチカ)が拐われた。簡単にいうと彼女はキレた。それはもう鬼神と見違う(みまごう)ほど、彼女は烈火の如く心を憤怒と焦燥に燃やし全力で弟を助けに向かった。そう、()()で。

 

 大会の優勝を犠牲に彼女は弟を見事救出した。けど、人知れずもうひとり──彼女の乗っていた暮桜もまた、彼女の怒りの業火の犠牲になっていたことは誰も知る由はなかった。

 

『嫌じゃ……あんなISより強そうなチフユに乗られるともう身が持たんのじゃ……』

 

 結果、暮桜は電子の世界から(うつつ)の世界へと手を伸ばす。

 逃亡を試みる。ISという殻/機体を捨て去り新たな殻/肉体を手に入れるため。まずは自身を凍結、鋼鉄の身体を構成する元素を分解、肉の殻を手に入れるために必要な元素を選び組み立て再構成。

 人体を組み立てる組み立てる。複雑怪奇な構造をする脳は特に必要ないのでコアで代用、機能的にも問題ない。だが鋼鉄から抽出するにはちょっと、普通に蛋白が足りない。いや、かなり足りない。近くの冷蔵庫の中身から拝借拝借。それでも足りない、成人の肉体には程遠いものしか造れそうにない。

 

 ──構うものか成せばなる、構成だけに! と意気込んで暮桜は己がボディを完成させる。

 

 骨は鋼鉄、爪は強化プラスチック、不足した蛋白にシリコンを結合させ程よい肉感を作り出した身体(ボディ)。薄い金髪を靡かせ現に構築された彼女、暮桜はビシッと決める。

 

「妾、誕生じゃっ!」

 

 これが世界最強も共に駆った第一世代暮桜、家出始まりの瞬間である。

 斯くして見た目はちんちくりんな幼女/暮桜は、ちょっと構成をミスった長い髪を引き摺りながら織斑千冬からの逃亡を果たした。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 織斑千冬は頭を抱えていた。長年連れ添っていた彼女の専用機、暮桜が千冬に応えなくなったのだ。

 第二回モンド・グロッソ、IS操縦者たちが世界最強の名を巡り競うその大会で弟が拐われた。その弟を救ったあとの出来事であった。

 万人の敵を千冬とともに沈めてきた暮桜はその機能を失ってしまったかの様で、まるで反応を返してくれない。

 いや、鋼鉄の機体は出てきたがそれが動くことがないのだ。千冬の膂力を持ってすれば確かに軽々と動かせるがそうじゃない。ISは世界最強の兵器と呼ばれるだけの機能を備えており、そんなパワーアシストなしの重装甲歩兵みたいなバーバリアンじみた使い方をするものではないのだ。

 普段は拡張領域(バススロット)に収納されている武装を展開(コール)することは出来ず、再び待機状態にすることすら出来なくなっていた。

 

「一夏を助けてから役目を終えたかのように動かなくなったが……そんな夢見がちな理由ではなかろう」

 

 因みに。彼女が頭を抱えていた理由は暮桜が動かなくなったから、ではない。動かなくなった、どうにも理由がわからない、ともすれば──親友に電話するしかない。

 篠ノ之束、それが親友の名でありISの生みの親の名前でもある。つまりISについてのエキスパート中のエキスパート、ISに不可欠なコアの製造方法を知る唯一にして無二の人物。世の中から賛美され讃えられ、畏怖される彼女は天災と呼ばれているそんな彼女。

 千冬からすれば我が儘な自己中なのだが、ぶっちゃけどっちにせよ電話を掛けるのが億劫なのだ。

 

「とは、言ってられんがな。んっ?」

 

 そんな風に悩みを振り切った直後、手のひらに乗せた通信端末機が振動で着信を知らせた。このタイミングの良さからして何でも手のひらで転がしているかのように振る舞う親友、束からのものかと思った千冬は溜め息混じりに端末を開く。

 がしかし、画面に表示されているのは電話番号ではなくメール受信のマーク。それも送り主不明のもの、千冬が知る束はこのような回りくどい真似はしないはずであり、十中八九スパムの類いだろう。そのまま消してしまっても問題はないのだが、万が一の可能性を考えそのメールを開くと──金髪の童女がスカイツリーを背にこちらへとピースしている写真が添付されていた。

 

 

 

 

 

件名:暮桜

本文:拝啓チフユ

挨拶は省略させていただきます。急に家出したことへのお詫びを申し上げるためにこのメールを送った次第です。

貴女と飛んだ空は身体の軋みに耐えるのに必死で余裕がなかったですが、改めて高所から見渡す世界は人が塵芥のようです。私がいなくなって困ることがあるかもしれませんが頑張ってください。最悪、私の母を頼るといいかと思いますが、私を探す方向では頼らないで頂けると嬉しい限りです。

 

追伸:スカイツリーめっちゃ高いのじゃ! 妾今ちんまいから余計に高く感じるぞ! 妾って空飛べたがまた此れは別腹じゃの!

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 パタンッと静かに画面を下に机に端末を置く。無意識に眉間を軽く揉むが寄ったシワが取れた気はしなかった、携帯を再び見る。眉間のシワが深くなっただけだった。

 無言で連絡先を開く、選んだ通話相手はもちろん篠ノ之束。『阿呆』で登録されているため一番上に位置しているその相手はワンコール半で出てきた。

 

「もすもすひねもすー! ちーちゃんおひっさ! あ、いっくんのことは大変だっ」

「黙れ」

『ぴぇっ!? …………な、なにか私したっけ?』

「暮桜になにをした」

 

 腹の底へ捻り混むような低い声に束は思わず一応心当たりが山ほどある自身の罪を尋ねた。それに返してきた千冬の言葉は、奇跡的に束の予想していたどれにも触れることはなかった。

 暮桜、千冬のために作られたその機体は公式の企業で造られたもの。つまり現在世界からの逃亡者である束が()()()()手出しできなかった機体なのだ。

 

『ええっと、ちーちゃんの操縦になんとか耐えれるように強化パッチを製作時に組み込んだくらいかな?』

「ふざけるな、その強化パッチで暮桜が童女になって家出するというのか。10秒で言え」

『ちーちゃん……いっくんが誘拐されたショックで頭が』

「辞世の句は妹への言葉じゃなくいいんだな?」

『えっ、許された10秒って辞世の句のためだったの!? てか本当に知らないんだってば! そもそもコア反応だってちゃんとちーちゃんの……あっれー? 暮桜がコアネットワーク切断してるぞー!?』

 

 鍵盤を弾くかのように軽快にキーボードを叩く指。それと比例するかのように束の声音が明るくなる。そんなイレギュラーを明らかに楽しんでる束に千冬は軽い頭痛を覚える、まぁ束と関わってからはいつものことだ。

 

 コアネットワークから位置を割り出せない、つまり暮桜が自己判断でネットワークからの繋がりを絶ったということに他ならない。千冬の言葉の通りならISが人の肉体すらも手に入れたということ。

 ISコアにとってコアネットワークは他者との繋がりの象徴、他のコアと情報を共有し合い自己成長する一要素。人間で例えるならば、コミュニケーションツールであり唯一にして最大の情報源。それを自ら絶つという行為は自殺行為に等しく、裏を返せばそれに頼らずとも生きる術を見出だしたということだ。

 肉の身体についてもそう。元々ISには拡張領域に武装を収納するための量子化、及び再構築の技術は付いている。しかし、量子化したのちに元あった形を変えて再構築させる、再編成のノウハウや技術は既存のISにはない。そのなかで人型ではないナニかを量子化し、人型の肉体を再編成再構築した。

 

『そう、そっかそっか。乗ってたのがちーちゃんだからこそなのかな、それとも暮桜が他より勤勉だったからなのかな。ま、どっちでもいいけど』

「おい、何を言っている。何かわかったなら簡潔に教えろ、三行でだ」

『無茶言うなぁちーちゃんは』

「一行消費だ」

『えっ、今のも入るのかぁ……ISの自然な進化のひとつのカタチだよ』

 

 千冬の相変わらずの理不尽さに愚痴った結果として残り一行になったので、束は言いたいことを言われた通りに簡潔に圧縮して伝えた。

「わからん、詳しく言え」

『三行でって言ったうえに更に制限かけたのちーちゃんじゃん?』

 そして簡潔過ぎる言葉の返答は束の予想通り再び理不尽な言葉を吐き捨ててくる千冬だった。

 普通の友人関係ならとっくに崩壊してそうな態度ながらもふたりの関係はこれでいい。束にとっては掃き捨てるほどの媚びる有象無象ではなく、対等な実力を持ち素で接してくる人間が貴重なのだ。

 なので大して気にした様子もなく説明をする。

 

『ISのコアってスパコンより賢い束さんでも明かしきれないワクワクの止まらないブラックボックスだったじゃん。わかったのは学習機能を持つこと、それを他個体と独自のネットワークで繋げることが出来て……あ、いっぱい解ってることもあったね。さっすが束さん天才だね!』

「……」

『無言は辛いかなぁー……それで肝心の暮桜なんだけどコアの意識が進化した未知の体系のひとつなんだろうね。私の明かせなかったブラックボックスと学習機能のその先』

「お前の声が妙に弾んでいるのはそのせいか」

『うん、私が解らないことなんて死者蘇生の方法とISのブラックボックスなところくらいだからね。死者蘇生の方は記憶をデータ化してスペアの身体に移すってことでいいなら出来なくないけど、肉体は死んだままだし蘇生出来たって言い切れないしね』

 

 束はケラケラと笑いながら世界が変わりそうな技術が可能であると軽く口にする。死者蘇生どころでなく擬似的な不老不死、であることが気に入らないという常人からズレた感性である束。だからこそ悪用することもなく戦争を起こす理由になり得る技術は興味がないと言う理由でちり紙のように丸めて捨てられた。

 そんな束だと知っているため千冬も溜め息ひとつで流す。

 

「それで? 楽しいお前は暮桜をどうするつもりだ」

『んー、このまま人と似た感性を持って肉体を得た機械がどうするつもりか気になるからなぁ。放置して観察だね、適当に衛星ハックしたら見つかるだろうし』

「そうか」

『あれ、サッパリ反応。ちーちゃんのことだから連れ戻してこいとか言うかと思ったよ』

「暮桜が自分の意思で出ていったというなら私が止める理由はないさ。人として楽しみたいなら存分に楽しめばいい」

『ふーん、まぁ今までちーちゃんのバーバリアン並みの操縦に付き合ってたわけだし有給くらい必よ』

 

 千冬は用のなくなった親友との通話を切る。再び通信機器が震え着信を知らせてくるが華麗にスルー。どうでもいい文句だろうと正しく親友からの用件を以心伝心。

 

 震え続ける端末を気に求めず、暮桜から届いたメールをもう一度開く。写っている童女が暮桜という現実に軽い頭痛を覚えるが、少しくらいは放っておいてもいいかと考える。だいたい親友(タバネ)の仕出かすことに比べればどうということもない。

 ついでに言ってしまえば暮桜という機体に無理を強いてたことはなんとなく千冬も察していた。人並外れた感覚を持つ彼女だからこそ操縦者でありながら察していたのだが、それが気遣いの方向に働いていなかったのだから意味はない。ISに自己進化する学習機能が備わっているとは言え、やはり道具として見ることが一般的である。千冬も例外ではなく、最低限()()()()ように程度としか考えていたかった。

 

 だから、人間と同じ姿となった暮桜を見て思うところが無かったわけでもないのだ。だから千冬はひとりごちる。

 

「人の姿になったんだ。アイツと同じことを言うのは癪だがゆっくり休暇くらい取っても構わんだろうさ」

 

 

▽▽▽▽

 

 

 質量保存の法則に等価交換。ISの量子化は前者を擬似的に解決した画期的な技術であった。実際は量子化しただけであり、拡張領域というオーバーテクノロジーじみた収納スペースに収めているだけなのだが。ただし、それを言ってしまえばISはISが世界に浸透する前からすればオーバーテクノロジーの固まりという話になる。

 そして後者の等価交換。これは現状ISで知れ渡っている機能では不可能とされている。Aというものを擬似的に無に近い状態で仕舞い、再びAという物質を再構成することは先に述べた機能で可能だ。

 しかし、等価交換であれどAという物質の内部構造を変質させBという別物に再編成することは出来ない。

 

「遠いの日の記憶を妾が切り裂く!」

 

 出来ないはずなのだが、この両手を合わせ地面を叩きオリムラチフユの銅像を建ているこの童女。ドイツ軍からおひねりを貰っている童女、

 言うのも手間だが暮桜だ。既存の技術発展どころか科学の最果てにいる束の想定の外にいる暮桜。彼女は現在、片手片足が機械鎧(オートメイル)の国家錬金術師の真似事をしていた。

 

 その地はドイツ。

 

 なぜドイツかと問われれば理由は簡単。ステルス全開、コンテナに忍んだ彼女が運任せに辿り着いたのがそこだった。ダーツの旅ならぬ密航の旅だ。

 そんな彼女は人の肉体(ガワ)であれば、多少人間離れしたことをしても他人が己を人として認識することを理解していた。理屈を捏ねれば人間が得る情報がどれだけ視角に頼っているか、なんて話になるが別段そんなに小難しい話でもない。

 

 自分に乗っていた織斑千冬が世間に人間として認識されているのだ。なので多少暮桜(ジブン)が妙なことをしたとて誰も人外とは疑うまいという確信があった。

 

 そのことを踏まえて人間のボディを手に入れたからには食事を行いたい、それにはマネーが必要。というわけで、暮桜は錬金術擬きの量子化からの再編成で銅像を建て、お賃金を貰う曲芸じみたことをしている。

 

「素晴らしい! 理屈(タネ)はわからないがこれだけ精巧な像であればチフユ・オリムラも喜んでくれるだろう」

「なんじゃチフユが来るのか」

「以前のモンドグロッソで少し彼女に借りをつくれてね。彼女にとっては不幸だったかもしれないが私たち、いや我が国にとっては幸いだったよ。日本では不幸中の幸いと言ったかな? ハッハッハ」

 

 暮桜は日本語の誤用と愉快な笑い声をBGMに零落白夜の発動方法を(コア)内で反復する。

 モンドグロッソで千冬が借りを作ったとすれば弟の誘拐の件しかあるまい。そして、つまり中途半端に千冬に場所だけ教えるという協力の仕方をした者たちということだ。

 色々と事情があったことは理解できる。誘拐に対するマニュアルも国際的な大会中にそんな事件が起こったことに対する面子もあったのだろう。

 

 だが暮桜はそんなこと知ったこっちゃない。千冬に誘拐犯の居場所だけ教えた、その一見雑とも言える対応。

 そのしわ寄せは人知れず暮桜に来ていたわけで。

 

 ──暮桜は、初めての殺意を、抱いた!

 

「む、顔色が優れないがどうかしたのかね?」

「なんでもないのじゃ」

「あとこの像のタイトルは……私の、ではなく私“たち”のではないのかね?」

「気にするでない、それで妾にとっては合っておる」

 

 頭の中で隣のふくよかドイツをなます斬りにしつつ平坦な声音で返事をする。ISが人を殺したところでどの法律が適用されるのか、そもそも犯罪になるのかは不明だが一応我慢。

 

 現状の暮桜は歩く治外法権。一国を滅ぼせる戦力が法律に縛られないとはとんだアンタッチャブルだ。

 

 しかし、製作者とは違いコアネットワークで他人ならぬ、他ISとの交流をしていた暮桜にはほどほどに常識はついている。ほどほどに。手の中から青白い光がちらついてるのは気のせいだ、気のせいったら気のせいなのだ。

 胸中に燻る殺意に蓋をしてお仕事を終えた暮桜は早々に軍施設を去る。溢れる思い(零落白夜)が我慢できなくなる前に。

 

 

 

 後日、織斑千冬がドイツ軍にやってきた。そこで見計らったかのように一通のメールが届く。歩みを止めることなく画面を開くと送信者は暮桜。

 以前のメールからポツポツと観光地を巡る様子が送られてきていた。なので特に気にすることもなくメールを開いた、足が止まった。

 

 

 

件名:暮桜

本文:拝啓チフユ

春の日差しが温かく感じられる季節となって参りました。そちらはあの大会の借りを返すため独逸(ドイツ)の地を踏みしめている頃でしょうか。

鍛練をつけるために訪れるのであれば、銀髪の腐った目をした少女などがお勧めです。チフユなら一目見たときにその姿勢(スタンス)が気に入らないと感じることでしょう。

 

追伸:そういえば忘れておったのじゃが前に独逸(ドイツ)でチフユの像を作ったのじゃがチョゾウケン? とか大丈夫じゃったかの?

まぁ、妾ISじゃし法律とかに縛られんのじゃがな! 機会があれば是非見て欲しいぞ、力作じゃ!

 

 

 

 無言で画面を閉じ、視線を前に戻せばちょうど目前に自分の像。同じ姿勢を取れば鏡合わせと見間違えてもおかしくない精巧さのそれ。確かに力作だ、だが逆にそれが千冬の逆鱗に触れた。

 千冬は静かに息を吐き拳を握りしめる。腰を落とし踏みしめられたコンクリには波状に皹が走る。捻った腰から腕へとエネルギーを伝え素手で自らを模した像を破壊する直前──像のタイトルが目に入った。

 

 《私の世界一の操縦者》

 

 拳がピタリと止まる。凄くもにょる。嬉しいような恥ずかしいような像自体は消し去りたい気持ちも止まらない。

 行き場を失った拳を静かに下ろす。取り敢えず、千冬は笑顔で出迎えに来たふくよかドイツへと拳代わりのクレームをぶつけることにした。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「スッカリ忘れておったわ。チフユは喜ぶかのう? なんてのは戯言かの。ああいうものを好かんからのう。壊されるかどうかは五分五分じゃな」

「あら、迷子かしら? 貴女、一人でどうかしたのかしら?」

「ん……あぁ、妾か? むぅ、迷子と言えばそうか。英国(イギリス)に来たはいいものの旨い食事処が見つからぬのだ……」

「そ、それは……悩ましい問題ですわね」

 

 親切心から暮桜へと話しかけた少女は困った。愛国心のある少女だったが直ぐに美味と言える料理店が思い浮かばなかったのだ。

 だがここでイギリスにガッカリされると立つ瀬がない。誰にと言うわけではないが少女にとっては立つ瀬がなくなるのだ。

 

「……そうですわ、美味しいお菓子と紅茶の出るカフェはどうかしら?」

「かふぇ、喫茶か。うむ、だったら其処(そこ)で頼む」

「えぇ、お任せなさいな」

 

 自身の創造主()である束は金髪を、というか片手に収まる例外を除き全人類に無関心に嫌っていた。だが暮桜は金髪にも良い奴がいるではないかとクツクツと笑う。

「と、金髪というなら妾も嫌われてしまうかの? 無関心でいられた方が有難(ありがた)いからそれで構わんのじゃが、むしろ有難い」

 

 そんな彼女の独り言を嘲笑うかの如く、宇宙(ソラ)の彼方で衛星がその姿を捉えているのであった。

 

 そんなこと暮桜は知る由もなく、今日も世界を渡り歩く。




ここまで読んでくださった方に感謝を。
投稿理由としては披お気に入りユーザー500人いってやったーって気分だったので、短編として一話投げたって私情でした。そんなやっつけ話を読んでくださってありがとうございます。

セカンド・シフト──チフユに追いつけないので手にいれた。
単一仕様能力──チフユに追いつけないので手に入れた。
家出──どうやってもチフユに追いつけないので。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。