もしも、カズマさんとアクア様がちょっとだけ感傷的になったら。
前作、『例えばこんなアクア様』の続きのようなものです。
もしも、カズマさんとアクア様がちょっとだけ感傷的になったら。
前作、『例えばこんなアクア様』の続きのようなものです。
このすばにシリアスは必要ない。激しく同意な方はブラウザバックをお願いします。
この作品は妄想で出来ております。
「あとは頼んだぞッ! 皆ぁアアアアア!!!?」
俺こと冒険者カズマが考えた魔王軍幹部・ハンスを倒す為の作戦はこうだ。
俺という餌を使って温泉の源泉地から奴を引き離してこの谷底まで連れ出し、めぐみんの爆裂魔法で餌ごとナイス爆裂♪して、ウィズの氷結魔法(仮称)でもって全て氷付けにさせアクアに俺を蘇生させて引き上げる。
この作戦はスピードが命だ。
誰か一人が怖気づいたら、戸惑ったら全てが終わる。
・・・だから、
だからさ、
「……カズ、マ………?」
そんな顔すんな。 駄女神。
ハンスによって汚された温泉の源泉浄化を行うアクアの手が止まってる。
魔王のイオナズンのような爆裂魔法と、大魔王のマヒャドみたいな氷結魔法という極大クラスの魔法を喰らっても、ハンスがまだ生きている事。
その異変達には誰も気付かない。
・・・俺以外には。
「ねぇちょっと……、笑えないん、ですけど…。……カズマ?」
派手に吹き飛ばされて氷付けにされて、バラバラになる俺の骸骨。
おい駄女神。
皆動けないんだから、お前が奴を何とかしないと本当にダメだろ。
「………――――ヒッ、ク…」
だから、泣くなよ。
可愛くも憎たらしくも無いんだよ今のお前。
◇
「―――あ~俺って可哀そう。 罪の意識に苦しんで」
もう見慣れたこのお部屋。
「・・・俺は悪くない、立派な冒険者だ。賄賂も受け取らず、マッチポンプにも負けず日々を生きてきた。
ほとんどの転生冒険者がチートを手に入れ無双してるっていうのに、俺はドMクルセイダーやら頭のおかしいロリっ子やら駄女神と共に、質素倹約地道に一歩一歩小さく冒険してきた」
エリス様は笑顔で俺の独り言を聞いている。
「女神はどこにいた?・・・ん? チートを授けるどころか、赤と黄色と自分を含めたイカれ信号機を仲間に加えさせやがった。俺はなにもしていない。
この俺の世界に素晴らしい祝福をくれやがったのは、駄女神だぞ?
よっく考えてみろ。
エリス様に頼んでもう一度転生するかこの素晴らしいクソ溜めみてえなトコで一生を棒に振るうか」
どちらが俺にとっての幸福かな?
「―――何も起きなかった事に出来ます。私に貴方の望みを言うだけでいいのです。
言ってみて下さい、サトウカズマさん。 今とは違う人生を生きたいと。元々縁も所縁もない仲間達じゃないですか」
そうだよ、一体何を躊躇う事があるんだ?俺。
「貴方は関係のない女神転生に巻き込まれただけ。
カズマさんは、本当はこの世界からサヨナラする事を願っているんですよ。
今の貴方の境遇を見れば百人が百人、分かる事です。
私は先輩よりも寛容です。 貴方の死後を大事に扱ってあげますとも。
…何を躊躇う事があるんです?」
――――。
「……私を困らせないで下さい。 貴方の身体はもうバラバラ。蘇生は不可能に近いです」
―――嫌だ。
「………フフ。なんだかんだ言ってますが、貴方とアクア先輩は大変よく似ていますね」
「・・・はい?」
変な口調で冒険者カズマを怒らせないで下さいエリス様。
俺を怒らせると怖いぞ? 本・当・だ。
「よく見て下さい、今の自分の姿を」
栄光に背を向けている。
魔王討伐なんかしないで、はじまりの街で人並みな生活を目指しているのがいい証拠。
「本当は分かってるんでしょう? 貴方とアクア先輩は同じだと」
「いや待って下さいよ。 この俺が、駄女神の側?」
俺から人並みを奪ったアイツの?
よーし!だったら駄女神の事を教えてやりましょうとも。
奴は史上最低の出来そこないだよ。ただ、邪教宣伝が上手いだけだ。
良い事があれば、女神の意思。悪い事があれば、それは貴方じゃなくて世間が悪いんだと意味付けをする。
中でもあの、アクシズ教教義とかいう、この温泉街でバカ売れのマイノリティ。
中身は自分の信者の宣伝ばかりだ。
ほらご覧。ダメダメじゃないか。
―――佐藤和真。 お前はあのゴミも同然な駄女神を捨てたいと、忘れたいと願ってる。
このクソダメみてえな世界の外はそんなワルじゃないさ。
―――俺がいなくなった所で、アイツらはなんら変わらずに大丈夫だろ。
「…そうです、何も変わりません。
人々は普通に人並みに生活し、子を産み、育て、そして死んでいく。
よくある話でしょう? これを永久普遍といいます。
さあ、貴方の新しい旅路と次の世界に祝福を」
毎日が楽しいぞぉ?
だからエリス様に望みを言ってみろ。
今俺が欲しいものは何だ? 真の女神様は何だってくれる。
そう、俺の望みは一つだけだ。
『―――どうしたの?
寝る前のトイレ行き忘れた?暗いし付いて行ってあげようか?』
『大丈夫!この私が居るからにはサクッと終わるわよ!期待してちょうだい?』
『私を誰だと思ってるの?』
『うん!任せて!!』
「・・・今すぐ俺の仲間を、助け出すことだ―――!」
パチンと、指が鳴る。
「全て貴方の望みのままです。サトウカズマさん」
「すいませんエリス様。
俺が貴女なら、二度と会わない事を望みます」
「会いませんよ。 ……そう願っています」
―――俺はアイツらの元に、帰りたい。
◇
カズマがまた死んだ。
現状を一言で表すとこうだ。
『カズマさんまた死んでるんですけど!!プークスクス!!!』
そう言いなさいよ。傲岸に。不遜に。
『女神アクア様が、チチンプイプイ!蘇生させてあげるわッ!!』
―――笑いなさいよ。
「カズ…マぁぁ………ぁ」
何でよ。 何で、こんな気持ちになるの?
「逃げて下さい!アクア!!」
「アクア!!!」
これは虚脱感?
それが拭えない。目的を果たすべく、こちらに向かってくる怨敵の毒スライムを見ても。
「・・・随分と、余計な手間をかけさせやがったな邪教徒如きが。 だが、今楽にしてやる」
『―――私という素晴らしい恩恵を授かった事は無効よ無効!!!』
『ああッ!??』
『このクソチート!!! 帰してよ!私を天界に返してよッ!!!』
『お前フザけんなよッ!? お前を返品して特殊能力でも貰えるものなら、とっとと返品してやるところだぁああア!!!』
・・・もうカズマとあんなやり取りは出来ない。
『―――よお、アクア。今日も土木作業は大変だったな』
『さあ、カズマ。早くおうちに帰りましょうよ』
『馬小屋だけどな』
綺麗から、ゴツになる私達の手。
土と藁の匂いが染み付く私達の頬。
帰らなきゃ。
私達の家に、帰らなきゃ。
あのクソヒキニートの元に、帰らなきゃ。
「―――ゴッドブロー」
ぺちん、と。
毒スライムの顔面を叩く女神の右拳。相手は死ぬ。
「・・・俺に触るな。 気持ち悪いんだよ、クソが」
右手から肘、肩と。
徐々に毒の粘性体に覆われる。
力づくで振り払う事なら出来る。
やろうと思えば。その気になれば。
「………かぇ」
「・・・ああ?」
「…帰らな、きゃ……」
―――早くおうちに。
「…アクア!!!!」
「―――ぇ?ダクネス?」
全力疾走したのだろう。
背中にめぐみんを背負いながら私をハンスから引き剥がすダクネスは、珍しく息を切らしていた。
「私の仲間にッ!手を、出すなッッ!!!!」
剣を構える騎士。
「我が名はめぐみん。 我が友カズマの魂の名誉の為に、我が友アクアの心の安らぎの為に…。
―――この私達が貴様を絶望の淵へブチ込んでやる!!!!」
もう立てるだけの魔力も気力もないのに。
カズマもいないのに。
・・・何で? 何でなの?
何で、そんなに綺麗なの。
「私は覚えている。 カズマと、アクアとめぐみんと暮らしたあの日々を」
「私は忘れません。 カズマと、アクアとダクネスと過ごしたあの時間を」
人生に色が付き始めたのはいつ?と聞かれたら。
貴女達に出会ったときと答える。
「いつまでも。 いつまでも!」
二人の背中がぼやけて光り輝く。彼女達の胸の中も。
………何だ、そこにいたの。
アンタ。
「―――ワメくな、クソども」
「ぐあッ!」
「ぁあぐッ!!」
粘性体に絡め取られる二人。
「死んだバカに気を取られている低脳な貴様らにこの俺が教えてやろう。生物の目的をな。
・・・須らくだ、例外は無い。 全ての生物の目的は死ぬ事だ。
俺は、スライムだがなあッ!!!」
侵される二人の身体。肘を伝い、肩を覆い、その胸に―――
「全てを喰らい、全ての生物を我が物とする!!! それが俺だ、魔王軍幹部・ハンスだッ!!!!」
―――ねえ。ちょっと、離しなさいよ。
「ゴッド・レクイエム」
女神の左拳が敵の顔面の真中を打つ。
さっさと私の大事な仲間から離れなさいよ。
失せなさいよ、
「クソスライムッ!!!!」
「やってみろ・・・このへなちょこプリーストがッ!!!!」
「アクアッ!!!!」
二人は絶対助ける。
カズマだって、まだ何とかなるかもしれない―――!
「勝てると思ってるのか?この、俺に」
「黙りなさいッ!!」
「では何故ハナから貴様はこの力を使わなかった?何故やる気を見せなかった??
・・・教えてやる! それはお前が恐れたからだッ!!!
俺を。そして、自分の仲間を失う事をな!!!」
「黙れって、言ってんでしょッ」
「数多の生命を喰らってきた俺には分かる。
貴様は欲している!死ぬ事を。 恐れている!失う事をッ!!」
女神が恐れるモノなど無いッッ!!!!
「俺がその恐れを無くしてやろうって言ってるんだよ、ハッハハアハハハハハ!!!」
「―――――ッ!」
・・・・カズマ。
「貴様も貴様の仲間達もすぐあの男の元へいかせてやる! その方が淋しくないだろうがよオッ!!」
強く速く侵食される私の身体。
ああ、困ったわ。死んだアイツの幻まで見えてきた。
馬小屋の中で見た、意外と広いアイツの背中。
ずっと傍にいた、いつもココにいたアイツの。
カズマの。
『・・・有難うございます、女神様』
以外と殊勝なアイツの。
「――――なんだ?・・・何なんだ、貴様・・・・?」
……え?
「なに。 ちょっと忘れ物を取りに、なッッ!!!」
刀にしては短い。脇差にしても少々短い。
その太刀筋。その背中。
その瞳。
「カズ、マ………?」
『―――俺、ジャンケンで負けたことねぇから』
『後で場所変わってやるよ、アクア』
『しょうがねえ~な~!!』
思い出すその指。その香り。
「今のお前のその顔笑えるぞ? アクア」
さあ帰ろう、一緒に。
◇
アクシズ教・教義。
【アクシズ教徒はやればできる。できる子たちなのだから】
【上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない。上手くいかないのは世間が悪い】
【自分を抑えて真面目に生きても頑張らないまま生きても、明日は何が起こるか分らない。
なら、分らない明日の事より、確かな今を楽に行きなさい】
【汝、何かの事で悩むなら、今を楽しくいきなさい。楽な方へと流されなさい。自分を抑えず、本能のおもむくままに進みなさい】
【汝、我慢することなかれ。飲みたい気分の時に飲み、食べたい気分の時に食べるがよい。明日もそれが食べられるとは限らないのだから】
【犯罪でなければ何をやったって良い】
【悪魔殺すべし。魔王しばくべし】
【―――女神アクアのご加護あれ】
◇
いつの間に集まったのか。
俺達の傍には街中のアクシズ教徒が集っていた。
教義を唱えて。眼を爛々煌々と光らせて。
やっと、探し物が見つかったような笑顔をした、女神を見つめて。
「―――ゴッドッ!!!ブロゥオオオオウォォオオッ!!!」
赤く光るアクアの右拳。
「ぅ、ォオオオオオアアアッ!!!」
それを迎え撃つハンスの粘触手。
「ゴッドッ!!!レクイエムゥウウウアアアアッ!!!!」
青く光るアクアの左拳。
「ゥ、ヌムウァァアアアアアアアアッ!!!」
拳同士のクロスカウンターを交わす両者。
「―――神を畏れ、神の救いを求め、懺悔なさい!! ハンスッ!!!」
「俺が! 魔王軍幹部の俺がおそれるモノなど無いッ!!!」
アクアの両掌が重なる。絡まる指先。
向かう矛先はスライムだ。
「ヘル・アンド・ヘヴン―――」
・・・・あれ? もしかしなくても何かデジャブウ。
破壊の神の一撃か?ジェネシックか?何でもいいけど。
「―――まあ、しかし。
俺達を相手にするなんて運の尽きだったな、ハンス。
光になりやがれ」
「ウィイイイイタアアアアァアアアアアッ!!!!!!」
魔王軍幹部の最期を尻目に。
俺とダクネスとめぐみんは、握った拳の親指を天に向けた。
◇
湯治が目的だったってのに、随分とまあ大冒険をしてきたもんだ。
俺一回死んだし、魔王軍幹部とバトルするし、アクア達は泣き止まないし。
でも、帰ってきた。俺達の家に。
「・・・ただいま」
「おかえりなさいカズマカズマカズマ!!!」
「はいはいはいカズマです」
ぶっ壊れた信号機が俺を呼ぶ。
俺は何だ?横断歩道か?自動車か?
「アクアの蘇生魔法が効いたんですね!? 流石はこの最強の魔法使いである私の仲間です!!」
「アクアも人が悪いな。 カズマに遅効性の蘇生魔法をかけていたとは。そんな仲間を持って、私は誇らしいぞ」
「あたしは女神アクアよ? 出来ない事は無いわ!!!それッ花鳥風月~~」
・・・いや、エリス様のお陰だと思う。
本当にエリス教徒になろうかな、俺。
「…おっと、私は久々にゆんゆんと一勝負してきます! フフフッ!今の私は誰にも止められませんよ!!」
「私は風呂に入ってこよう。失礼して、一番風呂はもらうぞ」
「・・・おいドMクルセイダー。何だその顔は?」
「……覗く、なよ?」
「疲れてんだからとっとと行けッ!!!」
満面の笑みでアイツ風呂場に向かいやがった。
何なんだあのバイタリティ。
「・・・しょうがない、二番風呂は俺が入るか」
「―――ねえ、カズマ」
うん?何だ?
随分気持ち悪い顔してるな、この駄女神。
「アンタ、忘れ物があるって言ってたわよね?」
「ああ」
「…それって何?」
「ああそれか。
その前に頼みがあるんだ。 しばらくの間じっとしててくれ」
「え? ええ」
この素晴らしい世界が望んだ忘れ物。
「―――え?」
懐かしい香り。
相変わらず綺麗な背中。
「悪かったな。 忘れ物、取り戻した」
生きてここでコイツを抱きしめるというのも、嬉しいが、照れくさいな。
「………うん…」
・・・逆に抱きしめられる俺の背中。
「おい。 さっさと離れろアツいんだよ駄女神」
「アンタから離れなさいよクソヒキニート」
コイツ、意外と力がある。
離れねえ。
いつか越えていってやるからな。
「―――わたしも、」
「ああ?」
「忘れ物、取り戻せたわ」