ダンジョンに近代兵器を持ちこむのは間違っているだろうか   作:ケット

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女神の……

 その翌日は、瓜生に、「五日に一度は休め」と言われ、午前は熟睡、午後はタケミカヅチの稽古。ウェイトトレーニングやルームランナーは休む、無茶な回数はやらない、フォームを調整するだけ、と。

 稽古に来たタケミカヅチも、ベルの急激な成長に気づいた。

 怠けずどころか過剰を心配するほど稽古している。数日会わなかったからこそ、ベルの肉体の変化がわかる。

 むしろ数日前より細く、やつれて見える。だが大腿部の筋肉や背筋は増え、重心がどしりとしている。上体から無駄な肉がなくなり、腕は細い鉄のような印象もある。しかもストレッチで柔軟でもあるし、実戦も重ねている……見せるための無駄な筋肉ではない。

 それを見た武神の教え方に、厳しさが加わった。

 多くの実戦でついた癖を、取り除くのではなく、

「垢ぐるみベルだけの、正しい剣に昇華する……」

 ため。取り除き矯正する方がよっぽど、教える側にとっても教えられる側にとってもたやすい。

 技を増やすのではなく、ただ回数をこなすのでさえなく、生きた剣を繰り返させる。徹底的に体に覚えさせる。

 左から右への、三つの技……右片手の抜きつけ水平と逆袈裟、両手で左肩から右腰への袈裟も形は学ばせた。だが、

(当分は、実戦では居合は使うな……)

 と厳しく命じている。

 瓜生とも話し、食事や近代器具を用いたトレーニングのメニューも検討し、調整した。武神には、体育大教授以上に、『恩恵』を受けた子の肉体についての知識もあった。だからこそ近代器具も理解し、使い方を考えることができた。

 医神ミアハとも相談する、と言っていた。

 瓜生はそれで、思いついた。修行の科学化……きちんとエビデンスベースで、近代運動器具、近代生理学・薬理学を加えた、有効な修行システムができれば……

 それはタケミカヅチ・ミアハの貧乏脱出にもなるかもしれない、と。

 

 夕食は深刻な運動はしなかったので、外食に出た。以前見かけていた料理店で、埋めたツボを加熱し内側に張りつけた平パンと肉がゴロゴロ入ったスープが素晴らしくうまかった。

 夜は修行をしたがるベルを、かなり厳しく言い……考えを変えた。

「悪いが、今は読み書きの採点をしてくれるか?」

 と、頼んで運動を止め、それで眠くなるのを利用して寝かしつけた。

 ヘスティアは帰ってきていない。

 

 瓜生は家事を担当し、教会の工事も見て、関係者と接した。口は出さず、目だけ離さない。とりあえず敷地の地下室がない半分を、3LDK・3階建てに、と。

 ベルが帰ってきて運動するのも見た。素振りや木刀でのかかり稽古にも、時間で半分ほどはつきあった。剣を交わすことは、

「おれと稽古したら下手になるぞ」

 と、断りつづけた。

 ポーションなどを買い、補充した。

 集中して読み書きを学んだ。ギルドでの講義を聞いた。

 毎朝、腹に負担をかけない軽い粥と、プロテインとブドウ糖を入れた牛乳。

 昼に行動できるように、プロテインバーも持たせる。薄めてポーションを混ぜたスポーツドリンクも、ストローでいつでも吸える水筒に入れ背中に入れる。予備の水筒も持たせる。

 激しい運動がある日の夕食は、牛乳で軟らかく煮たパン、スープメーカーでとろけるまで粉砕した豆・野菜・根菜のポタージュ、すりみ魚やひき肉の料理。高カロリー高たんぱくだが、ある意味病人のような食生活だ。出血が多い日には、レバー料理が加わる。

 寝る前、運動した後にプロテイン入りのホットミルクとマルチビタミンミネラル剤、出血がある日はミネラル剤を多めに飲ませる。

 トレーラーハウスの風呂も、配水管を工事中の住宅に接続できるようにした。燃料は缶で、水道水は直接出し、それで体を休めさせた。

 ベルは、ダンジョンでの戦いをほとんど話さない。運動し、武器を研ぎなおして、倒れるように眠る……

 

 

 ヘスティアは、ひたすらヘファイストスに土下座していた。日で数える、とてつもない時間。ただの人間の、零能の肉体で。下手な拷問にまさる苦痛だ。

 ちなみにタッパーの中身は、腐ったらもったいないと、ヘファイストスの眷属の夜食になった。

 

 少し前、宴でヘスティアはロキに、

「うちのフィンが話しとったわ。自分とこに妙な子がおる、って。使い放題の魔剣か、まったく別か……チートやっとらんやろな?」

 と言われて目が400メートル自由形をした。

「魔剣?それは聞き捨てならないわね」

 とヘファイストスが加わった、それで、話したかった忙しい彼女を、やっとつかまえることができた。だが、むしろチート疑惑をどうにかしなければ。

「その、たぶん、違うと思う」

「わかっとらんのか?」

「まあ、ごまかすのも当然よね」

「ところでヘファたんとこにも、あの……」

「だめ。その話はなし。あの子の決意は固いわ。お金じゃ動かないわよ」

「うー、クロッゾの魔剣使い放題なら59どころか69でも……」

「別の話をしましょう。団長が、どうしたって?」

 ヘファイストスは、

(魔剣鍛冶貴族の、先祖返りである眷属……)

 の話をしようとしたロキの話を打ち切った。

 実際にはもしヴェルフが【ロキ・ファミリア】に魔剣を大量生産したら、クロッゾ家を恨むエルフの勢力が強いファミリアの内紛の可能性もある。

 ロキも、ヘファイストスがそこまで言わずに話を打ち切ったことはわかった。

 結果的に話がそれ、ヘスティアのところの……瓜生の話になって追い詰められそうになったが、結果的にフレイヤの助けが入った。

 そして持てる者と持たざる者の醜い争いがあったが……

 

「うわさは聞いてるわ。面白い眷属が入って、お金はたくさんある、とか。あの『勇者』フィン・ディムナがいろいろ調べているとか。あそこの、改築の許可まで求めたそうじゃない。

 ちゃんとお金を持って来るのが筋じゃないの?今はなくてもすぐ稼げるんじゃない?」

「あ、あの、あの子は……ボクが頼んでいる子じゃない、もう一人の、ウリューくんは。あのお金でベルくんの未来を買ったら、ボクは絶対ダメになっちゃう。

 短い間だけど、バイトをした。だから、わかるんだ。あれに、あれに頼っちゃいけない。これは、【ファミリア】のためですらない。ボクのわがままだ。

 この頼みは、ボクがしなきゃいけないんだ。ボクの力で、ベル君の力になるって決めたんだ」

 ヘファイストスはため息をついた。

 ヘスティアと神友(しんゆう)でいた理由……何人も、信用できる人格神(しゃ)がヘスティアの神友である理由。そういう、真実を知りそれに忠実な頑固さがあるからこそ、だ。自分もそうであり、そうでありたいと思っているから。

「それで?もう一人の【眷属/子】には作ってあげなくていいの?不公平はまずいでしょ」

「その、彼は……武器を、必要としていないんだ。故郷から……その、届くから」

「その子の故郷には、この私より腕のいい鍛冶師がいるの?」

「……ボクは、この秘密をあげるべきじゃないかとも思う。とても、とても大事なものだから。でも、それをしていいかどうかわからない」

「眷属の情報を売るなんて、絶対にしちゃいけないことよ」

 ヘファイストスはこめかみをもんだ。

「まあ、その子のことは今度でいいわ。ベルという子は、どんな武器を使うの?」

「今のところは刀とナイフ。タケの指導も受けてる」

「そう……」

 と、ヘファイストスは人を呼んだ。

 やってきた椿・コルブランドに、

「【ヘファイストス・ファミリア】に誰か送って、ベル・クラネルという子にどんな武器が合うか、見させて」

「承知した」

 豊かな胸のハーフドワーフ美女は、きびきびと動いた。

「さ、下準備だけでもしておくわ。あなたの神力、神血も使うわよ。……かまどの、火の女神さん」

 

 もう夜も更けつつある、工事中の廃教会。

 赤毛の男は「【ヘスティア・ファミリア】に用がある方はこの紐を引いてください」と書かれた看板を見た。背中に大荷物を背負っている。3メートル近い槍や薙刀からいろいろ。

「夜分ごめん!」

 といい、紐を引く。

「はい」

 パジャマ姿の白兎が、地下室から顔を出した。

「【ヘファイストス・ファミリア】から……お前!俺の作った防具を買ってくれた!」

 いきなり強く手を握られて、ベルは面食らった。

「え、え?」

「ベル・クラネルは?」

「僕です」

「おう、お前がベルか。俺の初めての客。おうおう。あ……そうだった。ちょっと用事がある。ダンジョンまで同行してくれ」

 と、ヘスティアが書いた手紙を見せた。

 一瞬パニックになったベル。

「今、どんな武器を使っている?」

 ヴェルフの問いに、刀とナイフを持ってきた。

「見せてもらっていいか?」

 マナー通りちゃんと許可を取り、抜いてみたヴェルフは、不思議な感動を覚えた。

(ただの鋼だ。だが切れること、曲がってもいいから折れないことを、鋼だけで追求している)

 そこに、トイレを借りていた瓜生が出てくる。

「お客さん?」

「お前は?」

「【ヘスティア・ファミリア】のウリュウ」

「【ヘファイストス・ファミリア】のヴェルフだ。このベルってのがどんな武器を使うか、見に来た」

 と、ヘスティアの手紙を見せる。

「わかった。彼は農夫だったそうだから、鍬や斧の技術を活用できるよう考えた。この体格では重い鎧と斧はきつそうだから、刀にした。師はいる。居合はまだ実戦では使えない」

 そういって、茶を入れる。

「承知」

 静かに茶を一杯飲み、ふと鍛冶師は言った。

「こいつには、どんなのがいいと思う?」

 ヴェルフが聞いたのは、彼が作ったライトアーマーを瓜生がベルに買ってやったのを見たことを思い出して、だ。

 瓜生は少し考え、口を開いた。

「昔話がある。ある国で戦があり、鍛冶屋がたくさん刀を打った。

 戦が終わって、何十人かの戦士が怒鳴り込んできた。刀が曲がったぞ、と。

 刀が折れた、って苦情は一つもなかった」

 瓜生がじっと、ヴェルフの目を見る。

「ああ。戦場で刀が折れた者は、みな死んだから苦情を言えない。二度、言われた」

 二度。故郷で、祖父に初めて鎚を握らせてもらったとき。そしてもう一度は故郷を捨て、【ヘファイストス・ファミリア】に入団したとき。どちらも、全身全霊で誓った。

(刃物は切れることが仕事で、折れたら持ち主が死ぬ。それ以外に何もない。彼が後輩に渡したのは、それをわかっている者が作った刃だ)

 瓜生の、そのこころが、はっきり伝わる。

 魔剣、一族との確執に苦しむ彼にとっては、眼を開かれる品であり、言葉だった。

 

 

「俺が打った自慢の品をつけててくれてうれしいぜ」

「その、これだ、と何となく思ったので。軽くて動きやすい、何度も命を救われました」

「そうかそうか!何よりだな!」

 大喜びのヴェルフと、疲労が残るベルは夜道をダンジョンに向かう。

 2階層の広いところで、ヴェルフはベルに、担いできた長槍・野太刀・小太刀二刀・板斧二挺・ククリなど、様々な武器を貸しては使わせた。盾と片手剣の組み合わせも試させる。

 それから本来の、刀やナイフも。

(敏捷が極端に高い。だが、師は一刀両断を追求させている)

(修業期間は極端に短い。でも毎日、正気じゃない数振ってる)

 鍛冶師は気がすむまで見てから廃教会にベルを送り、瓜生に挨拶してバベルに戻ろうとした。

「少し待ってくれ。ベルに武器を打つ人に、これを見せてほしい」

 といった瓜生は少し引っ込むと、数本のナイフを小さいカバンに入れて渡した。

 ずんと重い。

 バック・パスファインダー。コールドスチール・トレイルマスター。ランドール・M1オールパーパスファイティング。クーパーの小さめのボウイナイフ。

 価格はピンキリだが、どれも実用性に定評のあるナイフ。何十年も極寒からジャングルまで世界中の過酷な環境で使われ、多くの軍人・猟師・探検家の生命を背負い、信頼に応え続けたナイフ。

「わかった」

 何を伝えたいか、よくわかった。

 

「ベル・クラネルは?」

 鍛冶神の簡潔な問いに、ヴェルフも簡潔に答えた。

「極端に敏捷。短い期間だがとんでもない練習と実戦、片手も両手も刃筋が正しい」

「わかったわ」

「ウリというベルの仲間が見せろと。ベルの刀とナイフは、これと同じ鍛冶師だ」

 そう言ってトレイルマスターを指差したヴェルフは去る。急ぎ足で。背に情熱が燃えているのが、ヘファイストスにははっきりと見えた。

(彼も、ベルという子のために打つつもりね。子と真剣に競争するなんて、いつぶりかしら)

 そして、魔剣鍛冶の血を引く眷属が持ってきた数本のナイフを抜き、じっと見た。

 はっきりと異質だった。

(『恩恵』の影がない。ひとかけらも)

(見たことのない素材も使われている)

(これは鋼……じゃない。焼きは入る、でも錆びにくい合金)

(人の手で打たれたものじゃない。板から、機械で切り抜いて削っただけ?)

(なんて純度。燐や硫黄をここまで減らせる?焼き入れ・焼き戻しの温度管理もとんでもないわ)

(これは、刃の部分にだけ炎を当てて焼き入れ、峰は柔らかく刃は硬い……長く切れる、でも折れない)

(25万ヴァリスから80万程度。でも、『恩恵』の力に頼らず技も追求する真摯な冒険者ならランクアップしても使えるわね)

(どんなに寒いところでも折れない。バランスもいい。柄は手袋が前提ね。大きめの鍔は、血で滑って刃を握ってしまい、手を切らないため)

(とことん切れること、折れないこと、手に合うことを追求する……刀が折れたという苦情はない、まさに鍛冶の原点ね)

「これは、責任重大ね」

 ヘファイストスは、挑戦に喜びを感じていた。

 

 ヘファイストスは脇差を打った。

 刃渡り一尺六寸三分、柄九寸二分。反りはわずか、幅も厚さも中庸な黒刃。小烏つくりの鋒両刃(きっさきもろは)、刺突性能が高いが斬ってもよし。片手でも両手でも使える。

 こしらえも飾りを省いた、ロゴだけの黒一色。鍔すら小さめの、黒焼の円形鉄板でしかなく、柄も硬木と黒紐のみ。徹底した実用本位が凄みな実用美をなしている。一点の金粉も螺鈿もなく彫刻も皆無、わびさびすら捨てきったそれは、おごりとされるだろう……神だからこそ許されることだ。

 一人の持ち主のための、持ち主とともに成長する武器。邪道だ、もう嫌だと言いながら、ヘファイストスは出来を誇っていた。

 

 ヴェルフも、怪物祭りにも行かず鍛冶場にこもった。




この作品では、ベルは原作より三割から五割は強いです。
コルスチカタナ・背を守る耐弾シールド・軍用FRPヘルメットはそれぞれ30万ヴァリス前後の価値、兎鎧も1万前後。攻撃・守備ともに「神のナイフ」以前時点の原作……合計一万ちょいの二桁上。
両手で使う刀の威力、正しい基礎歩法と足腰・心肺重視のトレーニングもあります。アビリティも均等に伸び、敏捷も装備重量を打ち消して伸びています。
ほぼ均等にC前後。

ダンまち七不思議。あのタッパーの中身は土下座中に腐ったのか。
かまどの女神であるヘスティアが、鍛冶の炎に何か影響を与えなかったのかも疑問です。
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